LA音源は突然に      第3講

  3.あぁ、あこがれのアナログシンセサイザー

 前回までの話で、”音”と”耳”について、大体の事は理解していただけたと思います。数学か物理の授業のようになってしまいましたが、やっていることはそんなにたいそうなことではありませんので、よく復習しておいてください。

 LA音源は、良くも悪くもアナログ音源をかなり意識したシンセサイザーであることは、前回述べました。アナログ音源とLA音源の間には、かなりの共通点があるのも事実です。そこで今回は、LA音源の一部である、と考えてもよい、アナログシンセサイザーについて考えてみます。「LA音源と違うから・・・」という方もおられるでしょう。でも、LA音源はアナログ音源のデジタルシミュレート音源とも、アナログ音源のアッパーコンパチともみなせる音源です。やっていくうちになるほど!と思うようになってきます。だまされたと思って、読んでいってください。

 アナログシンセサイザーは、電子的に作りやすい矩形波やのこぎり波などの、倍音を多く含む波形から、フィルターで倍音をカットしていき、音色を変化させる方式を取ります。この方式は減算方式と呼ばれ、実はあの、ロバート・ムーグ博士によって考えだされた方法です。ムーグ博士は、Moogシンセサイザーの生みの親ですね。彼の方式で最も評価されているのは、音の3要素をそれぞれのブロックで系統的に処理していき、それらを「電圧」という共通のインターフェースで、有機的にかつ柔軟にリンクできるという点でしょう。(意外に知られていないが、FM音源はその特徴の産物である。)そのあまりの完璧さ故に、Moog式以外のアナログシンセサイザーは存在しなくなってしまいました。

 下の図が、アナログシンセサイザーのブロック図です。

           VCA ------> VCF ------> VCA ------> OUTPUT
             ↑             ↑             ↑
             !             !             !
             +----- Envelope Generator ---+
                             &
                            LFO

 訳のわからん変な英語がたくさん出てきました。シンセサイザーの世界は、音楽と電子工学の世界です。たくさんの外国語と専門用語が嵐のように出てきます。言葉に負けないように努力してください。

 では、それぞれ説明していきましょう。

 VCAは Voltage Controlled Oscillator のことで、直訳すれば、電圧によってコントロールされる発振器となります。アナログシンセサイザーは前述のように、原則的にはすべてのブロックが電圧で制御されるというのが大きな特徴で、VCOはキーボードやLFO(後述)などからの電圧をもとに、特定の周波数を発振するセクションです。要するに、音の3要素の中で、「音程」を担当する部門ということになります。

 VCOの役割として、もう一つ大切な機能があります。VCOは発振器ですから、発振周波数と同時に、その波形も決定しないといけません。発振波形としては、あとの段階のフィルターで倍音を削っていくことを考えると、多くの倍音を含んでいるものを発振することが望ましいという事になります。そこで、前回説明した「矩形波」と「のこぎり波」の登場です。実際には、これらの波形をスイッチで切り替える事になるのですが、倍音の構成がまったく違う事で、最終的に出力される音色は大体ここで決まってしまうことになります。シンセサイザーで最も重要な部分といわれるのはそのためです。

 VCOから出た電気信号はVCFに入ります。VCFは Voltage Controlled Filter のことで、電圧によってコントロールされるろ波器となります。ろ波器というのがややこしいですね。一般にフィルターと呼ばれていますが、信号の通過の条件によっていくつかの種類が存在します。シンセサイザーには主に特定の周波数(これをカットオフ周波数という)以下の周波数のみを通過させるローパスフィルターが使われます。もちろん、このカットオフ周波数はマニュアル操作でも可変することが出来ます。

 特定の周波数以下を通過させるという事は、高い方の倍音から削除していくことになり、波形は次第に正弦波に近くなっていきます。こうして倍音の構成を変えていくことによって、波形を変化させていくのです。しかし、あくまで倍音を取り去ることでしか波形を変化させることが出来ないため、新たに倍音を作って波形を変化させることはアナログシンセサイザーには不可能です。つまり、これが、アナログシンセサイザーの限界という事になります。この限界を打開するために出来たのが、FM音源などのデジタル音源なのです。

 VCFにはもう一つ重要なしくみがあります。カットオフ周波数付近の倍音の大きさをコントロールする機能です。これはフィルターを共振させることで実現するので、レゾナンスといいます。いわゆるシンセサイザーの音というのは、レゾナンスによって作られていると言っても過言ではありません。具体的には、鼻をつまんだような「びょ〜ん」いう音です。シンセベースなどによく聞くことができますね。

 音程、波形を決定された信号は、音量を決定されるために、VCAを通ります。VCAは Voltage Controlled Amplifier のことで、電圧によって音量を変化できる増幅器です。イメージ的には、電圧によってアンプのボリュームツマミを制御していると考えてください。ね、音量が変化するでしょう?

 VCAは単にボリュームを決定するだけが仕事ではありません。むしろ、音量のエンベロープを決定することがその仕事です。立ち上がりの速さや、キーを放してからの余韻の残り具合などは、エンベロープが決定していきます。VCAをコントロールしてエンベロープを作成するのが Envelope Generator です。ここで出来た電圧の時間的変化は、VCAに入って音量の時間的変化になります。

 こうして、音が合成され、出力されます。考えてみると、音の3要素がきれいにそれぞれのセクションで処理されていくことがわかりますね。このアーキテクチャーがそのまま、LA音源にも採用されているのです。

 さて、LFOについて説明しておきましょう。LFOは Low Frequency Oscillator のことで、低周波発振器と訳します。VCOが発振するものよりもはるかに低い周波数で、この発振出力がVCOに入ればビブラート効果、VCFだとフェイズ効果に似たもの、VCAだとトレモロ効果がつきます。LFOは単調になりがちなシンセサイザーの音を動きのある音に変えてくれます。

 今、LFOがVCOに入っているとして、もしLFOの発振周波数が、VCOと同じぐらいになったとしましょう。するとこれはFM音源になりますね。FM音源は、最初はこうしたアナログ音源からスタートしたのです。でも、アナログシンセの欠点である発振周波数が安定しないという理由で、実用にならなかったのです。このライセンスを取得してデジタル化したのが、ヤマハさんだったというわけです。

 今回はアナログシンセサイザーについてでした。何度も書くように、アナログシンセサイザーとLA音源は極めて似ています。ここでの知識はそのままLA音源に生かすことが出来ます。アナログに一番近いデジタル・・・LA音源をしっかり味わうために、今回の内容についても熟知しておいてください。

 次回はいよいよ、LA音源の解説に入ります。楽しみにしておいてください。

          G-SHOES

次へ

戻る