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2010年08月の記事は以下のとおりです。

ZOOM H1を買いました

  • 2010/08/31 12:52
  • カテゴリー:散財

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 ZOOMのPCMレコーダ,H1を買いました。

 24bit/96KHzでの録音が可能なICレコーダとしては1万円を切る値段で話題になっていたもので,予約してあったものが先週末に届きました。

 なんといっても1万円ですからね,ちょっと本屋にいって気になる本を選ぶと合計で1万円近くになるのがざらだと考えると,この価格設定はかなり興味深いです。

 会議録音やお稽古事に使うICレコーダならもっと安いものもあるでしょうが,そこはエフェクタで定評あるZOOMの製品ですから,バンドの練習に使えたり,生録に耐える,素直な音での高音質録音が出来るようになっていることでしょう。そういうジャンルで1万円というのは,結構大したものだと思います。

 同軸上にマイクエレメントが置かれたX-Yマイクは70Hzあたりから可聴帯域をほぼフラットにカバーし,最大で24bit/96KHzのWAVフォーマットと,320kbpsまでのMP3での録音に対応,メモリカードはmicroSDで32GBまでサポートしていて,単三電池1本で10時間動作,USBバスパワーによる電源供給とマスストレージで直接PCにマウントと,およそ思いつく機能は盛り込まれています。

 これに加えて60gの軽量,小型,バックライト付きのLCD,小型モノラルスピーカを内蔵,三脚用のねじ穴を持っています。入出力は電源供給付きのマイクとライン入力兼用端子と,ヘッドフォンとライン出力の兼用端子があるだけです。デジタル入出力などはありません。

 特筆すべきは,その操作系です。設定をメニューから潜っていってLCDを見ながら操作するなどという面倒なことはなく,ほとんどがハードウェアによるスライドスイッチに割り当てられています。WAVとMP3ですら,スライドスイッチですからね。

 これはとても気に入りました。バタバタする録音の現場で,前回の設定から今回の設定に切り替えるのに,いちいち設定を潜って小さなLCDを見ながら操作するなど,とても面倒ですし間違いも起こります。

 数個のスイッチで全部設定できるなら,裏側にひっくりかえしてスイッチの位置を見ればいいだけですので,子供にだって操作できます。そうそう,これこれ,これがいいんですよ。

 確かに,脇腹の部分に押し心地の良くない押しボタンがいっぱい列んでいて,いちいち見ないと操作できないことには面倒な感じがあります。しかし,最重要機能である録音のボタンは中央に大きく配置され,その押し心地は抜群です。こだわったんだろうなあと思います。

 電源を入れると,microSDカードの認識が行われ,数秒間操作できません。感心したのは,その間がLCDのバックライトが点灯せず,録音可能な状態になってからバックライトが点灯するようになっていることです。

 操作できない間LCDの表示が全くないというならバックライトを点灯させる必要など全くないでしょうが,アクセス中を示す表示が行われているというのは,LCDを通じてユーザーに動作しない理由を説明したいわけであって,バックライトが点灯しないこととは矛盾するように感じます。

 しかし,バックライトが必要なる暗いところでは特に,アンバーのバックライトが点灯すると録音できるという印にすることで,ユーザーの操作はさらに直感的なものになるでしょう。一貫性も大事ですが,こういう機器からの意思表示も悪くありません。

 簡単に録音をしてみますと,なるほど,奥行き感は強く印象に残ります。こんなに手軽に空間的な音が録音できてしまったいいのかと思うほど,本当になにもしないで
高音質録音ができます。いろいろなことに使えそうです。

 気になったのは,ちょっとヒスノイズが多いことでしょうか。これは,録音側の問題なのか,ヘッドフォン出力の問題なのかわからず,録音データに入っているのかどうかも確かめていません。しかし,24bit/96kHzという従来フォーマットをはるかにしのぐ録音性能を持つ機器として,このノイズはどうなんだろうなと,ちょっと思いました。

 ・・・そういえば,どうしてこれを買ったのか,書いていませんでした。

 9月には毎年,東京Jazzというイベントが開かれます。有楽町の東京国際フォーラムで行われるJazzのライブイベントなのですが,今年も9月3,4,5日に行われます。

 世界のスーパースターが揃う大きなイベントがこんな近くで行われるのですから一度くらい行けばいいと思うのですが,人混みが苦手な引きこもりの私にはなかなかの苦行で,結局一度も足を運んだことがありません。

 そのかわり,NHK-FMが毎年中継してくれることを,楽しみにしています。

 ありがたいことに今年も生中継が予定されています。日曜日の朝11時から夜の11時まで,途中ニュースを挟んで12時間。金曜日や土曜日の様子も一部放送されるのだと思いますが,電波がオークションでやりとりされるこのご時世に,非圧縮アナログ放送のFM放送で12時間中継してくれるなんて,うるさい人が事実関係を知らないから可能になっているとしか思えない,とてもありがたいことだと思います。

 FM放送はそれなりに高音質なので,古くはDATで,ここ数回はMacで録音していましたが,どちらも連続録音時間に制約があるので,何回かにわけて録音をしないといけません。結局そばにいないとダメなわけで,楽しい反面,食事や風呂はどうするという問題に直面します。

 それでPCM録音可能なICレコーダを昨年あたりから物色していたのですが,デジタル入出力があるものを探すと高価になり,二の足を踏んでいました。

 うちにはちょっと高価なFMチューナがあって,これをDATのA-Dコンバータに繋いで,そのデータを録音するという仕組みを作りたかったからなのですが,1万円で24bit/96kHzが録再できるレコーダが1万円を切ると知り,もうそういうこだわりはやめたという次第です。

 FMチューナをライン入力でつないで,普通に録音しようとおもうわけですが,DATのA-Dコンバータは16bit/48kHzです。いかにSBMに対応しているとはいえ,24bit/96KHzのICレコーダのA-D変換能力がそんなに見劣りするようなものとは思えません。

 ファイルサイズの関係もあるので,無難にMP3で録音しようかと思っていますが,あと数日,いろいろ調べて本番に臨もうと思います。

Kindle3が届きました

  • 2010/08/30 17:32
  • カテゴリー:散財

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 Kindle3が届きました。

 早い人は金曜日に届いていたようですが,私は予約が2日ほど遅かったこともあり,きっちり2日遅れで手元に届きました。

 ご存じの方もいらっしゃるでしょうが,amazom.comは海外へはUPSを使っていますが,このUPSというのが,日本国内で土日の対応を原則的に行っていないのです。前回のKindleDXgの時には木曜日にUPSの不在票が入っており,土曜日の午後への再配達を行ってもらったのですが,土日の再配達はヤマトさんに委託するのです。

