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2010年01月の記事は以下のとおりです。

iPadに思うこと

 噂が先行し,おそらくApple自身の計画的なリークによる情報操作に踊らされてきた人たちが多いなか,実際に発表されたiPadには,比較的冷ややかな反応を示す人が多かったようです。

 私自身も,概ね予想通りという印象で,特別にすごいとか思うことはありませんでした。価格についても$499というのは16GBモデルの話であり,IPS液晶という高品位なディスプレイと720pまでの動画が扱える機器として考えた場合,メモリカードスロットを持たず増設が出来ないことから考えても,16GBでは心許ないというのが実際の所ではないでしょうか。

 Appleにいつも感心させられるのは,ある製品を出すという時に,その理由を明確に説明し,そこから与えた商品の役割(大げさに言うと社会的使命)が,どんな問題を解決するのか,と言うロジカルなストーリをきちんと説明する点です。

 他のメーカーでは,簡単にターゲットユーザーと,今回の製品の特徴を箇条書きに述べたくらいが関の山ではないでしょうか。そこから先のストーリは,受け手が考えることになっているわけです。

 そういう状況だからこそ,雑誌やWEB媒体のライターやアナリスト,あるいは評論家という職業が成り立つのだろうと思いますが,Appleの場合にはストーリはすでに公になっていますから,そこから先の話を膨らませて「創作する」うまさが求められるわけで,これはなかなか難易度が高いなあと思います。読む側もAppleの信者だったりするので,中途半端な内容では怒られますしね。

 それはいいのですが,発表直後という事もあり,誰の記事を見ても似たようなことを書いてあり,入ってくる情報(あるいは出しても良い情報)が立場によらず公平に少なく,よって内容の差別化がいかに難しいかがわかります。

 なので私が詳細なスペックを述べても仕方がないのですが,ちょっと気になることをさっと書いておこうと思います。

(1)USBホスト

 あまり触れている人がいないのですが,iPadはメモリカードスロットがない代わりに,30ピンのDockコネクタに直接差し込むタイプの,カードリーダがオプションで用意されます。同時に,デジカメを直接接続できるように,USBのAコネクタをDockコネクタから取り出すオプションも登場します。

 大きさなどから考えると,素直にDockコネクタにUSBホストが出ていると考えるのが普通で,ということはiPadはUSBのホストの機能を持っていることになります。これはiPhoneやiPodTouchとは異なるもので,大きな可能性を秘めています。

 もっとも,物理的にインターフェースが用意されても,デバイスドライバがなければ意味がなく,現在,そして今後どういうデバイスがサポートされるのか気になりますが,少なくともマスストレージクラスはサポートされたという事でしょうから,大容量のHDDなどは接続できる可能性が高いでしょう。

 もし,マウスやキーボードが繋がると幅が広がりますし,GPSモジュールやプリンタやWEBカメラ,USB接続の各種通信ユニット(PHSとかWiMAXとか)などが繋がると,iPadの弱点が克服できることになるでしょう。これはなかなか楽しいことになりそうです。

 大事な事は,iPhoneが完全に受け身なデバイスなのに,iPadはそれでもマスターになる可能性を秘めたデバイスだという事です。あのくらいのリッチなハードウェアであれば当然ついてくるだろうと思えることではありますが,そこを思想や戦略からあえて「否定」してきたのが,これまでのAppleです。


(2)電子書籍

 これについてはいろいろな意見が出ているので私もその程度の話しか出来ませんが,やはりどんなフォーマットに対応するのかということが最大の問題です。Appleのこれまでの考え方として,コンテンツをきちんと押さえるという事を至上命題としてやってきましたから,DRMもオリジナルで,しかもゆるめのものが用意されるのではないかと思います。

 そうするとKindleはもちろん,他の端末で購入したコンテンツが読めなくなりますが,これはiPodでもそうだったので,不思議ではありません。

 ただ,iPadは「高品位なオールラウンド受け身マシン」ですので,音楽専用マシンだったiPodの時とはちょっと事情が違うと思っていて,電子書籍という分野を本気でAppleが押さえ込もうとしているようには,まだ見えません。

 テレビや動画の販売にしても,まだ日本では定着しているわけではありませんから,日本国内でiPadが日本語の書籍を扱えるようになるのはまだまだずっと先の話になるでしょうし,もしかすると実現しないのではないかと思えるほどです。

 思い出すと,iPodはMP3で登場し,後にAACに移行して音楽配信が始まりました。コンテンツ作成という視点から考えると,あるフォーマットへのエンコードという作業が負担になってしまうと,やっぱりそのフォーマットではコンテンツは揃わなくなります。

 音楽の時にはATRAC3にこだわったソニーが失敗したように,電子書籍の分野でもおかしなこだわりを持つことは,命取りになると思います。だから,Appleが本気になるのはもう少し後じゃないのかなあと,思ったりするのです。もっとも,ePubにAdobeのDRMが事実上の標準となる可能性が高いと思いますが,Appleはこれにのらず,iTunesStoreと同じ,ePubに独自DRMという線で来るだろうなと,思っています。


(3)ゲームマシンとして

 これもあまり話に上がっていませんが,iPhoneの成功には,AppStoreの役割が大きいです。あとから機能を拡張できる携帯電話として考え出された仕組みでしょうが,これだけの規模と内容になると,もう機能をコンテンツ扱いしているといってもいいくらいです。

 当然ゲームのプラットフォームとしても注目されているのですが,iPhoneがPSPやNintendoDSなどと同じ程度の能力だとすると,iPadは据え置きのゲーム機,つまりコンソールの能力に近いところに迫ってきます。

 iPadを,1GHzのCPU,64GBのストレージ,1024x768という高精細なグラフィック,そして通信機能を備えた携帯ゲーム機だと考えて,しかもソフトはダウンロード販売だと考えると,いきなりPSPやNintendoDSを追い抜いてはるか先に行ってしまった感じがしませんか。

 SCEもNintendoも,ソフトの配信を軸にしたいという気持ちは強い一方,旧来の流通との兼ね合いがあって,慎重にならざるを得ないところがあるはずですが,Appleにはそんな縛りはありません。これだけでもすごいことだと私は思います。

