秋月で買いたいものが少し溜まってきたので,そろそろ通販をお願いするかとカートにポンポン部品を入れていた時のこと,概ね片付いてから,他に面白いものはないかなといろいろ見ていたら,ミニオシロのキットに面白そうなものを見つけました。
5年ほど前にちょっとブームになったミニオシロか,モノクロLCDの基板上バラックキットか,そのくらいのもんだろうとスルーしかかったんですが,なかにきちんとしたケースに入ったキットが目に付きました。
DSO Shell DIY kit (15001K)と書いてあります。
白くて丸い上品なケースに,今どき4:3の小さなカラーLCD,入力端子はBNCで汎用のプローブやケーブルが使えそうで,電池駆動もOK。
それで値段が3500円ということで,これまで完全に見逃していました。
惜しいのは1現象なことくらいで,帯域の狭さは値段相応と割り切れるポイントです。調べて見ると1年くらい前からその界隈では話題になっていたもののようで,もともと基板キットだったものをリファインし,ケースまで用意したもののようです。
基板キットというのは工夫の余地がありそうに見えて,昔と違って基板を分割したり回路を分けたり出来ないので,結局適当なケースに収めることも出来ず,実用性が落ちてしまうものですが,今回のキットは基板も筐体に合わせた専用設計をやり直しているようですので,使いやすく小さく収まり,テスター代わりになると考えても3500円なら買ってみてもよいでしょう。
てことでカートに入れて決済完了。果たして連休直前に届きました。
連休中はなかなか取りかかることも出来ず,伸ばし伸ばしになっていたのですが,目ざとく見つけた5歳の娘が毎日のように「オシロスコープ作った?作った?作った?」と聞いてくるので,プレッシャーに負けて,連休終盤の夜中に作る事にしました。
久々ですね,こういう完成して当たり前の工作をするのは。説明書をよく読んで,決められた部品を取り付けていく楽しさ。これはこれで夢中になるものがあります。
組み立て前の確認から完成まで2時間程度。幸いミスもなく一発で動いてくれました。上下ケースもきちんと勘合してくれて,ネジバカになったネジが1つだけ出てきた事は残念としても,それ以外はとてもうまくまとまってくれました。
調整は高域と低域のレスポンスをトリマコンデンサであわせ込むのですが,完成させてからでは調整は出来ないので,何度も慎重にやったつもりでしたが,完成してみると高域がちょっと落ちていてしまいました。
余っていた60MHzのプローブを繋いで矩形波で調整をしてみますが,これも調整出来るところまで追い込めず,いまいちな結果となりました。10:1のプローブが使えると,使い道が随分と広がるんですけどねえ。
電源はACアダプタでは面倒なので,これも余っていた006P型のNi-MH電池を使うことにしました。内蔵できないので背面にベルクロで張り付けています。でもなかなか収まりが良いです。
早速娘に見せると,ふふふと笑いながらボタンをおして,つまみを回し,遊んでいます。なにがおもしろいのやらと思うのですが,こういうものに免疫がないというのはさすがに子供らしく,これで1つの関門を越えたかなと思いました。(なんの関門だ?)
完成後,きちんとした評価はしておらず,測定結果が信用出来るか,どのくらいの範囲で使えそうかがはっきりしていないので,実戦投入はしていません。感触では,オーディオ帯域でもややあやしく,出てきた波形がどれくらい実際と異なっているかを心得ておく必要があると思っているのですが,それはまた後日。
機能的なところで,随分良く出来ているなと思ったところも多かったので,それをいくつか書いておきます。
まずそのコンパクトさです。以前からLCDを使った簡易オシロは,キットや完成品を問わず出ていたのですが,綺麗にまとまったオシロとしてはかなり小さい部類でしょう。手のひらサイズでどこにでも置けて,さっと片付けることもできます。
小さい割にはUIも良く出てきており,操作に困りません。操作感も悪くなく,サクサクと動いてくれます。画面も見やすくて,楽しく測定できると思います。(この楽しくと言う要素はとても重要で,楽しくない,苦痛という事態は,あらゆる作業の質を低下させますし,意欲を削ぐものです。)
で,基本機能ですが,帯域が狭いことを除けば,いっちょ前に通常のオシロスコープと変わりません。入力はAC/DC/GNDの切り替えが可能ですし,垂直感度は5mV/DIVですので,特に困ることもないでしょう。
水平軸は10us/DIVが最小なのですが,これだと50kHzから100kHzくらいの波形を確認するのが精一杯でしょう。
帯域幅が200kHzということですが,実力はもう少し低い印象です。矩形波の観測ではざっくり10倍の帯域がいりますので,前述の掃引速度からも,用途としてやっぱり20kHz程度の音声帯域の観測に限定されるのではないかと思います。
