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2020年03月の記事は以下のとおりです。

GW690で感じた世界

 中判のフィルムにしっとりと広がる銀の粒子が,肉眼でも良し悪しがわかるくらいに大きく画像を作り出す様にすっかり魅了され,現在私が手にすることの出来る最高画質と信じて疑わなかったD850をしのぐ情報を残す事の出来る事実に,自らの浅さと焦りを感じた2ヶ月を過ごしました。

 中判に対する大きな可能性を知ってしまったからには,もっと大きなフォーマットに手を出すのも自然な流れです。

 中判の次は大判,しかし大判はロールフィルムではありません。さすがにシートフィルムに手を出すのは非現実で,そうなると中判で最も大きなものを体験するしかありません。

 そこで6x9版です。6x9版と言えば,フジのGW690シリーズです。21世紀になっても新品が買えた6x9版のレンジファインダー機です。

 もちろん,6x9以上のフォーマットもあるにはあって,6x17というのがどうも最大のようですが,これは横長のワイドで私の好みに合いませんし,そもそもそういうカメラをほとんど見た事がありません。

 6x9ならおなじみなの?というあなた,そうおなじみです。

 最近の小中学校は違うのですが,10年くらい前までの集合写真では,この6x9版が使われていました。そしてそれは,ほぼGW690シリーズで撮影されていました。

 特に40年も昔になると,1クラスの生徒の数も40人を超えていて,1枚の写真にまとめるにはかなりの解像度を要求されました。一人一人の顔がきちんと写っていないといけませんし,中央と端っこで写り方に違いがあるという事は,公平をなにより好む学校において許される事ではありません。

 当時の技術でこれが可能だったのは中判以上。私くらいの年寄りになると大判で撮影されたことを覚えているわけですが,大判になるとすでに撮影がメインの写真屋さんの仕事であるのに対し,GW690を使えばDPEをメインにやっている街の写真屋さんでも対応可能です。

 写真屋さんの大半が富士フイルムのネットワークに組み込まれていたことを考えると,GW690を使って学校の写真を撮るというのは悪い商売ではなかったはずで,我々は知らないうちに,6x9版に映り込んでいたといえるでしょう。

 目的が目的ですから,GW690に求められた性能は,隅々まで写る高画質,高解像度。コッテリとした記憶色を再現する発色,ピンボケは絶対に許されないので高精度な距離計,そして簡単には壊れない堅牢性,余計な機能を持たず確実に動作する信頼性です。つまり,プロの道具です。

 集合写真ですし,動く被写体を撮るわけではありませんから,高速シャッターも高精度AFも必要ありません。明るいレンズである必要もないし,連写も必要ありません。露出計を内蔵することも必須ではなく,仮に露出計を内蔵していても確実に撮らねばならない現場なら入射式の単体露出計を使うことがほとんどでしょう。

 これをアマチュアが検討したとき,面倒なカメラ,プロしか使えないカメラと考えるか,落ち着いて被写体と向き合えるカメラととるか,そこが分かれ道だと思います。

 私は後者です。120フィルム1本で8枚しか撮影出来ないのに,被写体と向き合わずなんとするか。撮影者と被写体が同じ目的に向かって協力し合う結果得られた高画質な銀塩写真には,それでしか得られない空気感があるはずです。

 かくして,私の手元にGW690がやってきました。

 初代のGW690で,フジカブランドです。基本設計はIII型でも同じですので,程度の良し悪しと外観デザインだけを気にしておけば済むカメラです。

 入手価格は2万円。程度は悪く,ギリギリ実用レベルです。実は3台あって,これだと思う良い程度の物を買ったはずなのですが,間違えて2番目の程度のカメラでポチってしまいました。

 ドキドキしながら届くのを待って,手にしたGW690は想像以上に程度が悪かったのでさらにがっかりです。

 レンズにはチリやホコリが入っており,心なしか曇っています。ファインダーは曇っていると言うより濁っていて不快なレベルです。

 カウンターは669でしたから,この段階で7000ショットほど。10000ショットで1周しますので,まだ少しはオーバーホールなしで使えるでしょう。

 肝心なシャッターは確認したところ,全速JIS規格をオーバーしています。

1/500 3.44ms
1/250 6.08ms
1/125 9.80ms
1/60 22.2ms
1/30 39.2ms
1/15 78.0ms
1/8 166ms
1/4 320ms
1/2 650ms
1 1240ms

 うーん,辛い。すべてのシャッタースピードで遅れています。ちょっと迷ったのですが,ここでGW690IIIのサービスマニュアルを見てみます。ここにこのカメラの規格が出ていまして,