 そして,USBホスト機能とBluetoothです。これらで専用のゲームコントローラを用意することだって出来ます。AppStoreの,コンテンツを作る側の魅力というのは今さら説明の必要がありませんが,そうやって優良なゲームを集め,それを目当てにiPadを買う人が増える,ということが起き始めると,もうその流れは止まらないのではないでしょうか。

 え,iPadだと大きすぎてPSPやNintendoDSと直接競合しないよ,ですか?いやいや,もし,iPhoneのサイズで,iPadと同じ事が出来てしまったらどうですか。手のひらサイズで720p,手のひらサイズで1024x768ドット,手のひらサイズで1GHzです。そしてそれは明日にでも出来るくらい,現実的な話です。


(4)マルチタスク

 がっかりした人のなかには,マルチタスク(これは携帯電話の文化でのみ通用する表現ですね)でないことを,その理由に挙げる人も少なくないのですが,これは早い時期に実現すると私は見ています。

 iPadのホーム画面には,iPhoneと違ってきれいな壁紙を貼り付けてあります。Apple自身も画面の大きさを意識している証拠だと私は考えていて,それはマルチタスク,あるいは複数のウィンドウを重ねるなど,広さの恩恵を実感できる仕様やユーザーインターフェースを今まさに仕込んでいる,と言うことではないかと思っています。

 どう考えても,iPhoneはHalfVGAという狭い画面を有効に使うに適した,ユーザーインターフェース設計がなされています。これをそのまま9.5インチのXGAに適用してもいいはずがありません。だからiPad用のインターフェースを用意してくると私は思っていました。

 そうするとiPhoneとの共通性が問題になるのですが,ここでiPhoneOS4が大幅に操作体系を変えてくる可能性が浮上してきます。iPadは今は大きなiPhoneですが,iPhoneOS4ではiPadとiPhoneの両方が使いやすいOSになるということです。

 自ずとiPhone4GのCPUはiPadと共通化され,従来機種に比べて画素数も処理能力も上がり,違いは通話機能の有無と手のひらサイズかどうか,だけになります。これまでのiPhoneとの互換性は失われる面が出ますが,時期的にそろそろ世代交代が起きてもいいころでしょう。


(5)CPU

 Apple A4というSoCが使われていることが発表されていますが,詳細は不明です。しかし,連続駆動時間が10時間,スタンバイでは1ヶ月というスペックと1GHzという処理能力から考えると,これは低消費電力にかなり腐心した個性的なCPUであることがわかります。

 iPhoneとの互換性からコアはARMであることは間違いないでしょうし,1GHzで動作するプロセッサコアとして普通はCortex-A9あたりだと思います。

 Cortex-A9は,単純にスーパースカラだとか1GHzだとか,そういう所での性能の高さよりもむしろ,バスの能力の高さに注目すべきと私は思っています。一例を述べると,CPUコアとペリフェラルを繋ぐ内部バスは,データの流れる順番を入れ替えて効率を上げるアウトオブオーダを行う能力があります。高性能なプロセッサの最大の足かせであるバスの高速化を,各社のIPの組み合わせで気軽に利用可能なっているという環境は,なかなか得難いものがあります。

 そしてなにより,PAsemiconductorの買収の成果がこれだった,と言う点です。PAsemiconductorが,DECでAplhaを手がけた人たちが立ち上げたCPUメーカーであったことを知る人は多いと思いますが,かつてのDECはAlphaも,そしてStrongARMも,世界最高のタイトルを取るような,非常に個性的な高性能プロセッサを設計できる強力なメーカーでした。

 最終的にその遺伝子は,AplhaはAMDに,StrongARMはインテルに受け継がれますが,実のところ多くのエンジニアが反発し,会社を興した人もいます。

 かつて,StrongARMを設計した人々のうち,インテルには行かずにMIPS系の低消費電力プロセッサを設計したAlchemySemiconductorもそうです。ここは結局AMDに買収されるのですが,PAsemiconductorも,そんなベンチャーの1つでした。

 これがAppleに買収されたとき,多くの人が「なにをするつもりだ」と思ったようです。なかには「人が欲しいだけだ」という人もいたくらいです。なぜなら,AppleはCPUを内製しないと。

 しかし,結果は違いました。製造は他の会社がやってるでしょうが,設計はおそらく,Appleがやってます。1GHzのコアにXGAをサクサク動かすグラフィックパワー,DDR2やDDR3のメモリコントローラも搭載しているSoCで,あの低消費電力っぷりですから,これは当分の間,Appleの強力な武器になります。

 消費電力が下がるといいことずくめです。電池寿命が延びる,同じ電池寿命なら電池が小さくても済む,すると小さく作る事が出来る上,安く作る事もできます。内部の回路,特に電源回路も小さく安く作る事ができますし,熱設計も簡単になります。消費電力が下がることで,悪い話は本当に1つもありません。

 おそらく,このSoCの設計者は,いい仕事をしたという満足感に浸っているでしょうが,世間の評価がそれほど自分達に向かないことに,がっかりしているんじゃないかと思います。まあ,元DECのサムライが,そんなことを気にするとも思えませんが。


(6)立ち位置と価格

 IPS液晶という高価なLCDを用い,MacBookとiPhoneの間をねらうというのはわかりやすいですが,実はMacBookが$899になっているので,お買い得感はありません。たぶん,次の世代のiPadになって値段も下がり,それでようやく売れるのではないかと思います。つまり,iPhoneのように,ヒットが約束された商品ではないということです。

 iPodではWalkmanの,iPhoneには携帯電話の,それぞれの市場を奪うということが成功の方法でした。しかしiPadには奪うべき市場はなく,売れるためには市場を作らねばなりません。これはとても大変なことです。そして一貫したビジョンと着実にそれを進めるコンセプトが形になるというのも,そうそう出来ることではありません。

 電子書籍の分野1つとっても,おそらく端末の価格が下がり,最終的に会員には無料で提供されるようになるでしょう。そうなったとき,iPadは電子書籍端末として急激にその存在感を失うことでしょう。そこをどうやってカバーするのか,気になります。