 一説では,東京23区内以外の地域はもともとUPSの配達員が直接サポートしない範囲なので,最初からヤマトさんに委託になるということで,某巨大掲示板では土曜日に届いたというレポートもたくさん上がっていました。

 私はこの春から23区内に住んでいるので,KindleDXgの時もUPSが持ってきてくれました。だから,土日の配達はあきらめていたのですが,ありがたいことに日曜日の朝に,ヤマトさんが持ってきてくれました。期待していなかっただけに,うれしかったです。

 箱を開けて,充電をして,電源を入れて,と言う流れは前回のDXgと同じですから,特別ワクワクすることもありません。しかし,DXgに比べて,随分と小さいなあ,軽いなあと言う印象が強烈で,これは完全に使い分けることが出来るだろうなという期待は膨らんでいきます。

 てことで,さくっとレビューです。

 前提ですが,私が購入したのはKindle3のWiFiモデルです。2つ目の購入で,すでにKindleDXgをFonthackで日本語対応にして使っています。

 読むのは文庫,新書,文芸書のたぐいで,全てScanSnapによる自炊です。ファイルはPDFで,文字だけのものは600dpiの白黒,写真がある場合などは300dpiのグレースケールで取り込んでいます。

(1)画面の見栄え

 Kindle3は従来よりもe-inkが改良されていて,コントラストが向上しているといいます。DXgと比べてみるとほとんど同じでしたので,同じ世代のものでしょう。


(2)日本語対応

 これが国内でのちょっとしたkindleブームを作ったといってもいいのですが,もともとKindleはUTF-8ですので,これが表示出来るフォントを入れてやりさえすれば,一応日本語を含む多言語化が可能です。JailbreakからFonthackを行うというのはまさにこのフォントの置き換えであり,私のDXgもこの方法で日本語化されていることは前述したとおりです。

 Kindleは,ファイルネームがタイトルとして一覧に表示されますが,Kindle3では丸ゴシック体による見やすい文字で,きちんとタイトルが表示されました。

 ただし,著者名については相変わらず日本語では空欄になります。DXgと同じようにアルファベットをメタデータに打ち込んでおけば,著者名が表示されるようになります。

 PDFの本文を表示させてみますと,これもDXgと同じようにフォントの埋め込みをしていないコンテンツは,日本語が全く表示されません。

 ということで,少なくともPDFを見るということに限って言えば,DXgにFonthackで日本語対応をしたものと同等であると言えそうです。

 なお,日本語のフォントはなかなか読みやすく,英文フォントとのバランスもよく考えられていて,好印象です。


(3)WEB

 日本語のWEBサイトを正しく表示出来るようになっていることを確認しました。私はあまり積極的に試していませんが,従来のkindleではUTF-8しか正しい表示にならなかった日本語表示が,EUCでもS-JISでも大丈夫だったという話です。これは,ブラウザがWebKitに変更されたことも大きいでしょうね。


(4)通信と接続

 私のモデルはWiFiです。早速自宅のWiFiに参加させてみました。対応しているのは11gで,暗号化はWEP,WPA,WPA2に対応しています。DHCPだけではなく固定IPでの運用も可能ですが,いつも面倒な設定は,キーボードがあるととても楽にできます。

 感度は低めになっているのですが,これはおそらく,消費電力を低減するために電波の出力を絞っているのではないでしょうか。

 WiFiに繋いでKindleStoreにいったり,Wikipediaを見たりしましたが,WebKitになったことも含めて,かなり快適です。DXgではブラウザが不安定でしたし,3Gは遅すぎて実用に耐えませんでした。

 もちろん,電源を切っても,WiFiの接続をメニューから切断しても,次回の接続時にはちゃんと前回のアクセスポイントにつなぎに言ってくれます。


(5)英辞郎

 私は英辞郎のVer1.2.2を購入して,自分でprcに変換して使っていますが,これを試しにKindle3に入れてみました。プライマリ辞書に設定してやると,英語の文書からサクサクと辞書がひけて,日本語で単語の意味が表示されました。これはいいですね。


(6)PDF表示の機能追加

 Kindle3では日本語対応したことに注目が集まりましたが,実は期待すべき機能追加が2つありました。1つはコントラストの調整機能,1つはnudgeスクロールです。

 コントラストの調整機能は,標準の前後に2段階ずつ,合計5段階で表示の濃さを調整するものです。DXgでは固定されていたものが可変になっただけでもありがたい機能なのですが,個人的にはあまり使い物にならないと感じました。

 というのは,ここを調整しても見やすくなる設定は1つだけだったからです。白黒600dpiの場合,A5くらいまでの大きさの本なら,文字が小さくなることに辛抱すればdarkerかdarkestにすれば問題なく読むことができます。darkestにすると文字も太くなるので,つぶれない限りは濃くする方が良いと思います。

 反対にlightやlightesは全然使い道が浮かびません。文字が細くなると言うより,黒がグレーになってしまい,非常に見にくくなってしまいます。コントラストと言うよりガンマの調整であって欲しいと考えていましたが,実際はそうではないようです。

 困ったのは300dpiのグレースケールです。これはA5サイズでも全然ダメで,文字として認識できないほどつぶれてしまいます。コントラストを調整しても読めるレベルにまで達しません。

 B6サイズ以下なら白黒でもグレースケールでも問題なく読めるレベルになりますが,これでは文庫と同じですので,わざわざスキャンし,Kindle3で読まなくても,文庫本をそのまま持ち歩いても構わないわけで,Kindleのメリットを「文庫がたくさん入るマシン」と考えるしかなくなってしまいます。旅行などでは重宝するかも知れませんが,通勤通学に便利かと言えばちょっとわからないです。

 次にnudgeスクロールです。

 PDFの表示の方法は,画面にあわせる,150%,200%,300%,原寸,の5つがあります。ある部分を拡大して表示するような場合,どこを表示するかを選ぶ必要がありますが,従来のKindleでは任意の場所を選べませんでした。

 よってPDFの拡大は全く役に立たなかったのですが,拡大表示する範囲を少しずつ動かす機能がようやく追加されました。それがnudgeスクロールです。

 PDFを表示中にAaボタンを押すと,拡大率が選択出来ます。拡大率を選ぶと拡大する範囲を選ぶ画面になりますが,ここで5wayを操作すると従来通りの選択,shiftキーを押しながら5wayを操作すると,少しずつ表示位置を動かすことが出来ます。

 拡大表示を行っている最中でも,Shiftを押しながら5wayを操作すれば少しずつスクロールしてくれます。

 これはかなり期待した機能だったのですが,実際には全然使うことがありませんでした。まず,拡大率が任意ではないので,余白部分を表示させないという目的には使えません。それに,少しずつ動かせるとはいうものの,1ピクセル単位ではありませんので,結局中途半端な位置が表示されてしまうことには変わりません。