1/500 1.16 - 3.28ms
1/250 2.33 - 6.58ms
1/125 4.64 - 13.13ms
1/60 11.0 - 22.1ms
1/30 22.1 - 44.1ms
1/15 44.2 - 88.4ms
1/8 88.4 - 177.0ms
1/4 177.0 - 354.0ms
1/2 354.0 - 707.0ms
1 707.0 - 1414.0ms

 だそうです。

 これ,ちょっと緩すぎないかと思うのですが,カメラの仕様としては1/125までは±0.75EV,そこから遅くは±0.5EVまでOKなんだということで,確かに隣のシャッタースピードまで許容範囲が広がっています。これでも十分なんでしょうね,現実的には。

 そう考えるとミノルタオートコードなどはとても優秀で,正直あそこまで神経質になることなどなかったかも知れません。

 改めて見てみると,1/500秒と1/60秒がアウトです。1/500秒は大幅にアウトで,もう当てにならないくらいですが,1/250秒との差分がしっかりあるので,使い道はあります。

 1/60秒がアウトなのは辛いところですが,それもまあわずか100usのオーバーですし,誤差に紛れて毎回変わる数字でしょうから,あんまり気にしなくてもよいと思っています。

 まあ,全体的に遅めとは言え,どれも等しく遅いわけですから,整っていると考えてシャッターには手を出さないことにします。

 で,距離計とフォーカスですが,まず無限遠はバッチリ。オートコリメータで確認しましたが,完全に無限遠は出ていました。

 距離計も1.2mで確認しましたが十分な精度が出ていました。ただ無限遠はちょっとオーバーインフ気味な感じがします。いじるとすれば距離計ですが,近距離で十分な精度が出ていると判断しているわけですし,これももうこのまま触らないことにします。

 可能な限りの清掃を行って,見栄えもかなりスッキリしました。ピント合わせが楽しくなりそうです。

 フィルムの給装も問題なし,軍艦部をあけたついでに注油を行い,スムーズさも出てきました。

 さて問題の,レンズのホコリです。

 シャッターを挟んで存在する前群と後群を外して拭き掃除をしようとしましたが,あまりにネジが固くて分解出来ず,最終的に可能になったのは前群だけでした。それでもホコリは綺麗になり,気分的にもすっきりしたのですが,残念な事に後群に全く手が届かず,広がるホコリや中央に居座る大きなゴミに,とてもイライラしてしまいます。

 無理に分解して壊したりレンズに傷を付けたらもうおしまいです。画質に影響がなければいいかと,割り切りも大事です・・・

 あとは,あちこち剥げたペイントを修正し,彫り込んだ文字にエナメルカラーを流し込んで仕上げます。

 そして試写。

 実は現像に失敗して(120フィルムを1つのリールに2本巻いたのですが,重なってしまってました),正確な評価は難しいのですが,とりあえずフォーカスも問題なし,コマ間隔も正常で,実用に耐えると判断しています。

 画像も十分にシャープですし,素晴らしいと思います。ゴミの影響はほとんどないと思います。無理にバラさなくて良かった。

 そして,手ぶれがかなり目立ちます。一眼レフなら1/30秒でもなんとかなるのに,このカメラだと1/30秒はアウト,1/60秒でも気を抜いたらアウトです。厳しいです。それに十分に絞り込まないと高画質は得られず,F5.6位だと眠いんですね。35mmの一眼レフとは,考え方を変えないといけないようです。

 ついでに言うと,FOMAPAN200に,大きなごま粒のような黒い粒子が一面に広がってしまっていて,6x9ならではの高精細さを感じたり,階調の豊かさに感激したりという事はなく,ちょっと肩すかしのような感じがしています。

 同じような印象は同時に同じフィルムで撮ったミノルタオートコードにもあって,現像液の疲労なのか,フィルムのロット不良なのか,あるいは現像ミスに起因する物なのか,ちょっと考えているところです。

 FOMAPAN200はPETベースでベースが抜けていて,シャープな印象もある,私には好ましい傾向のフィルム故に,20本ほど買い込みました。しかしこうした問題が出てしまうというのはちょっと想定外で,無駄になったらいやだなあと思っているところです。

 そんなわけで,とうとう6x9に手を出しました。滅多に使わないかも知れません。しかし,ここぞというところで,わずか8枚を撮りきることのスリリングさを,堪能したいと思っています。

