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2009年11月の記事は以下のとおりです。

ALESIS micronを買いました

  • 2009/11/27 16:03
  • カテゴリー:散財

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 先日,「そういえばALESISってまだドラム音源つくってんのかな」と急に思いついて,google先生に聞いてみました。

 するとgoogle先生は,あろうことか,micronなるシンセサイザーを「こんなんどうや?」と見せてくれたのです。

 アナログモデリング?ボコーダ?37鍵?あーいらんいらん,どうせDJ向きのシンセやろ,むにょむにょーんってそんな音いらんて。

 そうやって検索結果を流し読みした後,私は表示されたmicronの画像をみて,フラグがスパッと立ったことを感じました。色も形も,なんとまあ,かわいらしい。

 気になって価格をみると,大幅値下げの39800円。

 2つ目のフラグが立ったことを感じた私は,そういえば少し前にMicroKORG XLのデモ演奏の動画を見て,これはかなり使えるんじゃないかと思ったことを思い出しました。

 ローランドやヤマハが相次いで発表し,NordLeadに蹴散らされて,ひと山越えたアナログモデリングシンセサイザーは,不意に襲う故障や,修理不能の恐怖におびえて使うヴィンテージシンセサイザーに対する,理想的な解ではないかと私も随分興味がありました。

 しかし,どうも目的を極端に絞り込んでいたり,それほど音が太いわけでも,柔軟性があるわけでも,また操作性がよいわけでもなくて,実際に買うほど欲しいと思うことはとうとうないままでした。

 また,多重録音やDTMをすることのなくなった私は,今はステージピアノのRD-700とギターを気が向いたときに1時間ほど演奏しては楽しんでいる程度ですから,今さら機材を増やすなど無意味です。

 そんなおり,KORGのMicroKORG XLは評判も良く,かなり気になる存在で,オモチャとして買ってみるかと思ったこともありましたが,音源そのものもそうだし,プリセットのラインナップやデザインなどが,KORGは全般にどうもDJ向きになっていて,レガシーなシンセブラスやPAD系の音を好む私には違和感があります。

 KAOSSILATORも面白い楽器で,私も買いましたが,コンセプトはともかく,出てくる音にまず違和感を強く感じてしまい,今はほとんど使っていません。やっぱKORGは肌に合わないんだろうなと思います。

 MicroKORG XLに対する不安は,まさにここにありました。これまでKORGでよかったと思ったことが一度もないし,KORGが欲しいと思ったこともほとんどないのです。それで考えた末,結局MicroKORG XLは買うのをやめました。

 でも,D-70がすでに実用レベルで使える機材ではなくなっています(そもそも家にはもうない)し,さりとてRD-700では大きすぎて外に持ち出せず,また入力用キーボードとしても厳しいものがあるので,小型の鍵盤が1つあると,ささっと演奏できて,外にも持ち出せて,もしかするとDTMも復活できたりして,結構面白いだろうなあとは,常々思っていたのです。

 そこにmicronです。

 同時発音数は8音と少なめですが,一応4パートのマルチティンバーだそうですし,エフェクトもとりあえず内蔵,3VCO+2VCFという結構贅沢な構成,モジュレーションマトリクス(オーバーハイムでいうところのマトリックスモジュレーション)も出来ますし,小型で軽く,それにちゃんと標準鍵盤です。

 ピアノを補助する目的でライブパフォーマンスにもいざというとき使えるだろうし,音を作り込む楽しさもありつつ,ちょっと空き時間に演奏したいなと言うときにさっと音を出せる手軽さもありそうです。

 肝心の音源部は,2003年というかなり前のIONというシンセサイザと同じらしいので過度な期待は禁物ですが,デモを聞いた限りではアナログのニュアンスをよく再現しているように思います。何種類か特性の違ったフィルタが用意されていて,それぞれにかつてのアナログの名器を思い出させる名前が付いているあたり,にやっとさせられました。Moog,ARP,Oberheim,Jupiter・・・

 アフタータッチこそありませんが,今やなかなかお目にかかれないキーオフベロシティに対応した鍵盤もなかなか面白そうです。弾き心地が気になりますが,それがダメでも買わない理由にはならんでしょう。

 まあ,これ1つでなんでも出来るわけではありませんが,これだけのポテンシャルに悪い評価を目にしない太い音,それにキュートなデザインが揃って,たった4万円。

 10分後には購入が決定していました。

 いやー,電子楽器でこれだけワクワクしたのは久々です。

 2004年に登場した時も6万円前後なのでそんなに高い楽器ではないのですが,音源として使い道が限定されるアナログモデリングに6万円も7万円も出せないというのが本音でしたから,4万円というお値段は,予算という障害を一気に取り払うだけ十分なものがありました。