 ということで,iPadについて思いつくことをつらつらと書いてみました。1年経ったとき,このiPadがどちらに向いているのか,結果の如何にかかわらず,とても楽しみです。

GPS時計 - 後日談

  • 2010/01/28 17:01
  • カテゴリー:make:

 先日,ここをご覧頂いているある方からメールを頂きました。

 内容は,GPS時計を作ったが動かない,なにか思いつくことはないか,ということでした。

 昨年末にAVRのtiny2313を使ってGPS時計を作り,その顛末をここに書いたのですが,私にしては珍しくソースも公開したので,自分も作ってみようと思って下さった方がいらっしゃったようです。

 最初に申し上げておかねばならないのですが,この日誌は自分のためのメモがわりなので,他の方が見て問題なく制作できるほどの情報を書いていません。今回のGPS時計にしても,実は回路図はどこにも書いていませんし,ソースの変更履歴もありません。さらに掲載した画面の写真は最新のソースのものではありません。

 ということで,誰もこんなの作ってみようと思わないだろうと,不親切きわまりない内容だったにもかかわらず,果敢にも実際に手を動かした方がいらっしゃるとは,ちょっと驚くと共に,申し訳ないなあという気がしました。

 頂いたメールは非常にシンプルで,「SATと20だけが表示されあとは何も出てこない」ということだけが書かれていました。

 うーん,正直なところ,これだけでは原因として思いつくことがあまりに多すぎて,ちょっと答えようがないなあ,と思っていたのですが,まず最初にピンと来たことを中心に答えることにしようと考えました。

 私のお返事は,

----
 その原因として,思いつくものを列挙します。
LCDに表示が出ているので,AVRとLCDは動作していると
仮定します。

 また,ソースは「GPS時計 - 完結編」にある
最新版(起動時にV1.33と出る)であるとします。

(1)GPSモジュールのボーレートを変更していない。
 購入直後の設定は9600bpsなので,これを
 19200bpsに設定する必要がある。(やりかたは
 ぐぐってください)

(2)AVRを外部発振で動かしていない。
 AVR側のボーレートは,内蔵発振では
 補正を入れないと正確にならず,受信出来ない。
 (最終版のV1.33では20MHzの外部発振でなくては
  動きません)

(3)書き込み時のヒューズビットの設定ミス。
 特に外部発振の設定はヒューズビットで行うため
 適切な設定を行う必要がある。

(4)配線ミス。
 GPSモジュールのピン配置は?
 GPSモジュールの信号レベルは?
 GPSモジュールは動作している?
 単純な配線ミスは?
----

 としました。

 ピンと来たというのは(1)もしくは(2)の話で,表示も出ていることからAVRは動作しているし,通信が出来ていない時にこの症状になることは私も経験しているので,この2つを確かめてもらおうということにしたのです。

 とりわけ(1)は,GPSモジュールに手を入れて,ボーレートをデフォルトの9600bpsから19200bpsにしないといけないことを詳しく書いていなかったので,可能性は低くないと思いました。

 (2)も実際に実験したのですが,内蔵発振器でクロックを用意する場合,その周波数は結構ずれるため,正確なボーレートになってくれません。それでAVRライタを使ってある領域に書き込まれている補正値を読み出し,その値を周波数補正レジスタに書き込んで8MHzを作る事が必要になります。

 私が実験したというのは,あるチップで有効な補正値を別のチップに書き込んだらどうなるかだったのですが,予想通りボーレートも狂ってしまい,受信が出来なくなりました。結構面倒な話なので,私はUARTを使う場合には外部に発振子を用意しようと,この時から考えるようになりました。

 (3)は今回の現象を直接引き起こすか確証はないのですが,私の思うAVRの欠点の1つだと思うことでもあるので,書いておきました。

 AVRもマイコンですから,ソースをコンパイルしバイナリを生成し,これをライタで書き込むことで動くようになります。ただ,AVRの場合それだけではだめで,書き込み時にライタによってヒューズビットを設定しなければなりません。

 私が嫌だなと思うのは,ヒューズビットの設定をファイルに保存しておけないことです。ソースもバイナリも保存できるので残しておけますが,ヒューズビットはメモで残すか,テキストファイルで残すかした上で,ライタにいちいち設定しないといけなかったりします。(なにかいい方法があるのかも知れませんが,ライタによらない共通のフォーマットで保存出来なければ意味がありません)

 しかも,ヒューズビットの設定をあやまって,外部発振子を使わずに外部発振モード設定にしてしまうと,ISPでの書き込みが出来なくなってしまいます。ごく普通に使われているライタはISPですので,それしか持っていない人にとって,復活の方法がないという恐ろしい状況がおこります。

 チップごとに設定が異なっていて,しかもマイコンが動作する前に設定をしないといけないような部分があって,そこをヒューズビットにするという考え方は普通だと思いますが,それならそれでAVRstudioでヒューズビットの設定を行う事にし,バイナリと一緒にヒューズビットの設定ファイルを生成して,ライタはそれらをただ書き込むだけ,と言うふうにしてくれた方がよかったと思います。

 まあ,そんなことを言っていても仕方がありませんが,とにかくヒューズビットは回路によっても変わってくるので,作った方に再確認をしてもらうしかありません。


 翌日,お返事を頂きました。

 無事に動いたという事です。よかったよかった。

 原因は,GPSモジュールのボーレートを変更していなかったことにあったとのこと。私の勘もなかなかのものです。

 一緒に,正常に動作した状態の写真も送って下さいました。LCDは秋月あたりでよく売られているものをお使いのようですが,私はデジットで買った大きめのものを使っているので,同じ画面が小さい液晶で表示されたものを見るのは当然初めてです。

 こうしてみると,自分が作った覚えのないものが,同じように動いているのを見るというのは,なんだか不思議な感覚になります。自分が手を動かして作ったものは,やっぱり強い記憶に残りますから,写真を見てもなんとも思わないのですが,自分が作っていないものが同じ動作をしているのをみると,「あれこんなのいつの間に作ったのかな」という感じになるのです。