 引き延ばすことなく,べた焼きで名刺くらいの写真が出来上がる世界。私を含む多くの人が感じている一瞬を切り取るという写真の世界とはまた違った,絵画のように1枚を丁寧に仕上げる写真の世界を知った事は,とてもうれしいことだったと思います。

 

ミノルタオートコードの修理~その6:コマ間バラツキ

 オートコード,またトラブルです。

 これまで安心していたフィルム給装でトラブルが出ました。コマ間隔が大きくずれてしまい,最終の12コマ目がはみ出していました。

 10コマ目くらいまでは少し広いくらいだったのですが,11コマ目との間隔が3cmほどあいてしまっていました。以前から少しコマ間隔にバラツキが出るなあと思っていましたが,ここまでずれてしまうとさすがにまずいです。

 理由を考えてみたのですが,パーフォレーションがない120フィルムでコマ間隔がずれるというのは,フィルムの走行距離を見損なっているということです。

 オートコードはフィルムカウンタが1つ進むところでシャッターチャージが行われて,クランクにロックがかかりますが,そのフィルムカウンタはサプライ側のフィルムロールに強めのバネで押し当てたローラーが摩擦で回転することで進みます。

 問題はそのローラーの摩擦で,外周も曲率も摩擦係数も材質も異なる遮光紙で安定した回転が起きるというのも私にとっては不思議な話で,きっとそのせいでコマ間隔がばらついているのだと思っていました。

 ただ,それも程度の問題で,ここまでずれてくるとこの仕組みに問題があるとしか言えません。

 もう1台の部品取りドナーと化したオートコードのローラーを指で押しで見ると,かなり強い力のバネで反発があります。トラブルの出たオートコードと比べて見るとkかなり強いです。これは,トラブルの原因がバネの劣化にあると考えて良いでしょう。

 早速分解してバネを交換すると,やはりトラブルのあるオートコードのバネは伸びてしまっています。ドナーのバネと交換すると強く押し返してくるようになりました。

 これでフィルムを通して現像すると,綺麗に揃っているのがはっきりしました。もう安心です。

 先に手に入れて使っているオートコードも,ドナーとして手に入れたオートコードも,どちらもバネの破断や劣化があります。どちらの程度がいいというわけではなく,どちらも悪い,もっと言えば程度の良いものは少ない,という事が言えると思います。

 こうして騙し騙し使っていくしかないのですが,どうもここ最近中判ブームで,欲しいなと思う中判カメラが手の届かない値段になってしまっています。運良く安い値段でオートコードを体験出来ているのは運と自分の苦労に寄るところもあるのですが,今からデジカメ並みの出費で手間とお金のかかる中判フィルムに本気で取り組むのもどうかと思います。

 ところで,これですべて問題が解決したわけではなく,今回の試写中にシャッターが切れないという問題が出ました。チャージ不良でシャッターが切れないのだろうと思って,多重露光の仕組みを使ってチャージを行ったのですが,現像してみると本当に多重露光されていました。

 シャッターをすでに切ったことを忘れてしまい,巻き上げもせずにシャッターが切れないと慌てたというのが実際の所だと思うのですが,それでもクランクをどちらに回すことも出来ずに焦ったことを覚えているので,どうもすっきりしないのです。

 多重露光は正しい露出で行われていたので,シャッターユニットそのものの問題ではないと思うのですが,慣れてきた今頃が一番問題で,次は注意して丁寧に撮影しようと思います。

 しかし,次はいつ壊れるんだろう・・・

ミノルタオートコードの修理~その5:あろうことかイスから落とす

 せっかく直った(というより直ったことにしてある)オートコードですが,イスから落としてしまいました。

 詳しい話はしませんが,60cmほどの高さからフローリングに落下させてしまいました。一緒に落ちたMZ-10なんかそっちのけ(これはこれで可愛そう)で,オートコードを確認すると,とりあえずシャッターは切れます。

 しかし,シャッタースピードを調整するツマミが動きません。よく見ると,前面がへこんでいます。床に付いた傷痕から察するに,頭から機銘板にかけて床にぶつかり,そのあと前面を打ち付けた感じです。おかげでレンズの周りが奥に押し込まれて変形し,シャッタースピードのツマミが動かなくなっているようです。

 他に破損がないのは幸いでしたが,とにかく変形箇所を元に戻してやらなければなりません。分解し,前面部分を取り外して,裏側から指で外側にぐいぐい押します。プラスチックと違って元に戻りませんので,指で元に形に戻して行きます。

