Nikon D2H

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2005年8月 新品をニコンのオンラインショップで購入

2005年10月 Err多発で点検に出すが異常なしで返却

2005年10月 再修理,先幕作動機構部の交換


デジタルカメラも一眼レフの時代が来るだろうと思っていた私は,登場から年々価格の下がり続ける状況で,いつそのデジタル一眼レフを買うか,思案していました。

オリンパスのCAMEDIA E-20を買ったのはいいのですが,やはり一眼レフの醍醐味である大きな撮像素子と交換できるレンズというメリットを全く受け継いでおらず,あくまでちゃんとしたデジタル一眼レフが出るまでの代用品だなと割り切っていました。

レンズはニコンのものがあり,出来ればニコンのボディが欲しい。しかしニコンのボディはマニュアルフォーカスのレンズで露出計が動作しないものがほとんどで,例外はプロ用のデジタル一眼のみ。

この際レンズ資産は割り切って,ペンタックスなりオリンパスにしようと考えたこともあったのですが,とにかくもう少し待ってみようとD70を買いそうになっていた私は,ぐっと我慢をしたのでした。

アテネの悲劇と言われ,ニコンにとっては黒歴史として闇に葬られる事になるD2Hというプロ用のデジタル一眼レフが見切りを付けられ,投げ売りされたという話を耳にしたのは,その安売り祭りが一通り終わってからの事だったのですが,もともと50万円もしたプロ用のデジタル一眼が,20万円程度で買えるなどと言う話は,もう二度とないだろうと考えていました。

惜しいことをしたという気持ちと同時に,それなりの理由があってのことだろうと気持ちの整理を付けたその時,ニコンのオンラインショップで,最終生産分を限定で販売するという情報を手に入れました。価格は198000円。

一部に修理上がり品だとか,不良在庫の引揚げ品だとか,様々な憶測があったのですが,実際の所はほんの少しだけ生産できる部材が残っていたようで,これを使ってオンラインショップ限定の目玉商品にしていたことは,事実のようです。

今度は迷っている暇はありません。ノイズが多いだとか画素数語りないだとか,感度を上げると使い物にならないとか,そういうことも全部知った上で,このじゃじゃ馬に20万円をかけてみようと,そんな風に考えてこの最終生産分の買うことにしました。

手元に届いて分かったことですが,よく言われる悪い評判は事実で,今時のデジタル一眼に比べると全然劣っていると思います。ですが,私自身はそれを特別悪いことだと感じずにすんでいます。おめでたいことですね。

画素数不足はいかんともしがたいところですが,ノイズの問題はRAWで撮影し,きちんと現像してあげることで,ある程度のレベルに追い込めます。ぱっと撮ってJPEG出しでは使い物にならなくても,RAWでじっくり追い込めば,なかなかいい画を吐いてくれると思います。

特に露出が決まったときの発色の良さ。CCDでもCMOSでもない,独特の色合いには,D2Hしか味わえない特殊な世界(あくまで特殊)を感じずにはいられません。

いちいち現像なんかやってられるかよ,という声もその通りでしょうが,私のように写真で生活をしておらず,趣味として自分時間を浪費できる贅沢な人種にとっては,かえってRAWをじっくり時間をかけて調整できる方が楽しかったりします。銀塩写真だって,みんなそうしていたはずだと私は思うのですが・・・

高感度で色が褪せてしまい,使い物にならない点は私もそう思ったものなのですが,VRレンズを使ってやれば低感度でもそれなりに使えます。

むしろ,私のような趣味の人にとって,D2Hのカメラとしての完成度の高さ,道具としての心地よさは,それらの欠点を補って余りあるものです。D2Hのシャッターの音は小さくなく,人によってはうるさいと感じるものだと思いますが,私にはどういうわけだか「もっとシャッターを切りたくなる」音のようで,1枚,また1枚とその音を聞きたいがためにシャッターを切り続けてしまいます。

シャッターの音でドーパミンがでるんでしょうが,これが撮影意欲に直結するというのであれば,もはやD2Hでなければ撮影できない写真があるということになるでしょう。

カメラとしての性能の高さは,D2XやD200,F6のベースになっていることでも証明済みで,AF性能,露出性能,高速撮影,使いやすさ,レスポンスの良さ,どれをとっても一流です。よく考えられたデザインは,大きさと重さを感じさせないホールド感を備えており,疲れ知らずで握りしめていたその日の夜に,腕の痛みにようやく気が付くこともしばしばです。また電池の持ちの良さも特筆されるところで,全体的なバランスの良さに,私は文句がありません。

もちろん,いい話ばかりではなく,画素数が少ないことはもう致命的です。これで記録を取ることにどれほどの意味があるのかと撮影中に疑問を感じることも多く,実際撮影後にがっかりすることもなくはありません。

D200が実現してしまいましたが,D2Hを選んだ理由の1つであったマニュアルレンズを使いこなせるという点も,思った通りありがたい機能でした。当時はそれ程のレンズを持っていなかったのですが,その後ジャンクを含め多数のマニュアルレンズを安価に揃えるようになったのは,やはりデジタル一眼がD2Hであったことが大きいと思います。

