LA音源講座  「LA音源は突然に」 その11

  LA音源らしい音色の実際 2

 前回の音色はいかがでしたか? ちょっとウルサイ感じだ、という方もおられるのでは、と思います。そうですね、少しフィルターを閉じてみてください。音が丸くなってなかなかいい感じです。

 さて、LA音源らしい音を作る第2段として、ハイブリッド音源であることに感謝できる、ベル/チャイム系をやってみます。スクエアの曲、「Your X'mas」のイントロに使われているチャイムをコピーしてみましょう。

+---COMMON-------------------------+
I STRUCTURE 1&2  06    ENV MODE  :NORMAL I
I STRUCTURE 3&4  08    NAME  :X'mas BELL I
+----------------------------------------+
+------WG----------------------------------------+--LFO-----------+
I     Cors  Fine  KeyF  Bend  W.For  P.Wid  PVSen  I Rate  Dept  M.Sen I
I P1   C6    5     s1    ON     No.35(Windbell)    I  66    14     0   I
I P2   C6   -5     s1    ON     No.53(Ethnic  )    I  64    14     0   I
I P3   C4   -6     s2    ON    SQU     72     0    I  66    45     0   I
I P4   C4    6     s2    ON    SQU     72     0    I  62    45     0   I
+--------------------------------------------------+-------------------+
+------PITCH−ENV-------------------------------------------+
I     Dept  V.Se  T.Ke   T1   T2   T3   T4   L0   L1   L2   SL   EL I
I P1    0     0     0     0   31   30    0    0    0    0    0    0 I
I P2    0     0     0     0   30   31    0    0    0    0    0    0 I
I P3    0     0     0     0    0    0    0    0    0    0    0    0 I
I P4    0     0     0     0    0    0    0    0    0    0    0    0 I
+-------------------------------------------------------------------+
+------TVF-------------------------------------------------------+
I     Freq  Reso  KeyF  B.Po  B.Le  Dept  V.Se  D.Ke  T.Ke          I
I P1                                                                I
I P2                                                                I
I P3   33     0    3/4   <A1    0    30     0     0     0           I
I P4   34     0    3/4   <A1    0    30     0     0     0           I
+-------------------------------------------------------------------+
+------TVF−ENV-----------------------------------------------+
I       T1    T2    T3    T4    T5    L1    L2    L3    LS          I
I P1                                                                I
I P2                                                                I
I P3     9     9   100    91    94    36    79    45    31          I
I P4    10     3   100    91    94    40   100    97    92          I
+-------------------------------------------------------------------+
+------TVA-------------------------------------------------------+
I     Leve  V.Se  B.P1  B.L1  ETke  TVFo  B.P2  B.L2                I
I P1   100   26    <A1    0     1     0    <A1    0                 I
I P2   100   26    <A1    0     1     0    <A1    0                 I
I P3    52   30    <A1    0     1     0    <A1    0                 I
I P4    52   30    <A1    0     1     0    <A1    0                 I
+-------------------------------------------------------------------+
+------TVA−ENV-----------------------------------------------+
I       T1    T2    T3    T4    T5    L1    L2    L3    LS          I
I P1     0    26    79   100    92   100    80    73    56          I
I P2     0    21    75    76    82   100    60    55    46          I
I P3     7    38    75    74    77    58   100    97    92          I
I P4     8    38    75    74    77    58   100    97    92          I
+-------------------------------------------------------------------+

 注意していただきたいことがあります。まず、WG。この音色ではパーシャル1、2にPCMを選択していますが、PCMのナンバーと名前を書く欄を用意していなかったのでPCMを選択したときに不要になるウェーブフォームとパルスウィズ、パルスウィズベロシティーセンシビティーの欄をナンバーと名前の欄にしました。

 また、パーシャルをPCMに設定したときにはTVFが無効になることは以前書きました。この音色ではパーシャル1、2がPCMですが、これらのパーシャルのTVFの欄が空欄になっているのはそのためです。一部の方は、PCMでもTVFの設定で極わずかに音色が変化するという事を言っておられるようですが、私は確認できませんでした。

 それでは解説します。聞いてみて、「似てねェーぞ!」はいいっこなしです。

 この音色は私が以前D-10/20でこしらえたものです。今回MT/CMに移植しました。同じLA音源だから簡単に移植できると思うのは甘い考えで、この音色のようにPCMに依存する部分が大きい場合、両者間の移植は極めて困難になります。

 D-10/20と比べてMT/CMは、用意されている音素の単位が大きいことがあげられます。Dでは単位が小さく、数が多く用意されているので、パーシャル数は多く必要になりますが、ユーザーがかなり自由にそれぞれの音色を組合わせることが出来ます。しかしMTでは、Dでバラバラに用意されているものをいくつかあらかじめ組合わせてサンプリングしてあるようです。パーシャル数という面では有利になりますが、自由度が極めて少なくなると言えそうです。今回も、似た音色を探すのに苦労しました。でも完全な移植は出来ませんでした。機会があったらD-10/20版の音色も紹介したいと思います。

