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2009年06月の記事は以下のとおりです。

古いチップには古いドライバを

  • 2009/06/30 14:22
  • カテゴリー:散財

 かなり信頼性を高め,実績を積み上げつつある地デジ専用PCですが,やはりどうしてもビデオカードの増設を行う事にしました。気になっていた問題点は,

・DVIが出ておらず,アナログRGBで接続していること
 -> HDCPへの対応が不可能
 -> 本来の画質が稼げていないだろう
 -> DVDレコーダがアナログRGB端子を使うので,いちいちつなぎ替えるのが面倒
・グラフィックのパフォーマンスが不足がち
 -> 地デジ試聴にはギリギリ
 -> 3Dなどは目も当てられない
・CPU負荷を軽くしたい
 -> ATOM330は決して余裕のあるCPUではない
・空いたスロットは埋めるのが男
 -> 精神衛生上の問題は実は最優先課題である

 てな感じです。

 私のベアボーンであるR11S4MI-BAには,FOXCONNの45CTDという廉価なマザーボードが使われています。グラフィックについてはオンボードの945GCですから,最低限の性能しか持っていません。

 このマザーボードは拡張スロットを1つもっていますが,PCIのロープロファイルです。ゆえにここに差し込むボードに,グラフィックに関係するものは想定されていないといってよいでしょう。

 救いなのは,大きめの電源が小型ベアボーンの割には装備されているので,少々大きめの消費電力のボードを増設しても大丈夫なことです。

 とにかくPCIですから,速度的な改善はあまり望めそうにありません。3D性能の向上は期待できそうですが,それはこのマシンの仕事である地デジ視聴には貢献しませんから,DVIでの接続が出来るという事だけが目的になってしまいそうです。

 ただ,ディスプレイ切り替え器も何千円もしますから,グラフィックボードが数千円で買えるなら,考慮に値します。(こじつけっぽいですが)

 てなわけで,探して見ると,あるんですね,今時PCI接続のグラフィックボードってのが。しかもロープロファイルでファンレスです。こういうグラフィックボードって需要があるんでしょうかね。

 しかし値段は軒並み1万円越えです。PCIExpressのボードなら3000円ほどのエントリクラスのボードでも,PCIなら12000円もしたりします。数の問題でしょうか,それともPCIExpress-PCIブリッジチップの値段でしょうか。

 いろいろ見てみると,GeForceなら9400や8400がPCIでも使えるようです。ただ,このあたりになると2Dのアクセラレーションを行うハードが実装されていないらしく,3D性能を上げるために心血を注いでいるようですから,今回の私の用途には向いていません。しかもブリッジチップのせいで癖が強く,安定して動作しないケースもあるようです。

 低消費電力で2Dアクセラレーションがハードウェアで行われる「旧世代」のチップのうち最新で現行で,WindowsXPでも速度向上が期待できるものと言えば実際の所GeForce6200という数年前の(しかもエントリクラス)ものしか見あたりません。

 バッファローやアイオーでさえも,このチップを使ったグラフィックボードをメーカー製の小型PCの拡張向けに販売していたくらいですので,この手の用途向けにはこのくらいの選択肢しかないということでしょう。

 しかし,これに1万円以上は出せないなあ,と思っていたら,あるお店で玄人志向の「GF6200A-LP128H」というボードを5980円で処分していました。送料を入れても7000円までです。ヤフオクで買っている人は。入札前に少し探した方がいいですよ,この手のものは。

 届いて早速インストールしてみましょう。まあ,オンボードの2Dに比べて,PCIの速度がボトルネックになってしまうことは予想できますから,現状と同程度の速度が出れば御の字としましょう。

 ボードを差し込み,モニタをGF6200A-LP128Hに接続して再起動するとWIndowsが立ち上がりません。途中でリセットがかかります。おそらくオンボード用のドライバを読み込むときに失敗しているのでしょう。

 そこでBIOS設定から起動画面をオンボードに切り替え,オンボードの出力をモニタに椿井で再起動しますと,うまく動きます。あらかじめダウンロードしてあった最新のドライバをインストールして再起動。オンボードのドライバを無効にしてさらに再起動。BIOSの設定を変更し,PCIから起動するようにしてさらに再起動。

 ようやくGeForce6200が動き出しました。

 まずはベンチマークを取ってみます。CrystalMarkCrystalMark2004R3(0.9.126.452)を使います。

 最初に,オンボードの結果です。

GDI2275
Text 435
Square 506
Circle 790
BitBlt 544

D2D2998
Sprite 10 103.07 FPS (10)
Sprite 100 96.46 FPS (96)
Sprite 500 75.44 FPS (377)
Sprite 1000 58.95 FPS (589)
Sprite 5000 18.53 FPS (926)
Sprite 10000 10.00 FPS (1000)

