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2007年03月の記事は以下のとおりです。

念願のScanSnap

  • 2007/03/30 17:55
  • カテゴリー:散財

 人類が増えすぎた書類を磁気円盤に移動させるようになって,既に半世紀が過ぎていた。
 コンピュータの周囲の巨大な磁気円盤は書類の第二の故郷となり,書類はそこで子を産み,育て,そして死んでいった・・・(どかーん)

 そんなわけで,書類です。頻繁に見る物は紙に限りますが,書類の多くはそれほど頻繁に見るものではありません。捨てるわけにもいかず,さりとて置いておくには場所ふさぎという,そんなものの代表ではないでしょうか。

 人類の歴史は,アーカイブされて今に伝わっています。もし先人達が「場所ふさぎだから」と書類をその都度捨てていたら,我々は自らの歴史を知ることもなく,時間の流れに彷徨って,同じ過ちを二度三度と繰り返していたに違いありません。

 しかし,書類の保存には膨大なコストがかかるものです。これは,書類そのものの価値に加えて,書類をとにかく保存するということにも価値が認められているからでしょう。

 それで人類は,書類をいかに効率よく保存するかを考えて来たわけですが,マイクロフィルムの時代を経て,今は電子データとして保存することが一般的です。

 マイクロフィルムも専用の機械がないと見る事ができないのですが,電子データはもっと最悪で,ただの数字の羅列に一定の決まり事を設けて,情報を織り込んでいくわけですから,その決まり事がわからないと困ったことになるわけです。

 前置きが長くなりましたが,ScanSnapを買いました。

 すでによく知られた製品なので今さら説明の必要もないでしょうが,小さく,読み取りも高速で,PDFに変換するところまで自動化されている,書類のアーカイブ専用のドキュメントスキャナです。

 本物のAcrobatが付属していて約5万円という価格はなかなか微妙なところで,フラットベッドスキャナが1万円を切る値段で売られているこのご時世に,5万円という価格には高いなあという印象が拭えません。

 ただ,よく言われることですが,Acrobatの価格を考えると,結構妥当な金額といえます。両面スキャンが可能で,オートドキュメントフィーダまで搭載したスキャナですから,単純に1万円のスキャナとの比較も出来ないでしょう。

 以前から欲しいなと思っていたのですが,やはり価格がネックになって買わずに来たのですが,いつも捨てている,以前カーナビを買った業者のメールマガジンを偶然きちんと見てみると,1つ前の製品が36800円と破格値で出ています。送料も無料です。

 現行品はS510というものなのですが,1つ前のS500との違いはソフトウェアの違いだけで,スキャナ本体にはなんにも違いはありません。それにどちらもフル機能ではないにせよ,Mac用のドライバも提供されているため,私の環境でもばっちりです。

 小さいとはいえ,それなりの大きさがあるものなのでかなり迷ったのですが,書類が片付いて,それで生まれたスペースがスキャナよりも大きければ,スキャナを導入する意味があります。

 一昨日届いたScanSnapをちょっと使ってみたのですが,Macで使ってる人もそんなに多くはないでしょう。使い心地を少し書いておきたいと思います。

 まず,本体は大きさの割にずっしりと重いです。想像していたよりずっと小さく,しっかりとしているので,本体については好印象です。ただ,ACアダプタがじゃまくさいのはお約束です。

 ソフトはダウンロードをしないとMac版は手に入りません。Windowsで使うのとは随分機能差があり,特に残念なのはOCR機能が使えず,結果として検索が出来るPDFが生成されないのです。

 また,PDFを編集するソフトであるAcrobatは当然Mac版がついているわけではないので,余計なページを削除するなどの編集は出来ません。もともとMacOSXでは,PDFは標準フォーマットとしてOSに組み込まれた存在です。それゆえ,PDFの扱いそのものは軽快なのですが,編集に関してはちょっと面倒です。

