LA音源講座 「LA音源は突然に」 その13

  LA音源イロイロ

 前回までにMT/CMに搭載されているLA音源について見てきました。音とはなにか、音色とはなにか、そしてLA音源で音を作る方法を考えてきました。

 しかし、ここで扱ったLA音源は、MT/CM、D-10/20のものです。FM音源に様々な種類のものがあるように、LA音源にも機種によりいろいろな個性があります。今回はLA音源講座の総括として、これらのLA音源を見ていき、さらに深い知識を貯えるように使用というのが、ねらいです。

  1)D-50

 ローランドが初めて作ったフルデジタルシンセであるD-50は、輝かしいLA音源の歴史のスタートであり、今なおスタンダードでありつづけるシンセサイザーです。

 32基のパーシャル、それを組合わせるストラクチャーなど、現在のLA音源のベースになるアーキテクチャーで、1986年に誕生しました。D-10/20などとの違いは以下のようになります。

 1.D-10は1つのトーンに最大で4パーシャルまで使用できるが、D-50では2つである。D-50ではアッパートーンとロワートーンそれぞれに2パーシャル使用できるので、キーモードをデュアルにすることで、パーシャルを4つまで使用できることになる。

 2.LFO、ピッチエンベロープ関係のパラメータはD-10のようにパーシャル単位で用意されているのではなく、アッパートーン、ロワートーンのそれぞれ2パーシャル単位で用意されている。(コモンパラメータの中に用意されている。)

 3.D-10などとは異なり、LFOがWG、TVF、TVA用にそれぞれ合計3基用意されている。WGのLFOはパルスウィズにもかけることができ、PWMも可能となっている。

 4.D-10のストラクチャーは13、D-50では7である。D-10ではステレオ出力もストラクチャーで設定するが、D-50では、アウトプットモードなる専用のパラメータが用意されいている。

 5.音場制御も音源の役割ととらえ、リバーブ、コーラス、さらにデジタルEQまでも内蔵している。

 6.ポルタメント、アフタータッチに対応しているので、それをサポートしたパラメータが用意されている。

 D-50はD-10と違い、マルチティンバーに対応していません。完全なライブ用のパフォーマンスシンセサイザーです。したがってD-10のように、パーシャルがそれ自身で音源としての性格を強めているのに対し、D-50でのパーシャルの役割は、あくまで目的となる音色の部品にすぎません。そういった考え方の違いが、アッパー/ロワーにそれぞれ1つずつ用意されたコモンパラメータに、LFO、ピッチエンベロープ関係のパラメータを含むようにさせたのかもしれません。D-50はマルチティンバーに特有の機能であるDVAを当然もっていませんから、使用するパーシャル数に関係なく同時発音数は16音(キーモードがデュアルの時には8音)であり、そして2パーシャルを基本単位にしたトーンでもって合成を処理する、というのが基本になります。

 D-50では、LFOが2パーシャルを単位とするトーンで共通ですから、D-10でみられたような、各パーシャルでLFOの周期を同じにしても位相が異なるためにLFOがきれいにかからない、といったことがありません。同じLA音源なのに、D-10とD-50では、D-50のほうがカッチリとした音像になっていることに不思議を抱いている方もおられたと思いますが、実はこういった理由からなのです。

 PWMが可能であること、PCM片にかなりクオリティーの高いものがあること、コーラス、EQさえも内蔵していることなど、どれをとっても完成度の高いシンセサイザーであると言えます。また、信号処理22ビット、D/A処理20ビットという高音質設計も見逃せません。

 なお、一部の雑誌で、「D-50は1つのトーンに6パーシャルまで使用可能である。」と書かれていたこともあるのですが、それはOPS(6オペレータFM音源)を搭載したDX7に影響されすぎで、実際には全く違います。きっと作者はろくに調べもせずに書いたのでしょうが、少し注意すれば気がつくことだと思います。みなさんも注意してください。

  2)D-70

 D-70は、D-50とD-70、そしてU-20の特徴をあわせ持ったAdvanced LA音源を搭載したシンセサイザーです。1990年に誕生しています。その主な特徴として、

 1.PCMにTVFをかけることが出来なかった従来機種に対し、アドバンスドLA音源ではPCMにもTVFをかけることが出来るようになった。しかし、これによってシンセサイザーとPCMという分離が意味を失うことになり、WGはPCMで一本化される。PCMにシンセサイザーの基本波形(のこぎり波、矩形波)を持たせることで従来と同じ音色の作成方法が踏襲できるのであるが、ハイブリッド音源というキャラクターは薄れてしまったと言える。

 2.PCMをフィルタリングする音源方式では、新たな倍音を作ることがづ可能であるが、D-70ではDLM(Differential Loop Modulation)によって、PCMから全く新しい倍音を持つ波形を作ることが出来る。

 3.従来のパーシャル、ストラクチャーに変わる概念として、より独立性を高めたトーンパレットを採用。とくにライブで威力を発揮する。しかし、これも、部分ごとに作った音を組合わせて最終的に多彩な音を合成するといったハイブリッド音源の個性をなくさせている。

 4.PCMはRS-PCM方式を採用しているので、Uシリーズ用に用意されているRS-PCMカードを用いてPCM波形の拡張が行える。

 5.マルチモードTVFを搭載している。マルチモードTVFとは、フィルターの種類にLPF、BPF、HPF、BYPASSが選択できるTVFのこと。従来のTVFはLPF専用であった。また、このことにより、LPF以外のレゾナンスに意味が変わってきた。ちなみにレゾナンスは発振可能である。