 なんとか形にしてからスムーズにツマミが動く事を確認して組み直します。しかし微妙にネジの位置が変わってしまっています。まあ仕方がないでしょう。

 シャッタースピードの確認を再度行ったところ,こちらは問題なし。2回測定した結果を書きます。

1回目
1 920ms
1/2 484ms
1/5 194ms
1/10 98ms
1/25 36.8ms
1/50 19.2ms
1/100 12.2ms
1/200 4.00ms
1/400 2.92ms

2回目
1 940ms
1/2 472ms
1/5 174ms
1/10 110ms
1/25 40.4ms
1/50 20.0ms
1/100 13.4ms
1/200 4.84ms
1/400 3.60ms

 まあ,こんなもんでしょう。1/400秒が結構いい数字になってきていますし,おおむねJISの範囲に入ってきているので,安心しました。

 ただ,1/10秒で誤動作がありました。1/5秒から1/10に切り替えた時に,1/60秒程度で切れてしまうという問題です。これは落下させたせいかどうかわかりませんが,切り替えるときにガンギ車がジャッと動く音がすれば問題ないので,気を付けて使うことにします。

 続けて無限遠のテスト。こちらも問題ありません。

 ということで,試写だけはやり直さないといけませんが,今のところ無事です,カメラを落とすなど絶対にやってはいけないことで,2回も落とす(実はオートコードは入手時にも一度落としている)などということは,もう絶望的な注意の欠如です。

 ところで,これまでのネガをいちど全部D850で取り込みなおしました。

 つくづく中判の情報量の多さに惚れ惚れします。モノクロでも十分な情報量をもっていて,無理や意地を張らなくても面白いと胸を張って言えると思います。

 

ミノルタオートコードの修理~その4:なんとか完成編


 先日から修理に取り組んでいたミノルタオートコードですが,ようやく動き始めました。いやー,今回は過去に例を見ないくらい大変でしたし,こうして修理が終わっても,きっとすぐにダメになってしまうんじゃないかという不安につきまとわれてしまっています。

 前回までに,別のジャンクを入手し,シャッターをそのものを交換したことを書きました。ただし速度が全然出ていなくて,セルフタイマーも動作しなかったために,分解清掃を行いましたが,それでも高速シャッターは満足な速度が出ず,あきらめて本体に組み付けたのでした。

 とりあえずこれで進めようと思って最終テストを行っていると,最高速の速度がどんどん落ちていくことがわかりました。最初は1/400秒で4.5ms位だったものが,5msを越え,8ms,そして10msを越えるようにきました。そしてとうとう閉じなくなってしまったのです。

 ゆっくり動かして見ると,大変摩擦が増えて動きにくくなっています。別に油が染み出た感じもありませんので,これはなにか引っかかっているのかも知れません。

 いずれにせよこのままでは使い物にならないので,また分解です。

 問題を見つけることは出来なかったのですが,シャッターの羽根をもう一度ベンジンで清掃し,組み直します。すると4msを切って,3.4msくらいまで安定して出るようになったのです。これはありがたい。ガバナーも組み直して全速そこそこ出るようにしたのですが,数時間もすると速度が落ちてきます。一晩経つとまたシャッターが閉じなくなっています。

 また分解するも,最初こそ快調なシャッターもシャッターを切る回数が増えるとどんどん遅くなっていき,やっぱり最後には閉じなくなってしまいました。

 これはおかしい。

 どの摩擦が増えているのかを確かめて見たのですが,どうもセクターリングが回りにくく引っかかったような感じになっています。セクターリングも分解して清掃してみましたが,結局改善せず。最初こそ快調ですが100回ほどシャッターを切ると急激に速度が落ちてきます。

 冷静になって,目の前のバラバラのシャッターを眺めてみます。

 セクターリングが擦れた部分は塗装がはげ,金属が欠けています。かなり摩擦が大きくなっていたんでしょう。なら注油するしかない,ということで,注油をしてみました。

 するとウソのように症状が改善。確かにシャッター羽根に注油することは厳禁ですが,他の部分に注油してはいけないということはなく,私の場合ベンジンで綺麗に油膜を落としてしまっていたので,問題が出たんですね。

 ベンジンで薄めて注油しましたが,量が多かったらしく一晩経つと羽根に油が回っていました。それでも速度はきちんと出ていますので,見通しは明るいです。

 今後こそと分解し,羽根をベンジンで清掃,セクターリングの注油も慎重に行い,完璧に仕上げました。今度は大丈夫です。あれから数日経っていますが,速度も出ていますし,油の滲みも出ていません。