 先のコントラスト調整機能と同じで,結局スキャンした後の調整を読む端末で行いたいわけですね。その目的にはどちらも使えないことははっきりしました。やはり最初にkindleに最適化した形でPDFを作っておくことが必要です。


(7)読みやすさ

 DXgのパネルは825x1200ピクセル,一方のKindle3は600x800ピクセルと,圧倒的にピクセル数が足りません。DXgの読みやすさや表示の美しさと比べるまでもないのですが,DXgなら読むことの出来るPDFでもKindle3では読めないものもあり,両者を単純に大きさの違いだけ,と考えるのは間違いだと思い知りました。

 Kindle3は文庫と新書まで,DXgなら文芸書まで,というわかりやすい限界があり,その点で安いとか軽いとか小さいとかJailbreakが入らないとか,そういう理由でKindle3を万人にお勧め出来ないと考えています。

 ただしこれはあくまでアーカイブ用途のPDFをそのまま表示させようとした場合の話であり,Kindle3に最適化されたPDFにしてやりさえすれば文芸書まで問題なく読めるかも知れません。事実600dpiの白黒であれば読めるわけでですから,あまり簡単な結論を出すのは早計です。

 グレースケールの本でもKindle3用に白黒600dpiでスキャンしておくということで対応可能とは思いますが,すでに捨ててしまった本はそういうわけにもいきません。いろいろ調べて見ると,グレースケールのコンテンツをkindleに最適化する方法もいくつか見つかるので,試してみたいと思います。

(8)キーボード

 キーボードは押しやすく,私自身はそれほどストレスに感じませんでした。ただ,従来のKindle2などと違い,数字キーが省略されています。DXgも数字キーはなく,ALTキーを押すことで数字が入力出来るのですが,Kindle3も同様です。ただし数字の印刷がないので,どのキーを押せばその数字が出てくるのかわかりませんので,慣れないとイライラするかも知れません。

 あと,DXgとKindle3では,MENUやBACK,HOMEのキーの位置が全然違います。DXgに慣れた私にとっては,最初はちょっと大変でした。


(9)大きさ,重さ,持ちやすさ

 これはもうばっちりです。240gほどの重さは軽く,全く苦痛に感じません。金属がなく全てプラスチックで,質感も残念ながら値段相応という感じではありますし,私のモデルは裏蓋に分解したような跡がありました。

 ですが,この高級感のなさや質感の低さ,実際に安価なことは,気軽に外に持ち出して,ラフに扱う事にためらいを起こさせません。Tシャツのような気軽さがKindle3の良さだという事なら,それはそれで理解できます。

 裏側は滑り止めの塗装がされているし,ボタンの感触も悪くありません。Kindle2ではキーボードが大きくて少々間抜けな印象があったのが,グラファイトカラーでぎゅっと凝縮感のあるデザインは,持ちやすさと格好の良さを両立していると思います。


(10)技術的なこと

 DXgはi.MX31Lの532MHzでDRAMは128MBを実装しています。OSのバージョンは2.5.xです。Kindle3ではi.MX35の532MHzでDRAMは256MBを実装,OSは3.0.0でした。

 CPUも変わっていますが,どちらもARM1136ですし,動作クロックもキャッシュメモリのサイズも同じですから,処理速度の性能差はほとんどないと思います。しかし決定的な差としてDRAMの容量の違いが心配です。

 Kindle3の登場で,従来機種でもOSを3.0にアップデート出来るという期待が強くなっていますし,それは当然の話だと思うのですが,DRAMの容量が倍も違うと,全く同じというわけにはいかなくなるのではないかと思うのです。

 Kindle3ではWebKitを用いたWEBブラウザが利用出来ますが,この時の速度や安定性をDXgやKindle2で実現出来るかどうかは,ちょっとわかりません。もしかするとWebKitベースのブラウザは過去の機種には搭載されないことになるかも知れません。

 ただ,Kindle3と同じ世代で大画面が欲しい人はDXgを買うしかないわけで,この2つで決定的な性能差があるとそれは問題です。やっぱりそれなりにDXgをアップデートし,Kindle3との差を縮めないとダメでしょう。こそっとDXgのDRAMの容量が増えていたりするともうどうにもなりませんが・・・


(11)結局のところ

 大きさ,重さ,価格の3つで,かなり買いやすくなった上,いわば初期状態でFonthack済みということですから,Kindle3は普通の人に話が出来るマシンにようやくなったと感じます。

 英語の本を日常的に読むなら3Gモデル,自炊が中心ならWiFiモデルを買えばそれでもう幸せになれると思いますが,前述の通りA5サイズまでと割り切って考えないと失敗しますし,それもKindke3に最適化したPDFを作った場合の話です。やっぱり自分で努力をしないといけないことには変わりません。

 WEBのブラウズはE-inkというパネルの性格上ほとんど使う気になりませんので,そういう人は潔くiPadを買って下さい。本の購入に通信量無料の3Gが内蔵されているのですから,これで大きなトラフィックを発生させると,いずれ有償になったり,amazon以外はアクセス制限がかかるようになるかも知れません。

 今後に期待するとすれば,日本語フォントを埋め込まなくても普通に表示が出来て欲しいし,メタデータにもちゃんと対応をして欲しいです。

 コントラストの調整機能は,文字の読みやすさを左右する問題なのでもう少しうまく実装して欲しかったですし,nudgeについても任意の倍率による拡大縮小が出来ないと意味がないので,まずは拡大と縮小の倍率に柔軟性を持たせて欲しいところです。

 そんなわけで,なんといっても扱いやすい大きさ,電車の中でも浮いてしまわないデザイン,必要十分な性能ということで,迷っているなら買いだと思います。

 Kindleの魅力は,コンテンツをどれだけ用意できるかに尽きます。頑張って自炊し,読みやすいコンテンツの作成を安定したフローで行えるようになって初めて,価値が上がっていきます。

 その点で,私が最初にDXgを買ったことは幸いだと言えて,なにもせずに既存のコンテンツを難なく読めたわけですから,最初に「使い物にならんな」とあきらめてしまわずに済んだわけです。

 Kindle3の使いこなしにはもう少し試行錯誤が必要だと思いますが,この携帯性の高さは,その試行錯誤の動機として十分です。

Kindle3が出荷されたようです,もちろん私の。

  • 2010/08/27 16:51
  • カテゴリー:散財

 今年の夏は脳がやられるんではないかと思うほど毎日毎日暑くてたまらんわけですが,私は出勤時に本を読む習慣が定着したこともあり,今から秋の夜長がやってくるのが楽しみです。

