エントリー

2008年03月の記事は以下のとおりです。

PD-D9を買いました

  • 2008/03/28 13:49
  • カテゴリー:散財

 最近SACDのソフトが今ひとつ増えない中で,プレーヤは国内メーカーから買いやすいものがいくつか出てきて,注目度もやや上がっているようです。(一方でPS3がSACDを再生できなくなっているのが対照的ですが)

 2002年にSCD-XB9を格安で手に入れて,SACDの面白さを知った私は,同じタイトルならSACDを選ぶようになったわけですが,残念なことにSCD-XB9の調子が昨年から今ひとつで,サーボがかからなくなっています。

 光ディスクドライブの寿命は,このサーボがかからない,にあると思ってまして,根本原因が部品の劣化かから来る物が多いことを考えても,もう買い換えが必要かなと思っていました。

 とはいえ,SONYの安価な奴は買いたくないし,かといってmarantzの高級品を買うのも抵抗があるし出,評判のいい,お手頃な製品が出てくることを待ちわびていました。

 そこへ出てきたのがPioneerのPD-D6/PD-D9,YAMAHAのCD-S2000です。

 特にPD-D6は低価格な割に評判が良く,コストパフォーマンスが高いことで知られているわけですが,これと部品を共通にしたPD-D9に私の興味はあり,価格的にはちょっと開きがあるCD-S2000と迷っていました。

 CD-S2000は今時珍しいサイドウッドもついている,非常にクラシカルなデザインで私好み。一通りの操作が本体でできることも好都合ですし,光ディスクドライブで一時代を築いたYAMAHAの製品ですので,きっと所有欲も満たされることでしょう。

 一方のPD-D9は奇抜なデザイン。CD-S2000にあるバランス出力もなく,外側はあくまで「普通のCDプレイヤー」を装っています。リモコンがないと使えないことや,非常に見にくいLCDディスプレイにはかなり抵抗がありますが,138000円の商品とは思えないような作り手のこだわりや情熱を感じました。

 1つに,DAコンバータにWM8741を採用したこと。Wolfsonはイギリスのファブレスメーカーですが,その音質には定評があり,今はTIの一部門となったBurrBrownと双璧をなす,オーディオ用DAコンバータメーカーの雄です。

 そのWolfsonが,次の世代を担うフラッグシップとして作り上げたのがWM8741です。設計者自ら「DAコンバータのF1」と称するこのWM8741を,なぜあえてPioneerは使おうと考えたのか。下位機種のPD-D6にはBurrBrownのものが使われているのに,PD-D9に使った理由はなんなのか。

 次にサンプルレートコンバータを搭載したこと。DAコンバータに送り込まれるデータが時間軸上で揺らいでいると,それは波形の崩れを引き起こし,歪みとして我々に届きます。この揺らぎをジッタといいますが,対策する方法の1つに,サンプルレートコンバータを使うというのがあります。

 本来サンプルレートコンバータは,文字通りサンプリング周波数を変換するものなのですが,入力と出力の間のクロックが非同期であることを利用し,入力にジッタを含むデータを,出力側のクロックに精度を高めることで,出力データのジッタを減らすことが出来るという仕組みです。

 こうした意図でサンプルレートコンバータを導入する高級DAコンバータも世の中にあり,ジッタを減らすことの大きな成果を上げていますが,このクラスの国産機で,積極的にサンプルレートコンバータを利用しようというのは,なかなか興味深いです。

 実は,私も自作DAコンバータのジッタ対策に,非同期型のデータバッファを作ろうと基礎検討を始めたことがあるのですが,その時は結局断念でしてしまいました。

 WM8741とサンプルレートコンバータの搭載,そして定評ある光学ドライブメーカーとして知られるPioneerが内製するメカデッキと,この値段にしては随分と志が高いように思われました。

 20kHz以上を擬似的に作るレガートリンクPROは極めて懐疑的ですが,もし当たれば結構なことです。11kgという重量級の筐体,隅々まで意識されたパーツと回路構成,air studioのエンジニアも参加したチューニングと,目指す方向に向けて何をなすべきか,月並みなものではありますが,きちんとこなしていることにも,共感しました。

 そう考えて,多少の不便さには目をつぶり,PD-D9を購入しました。

 まず最初に結論ですが,これは買って良かったと思います。

 非常に上品で粒の細かい音がしますが,音像はぼやけず,しっかりと定位します。特に男性ボーカルが秀逸です。派手ではありませんが決して丸い音ではなく,小さな音を粗末にしていないところが私好みです。


 また,定位感も良いようで,多少左右に動いたくらいでは音像に影響が出てきません。それとSACDもCDも同じ傾向にあることも結構ありがたい話で,ハイブリッドのディスクをSACDとCDとで聞き比べて,その傾向や方向性が共通することは安心感もあります。

 ドライブメカの安定感は評判通りです。実際の所どうだかわかりませんが,剛性の高さ,動作音,トレイの飛び出し方や引っ込み方,動作時の振動など,確実にディスクをトレースしているという安心感が感じられます。