OGL690
Scene 1437
Lines (x1000)(37077)
Scene 2 CPU(8)
Scene 2 Score253
Polygons(5363)
Scene 2 CPU(4)


 3Dなんかボロボロですわね。

 さて,ワクワクしながら,GF6200A-LP128Hです。ドライバは最新の186.18です。

GDI3070
Text 994
Square 1109
Circle 307
BitBlt 660

D2D1028
Sprite 10 82.38 FPS (8)
Sprite 100 65.78 FPS (65)
Sprite 500 34.47 FPS (172)
Sprite 1000 21.62 FPS (216)
Sprite 5000 5.56 FPS (278)
Sprite 10000 2.89 FPS (289)

OGL2031
Scene 11535
Lines (x1000)(194250)
Scene 2 CPU(32)
Scene 2 Score496
Polygons(17441)
Scene 2 CPU(16)

 GDIがそこそこアップ,OpenGLが大幅アップはいいとして,DirecDrawは「何じゃこりゃ」という結果です。まあ,過去のAPIですし,気にしないでおきましょう・・・

 そして,地デジの視聴をやってみます。

 何じゃこりゃ・・・コマ落ちがひどく,がくがくしています。ひどいときは音声も途切れます。おかしいと思いCPU負荷を見ると,ほぼMAXです。これはダメなはずです。MPEG2のデコーダの負荷が支配的とは聞いていましたが,そこはオンボードのVGAから変えていませんので,どう考えてもGF6200A-LP128Hに原因がありそうです。

 デコーダを変えてみたり,ドライバの設定を変えてみたりと,思いつくことは一通りやってみましたが改善されず,実用レベルに達しないということでまずは撤退。ボードを抜き,ドライバを削除してアナログRGBに戻してしまいました。

 後日,もう少し真剣に先人達から教えを請おうと考え,google先生に詰問したところ,いろいろ情報が出てきました。

 曰く,最新のドライバでは古いチップの性能は出ない,100番台のドライバを使うとDirectDrawの性能はがた落ちする,DirectDrawの性能こそ動画視聴には不可欠なのだ(Vistaは別)とのこと。

 なら,どのバージョンがいいんだとさらに調べて,候補として絞り込んだのは84.21,84.43,91.47,93.71,94.24です。84.21はGF6200A-LP128Hと同じボードを使ったバッファローの製品のドライバと同じバージョンですし,94.24あたりは90番台のドライバの完成形ということらしいです。私にはよくわかりませんが。

 ということで,まずは84.21から確かめてみましょう。

GDI3981
Text 1049
Square 1207
Circle 1084
BitBlt 641

D2D2153
Sprite 10 76.58 FPS (7)
Sprite 100 71.30 FPS (71)
Sprite 500 54.60 FPS (273)
Sprite 1000 42.25 FPS (422)
Sprite 5000 13.44 FPS (672)
Sprite 10000 7.08 FPS (708)

OGL1543
Scene 1892
Lines (x1000)(94038)
Scene 2 CPU(16)
Scene 2 Score651
Polygons(23059)
Scene 2 CPU(16)

 おお,GDIもかなりアップしていますし,D2Dもかなり回復しました。オンボードのスコアには届きませんが,186.18に比べるとかなり高速です。一方でOpenGLのスコアは大幅ダウン。やはり現在の競争は3Dグラフィックのパフォーマンス向上で行われているんだなあと実感しました。

 気をよくした私は,90番台に期待をかけます。94.24で落ち着いた人もいるというので,これでベンチマークです。

GDI3712
Text 995
Square 1039
Circle 1013
BitBlt 665

D2D2100
Sprite 10 86.73 FPS (8)
Sprite 100 80.28 FPS (80)
Sprite 500 59.94 FPS (299)
Sprite 1000 43.88 FPS (438)
Sprite 5000 12.50 FPS (625)
Sprite 10000 6.50 FPS (650)

OGL1630
Scene 1964
Lines (x1000)(121836)
Scene 2 CPU(32)
Scene 2 Score666
Polygons(23512)
Scene 2 CPU(16)

 全般的に性能向上があるように思います。チューニングってやつですね。一方で結構大きくスコアを落としたものもあり,このあたりはどう考えるべきか悩みます。ただ,DirecrDrawのスプライトのスコアを見ると,高負荷での落ち方が大きいので,90番台を使うのはやめようと思いました。

 そうすると,80番台の決定版とされる,84.43を試すしかありません。速度もさることながら,安定性やバグの少なさにも定評があり,このドライバでなければ満足に動作しないゲームがあったりするそうです。余程のことがなければこれでいこうと,ベンチマークを取ってみます。

