LA音源で実際に音を作ってみる企画も、今回で3回目です。LA音源でカバーできる音は結構幅が広いのですが、今回で一応のバリエーションを完成させましょう。
前々回のシンセ・ストリングスは、のこぎり波を用い、4パーシャルでブ厚くすることをテーマにしました。TVAのエンベロープを変更することで、シンセパッド、ブラストリングスなど、アナログシンセサイザーの代表的な音色を再現できます。
前回のベルは、完全にLA音源ならではの音でした。PCMの持つ独特のスペクトルで特徴付けられた音に、SYNTHの素直な音で残りの部分を補い、支えていくという構成です。ベルを例に作ってみましたが、これはLA音源でよく聞かれるファンタジーリード、ビブラーフォンなど、金属音を含んだ音に応用できます。
さて、今回ですが、レズナンスをきかせた、アナログシンセの音を作ってみました。アナログシンセに求める音として、重厚な音と、そしてレゾナンスのきいたファンキーな音があります。この系統はユーロビートではお馴染みですね。実際には本物のアナログシンセが必ず使われているのですが、それをLA音源でアプローチしてみました。
+---COMMON-------------------------+ I STRUCTURE 1&2 01 ENV MODE :NORMAL I I STRUCTURE 3&4 08 NAME :TECH LEAD I +----------------------------------------+ +------WG----------------------------------------+--LFO-----------+ I Cors Fine KeyF Bend W.For P.Wid PVSen I Rate Dept M.Sen I I P1 C4 3 1 ON SAW 0 0 I 65 78 0 I I P2 C4 -3 1 ON SAW 0 0 I 65 78 0 I I P3 I I I P4 I I +--------------------------------------------------+-------------------+ +------PITCH−ENV-------------------------------------------+ I Dept V.Se T.Ke T1 T2 T3 T4 L0 L1 L2 SL EL I I P1 0 0 0 0 0 46 0 0 0 0 0 0 I I P2 0 0 0 0 0 46 0 0 0 0 0 0 I I P3 I I P4 I +-------------------------------------------------------------------+ +------TVF-------------------------------------------------------+ I Freq Reso KeyF B.Po B.Le Dept V.Se D.Ke T.Ke I I P1 66 29 1/4 <A1 0 100 0 0 0 I I P2 66 29 1/4 <A1 0 100 0 0 0 I I P3 I I P4 I +-------------------------------------------------------------------+ +------TVF−ENV-----------------------------------------------+ I T1 T2 T3 T4 T5 L1 L2 L3 LS I I P1 21 32 53 61 52 73 100 47 14 I I P2 21 32 53 61 52 73 100 47 14 I I P3 I I P4 I +-------------------------------------------------------------------+ +------TVA-------------------------------------------------------+ I Leve V.Se B.P1 B.L1 ETke TVFo B.P2 B.L2 I I P1 100 26 <A1 0 1 0 <A1 0 I I P2 100 26 <A1 0 1 0 <A1 0 I I P3 I I P4 I +-------------------------------------------------------------------+ +------TVA−ENV-----------------------------------------------+ I T1 T2 T3 T4 T5 L1 L2 L3 LS I I P1 0 14 86 100 55 100 76 46 37 I I P2 0 14 86 100 55 100 76 46 37 I I P3 I I P4 I +-------------------------------------------------------------------+
いかがですか、「TOKIO!」してるでしょ?
もともとこの音色は、私がYMOの「テクノポリス」をコピーする際にD-10/20で作ったものです。こういったPCMを使わない音色の場合には、D-10/20とMT/CMでの違いは基本的には出てきませんから、移植は大変に容易です。
今回の音色では2パーシャルしか使っていません。LA音源は、パーシャルを重ねることで音に厚みが出るようにしてありますが、パーシャルを使えば使うほど音像がぼやけてきます。それがストリングスの人数感を作るのですが、リードやベースの時にはこれが最大の敵になります。厚みを取るか、キレをとるか、です。今回はシンセリードということで、キレを取る事にしました。