 レガートリンクPROは,これは全然ダメだと思いました。シャープさがなくなり,音像がぼやけます。それだけならいいのですが,せっかくの定位感まで犠牲にして,特に小さい音の消え方が曖昧になり,まるで曇ったガラス越しに見ているようなもどかしさがあります。これは常時OFFに決定です。

 自作のDAコンバータとの比較ですが,自作のDAコンバータは解像度重視です。高音域でやや歪みっぽい印象がありますが,小さな音を再現する力は負けずとも劣らずですし,誇張もせずすべての音を全部出そうとする傾向があります。モニター向けという感じですかね。

 一方のPD-D9ですが,これはまろやかです。自作のDAコンバータに比べておとなしく,きめの細やかな印象がありますが,小さな粒々が見えるほどの解像感はありません。ただ,一歩下がって全体のバランスを俯瞰し,心地よさはどちらが上かと聞かれれば,これはPD-D9に軍配が上がるように思います。

 最初,PD-D9はSACD専用かな,と思っていたのですが,購入して2週間近く経過し,現在はすっかりCDもPD-D9のオーディオ出力で楽しむようになりました。

 まだはっきりしないのですが,自作DAコンバータの鋭角な感じを,300Bシングルのアンプがいい具合に劣化させて,それで聞きやすくなっていたのかも知れません。PD-D9で5998プッシュプルや,MOS-FETのアンプをならしてみると,どれも結構しっかりなってくれるんですね。むしろ,5998プッシュプルのエネルギー感が圧倒的で,自作DAコンバータでは聴いてられなかったこれらのアンプが,ここまで変わってくるとはちょっと意外でしたし,正直に言うと素直に認めたくないことでした。

 最近,大量生産で同じ品質のものを安価に提供するシステムで,オーディオ製品を作ったり,またそれらを買って評価したりすることに,ちょっと疑問を感じるようになってきました。木製の手作り家具のように,1つ1つ違っていていいんじゃないか,年月と共に馴染んでいくのもいいんじゃないか,そんな風に思うようになってきました。

 CDのようなディジタルオーディオは,大量生産と均質化に適した方式なんですが,そのおかげで我々は非常に高水準の音を安価に,また手軽に手に入れることが出来るようになりました。

 それは大変結構なことで,そういう道は今後も突き詰めていく必要はあると思います。しかし,一方で単純な価格の高い低いとは別の価値を議論できる「手作りオーディオ」がもっと一般的になっていかなければならんのではないかと,そんな風に思いました。

 今回,PD-D9のような優れた機器を10万円を切る価格で買えたことは,もちろん大量生産と均質化のたまものであるわけで,その点では先の話とは矛盾するのですが,やはり同じ事を小さいメーカーがやったら価格は30万円とかになってしまったはずで,そこはやっぱりPioneerが作るから,この値段に出来るんでしょう。

 とはいえ,PD-D9だって100万台も200万台も売るような商品ではないでしょうから,その台数に見合うような手のかけ方をしてくれているはずです。台数と価格と手のかけ方のバランスを取ることは,実はPioneerやYAMAHAのような,量産も出来るオーディオメーカーだから持ちうるノウハウが生きているんだと思います。(ついでに言うと,エンジニアの良心が生きているメーカーであることも大事だと思います。)

 そう考えると,こんな商品が今後またいつ出てくるかわかりませんし,少なくともSACDでは今が最初で最後の旬ではないかと,改めてそう感じます。とにかく,買って良かったと思う製品でした。

工作の時代

 「子供の科学」という雑誌,誠文堂新光社という長い歴史を持つ出版社が,戦前から高い志をもって作り続けてきた子供向けの科学雑誌です。残念なことに,最近は本屋さんでも見かけることが少なくなってきたように思います。

 1923年といいますからなんと大正12年の創刊,今年で実に85年もの間,子供達への科学への好奇心を満たし続けてきました。戦争中も,時局ゆえ戦争に偏った内容ではありましたが出版されていたようですし,科学に夢のあった戦後間もなくから高度経済成長期は言うに及ばず,1990年代のバブル崩壊後の科学雑誌廃刊の流れにも耐え,現在も昔と変わらぬテイストで列んでいます。

 考えてみると,「子供の科学」を読んで育った方の中には,すでになくなってくる方も少なくないはずで,その積み重ねられた時間の途方もなさに,ため息をついてしまいそうになります。

 個人的に思うのは,子供の頃に「子供の科学」に出会えたのか,それとも出会えなかったのか,そこが1つの分岐点であるように思います。それは今も昔も,きっと変わらないでしょう。

 私の場合,幸いなことに,小学生の時に出会うことが出来ました。大阪の交通科学館に行ったときのこと,公開されている図書室で偶然「子供の科学」を見たのです。普段本屋で見かけない科学雑誌でしたし,まるで手に取ることを拒むような地味な表紙に,なかば図書館専用の雑誌なんだろう,と思った(しかしそれはまったく的外れではないことも事実です)のですが,一緒にいた母親は,これが普通の本屋でも売っていること,非常に良い内容を持つ科学雑誌であることを私に話してくれました。

 私が驚いたのは,本格的な電子工作のページがあったことでした。電子ブロックがすべてだった私の電子工作の知識は,バラバラの部品を部品専門店で集め,ハンダ付けして組み立てるという新しい世界との接触によって,あっという間に旧世代のものとなったのです。