GDI3789
Text 997
Square 1106
Circle 1039
BitBlt 647

D2D2155
Sprite 10 76.49 FPS (7)
Sprite 100 71.31 FPS (71)
Sprite 500 54.69 FPS (273)
Sprite 1000 42.31 FPS (423)
Sprite 5000 13.37 FPS (668)
Sprite 10000 7.13 FPS (713)

OGL1619
Scene 1957
Lines (x1000)(121836)
Scene 2 CPU(32)
Scene 2 Score662
Polygons(23481)
Scene 2 CPU(16)

 なんか,84.21と94.24のいいとこ取りっぽいスコアが出ました。どう評価していいか分かりませんが,スプライトについても30FPS以上なら見た目にあまり影響はありませんから,むしろ高負荷でもフレームレートが下がらないことを重視して,このドライバを使うことにしましょう。絶対性能も大事ですが,いわゆる安定性は評判によるところが最もあてになることですし。


 さて,ベンチマークはいいとして,実際の地デジ視聴はどうかというと,かなり改善して,音切れがなくなったのはよいとして,それでも時々カクカクします。我慢できないレベルではありませんし,これで安定して動いてくれれば,DVIを使って接続できるメリットを考えると,これでいいかと思うレベルです。

 CPU負荷をみると,最新版のドライバに比べてかなり下がっており,以前は60%を下回る事などなかったものが,今は30%台後半になる事も多く,平均して40%中頃という感じです。オンボードの時はもう少し低かったのですが,まずは一安心です。

 スタンバイ/復帰のテストも一応合格,温度上昇も思ったより低く,GeForce6200Aのチップ温度は50度ちょっとで安定しています。録画したデータのドロップもありませんでしたから,これでしばらく運用して問題がなければ,これでいこうと思います。

 いろいろ思うことはあったのですが,新しいドライバがよいとは限らないという話は,結構私にとっては斬新な考え方でした。考えてみると,ドライバといえどソフトウェアなわけですから,CPUが高速になり,メモリが増えると,ドライバだって重くなるのが常です。機能も増え,チューニングも進む一方で,新しいCPUを期待した設計になっていることも当たり前な話ですから,PCの世界というのは常に最新の状況で使わないと恩恵にあずかれないものなんだと思いました。

 それにしても,Windowsの世界というか,自作の世界というか,グラフィックボードの世界というか,つくづく奥が深いですね。Mac使いの私としては,知らない言葉,分からない習慣など,右往左往することばかりでした。楽しいとは思わなかったところが私が自作の人ではない証なのでしょうが,それでもインターネットの力といいますか,2chの力というのはすごいものです。ネットワークに繋がって共有された情報の強さもつくづく感じました。

 知識の共有と蓄積は,文字の発明に始まり,印刷の発明で爆発,そしてコンピュータとネットワークの発明で加速し,すでに人類の機能の一部となっている感さえあります。コンピュータとネットワークによって新たに産み出される情報量は毎日毎日膨大な量になっているでしょうが,こうなるともはやすべての情報に精通するのは不可能であり,これまで以上に特定分野の専門分化が進むことでしょう。評論家やコメンテータがもっと増えちゃうんでしょうね。

Turbo.264HDを買いました

  • 2009/06/25 14:50
  • カテゴリー:散財

 先日実家が地デジに移行を試みた(実はその試みは完遂できず)ことで,いよいよ地デジも身近な存在になってきたんだなあと思うこの頃ですが,私は私で,番組アーカイブのワークフローの最終局面,エンコードをどうするかという壁にぶち当たっていました。

 私は動画マニアではありませんが,録画したものを捨てるのも惜しいという根っからの貧乏性で,つまるところ私が欲しいものは「残した」という事実だけなのかも知れません。

 奮発してMacBookProを買ったわけですから,高速なCPUを有意義に使い切り,高速なH.264/AVCエンコードを期待したのですが,あれこれやってみてもなかなか速度が上がらず,Core2Duo口ほどにもなし,と思っていました。

 Macでソフトエンコードを行う手段としては,ffmpeg,Handbrake,iSquintなどがあります。いずれもフリーで使えるものだと思うのですが,有償のものはあまり話を聞かないので,あまりよいものではないのでしょう。

 Handbrakeの評判が良いようですが,これはMPEG2-TSを直接読めないので私としてはNG。別に音声トラックを分離すれば良いだけなのですが,それに5分もかかってしまうようだと,ちょっと手間ですよね。

 個人的にはiSquintが良い印象でした。操作がシンプルで速度もまずまず,画質も悪くはありません。MPEG2-TSを直接処理できることもポイントが高いのですが,それでも実時間の3倍程度かかってしまいます。(1440x1080のMPEG2-TSを1280x720のH.264/AVCに変換した場合)