 6.同時発音数30音にもかかわらず、5パート+1リズムのマルチモードをもち、各パートに余裕のあるボイスアロケーションが可能である。

 7.パラメータをリアルタイムにエディット可能。音を出しながら音色を加工できるので、トリッキーなプレイもアナログシンセ同様に行うことが出来る。

 D-70は、その外形からもU-20の発展型であることを認めるのに、もはや誰の目にも無理はありません。アドバンスドLA音源というのは、簡単にいってしまえば、RS-PCMにTVFをかける事が出来るようになっただけ、と言えるとも思います。

 しかし、RS-PCMにTVFがかかることで、D-70はかなり有利になります。PCMがもつ豊かな倍音をTVFで加工するという、LA音源始まって以来、誰もが1度は夢見たことが現実のものとなるのです。

 SYNTH波形をサンプリングしておけばSYNTHは必要なし、ということでD-50以来用意されつづけていたWGのSYNTHとPCMがここで1本化されるのですが、PCMにJupiterの音なども入っているため、かなりブ厚い音を作ることも可能です。

 しかし、SYNTHがなくなることで、矩形波のパルスウィズ関係は全く動かせなくなってしまいました。したがってPWMも不可能という事になります。この辺が問題だと言えるでしょう。また、何度も書いていますが、LA音源のハイブリッド音源としての性格が薄れてしまったことも事実です。

 D-70のWGに特筆すべき点は、DLMです。DLMというのは、PCMデータをROMから読みだす際に、読みだすスタートポイント、読みだす長さをユーザーで指定して、その部分をある規則にしたがって繰り返し読みだし、さらにその継ぎ目を消すといった、大変高度な信号処理を行うものです。

 これによってPCM波形から全く倍音成分の異なる新しい波形が生まれることになります。速い話、音が刻まれている部分からであれば、バスドラムの音色からでも波形が取れるようになるのです。実はこれは大変に画期的なことで、従来のPCMシンセでは、PCMから新たな倍音を産み出すことは不可能だったのです。使い物になるスタートポイントとレングスはある程度決まってきますが、今までにない倍音をPCMによって用意できることは評価されるべきだと思います。

 D-50、D-10には、ループ波形とよばれるくり返し音がPCMの用意されています。これがどんなものに使えるのかは別の問題として、D-70にはこのループ波形が用意されていません。これは、DLMを使うことである程度再現できるからだと思います。DLMのスタートポイントを始めの方にとり、レングスを長めにとれば同じ音が繰り返して出力され、あたかもD-10のループ波形のような感じになります。

 また、D-70のTVFはキレがいいことで大変有名ですが、このキレのよさは、DLMとの兼ねあいがあるといわれています。DLMは多くの倍音を含む波形を発生させますが、キレの悪いフィルターではその恩恵にあずかれません。TVFのキレの良さは、こういったところにも理由があるんですね。

 D-70ではパーシャルという概念がなくなりました。従来のパーシャルは、RS-PCMの表現力とあいまって、「トーン」としてより独立性の強いものとなり、それを最大4つまで配置できる「トーンパレット」が導入されました。この辺も従来のLA音源とは完全に異なっています。したがって、アドバンスドLA音源は、LA音源の直系と見るのではなく、むしろRS-PCMの発展型と見るのが正解ではないかと思います。

 これによって、コルグAI音源との差は、極めて少ないものとなりました。

 駆け足でMT/CM、D-10/20以外のLA音源についてみてきました。私の独断と偏見で書かせていただいたものなので、偏ったものの見方をしているものがあると思います。しかし、間違ったことは書いていないつもりですので、なにかご指摘があればどうかよろしくお願いします。

 思えば、それまでFM音源の音しか知らなかった私が、D-50のフルートの音に感動してドップリとLA音源に浸かってしまってから、もう5年になるんです。それからのシンセサイザーの発展は更に加速されたと思いませんか?

 そして現在のシンセサイザーはPCMを使った音源が主流を占めるようになりました。半導体技術の進歩、デジタル信号処理技術の確立など、デジタルシンセサイザーが主役になるための条件は完全に出揃ってきたと言えるのではないでしょうか。そんな中で生まれたLA音源は、それまでのデジタルシンセサイザーの世界を変えてしまった凄いシンセサイザーです。音をゼロから作る楽しみを味わうことの出来るシンセサイザーは、ひょっとしたらLA音源が最後になるかもしれません。

 そのLA音源がここまで普及したんです。皆さんもぜひ、LA音源で自分だけのお気に入りの音色を作って用意して、それを自分で作った音楽に使ってみてください。自分で作った音楽には、自分で作った音色以外に適合するものがないというのが当然です。ファクトリープリセットなんて、しょせんはローランドの方が作った音色じゃないですか。彼らのイメージが自分の作った曲に合っているはずがありません。

 LA音源で音色を作成できるのに必要なものは、ほとんどここで紹介できたと思います。私が実際に音色を作る際に考えることはすべて書いたつもりです。後は、皆さんの慣れと経験と、そしてセンスです。

 LA音源で出せない音色がなくなるまで、ひたすらLA音源に誇りを持って、頑張ってください。

 さて、次回はいよいよ最終回。Q&A方式による質疑応答をしたいと思います。今までの内容について足りなかったところを補足するのが目的であるのですが、今のままでは皆さんのご意見が少なく、ちょっとさみしいです。どんな些細なことでもいいですから、どうかご意見、ご感想、ご質問をお寄せください。お待ちしています。

 それでは次回、最終回まで、お楽しみに!

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