 母親は,私が「子供の科学」に触れたことに実に好意的で,その後毎月私の手元には「子供の科学」が届くようになりました。私も読み終えてから,あと1ヶ月も待たされるのかという,待ち遠しい気持ちでいっぱいになったことを覚えています。

 「子供の科学」は,総合的な自然科学の啓蒙書です。地学,生物学,化学,医学,物理学,電子工学とありとあらゆる分野を網羅しています。すべての漢字にはふりがながふってあり,読みやすい文章とわかりやすい図や写真で,子供の知識欲に応えます。

 工作のページは「子供の科学」の伝統ですが,子供がやってしまいがちな「そこらへんのものを適当に使って適当に作る」ということを極力排除し,「きちんとした道具を使ってきちんと作る」ということに,この雑誌で初めて触れた方も多いのではないかと思います。

 「子供の科学」は,それ自身が分岐点として機能します。科学としてくくられる,実に多くの分野を一度に(しかもどれも本格的に)見る事ができ,子供達はその中から自分の好きな物,得意なもの,面白そうなものを見つけて,その分野に自ら伸びようとするのです。その点で,「子供の科学」が扱う分野に偏りがあってはいけません。

 私の場合,電子工作に舵を切りましたから,その後「初歩のラジオ」を読むようになり,あげく現在の職業にたどり着くことになったわけですが,あらゆる可能性を内在したあの時に,他の分野に踏み出していたらどうなっていただろうか,とそんな風に思うことがあります。

 「子供の科学」はあくまで子供の雑誌であり,いずれ読者は離れ,そして次の読者がやってくることを短期間に繰り返します。同じ人が長く買い続ける雑誌とは違い,読んでいる時間は短くとも,世代を越えて読まれてきた雑誌です。それ故,「子供の科学」に郷愁のような物を覚える人は幅広い年齢層に存在していて,みな一様に自らの分岐点を遠い目をしながら振り返るのです。

 なんでこんな話をするかといえば,ちょうど東京・銀座のINAXギャラリーで,「工作の時代展」というのが開催されていて,先日の土曜日友人と一緒に見てきたからです。副題が「子供の科学で大人になった」とあるように,これまでに「子供の科学」に掲載された工作記事を今作り直し,創意工夫で工作を楽しめたあの時代を振り返ろう,というものです。

 「子供の科学」という雑誌の功績を直接的に賛美するものではなく,「子供の科学」にあった工作のページに限定し,しかもそれを今わざわざ作ってみせて,出来上がったものを展示するというちょっとつかみ所のない催し物ですが,これは間接的に,「子供の科学」という雑誌の役割をおさらいするものであると思います。

 その工作の緻密で工夫に満ちていること。本格的な材料を駆使した物から,身の回りにあるものを利用したものまで,工作と言う言葉が示す範囲の広さを感じます。

 展示されている品目は少ない上に,対象を少なくとも40歳代以上としているため,若い人には今ひとつ楽しめないと思います。さすがの私も,直接知っているものにお目にかかることは出来ませんでした。

 ただ,うれしいと思ったのは,工作というものが,科学の根本の1つであると感じた事です。科学には,観察することも考察することも,実験することも大事です。そして実験には工作が少なからず必要です。実験が出来るように作られた実験セットを使って,出るべくして出る結果に満足することも否定はしませんが,前人未踏の新しい発見には新しい実験が必須であるように,創意と工夫で工作することこそ,科学の醍醐味なんだと思います。

 「子供の科学」は,実は大人が読んでも十分に面白い雑誌としても知られています。子供に買うから,といいつつ,親が楽しみにしているという話は昔から聞きますし,まして年々進歩の速度が上がっている科学の分野を,平易な文章で理解できる手段は,実のところそう多くはありません。

 手に入りにくくなっているのが残念で,私も展示会に行く前に予習しておこうと,今月号の「子供の科学」を探してみましたが,今月号は付録がちょっと贅沢だったこともあり,どこも売り切れてしまっていました。

 しかし展示会では予想通り,今月号の「子供の科学」が売られていましたので,気恥ずかしさを押さえて買ってみました。

 実に面白いです。確かに,読み終わるのに時間はかかりません。あれ,こんなに簡単に読み終えてしまうのか,と思うほどあっけないのですが,それも子供が楽に読めるようなボリュームに調整されているのだとしたら,仕方がありません。

 しかし,その内容は実に多彩で面白いです。

 まず特集があります。そしてグラビアのページで昆虫や動物が紹介され,続いて外国の動植物やその土地の人々の暮らしがあり,工作のページがあります。

 読者の傑作写真,発明のページ,科学マンガと催し物情報,読者のページがあって,そして今でも続いている「紙飛行機」。

 基本的な構成としては,少なくとも25年前からなにも変わっていません。残念だったのは,泉弘志先生の電子工作のページがなくなっていること,増永清一先生のメカトロ工作がなくなっていること,でしょうか。それでも二宮康明先生の紙飛行機が今でも続いているのは,感動でした。