 エンコード中,CPU負荷はほぼMAX。ファンも回りっぱなしで,これが1時間半も続くのですから,電気代にも変化があるのではないかと思うほどです。仮にですよ,1時間の番組をCMカットして48分くらいにして1クール13話を処理すると,エンコードだけで約40時間もぶっ通しで動かし続けないといけません。これはしゃれになりません。

 しかもCMカットをしないといけませんし,元のデータが大きいだけにファイルのコピーだってそれなりの時間がかかります。これはもう普通の人がするような作業ではないですよ。すごいなーアニヲタの熱意というのは。

 地デジ専用マシンのATOM330でエンコードもやってしまえばいいんですが,おそらく今の倍は時間がかかるでしょう。試したことはありませんが,CPU負荷も最大になるでしょうから,途中で録画が入るようだと,ドロップしてしまうに違いありません。恐ろしいことです。

 てことで本当に残しておきたいものはMPEG2-TSのまま残せばいいとして,消すには惜しいし,と言う程度のものをどうやって残すかが,目下の所のテーマだったわけです。

 そこで,私は,高額だったにもかかわらず,ハードウェアエンコーダという禁断の果実に手を出すことにしました。

 Turbo.264HDがそれです。

 Mac専用のハードウェアエンコーダで,ソフトエンコードの3倍は高速だという触れ込みです。USBに取り付けるドングルで,ソフトも専用のものをつかいます。

 ソフトは簡単に使えるように,主立った設定はプリセットとして登録されていますが,細かいパラメータは無理としても多少の設定変更が可能になっています。

 価格はamazonで約18000円。高いなーと思いましたが,製品版のソフトエンコーダも軒並み1万円を越えるわけですし,ハードウェアによるアクセラレータがこの値段ならよいのではないかと,そんな風に思って買うことにしました。

 USBドングルになっていて,720や1080のHD画像が扱えるハードウェアエンコーダというのは案外Windowsには少なく,高速で簡単に使えるエンコーダがMacで使えるようになっていることは,大変ありがたいことでもあります。

 早速試してみたのですが,iSquintで90分かかった処理が,Turbo.264HDでは25分ほどでした。だいたい3.6倍ほどですか。これは確かに速い。実時間よりも少し速いくらいの速度が出ています。

 しかもCPU負荷が下がっているのですから,うれしい話です。

 ただ,本当にCPU負荷がないようなアクセラレータだというなら,安いMacBookとかMacMiniでもいいはずです。しかし,Turbo.264HDの場合,一部の処理はCPUが行っています。だから,CPUが高速なマシンで使うと,さらに高速化が可能という話になっています。

 ということはですね,SnowLeopardでGrandCentralDispatchやOpenCLが使えるようになって,専用アプリが対応をしてくれると,Turbo.264HDもさらに高速化できるという事になります。なかなか楽しみです。

 CABACの様な重い処理をおそらくTurbo.264HDでやらせているのだと思いますが,どんな処理をどこまでやらせるのか,というところは,システム設計においては重要な問題で,今回のTurbo.264HDも随分と議論があったのではないのかなと思います。


 出来上がった動画は,特別綺麗というわけではありませんが,もしサイズの小さい画像なら,本当に実時間の数倍が出てくるようになるかも知れません。iPodTouchやアドエスで気軽に動画を持ち出せるようになると,かなり面白くなってくるように思います。

 実際の運用に突っ込んでみてどこまで安定するかも大事なことですが,現時点ではかなり強力な武器を手に入れたと考えています。うまくするとドラマ1クールが2層のDVD-R1枚に入るようになるのですから,大したものです。

 とりあえず,来月くらいから本格的な運用に入ってみようと思います。もう少し使い込んで,最適な設定を見つけることも必要ですし,とにかく数をこなして傾向をつかむ必要はあると思います。

ああコダクローム

 いよいよこの時がやってきたという気がします。そう,コダクロームがいよいよ製造中止になるそうです。

 日本での販売中止の際にもちょっとした祭りになりましたが,それでも製造は継続しているし,アメリカでは手に入り,現像だってアメリカで出来ましたから,いざとなればコダクロームを使う事は不可能ではないと,一種の安心感を伴っていたことは間違いないと思います。

 しかし,今回は本当に終わりのようです。私が読んだ記事では,2009年で提供を打ち切る,現状の消費ペースでは今年の9月頃までは手に入るだろう,と書かれていました。また,世界で1つしかない現像所である米Dwayne's Photoは,2010年中は現像を受け付けるということでした。

 この表現がちょっと微妙だなと思うのは,今年いっぱいで提供をやめる,ということです。すでに新規製造は行わず,今仕込んでいる分を作り終えたらもうオシマイですよ,という意味で,残りの数は決まっているから,遅くとも今年中に売り切れてしまうだろう,という感じのニュアンスです。

