復活のCLE

電子回路の説明編


まずは簡単に回路の説明をしておきましょう。

・全体のお話

CLEは同時期のXGなどに近いと言われ,XGの部品を使って修理が出来るという話も耳にしますが,私に言わせればそれは誤りで,XGとCLEは似て非なるもの,というのが正しいと思います。

確かにシャッター制御などはX-700まで共通の横走りですし,シャッターボタンもタッチセンサが付いていますが,XGがCdSであるのに対し,CLEはSPDが使われています。1981年当時,SPDを使ったミノルタのカメラは存在せず,CLEはとても先駆的であったと思われます。

またCLEの基板はICが直接ボンディングされていますし,使われているICそのものについても,おそらくXGで使われているものとは別の種類のものでしょう。その上XGで使われているハイブリッドICは,CLEではディスクリートで構成されているので,XGの回路図はあまり役には立ちません。

ただし,露出表示を行うレベルメータ回路はほとんど共通で,使われているICも同一です。

個人的な考えではありますが,電子制御カメラは1980年代以前のアナログ方式(抵抗とコンデンサによる時定数で時間を作る)と,それ以後のデジタル方式(クロックを数えて時間を作る)とは本質的に異なるものだと考えるべきで,例えば壊れやすさについても壊れやすいのは前者,壊れにくいのが後者であると思います。

現実にはこの2つを区別せず,電子制御カメラを「壊れやすい」「信頼性に劣る」とすることが一般的ですが,キヤノンA-1やミノルタα7000から以降がそれほど壊れない上に,当時から信頼性について議論されてこなかったことを考えると,この違いはやはりアナログかデジタルかの違いによるものだと考えて差し支えないでしょう。

・シャッター駆動回路

ミノルタの横走りフォーカルプレーンシャッターはなかなか独創的なものとして知られていて,3軸方式にもかかわらずドラムの直径を小さくして,コンパクトに構成することが可能です。シャッターの制御もなかなか面白く,同時にこの時代のミノルタカメラのアキレス腱となっています。

まず,先幕の駆動です。

先幕はチャージ後係止されており,解除ソレノイドがONになるとシャッターが走り出します。

ところがこの係止を外すのがかなり大変なようで,結構大きな電力が必要になっています。これをそのまま電池から取っていては,電圧が下がってしまって回路が安定に動作しません。

そこで大容量のコンデンサに充電しておき,ソレノイドをONする時にはこのエネルギーを使うようにしています。大変面白い方法です。

この部分の回路図をご覧下さい。トランジスタがOFFのとき,コンデンサは抵抗を通じて充電が行われています。

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シャッターの係止を外す信号がトランジスタをONすると,コンデンサにチャージされたエネルギーはソレノイドとトランジスタを通って放電されますが,この一瞬の放電によってソレノイドが動作して係止を外し,シャッターは走り出すのです。

結局最終的なエネルギーの総量は直接駆動する場合と同じはずではありますが,消費電流が一気に巨大化することを防いで平均化することで,電源電圧の変動を小さくして電池寿命を延ばすことも出来る仕組みです。この考え方は特に最近の携帯電話などにも応用されています。

この回路の弱点はまさにこのコンデンサにあります。150μF程度の容量が必要になっているようですが,当時のアルミ電解コンデンサではサイズが大きくなるため,タンタルコンデンサが使われています。

ところがこのタンタルコンデンサというのは,耐圧ギリギリで使うと壊れやすいのです。しかも壊れるとショート状態になります。

CLEをはじめとしてミノルタのカメラでは,小型化のために耐圧ギリギリのタンタルコンデンサを使っています。やはり壊れやすいようで,シャッターが動かない,電池がすぐになくなるという定番のトラブルの多くは,このコンデンサの不良と言われています。

もう1つ,ソレノイドが動作するときには大きな逆電圧が発生するのですが,ミノルタの回路にはその対策がなされていません。そうするとコンデンサに逆電圧がかかってしまうのです。タンタルコンデンサは逆電圧にもめっぽう弱く,簡単に壊れてしまうものなのですが,ミノルタのカメラの弱点はどうもこのあたりのツメの甘さにあるように思えます。

次に後幕の駆動です。

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後幕の駆動は特に珍しいものはありません。先幕を走らせる前にソレノイドに電流を流しておき,後幕を係止しておきます。