 いやー,「子供の科学」を買ってきたら,まずこの飛行機を作るわけですよ。木工用ボンドで作るんですが,乾くのを待てずに庭に出て,弟と飛ばすわけです。紙飛行機と言えば,ノートをちぎって折って作る物と思い込んでいた我々兄弟にとって,ボール紙に木工ボンドで作る競技用機の存在は,まさに新しい世界です。

 調整がきちんと出来ずに何度も落下を続けて壊れてしまったり,たまにうまく飛んでも近所の家の屋根にのってしまったりで,爽快な記憶は全くないのですが,同じ経験と記憶を,今の子供達もするのでしょうか。

 相変わらず「そうなのか!」と思うような興味深い記事がたくさんあり,私も来月から毎月買おうかと本気で思っているほどです。私が知らないだけだったのかも知れませんが,グランドピアノとアップライトピアノで,演奏出来る曲と出来ない曲があるという,楽器として決定的な差があることを,私は今回初めて知りました。

 身の回りにあるものはどんどん豊かになり,創意工夫などしなくても,すでに創意工夫済みの商品があふれかえっています。その便利な世の中に浸りきっている私のような大人にとって,原点を見つめ直す良い機会となりました。そして,いつまでもこの雑誌が,これまでと同じく,科学の真面目な面白さを伝え,やがて彼らに訪れる人生の岐路を照らす道案内になることを,期待してやみません。

 最近の子供達は,というくだりで今日の艦長日誌を締めくくることはしませんし,私には出来ません。今の子供達も,世にあふれる「もの」の中で,しっかり科学と工作への好奇心を持ってくれているようです。ただ,すぐに満たされる物欲のせいで,そうした好奇心に自ら気づきにくくなっているだけだろうと思います。

 子供の科学は,そうした機会の中でも,最も大きな存在であり,かつ貴重な存在である,と思います。

D-70完全復活への道

 先々週の土曜日から,D-70のオーバーホールをやっていました。

 考えてみるとD-70が登場したのが1991年,今年でもう17年にもなるんですね。この間のシンセサイザーの進歩って意外なほど少ないなあと思ったりするのですが,それでも17年です。毎週必ず持ち歩いていたシンセサイザーですので,もうガタガタです。

 しかし基本的に物持ちのいい私のことです。鍵盤をへし折ってしまったりタバコを落として焦がしてしまったり,ピッチベンダーのレバーを折ってしまうというような,定番の破損は全くありません。20年前に買ったD-20だって実家で健在です。

 ところが,D-70にはとても悔しい経年変化があります。

 キーの下側に付いているウェイトが剥がれてしまうのです。

 そう,単純に金属のおもりが外れてしまうだけなら良いのですが,D-70の場合はもっと致命的です。エポキシ系の接着剤で貼り付けてあるのですが,この接着剤が経年変化で溶け出して,まるで飴のようにウェイトと一緒に垂れてくるんです。

 この接着剤が非常にくせ者で,固まったり乾いたりしないので,いつの間にやらキーボードの下にたまっていたり,内部に広がったりしているのです。

 目に見える白鍵は言うに及ばず,隠れている黒鍵も同じように溶け出しているようで,ネバネバと粘度を持つこの接着剤のなれの果てが内部で他の部分とくっついて,私のD-70もいくつかの鍵盤が上がってきません。

 ほっとけばほっとくほど被害が広がり,白鍵のウェイトが4つまで剥がれ落ちた時,私は決意しました。何とかせねば・・・

 D-70はキーが外れやすいので,何度か自分で修理した事があります。分解そのものは慣れた物なのですが,76鍵ですのでそれなりに場所がなければ作業が進みません。

 まず裏返して,メイン基板とオーディオ基板,カードスロット基板を外します。その後キーボードユニットを外します。

ファイル 184-1.jpg

 キーボードユニットを固定しているネジは上部のフレームに4箇所,左右のプラスチックの部分に2箇所と,あの重さと衝撃を支えるにはどう考えても役不足だと思うのですが,冷静に考えるとキーボードは底板に多くの太いネジでしっかり固定されます。ということは,底板を取り付けずにねじったりすると,簡単に壊れてしまう構造なんですね。注意しなければ。

 せっかくなので基板の写真を撮っておきます。これはメイン基板です。

ファイル 184-2.jpg

 横幅がちょうどラックマウントケースにぴったりなので,このまま音源モジュールに出来るのではないかと思ったくらいなのですが,それなりの回路規模なようです。

 真ん中の四角いのがメインCPUで,インテルの80C196KBです。その右側に縦長にマウントされている3つのQFPがどうもSuperLA音源チップのようです。その下側にはエフェクト用のチップとDRAMがあります。さらに右側には波形を取り込んだROMがあります。全部がとは言えませんが,おそらく4MビットのROMですので,これが6つで24Mビット。ざっと3Mバイトの波形メモリです。

 CPUの上側にはおそらくMIDIインターフェースに関係すると思われるICがあります。その左側にはメインCPU用のメモリです。8ビットバスのROMを2つ使い16ビットバスに合わせています。

 変更のあったEPROMが2つとマスクROMが2つありますが,その下側に256kビットのSRAMが用意され,各種の不揮発データが格納されています。下側にあるコイン電池がバッテリバックアップを行っています。CR2032です。