 KindleDXはすでに生活の一部となり,寝る前に使うことが日常になりました。Fonthackで日本語表示を行っていますが,これまで特にハングアップや再起動などの不穏な動きも見せず,私の相手をしてくれています。

 実際,KindleDXはとても便利で,とりわけ寝そべって本を読むときには手放せません。先日紙の本を寝そべって読もうとしたのですが,ものの数分で疲れてあきらめてしまいました。これは本当に期待以上の成果です。

 ですが,やはりB5の本と同じ大きさの本体は大きく重く,持ち運びには適しません。もちろん大画面のメリットは大きく,文庫が大判になりとても読みやすくなるし,データシートや回路図などもなんとか読むことが出来ることには重宝しますが,やはり鞄に入れて毎日持ち歩こうという気にはなりません。そんなわけで,通勤時の読書は相変わらず文庫か新書に限定です。

 先月末,Kindleの最新バージョンが発表になりました。日本語の表示に対応したことと価格が安いことで日本でも随分話題になりました。おそらく世界中で話題になったんでしょうね,新しいKindleの予約数だけで,これまでのKindleの出荷数を超えたというニュースも入ってきます。本当かどうかは分かりませんが,品薄なことは確かです。

 この新しいKindleは従来よりも小型になっていて,WiFiが付くようになりました。しかも私の今の使い道では不要な3Gによる通信機能がない廉価版も用意され,円高傾向が続くということもあって,通勤用にと7月30日の朝に注文をしました。2つ目のKindleです。

 iPadを買わず,まさか2つもKindleを買うことになるとは私自身もびっくりなのですが,KindleDXとKindleでは,大きさの差によって生まれる使い道の違いがあることに気が付いて,2つ買うと言うよりむしろ,家の外でもPDFを読むという新しい体験に対価を払っている気分です。まあ,モバイル機器を買うわけですから,至極当たり前の話ですね。

 ところがです,先の品薄です。なかなか発送日が確定せず,私を含め早めに予約した人はやきもきしていたわけですが,私の場合一昨日の夜にようやく出荷の連絡があり,現時点ではアメリカ国内を輸送中のようです。

 残念ながら週末には間に合いませんが,今からとても楽しみです。

 海外のサイトを見ていると,どうもPDFでコントラストの調整が何段階か可能になったようです。これまで,グレイスケールでスキャンすると,文字が薄く細めになってしまい読みにくくなるため,可能な限り白黒でスキャンする必要がありましたが,もしコントラストの調整が可能になると,これはかなり読みやすく出来るのではないかと思います。

 日本語の表示の話は実はあまり気にしておらず,私の場合自炊のPDFですから画像ですし,タイトルが日本語で出るかどうかだけの話です。もちろんきちんと出てくれた方がうれしいですが,日本語のフォントを持つことでタイトルや著者名が日本語で表示されるだけで,本文は今まで通りフォントの埋め込みが必要になるとか,そういうがっかりなオチが付くのではないかと,そんな風に思います。

 新しいKindleがWebKitベースのWEBブラウザを実験的に用意してあることも話題になっていますが,WebKitに3Gでウハウハというスケベ根性でKindleを買った人は,きっとがっかりするでしょうね。なんといってもe-Inkはそういうことには向いていません。なら,なぜWebKitなのか,ですが,これはkindleStoreの表現力をアップしようということだと思います。今のKindleStoreは,PCで見るamazon.comよりもずっとずっとショボイもので,これを華やかに使いやすくすることは,私は値下げによって獲得したユーザーをつなぎ止めるには必須のことだと思います。

 iPadも6インチの小型版が出るという話が漏れ伝わっており,これはかなり現実味のある話ということですので,これはこれで楽しみな話です。しかしKindleはすでに$138。$100を割るようになると新しい展開が見えてくるんではないかと思いますが,その時は刻一刻と近づいているように思います。

 極論すると,端末は無料で配るくらいしないとダメだ,と私は思っていて,少なくとも端末で普通に儲けるようなことを最初から目論んでしまうと,どうしても普及の壁を崩せません。私が電子書籍を仕事にしていたころも同じ思いでいましたが,無論すぐには無理な話ですから,現実線として13800円,9800円,5800円,3800円,という値段になったそれぞれの段階で,ユーザーの数も質も,コンテンツの量も質も,出版社の考え方も,大きく転換して新しいフェイズに入ると考えていました。

 すごいなと思うのは,今9800円に向かっている途中なのだということです。これから先,どんなことが起こるのか楽しみです。

しおりが邪魔をする

 今年はやや長めに夏休みを頂きました。普段読みたくても手が出せなかった本を読もうと意気込んで迎えた夏休みですが,電子化された出版物がどこまで「読む」という実用に耐えるのかという実験も予定していました。

 以前から何度も書いているとおり,私は現在「自炊」と呼ばれているScanSnapによる本のPDF化を日常的に行っており,アーカイブされているPDFの出力先に,ノートPCのLCD,プリンタによる印刷に加えて,KindleDXによる電子ペーパーという3つ目を加えました。

 どの手段でも読むことは出来ますが,LCDについては長時間の読書は無理,まして長編などは疲れてしまうでしょうし,持ち歩くなら紙のままの方が小さく軽いはずです。しかも電池が数時間で切れてしまうわけですから,そうなったらもうゴミみたいなもんです。(私の持論は,モバイル機器は電池が切れたらゴミ,です)

 Kindleは(あくまでLCDに比べてですが)読みやすいディスプレイを持つ,長時間の読書に耐えうる可能性を持ったデバイスです。特に大判のKindleDXは,文庫本でもハードカバーのA5サイズくらいに拡大して表示されるので,文字が大変に見やすいのですが,果たしてこれで「読書」は可能だったのでしょうか。

 結論からいうと,可能でした。

 これまでに5冊の本をKindleDXで読了しました。

・スティーブ・ジョブズの流儀
・ホームコンピュータ入門(宮永好道先生の遺作の1つです)
・三洋電機よ,永遠なれ!
・精神変容のドラマ
・科学技術政策(山川の日本史リブレットです)

 そして現在,「永遠の0」(講談社文庫)を読んでいる最中です。

 読書というのは没入感が大事です。紙で読んでいるときの没入感は実に素晴らしいのですが,それは以前に書いたように,そうあるように作り込まれているからです。

 Kindle,というよりは,私の自炊がどれくらい上手に出来ているかが,没入感を大きく左右しますが,LCDで見るときにはグレースケールでスキャンした方が綺麗に見えるのに,Kindleでは白黒でスキャンした方がはるかに美しく,読みやすいものが出来上がります。

 文字がくっきり出ることもそうですが,グレースケールでスキャンすると,ページが焼けた古い本では,紙の色が薄いグレーで取り込まれてしまい,文字とのコントラストが下がってしまうのです。