 もしかすると,突然「あなたの子よ」と子供の写真を見せられたら,こんな気分になるのでしょうか。

 私は,自分の電子工作は,自分が楽しかったらそれでいいという動機でやっていることなので,積極的に他の方に作って頂こうなどと思ったことはありませんから,今回のことは意外だったなと思うのと,こんなものでも興味をもって作ってみようと思って下さった事が,素直にうれしいと思いました。

 余談ですが,エレキジャックのNo.16に,私も使ったGPSモジュールであるGT-720Fを使って,GPS時計を作った例が記事として出ているようです。

 なぜかある領域でブームになってるニキシー管を使っているのも売りのようですが,私が疑問なのは,GT-720Fのような1PPS出力がないモジュールを使っておきながら,正確とか原子時計レベルとかいっていいものなのかな,ということです。

 GT-720Fというモジュールは,1/10秒や1/100秒の桁がゼロになっている時刻にだけ,時刻情報を送信してくるというわけではありません。

 つまり,12時12分12秒00という時刻情報が送られて来るとは限らず,12時12分12秒99といった,1/10秒や1/100秒の桁が0以外の時刻情報を送ってくることがあるということです。

 だから,単純に受信データのうち,1秒から上の桁を表示するだけでは,最悪1秒近いズレを発生させてしまうことになります。

 そりゃそうですね,GT-720Fは,12時12分12秒99の時点で「12時12分12秒99ですよ」と時刻情報を送信しているに過ぎませんから,受けた側がそれを勝手に12時12分12秒と表示したら,約1秒ずれますわね。私はここで,随分苦労しました。

 エレキジャックには最近愛想を尽かしてしまっているので買っておらず詳細は分からないのですが,ちょっとだけ気になってサポートページにあるソースを見ると,特別な処理は行っておらず,1/10秒以下を単純に切り捨てて表示させ,結果的に最大1秒のズレを発生させる可能性があります。

 もちろん,私がやったような方法で1/10秒以下を考慮しても,1PPS出力がなければGPS衛星に搭載される原子時計に同期したパルスを手に入れられませんから,12時12分12秒00になってから12時12分12秒00と送信されたデータを受信して表示をしているようでは,どうしたって遅れが生じます。これはGT-720Fを使う限り避けようがありません。

 なのに,原子時計レベルの正確な時計だ,というのはかなり無理があるように思います。私がおかしいのかなあ?

 みんな,電波時計なんかと比較しないんでしょうか・・・作りっぱなしで比較もせず,GPSで得られる時刻情報は原子時計レベルなのだという知識だけで,盲目的に自分の作った時計も正確だと信じちゃうのでしょうか。

 さて,同じ電子回路の設計技術を持つ者でも,量産品を設計するプロと,アマチュアとの間には大きな差があります。プロは1000個や10000個を「同じように」「効率よく」作る事を前提として設計を行う事になります。アマチュアは1つ動けばそれでいいので,極端な話,全部の抵抗を可変抵抗にしても別に構いません。

 こうした差から生まれる決定的な違いは,プロは記録を残すことも仕事と考えていることです。自分がいなくなっても同じものが作れるようにするには,詳細な記録がなくてはなりません。それが回路図であり,ソースコードであり,履歴であり,各種のドキュメントです。

 アマチュアはこういったものをあまり積極的に残しません。プロは,残すだけではなく,誰が見ても同じ結果になるように,決まったフォーマットで残す事を求められます。

 仕事なんだから当たり前なのですが,何が言いたいかというと,アマチュアも,しっかりしたドキュメントを残すべきだということです。私もGPS時計について,自宅にはちゃんとした資料を残しています。

 最近,電子工作を楽しむ方が増えているようです。それはとてもよい事ですし,長年楽しんでいる私にとっても心強いものがありますが,設計,製作,測定,考察,というプロセスをきちんと踏んで,それらをきちんと記録して残しておくことを特におすすめしておきたいと思います。

 必ず次に繋がりますし,飛躍的にその人の技術力を高めます。なにより,後で読み返したら面白いですよ。

 とくにオーディオマニアでアンプなどを自作する人に言いたいのですが,地に響く低音とか伸びのある高域とか静寂が身を包むとか躍動感あふれるとか艶やかなボーカルとか,そんなことを「作った結果」として誇らしげに言ってるだけじゃ,ダメですよ。

ギガビットのハブを導入

  • 2010/01/19 11:19
  • カテゴリー:散財

 プラネックスの直販サイトで時々行われているアウトレット販売で,ギガビット用の5ポートハブが1つ2700円だったので買ってみました。

 5ポートですから今時特別安いと言うわけではないのですが,AC電源内蔵,消費電力3.3W,ファンレスで電解コンデンサに日本製を使用,と長期間の使用を前提にすれば価値の出てくる製品です。

 特にこの3.3Wというのは重要なポイントです。

 私が自宅の現在のネットワーク環境を整えたとき,5ポートの100Mのハブを2つ使って,モデム/ルータからまず1つ目のハブでサーバにつなぎ,そこから長いケーブルで別の部屋に引っ張り,その部屋の別の5ポートハブでPS3やPC,WLANにつないでいます。

 24時間動かすハブですから,ファンレスは当たり前として,消費電力が小さい事を狙って探したのが,プラネックスのFX-05Pという製品で,最大2Wです。当時ここまで消費電力の低いハブはなかなかなかったことを思い出しました。

 後にもう1つ必要になって買いに出かけましたが,その時はFX-05Pが終了し,FX-05P2になっていました。残念な事に,消費電力は最大で5Wと増えており,FX-05Pには付属していたUSBからの給電ケーブルも付属しなくなっていました。(ただし,現行のFX-05miniだと最大1.8Wまで小さくなります。)

 やむなくFX-05P2を買ったのですが,その後アウトレットでFX-05Pを見つけ,これを買って入れ替えることで,我が家のネットワーク環境は落ち着きます。

 しかし,一昨年だったと思うのですが,突然ネットワークが繋がらなくなってしまいました。調べていくとどうもハブが壊れているっぽいです。外してあったFX-05P2に交換すると復旧しますので,これはもう壊れたと判断するしかありません。