同じ理由で、WGのピッチファインのずれを少なめにとっています。と同時に、各パーシャル間でのエンベロープ設定値を全く同じにしています。音像をはっきりさせる時には、各々のパーシャルの設定値の違う箇所は、ピッチファインくらいにしておかなくてはいけません。LFOのパラメータを各パーシャル間で違うものにするなどはもってのほかです。LA音源はただでさえ、各パーシャル間で周期・位相共に正確に合ったビブラートをかける事が不可能な音源です。2パーシャル以上で作った音にビブラートをかけてもきれいにかからなかった経験があると思います。どちらかというと、LA音源は、キレのいいリードをとるのが苦手な音源と言えるでしょう。
逆にとれば、このことも、人数感を出すのに大変大きな役割を担っています。
この音色の最大の特徴は、レゾナンスです。「共振」と訳される言葉ですが、要はカットオフ周波数付近の倍音のレベルを大きくすることが出来るというものでした。レゾナンスを上げると波形にはギザギザが出てくるようになることも、以前書きました。
レゾナンスは、バイオリンの胴の共振などをシミュレートすることも可能ですが、シンセサイザーらしい面白い使い方は、レゾナンスをかけておき、カットオフ周波数を時間的に変化させることです。「ミョンミョン」といった音、「ワウワウ」や「チャコワカチャコワカ」(なんかナサケナイ・・・)といったファンキーな音を作る方法です。
レゾナンスをかけておくと、TVFのカットオフ周波数をエンベロープで動かす際に、強調される倍音の周波数も変わってくることになり、倍音成分が劇的に変化することになります。これが、この音のしくみです。意外と凝っているんです。
LA音源のレゾナンスで注意しないといけないことは、上げすぎると発振してしまうことです。「レゾナンスでフィルターが発振するのはエエコトや!」という、ツウの方もおられると思いますが、LA音源の発振はアナログシンセの発振とは違います。「バリバリ」という雑音が発生するもので、全く使い物になりません。LA音源のTVFは、基本的には発振しないようになっています。だから、この発振は一種のバグと考えてもいいと思います。
この発振状態をオシロスコープで見てみますと、それまでせいぜい数V程度であった出力電圧が、一気に10V近くまで出てしまうようになりました。これは、接続されるアンプ、スピーカなどにかなりの悪影響を及ぼすことは間違いなく、絶対に避けなければなりません。
具体的な防止策ですが、この発振は、レゾナンスを上げ、かつ、TVAのレベルを上げすぎると起こるようです。したがって、どちらかを少なめに設定してやるのが防止方法という事になります。現実的にはレゾナンスを下げるのではなく、TVAレベルを下げるのがいいようです。
レゾナンスをかけることで効果のある音源波形は、のこぎり波です。矩形波の倍音構成は、以前書きましたように、1,3,5,7・・・倍音です。それに対してのこぎり波は1,2,3,4,5・・・倍音です。レゾナンスがかかってることで、カットオフ周波数が変化する際に順番に特定の倍音が強調されていくのですから、1,3,5・・・よりは1,2,3・・・の方が滑らかに強調できることになります。実際にやってみるとよく分かります。
さて、この音色はレゾナンスが特徴となっている他の種類の音色に応用することが出来ます。例えばシンセベースです。ミニムーグのようなゴッツイ音(ちなみに、ムーグの音はVCFの構造そのものが作っているといっても過言ではない)は絶対に出ませんが、それらしい音には出来ます。具体的には、リリースを短く設定し、低音で演奏するのに適したTVFエンベロープを与えるようにします。場合によっては使いパーシャルを1つにして、よりカッチリした音像を作る必要もあります。LA音源は、DVA(Dynamic Voice Allocation)機能を持っている関係で、ベースに複数のパーシャルを使うとアンサンブルの際に各パーシャル間の発音タイミングがずれてアタックが弱くなることがあり、これを防止するために1パーシャルで音を作ることもある、というのが理由です。
ベースサウンドは、アタックがしっかりと出るようにしてください。タイトなベースは曲をしっかり支えます。ただ、TVFエンベロープのアタックレイトは、うまく調整すると、オートワウのかかった音が出るようになり、ファンキーなベースが期待できます。なにごともほどほどに、ということです。
シーケンスに使われる音にも効果的です。この音色はベースの音色がそのまま流用できます。アタックを強調し、リリースを短く設定するようにします。この音色は、音色そのものよりもむしろ、シーケンサーに打ち込む際に工夫しないと「らしい」音になりません。
シンセリードやシンセブラスの場合にも、アタックレイトを長めにすることで、「ブァン」といった感じの音が作れます。こういったシンセブラスは、意外と白玉で演奏するといい場合があります。この時は、レゾナンスを少し小さめに設定してください。レゾナンスは、強烈なキャラクターを作るための重要なファクターですが、倍音を強調する、裏を返せば他の倍音を相対的に小さくしてしまうので、低・中域の倍音が不足し、音に太さがなくなってしまいます。ただでさえ細い音のLA音源からこれ以上低・中域の倍音が少なくなったら、とてもアンサンブルで白玉などに使える音にはなりません。注意してください。
最近、再び流行ってきたギター用のエフェクターに、「ワウワウ」、「オートワウ」があります。実はこれ、単なるVCFです。オートワウの場合にはVCF+エンベロープジェネレータがついているのです。こういった系統の音が流行っているときこそ、LA音源のTVFとレゾナンスでおもしろい音を作って活用してください。
さて、LA音源でいろいろやってきました。
音の理論から始まって、パラメータの解説、実際の音など、内容的にも高度なこともなかに入れてきました。今回で一応終わりになります。
で、次回ですが、LA音源講座ということで、今までほとんど触れなかった他のLA音源について、少しお話しようと思います。LA音源はD-50にはじまり、D-10/20、そしてD-70となってきました。各機種の位置付け、個性、音色などについて少し書いてみようと思います。
また、最終回にQ&Aを行う事にしました。ご質問、ご意見をお待ちしています。
それでは、次回まで。