 その左側にはメモリカードのインターフェース,下側にはおそらくキーボードインターフェースを司るICがあります。

 そうそう,基板の右上に白いケースに入った大きな部品がありますが,実はこれ,LCDのバックライト用のインバータです。D-70のLCDは東芝製のモジュールなのですが,バックライトが搭載されたものです。この時期の,このくらいの大きさのLCDに使われていたバックライトがELです。

 昨今の有機ELとは全く違うもので,こちらは無機ELです。輝度が低く,寿命も短いのですが,薄くて手軽だったこともあり,よく使われました。

 D-70は使用中に「チー」という音が耳障りなシンセサイザーなのですが,その音はこのインバータから出ています。困ったものです。

 こうしてみると,音源チップは多くが富士通製,マスクROMはシャープと東芝が供給しています。海外製の主要半導体はCPUと,アナログボードにあるDAコンバータくらいのものでしょうか。

 さて,修理作業です。まず最初に方針を立てるのですが,76個すべての鍵盤の接着剤を剥がして接着し直すのが一番いいのはわかるのですが,さすがにそれは大変です。しかし,いつ接着座卯が溶け出すかわかりません。

 そこで,鍵盤にシリコーン樹脂のコーキング剤を充填することにしました。ちょうどお風呂用のものが余っていたので,これでいきましょう。接着剤が溶けてしまっても,最悪外に出てくることは避けられるでしょう。

 そうと決まれば分解開始です。キーボードユニットからキーを取り外します。ユニットを裏返し,両面テープで接着された固定用のプラスチックを外して,キーを手前に少し引っ張れば「パチン」と外れてくれます。ステンレス製の板バネをなくさないように注意します。

 白鍵だけではなく黒鍵も同様に外れます。こうして76個すべてを取り外すのですが,予想以上に被害が大きいことに愕然とします。

ファイル 184-3.jpg

 これはある黒鍵の裏側なのですが,中からウェイトが出てきてしまっています。もちろん接着剤も外に溶け出していて,垂れています。おかげで鍵盤が上がってこず,しかも衝撃吸収用のフェルトもダメにしていました。基板にもついています。

 こうやって外れてしまっているものは完全に取り外して接着し直します。その上でコーキング剤を充填して乾くのを待ちます。

 何日か経過して確認すると,なかなか良い感じです。

 早速キーボードユニットを組み立てていきます。

ファイル 184-4.jpg

 あらかじめ接着剤が染みこんだフェルトを交換し,清掃を終えたフレームに,まず黒鍵を取り付けて,その後白鍵を取り付けていきます。これを延々繰り返し,76鍵全部取り付けたら,先程外した固定用のプラスチックを両面テープで貼り付けて完成です。

 これで修理完了と喜んで組み立てていきましたが,キーボードユニットを左右のプラスチックにネジ止めするときに,ネジロック剤を使ったところ,プラスチックが溶けて折れてしまいました。

 ポリパテと瞬間接着剤で修理・補強して再度組み立て。しかし,一部に音が出ないキーがあります。

 うーん,困った・・・そんなことを言っていても始まりませんので検討開始です。8個飛びに音のでないキーがありますので,これをヒントに調べていくと,キースイッチのフレキシブル基板のパターンが切れてしまっていました。接着剤が垂れてたまっていた部分が切れていたので,非常に深刻です。

ファイル 184-5.jpg

 わかりにくいですが,家にあるねずみ色のゴムがキースイッチです。カップの内部には,前後に2つの導電ゴムがあり,しかも奥側ゴムが手前側のゴムより下に飛び出ています。

 このカップを上から押すと,その押す速度の違いが奥と手前の接点がそれぞれ導通する時間差となります。こうして鍵盤の叩く強さを検出するのです。

 その下にあるのが,おそらく2素子内蔵のダイオードで,エポキシ樹脂で固めてあります。なぜこのダイオード必要なのか,面倒なので考えていませんが,配線本数を減らしていることには間違いないと思います。

 今回切れたパターンを修復するために,エポキシ樹脂を削ってダイオードの足を露出させ,細い線を直接ハンダ付けしました。裏側のコネクタにハンダ付けして,一応修理は出来ました。試してみると,一応すべてのキーで音は出ます。

 今度こそと組み上げてみますが,今度は1つだけ音が出ない部分があります。キーを取り外して直接ゴムキーを押せば音が出るので,どうもキーの組み付けがまずかったようです。

 なんどかそうした調整を繰り返し,とりあえず完成。やや不安があるのは仕方がありませんが,鍵盤が壊れたシンセサイザーはもう捨てるしかないので,直ってよかったです。

 そして最後に,バッテリバックアップの電池を交換して終了です。

 何年かぶりにD-70を演奏してみましたが,今にして思うとかなり個性的なシンセサイザーです。相変わらず細かい泡のようなJP-STRINGSは秀逸ですし,いかにもLA音源というベルやチャイムの音も健在。

 U-20の上位機種として生まれながらも,マーケティング上の問題からDシリーズの頂点となった異端児D-70は,特に歴史刻まれることなく忘れ去られた機種の1つではありますが,私にとってはやはり思い出深いシンセサイザーで,何が何でも修理しなければと言う重いも強くありました。