 Kindleは16階調の表示能力がありますが,これにディザを併用して濃淡の表現を行います。なので,紙の変色がひどいと,ディザによる「点」が画面いっぱいに打たれてしまうことがあるのです。こうなるともう見にくくて仕方がありません。また,グレースケールでは文字も階調を持つ形で取り込まれますが,Kindleでは薄いグレーは透明になってしまうので,文字が痩せてしまい,紙のオリジナルとはかなり印象が変わってしまいます。

 しかし,図や写真などはグレースケールでなければ話にならないですし,文字ばかりの本であっても文字の濃さを変えたものや,区切り線,ページ番号やフッタなどにグレーを用いる場合は,やはりグレースケールで取り込む他はありません。この辺は痛し痒しなところがあります。

 「ホームコンピュータ入門」などはかなり変色が進んでいましたが,写真が多いという事で最初はグレースケールでスキャンしてありました。しかしこれをKindleで読むと大変読みにくく,図や写真のないページを白黒2値でスキャンしなおし,差し替えて読了することが出来ました。

 そんなわけで,使ってみて感じたKindleのメリットです。

(1)ハンズフリー

 私は読書は寝そべっていることが多いのですが,紙の本のように手で広げて読むというのは,同じ姿勢が続いてしんどいものです。KindleDXはほぼB5サイズと大きいので,普通に手で持っているともっとしんどいのですが,例えばテーブルの脚に立てかける,例えば衣装ケースに立てかける,例えば壁に立てかける,と言う具合に,なんでもいいから立てかけると非常に楽で自然な姿勢で本を読むという,新しい体験が可能になります。

 後述しますが,文字が大きく表示されるので,少々距離があっても全然問題はありません。また,電子ペーパーは見る角度によって表示品質が変化しませんから,開く場所に制約を受けません。

 うたた寝をするときも,本ならバサッと閉じてしまうところを,Kindleならそのままの場所が表示されています。目が覚めたらまた続きから読むだけです。文字を追いうたた寝に浸り,まどろみにたゆたう贅沢を,まさに満喫できました。


(2)文字が大きい

 文庫や新書といったA6程度の本であると,ディスプレイサイズがA5程度のKindleDXなら2倍の面積で表示されます。文字が大きく表示されることは当初メリットとは考えていませんでしたが,50cm以上離しても問題なく読み進めることが可能であり,そこまで距離を稼げると読むのに楽な置き方が必ず見つかります。

 実は,文字が大きいと目の動きが大きくなりすぎ,かえって疲れてしまうことに気が付いていました。そこでKindleとの距離を離してやると,ちょうど読みやすくなったというわけです。

 ただ,あくまでオリジナルが文庫や新書であることが前提で,A4やB5といった雑誌だと,ほぼ文字を読むことは絶望です。


(3)ページをめくるのが楽

 ページをめくるときにはボタンを押さねばなりませんが,それでも紙をめくる動作よりは楽で,片手でぽちっと押すだけです。長押しすることもなく,また押しにくい位置にあるボタンを手をひねって押すわけでもなく,ただ大きな面積のボタンをかちっと押すだけです。

 Kindleへの心配事の1つとして,ページめくりの遅さが挙げられることが多いのですが,これは普通に使っていると杞憂であることに気が付きます。というのもkindleは今読んでいるページの前後をキャッシュや先読みをしてくれているからです。

 キャッシュや先読みが行われているページは,ボタンを押せば即座にその画面に切り替わってくれます。本によりますが3ページくらい先ならささっと切り替わりますし,戻るときでも2ページくらいなら瞬時に戻ることが出来ます。もっとも,そのキャッシュ範囲を超えたところになると途端に数秒から数十秒待たされてしまいますし,先読みを行う暇もないくらいページをぺらぺらめくると全く話にならない遅さになりますが,その点でもKindleは雑誌を読むには向いていない端末だと言えるでしょう。雑誌やコミックならiPadですね。


 一方で,いろいろな失敗もあります。痛恨のミスは,現在読んでいる「永遠の0」で,買ってその日のうちにスキャンし,Kindleに突っ込んでから,紙はさっさと捨ててしまったのです。それから1週間ほど経過した昨日,さくさく読み進めていると,327ページの1/3ほどが,親切で挟んでくれている「しおり」によって隠れてスキャンされていました。オリジナルはすでに手元にありませんし,しおりを手でどけようとしても無駄です。エロ本の黒塗りがどれだけ擦ってもとれないのと同じことです(違います)。

 そのにっくきネコのイラストのしおりのせいで,私はもう1冊買う羽目になりました。電子書籍バージョンは1900円の値段が付いていたと思うことにしたいと思います・・・(なお図書館で借りることも考えましたが,この本はえらい人気みたいで,近所の図書館では180人待ちでした)

 もしかすると,最新のScanSnapS1500だと,こういう場合でも重送の検出が可能だったりするのでしょうか。そうだとするとかなり安心ですが,でもS1500でもセンサは中央部にあるだけだったと思うので,しおりをきちんと検出出来たかどうかは,結構怪しいです。(と思って調べて見ると,やはりS1500の超音波センサでも,しおりの重送は検出出来ず,私と同じような悔しい思いをされている方がいらっしゃいました。)

 ページの角が折れてしまっていたケース,背の部分の糊が残ったままになっていて重送が発生しくしゃくしゃにされてしまったケース,連続使用による高温が残っていた糊を溶かしてガラスに付着,これが影となってスキャンされ続けたせいで,本来よりも大きな紙と誤認識されてしまうケース,ハードカバーの本のように,単純に背を裁つと,腹の部分の湾曲のせいで紙のサイズが連続的に変わってしまい,幅の狭い紙が斜めに送られてしまうケース,薄い紙かつ印刷された面積が小さいページでは裏移りがあったり,紙の端っこが黒くなってしまうケースなど,完全自動化というのはなかなか難しいものがあります。

 突然ですが,Kindleを前提としたスキャンのノウハウです。

・白黒600dpiを基準にせよ

 KindleDXは600dpiの白黒が綺麗に表示出来ます。アーカイブという観点でも600dpiなら十分なものがありますので,可能な限りこの設定で読むのがよいと思います。なお,文字は太くして読みやすくしておきます。


・グレースケールのページをカラーで取り込むな

 ScanSnapでは,カラーもグレースケールも同じ扱いになりますが,カラーのデータから色情報を抜き取って輝度だけにしてくれる処理が入る分,ガラスに付着したゴミによる縦線の被害も小さくなりますし,色ズレ,色の転び,紙の変色という問題も回避できます。なお,カラーもグレースケールも300dpiで取り込むのがリーズナブルです。