先幕の係止を外した後,一定の時間が経過してから後幕のソレノイドをOFFして係止を外します。すると後幕が走り始めます。この時間が「露光時間」となるわけです。

後幕の係止はそれほど大きなエネルギーは必要ないようで,ソレノイドを直接駆動しても大した消費電流にもならず,電圧の変動も起きにくいようです。

ところで,先幕と後幕は重なっており,同時に走行させれば全く露光されません。ということは,重なっている時間を割り引いて後幕を走らせないと規定の露光時間が得られませんが,私のCLEの場合ここが大体2ms程度のようでした。

例えば1/1000秒の露出の場合,露光時間は1msとなるわけですが,先幕と後幕が重なっている2msを加えて,先幕の係止解除から3ms後に後幕の係止を解除しないといけないことになるのです。

ただ,これは結構落とし穴で,シャッターの走行速度は露光の前後で特にばらつきますし,気温や湿度でも変化します。だから先幕の端がある地点を通過したときに時間の計測をスタートするような信号が別途出ていると,かなり正確な露光時間を得ることが出来るはずです。

ひょっとしからそういう仕組みになっているのではないかと調べましたが,CLE本体にもそうした信号は出ておらず,またXGのサービスマニュアルに記載されていたタイミングチャートにも,後幕の係止解除は先幕スタートからの時間で行って入ることが明記されていました。

こうした制御で正確な露光時間を得ようとするのは,まさにメカで精度を維持する精密機械の真骨頂だと言えるのですが,私個人はこういう部分にコストがかかってしまうことを余り良いことだとは思いません。

・測光系

測光系はXGなどとは異なり,SPDを使っています。SPDの寿命は半永久的で,特に吸湿による劣化が深刻なCdSとは違って安心です。その代わりSPDは出力が小さくノイズに弱いですし,扱いはかなり難しいと思います。

これはあくまで設計に関する話であり,完成されたカメラの測光系についてはCdSよりも遙かに信頼性も高く,経年変化も無視できるものだと思います。

SPDからの出力はICで処理されて,後述する露光時間を作り出すタイミング生成回路に入り,タイミングコンデンサへの充放電の制御に使われます。

一方でこの信号は,ファインダーに測光の結果を表示するためのLEDのレベルメータ回路にも入力されます。

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このレベルメータはオーディオで使われるものと原理的には全く同じで,ICの内部はコンパレータという電圧比較器がずらーっとLEDの数だけ並んでいます。それぞれのコンパレータには個別の基準電圧が加わっており,入力された電圧がその基準電圧に達したらコンパレータがONになるようになっています。ですから大雑把な言い方をすると,これは一種のAD変換回路とも言えます。

なおCLEは一眼レフとは違うので,測光結果を記憶する必要はありません。フィルム面の反射光を直接測光してやればいいので,露光前はシャッター幕の反射光を,露光中はフィルム面の反射光を測定しているそうです。

・タイミング生成

タイミング生成はまさにシャッター制御の要で,今ならマイクロコンピュータで水晶発振子が作るクロックの数を数えることで実現できるのですが,当時は抵抗とコンデンサによってアナログで作ります。

マニュアルモードの場合,シャッター速度ダイアルが可変抵抗になっていて,回転角度によって抵抗値が変わることから,タイミングコンデンサとで作られる時定数が変化します。だから,ダイアルを途中で止めると,シャッター速度もその中間値がでるようになります。

絞り優先AEの時には測光系から入ってきた測光結果を使ってタイミングコンデンサとで作られる時定数を制御します。これによって明るさに対し無段階のシャッター速度制御が出来るわけです。

ただこのやり方はなかなか複雑です。電圧と時間の関係を対数圧縮しないといけなかったり,タイミングコンデンサの精度が重要だったり,温度差に敏感だったり,経年変化に弱かったりとアナログ特有の問題があります。私に言わせればよくもまあこんな方法を民生品という限られたコストの中でやったものだと感心することしきりです。

ところで,初期の絞り優先AEはディスクリートで作られていました。すぐにIC化されるのですがその過程で,内部の回路を差動増幅器を使ったものにすることが出来るようになり,電池電圧の変化や温度の変化に対しても随分強くなりました。

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