Asahi Pentax ESII

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2005年11月 ジャンクを購入

2005年11月 第一次修理が完了

2005年11月 部品取りジャンクを追加購入

2006年2月 シャッター不良が時々起こるようになる

2006年6月 第二次の修理と調整が完了

2006年8月 露出計とオートモードの故障が発生

2006年8月 電池電圧の低下が電池のショートにあると判明

2006年9月 高速シャッターの速度が出ない

2006年9月 電気部品の動作確認が終了

2006年9月 高速シャッターは対策完了

2006年9月 幕速が安定せず後幕が先幕に追いつく

2006年9月 オークションで部品取りを2台調達

2006年9月 ペンタプリズムを腐食なしのものに交換

2006年11月 幕速の問題が解決,第三次修理と調整終了

2008年1月 幕速の問題が再発,再調整

2009年1月 露出の再調整


ES2(本来ならESIIと書くべきですが,ここではES2で統一します)は,私にとっては本当に特別なカメラです。長年親しんだSPと同じデザインコンセプトを持ちつつ,やや大型化し縦横比が変わったことで,高級機としての貫禄が備わりました。

SPにAEと開放測光がないことに限界を感じた高校生の私は,ES2に憧れつつも周囲の反対もあって,結局手にすることはありませんでした。

それが突然,ジャンク箱に投げ込まれている姿を見つけて,救出したのがそもそもの始まりでした。あの憧れのES2を手に入れたということと,カメラの修理はやってみれば意外に出来るものだという誤解を信じた,という点が,特別な存在たるゆえんです。

2005年の晩秋に始めたES2の修理は,一度は完全に復調し,実用に耐える状態になります。すべてが解決している今だから分かるのですが,2005年から2006年にかけてのシャッター不良は,電池がショートして電圧が下がっているところへ,寒さのためにますます条件が悪化し,ソレノイドがシャッターを係止出来なくなっていたと考えるのが妥当です。

主たる原因である電池のショートを発見するまで,持病として知られるソレノイドの取り付け位置の微調整がまずいという点に絞り込んで再修理を行った事は,当時としてはやむを得なかったと思います。

2006年6月の再修理では,結局ソレノイドの取り付け位置のズレが原因と目処を立てつつ,2005年末に行った初回の修理で固定した取り付け位置を上回る調整を行うことが出来ずに,図らずも前回の調整がベストであったことを追認するにとどまりました。この過程で,取り付けを行うネジを折ってしまったり,ソレノイドそのものを壊してしまうなどの失敗を重ね,ES2は復活不可能と思われるほどの状況に陥っていました。

部品取りのES2からいくつかの部品を移植して,なんとか修理前の状態に戻すことに成功したのですが,ソレノイドの調整くらいで修理が出来たなどというのは,あまりに幸運であったことを,この後私は思い知ることになります。

2006年8月には,露出計が動作しなくなり,AEも動作しなくなりました。ソレノイドの取り付け位置どころの騒ぎではありません。ES2のシステムの根幹に関わる問題です。今度こそ電気回路の問題が発生したのだろうと,私は青くなりました。今度こそ,ESは直らないかも知れません。

まず露出計の問題ですが,これは絞りリングと連動する擦動抵抗の問題で,抵抗体を固定しているビスがゆるんでしまい,その先にあるアースに電気的に繋がらなくなってしまっていたからでした。

今となっては「なんだそんなことか」と思うのですが,当時は何をやっても解決せず,露出計が動いたり動かなかったりを繰り返します。現象の再現はランダムで,特に規則性を見つけることが出来ませんが,徐々に露出計の動かなくなる頻度が上がってきているようです。

経路を真面目に追いかけ,また思いつく部品を交換しつつ,ビスがゆるんでいるという原因を見つけてスパッと解決できたときには,天にも昇る気持ちでした。

次にオートモードの問題ですが,スローシャッターが安定しないということで顕在化していました。以前はこんな事はなかったので,やはり電気回路の問題でしょう。

結果的には,メモリブロックの故障でした。メモリブロックの故障はあまり起こらないというのがES2の修理の定説で,ここを疑うことは最後にしてしまったのですが,部品取りから移植したメモリブロックでこれまたスパッと問題は解決。スローシャッターが安定して切れるようになったことは,やはり問題がメモリブロックにあったことを証明していると言えます。

また,壊れたメモリブロックの部品を流用して,FETとコンデンサを新しくしたメモリブロックの互換品を作って試しても,やはり問題は出ません。メモリブロックの故障であることはもはや疑いの余地もありません。

ところが,メモリブロックを変えたせいなのかそうでないのかはっきりしませんが,今度は1/500秒や1/1000秒が遅くなってしまいました。

解決のために電気回路の総チェックを行うことになりましたが,結局ICやコンデンサ,ダイオードなどの部品はすべて問題なし,逆に部品取りES2の基板の故障部品が判明してしまうほどでした。

ただ,このことはほっとする一方で,私が得意とする電気回路の範囲で高速シャッターの問題を解決できないかも知れないという危機感を生み出します。

いろいろ考えたのですが,手に入れたサービスマニュアルによると,タイミングスイッチのクリアランスを調整する箇所があるようで,ここを一か八か,いじってみることにしました。結果はうまくいき,オートモードでの1/1000秒や1/500秒がきちんと出るようになりました。

すると今度はメカシャッターで問題が発生します。偶然別の問題が出ただけなのか,それとも調整箇所をいじったせいで出てきたのか分かりませんが,それまで問題がなかった箇所がモグラ叩きのように次から次へと出てきます。

出てきた問題は,後幕が先幕に追いついてしまうというものでした。典型的な幕速の調整ミスです。

それまで,こうした問題は出てこなかったですから,やはり偶然出てきたのだと覆いますが,SPと同じように幕のテンションを調整すれば良いだけと,結構なめてかかっていました。