 基本的な機能についてはWindows版との差はなく,本体のボタンを1つ押すだけでスキャンが始まり,最終的にPDFを作ってくれることも同じです。ただし,A3のスキャンを行う機能がMac版にはありません。よって付属しているA3用のキャリアシートは無用の長物です。

 読み取り速度は,Windows版を使ってないので比較出来ませんが,Mac版が特別遅くなっているわけではなさそうで,十分に高速だと思います。また,両面のスキャンが同時に行われるため,片面でも両面でも使い心地に差がないというのがありがたいところです。

 画質はWindowsもMacも変わらないと思いますが,これも十分です。私の場合スーパーファインモードを使っていますが,カラーもモノクロも問題はありません。

 音は結構大きめでしょう。また,ADFのパワーが結構大きいので,もしジャムが起きたりすると書類がくちゃくちゃになってしまうことは避けられません。スキャナにセットする前に,ジャムが起こらないよう,書類が1枚1枚きちんと剥がれてくれることを確認した方がよいと思います。

 ということで,私は特別高度なことを考えていないので,これでもう十分です。ちょっと置き場所に困るような雑誌類もどんどん読み取ってくれます。

 こうしたアーカイブを行う場合に,その保存フォーマットをどうするかは少し前まで頭の痛い問題でした。機種やOSを問わず,複数ページを1つのファイルにまとめることができるものは意外に少なく,実質的に標準となっているPDFの存在が,こうしたドキュメントスキャナを身近なものにした最大の理由ではないかと思います。

 すでにスキャンしたい書類がたくさんたまっています。逆に,これがあればスキャンしておいたんだけどなあと思う捨てた雑誌もたくさんあって,今にして思えばちょっと残念です。

朝の出来事

 昨日の朝は,出るのが少し遅くなってしまい,小走りに駅に向かいました。

 1つ,2つ,3つと角を曲がり,少しだけ視野が開けた場所にさしかかって目に入ったのは,いつもより少しだけ離れたところにあった,いつも同じ時刻に目にする出勤途中の女性の背中でした。

 違っていたのは,狭い道の真ん中にかすかに見える膨らみと,それを心配そうに見つめるおばさんの姿が同時に目に入った事です。

 おばさんは困ったという顔をして,すれ違う寸前の私に声をかけました。

 すみません,この子が動けなくなっているのですけど,このまま車にひかれたらかわいそうなので,自分が道の横に動かしてあげられればいいんですけど,ちょっと私はそういうにが苦手なので,できれば動かしてあげられませんか・・・

 彼女はそういって私に本当に困った視線を投げかけました。その視線と私が見たいつもの女性の背中は,この頼みが私だけにされたものではないと知るのに十分でした。

 反射的に私は,足下にあるその膨らみを凝視しました。そこにあったのは,小さなスズメでした。

 死んでいるわけではなく,さりとて大けがをしたり,病気で動けなくなっている様子もないのですが,用心深い彼らが人間二人に囲まれて逃げ出さないはずもありません。なにかがあったのでしょう。

 ほぼ同時に私は困ったことになったぞと思いました。いつもの電車に乗り遅れる,そんな心配をしていたのです。それに,厄介なことは何かに関わるから起こるのであって,逃げてしまえば何も起こりません。

 朝の憂鬱な表情を浮かべる私に声をかけるくらいです。おばさんも,余程困ってのことだったのでしょう。おばさんは私の態度が期待はずれになりそうだと察知して,続けました。

 あなたも,やっぱりこういうの,苦手ですか?

