100円ショップのイヤホンが,電子ブロックのイヤホンとして使えるのか
- 2011/01/31 15:33
- カテゴリー:make:
先日,ある方からメールを頂戴しました。
お子さんのクリスマスプレゼントに電子ブロックをプレゼントしたが,クリスタルイヤホンをなくしてしまった。いろいろな実験で使うだけに困っているが,代わりに使えるものはないかと思案されているそうです。
100円ショップなどでイヤホンが売られていますが,電子ブロックに繋がるよう,配線の端っこをうまく加工すれば使えるものですか?という質問を頂いたわけですが,自己解決されたということで,お返事を躊躇していました。
ただ,どうして使えないのか,どうすれば使えるのかと言うお話はなかなか興味深く,イヤホンをなくしたことをきっかけに,そのお子さんが「知る」きっかけになれば,大変良いのではないかと思って,ここに書こうと考えた次第です。
結論からいうと,100円ショップで売られているイヤホンは,電子ブロックでは使えません。
まず最初に,イヤホンの種類について整理します。
イヤホンには,大きく分けて,磁力を使ったものと,圧電効果を使ったものがあります。
磁力を使ったものは,マグネチックイヤホンや,ダイナミックイヤホンと呼ばれるものが属します。ウォークマンやiPodなどで使われるのがダイナミック型,ラジオのイヤホンとして売られているものは,マグネチック型が主流です。
ダイナミック型は,電磁石に薄いフィルムを貼り付けておき,コイルの内側には永久磁石を置いておきます。
コイルに音声振動が流れて電磁石になると,そこから出る磁力と永久磁石の磁力とが引かれたり反発したりして,コイルが動きます。これがフィルムを振動させて,音にします。スピーカと同じ仕組みです。
マグネチック型はダイナミック型とは似て非なるもので,コイルの内側に磁石を置くところまで同じです。
そして,その磁石の近くに鉄の薄い板を置いておきます。磁石からの磁力が鉄板を引っ張っている状態が続くのですが,この状態でコイルに音声信号が流れると,コイルの磁力と磁石の磁力があわさって,鉄板を引きつける力に変化が生まれます。
この結果,鉄板が振動し,音が発生します。
この2つは,原理は異なるものの,コイルに電流を流すことから,電圧と電流が必要です。電圧と電流の積は電力ですので,このイヤホンを動かすには,電力が必要になるということになります。
その代わり,音が大きく,音質も良いものが得られ,小さく作ることも可能です。だから現在主流になっているのですね。
さて,圧電効果を使ったものについては,クリスタルイヤホンが該当しますが,現在は作られていないはずで,セラミックイヤホンがこれに代わっています。
クリスタルイヤホンというのはその名の通り,結晶を使ったイヤホンです。有名なものはロッシェル塩の結晶を使ったもので,出力が大きく音質もよいのですが,湿気を嫌い,吸湿すると性能が落ちるため,現在は使われていません。
そこで現在は,同じような性質を持つセラミックを使っています。これがセラミックイヤホンで,クリスタルイヤホンに比べて音も小さく,音質もあまり良くないのですが,同じようなものとして扱って構いません。
ある種の物質には,電圧を加えると変形し,また変形させると電圧を発生させる性質を持つものがあります。この性質を圧電効果といいます。
圧電効果を示す物質にはいろいろありますが,特に強力なものはロッシェル塩の結晶や,チタン酸バリウム,チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)といったセラミックがあります。
これらは高い誘電率を持つ不導体であり,電流は流れません。つまり変形はあくまで電圧がかかることで起きる現象です。(詳しい理由は難しいので割愛します)
これらにフィルムを取り付け,音声信号を加えると,その信号に応じて結晶が変形します。この変形がフィルムを振動させて,音が発生します。
先程書いたように,圧電効果は結晶を変形させると電圧が発生するので,セラミックイヤホンにむかってしゃべると,音に応じた電圧が発生します。つまりマイクロフォンになるのです。
