前回のWGのはなしはいかがでしたか? WGにはLA音源のおもしろい要素がいっぱい詰まっています。各パーシャル単位でLFOを自在に設定できるのもLA音源ならではですし、現在のようなPCMが主流を占める世の中では、矩形波(LA音源の場合にはのこぎり波も)のパラメータに、パルスウィズがあることもなかなか新鮮な感じだったのではないかと思います。のこぎり波にパルスウィズが有効であるシンセサイザーは、世界中を探してもこのLA音源しか存在しません。みなさん、誇りに思ってください。
さて、今回はタワーの2番目、TVFについてです。
TVFは、Time Valiant Filterとよばれ、アナログシンセサイザーのVCFに相当する部分といえます。LA音源の搭載されているTVFの優れた点として、レゾナンスがあるという事があげられるのではないかと思います。デジタルでこのレゾナンスを再現できたのは、LA音源が最初です。LA音源が、アナログ音源をターゲットにして開発されたことがこういったことからもうかがえますね。
ゆわゆる「シンセサイザーの音」というのがレゾナンスによって作られていることが多く、シンセサイザーのメーカー、ROLANDとしての意地のようなものさえも感じられます。この後、カワイ、ヤマハ、コルグが、おのおののシンセサイザーのフィルターのセクションにレゾナンスをこぞって搭載するようになったことも、LA音源が原因の一つになっていることを否定できません。それくらい、LA音源で実現したTVFの影響はシンセサイザーの世界に大きな波紋を呼んだのです。
それでは、前置きはこのくらいにして、パラメータを見ていきましょう。
カットオフポイントを設定します。といっても直感的に理解できないでしょう。もし、音色エディターのある方はこのパラメータを動かして、音を出してください。LA音源は音をならしたままでパラメータを変化させても音色に変化があらわれません。つまり、パラメータを変更した次の音から、そのパラメータが有効になります。後に作られるシンセサイザーではこの辺が改良されている(JD-800がその極端な例)のですが、LA音源では実現されていません。
パラメータの値が大きくなるほど、カットオフ周波数が高くなります。カットオフ周波数というのは、フィルターがどの周波数までを通過させ、どこからを通過させないようにするかという、境目の周波数です。その境目ははっきりとしているのではないので「この周波数からは全く出てこないようになる!」といったような極端なことはありません。
I I fig 1 フィルター I_____ I______ I | I \ I | I | \ I | I | \ +---------------> +----------------------------> 0 ↑ 周波数 0 ↑ 周波数 ここがカットオフ周波数 ここがカットオフ周波数 ******************** ******************** *こんなフィルターは* *実際のフィルターは* *存在しない! * *こんな感じ! * ******************** ********************
さて、音色エディターを持ってる方、どうでしたか? パラメータが小さくなっていく、つまりカットオフ周波数が低くなっていけばいくほど、音に丸みが出てきて正弦波に近くなっていくのが分かりますね。音色によってはパラメータが低くなりすぎて音が出なくなってしまったかもしれません。カットオフ周波数がファンダメンタルと同じ周波数になってしまったためです。
多量に倍音を含んでいるのこぎり波や矩形波から倍音を削っていき、音を変化させていく、これがTVFの最も重要な仕事です。
注意しなくてはいけないことは、このTVFはPCMには無効であるという事です。当時、PCMはあくまでシンセサイザーを補うものと考えられていたようです。もちろん技術的な理由も、あるかもしれません。
シンセベースや、YMOで多用された、あの「ミョーン」という感じの音は、ここで作られます。ギターのエフェクターを使ったことのある人なら「あぁ、あれか」と思うはずです。
レゾナンスは「共振・共鳴」という意味ですが、具体的には、カットオフ周波数付近のレベルをコントロールし、特定の倍音成分を強調するものです。
バイオリンやギターの胴の部分を「共鳴器、レゾネーター」と呼ぶことを知っている方もおられると思います。レゾナンスもつまりは一種の「共鳴器」のシミュレートであると思っていただいてもいいと思います。しかし、当然電気的な音ですから、生楽器のような豊かさがこのレゾナンスで得られることは、まずありえません。
このパラメータは0から30までで、大きくするほどカットオフ周波数付近のレベルが大きくなり、倍音成分が強調されます。実際にはカットオフ周波数以外の周波数の倍音のレベルを小さくして、相対的にカットオフ周波数付近の周波数を強調しています。レゾナンスの値を上げると音がやせていきますが、これが理由だといえそうです。
さて、あまりここまで触れている文献も少ないのですが、レゾナンスをかけると、波形はどう変化するのでしょうか?