 FX-05P2の消費電力が5Wもあることを気にしていたところに,ギガビットのハブで3.3W,しかも2700円という今回の話があって,飛びついたという話です。

 とはいうものの,我が家のギガビット搭載マシンはMacBookProのみです。しかもこれはWLANで繋がっていますので,このハブの最大の特徴であるギガビットの恩恵を,全く受けることが出来ません。ちょっと惜しい気もしましたが,まあいいでしょう。先行投資です。

 結局2つ購入しましたが,FX-05Pが1つ壊れていませんので,今回リプレースするのはFX-05P2のみとし,1台は新品のまま温存することにしました。

 交換はわずか15秒で,交換前後でなにも変わったことはありません。

 例えば,大きな動画のデータをやりとりするとか,NASを用意したとか,そういう事になるとギガビットの価値が出てくると思います。そのためには,クライアントもギガビットにしないといけませんが,WLANの便利さを知ってしまった以上,ワイアードである煩わしさに打ち勝つ速度上のメリットが出てこないと,切り替えは難しいかなと思います。

 本当は地デジマシンをギガビットにするといいのでしょうが,PCIスロットは埋まっていますし,USBで繋ぐのも抵抗があるので,まだ思い切っていません。

 まあ,そのうち引っ越しをして,ネットワーク環境も再構築となるでしょうから,その時にギガビットに出来るものから考えてみたいと思います。

QuietComfort15を買う

  • 2010/01/18 15:47
  • カテゴリー:散財

 BOSEのノイズキャンセリングヘッドフォン,QuietComfort15(以下QC15)を買いました。アップルストアからWEBで購入,価格は値引き無しの39900円でした。即納だったので注文の翌日には届きました。

 なぜ,こんな高価なヘッドフォンを買う羽目になったのか,ですが,私の上に年末に引っ越してきた人の物音に,弱り果てているからです。

 今の部屋に入って8年にもなるのですが,これだけ物音の大きさにビクビクして過ごすのは初めてのことで,追い詰められるような恐ろしさにおびえているという感じです。

 もともと木造のアパートで,足音や扉の開け閉めが響くのは織り込み済みなのですが,かかとでドスンドスン歩く音がまず強烈で,天井の蛍光灯がビリビリと音を立てるほどです。最初は地震かと思いました。

 扉を閉めるときも,勢いよくパーンと閉めるので,それはもうすごい音がします。そしてじっとしていないらしく,ウロウロ歩き回るのですが,どこにいるのか手に取るように分かってしまいます。

 その割には夜は早く,11時に寝てしまうこともしばしばです。当然朝は早く,6時に起床,6時40分には出勤という感じです。私は8時まで寝ていられる恵まれた環境にあるのですが,仕方なく耳栓をして寝ていても,6時には必ず起こされてしまいます。

 どういうわけだか土日も出勤のようですし,出勤時間も帰宅時間もバラツキがあり,まだ規則性が飲み込めていません。二人いるときもあるようですが,平日は一人だけでいるようです。(ということも丸わかりなんです)

 自炊する人ではないようで,家にいるときでもお昼時と夕食の時間には1時間ほど外出してきます。

 てなわけで,まるでストーカーみたいな気分ですが,なにせ家にいても落ち着かず,一時食事も出来ないほどでした。12月の中頃から少しずつ荷物を運び始めたらしいのですが,その時から年末年始の間,毎日毎日不意にゴトゴトと音をさせ,その神出鬼没な攻撃に,さながらベトコンにおびえ心を病んでいくアメリカの新兵の気分でした。

 相手も悪気があってやってるわけではありませんし,朝6時の起床だって別に普通です。夜は早く寝てしまって夜中も静か,土日も不在が多いので,非常識と呼べるものは何一つなく,ただ,普通の足音が強烈だ,ということだけなのです。

 だから,苦情をいうのも難しく,ある程度の我慢は必要だろうと思う訳ですが,この部屋に来て8年,一人暮らしをはじめて15年になる私にとって,怖いと思うほど大きな歩く音は,未経験です。

 そういう歩き方をする人って,世の中にはいるでしょうし,今までそれで困ってこなかったのだろうから仕方がない気もしますが,誰かが下にいるかどうかを意識するまでもなく,いい大人が,大きな音を出して騒々しくドカドカ歩くということが,私にはみっともない事と思えてなりません。そういうことを気にしない親御さんだったんでしょうね。

 まあそれはそれとして,引っ越しをするにしてもすぐには無理,すでに会社から家に帰ることが嫌で,家にいてもずっと鼓動が早く,落ち着かない状況でいるのは体に悪いだろうと危機感が募っていました。

 寝るときは耳栓をして,かつ音が最も大きい扉の音から遠くなるように布団の向きを変えていますが,それでも目が覚めるくらいの音ですから,耳栓無しで過ごさねばならない起きている時間帯をどうにかしないと,もう参ってしまいます。

 そこで思いついたのが,ノイズキャンセリングヘッドフォンです。

 電子耳栓ともいうべき,最近流行っているこの電子機器ですが,私はかなり否定的な人でした。これは,電気の力を使って聴力を落とす機械です。不自然という直感的な気分が1つと,周囲からの情報を遮断するという事は,社会との関わりをカットするという意思の象徴的行為であり,それは自ら「孤独」を肯定し作り出しているという,究極の個人主義の形であると思ったからです。

 しかし,もともとノイズキャンセリングヘッドフォンは航空機の騒音をキャンセルして快適に過ごすことを目的に生まれましたし,戦闘機など軍事用途への応用では,パイロットの耳の保護が目的で採用されたりという,非常にまっとうな目的がその源流にあります。

 今回は,もう防ぎようのない「嫌な音」を防いで,心身ともに疲労するのを防ごうということですので,娯楽製品と言うよりも医療機器に近いという位置付けで,私は導入を真剣に考えることにしました。

 ノイズキャンセルヘッドフォンは今ブームですので,あちこちのメーカーから,高価なものから安価なものまで,それはもうたくさんの種類から選ぶことが出来ます。ただ,動作の確実な高価なものは実質2社で,BOSEとソニーです。

 ソニーは信号処理をDSPで行うディジタル方式で,実売が3万円ちょっとという感じです。性能の高さも定評があります。一方のBOSEはアナログ方式ですが,さすがに老舗ですし,30年もこの分野のリーダーだった会社ですから,作るものは確実でしょう。事実,BOSEのノイズキャンセリングヘッドフォンで,その消音効果に不満は一切耳にしません。