 シンセサイザーを維持するのは,自分でメンテが出来るか,もしくはメンテできる人を確保できるか,そのいずれかの能力を持つ人しか基本的には許されません。少なくとも自分が持っているシンセサイザーについては,きちんと修理が出来るようになっておこうと,そんな風に思います。

 ちなみに,これをきっかけに他の音源モジュールのバックアップ用バッテリも交換しておきました。

 VintageKeysPlusは,BR2320というちょっと変わった電池が使われていましたが,無理矢理CR2032を取り付けました。D4はタブ付きのバッテリが直接ハンダ付けされていたので,これを取り外してソケットを取り付け,CR2032をはめ込みました。

 A-880とMatrix1000はCR2032に交換するだけです。これでもう5年は安心です。

 残念なのは,エフェクタのSE-50の電池が切れていて,メモリが吹っ飛んでいたことでしょうか。まあ,ノイズまみれのエフェクタですので,余り出番はありませんから,これはこれでいいとしましょうか・・・

 あとは実家のシンセサイザーをどうするか,ですね。もう電池が切れているだろうなあ。

KAOSSILATORは新しい発明なのか

  • 2008/03/17 19:33
  • カテゴリー:散財

 KAOSSILATOR,買いました。

 かおしれーた?顔がどうしたって?,と言われてしまったくらいマイナーなものではありますが,なにやら楽器に縁遠かった人たちをも巻き込んでちょっとしたブームになっているようです。

 コルグは世界でも知られたシンセサイザーの老舗ですが,御三家の他社と違い,なかなか遊び心が豊かな会社のようです。80年代中頃の名機M1を頂点とする「優等生」なコルグ以前には,MS-10やPS-3100,MONOPOLYやPOLY-SIXといったやんちゃなコルグがあったわけですが,今世紀に入ってからは再びやんちゃなコルグが戻ってきたかのような印象があり,そこがまたコルグという会社の好き嫌いを分けているように思います。

 私はダンスミュージックやDJを自らのフィールドとしている人ではないので,この種のイクイップメンツにはとんと疎いのですが,どうもKAOSS-PADが先にあるようなんですね。これはサンプラーとかエフェクターをタッチパッドで操作するというもので,複雑な装置を操作する,訓練の必要な楽器演奏をマスターする,という敷居の高さを解決し,同時に直感的な操作と偶然性に期待をするという,一石二鳥なものらしいです。

 これはこれで1つのジャンルとなっているようですが,このユーザーインターフェースをシンセサイザーに応用したのがKAOSSILATOR,なんでしょうね。(ひょっとしたらタッチパッドを搭載した普通のシンセサイザーがすでに存在していて,それを切り出したものなのかも知れませんが,正直なところ私にはわかりません)

 それはともかく,ニッチな商品であることには違いがないのですが,このKAOSSILATOR,昨年末に登場して以来品薄で,なかなか手に入らないようなのです。

 まず,非常に面白いこと。そしてその面白さがあちこちのblogに取り上げられ,さらにはITmediaやImpressのサイトに取り上げられて,どんどん人気が出て行った感じです。

 極めつけが日経エレクトロニクスのユーザーインターフェースの特集でどどーんと紹介されたこと。普段電子楽器やDJに興味のないエンジニアやその上司の皆さんにまで知れ渡るに至り,とりあえず「なんだかわからんがすごいらしい」と評判になっているようです。

 価格は2万円と,この種の楽器としては安いのか高いのかわからん微妙なところです。シンセサイザーといえばもっと高価な物と思われがちですが,実際の所5,6万円でも十分ステージプレイに耐えられるものがあるわけですし,その大きさや鍵盤のコストを考えると,KAOSSILATORの2万円は,私としては高いなあという印象です。

 とはいえ,この手の物は買って試すしかありません。面白そうに思えても,コルグの製品には近寄りがたい物が常にあり,こんなことでもないとなかなか購入にまで至らないものなので,探してみることにしました。

 しかし,やっぱりないんですね,どこも在庫が。1月に予約しても3月になるとか,そんな状態だったのでほとんど忘れていたんですが,先日の木曜日,偶然アキバのヨドバシのガラスケースに収まっているのを発見して,衝動買いしてしまいました。

 「帰りの電車で乗り過ごした」などと評判なKAOSSILATORですので,中毒性があるのだろうと覚悟を決めて,帰宅してから電源を入れてみます。

 そして30分後に出来たのが,これです。

ファイル 183-1.mp3

 まったく初めて触る人間が30分でここまで出来るわけですから,確かに面白いといえば面白いです。もっとうまく作ることが出来る人はいくらでもいるでしょう。

 それで,このお休みにいろいろ触ってみた感想ですが,結論だけ言えば,これはそれほどおもしろいもんでもない,という感じです。

・あまりにチャチ
 ダンスミュージックやDJの人々はこれがいいというのかも知れませんが,私は2万円もする製品でこんなにチャチで質感のないものが日本の店頭に並ぶとは思っても見ませんでした。
 電池ブタに隙間があるとか,RCAピンジャックが曲がって付いているとか,工業製品としてすでに破綻しているとしか思えません。9800円がいいところ,NintendoDSなんかと比較すると,5800円でもいいかなと思うほどです。