 せめてもう1年続けてくれれば75周年だったのですが,もう1年維持することも難しいという事でしょう。報道では売り上げが下がってしまったということを理由に挙げていましたが,こういうケースでは製造設備の老朽化も原因だったりしますので,1年の延命というのはなかなか難しいものがあったりするのかも知れません。

 製造が難しく,バラツキも経年変化も大きなフィルムで,かつ現像も特殊で複雑ななプロセスを必要とする一方で,抜群の耐久性と保存性能の高さで貴重な記録を長く残せること,そして世界初のカラーフィルムとして登場以来世界中の光を取り込んで来た事で,どれほど情報の伝達と保存に貢献してきたかはかり知れません。

 以前にも書きましたが,コダクロームの欠点は工業製品としては容認できないものであり,それらが改良されて行くことは正しい進化の過程です。世の中見渡してみると,便利で性能の良いものが生まれれば,それ以前のものは淘汰されていくものです。

 しかし,コダクロームには,それら欠点を補って余りある魅力がありました。工業製品として,あるいは経済原理だけで判断されない,芸術や文化と言った側面にまで,コダクロームが根を下ろしている証拠でもあります。

 本来,外式の欠点を克服するために生まれた内式のリバーサルが登場した時に,外式であるコダクロームはなぜ消えることがなかったのか,また世界中で内式と外式の両方の製品を持ち続けたのはコダックのみだったのはなぜか,少し考えてみるよい機会なのではないかと思います。

 内式外式,ネガポジ,カラーモノクロにかかわらず,そもそもフィルムの使用量が激減し,いつなくなってもおかしくない状況にあります。文化と芸術に影響のある工業製品が淘汰されることが本当に容認されることなのか,だからといってメーカーだけが負担を強いられることが正しいのかも考えなければならないところまで来ているように思います。

バケペン

 昨日少しだけ早く帰宅した私は,足下の箱に入っているバケペンに目をやりました。まあ,すぐに修理が出来るわけではないけども,どんな様子かさっと見るだけ見てみようかと思って,あちこちいじり回しました。

 昨日のオリンパスペンEEDと違って,こちらは相当使い込まれています。汚れもひどいですし,程度も良くないような印象です。プロ用のカメラなのですから酷使されていて当然ですが,不思議とラフに扱われた感じはないんですね。

 ボディマウントキャップを外してみると,ミラーが半分上がった状態です。一眼レフでミラーが中途半端な状態で止まっているのを見るほど,嫌なものはありません。しかし,バケペンの場合,電池がないのにシャッターを切るとミラーが半分くらいで止まり,シャッターは開きません。まあこれはこれで良い仕組みですね。

 しかし,本当に壊れているのかも知れません。

 あと,困ったなあと思うような破損もありました。バケペンはファインダーを取り外すことが出来るのですが,外したところから銅か真鍮のチェーンがだらーっと垂れ下がっています。

 手持ちの本で調べて見ると,これは絞りの情報をファインダーに伝達するための仕組みだそうです。私の個体はTTLファインダー付きでしたので,ファインダーに内蔵された露出計に,絞り情報を伝達する仕組みとして利用されていたはずですが,チェーンが切れてしまっているので,まったく機能しないと思われます。

 手始めに,このチェーンの様子を確認してみました。

 見事に途中で切れています。なぜこんな風に切れたのか分かりませんが,プーリーにかかる部分が切れていることから察するに,プーリーからチェーンが外れてジャムったところで,無理に絞りリングを回したとか,そういうことではないかと思います。

 切れたチェーンをどうやって修理するかですが,潔く交換したいところです。太さ1mm程のチェーンがあればいいんですが,少なくとも手元にはありません。幸いハンダが乗る素材ですから,チェーンの輪を1つ開いて,切れたチェーンを繋いでハンダ付けしてみます。

 一応うまくいったのですが,組み立て後何度か連動機構を動かしているうちにまた切れてしまいました。再びハンダ付けをしたのですが,ハンダ付けでは思った以上に強度が不足しているのかも知れません。

 続けて,シャッター機構の確認です。電池の代わりに電源器を6Vの設定して繋いでみますと,なんとまったく問題なく動いています。シャッターダイアルの設定でシャッター速度も変わっています。1秒のはずが0.8秒くらいなので,調整は必要でしょうが。

 また,ミラーの開閉が粘っています。開くときはいいとして,閉じるときにゆっくり落ちてきます。油ぎれか,腐ったモルトでしょうね。

 シャッターについては,少なくとも電気系は無事です。メカもそんなに複雑ではないので,ばらして掃除して給油するくらいはなんともないと思います。難しいのは調整でしょうか。

 とにかく,あちこち動きがとにかく渋い。全バラシをしないといけないのでしょうが,今の私にそれに取り組む覚悟がまだ出来てません。あと,気をつけたつもりだったのですが,取り付け場所不明のスペーサが2枚ほど出てきてしまいました。これでもうフィルム面もしくはフォーカシングスクリーンとの平行が確保出来なくなってしまいました。ああ,なんたる失敗。