先程書いたように,結晶そのものは不導体ですので,電流は流れません。電力が電圧と電流の積なら,セラミックイヤホンは,ほどんど電力を消費しないことになります。
ただ,圧電効果の高いセラミックは誘電率が高く,容量の大きなコンデンサになる傾向があります。コンデンサは電気をためる性質があるので,音声信号として電圧が加われば,コンデンサを充電するのにいくらかの電流は流れます。しかしたまっているだけで消費されるのではありませんから,消費電力はほとんどゼロといってよいのです。
こうして,非常に小さい電力しか消費しない発音体という利点を生かし,例えば腕時計のアラームに使われる圧電ブザーや,電源を持たないゲルマラジオに不可欠なイヤホンとして,使われています。
しかし,物質の変形を利用する以上,大きな変形を作る事は難しいですから,大音量を作る事も,広い周波数を再生する高音質な音を出すことも苦手です。また,大きな音を出すためには高い電圧をかけねばならず,これが欠点といえるでしょう。
さて,電子ブロックです。
電子ブロックは,基本的な電子回路の実験が出来るものですが,ダイナミック型やマグネチック型といった,電力を必要とするイヤホンが駆動出来るような増幅回路を構成するだけの部品が用意されていません。
そもそも,そうした複雑な増幅器を組み立てるのは,電子ブロックの主旨から外れます。電子ブロックは,簡単な電子回路を実際に組み立てて,その動作を原理を学ぶためのものです。
電子ブロックに用意されている小信号用トランジスタが1つ2つで可能な増幅回路は,せいぜい電圧増幅回路です。電流を供給する回路を作るのは難しく,自ずとイヤホンは電圧だけで駆動できるもの,つまりセラミックイヤホンを使う事になります。
また,前述の通りセラミックイヤホンは,セラミックマイクにもなります。カラオケのマイクや携帯電話のマイクに使われるエレクトレットコンデンサマイクや,ダイナミック型のマイクと違い,出力電圧が大きく,マイク用に特別なアンプもひつようなく,電子ブロックの実験にはもってこいです。
こうしたことから,電子ブロックにはセラミックイヤホンが使われています。
それでは,100円ショップなどで手軽に入手できるダイナミック型やマグネチック型のイヤホンを,電子ブロックでならすにはどうすればよいでしょうか。
先程書いたように,電子ブロックの部品では電力増幅器を作る事は出来ません。だから素直に考えると「方法はない」が正解です。
しかし,実は電子ブロックには,電力増幅器がこっそり用意されているのです。
本体の右上にスピーカがついていますが,これはICアンプと呼ばれるモジュールです。このスピーカはダイナミック型ですので,電力増幅器がなければ駆動できません。
当然,電子ブロックの部品ではとても駆動できるものではないので,このユニットの中に,LM386という定番のパワーアンプICを使った電力増幅器を内蔵し,音声信号を入れればスピーカから音が出るようにしてあります。
この,スピーカの代わりにダイナミック型やマグネチック型のイヤホンを接続すれば,十分駆動することができます。そのためには分解が必要になりますし,復刻版の場合はオリジナルと違ってICアンプの部分だけ本体から外れるようにはなっていませんので,こんな実験を行ったら,まず間違いなく壊してしまうでしょう。
というわけで,ちょっと詳しくセラミックイヤホンの話を書いてみました。
ほとんど目にすることはなくなったとはいえ,このイヤホンの代わりになるものは存在しません。今でもゲルマラジオを作るにはこれが不可欠です。もっとも,ゲルマラジオが実用品であるわけではなく,我々に身近なイヤホンでないことは間違いないでしょう。
ですが,こういう種類のイヤホンが世の中にはあって,電気をほとんど消費しないのだという事を知っておくと,知識の幅は広がることと思います。
貴重なセラミックイヤホンですので,安易に分解してみろとは言いませんが,もし分解すると機械的に動く部分はほとんどなく,コイルも磁石も見当たりません。これで本当に音が出るのかと不思議な気分になることと思います。もし機会があったら,見てみて下さい。