 しかし,ここまでですでにもうかなりの疲労が溜まっています。もうダメかも。

 次にガバナーです。ガバナーは今回のシャッターをそのまま使うことにしたのですが,どうもガンギ車のあたりで速度がばらつきますので,前のガバナーを移植します。しかし微妙に手加工で削った部分の大きさが異なり,テンプをガンギ車から離す機構がうまく動作せず,1/10秒が大きくばらつくという問題が出ました。

 ここは調整を行って解決。かなり速度も揃ってきました。

 そしてとうとう完成。本体に組み付け,最終テストです。

 ところが今度はシャッターがチャージされなくなってしまいました。

 がっかりして原因を調べると,プロンター型に特徴的な,チャージバネによって回転するオウムのくちばしから伸びた,セクターに引っかける爪のバネが折れてしまっていました。

 いやはや,このバネの破断はよくあることと聞いていましたが,あと少しだったのにと思うと,もう残念でたまりません。

 しかし再度分解。バネを交換するために1つ1つ部品を外して行きますが,結局ほとんどの部品を外す羽目になり,しかも難易度の高いシャッターチャージバネまで外す必要が出てしまいました。

 もう泣きそうな気分でバネを交換し,そして最難関のチャージバネを組み立てます。これ,かなりのテンションで巻き付けないといけないうえに,きちんとおさまっていないと組み付けられないという代物で,とにかく時間がかかりました。たっぷり2時間ほどもかかったでしょうか。

 でもこれが終わってしまえば,あとはさっと進みます。とはいえ,途中で別のバネをなくしてしまったりして大変だったのですが,それもなんとかクリア。

 しばらくすると,目の前に組み上がったシャッターユニットが現れました。

 疲れ果てたので翌日はもう触らず,二晩寝かせてテストをしますが,とりあえず問題なし。あとは本体に組み込んで速度のテストと無限遠の確認です。

 まずシャッター速度です。

3回測定しました。やっぱりバラツキが出ますからね。

1回目
1 940ms
1/2 484ms
1/5 194ms
1/10 105ms
1/25 40.4ms
1/50 21.2ms
1/100 13.8ms
1/200 5.08ms
1/400 4.44ms

2回目
1 910ms
1/2 468ms
1/5 162ms
1/10 85ms
1/25 39.2ms
1/50 21ms
1/100 13.6ms
1/200 5.12ms
1/400 4.36ms

3回目
1 880ms
1/2 452ms
1/5 164ms
1/10 105ms
1/25 36.8ms
1/50 20ms
1/100 12.3ms
1/200 4.96ms
1/400 4.0ms

 最高速は今ひとつで,1/200よりも僅かでも高速だというのが救いです。まあ実力は1/250程度だと思っていた方がよいと思います。

 あとはまあ,結構いい数字に揃っていると思います。1/10が大きくばらつきますし,実はまれに半分くらいの時間になることもあるのですが,深追いするとろくな事がないので,もう割り切ります。

 ぎりぎりJISに入っている結果がでたこともあり,もう壊れないことを祈りつつ,無限遠を確認しますが,こちらは問題なし。すぐに撮影に入れそうです。

 各部の点検を行って,いよいよフィルムを通します。

 結果は上々。すべてのコマで濃さも揃っていて,シャッター速度について,不必要に不安を持つことはしなくて済みそうです。

 しかし,今回の修理は,組み立ててはバラし,また組んではバラしてを本当に何度もやりました。経年変化で折れてしまったバネも2本ほどありましたし,油ぎれか汚れかのどちらかで動きが悪くなった部品もたくさんありました。

 以前も書きましたが,さすがに1950年代の工業水準で,精度が出ずにすりあわせと手加工で組み上げる職人技に加えて,材料の質も良くなくて特にバネの耐久性が良くなかったことが,今回よく分かりました。

 やっぱり,日本製が高品質であるという意識が常識化するまで,日本の製品は長持ちせず,よく壊れる物なんだなあと思った次第で,これ以前と以後では日本の製品は全然違う物だったという事を体験しました。

 ニコンF2の精緻な感じは私の知る日本製の品質ですし,Rollei35は1960年代ですがさすがはドイツ製と思わせる素材と加工の良さを肌で感じます。

 そう,Made in Japanが安かろう悪かろうであったことは,私も知識としては知っていますが,これを実際に体験出来るとは思っていませんでした。

 今回こそホントにダメだと何度も思いましたが,なんとかここまで持ってきました。あと何本,フィルムを通せるでしょうか。このオートコード,もう本当にギリギリの所で動いているとしか思えません。

 

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