PD-D9を買いました
- 2008/03/28 13:49
- カテゴリー:散財
最近SACDのソフトが今ひとつ増えない中で,プレーヤは国内メーカーから買いやすいものがいくつか出てきて,注目度もやや上がっているようです。(一方でPS3がSACDを再生できなくなっているのが対照的ですが)
2002年にSCD-XB9を格安で手に入れて,SACDの面白さを知った私は,同じタイトルならSACDを選ぶようになったわけですが,残念なことにSCD-XB9の調子が昨年から今ひとつで,サーボがかからなくなっています。
光ディスクドライブの寿命は,このサーボがかからない,にあると思ってまして,根本原因が部品の劣化かから来る物が多いことを考えても,もう買い換えが必要かなと思っていました。
とはいえ,SONYの安価な奴は買いたくないし,かといってmarantzの高級品を買うのも抵抗があるし出,評判のいい,お手頃な製品が出てくることを待ちわびていました。
そこへ出てきたのがPioneerのPD-D6/PD-D9,YAMAHAのCD-S2000です。
特にPD-D6は低価格な割に評判が良く,コストパフォーマンスが高いことで知られているわけですが,これと部品を共通にしたPD-D9に私の興味はあり,価格的にはちょっと開きがあるCD-S2000と迷っていました。
CD-S2000は今時珍しいサイドウッドもついている,非常にクラシカルなデザインで私好み。一通りの操作が本体でできることも好都合ですし,光ディスクドライブで一時代を築いたYAMAHAの製品ですので,きっと所有欲も満たされることでしょう。
一方のPD-D9は奇抜なデザイン。CD-S2000にあるバランス出力もなく,外側はあくまで「普通のCDプレイヤー」を装っています。リモコンがないと使えないことや,非常に見にくいLCDディスプレイにはかなり抵抗がありますが,138000円の商品とは思えないような作り手のこだわりや情熱を感じました。
1つに,DAコンバータにWM8741を採用したこと。Wolfsonはイギリスのファブレスメーカーですが,その音質には定評があり,今はTIの一部門となったBurrBrownと双璧をなす,オーディオ用DAコンバータメーカーの雄です。
そのWolfsonが,次の世代を担うフラッグシップとして作り上げたのがWM8741です。設計者自ら「DAコンバータのF1」と称するこのWM8741を,なぜあえてPioneerは使おうと考えたのか。下位機種のPD-D6にはBurrBrownのものが使われているのに,PD-D9に使った理由はなんなのか。
次にサンプルレートコンバータを搭載したこと。DAコンバータに送り込まれるデータが時間軸上で揺らいでいると,それは波形の崩れを引き起こし,歪みとして我々に届きます。この揺らぎをジッタといいますが,対策する方法の1つに,サンプルレートコンバータを使うというのがあります。
本来サンプルレートコンバータは,文字通りサンプリング周波数を変換するものなのですが,入力と出力の間のクロックが非同期であることを利用し,入力にジッタを含むデータを,出力側のクロックに精度を高めることで,出力データのジッタを減らすことが出来るという仕組みです。
こうした意図でサンプルレートコンバータを導入する高級DAコンバータも世の中にあり,ジッタを減らすことの大きな成果を上げていますが,このクラスの国産機で,積極的にサンプルレートコンバータを利用しようというのは,なかなか興味深いです。
実は,私も自作DAコンバータのジッタ対策に,非同期型のデータバッファを作ろうと基礎検討を始めたことがあるのですが,その時は結局断念でしてしまいました。
WM8741とサンプルレートコンバータの搭載,そして定評ある光学ドライブメーカーとして知られるPioneerが内製するメカデッキと,この値段にしては随分と志が高いように思われました。
20kHz以上を擬似的に作るレガートリンクPROは極めて懐疑的ですが,もし当たれば結構なことです。11kgという重量級の筐体,隅々まで意識されたパーツと回路構成,air studioのエンジニアも参加したチューニングと,目指す方向に向けて何をなすべきか,月並みなものではありますが,きちんとこなしていることにも,共感しました。
そう考えて,多少の不便さには目をつぶり,PD-D9を購入しました。