しかし,トリガは結構切れ味が良くて,UpとDownのエッジも切り替え可能,トリガレベルももちろん可変できるので,欲しい波形をスパッと取り込めます。これでノイズ除去や高域除去があれば本格的だったんですがねえ。
もちろんノーマル,シングル,オートの3つのモードを選べますので,単発現象も拾えます。
波形の取り込みを止めることも出来るので,デジタルオシロの便利さは損なっていません。トリガボタンの長押しで,トリガレベルを50%にする機能があるのは,実際に使ってみるととても便利な機能で,よく考えてあるなあと思いました。
プローブ調整用の1kHzの矩形波も出ているので,きちんとした波形を見ることが出来ますし,なにより,測定前には調整するという基本的な習慣を身につけることができるところが,こういうところをおそろかにしないという点で好感が持てます。
使っていると,リードアウトとカーソルがないことにがっかりして,これでこれはもうゴミだなあと思っていたのですが,説明書を読むと電圧や周波数の測定値の表示が出来る事がわかりました。
試してみると,やや波形にかぶりがちですが,とても綺麗にまとまっており,一発で波形と各種測定値が一覧できる便利さに,最近のオシロと同じ利便性の高さを感じました。
実際,カーソル機能は,こうした測定値を手動で見るために使われていたケースが多いので,最初から一覧で出してくれれば,そんなに必要になることはありません。確かに,オマケでいいからカーソルは欲しいのですが,これはまあ,将来に期待しましょう。
それと,セットアップの保存が出来ません。これは結構残念で,前回の測定状態が再現されることと,測定を新たに仕切り直ししようとした時を,両立するために有益な機能だったりします。
これも簡単な機能なので,アップデートされるかもしれないですね。
写真は,ファンクションジェネレータで生成した「ハート型」の波形を,TDS3054Bとこのミニオシロで表示させたものです。生意気に,けどけなげに,同じ波形を出してくれていますよね。感心感心。
さて,可愛い外観にしっかりそろった基本機能と使いやすさで,なかなか見込みのあるこのミニオシロキットですが,実用性はと問われると,やっぱりちょっと疑問符が出ます。
これは私に限った話なのかも知れませんが,音声帯域で波形を見たい事って,あんまりないのです。デジタル回路では最低でも10MHzくらいきちんと見えてくれないといけないし,トリガの条件もあれこれと駆使しますので,これでは物足りません。
音声帯域で波形を見るのは,発振の有無を確かめるとか,ノイズや歪みをぱっと見るくらいなのですが,発振を見るには20kHzでは全然足りませんし,ノイズや歪みは波形で見るより定量化できるオーディオアナライザを使いますから,あんまりうれしくありません。
正弦波か矩形波かなんてのは音を聞けばわかるし,やっぱり音声帯域を可視化することの意味って,あんまり見いだせないのです。
唯一,シリアルポートの確認に使うことがあるなと思いましたが,これも最近は動く事が当たり前になっているので,波形をみて追いかけることなど,ほとんどしません。
I2Cでも200kHz以上ですもんね。そう思うと,波形が出ますという面白さと,測定値が一揃い出てきますというテスター的な便利さくらいが,このミニオシロの価値なのかも知れません。
ただ,3500円とちょっとした組み立ての手間で,ここまでのものが手に入るのは正直驚きです。オシロを学ぶ人にとっては,ここで得た知識と経験が上位のオシロスコープでも必ず役に立ちますので,この値段で初めてのオシロスコープが手に入ってしまうという事そのものが,価値であるのかもしれません。今の若い人は羨ましいです。
純粋にかわいいし,面白いものです。実用性云々は,野暮ってもんです。
そういえば,私が始めて手に入れたオシロは,5MHz帯域の1現象で,リードアウトもカーソルもない,単純なものでした。
当時バイトしていたデジットに入荷したいくつかのジャンク測定器のうち,どれか1つを買って帰りたいと店長に相談したところ,ちょっと高い(とはいえ5000円)けど,これがいいと選んでもらったものでした。
当時はプローブのことも全然知らず,同期方式の違いもわかってなくて,気が付いたらそれがトリガ同期式だったという感じだったのですが,後日店長にトリガのツマミをどういじるのかを尋ねたところ,これが使いこなせたら一人前とニヤニヤされた覚えがあります。トリガがオシロスコープのキモである事を,その時知ったのでした。
使いやすいものではなく,結局あまり出番もないまま,2465Aを手に入れてから他の人に譲ってしまったので手元にはありませんが,とても大事にしていた事はよく覚えています。テスターもそうなのですが,最初の1台というのは,心に残るものですね。