 BOSEではQC2,QC3,そしてQC15の3つが現在買うことの出来るものですが,QC3は耳の上から押しつけるタイプなので耳が痛くなり,長時間の使用には耐えられないと思われますので最初から除外。QC2とその後継のQC15になりますが,QC15は価格も下がり,電池も単4が1本であること,そして連続35時間動作するということで,申し分のない仕様です。

 私は,サーっというバックグランドのホワイトノイズがものすごく気になる人で,ノイズキャンセリングヘッドフォンがノイズを発生させてどうする,という笑い話に使うほどです。このノイズの大きさに関して言えば,ソニーの評判は今ひとつのようですが,対するBOSEは,最新のQC15についてはほとんど聞こえないとい話です。

 もう1つ,QC15は直販モデルなので,量販店では買えません。直営店では試すことも買うことも可能ですが,そんなにあちこちにあるわけではありませんし,もちろん値引きもポイントもありません。一方のソニーのものはどこでも手に入ります。この安心感というのは,心理的に結構大きなものがあります。

 散々悩んだのですが,QC15については悪い評判を本当に聞かないということで,もうこちらに決めました。あまり長い時間悩むことは,購入理由から考えて得策ではありません。とにかく急いで最高のものを手に入れることが,今回は重要なのです。

 BOSEの直販サイトへ行くと,納期が数日かかるという事で,次に探すのはアップルストアです。アップルストアではリアル店舗でも在庫があったりするそうなので,渋谷あたりに出向いてもよかったのでしょうが,24時間以内に発送可能ということで通販を使う事にしました。どのみち値引きもないのですから,もうどこで買っても一緒です。こういうのも気が楽なものです。

 さて,翌日届いたQC15,早速使ってみました。


(1)消音効果

 最初,すーっと周囲の騒音が消えたことに感心しましたが,私は耳栓をして眠る人なので,音がきこえないことを珍しがったり,とりたてて感動したりはしません。それで,実際に自分で扉の開け閉めをしたり,壁をコンコン叩いたりしてみましたが,どうもそうした音は良くきこえるんです。

 期待はずれかなと思ったのですが,そうした音を出していても,全然不愉快にならないことに気が付きました。

 つまり,私が嫌だと思っている低い音,特にドスンドスンという音については,確実に消えているんですが,扉が閉まるときのカーンという音や,人の話し声などはそれほど消えず,耳に入ってくるのです。

 また,近くで行われているマンションの工事の音も,ほとんどきこえなくなりました。特に重機のエンジン音は全くと言っていいほど聞こえず,金属があたるカーンという音くらいがきこえてくるので,工事をやっていることは分かりますが,不愉快な音は消えています。

 もともと飛行機のエンジンの音を消すために生まれたヘッドフォンで,特に不愉快な周波数の音を小さくすることが目的ですから,私が怖いとか不愉快と思う周波数成分を,きちんとカットしてくれているのでしょう。

 すべての音をカットしてしまうと,本当に周囲から切断されて社会性を失いますが,これは音として出ている情報のうち,人間が苦手な周波数成分をカットして,それ以外は聞こえるようにすることで,外部の状況を見失わず,また自我をきちんと保てるように絶妙な調整がなされているようです。

 技術的に全帯域を消すことも可能かも知れませんが,それこそ聴覚を失うに等しいわけで,外からの適当な情報の流入を防いでしまうと,その弊害の方が大きいはずです。QC15が見事だなと思うのは,ちゃんと外からの情報を通して使用者の実生活に支障のないようにした上で,不愉快だったり有害だったりする部分をきちんと消すことにあります。どこをどれくらい消せばよいのか,そこが各社のノウハウになるのでしょうが,QC15のそれはかなりのものがあるように思います。

 ここで,私はノイズキャンセリングヘッドフォンを,周囲の音を逆相で打ち消すという「音を消す装置」と思っていたことが間違いで,特定の周波数成分を取り除くものという認識に改めました。

 そもそも密閉型のヘッドフォンですので,スイッチをオフにしてあっても,かなりの音が遮断されます。だから,この段階でかなり情報量が落ちているとは思いますが,そこもまあ絶妙で,人の話し声や物音は消えません。

 不愉快な音の成分についてつらつら考えたのですが,危険な事,命にかかるような事が起きている,もしくは起きそうな時に出ている音に,どうも落ち着かないのではないかと思います。

 それはもう反射的な連想ともいえるのですが,例えば電話の呼び出し音や玄関の呼び鈴にどきっとしたり,扉をドンドンと叩く音に怯えたりという話は,実体験を持つ方もいらっしゃるでしょうし,そうでなくとも話くらいは耳にされたこともあるでしょう。

 そういう成分をカットすれば,安心して生活が出来ます。完全に音を消すとかえって危ないのは自明ですが,外で何が起きているかを知るくらいの情報はきちんと入ってきます。それがさらに安心と落ち着きに繋がります。


(2)バックグランドのノイズ

 ノイズキャンセリングヘッドフォンに付きものだったバックグランドのノイズですが,評判通りほとんど聞こえません。かなり優秀だと思います。


(3)装着感

 装着感も抜群です。パッドが柔らかすぎず硬すぎずで快適なこと,左右からの締め付けも適度で圧迫感は少なく,ヘッドバンドの位置もちょうど良いので,少々首を動かしたくらいでは外れたりずれたりしません。軽いこともあって,しっかり装着出来ている上に,付け心地もとても快適です。私はこれを4時間ほどしていましたが,付けていることを忘れるほどでした。


(4)音質

 音質については,私はそれほど求めていませんでしたから,まあどうでもよかったのですが,実際の所音を消してしまうと,テレビやオーディオの音はこのヘッドフォンを経由して聞くことになってしまいますから,実は音質は結構重要なポイントと言えます。

 QC15の音は,低音がやや強い傾向にあり,高域の伸びがないことと,解像度が低いことがまず最初に気になりました。ロックやポップスだと元気が良くてばっちりでしょうが,クラシックやジャズを聞き込むには,ちょっともの足りません。