そんなD2Hですが,数々の噂の中で看過できないものがありました。品質問題です。

突然オーバーになったりアンダーになったりして,露出計が動作しなくなる問題は,最終的にニコンが自らの責任を認め,保証期間を過ぎたものでも無償修理に応ずるということになりました。他にも突然シャッターが切れなくなり,Err表示を出すなどの問題を出していますが,これは不良というよりそういう報告がいくつかある,というレベルのようです。

私のD2Hは最終生産分ですので,対策済みであることを期待していたのですが,このErrでシャッターが切れなくなる問題は頻発してしまうようになりました。公式に無償修理をすると宣言しているわけではないので,困ったなあと言うのが正直な感想でした。

保証期間内ですからお金がかかるとは思っていませんが,いつも再現するとは限らないので,見過ごされてしまうことが心配でした。

一応サービスに電話をしてみると,確認したいので送ってくれとのこと。ご丁寧に梱包セットを届けてもらうことになりました。

私はここでズルをしました。実は,これとは別に,AF-ZoomNikkorDX18-70mm/F3.5-4.5を分解して壊してしまったのですが,これを一緒に入れておいたのです。

ズームレンズを分解するなど,まあ私も思いきったことをしたものだと赤面するのですが,どういうわけだか突然鏡筒内に入り込んだ大きなホコリが気になってしまい,なんとかしたいと思う余り,やってはいけない分解を始めてしまったのです。

無事にホコリは取れ,元通り組み立てたのですが,どういうわけだかAFモーターがギシギシ音を立てる上,フォーカスがあってくれません。手動ならフォーカスもあうのですが,AFでは行ったり来たりしてしまうのです。光学系の問題ではないはずで,電気系を壊してしまった可能性があります。

一応いいレンズですので,壊れたままにするのも惜しいですから,D2Hの確認と一緒に修理をしてもらおうと,同梱したのです。もちろん有償のつもりで,往復の送料くらいはおまけしてもらおう,くらいの気分です。

数日後,D2Hとレンズは返却されて来たのですが,D2Hは異常なし。それもそのはず,修理報告書の症状欄には,「AFが動作しない」と書かれていたのです。

私のD2HにはAFの問題なく,Err表示が出てシャッターが切れないという問題で確認をお願いしていたわけですから,そりゃ異常なしでも戻ってくるはずです。もしやと思ってレンズを見ると,なんと無償で修理をしてくださってありました。つまり,私からの点検要求は「AFが動作しない」であり,原因はレンズにあったため修理をしました,ということになっていたわけです。

レンズは超音波モーターの破損ということで交換されていた(壊したつもりもないのでかなり驚きましたが,同時にうかつにこのあたりのレンズを分解するのはやめるべきだといい勉強になりました)ため,メーカーの方も「素人が分解して壊すなよ」と文句を言いながら修理をされたことだろうと思います。

私にもこういう負い目があったので,異常なしとされたD2Hをそのまま使っていたのですが,やはりErr表示でシャッターが切れなくなる事が頻発するため,今度はオーバーホールが完了したF3HPを取りに行ったついでに,サービスセンターに持ち込むことにしました。

前回と同じように,電源を入れた最初のシャッターが切れない場合があるということと,一度切れるとしばらく正常に動作するが一晩たってからもう一度電源をいれるとまた切れなくなるという説明したところ,確認をしたいということで預けることなりました。

返送は無償で送ってくれるということだったのでお願いしたところ,数日後に戻ってきました。今度は症状を確認して下さったらしく,シャッターの先幕差動機構部の交換と修理報告書に書かれていました。(ちなみに再修理扱いだそうです)

以後,D2Hに全く問題は出ていません。最初は恐る恐る使っていたのですが,最近はこんな事があったということもすっかり忘れて,当然のようにシャッターを切りまくっています。露出計の問題も全く出ておらず,非常に安心して使えています。

結果的には,D2Hも完全復活,その上自分で壊してしまったレンズまで修理してもらって,ニコンさんには足を向けて眠れません。普通ここまで気の利いたことをするメーカーさんはないでしょう。私もここまでは期待していませんでした。サービス満足度が高いという評判は,やはり本当だったようです。

せっかく修理してもらったレンズは18-200mmを買い直したことで全く出番がなくなってしまいましたが,少しだけ小さいという特徴によって,また出番はくると思います。それ以上に,無謀な分解はしていけないという戒めが,このレンズを見ることで蘇ります。

D2Hは,その欠点もよくよく理解した上で購入したので,悪い評判を気に病むことは全くありません。苦手とする条件での撮影を避ければいい場合も多いですし,印刷原稿にするような写真を撮るわけでもない私にとって,高画素である必要もありません。銀塩のフィルムと同じく,入魂の一枚を手間をかけて現像して作品に仕上げるというプロセスが楽しめることを考えると,D2Hというカメラは貴重な「純粋な趣味のデジタル一眼」といえると思います。

メカは最高,質感も文句なし,連写性能やAF性能,動作の機敏さもトップレベル。電池の持ちも良く,気持ちよく撮影出来るD2Hは,厳しい撮影条件とプロには使えない低画素という致命的な欠点が他の優れた点を台無しにしていて,後にも先にも,そして良くも悪くも,もう二度と出てこない珍品だといえるでしょう。個性を理解して使いこなす面白さは,そこをそれを苦痛と思えば台無しですから,何を言われようと私はD2Hで満足なのです。