 買う気満々であちこち値段を調べて回ると,純正キャリングケースに送料込み,クレジットカードokで税込み38800円というところを見つけました。キャリングケースは小型のシンセなら欲しくなるでしょうから,どうせ買うことになるでしょう。とすればこれは安い。しかも私がかつてギターを買った楽器屋さん。てことでここで買うことにしました。

 注文してから翌日には手元に届きました。早速箱をあけてみます。


(1)デザイン

 随分かわいらしく見えた筐体ですが,目の前にするとなかなかごっつい感じです。私の個体は台湾製だったのですが,良くも悪くも雑な作りで,このあたりは日本製にはかなわない感じです。

 案外シルバーの筐体というのは電子楽器には似合わないと私は考えていて,もう少し落ち着いた色なら良かったのにと思ったりします。

 作りはしっかりしているので,多少のラフプレイには全然へこたれないでしょう。

 個人的に好感触なのは,青色や青緑色のLEDを全然使っていないことです。これらのLEDが安価に使えるようになったことや,案外ウケがいいことで,最近あちこちでこの色の光を見るようになりましたが,私はあまり好きではありません。青のLEDはなんであんなに眩しいのでしょうか。


(2)操作感

 悪くないです。論理的に操作体系が構築されていて,少しの訓練で結構自由に動き回ることが出来ます。

 ディスプレイの狭さは問題かなと思っていましたが,実際はそんなことありません。遷移図のどこが表示されているのか,わかりやすく良くまとまっています。

 ただ,緑色のバックライトが明るすぎ,音作りについ没頭すると,トイレに行った時など網膜に細長い長方形が焼き付いてしまっています。色は案外アンバーでもよかったかも知れません。

 スライダやつまみ類の反応速度も良くて,不自然さはありません。スライダは主にLFOのDepthとフィルタのCutoffにアサインされている例が多いようですが,それも慣れれば案外使いやすく出来ています。

 xとyとzの3つのノブについては,一時的な音色調整に使うというより,音色パラメータを1つきちんとアサインするという感じになっていますので,ノブを回せば設定値もきっちり変化します。モジュレーションマトリクスでスライダをアサインするのがいいか,それとも直接パラメータをノブにアサインするのがいいかは,上手に使い分ける必要があるでしょう。

 鍵盤はクリック感のない鍵盤で,伝統的な電子楽器にある押し心地です。ストロークも深く,重さもそこそこあり,私は心地よく触っています。グリッサンドが面白いように決まることもありがたいです。ただ,やっぱりもう1オクターブくらいあった方が演奏が楽だと思いました。49鍵のモデルがあったなら,そちらにしたことでしょう。

 ピッチベンダーは横方向に動かすタイプの大きなホイールで,ローランドに慣れ親しんだ私にはそんなに違和感のないものですが,滑り止めのゴムがひいてあり,案外使いやすい感じです。ただ,動かすとLEDが光るという演出は別に必要ないかなあと。


(3)音
 
 一言で言えば太い音,存在感のある音です。密度感も高く,スカスカなチープな感じは全くありません。粒子の細かい音を期待していたのですが,必ずしもそうではなく,やや荒いサンドペーパーのような印象を持ちました。

 低音など,ヘッドフォンで演奏すると頭と共振しているかのように,大きく揺さぶられた感覚を覚えるときがあります。単純に音が大きいだけでは味わえない感覚ですが,これがクラブシーンなどで重宝されるのは言うまでもないでしょうね。

 3VCOの音の太さも素晴らしいですが,このシンセサイザーの醍醐味は,性能の良いフィルタではないかと思ったりします。切れ味もいいし,レゾナンスも深くかかります。2poleと4poleの違いも楽しめますし,ARPのフィルタなどは大レベルで歪みます。フィルタの良し悪しはやっぱり重要で,先日も,とある自作のVCFを触ってみたのですが,効き具合がいまいちで表現力に限界があるような印象を持ちました。


(4)音作りの思想

 まず,日本のシンセサイザーのように,実用的な音をプリセットで並べておき,即戦力として使えるようになってはいないと思います。どれもこれも「micronではこんなことができるよ」というデモをやっているような感じがあり,それらは確かに面白いのですが,ではライブで使えるか,レコーディングで使えるかというと,それはまた別の話です。

 ですから,こんな事が出来るのか,とイメージが膨らんだところで,実際に使う音は自分で作るのが原則になるように思いますが,まあこれは海外製のシンセサイザーには良くあることです。

 もう1つ,音色のパラメータについても,至れり尽くせりではありません。例えばLFO DELAYというパラメータ,これはLFOのデプスを時間と共に深くしていくものなのですが,日本製のシンセサイザーならまず間違いなく存在するこのパラメータが,micronにはありません。

 ないから出来ない,という訳ではなく,これはモジュレーションマトリクスで自分でパッチングする必要があるのです。具体的には,モジュレーションソースをエンベロープジェネレータに,デスティネーションをLFOのデプスにします。