 スタックスのヘッドフォンと比べるのも間違いですが,切れ味やスピード感は今ひとつな印象です。ですが,聴き疲れすることのない音で,中域の豊かさからくるボーカルの自然さには,とても心地よいものを感じました。

 加えて,ノイズキャンセルの効果も絶大で,静かな環境だけに良く音がきこえます。長時間の利用に対して,音で疲れるということが全くない味付けに,BOSEという会社のノウハウの高さを感じました。


(5)電池

 電池は前述の通り単4を1本です。QC2やQC3が専用の充電池だったことを考えると,非常に望ましい進化です。1本で35時間ということですから,1週間くらいはつかえるでしょう。私は付属のアルカリ電池がなくなったら使おうと,エネループを用意しました。


(6)外観,デザイン,質感

 外観は見たままですが,シルバーが目立つデザインはちょっとぎょっとするので,もう少し落ち着いたデザインにして欲しいと思いました。質感はもともと軽いこともあり,値段よりもちゃちに感じます。ソリッド感がないというか,しっかり感がないというか。決して悪いレベルではないのですが,中国製だといわれれば,その通りかなと思う感じでしょう。


(7)ケーブル

 ケーブルは160cmほどもあり,結構長めです。細いので取り回しは楽な方ですが,それでもテレビやPCに繋ぐと視野にケーブルが入ってきます。手に引っかかりそうで面倒臭いです。また,席を離れるとき,トイレに行くときなど,足先まで届くほど長いケーブルですから,はっきりいって邪魔です。

 大事な事なのですが,ケーブルを本体から外して使えます。本当に電子耳栓として使う事ができるのです。ケーブルが長いのは,ケーブルを外せるようになっているからだと思います。

 なお,ケーブルが外せるようになっているとはいえ,本体との接続は特殊な4極のプラグで,接続機器のインピーダンスに応じてゲインをHとLで切り替えるスイッチもついています。

 私がヘッドフォンを消耗品と考えるのは,ヘッドフォン本体は壊れてなくとも,ケーブルが壊れてしまって使えなくなってしまうからです。せっかく耳に馴染んだヘッドフォンですので手放すのは惜しく,その点プロ用のモニタヘッドフォンには,ケーブルを交換可能にしてあるものもあります。

 QC15もケーブルだけ別売りで購入可能ですので,長く使えそうです。


(8)付属品

 キャリングケース,飛行機の座席にあるジャックを変換するアダプタくらいのものです。キャリングケースは収まりも良く,使いたいと思ったのですが,ヘッドバンドの長さを最も短い状態にしないと収納できず,いちいち調整をしないといけないのは面倒なので,普段使いでは使わないことになりそうです。


(9)まとめ

 実は友人がWalkmanのXシリーズを持っており,週末これに搭載されているディジタルノイズキャンセリングを試してみる機会がありました。

 比べてみると,QC15よりも消えた音の成分が多いという印象です。嫌な低音もしっかり消えていますし,それ以外のものがぶつかる甲高い音も,室内モードに設定するとQC15より良く消えている感じがします。ノイズはやや多いのですが,気になるほどのレベルではなく,かなりよいと感じました。

 しかし,ノイズキャンセリングを行ったときの違和感というか,位相のズレのような感覚というのは,QC15以上のものがあります。QC15はすごく自然なのですが,ソニーのものはちょっとねじれたような感覚がありました。打ち消し用に作った波形の位相の違いでもあるんでしょうか。

 慣れの問題もあるとは思いますが,とにかく私はソニーのものは長時間はきついと思いました。QC15の情報の整理の仕方や装着時の違和感のなさ,快適さは,まさに特筆すべきものがあると思います。

 果たして4万円の価値があるか,といわれれば,これは難しいです。耳を大きな音から守る必要があるとか,工事現場が近く半年ほど毎日騒音に悩まされるとか,物音がうるさくて集中できないとか,そういう状況では確実に意味があると思います。

 特に,ノイズキャンセリングという機能に必要性がある人というのは,長時間の装着が避けられない人も多いことでしょう。装着感が優れていることは必須ですし,音も聴き疲れしないようになっていることは,長時間使用にとって最低限欲しい性能です。

 私自身は,これまで自分の部屋の真そばの3方向がマンションの工事だったことがあり,特に重機のディーゼルエンジンの音に随分と悩まされてきました。それがこれでスカッと消えたわけですから,どうしてもっと早くにこれを買って幸せにならなかったのだろうかと,後悔をしています。

 相手が原因で発生した不愉快に4万円かけて対策するという事に抵抗のある人もあるかと思いますが,相手に落ち度がなく,また社会というのは持ちつ持たれつな所がありますので,むしろ4万円くらいで問題が解決するなら安いものといえるかも知れません。

 最後になりますが,例えば子供の騒ぎ声が不愉快だからとこれを買っても,おそらくそれほど消えません。きっとがっかりすると思いますが,それを消さないこともBOSEのノウハウだと思うしかありません。また,これを装着して外出すると,音はそこそこ聞こえるので油断しますが,危険を察知するのに必要な成分の音が消えていて,エンジンの音とか電車の音などは消えて危険ですから,基本的に装着して出かけないことをおすすめしておきたいと思います。

 ところで,ケーブルの長さに面倒臭さを感じたときは,Bluetoothでワイヤレスにするとばっちりです。私も地デジマシンのUSB端子にドングルを取り付け,手元のステレオヘッドセットを使ってワイヤレス環境にしてみました。

 結果は上々で,もうあのケーブルをだらだら引っ張ろうとは思いません。ヘッドフォンを自由に選んで使えるステレオヘッドセットはまだ少々高価ですが,QC15との組み合わせは本当に快適です。

さようならラジオ技術

 ラジオ技術,と言う自作オーディオの専門誌があります。1950年代に創刊された歴史のある雑誌ですが,戦後の産業の代表であるエレクトロニクスの発展を色濃く映してきた雑誌です。

 当時の最先端技術であるラジオの回路技術や自作,修理についての情報は需要も多く,それらを扱う専門雑誌はいくつもあったのですが,ラジオの時代が終わり,テレビからオーディオ,コンピュータへとエレクトロニクスの主役が移っていくに従い,子供向けに軸足を移すもの,コンピュータやディジタル技術に追随するもの,そしてマニア向けのピュアオーディオに特化するものと,分化していきました。