PENの四角いシャッターボタン

ファイル 305-1.jpg

 かつてminoltaCLEの故障品(断じてジャンクではない)を気軽にチャレンジして下さいと,快く私の修理技術向上のために提供して下さった方が,またありがたいことに要修理品を提供して下さいました。

 思えば,辛く支えを失った時機にも,へし折れてしまわなかったのは,自己表現と自己主張としてのカメラ修理に没頭したことと,これをいろいろな形で支援して下さった方々のおかげです。

 今もどん底の状態で夢も希望もありませんが,どん底も慣れてしまえば都です。人間というのはかくも都合のいい生き物かと思います。

 CLEは私の修理カメラの中でも,非常に意味のある1台です。Mマウントレンズが使える距離計連動型のカメラで,今なお人気の衰えない憧れの名機であったことはもちろんですが,メカではなく電気回路が故障していたため通常の修理が不可能であった状態から,同じ働きをする回路をPICマイコンで作り直して復活させたという,マイコン応用工作技術の数少ない実用例でもあるのです。ゆえに愛着も大きいものがあります。

 距離計の調整も経験しましたし,コシナの安物レンズばかりとはいえ工作精度の良い金属鏡筒の質感を連動する距離計と共に楽しんだり,レンジファインダー機ならではの対象型広角レンズを使ってみたりと,一眼レフとは別の世界に足を踏み入れた点でも画期的でした。

 機材が増えすぎた(防湿庫がいっぱいになった)ことで最近ジャンクカメラの保護とレストアは自重気味な所があったのですが,未知の分野として残っていたのが,ハーフサイズと中判です。

 中判はしゃれにならないので手を出さずにいるつもりだったのですが,ハーフサイズについては,かなり本気でした。というのも,かつてサムライZのレストアに失敗しているからです。

 あの時は,レンズがダメだったんですよ。カビかなと思っていたら,貼り合わせガラスのバルサム切れだったというオチでした。結局それが分かるまで分解を続けた結果,組み立て直す気力も失せて,その日のうちに廃棄したという苦い記憶が甦ります。あれ,5000円ほどもしたっけなあ。

 何年か前,ハーフサイズのブームが起きて,その代名詞であるオリンパスペンの人気が再燃,価格も高騰したことがありました。今は落ち着いているような感じですが,ハーフサイズのカメラには「ハーフサイズであること」以外の魅力にあふれたカメラが多いのも,とても面白いことだと思います。

 そんなわけで,オリンパスペンを機会があるごとに見てはいたのですが,そこそこの程度のものでも結構なお値段で,逆に安いものは復活させられそうにないくらいの程度の悪いものしか見つけられず,お手頃なものがなかなか見つかりませんでした。

 そこへ,先程のCLEの方から,突然の申し出を受けます。送られて来た段ボール箱に入っていたのは,オリンパスペンEEDと,なんとアサヒペンタックス6x7の2つ。

 いやーこれが「バケペン」ってやつか,まぢで化け物だなこいつは,などと6x7を手に取り,思わず及び腰になります。

 そしてその脇にあった,ボクシーで小綺麗なカメラが,ペンEEDでした。

 あれ,ペンってこんな形だっけ?

 そんな風に思ってgoogle先生に相談してみると,なんでもEEDは高級機で,F1.7の明るいレンズにオリンパス謹製の絞り兼用シャッターとプログラムAEを搭載したものだそうです。しかし形は他のペンとはちょっと違っていて,丸みがなく角張っています。このあたりが異端児と呼ばれるゆえんなのでしょう。

 またレンズは意欲的なスペックですが,当時の工作精度から当たり外れがあるらしく,これがこのレンズ(というかカメラ)の評価を二分する理由になっているのだろうという意見もありました。確かにこのレンズの描写については,いいという人と今ひとつという人に別れているように感じました。

 高級機であったにもかかわらず,生産台数は非常に多いという事ですが,しかしあまり中古店の店先で見ることがないんですよね。

 個人的に,このEEDは手に取った瞬間からとても気に入りました。カメラらしさは大きなレンズにやどります。ややオフセットしたレンズを,直線が取り囲むデザインはシンプルでとても綺麗です。技術的に好ましいと思ったのは,セレンではなくCdSを使っていることでしょう。セレンはもう修理出来ませんし,代替品を探すのも面倒です。CdSならストックもあるし,使い慣れています。壊れてもなんとかなります。(ついでにいうとレンズの周りにあるセレン用の複眼が苦手です)

 送って下さった方のコメントによると,電池を入れても動作しない,赤ベロが出るとのこと。赤ベロ?