まず最初に結論ですが,これは買って良かったと思います。
非常に上品で粒の細かい音がしますが,音像はぼやけず,しっかりと定位します。特に男性ボーカルが秀逸です。派手ではありませんが決して丸い音ではなく,小さな音を粗末にしていないところが私好みです。
また,定位感も良いようで,多少左右に動いたくらいでは音像に影響が出てきません。それとSACDもCDも同じ傾向にあることも結構ありがたい話で,ハイブリッドのディスクをSACDとCDとで聞き比べて,その傾向や方向性が共通することは安心感もあります。
ドライブメカの安定感は評判通りです。実際の所どうだかわかりませんが,剛性の高さ,動作音,トレイの飛び出し方や引っ込み方,動作時の振動など,確実にディスクをトレースしているという安心感が感じられます。
レガートリンクPROは,これは全然ダメだと思いました。シャープさがなくなり,音像がぼやけます。それだけならいいのですが,せっかくの定位感まで犠牲にして,特に小さい音の消え方が曖昧になり,まるで曇ったガラス越しに見ているようなもどかしさがあります。これは常時OFFに決定です。
自作のDAコンバータとの比較ですが,自作のDAコンバータは解像度重視です。高音域でやや歪みっぽい印象がありますが,小さな音を再現する力は負けずとも劣らずですし,誇張もせずすべての音を全部出そうとする傾向があります。モニター向けという感じですかね。
一方のPD-D9ですが,これはまろやかです。自作のDAコンバータに比べておとなしく,きめの細やかな印象がありますが,小さな粒々が見えるほどの解像感はありません。ただ,一歩下がって全体のバランスを俯瞰し,心地よさはどちらが上かと聞かれれば,これはPD-D9に軍配が上がるように思います。
最初,PD-D9はSACD専用かな,と思っていたのですが,購入して2週間近く経過し,現在はすっかりCDもPD-D9のオーディオ出力で楽しむようになりました。
まだはっきりしないのですが,自作DAコンバータの鋭角な感じを,300Bシングルのアンプがいい具合に劣化させて,それで聞きやすくなっていたのかも知れません。PD-D9で5998プッシュプルや,MOS-FETのアンプをならしてみると,どれも結構しっかりなってくれるんですね。むしろ,5998プッシュプルのエネルギー感が圧倒的で,自作DAコンバータでは聴いてられなかったこれらのアンプが,ここまで変わってくるとはちょっと意外でしたし,正直に言うと素直に認めたくないことでした。
最近,大量生産で同じ品質のものを安価に提供するシステムで,オーディオ製品を作ったり,またそれらを買って評価したりすることに,ちょっと疑問を感じるようになってきました。木製の手作り家具のように,1つ1つ違っていていいんじゃないか,年月と共に馴染んでいくのもいいんじゃないか,そんな風に思うようになってきました。
CDのようなディジタルオーディオは,大量生産と均質化に適した方式なんですが,そのおかげで我々は非常に高水準の音を安価に,また手軽に手に入れることが出来るようになりました。
それは大変結構なことで,そういう道は今後も突き詰めていく必要はあると思います。しかし,一方で単純な価格の高い低いとは別の価値を議論できる「手作りオーディオ」がもっと一般的になっていかなければならんのではないかと,そんな風に思いました。
今回,PD-D9のような優れた機器を10万円を切る価格で買えたことは,もちろん大量生産と均質化のたまものであるわけで,その点では先の話とは矛盾するのですが,やはり同じ事を小さいメーカーがやったら価格は30万円とかになってしまったはずで,そこはやっぱりPioneerが作るから,この値段に出来るんでしょう。
とはいえ,PD-D9だって100万台も200万台も売るような商品ではないでしょうから,その台数に見合うような手のかけ方をしてくれているはずです。台数と価格と手のかけ方のバランスを取ることは,実はPioneerやYAMAHAのような,量産も出来るオーディオメーカーだから持ちうるノウハウが生きているんだと思います。(ついでに言うと,エンジニアの良心が生きているメーカーであることも大事だと思います。)
そう考えると,こんな商品が今後またいつ出てくるかわかりませんし,少なくともSACDでは今が最初で最後の旬ではないかと,改めてそう感じます。とにかく,買って良かったと思う製品でした。