Minolta CLE

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2006年4月 故障品を頂く

2006年4月 電気回路を作り直す(Ver.1.02)

2006年5月 高速側のシャッター調整(Ver.1.03),復活

2006年8月 距離計を調整

2007年2月 露出計の電圧を落とすためダイオードを電源ラインに挿入,これで酸化銀電池に対応


CLEの修理は,私にとって,非常に大きなチャレンジでした。

某巨大掲示板で「電気回路が壊れて修理不能となったCLEを修理してみませんか」と声をかけていただき,その方の貴重なCLEを譲っていただいたのが2006年4月,それから不眠不休で検討を進めたのですが,ICの破損による故障とわかり,基板の交換以外に修理方法はない,という結論に達しました。

ICの交換という手も普通なら使えそうなものですが,CLEではICのチップが直接基板にボンディングされているため,その方法も使えません。メーカーが基板の在庫を切らした段階で,CLEは修理不能な機種となってしまう理由がここにあります。

最近になって,その貴重な基板を在庫し,CLEを修理できる業者さんが現れたようですが,当時はそんな話もなかったため,諦めざるを得ませんでした。

手動でシャッターを走らせてみると,その感触がとてもよいのです。それに永遠に接点がないまま過ごすと思われたレンジファインダー機を使えるかどうかの最後のチャンスでもあり,どうにかこのカメラを復活させる手だてはないものかと,ずっと考えていました。

ある時閃いたのが,カメラの電気回路なんていうのは,先幕と後幕の係止を外して,露光時間を作るというのが仕事なわけで,これが実現できれば別に手段は何でもいいんじゃないかということでした。

先幕係止のソレノイドを解除し,一定時間経過してから後幕係止のソレノイドを解除する,これだけの動きなら,ちょっとした用途に便利に使えるPICマイコンで簡単にできそうです。

幸いにして露出計は生きているようです。露出計から信号をもらって,そこからシャッター速度を決定すれば絞り優先AEも可能です。ここまでくると,俄然現実味を帯びたプランになってきます。

基礎検討としてソレノイドを駆動する回路を試作し,使い慣れたPIC16F84Aでシャッター速度を1秒に決め打ちして制御してみると,うまい具合にきちんと1秒のシャッター速度が出ます。

これで目処が一気に立ちました。1/1000秒まで制御できるようにプログラムを書き換え,それらしい速度が出ていることをある程度確認したら,I/Oポートが多く,ADコンバータも内蔵しているPIC16F877を本番用に選び,設計を開始します。

詳しいことは特設ページがあるのでそこをご覧頂きたいのですが,やはり苦労したのは,自分で作った回路と,CLEをつなぐ作業です。露出計からどうやって信号をもらう?シャッター速度ダイアルから設定値をどうやって読み込む?シャッターボタンの信号はどうやってもらう?電源は?セルフタイマーは?バッテリーチェックは?

こうした接続の問題を1つ1つ解決し,PICマイコンを隙間に押し込んだVer1.02が完成したのが4月29日,1/1000秒と1/500秒が出てない問題をソフトで対策したVer.1.03が完成したのが5月1日でした。最後の最後になって,シャッタードラムのギアの歯を変形させてしまい,シャッターがうまく走行しなくなったりしましたが,そこもなんとかギアを削ってしのぎました。

Mマウントのカメラですから,本当ならライカのレンズを使ってみたい所ですが,我流でいわば「作り直した」に過ぎないCLEに高価なライカのレンズはリスクが大きすぎます。最初の一本はNoktonClassic40mm/F1.4という標準レンズですが,このレンズの写りが私のお気に入りでもあり,以後CLEは安いコシナレンズのボディとなっていきます。

レンジファインダー機に28mmは外せないとColorSkopar28mm/F3.5,さらにCLEでしか味わえない世界としてSuperWide-Heriar15mm/F4.5を購入して,現在3本体制です。CLEというカメラの実力や人気を考えたときに,これらのレンズではちょっともったいないと思うこともありますが,そこは分相応でありたいと思っています。

さて,このカメラは,電気回路の破損以外に目立った問題も故障もなく,とても大事にされていたのだろうということがよく分かる状態でした。ですので,電気的な問題以外に手を加えることはしないつもりでいたのですが,どうも前ピンになる傾向があるため,距離計の再調整を行うことにしました。

不慣れなレンジファインダーですので,ひょっとしたら壊してしまうかもしれないと恐る恐るだったのですが,根気よく調整を行って,これも問題のないレベルに追い込めたと思っています。

ところでその電気回路ですが,気になっていることがありました。露出計の回路ブロックはオリジナルの回路をそのまま使っているのですが,電源の供給については露出計のICに直接電池電圧をかけて使っていました。

これで大丈夫だろうと思っていたのですが,電池の電圧が高い時には,特に低輝度側で測光値を表示するまでにかかる時間が長くかかっているようなのです。1秒ほどかかってしまっている場合があり,その間にシャッターを切ると,最低速度の1秒で切れてしまいます。

電池の電圧が下がってくるほど測光にかかる時間が短くなるので,おそらく露出計の電源電圧は,かなり低めで動作するように設計されているのだろうと思います。

高い電圧をかけた結果,ストレスでICがじわじわ壊れていくことは良くある話で,そうなるとこのCLEももうお本当に再起不能となります。

そこで,電圧の低いアルカリ電池の電圧が下がった使い古しをわざわざ選び,これを使っていたのですが,さすがにソレノイドを軽視できなくなるほど電圧が下がってしまうと問題ですし,ソレノイドが動作しているときの電圧降下で誤動作も懸念されるため,簡単な対策をすることにしました。

酸化銀電池は1.55Vなので,2コ使えば3.1Vです。露出計回路への電源供給を,直列に入れたダイオードを介して行えば約2.4Vまで下がってくれます。これなら問題はないでしょう。心配なのは,3.1Vで動作する回路と2.4Vで動作する回路が共存することになるため,PICマイコンから露出計に対して信号を与えるようなケースがあると,露出計が壊れてしまうことです。

幸いなことに,露出計とPICの間では,PICは常に入力を受ける立場になっているので,こうした問題は起きません。

これで酸化銀電池が使えるようになりました。安定した電圧,低い内部抵抗と良好な温度特性を生かせることを期待したいと思います。

さて,そんな技術的にも趣味的にも興味の尽きないCLEですが,懸案事項が残っているのは確かです。レリーズケーブルへの対応,ストロボへの対応,中間シャッター速度,バルブ機能の実装などです。

それぞれに問題があって,本格的に取り組まなければ解決できそうにない問題ばかりが残ってしまったのですが,下手に触ると壊してしまうかも知れず,今特に不便を感じていないなら,無理をすることはないだろということで,当分保留するつもりです。

同じ28mmでも,例えばGR1と一眼レフ,そしてこのCLEで,それぞれ全然異なる感触があるものです。一長一短があるというのが正しく,単純な優劣の問題ではないと思っているのですが,個人的にはやはりCLEの28mmが最高だ,と思っています。


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