Minolta XE

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2006年12月 故障品を頂く

2006年12月 修理完了


私はもともと,ミノルタにカメラには縁もゆかりもなく,また憧れもありませんでした。フォーカスリングや絞りリングの回転方向はペンタックス/ニコンの向きが体に染みついていますし,SR系,X系,そしてαに至るまで,私が直感的に「かっこいい!」と思えるデザインを纏ったものはありませんでした。

私もカメラが好きな人ですが,コレクターではないので節操なくいろいろなメーカーに手を出すことは自分からはしません。

SMC-Takumar28mm/F3.5のレストアを終えたあたりで,とても良くしてくださるある方から,自分用に購入したミノルタXEが買った間もなく壊れてしまったという連絡を頂きました。もし修理するなら差し上げようというありがたいお申し出を頂き,技術的な興味と,ミノルタXEという極めて個性的なカメラに対する興味から,そのお申し出をありがたく受けることにしました。

今見るとスクエアで無骨な,どちらかというと古くさいデザインで,しかも大きく重たいミノルタXEですが,後のカメラを席巻する縦走りシャッターユニットの先駆者であり,同時にそのなめらかな動作には,ため息が漏れる程のカメラです。1970年代後半にして,道具としての操作感にこだわったと開発陣に言わしめたこのカメラは,現在の我々も見失っているものを,ぐいっと引き戻すカメラであると言い切ってしまいましょう。

フィルムの巻き上げが行われないという問題で私の手元にやってきたXEは,それでもシャッターはきちんと切れますし,その定評ある操作の感触も失われていませんでした。

この,巻き上げ不良という問題はXEにとってよく知られた問題のようで,多重露光機能の誤動作が根本的な原因です。

分解して分かったのですが,このXEは結構トラブルを抱えていました。

まず,ペンタプリズムの腐食です。この頃のモルトプレーンは加水分解でドロドロに溶けてしまうのですが,溶けたモルトプレーンはプリズムの銀蒸着を腐食してしまいます。このXEも腐食が始まっており,あわててモルトプレーンの除去を始めたのですが,蒸着面が剥がれてしまうことが分かったため,そのままにせざるを得ませんでした。モルトプレーンそのものは交換したので進行が進むことはないと思いますが,ちょっと気になる問題です。

CdSに光を導くサブプリズムの接着面が変色していたことも問題でした。露出計に大きな狂いが出てしまうことも懸念したのですが,幸いなことに露出計の問題は出ていません。不思議なくらいですが,まあよしとしましょう。

全体的な汚れと油ぎれも目立ち,巻き上げ不良も注油と清掃で解決できました。

これで修理も出来たと思って組み立ててみると,オートでのシャッター速度が全然出てきません。マニュアルではスローも出ているのですが,オートは全滅。シンクロスピードよりも高速側では全く速度が出てきません。

電気的な問題だと事態は深刻で,おそらく修理は不可能。絶望的な状況にあったのですが,この問題は突然解決を見ます。

非常に不思議なのですが,ミラーボックスの下部にあるガバナー機構の,レバーのいびつな変形が発見され,ここをまっすぐに戻してやると,オート不良が一気に解決したのです。

開放測光と絞り込み測光で動作が異なっていることから見つけることが出来たのですが,今にして思うと,レバーがジャムった時に,無理矢理絞り込みレバーを押し込んだかなにかで,レバーが変形したのではないかと思います。ペンチでひねって元に戻すときでさえも,かなり力を入れないといけないくらいでしたから,落としたとか私が組み立て時にミスをしたとか,そういうことで起こるようなものではないと思います。まして,ここが原因でおかしくなっていたのですから,最初からこの形に曲げられていたということもあり得ないと思います。

この問題を解決してから,XEはウソのように絶好調となりました。露出計もシャッター速度も大幅に狂っているということはなく,微調整程度で追い込むことが出来ましたし,その後の動作も全く問題は出ていません。

そして,あれほど無骨で大きいと思っていたこのカメラ,実際に使ってみると実に安定してホールド出来るのです。ミラーショックやシャッターの反動も本当はあるはずなのに,ほとんど感じることがありませんし,スローシャッターでの手ぶれも小さいのです。これはカメラとして,非常に重要な個性の1つです。

そしてなめらかな操作感が,もう1枚,もう1枚とシャッターを切ろうという気持ちにさせてくれます。こういう前向きな気持ちを人間から引き出す事の出来る道具というのは,その道具の作り手がこだわらないと得られないものだと思います。

そしてロッコールレンズの素晴らしさ。ロッコールレンズの良さは評判ではきいていましたが,私自身は未体験でした。しかし,撮影してみると評判通り色のりが大変に素晴らしく,他のレンズには見られない特徴を見せつけられました。

今のところ,SRマウントのボディを増やす予定もありませんし,28mm,50mm,135mm,そしてトキナーの標準ズームというレンズラインナップを拡充する予定もありませんが,幸いなことにXEもこれらのレンズも,他のものとは明らかに異なる性格を持っていますから,大事に使い分けていこうと思います。


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