・白紙ページは飛ばさない

 白紙ページを飛ばす設定は便利ですが,読み取ったページ数から,重送がないことを確認するのに骨が折れます。それより,重送がなく,読み飛ばしがないことを確認したのち,白紙ページを手動で削除した方がずっと早いし楽です。でも難しいところですね,白紙ページを削除して印刷すると,両面基数ページという本来ならあり得ない状態になってしまうわけで,アーカイブという目的ではそもそも削除しないという考え方も必要だったかも知れませんね。


・出来れば毎回クリーニング

 特に高温となるセンサ部のガラスには,糊やゴミがこびりついています。この状態でスキャンするとそれが縦線としてスキャンされるので,出来れば毎回アルコールでさっと拭いてやると安心です。


・PDFのメタデータはANKで

 これは現時点の制約ですし,以前にも書いたことですが,Kindleで著者名を表示するには,PDFのメタデータにANKで書き込む必要があります。海外の作者ならいいのですが,日本人の場合に,名前-名字と書くのか,名字-名前と書くのかは,統一しておくべきでしょう。


・OCRは必要ない

 確かに,スキャンのメリットの1つに,OCRによって得られたテキストデータを透明文字にして埋め込むという手段により,検索が出来ることがあるわけですが,ことKindleで読むことを考えた場合,その必要は全くありません。アーカイブという観点からも,目次がきちんと読めれば問題はなく,かえってOCRの誤認識に気が付かないでそのまま埋め込まれていることで信用できなくなってしまうことの方が問題です。スキャンの時間も倍はかかりますし,もしやるとしても辞書を引きやすくなるという目的で英語の文献くらいはありかも知れません。


・しおりや広告はきちんと確認

 文庫や新書ではしおりや広告,葉書が挟まっていると取り返しの付かない問題を引き起こしますし,本によっては紐が切断されて紛れ込む事があります。あの紐はなかなかくせ者で,気が付かずに裁断してしまうと,短い繊維に分解してしまい,あちこちに飛び散ります。どっちにしても最初にちゃんと確認しておけば済む話です。


 そんなわけで,私の場合は,Kindleでの読書はギリギリ実用というところです。積極的に多くの方におすすめするようなものではありませんが,本が好きな方,置く場所に困っている方,ハードカバーの本が重くてつい買うのをためらってしまうというひ弱な方,芋虫のようにゴロゴロするのが大好きな方には,自炊とkindleによるメリットを少し検討しても良いかも知れません。

電子書籍に大切なこと

 私がScanSnapのS500を購入したのが2007年3月,自分で本を電子化するいわゆる「自炊」を始めて3年半ほどの期間が経過しました。

 昨日,そういえばいったどのくらいスキャンしたのだろうと考える事があり,調べて見ることにしたのですが,定期刊行物を除く書籍やムックはわずか562冊でした。

 定期刊行物,つまり月刊誌や週刊誌のたぐいは蔵書管理の対象になっておらず,正確な冊数は数えてみないとわかりません。

 全てを正確に確認するのは難しいとして,ざっと数えてみることにしました。

 まず,トランジスタ技術。1980年から現在までで352冊でした。別冊付録は71冊ありましたので,合計すると423冊です。

 以下,

インターフェース 14冊(少ない・・・職場で捨てましたから)
Oh!X 13冊(復刊後の5号を含みます)
子供の科学 34冊
ラジオ技術 39冊
無線と実験 38冊
オートメカニック 9冊
日経エレクトロニクス関連 22冊
その他電気電子関係 31冊
その他ゲーム関連 3冊
鉄道関係 7冊
その他 40冊
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合計250冊

 トランジスタ技術と合わせると・・・673冊になりました。

 さらにここに,あの「鉄道データファイル」を1号1冊としてカウントするというズルをするとさらに300追加で,雑誌の合計は973冊となります。

 先程の562冊の書籍とムックに973冊の雑誌を加えると,1505冊。大体1500冊くらいかなと思っていたので,案外正確に把握していました。

 そして,ScanSnapのスキャン枚数は,約176400枚。消耗品の交換時期はとっくに過ぎていますが,まだ交換していません。(一応部品は買ってあるのですが,ちゃんと使えていますので・・・)

 スキャンをやり直したケースもあるので単純計算は出来ませんが,1冊あたりの枚数は約117枚,ページにして234ページですから,まあそんなもんではないでしょうか。

 個人的にはまだまだ少ないなあと感じています。1冊平均500円として1500冊ですからざっと75万円。そう考えると新たなショックを受けそうなもの(しかも500円なんてことはないですよね実際は)ですが,自宅と実家にある本と雑誌の数を考えると,この3倍くらいはあると思います。

 ここで,私はふと気付くわけです。

 もともと,書籍や雑誌のPDF化は,増え続ける本の置き場所がなく,年に3回段ボール箱をいっぱいにして実家に送り,その屋根裏部屋に保管していたことに,限界が出てきたことがスタートです。

 新しく本を買うには,古い本を処分して場所を確保しないといけないという事態は非常に深刻で,本屋を憩いの場としている私には,そんな理不尽な理由での禁欲生活はゲシュタルト崩壊を招きかねません。

 さりとて,書物は宝です。捨てるなどと言う行為は,神をも恐れぬ愚行です。私は昔,本を跨いだだけで母親に怒られました。

 そもそも,本,あるいは雑誌というのは時間を経てもそれなりに価値を維持する場合がありますし,なにより10年,20年を経て昔のものを読み返すことは,とても楽しいことです。わざわざそれを捨ててしまうというのも,なんだかもったいないです。

 この解決不可能に思われた問題を,根本的に解決するのが,電子化という作業です。この頃の私は,自分で電子書籍を作る「自炊」という考え方は全くなく,とにかく電子化することで物理的な場所を作るという,アーカイブという目的がモチベーションでした。

 ここに,大きな意識の変革があります。

 書物をつぶさに眺めてみると,装丁やレイアウトなどによる工芸品として,安定した品質で安価に大量生産される工業製品として,携帯性が高く,内容を蓄え伝え広める器(パッケージメディア)として,そして徹底的に読まれることにこだわって計算し尽くしたユーザーインターフェースを持つものと,実に様々な側面を持つ複合機能デバイスです。

 機能として,蓄積,伝搬,入出力といった基本機能に加え,存在自身が持つ文化的な価値など,書物を愛する人間の価値観が産み出すものとして,単なる「文字と文章の器」を越えたものがあるわけです。

 我々は,本そのものと,本の中身,内容とを区別する必要がなかった時代においては,この両者を同一視していました。

 しかし,電子化という概念が入ってくると,果たして電子化されたファイルは本なのかどうかに悩むことになります。我々の知る本とは明らかに違いますが,しかし本の機能は確実に備えています。