 この種のベル/チャイムの音は、LA音源、特にD-50が開拓した、ハイブリッド独特の音です。LA音源のお家芸なわけです。その特徴はPCMによって印象付けられる、大変に幻想的でかつソリッドな、シャリシャリした音となります。MTにもこの音は継承されていて、種類は少なくてもあの特有のスペクトルを持つ音がいくつか用意されています。

 今回はその中で、No.35「Windbell」と、No.53「Ethnic」を使ってみました。どちらもLA音源ではお馴染みの音です。LA音源ではPCMに対してTVFが無効になりますから、PCMを使用する音色は、どれもどこかで聞いたような「らしい・・・」音になってしまうのです。逆にいうと、それがLA音源の世界を形成してしまったと言えます。

 この2つのPCMをピッチを少しずらす例のテクニックで、さらに広がった感じを出すとともに、その厚みを増しています。

 ハイブリッド音源は、アタックと残りの部分を別々に用意して初めてその存在が肯定されます。高次倍音を重点的に含むPCMだけではかなり細い音となってしまい、力のある音が出てきません。そこで、残った2つのパーシャルをSYNTHにしてディケイ以降を作り、中域・低域を補います。コツとして、アタック部分がPCMと重なってしまわないようにすることがあります。アタックがぼやけて、スピード感がなくなります。また、PCMが徐々に弱くなって倍音が少なくなっていき、そして倍音を落としてホワーンとさせたSYNTHが包みこむように少しずつ現れるようにすることも、こういった音色では重要でしょう。

 ベルなどの減衰楽器のリリースをSYNTHで作るわけですから、その音色は正弦波に近い波形でないと使い物になりません。あくまで高次倍音はPCMで、その音を補うのがSYNTHであるという具合に完全な役割の分担が必要になります。こういう形で急激な倍音変化を作ることが出来るのも、LA音源ならではといえるのではないでしょうか。

 パーシャル3、4はストラクチャーを8にして左右に振っています。両者のピッチをずらすことで空間的な音をねらっています。波形に矩形波を使っていますが、パルスウィズを72程度に設定することで、かなり多くの倍音を含むようにしてあります。フィルターを閉じてしまうのだから関係ないように思うのですが、フィルターの設定値によってはかなりの差になってきます。ちなみにパルスウィズを66〜72に設定すると、喜太郎のミニコルグの音になります。お試しあれ!

 左右に音を降るときに、左右でTVFやTVAのエンベロープを少しずらしてやると、動きのある音になります。音量や音色の変化が音に動きを与えるようになることは想像に難しいことではないと思います。これを利用すれば、エフェクターを使わないパンニングディレイも可能になります。シンセリードなどにも使えるテクニックです。

 

 この種のベル/チャイム系の音は、D-50が出たときに大ブームとなりました。それまでのベル/チャイム系はFM音源か、あるいはリングモジュレータ(実際にはクロスモジュレーションの方が多かっただろう)で作られたものばかりだったのです。D-50が発売になったころのアルバムを聞いてみると、これらの音が現在の曲よりもずっと大きな音で録音されているものが少なくありません。今までになかった、大変特徴のある音なのでこれを好むアーティストも多いのですが、PCMを使っているためTVFが使えないという制約があり、これ以上のバリエーションを作ることに限界があります。つまりマンネリ・ありきたりの音色ばかり、ということです。そういった意味では未来のある音とは言えないかもしれません。(D-50はその点でM1に負けてしまったのかもしれない・・・)

 しかし、コンテンポラリーな音色としての認識はすでに高く、使われることがなくなることは絶対にない音色だともいえます。どちらにしても、LA音源を持っている以上はこういったたぐいの音色をマスターしないことには持っている意味がありません。LA音源が現在でも必須アイテムとして多用される、LA音源がプロの現場に必ず1台ある理由は、この音を出すシンセがLA音源しか存在し得ないからに他なりません。そういった意味でも、自分の持っているLA音源のPCM片を一通り聞いて、全部覚えてしまうくらいになっていただきたいものです。PCMはLA音源の個性なのです。

 今回の音色の応用として、ファンタジーリードがあります。アタックを丸くして、リリースを長めにしてやれば良いのですが、これはむしろ使い方が難しい。あまりに個性のある音なので、「いかにも・・・」という感じがぬぐえないのです。MTのプリセットにも入っていますので、使い方を研究するのも面白いかもしれません。

 次回の音色は何にしようか迷いました。リングモジュレータを使ってみるのもいいなと思ったのですが、次回はレゾナンスかけまくったシンセリードを作ってみます。シンセベースやシーケンス音としても応用がきくようにしますので、ハウスミュージックやユーロビートにも対応できるようになると思います。ご期待ください。

                        G-SHOES

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