 私も,実はあまり生き物が得意なわけではありません。ええ,実はそうなんですよ,と申し訳なさそうに答えたのですが,その場をさっと去ることも出来ずにいました。いくつかある選択肢の中で,電車の乗り遅れるのが嫌だ,という理由に最もそぐわない行動を取っている私がいました。

 鳥インフルエンザが人間に感染する可能性が心配されています。政府も,死んだり弱っている鳥には触らないようにと呼びかけています。もしこのスズメが鳥インフルエンザで弱っているのだとしたら,私が世界に先駆けて,新しい型のインフルエンザを蔓延させ大被害を起こす元凶となる可能性だってあります・・・

 人間は,中途半端に賢いせいで,面倒なことに壮大な妄想を付加してくだらない言い訳を考えつく動物です。自分がそんな大それた事件の主人公になることを想像しながら,足下のスズメに視線を落とし,同時に,でもこのままだと車にひかれますね,それはかわいそうですね,とおばさんに返しました。

 おばさんも,そうでしょうと頷きましたが,それでは事態は何も変化しません。

 そのまましばらくして,この場を何となくやり過ごすことになるだろうと考えていたところに,それを許さない神の手が,事態をのっぴきならない方向に動かしました。

 ワンボックスカーがやってきたのです。道の幅はぎりぎりです。とても小さなスズメをよけて通ることは出来ないでしょう。果たして我々の眼前で,かくも残酷な事が起こってしまうのでしょうか。

 私は決心しました。手で車に合図を送り,まずこちらの異常に気付いてもらいました。もう後戻りは出来ません。

 私はしゃがみ込み,そのスズメを,出来るだけ出来るだけそっと抱きかかえようと手を伸ばしました。

 こんな近くでスズメを見るのは,何年ぶりでしょう。

 そのスズメは,目をつぶっていました。残念ながらスズメ独特の愛らしい表情を見せてはくれません。半開きになったくちばしの奥には,赤黒い血がたまっています。そしてその足下には,血の跡がついています。

 どこから出た血なのか探してみますが,口以外に見あたりません。それに,意外にちゃんと両足で立っています。震えている様子もなく,丸く膨らんでいるようでもありません。

 私の手が,スズメの一部に少しだけ触れた一瞬,スズメはびっくりしたように,ばさばさと辛そうに飛び立ちました。少なくとも私の視線の高さを超え,彼を見上げることを期待しながら,しかしそれはかないませんでした。

 3メートルほど先の塀にとまったのを見届けた我々は,車に再び合図を送り,止まって待ってくれたことに感謝をしました。運転手の表情は実ににこやかでした。

 おばさんは私に頭を下げ,少し先のマンションまで一緒に歩いて,そして帰っていきました。私は私で,何事もなかったかのように,駅への道程を急ぎました。

 いつもの同じ電車に乗り,いつもの時間の流れに少しだけ挟まったこの事件を振り返りながら,どうして躊躇せず,おかしな言い訳ばかりを考えずに,さっと行動に出ることが出来なかったのだろうか,スズメがぐったり動けなくなっておらず,案外簡単に事態が収束したことを助かったとまず思ったさもしい感情は一体どこから沸いて出てきたのだろうか,結果としてスズメは車にひかれず,おばさんは安心し,私もいつもの通りの生活に戻っているが,私の気持ちは暗いままでした。

 そういえばすっかり春のそれになった日差しに目を細めて,ちいさな丸い姿のスズメをかわいらしいと思った数日前を,私は思い出していました。

 その日の夜,同じ道を帰りに通った時に,私はそのスズメの痕跡を探してみました。暗いせいもありましたが,私はとうとうそれを見つけることが出来ず,自分の望みが叶ったことに感謝をして,自宅にたどり着いたのでした。

 
 

Make:02に本気を感じた

  • 2007/03/22 15:38
  • カテゴリー:make:

 昨年秋にオライリーから出た「Make:日本語版」の第一号は,多くの書店で平積み&店頭POPとかなり気合いの入ったものでしたが,内容がかなりアレゲだったこともあり,さっぱり売れなかったようです。

 オライリーといえば,印象的な銅版画の表紙に飾られた硬派な書籍にお世話になった人も多いでしょう。それに社長のティム・オライリーは「WEB2.0」という胡散臭い言葉を生み出した人でもあるし,私のような人間にとって,オライリーというブランドには大きな信用があるのです。