 ここに至って,本は,実体と内容の2つに分離され,別々の価値を評価されて,別々の道を歩くことになります。

 音楽や映像がそうであったことを思い出すかも知れませんが,本質的に違うのは,音楽や映像を入れる実体は,銀色の12cmの円盤に過ぎず,再生するための装置がなければ何の価値も持たない,純粋な工業製品の性格が強いと言う点です。従って文化的な役割も実体にはそれ程期待されておらず,重要なものは中身であるという考え方が支配的になり,今や配信されるものとして抵抗なく認知されているわけですね。

 本はちょっとその辺が違います。美しい装丁は工芸品であり,特別な再生装置がなくとも内容にアクセス可能であり,字体やレイアウトはその時々の時代を写しています。

 ご存じかどうか分かりませんが,紙の厚さや色は,その本の内容にあわせて選ばれ,そして同じ黒に見えるインクの色も,その紙にフィットするように微妙に違った色が選ばれています。

 さらに,文字の太さ,文字の間隔,行の間隔などは,白と黒の総面積比から最も読みやすいものに調整が行われ,読むという行為に徹底的に最適化されるのです。

 こうしたレイアウトはもちろん,書体にもその時代時代に流行廃れがあり,太いものが好まれる時代があるかと思えば,流れるような流麗な文字が好まれた時代もあります。

 50年前の古い本を手に取り,ぱっと開いた瞬間に「古いな」と一瞬で感じるのは,こうした時代性を,内容以外の要素が雄弁に語っているからです。

 こうしたノウハウは,人が鉛の活字を使って写植を行っていた時代から100年続く写植と印刷の文化と伝統で,これを数値化,機械化することを「日本の文化を守ること」と位置づけ,ある種の使命感を持って推し進めたのが,大手印刷会社各社です。

 職人が文字を拾って1ページが完成した時代から,電子写植になって職人が消えても,本は決して読みにくいものにはなりませんでした。私はここに,彼らのノウハウの継承が機械化という形においてさえも実現されたことに驚嘆するのです。

 さて,本には,中身と実体の2つの価値が別々に存在していることがわかりました。しかしこのことは案外昔から存在しているし,実用的に区別を持って利用されていたこともまた事実です。

 例えば週刊少年ジャンプです。B5版で大きく,マンガにとっては迫力があり,好ましいのですが,いかんせん紙の質が悪く,印刷も装丁も簡単です。その代わり安いですね。

 このマンガ雑誌には,残しておくだけの価値を込めて作られていません(一部のコレクターは別の所に価値を見いだしているので話は別です)。従ってマンガ雑誌には,内容を安く大量にばらまくことが第一の使命とされているわけです。

 そしてそのマンガは,単行本としてしばらく後に書店に並ぶことになりますが,明らかに上質な紙と綺麗な装丁,判型が小さくなっても全く情報の欠落がない高品位な印刷と,まさに残されることが前提となった高度な作りをしています。

 単行本は少々高価ですが,これも「残す」ことが使命に加えられているからであり,ここで我々は内容が重要で実体がすぐに廃棄されるものと,内容と共に実体も重要で残されるものとが,案外昔からあったことに気が付きます。

 前者は,安くばらまくことにその役割がありました。その性能がもっと高いメディアが現れたら,そちらに切り替わるのが当然です。考えて見て下さい。安く大量に,そしてあっという間にばらまく手段は,電子化であるということを。

 そして,単行本にも2つの役割が拮抗します。内容が重要であり,実体は内容が頭に入ってくることを妨げずむしろアシストするために徹底的に最適化されるということと,もう1つは内容以上に装丁や実体の存在が重要であるケースです。

 後者はそうですね,古文書や貴重な原本がそうでしょう。そこまで大げさでなくとも,古本屋でも初版本の値段が高いことは,後者の理由がなければ説明がつきません。

 ではもし,前者の「読むことに最適化された」ことが,他の方法でも可能になったら,実体としての本は存在しなくてもいいことになります。極端な話,脳に電極を差し込んで電子化された文章を直接流し込むのが最適化の極限です。

 もちろん,単に内容を手に入れるだけでも,実体そのものを愛でるわけでもなく,文字を読むことで,文字から想像力を働かせるという,実に人間的な豊かな体験が本の醍醐味です。しかしこれも,携帯電話で小説が読まれる時代になっていることが,紙であること,印刷であることを現実に否定しています。

 平たく言うと,本には知る楽しさ,読む楽しさ,持つ楽しさが別々にあるということです。そして,知る楽しさは本以外の方法でもよく,読む楽しさは実体がなくてもよく,持つ楽しさだけが,本の機能として残っていくと考えられるのです。

 ここを読み誤ると,「自炊」や電子書籍,電子出版を誤解しかねません。

 私の場合,Scansnapによって1500冊分のスペースが確保され,そこに新たな本を置くことが出来ました。中身が持つ情報の欠落を,私の基準で許せる範囲にとどめ,電子化して小さなハードディスクに蓄えることで,大変なコストを必要とする実体の維持管理を回避したことになります。

 しかも,電子化された本が増えれば増える程,そのメリットである保存スペースがいらないこと,検索や管理が容易であること,伝送や持ち運びが楽であることが,際立って来ることに気が付きました。

 内容だけが必要ならテキストデータにすればかなりサイズが小さくなります。しかし私はそうはせず,600dpiの画像データで残してあります。プリンタで印刷すれば,文字の形や太さ,行間や文字間隔,ページのレイアウトを再現できるように,それらの情報をちゃんと持っていたいと考えたからです。

 しかし面白いのは,この情報を取り扱う事の出来る紙以外のデバイスが,徐々に安価に提供される様になったことで,大きな価値を持ち始めたことです。

 先日購入したKindleDXは,ほぼ毎日使うことになっています。これで本を2冊ほど読むことが出来ましたが,単に読むという事だけを考えれば,Kindleで十分なところまで来たように思います。それだけでなく,分厚く重い本が薄いKindleに収まり快適に読めること,数十冊の本がKindleに全て収まっていることなど,電子化のメリットが際立ってきます。人によっては,文庫本がA5サイズくらいまで大きく拡大されることが,より読みやすい状況を作ってくれるかも知れません。これらは電子書籍によって得られる,新しい体験です。

 私はここで,また新しいフェイズに入ったことを実感します。書籍の電子化は,アーカイブコストを下げるためという消極的な理由から,紙に変わるデバイスを使って電子化のメリットを享受しつつ読むためという積極的な理由にスイッチしているのです。

 このことで何が起こったかというと,読んだ本しか電子化しないという基準が,これから読む本でも残す価値のないものは電子化する,と言う基準に切り替わったのです。電子化対象となる本が一気に増え,Kindle購入後にさらに多くの本がスキャンされました。