 ペンEEDは,測光結果が撮影可能範囲を超えてしまうと,ファインダーに赤いベロを出してシャッターボタンをロックします。(この状態でセルフタイマーを動作させてしまいどうにもこうにもならなくなって慌ててしまったのですが,現代ならこの設計はNGでしょう)

 これを赤ベロというそうですが,電池が切れている場合も同様になります。測光系に異常があるのではないかというのがその方の意見です。なるほど。

 外観はスレなど使用感もありますが,その割には小綺麗になっています。なかなか程度が良さそうに見えますが,これは後で謎が解けます。

 レンズはカビも傷もなく,とても綺麗です。変色もヤケもなく,まるで新品のようです。いつもそうなのですが,レンズを見ると,どんなに忙しいときでも修理をしようとやる気がわいてきます。しかし,レンズの正面には分解痕があります。この固体は既に誰かに分解されていますね。中古屋に出すこともオークションに出す事も,控えねばなりません。

 ファインダーは内側がやや曇っているし,ゴミも入っています。掃除が必要でしょう。

 絞りをAUTOにせず,固定にするとマニュアルでシャッターが切れます。速度を変える手段がないのでストロボ撮影用です。動作させてみるとガバナーの音が目立ちますが,一応シャッターはちゃんと切れるようで,ありがちな羽根の固着もないようです。速度が出ているかどうかはわかりませんが,ガバナーのきき具合から考えると,1/15秒とかそれくらいでしょうか。

 さっと表面の汚れを拭い,電池ケースを開けてみますが,液漏れもなく,目視で怪しい部分はありません。これは本当に内部の電気系が死んでいるのかも,と思いながら,電源器を1.5Vに設定して繋ぎます。やはり動作しません。やっぱり電気系かぁ・・・

 電池ケースの断線もあるだろうと底板を外してみるのですが,期待に反して電池ケースの断線はありません。ハンダできっちりくっついています。

 接触不良の可能性もあるなと,この配線に直接電源器を繋いで試してみると,なんとあっさり動いてしまいました。

 明るさに応じてシャッター速度も変わるし,絞りの開度も変わります。

 ということで,本体は分解をしなくても良さそうです。せっかく中身を勉強するチャンスだったので,内心残念な気持ちもありましたが,ちゃんと使えそうな個体を無理に分解して壊してしまうかもしれないというのは,私の考え方には沿いません。

 各部の清掃をしましょう。軍艦部を外します。油はもう切れているような感じですが,清掃を必要とするような汚れもなく,大変綺麗です。ただ,CdSの受光窓に貼られたモルトは腐ってボロボロになっていました。ささっと張り替えます。

 ファインダーを外し,綿棒を使って清掃します。曇っていることも考えましたが,幸いそれもなく,綺麗になってくれました。ASA表示とフィルムカウンターの表示窓を磨いて,綺麗になったところで軍艦部は終了。

 続いて底部です。本体内部に貼られた遮光用のモルトはこちらも腐っているので,張り替えることにします。約40年経過していますから,当時のモルトがダメになっているのは当たり前の話です。

 そして問題の電池ケース。どうすれば確実に通電できるかを考えたのですが,マイナス側に接触する金属のバネと,これを固定する真鍮製のビスを直接ハンダ付けしてしまえばよいのではないかと考えました。

 しかし大失敗。なかなかハンダが付かず,電池ケースが熱に耐えきれず溶けてしまいました。もうビスでバネを固定することができません。

 仕方がないのでバネとビスを外し,先にハンダ付けした後,電池ケースの別の場所に穴を開けて固定する作戦に切り替えます。しかしここでも失敗。どうもこのバネはステンレス製のようで,ハンダが乗らないのです。

 さて困った。ここで私はステンレス製のバネに通電性を期待せず,あくまでバネ性だけを頼ることにしました。通電はリン青銅板をバネと同じサイズに切って重ね,ここに直接ハンダ付けした導線で確保します。

 もともとMR9という水銀電池など使うつもりもないので,SR44の縁に1.5mmくらいの厚みのスポンジテープを巻き付けて代用します。

 長めのビスに交換し,電池ケースに穴を開けてバネを固定し,脇にもう1つ開けた穴から導線を通してハンダ付けします。これで理屈の上ではばっちりなはずです。

 電池の底と縁でショートしないように絶縁テープを貼り付け,一応の対策を行ったあと組み立てて確認すると,問題なく動作してくれています。

 問題なく,とはいいましたが,露出計の値を読み取ることが出来るわけではないので,あくまで明るさに応じてシャッター速度と絞りが変化していることを確認しているだけです。それっぽい感じで変化しているので,そんなに大幅にずれているという感じはしません。

 センチュリアの生産が終了して,安いフィルムのユーザーが難民としてさまよい歩く昨今,36枚撮り一本で72枚も撮影できてしまうハーフサイズカメラは,登場時の「フィルムを大事に使う」という本来の目的で,再び評価されるようになるかも知れません。