 そのオライリーも最近ちょっと方向性が変わってきていて,実用一点張りの役に立つ書籍だけだったものが,数年前から何の役にも立たない本もチラチラと出てくるようになりました。

 本国では別に珍しい傾向でもなんでもないんでしょうが,その最たる例がMake:という雑誌です。

 アメリカのホビーストには,日本人にはないマニアっぷりが炸裂していて,よくもまあそんなことをするものだと思うようなことを涼しい顔でやっていたりしますが,それを取り上げて紹介するのがMake:という雑誌です。

 ニュートンのような単なる科学雑誌でもなく,またラジオライフのようなマニア限定の雑誌でもなく,強いて言えばホビーストが互いの安否を気遣う雑誌という感じでしょうか。とにかく,こういう雑誌は日本にはないと思います。

 それが日本語版として出るというので,私は期待をしていたわけです。しかし昨年秋の第一号は,ちょっと内容が薄かったことと,本当に役に立たない記事ばかりで,知的好奇心を満足させるようなクオリティではなかったことがとても残念でした。

 案の定,大量の在庫がしばらくすると綺麗に返品され,まるでそんな本はなかったという黒歴史っぽい扱いを受けるようになっていました。

 第二号が昨年末に出るというアナウンスもふいにされ,Make:はもう永遠に日本では出ないのだと思っていたのですが,突如3月末に出るという情報が!

 マイナーな商品を買い支えることに心地よさを感じる私としては,もう買うしかないでしょうね。内容は正直,前回同様外しまくりであることはもう覚悟の上です。

 第一号を大量に返品した職場近くの大きな本屋さんは,2店とも入荷していませんでした。当然でしょう。仕方がないので家の近所の大きな本屋に出かけると,4冊ほど残っていました。

 期待しないで読んでいると,「こ,これは!」というまるで美味しんぼのような台詞が頭の中を錯綜します。

 そうなのです。かなりよい内容なのです。

(1)内容がかなり濃くなった

 ニュースやら製作記事やらインタビューやら,実は第一号から結構いろいろ書かれていたのですが,その内容はどれも「ふーん」で終わるようなものばかりでした。第二号ではセグウェイの発明者へのインタビュー,直径30cmのサイクロトロンを自作した人の話など,なかなかキャッチーなものが列んでいます。


(2)試してみるかと思う記事が増えた

 第一号では凧にカメラを付けて空撮とか,ビデオデッキを改造した猫の自動えさやり装置など,どうでもいい製作記事ばかりでしたが,第二号はジャム瓶で作るパルスジェットエンジン,空き缶で作るスターリングエンジン,廃物利用で瞬間撮影用のフラッシュを作るなど,自由研究として取り組んでも面白そうな製作記事が増えました。気合い入ってます。


(3)脳に染み入る知識

 第一号では常温核融合など,どっちかというと「とんでも科学」っぽいネタが出ていて,胡散臭さが漂っていたのですが,今回のネタは冷凍による仮死状態に関しての話です。一瞬「とんでも科学」っぽいところを見せながら,実はすでに実用化されて我々の生活にも組み込まれている事実や,最新の成果による可能性を堅苦しくならないように論じており,読み応えがあります。


(4)印象的なコラム

 グリニッジ天文台の博物館は撮影禁止になっているそうですが,その理由が釈然としない,というコラムが出ています。ミケランジェロのダビデ像を,スタンフォード大学が精密に三次元スキャンする研究で,そのデータを他に出さないという契約を必要としたことについても異論を述べており,すぐに著作権が版権が,という世知辛い世の中に対し,痛烈な批判を行っています。海外の知識人が述べるこうしたオピニオンを読むことが出来る機会というのも,なかなか貴重ではないでしょうか。そして,なぜこのコラムを選んだのか,そこにMake:日本語版の意図を読み取ることが出来そうです。