 結果として,ピュアオーディオに特化した趣味性の強いラジオ技術と無線と実験が生き残っているわけですが,そのラジオ技術も現在出ている2010年2月号で1つの節目を迎えることになったようです。

 2006年あたりから,店頭売りをやめ直販のみにするという方針を告知,長く読者に予約を募っていたのですが,とうとう来月号から切り替わることになりました。

 2008年頃から,「切り替えられるだけ十分な予約が集まっていない」という理由で,何度も予定を変更して直販への切り替えを延期してきたので,もうこのまま切り替えなどないのではないか,もしかすると切り替えることなく休刊するのではないかと心配をしていたのですが,いつもの本屋さんに立ち寄ると,来月から切り替わるという案内が出ていました。

 店頭販売分の最終号は,私にとっての最終号と同じ意味を持ち,内容の如何にかかわらず買うことにしていましたので,さっと手に取りレジへ向かいました。

 ラジオ技術は,80年代にはマニアックすぎてさっぱり理解出来ず,また面白いとも思えませんでしたが,90年代に入ってからは,大変面白く読んでいました。

 無線と実験と双璧をなし,間違いなく日本の自作派を支え,その先端を切り開いてブームを作り上げた立役者だったと思います。

 例えばロシア製真空管6C33C-B,例えば中国製の50CA10,例えばCS8412,例えば2ndPLLと富士通のバリメガモジュール,てな具合に,その時々の自作派が,メーカー製のオーディオ機器に対抗するための創意工夫を総動員した時期の,まさに発表の場であり,流行の発信地であったように思います。

 また,黒田先生のトランジスタアンプ設計法は今なおディスクリートアナログ回路のお手本となっていますし,海老沢先生のカートリッジの話は資料としても一級品です。これらもラジオ技術と言う雑誌の大きな功績でしょう。

 メーカー製の製品の解析を行ってみたり,まだまだ取り扱いの少なかった海外の高級オーディオ機器の紹介を行うなど,多様化するオーディオという趣味に1つの提案を行った点も,評価されるべき点です。

 さらに,トーンアームやスピーカユニットから自作するようなチャレンジ精神あふれる記事が度々出ていたことも印象的で,高価な海外製機材を美しい写真と提灯記事で紹介するだけの,カタログ以下のオーディオ雑誌を鼻で笑うかのような誌面には,居心地の良ささえありました。

 残念な事に,ここ数年はそうしたアグレッシブな記事も少なくなり,読者と執筆者双方の高齢化が進んだことを思い知らされます。近年の真空管アンプブームやアナログレコードの復権,団塊世代のリタイヤなど追い風になる要素は多くあり,無線と実験がそれなりの鮮度を保っていることに比べると,この辺でもう勝負あったかな,という気もします。

 手元にある2010年2月号を見てみると,大手オーディオメーカーの広告は,アキュフェーズ,オーディオテクニカ,マランツのわずかに3つ。広告収入を柱として運営する雑誌という形態がすでに破綻していることは明確で,よくこの満身創痍の中で店頭売りが出来るものだと感心します。

 2年の購読をすると,1冊1000円になります。1冊の価格が1500円ですので随分安くなりますし,出版側としては2年分の前払いを手にすることが出来るわけで,資金的にも楽になることでしょう。(後になるほどきつくなるのですが)

 直販に切り替えるという事は,実際に売れる数が少ないにもかかわらず,流通にのせて本屋さんに並べるため,売れないことが分かっていてもそれなりの数量を印刷せねばならないという最悪の状況に終止符が打てることを意味します。

 本屋さんにおいてもらっても,売れなければ返品されますし,返品されればバックナンバーとして保管されるか,大多数は廃棄されます。出版とは倉庫業だ,という人がいるくらい,在庫という問題が重いのです。

 ラジオ技術の場合,1991年からのバックナンバーが手に入るそうです。いくらなんでも月刊誌で20年近くも前の雑誌が手に入るというのは,ちょっと異常です。

 予約販売に切り替えて,お店に並べない事にすれば,まずたくさんの量を印刷しなくても,予約されている分だけ用意すればいいことになります。返本のリスクもありませんので,在庫も持たずに済み,廃棄もしなくて済みます。

 しかし,多くの人の目に触れなくなりますので,広告収入は地に落ちるでしょうし,新規の読者を開拓できません。読者の中心が高齢者であるラジオ技術の場合,読者数は今後減ることはあっても,増える事はもうないでしょう。

 さらに,定期購読で安定した数が確保出来るなら,内容については今以上に無頓着になる可能性も否定できません。かつて,これらの自作雑誌は新しい回路が発表され,フォロワーが生まれ,1つの潮流となったものですが,そういう流れはもう期待できないかも知れません。

 私自身は,とりわけ最近のラジオ技術に対して,読むべき所は1つもないと思っています。当然予約はしません。細かくは書きませんが参考にも資料にもならない内容に1500円の価値はないと,その凋落ぶりには目を覆うばかりです。


 さて,今,私の左側には,日経エレクトロニクス,ラジオ技術,トランジスタ技術の3つを重ねて置いてあります。3冊の雑誌が,やせこけてしまったことに,改めてはっとさせられました。

 従来通りの雑誌という形態では難しい事であっても,新しい方法でその役割を果たせないものかと,雑誌社も模索をしていると思いますが,購読者が受益者として直接その費用を負担する仕組みによってでも,なんとか存続してくれればと思います。


 ラジオ技術社がインプレスグループの一員となり,由緒ある社名をインプレスで始まるカタカナの名前にした段階で,もう一区切り付いていたのかも知れませんが,私にとっては,本屋さんで中身を見てから買うという買い方の出来なくなった今が,お別れの時期だと思っています。

 もちろん,雑誌そのものは存続しているし,ファンもいれば執筆者の先生も創意工夫を懲らした工作を紹介されることと思いますが,私としてはここでお礼を言っておきたいと思います。

 長い間,ありがとうございました。ラジオ技術は,私にとってお手本でした。

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