・割り切りすぎ
 コルグの人もいろいろいってますが,はっきりいって割り切りすぎです。2小節しか録音できないレコーダー,3桁の7セグメントLEDが表示のすべて,紙っぺら1枚の説明書,そして激しいノイズと薄い音。ユーザーインターフェースが売りの商品なのに,演奏以外のユーザーインターフェースが絶望的にわかりにくく,音にこだわったといいつつオーディオ機器の水準すら満たしていない作りの甘さには,非常にがっかりしました。

・電池がすぐになくなる
 単3電池4本で5時間という電池寿命を長いと見るか短いと見るかは人それぞれですが,底面がほんのり暖かいというのは,この手の機器には許されないんではないかと思います。しっかり低消費電力設計をやらんかい。

・曲を保存できない
 作った曲を保存できません。電源を切るとあっさり消えてしまいます。2小節のレコーダーですので,作ってるときはグルグル頭の中を回ってるわけですよ,曲が。でも,しばらくすると忘れてしまい,何だっけなあと気になって聞き返したくなるものです。しかし電源を切った後ではそうも行かず,「失ってわかる」ある種のフラストレーションに悶々とするのです。SDカードスロットを付ける,不揮発メモリに残しておく,くらいのことは出来たんではないかと思います。

・設定も消える
 不揮発メモリやSRAMが安い昨今,せめて設定くらいは残しておいて欲しかったです。

・MIDIが壊滅
 実際,MIDIで他と繋がる仕組みにかかるお金は大したことないのですが,ここも割り切ったんでしょうね。個人的には,音源としては使い物にならないのでMIDI-INはいりませんが,インターフェースとしてのタッチパッドが他の音源を操作できたら面白いと思うので,MIDI-OUTだけあればいいと思いました。

・アルペジエータが絶望的
 普通アルペジエータといえば,分散和音を作る装置を言いますわね。和音を押さえればそれが時間的にずれて発音されることを期待するわけですが,このアルペジエータはゲートアルペジエータと言うだけあって,和音ではなく単一の音が時間的に細切れにされて発音されるだけです。まあ,正直これでは使う気にはなりません。

・シーケンサと違うがな
 誰もシーケンサとはいってないのですが,テンポを変更しても,録音済みのトラックには反映されません。これにはつくづくがっかりしました。

・パッドの精度がさっぱり
 後述しますが,KAOSSILATORはタッチパッドという無限音階の入力インターフェースにスケールを実装し,指でなぞればそのスケールで音を出してくれるというありがたい機能が最大の売りです。しかしそのパッドの精度が今ひとつで,慣れもあるんでしょうがなかなか思い通りにはなってくれません。

・やりたいことができない
 例えば,こんな感じの曲を作ろう,という感じで頭の中でなってる曲があるとします。しかしKAOSSILATORに入っている素材は必ずしもそれを再現できる材料にはなりません。

・コードが蚊帳の外
 これがもう致命的。リズムとスケールが機械任せに出来るメリットがここまでシンセサイザーを面白くしたのに,コードに関しては全くケアされていないのです。まあ,ここにコードを扱えるようにしてしまうと途端に難易度が上がってしまうこともわかりますし,それがDJやダンスミュージックに必要とされていないこともなんとなくわかりますが,ここでコードチェンジをしたい,とか,こういうコードを使っていこうとか考え及ぶ人にとって,猛烈なフラストレーションがたまります。


 とまあ書き並べましたが,おそらくこれだけ人気の出た機種ですので,続編があるでしょう。KAOSSILATOR2では特にコードとアルペジエータに関して強化されることを期待したいです。この際素材が云々は,ダンスミュージックのツールと割り切っているので贅沢は言いません。

 なにせ,KAOSSILATORの優れたところは,タッチパッドを入力デバイスにするために,スケールを割り当てて無段階に音が変化しないようにしてあることです。これは確かに新しい楽器の出現といっていいかもしれません。

 本来無段階に変化する弦楽器にフレットを取り付けてスケールを割り当てることで,ギターは和音の演奏が楽になったり初心者でも取っつきやすくなったりしたわけです。鍵盤楽器などは最初から無段階に音を変化させることが出来ませんから,最初から何らかのスケールに沿って音が区切られています。

 ただ,この楽器のスケールは最大公約数的なものであり,1オクターブに存在する12の音からいくつかを選んで演奏する必要があるわけです。演奏に使うスケールを体と頭で覚えることでとりあえず外さないソロを取ることが可能になりますが,なかなかそれが難しいものです。

 KAOSSILATORのすごいところは,誰でもなぞれるタッチパッドに覚えることが難しい多彩なスケールを割り当て,とりあえずぐりぐりパッドをいじるだけで,外さないソロが演奏できてしまうことにあります。

 さらに横方向に音の高低と,縦方向にエフェクトや音色の変化を割り当ててあるので,指先1つで複雑な操作を(自由にというにはほど遠いが)したのと同じに出来るのです。同じ事をキーボードでやったりギターでやるのは,ちょっと大変だと思います。