 てなわけで,第二号はかなり手間をかけて丁寧に作られた感じがあります。

 そもそも人間は知らないことに接し,それを理解したときに充足感を得るものです。第一号のMakeにそれはほとんどなかったわけですが,第二号は逆にそういう記事ばかり。しかもかなりのボリュームです。

 噂によると,店頭売りはぼちぼちでも,amazonなどでは大変によく売れているんだそうです。この調子なら第三号もほぼ確定という話もあります。

 日本語版独自の記事がないことを1つの問題点として捉えて第二号を出しているようですが,独自の記事があるかないかではなく,それが知的好奇心を満たすものかどうか,同時にあまりに尖りすぎて怪しいものになってはいないか,というごく当たり前の観点で記事を選べば済むだけの話のように思います。

 感心したのは,本国の記事を抜粋し,まとめただけではなく,きちんと日本のスタッフが追試を行い,動作することを確認してあるのだそうです。この作業に時間がかかってしまったことを,発売が何ヶ月も遅れた理由にしています。

 根拠がはっきりしない記事を見ることに対する不安感というのは,読者は敏感に察知するもので,今回の確かな手応えはこうした丁寧な作りから得られるものではないかと思います。どんなものでも手を抜いたら,その分のペナルティはあるものです。

 次はうまくいくと7月頃だそうです。年4回を目標にするそうですが,同じような方向と思われたCQ出版の「エレキジャック」があまりにひどい出来だったこともあり,Make:日本語版はうまく続いてくれるのではないかと思います。

 この調子で頑張れ。

300Bシングルに負帰還をかけて決着

  • 2007/03/21 18:03
  • カテゴリー:make:

 300Bシングルのパワーアンプですが,いろいろ考えた結果,やはり浅い負帰還をかけることにしました。

(1)出力トランスの一次側の配線を変更
 今回のアンプは,出力トランスの一次側を3.5kΩで設計してあります。300Bのシングルとしては,最近は5kΩあたりで使うのが流行しているのだそうですが,私はあえて低めの負荷で使うことにしていました。

 ただ,RW-20というトランスは,二次側が6Ωしかありません。8Ωのスピーカなら一次側のインピーダンスも高い方に向かうだけですから,それほど問題にならないでしょう。

 ところが,うっかりしていたのですが,私の使っているスピーカは4Ω。6Ωだったとばかり思っていたのですが違ってました。4Ωを6Ωの端子につないで使うと,一次側は2.7kΩとかなり低めになってしまいます。

 これはさすがに問題だろうと,一次側を5kΩにつなぎ変えました。これで4Ωのスピーカをつなぐと3.3kΩと,まあ許せる範囲でしょう。

 ここで4Ωのダミーロードをつないで高域の周波数特性とダンピングファクタを測定してみると,1Wの時に高域は20kHz弱で-3dB,ダンピングファクタは2.2となりました。4Ωという負荷はやはり重いんでしょうね。

 しかしこれが私のもっているスピーカでの実態でもあるわけですから,ほっとくわけにもいきません。低域がポンポンいうことと,狭帯域な感じがあったのは,このあたりの数字でもはっきりします。


(2)負帰還をかける

 そこで,浅めに負帰還をかける決意をしました。

 負帰還をかけるといっても局部帰還をかける方法もあれば,全体でかける方法もあるわけですが,今回は簡単で私自身も経験がある,出力トランスの二次側から初段のカソードに負帰還をかける方法を使うことにしました。,

 ここから恥ずかしい話をしますが,初段のカソードに抵抗を介して帰還をさせてやっても,全然出力の大きさが変化しません。無理矢理小さくなるような低い抵抗をつないでやると,波形が目で見て分かるくらいひずみます。