 先に書いた本の3つの楽しみのうち,知る楽しさと読む楽しさは,もうKindleやiPadなどの端末の登場によって,あるレベルで達成されたということを感じます。

 残る実体そのものを持つ楽しさについては,もうどうにもなりませんから,コストをかけて残す事になります。私の本棚には,1950年代60年代の古い本ばかりが列ぶことになってしまいました。

 このように,知る楽しみ,読む楽しみは電子化によって理論的に妨げられません。本が紙でなくなると味気ないなどと,感傷的に言う人がいますが,それは本の役割を正確に理解していないか,浅い考えで本を表面的に捉えている人の言葉であり,もう一歩だけ踏み込んでもらえると,電子化された本のメリットが,デメリットを十分に上回る場合も多いことに,気が付いてもらえるはずです。

 つまり,棲み分けです。雑誌やビジネス書や文芸書,エッセイなどは実態以上に内容が重要なので電子化が進み,実体を残す事が目的にされる書籍についてはお金をかけて装丁を美しくし,いかにも残さねばという雰囲気に身を包んで,非常に高価になります。二極分化が進むわけですね。

 コンピュータとネットワークとエレクトロニクスは,人間の知的生産性を飛躍的に高め,同時にその生産コストを押し下げました。この流れは書物を作り,広め,残すという点においても確実にやってきます。

 かつて,書物は貴重品で,文字を読む能力が特権階級の証であったことと相まって,庶民には作る事はおろか,読むこともそうそう許されるものではありませんでした。ヨーロッパでは教会が,日本ではお寺が,庶民への知識の伝搬の場として役割を担う時代が長く続きましたが,印刷技術の発明により,安く書物が手に入るようになり,その書物の恩恵にあずかるため文字の習得が広く一般化しました。

 この,庶民が知るチャンスが何をもたらしたかというと,特権階級による搾取からの解放でした。それがやがて民主主義に繋がるのです。

 今,コンピュータとネットワークとエレクトロニクスが,これまで長く続いた印刷技術のデメリットを根本的に解決しようとしています。人類ははるかに豊かになりましたが,それでも紙が貴重で手に出来なかった多くの貧しい人々が人類の英知に安価にアクセスする手段を提供し,そして自分で作る事が難しかった本を低リスク低コストで作る事が可能になります。やがて爆発的に増えるであろう本は,形を持たない知識と情報という本質で蓄えられていくのです。

 この流れは,もう止まらないかも知れません。大げさな言い方ですが,人類はいよいよ,実体を持たない情報や概念といったものに,価値を見いだすフェイズに入ったのです。個人的に,このことはとても大きな進化だと考えています。

 それでも,実体への憧れやこだわりは,決してなくなりません。A地点からB地点へ移動したいというモビリティの欲求には,別に電気自動車でも鉄道でも構いませんが,内燃機関を持つ自動車を運転したいという要求はおそらく消えることなく,それ自身を目的とする人々を尊重する形で,社会との共存がなされていくものと思います。乗馬などと同じといえるでしょうか。

 本もしかり。実体は消え去らず,必ず残り,次代に引き継がれていきます。

 週刊誌の実体が無価値というのは言い過ぎだろう,そんな意見もあるでしょう。私もそう思います。現在世に出ている実体については,100年後の人が見れば面白いと思うでしょうし,研究対象にもなるでしょう。そして貴重な資料として残されることも間違いないでしょう。

 でも考えてみて下さい。週刊誌を作った人は,安く広く広めることを目的に,あの印刷と装丁を行っています。100年後の人に残そうと思って作ったわけではないのです。

 その目的が電子化によってさらに洗練されるなら,実体が役目を終え電子化されたという事実こそが,100年後の人にとっては最も重要で興味深く,研究の対象となるべきことではないでしょうか。そう,100年後の人だって,実体そのものではなく,実体から得られる世相や文化へのヒントに,価値があると考えるはずです。

 凸版印刷とKDDIとソニーがくっつき,docomoと大日本印刷がくっつき,ソフトバンクはすでに新聞社と共同でサービスを始めているという賑やかな状況が短期間で起こって,さながら「黒船来航」のようです。

 しかし,私は,もう少し冷静になって欲しいと思います。繰り返しになりますが本は,音楽や映画とは,ちょっと違った複合機能デバイスです。どこまで分解するのか,なにをなにで代替するのか,感情論だけでも,経済論だけでもなく,はたまた文化論だけでも技術論だけでもない,広い観点からのあるべき姿を,今こそ模索すべきではないかと思います。

 それは本が大好きな日本人だからこそ,楽しんで行えることではないでしょうか。


 私が「積極的」な自炊を行うようになってまず思ったことは,自炊なんて楽しくないし,こんな面倒なことはできればしたくないと言う人が大半だろうなということです。私にとっての自炊というのは,決して自慢にならず,誇れるようなことでもなく,ただ自分がそうしたいからそうしているだけの極めて自慰的な行為です。

 ですから,本を買ったら,そこにPDFが付いてきてくれると,普通はうれしいわけです。これは私もうれしいです。

 本を買ったら,購入者特典として,ホームページから同じ本のPDF版を50円でダウンロードする権利を得ます。50円の支払いはクレジットカードで行うので,クレジットカードの情報の登録と,本人の認証が必要です。別に50円でなくてもいいですが,手間賃程度の適当な価格を付けるべきでしょう。

 PDFのメタデータには,持ち主と通し番号,購入日時など,購入者と購入事実が特定出来る情報を埋め込んでダウンロードされます。読むことは自由に出来ますが,暗号化されているのでメタデータを含め改変は出来ません。

 本を買っていないのに買ったとウソをついてダウンロードする人がいるかも知れません。このシステムでは防げませんが,個人情報と個人認証が必要なことが,ライトな犯罪者予備軍を思いとどまらせてくれるでしょう。

 高価な本なら,本ごとにシリアルナンバーを付けておいて,この番号ごとにダウンロードを管理できればよりよいです。

 ダウンロードした人は,実体に価値があると思えば実体を残しますし,電子書籍端末で読むだけが目的なら実体はさっさと資源ゴミに出してしまうことでしょう。

 もちろん,ダウンロード後に実体を古書として流通させることはよいのか,やら,ダウンロードしたPDFをwinnyに流されてしまったらオシマイだ,やら,考えなければならないことはたくさんあると思います。

 でも,現状で自炊すれば,全部同じ事ですね。数が少ないと言うだけの話で,最近はスキャン後の本を「裁断済みの本」としてオークションで売る悪い人もいるくらいです。

 手間がかかるからする人が少ない,だから黙認というのは,かつてアナログレコードをカセットにダビングしていたのと同じような話です。いずれ,確実に,無視できないようになります。
 
 どうしますか,その時は必ずやってきます。
 
 

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