 考えてみると,デジタル一眼の主流であるAPS-Cサイズというのは,ハーフサイズと似たような大きさです。35mmフィルム換算の焦点距離にするのに,どちらもざっくり1.5倍します。もしかすると,このあたりの大きさが古今東西,経済的合理性によって収れんした結果なのかも知れないですね。

 さて,一通り動作確認をし,清掃を終えて,最後の仕上げに裏蓋のモルトを交換します。さぞボロボロになっていることだろうと思っていると,意外にしっかりしていて,綺麗です。さすがに弾力は失われつつあるようですが,遮光機能は十分果たしそうな感じです。

 ・・・うーん,これは一度誰かの手によってレストアされているんじゃないのかなあ。

 分解痕があり,シャッターもレンズも綺麗であったことから,素人さんによるメンテが行われたのではないかと思います。モルトの交換も行われているということでしょう。しかし軍艦部や底板を外したわけではないようで,この部分の内側に使われているモルトはボロボロのままでした。

 加えて電池バネのビスは頭がなめていました。接触不良を直そうとして,ビスを締めたかゆるめたかした際に,潰してしまったのでしょう。

 よく見ると,張り皮も大変綺麗です。40年も経過すれば薄汚れてしまうものですが,この綺麗さは張り替えがなされているのでしょう。

 全体にとても大切に維持されていた印象で,この様子だと前のオーナーは動作しなくなった時にきっと悔しかったのではないでしょうか。

 最後の最後に,各部のスミ入れです。白と赤と黒とオレンジの4色でスミ入れを行っていきます。どういうわけだかエナメルシンナーのボトルが行方不明になってしまい,捜索作業に時間がかかってしまったことは内緒ですが,ともあれ作業完了。白い文字が鮮やかだと,本当に全体の印象が変わってきます。

 試写はこれからですが,機構的に問題はなさそうですし,電気的にも確実な動作はしています。調整がずれていることは心配で,せめて無限遠くらいは確認しておこうかと思ったのですが,シャッターを開放に出来ないカメラですから面倒なのでパス。フォーカスも目測で行う程度のものですし,絞りの値もコロコロ変わるので被写界深度も不定というカメラですから,あまりこだわっても仕方がありません。

 実は今週末,所用で実家に戻ることになっています。今回は滞在期間も短いしカメラは持参しないつもりでいたのですが,このペンEEDのテストを行うのに絶好の機会です。24枚撮りのセンチュリアスーパーを詰め込んで,試し撮りをしてきたいと思います。

 今回も,また他の人の好意を受けてしまいました。その時々でふと私のことを思い出して下さるから,声をかけてくれるのでしょう。なんとありがたいことでしょうか。

 私がこうしてペンを手に入れて喜んでいると,ちょうどオリンパスからペンを関したデジタルカメラが登場しました。E-P1がそれですが,なかなかかっちょいいですね。

 いわく,ペンのフィロソフィーを継承ですか・・・確かに個性的なメカニズムや大きさ,デザインなどはそうかも知れません。しかし大事なことを忘れていませんか,オリンパスさん。

 ペンは,6000円で売れるカメラを作れ,が設計者への指示でした。性能で妥協せず価格を下げるために斬新な機構を盛り込んだことが,ペンの一番大事なフィロソフィーじゃないでしょうか。

 レンズ込みで10万円を越える高級機がペンというのも,なんとなくしっくり来ません。確かにペンFは1963年当時25000円もした高級機でしたし,今回のE-P1はFをモチーフにしているのも分かります。かつてのペンの低価格とお気楽さは現在のコンパクトデジカメが担っているという点で,この作戦しかないことは理解できます。

 でも,これはすでにペンではなく,オリンパスがかつて出し損ねた,ContaxTやContaxG1,Nikon28Ti,GR1,TC-1やHEXARなどの高級コンパクトカメラのフィロソフィーなんじゃないですか。ペンならスニーカーであって欲しかったなあと,私は思います。

 ・・・でもかっちょいいなあ,欲しいなあ。


 さてさて,バケペンですが・・・

 これはもう圧倒されっぱなしで,手に取るとため息がでてそのまま箱に戻してしまいます。大きいですし,時期的にはAsahiPentaxESあたりと同じ時期ですので,修理や分解はそんなに難しいとは思っていませんが,20cmもあるような巨大ムカデに遭遇したような恐ろしささえ感じてしまうのです。

 レンズもありませんし,フィルムもありません。というか中判なんか使ったこともありません。当然自分では現像も出来ませんし,スキャンも出来ません。ないないづくしのなかで,バケペンの修理に取り組むには,もう少し準備が必要かなあと思っています。

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