 どうしてかなあとしばらく悩んで,いろいろ調べてみたのですが,ここにカソードバイパスコンデンサが入っていることに気がつきました。

 考えてみると,カソードに帰還させるケースでは,バイパスコンデンサがないか,あってもグランドとの間に低い抵抗が挟まっているべきです。

 バイパスコンデンサによって交流的にはGNDに落ちている箇所に,出力を戻しているんですから,そりゃおかしいですわね。初段のバイアスがかわって,それでひずんでしまっていたわけです。

 そこで,カソード抵抗1kΩと直列に82Ωをいれて,バイパスコンデンサは1kΩと並列に,帰還は82Ωと1kΩの接続点に入れてやると,きちんと出力が下がり,高域の周波数特性も伸びます。やれやれ。

 続けて帰還量の検討です。無帰還時の中域の自然さが300Bの味だとすれば,それを薄める方向になる帰還は,出来るだけ浅めにしたいところではあります。

 ヒアリングの結果,帰還抵抗を2.2kΩとしました。この時の帰還量は2.86dB。3dBまでにしておこうと思っていましたので,ちょうどいいところでしょう。

 周波数特性は4Ω,1W時で12.3Hz?27kHz(-3dB)と目標の値を超えてくれました。ダンピングファクタはON/OFF法,1W,1kHzで3.6。これもまずまずの数値です。オーバーオールのゲインは18.6dBとなりました。

 負帰還をかけたときには気をつけないといけない容量性負荷に対する耐性は,1uFまでつないでみましたが,全く大丈夫でした。元々の帯域が狭いせいで,発振する気配も見えません。

 負帰還をかけたことでハムもぐっと下がりました。音を聞いてみると,低音のポンポンいう感じは消えて,しっかりどーんと出てくるようになりました。高音もハイハットやシンバルが出てくるようになり,従来の帯域の狭さはかなり感じられなくなっています。

 しかし,中域のしなやかさは薄まったように思います。こういうのは気のせいであることがほとんどなのですが,そこらへんの普通のアンプに一歩近づいたという印象はぬぐえません。

 無帰還時の素直さと部品の個性は,負帰還によって確実に薄まります。その代わりに特性の改善という大きなメリットがあるわけで,どのくらいの塩梅にするかがとても大事になるわけですが,悪く言えばどっちつかず,よく言えば最低限の負帰還で両立をねらったという感じにまとまったと思います。

 さて,ひずみ率を計ってみます。あまりあてにならないのですが,前回と同じ測定方法を使ってみます。

ファイル 114-1.jpg

 いやー,信じていいんでしょうかね,この結果。まったくでたらめっぽいのですが,一応測定した結果ですから,参考程度に見ておくことにします。

 1Wの出力時で,1kHzが0.37%,10kHzで1.55%,100Hzでは0.51%と,前回の測定と比べてほんの少しだけ良くなっています。このくらいの帰還量ではこの程度の改善だろうという予測にそうもので,まあこんなものでしょう。

 ちなみに3%になる出力は9Wとなり,前回よりも少しだけよい数値になっています。


 しかし,今回はいろいろ学びました。

 まず,アンプとスピーカのマッチング。その結果大きく変わる音質。さらにジャンルによって許せる音質と許せない音質があること。

 私が好んで聞いているトリオくらいのジャスは,音量の変化も小さく,楽器も少ないため,広帯域であることより素直な特性である事の方が聴きやすいのです。

 しかし,これでロックなどを聴くと,全然元気がなくつまらない。アンプとして機能していないようにも感じられます。

 クラシックなども同様で,スケール感が出てこないとさっぱりだめです。

 私はジャズばかり聴いていましたから,無帰還でもよいと思っていたのでしょう。たまたまロックを聴いて,何かおかしいと気がつくまでは,随分と気に入っていましたから,人間というのは面白いものです。

 ジャンルによってアンプを変えるという意見に懐疑的だった私も,なんとなく意味が理解できたように思います。

 同時に,ジャズはお金のかからない音楽だということ。ロックはもっとかからないですね。でもクラシックは底なしだと思いました。恐ろしいことです。

 ということで,2ヶ月近い時間かけて300Bアンプを改修してきましたが,これで本当に一段落です。配線ミスも見つけましたし,音質のチューニングも行いました。これでしばらく使って,また問題点を見つけたら考えることにしましょう。