ところが,当時の私は幕速を測定する手段を持って折らず,1/1000秒が出るように,かつ幕が重ならないようにテンションを調整することでなんとかなると思いこんでいたのです。

その時は大丈夫でも,一晩経つとまた重なっている。再度調整すると今度は3日後に重なっている。またまた調整すると,今度は2週間後に重なっているという具合に,調整と結果の確認が長期化するに至り,やはりきちんと幕速を測定しないとシャッターを壊してしまうかも知れないと考えて,幕速の測定器を作ったのでした。

簡単な仕組みの装置でしたが,これを使って測定すると,標準的な調整値に比べて1.5倍も高速であることがわかりました。これでは幕を巻き取るバネにも負担が大きいでしょうし,幕の走行によって生ずる衝撃も随分と大きいはずです。

この値を正常値である13msに合わせたのが2006年11月末ですが,現在の所幕速の狂いや幕が重なってしまうなどの問題は出ていないようです。

このように改めて過去の履歴を並べてみると,次から次へと問題が発生し,その都度新しい発見をして修理を続けてきたことがわかります。手強い相手ではありましたが,さすがに基本設計が古く,ブラックボックス化された部分も少なければ,部品そのものが破損してしまって修理不能になるような極端なコストダウンも行われていないため,きちんと問題を整理していけば,必ずどうにかなっているなという印象が強いです。

ES2の20年後に登場するMZ-10では,ピニオンギアの割れが故障の原因でした。ES2において,こうした部品の破損による故障は,当時の技術水準では信頼性を確保できなかった電気回路を除いてに起こりそうもないと,そんな風に思わせるところがあります。

電気仕掛けのカメラの黎明期に生まれたES2は,確かに無理をしているところも非合理的な所もあるのですが,余程のことがない限り修理は十分可能だなというのが,私の結論です。

2008年1月追記

最も寒くなった時期を見計らってシャッターの確認を行ってみたところ,やはり幕速が狂っていて,先幕に後幕が追いついてしまっていました。完璧な露光ムラです。

幕速を測定してみると,先幕が17.6ms,後幕が14.6msです。どちらも標準値よりも遅いですが,特に先幕の遅さは見過ごすことは出来ません。何度か調整と測定を繰り返して,最終的に先幕12.95ms,後幕13.56msになりました。

何度かシャッターを切っていると,幕速が復活してくるので非常に厄介なのですが,さりとてシャッターを全部分解するほどの大がかりなことを行う勇気もなく,しばらく様子見,という感じです。

2009年1月追記

昨年1月に幕速が狂い,様子を見るつもりだったES2は,やっぱり我慢が出来ずに修理を行う事にしました。これがES2を廃棄寸前にまで追い込むほどの大手術になるとは,まったく想像もしていませんでした。

考えたことは,気温が下がると幕速が落ちるので,無闇に給油したシャッターを走らせるカムの油が原因だろうということと,作業はこのカムの油をベンジンで拭き取るということでした。

このカムの清掃を終えて組み立てるときにも四苦八苦し,シャッター幕に傷を付けてしまったのですが,結局組み立てが終わってみると全くシャッター速度が出てきません。

シャッターブレーキ,ストッププレートの調整ネジを回してもほとんど変化がなく,続けていじった後幕のラッチを外すタイミングの調整ネジで危機的状況に陥ります。とにかく微妙な変化で大きく後幕のタイミングが変わってしまい,まともに調整など出来ない状態だったのです。

今考えると,そもそもそういう状態が問題で,他に原因があったのだと思いますが,試行錯誤を続けるうち,なんと1mの高さの机から落下させてしまい,露出計のメーターが壊れてしまいます。

メーターは他の部品取りES2から移植,筐体の歪みも結果的になかったので良かったのですが,最初に幕速をあわせてから調整を始めるという方法での限界を感じた私は,幕速は大まかにあわせておき,あとはオシロスコープによるシャッター速度と幕が重ならないことを交互に確認しながら進めることにしました。

2008年1月の段階でシャッターのテンションを低めに設定し,以後2009年1月までの間何度か先幕と後幕の重なりを確認してみましたが,一度も重なることなく,かなり安心するような状況になりました。

しかし,当時の艦長日誌にも書いていますが,やはり露出が1段ほど狂うのです。2009年1月に確認してみると,1.5段ほど狂っています。これではさすがに気持ちが悪いので,再調整を行う事にしました。

再調整は,単純に1箇所を調整すればよいというものではなく,おそらくCdSのリニアリティも複数の調整箇所で補正するようですので,高輝度側と低輝度側を別々に調整しますし,それを開放測光のオート,絞り込み測光のオート,そしてメーターの指標の3つで各々に調整を行わねばなりません。

今回調整するのに,ラフな調整を行う半固定抵抗を使うと,3つまとめて調整出来ることがわかったので,今回の調整では主にこの半固定抵抗を試して見ました。厳密な調整はこのカメラではあまり意味がないので,オシロスコープを使ったシャッター速度の確認で調整を行い,テスト撮影をした結果,ちょっと高輝度側が怪しいのと,やはり開放測光と絞り込み測光で若干ずれが出てきているような感じです。

露出計のズレは0.5段以下,シャッター速度も0.5段以下のズレに収まってくれたので,ポジは無理でもネガにはそこそこ使えるでしょう。露出ムラもなさそうですし,シャッターが誤動作するようなこともありませんでしたから,とりあえずこれで調整も終了としましょう。どうにかこうにか,実用レベルの誤差と信頼性に持って行けたんじゃないかと,そんな風に思います。


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