のこぎり波を例にとると、のこぎり波の斜めの線の部分に、ギザギザがでてきます。共振によって出来たギザギザです。最近発売になったKORGの01/Wは、ウェーブシェイピングという機能によって、ギザギザを作って、結果としてレゾナンスと同じ効果を得ています。AI音源はあくまでレゾナンスというパラメータを用意しなかったのです。
レゾナンスをかけすぎると、特定の倍音成分だけ強調された結果、発振してしまいます。アナログの場合だと、突然「ピー」という音がするので分かるのですが、LA音源ではここまでシミュレート出来ず、「ビリビリ」といった発振を起こしてしまいます。アナログだとこの発振音を効果的に利用することもあるのですが、LA音源の場合はとても聞けた音ではありません。レベルも大きく、アンプやスピーカを傷めてしまうことも考えられます。最近のシンセサイザー(とくにカワイのK4以降)のフィルターは、アナログのレゾナンスによる発振をもシミュレートしています。デジタルから発振音がでるのは、すこし驚きですね。
レゾナンスだけでは、おもしろい音は作れません。レゾナンスをかけて、しかもカットオフ周波数を変化させることで、あの「ミョーン」という音が作れます。時間的に強調する倍音を変化させていく訳です。
カットオフポイントを音程によって変化させることが出来ます。人間の耳は20KHzまでしか聞くことが出来ません。もし10KHzの矩形波がなっていたとしても、我々には正弦波にかなり近い音に聞こえてしまうことは想像に難しいことではないでしょう。ファンダメンタルの周波数が高くなればなるほど、実際に人間の耳に聞こえる倍音が少なくなるわけです。どんな楽器でも高音になればなるほど、音が丸く聞こえるのはそのためです。(マライア・キャリーの声も例外ではない!)
そこで、これを使って補正します。高音域と低音域それぞれの、耳に聞こえる波形の差を少なくするのが主な目的です。もちろん、トリッキーな効果を得るのにも役に立ちます。
バイアス(bias)とは、傾き、傾斜のことです。ここでは、キーフォローの傾きを修正するために用います。高音になればなるほど丸い音になっていく楽器が多いので、それを再現するために用いることが多いようです。ピアノなどはこれでかなりきれいに作ることが出来ます。
バイアスポイントはどの音から補正するかを指定するものです。<A1〜<C7,>A1〜>C7の範囲で設定します。ここで、"<"はその音から低音部を、">"はその音から高音部を補正します。
バイアスポイントで指定した範囲を、どのくらいの傾きに補正するかを指定するところです。-7から+7までで設定できます。
TVFにかかるエンベロープを設定するところです。以前書いたように、LA音源はWG、TVF、TVAそれぞれにエンベロープジェネレータを持っています。
エンベロープジェネレータの具体的なパラメータはいちいち説明すほどの事はないのでここでは省略します。
ただ、MT/CMにはTIMEが5ヶ所設定できるのですが、D-10/20では4ヶ所までしか設定できません。またLEVELもMT/CMの3ヵ所に対し、D-10/20では2ヶ所になります。
TVFエンベロープのかかり具合を設定します。設定値が大きくなるほど深く変化するようになります。
面白いのは、このパラメータを大きく設定すると、フィルターをいっぱいに開けたよりも、さらに多くの倍音が出てくることです。アナログシンセでは考えられないことですが、LA音源はすべて演算で音を出しますからこういうことも起こりうるのです。
LA音源ののこぎり波はそのままだと結構丸い音がしますが、フィルターを開けて、TVFのエンベロープのレベルをいっぱいに設定し、さらにデプスを最大にすると、バチバチといった感じの激しい音になります。
LA音源は、TVFエンベロープをベロシティ情報で変化させることが出来るのですが、このパラメータはその感度を設定します。大きくなればなるほどベロシティ情報に対して大きく変化するようになります。ベロシティ情報とは、鍵盤を押す強さの事です。鍵盤を強く叩くときには必ず鍵盤を叩く速さが速くなるという事を利用してその情報を得ているため、ベロシティ情報(速さ情報)と呼ばれています。
TVFエンベロープデプスを、音の高さによって変化させることが出来ます。高音になればなるほど、TVFエンベロープを深くかけたい、という時などに便利です。
TVFエンベロープの変化する時間を音の高さによって変化させることが出来ます。このパラメータはそれを設定するものです。「変化する時間」というのは、TVFエンベロープに設定した時間全体が等しく変化するということであって、特定の時間(例えばアタックタイム)だけが変化するという意味ではありません。
これを使うと、ピアノのように高音になればなるほど音色の変化が速くなるような場合に、かなりリアルな音色を作成することが出来ます。
TVFのパラメータは以上です。かなりの量の文章になったと思います。しかし、これもやむを得ません。それだけTVFにあたえられた仕事が多いという事なのです。波形そのものはWGが決定しますが、その波形を使える、生きたものにするのがTVFだという訳です。TVFではかなり細かいことまで設定できるパラメータが用意されています。それらのパラメータを自由に設定できるようになって初めて、納得のいく音色が作成出来るようになるのだと思います。TVFが倍音構成を決定するのですから、当然ですね。
TVFの面白さは、ここを実際に触ってみればすぐに御理解いただけると思います。
ここまでで、音色のかなりの部分を作成できるようになりました。あとはTVAと、そして、リングモジュレータですね。一番難しく、一番肝心なところは、今回のTVFです。あとはごく簡単になりますので、肩の力を抜いて、楽にしててください。
次回は、TVAを解説します。おたのしみに!
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