うまくいかない

  • 2007/03/19 19:35
  • カテゴリー:make:

(1)レコードプレイヤーのケーブル
 課題として残っていたレコードプレイヤーのケーブルですが,会社の帰りにふらっと電気屋さんに立ち寄り,その店にあるものの中でそこそこ値段の高いものを選んで交換してみました。

 オーディオテクニカのPCOCCとか書かれたケーブルで,かなり太いです。家に帰って片側をちょん切って,5Pコネクタにハンダ付けしますが,まるで同軸ケーブルのようなごつさです。発砲ポリエチレンの絶縁体を使っているので,おそらく容量は小さめではないかと思うのですが,取り回しに苦労します。

 交換した結果ですが,はっきりいってなにも変わってないように思います。精神衛生上の改善だと割り切っていたので,変化がなくても全然よしです。


(2)レコード針を交換
 デンマークのオルトフォンはMCカートリッジの祖として知られているメーカーですが,MM(というかIM)カートリッジも作っています。かつて販売されたVMSシリーズもその1つで,私はこのうちVMS30mk2を持っています。

 このカートリッジ,私にとって生まれて初めて手に入れた記念すべき高級カートリッジなのです。

 16歳の私は,おもちゃのような安物のレコードプレイヤーを手に入れてレコードを聴いていましたが,DP-3000にV15type3という組み合わせで聴いた叔父のレコードに少しでも近づくために何をすべきか,考え込んでいました。

 おそらくカートリッジをV15にすれば一番近づけるだろうと思ったのですが,とても私には買えません。そんなおりFM雑誌の広告を見ていると,元々3万円するVMS30mk2が,特価で1万円であるというのです。

 日本橋のオーディオショップにも同じ値段で同じものがあることを確認し,なけなしの貯金を崩して,買いに出かけました。

 そうして手に入れたVMS30mk2ですが,元々ついていたカートリッジを遙かにしのぐ音を出してくれたものの,V15には遠く及ばず,いつかはきっとV15と,心に誓ったのでした。

 そのVMS30mk2ですが,今のプレイヤーであるDP-2500を手に入れるまでずっと酷使されていました。その後,ME97HEやV15typeVを買うに至り,お蔵入りしていたのです。

 すでにVMS30mk2の針は丸くなって光っており,とても使えそうにありません。しかしそんなに悪いカートリッジではないはずで,針を新品にしていつか復活させたいと思っていたのですが,そこら辺に売ってるようなものではないんですね。

 ところが,ふとVMS30mk2で面策してみると,交換針が見つかりました。厳密にいうと,交換針として使えそうなものが見つかったという感じです。

 オルトフォンのデンマーク本社のサイトを見ると,VMS30mk2はVMS20E用の交換針であるD20Eというものを使えばいいとあります。

 しかし,日本の A'pis Japanさんという交換針の専門店によると,D30E/2というVMS30E/2用の交換針も売られているのが分かりました。ただし,あくまで対応機種はVMS30mk2と明記されているわけではありません。

 私はオルトフォンのVMSシリーズにそれ程詳しいわけではなく,VMS20E用の針がいいのか,VMS30E/2用の針がいいのかわかりません。わかりませんが,私の知るところでは,VMS20mk2とVMS20Eの違いはそれ程なく,実際デンマーク本社のサイトでは交換針に互換性があると書かれているほどです。

 よく分かりませんが,実際にVMS30mk2にD30E/2を使っている人のサイトも見つけましたし,常識的に考えてD30E/2を買うべきでしょう。5500円です。

 もう1つ,ME97HE用の針として,N97HEも買ってみました。実はME97HEの交換針は未だに見つかっていません。そこで,入手の容易なM97HE用の針を試してみることにしたわけです。