 そして,これは音楽作成ツールではなく,ループを作る装置です。だから最大2小節しか録音できません。この2小節に半完成となっている素材を貼り付けて作り上げるのが,KAOSSILATORの醍醐味なんでしょうね。

 2小節しか録音できないことは,思わぬ利点を生みます。まず完成に持っていくのに時間がかからない。工夫をしようにも自ずと限界があるので,さっと遊べる気軽さがあります。

 しかも,どれも派手でキャッチーな音ばかり。パッドをいじって変化するバリエーションまで考えると,無数とも言える音が備わっていて,それらを一通り試す気も起きないほどです。

 こういうところから考えると,楽器の演奏が出来ない人でも,スケールの概念を理解できておらず,理解できていてもそれを楽器で演奏出来ない人でも,また複雑な機器の操作やPCの扱いを面倒と感じる人でも,さらにいうとダンスミュージックに関する抵抗を感じるような人でも,気軽に楽器演奏が楽しめるという絶対的な敷居の低さが,KAOSSILATORの最大の発明でしょう。

 そこにさらに偶然性を重ねて出来上がる物を第三者的に楽しむのもよし,万人にお勧めできるものではないと思いますが,まずは持っている人に使わせてもらって,自分のセンスにフィットするかどうかを試してみたらいかがかと思います。

 しかし,私もこれを使いこなせているとは到底思えません。きっと達人がいるんだろうなあ,この2小節をPCに取り込んで,DAWで加工しながら1曲のボリュームに仕上げるような人もいるんだろうなあと,そんな風に思ったりします。

 私は,もし機会があればですが,アンサンブルでソロをこいつで取れればなあと,そんな風に思います。

なんとかES2は直りました

 ES2,ようやく動作確認が取れました。

 修理そのものは少し前に終わっていたし,試し撮りも終わっていたのですが,現像するのが随分後になってしまい,確認できたのは昨日でした。

 寒さもあって,幕速が安定せず,1/1000秒で後幕が先幕に追いついてしまうという問題がそもそものスタートでした。その後,余計なオイルを拭き取るために分解したり,分解したせいで調整をやり直す部分が出てきたりと,大事になってしまいました。

 いくら頑張っても時間が経てば後幕が追いついてしまいますので,これはもう考え方をかえようと思いました。幕速測定器を使って調整をしていましたが,これを基準に合わせると,どうも数日で狂ってしまうのです。

 幕速測定器を信用できないのか,それともES2を信用できないのかと言われれば,実はどっちも信用できないのです。もっとも,幕速測定器は他のカメラの調整にも使っているので,ある程度信用していますが,かといってES2側を徹底的に調整しても,返って調子が悪くなるだけのような気もしてきたのです。

 そこで,もう実力勝負で合わせることにしました。

 ある程度の目処は幕速測定器で合わせておくのですが,そこからの微調整はオシロスコープを使ったシャッタースピードの確認と,後幕が先幕に追いつかないことを交互に確認しながら進めます。

 そうすると,結構後幕のテンションを低くしても使い物になることが分かり始めるんですね。それを数日繰り返し,今年一番の冷え込みになった二晩を放置して,問題のないことを確認できました。

 露出計が1段ほどおかしいようにも思うのですが,どうせポジは使いませんし,どうしてもというなら露出補正で逃げればいいです。それにこのカメラは平均測光ですから,今のカメラと比べてもあまり意味がないのかも知れません。

 現像した結果ですが,おおむね大丈夫でした。オートではレンズの絞りを変えても一定の露出になってくれています。マニュアルにするとちょっとずれますが,オートの場合は無段階のシャッター速度が使えるので,結果に差が出ることは悪いことではありません。

 絞り込み測光でのオートが1段ほど狂うのですが,絞り込み測光はほとんど使いませんので,大目に見ます。

 どのコマも失敗がなく,期待以上の結果に満足です。なんとかなるものですね。

ファイル 182-1.jpg


 それで,気になっていたボディの歪みです。

 修理中に落下させてしまい,裏蓋が曲がってしまったのですが,もしボディが歪んでしまっていたなら,このカメラはもう捨てるしかありません。望遠系のレンズでピントが狂えば,ボディの歪みが考えられます。

 結果は問題なし。狙った被写体はもちろん,その左右の同じ距離にピントがきています。

 ということで,ES2はどうにかこうにか復活しました。こういうカメラですので,またどうせ悪くなると思います。ただ,その場合でもあまり大げさな事はせず,こういう感じで調整出来るとわかったので,ES2についてはボディの状態も考えて,カメラの優しい調整をしてあげようと思います。

 それにしても,ES2は手間のかかるカメラです。予備機を3台確保し,そのうち1台は調整すればすぐに使えそうなほど程度がいい(しかもクローム)ので,復活させることも考えたのですが,結果としてこんなに不安定なら,やらなくて正解でした。

 ES2といえば,私にとってはSMC-takumar28mm/F3.5です。このレンズとES2があるだけで,私にとっては十分楽しいのです。

ファイル 182-2.jpg

ページ移動

  • ページ
  • 1
  • 2

ユーティリティ

2008年03月

- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

過去ログ

Feed