 結果ですが,どちらも音は出ます。

 ですが,VMS30mk2は,出力レベルが上昇し,歪みが増えました。歪みがトラッキングエラーによるものなのか,それとも出力レベルが大きくなったからかはわかりませんが,すり減った昔の針では発生しませんし,他のカートリッジでも発生しません。高域が良く出るようになったので,歪みが出にくい外周では,結構面白いかも知れません。

 そういえば,このカートリッジを買った当時も同じような印象を持ったなと思い出しました。VMS20用の針ならこんな事もなかったのかも知れませんが,今さらもう1つ買う気にもならず,これはこれで済ませます。

 もう1つ,ME97HEは,これは完璧です。以前の針がまだ使えるので,交換はもう少し先ですが,形状がV15typeIVと彷彿とさせる交換針なので,ME97HEが随分と大げさな外観になっています。

 両方とも作りは申し訳ないですが,ちゃちです。でも,しっかり音が出ていますし,評判もいいお店のようなので,私はこれからはここを使うことにします。


(3)300Bパワーアンプの問題
 友人とレコードを聴いていたのですが,どうも音が悪い。とにかく全然だめなのです。こんなに悪かったかなと思うほどの悪さです。

 スピーカの置き場所を少しずらしてみたのですが,この時ケーブルの逆接続でもやったかなと心配になり,確認しましたがそんなこともない。

 しかしどうもおかしいと思ってもう一度調べてみると,アンプ側のケーブルが逆になっていました・・・これはショック。

 元に戻して音を出してみると,なるほど普通に聞こえます。

 それでも,やっぱりいい音とは言い難い音です。どうもしっくり来ません。

 そこで,トランジスタのアンプをならしてみると,これがいい音がするのです。さらに5998のプッシュプルアンプも試してみましたが,これもいい音がします。一発で分かるのは,300Bシングルの帯域の狭さです。特に高音がさっぱり出ていませんし,中域もザラザラとしていて,元気がありません。低域もポンポンいっていて,全然前に出てきません。

 仕方がないので,とりあえず5998のプッシュプルでその場をしのぎ,夜になってから300Bシングルの帯域の確認をしてみました。

 1W,1kHzで出力が-3dBになるのはなんと16kHzあたり。22kHzほど出ていた前回の測定に比べて,大幅に悪化しています。これはどこかがおかしいとしか思えません。

 あわてて中身を見てみると,初段の6J7のカソード抵抗にパラに入っている電解コンデンサの極性が,反対になっていました・・・

 11歳からハンダゴテを握って,電解コンデンサの極性を間違える(しかも左右両方)など,初めてのことです。落ち込みました・・・

 もとに戻して測定をすると,20kHzあたりまで伸びています。それでも22kHzには届きません。コンデンサが逆電圧で劣化した可能性も大きいのですが,深夜だったのでヒアリングは行っていません。

 せっかく高いコンデンサを奮発したのになあ・・・

 一応新しい一般品に交換してみましたが,やはり20kHzほどです。性能の改善がないということは,コンデンサが原因という線は少なそうです。

 こうなると,帯域不足や低域のポンポンといういう感じは,負帰還をかけるしかありません。せっかくの300Bですし,無帰還で使えるならそれが面白そうだと思っていましたが,このあたりが無帰還の限界だと悟ってしまえば,私は無帰還論者ではありませんので,負帰還をかけてみることを検討することになります。

 いろいろ見てみると,もとの特性が良いので,3dB程度のあっさりとした負帰還をかけている話が見受けられます。

 帯域で25kHzくらい,ダンピングファクターで4から5程度を目標にして,オーバーオールの負帰還を浅くかけてみようと思います。


 しかし,なかなか難しいものですね,オーディオは。誤配線や極性の間違いは論外として,それを音の聞こえ方で見つける事が出来るというのは,余程音が悪かったんでしょうね。

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