 ENV1はアンプ,つまり音量に対して,ENV2はフィルタに対して,ENV3はピッチに対してもしくはモジュレーションのソースとして有効なものなのですが,LFOのデプスをどのソースから制御するか,選択することになります。

 ENV1からENV3まで任意にモジュレーションソースとして使用できるのですが,仮にENV3が未使用なら,ENV3をそのままLFOのDelayにあてがって,アタックをディレイにすればとりあえずうまくいきそうです。とはいえ,私としてはLFOには別のディレイ値が設定できた方がやっぱり楽だなと思います。よく使うパラメータですしね。
 
 こういう話も海外製には良くある話で,自由度はあるのだが面倒臭い,あるいはあれこれお膳立てされていない,という事で,使いやすさと相反する要素だけに好みが分かれるように思います。

 一方で,3つのエンベロープジェネレータの使い道が一応固定されているあたり,制約と見るか,これくらいは固定化されていて助かったと見るか,micronというシンセサイザーの立ち位置を垣間見ることが出来るように思います。個人的には,エンベロープジェネレータまでパッチングしないといけないようだと,もうあの小さなディスプレイでは作業出来ません。

 そうなると,一体どこまでが自分でパッチングしないといけないものなのか,どれはすでに固定されて接続されているのかを正確に知らなければなりません。マニュアルを熟読して,覚えていくしかなさそうです。


(5)おもしろさ

 実はまだPatternやSetupについては,ほとんど触っていません。あまりアルペジエータやシーケンサに期待していませんし,そういう使い方も私はしないので二の次にしていますが,ちょっとさわって遊んだ限り,なかなか面白いです。

 音楽の専門知識がなくとも,フレーズを並べて音楽を作る事が普通に行われていますが,micronでもそうした音楽を,その場で即興で演奏する事が出来るという事でしょう。

 例えばIntroというSetupですが,鍵盤を1つ押さえると,4小節にわたって4つのコードが勝手に進行します。マイナーかメジャーかを指定することさえしません。そして左端のCやDの鍵盤を押さえると,ドラムが鳴り始め,C#やD#を押さえると派手なフィルインが決まります。これだけで16小節くらいのちょっとしたデモをその場で行うことができるのではないでしょうか。良くできていますが,これでレコーディングをするわけにはいかないでしょうから,やっぱ面白いで済んでしまう機能かも知れません。

 音作りは問答無用で面白いですね。最初は小さい画面に多くのパラメータ,しかも自分でモジュレーションマトリクスを設定して骨組みから作らねばならず,クラクラとめまいがしたのですが,慣れてしまえばなんてことはなく,わかりやすく出来ていると思います。

 パラメータを変えていけば予想通りに音が変化するという,アナログシンセサイザーの良さを当然そのまま引き継いでいますし,WaveのShapeを変えたり,フィルターのタイプを変えたりして音色の変化を楽しむことも楽しいです。


(6)残念な事

 残念なのはエフェクトがほとんど使い物にならないことでしょうか。コーラスも今ひとつですし,リバーブなどの空間系もさっぱりです。確かに残響音は出ていますが,空間を感じさせるようなエフェクトはかかりません。

 micronはIONと同じ構成の音源だということですので,約50MIPSのDSPを9つ使っていることになります。1つをボコーダなどのSFX用に使い,残りの8つを1ボイスあたり1つで音を作っているのではないかと思うのですが,エフェクトも一緒に作っているのでしょう。

 だから,は同時発音数が足りなくなってDSPが別のボイスに割り当てられてしまうと,残響音も消えてしまうことになります。ですのでリリースの長いストリングスなどで深めのリバーブをかけても,残響音がさっぱり残らず,全然深くならないということが起きてしまうようです。

 ALESISって,確かD4の時もエフェクトをかけた状態でサンプリングしてあるせいで,ノートオフで残響音も消えてしまうという不自然さがあったのですが,ドラム音源のみならず,シンセサイザーでもこれをやっちゃうのかと,ちょっとびっくりしました。

 結論としては,特に空間系のエフェクトは外部でかけましょう。

 あとあれですね,パラメータの変化に対する実際の音の変化が結構大きいですね。悪く言うと大味です。LFOのモジュレーションのデプスにしても,アナログドリフトにしても,1だけ設定値を変えたときに変化する量の半分くらいだとちょうどいいなぁ,と思うことがありました。

 結局,LFOのデプスはトラッキングを使って微調整をしましたが,アナログドリフトは無理そうです。


 という感じですが,シンセサイザーというのは楽器であると同時に,システマティックに音を合成できる装置でもあるわけですから,演奏する楽しみに加えて,音を作り込む楽しみも本来はあるわけです。

 その音を作るという作業も,演奏のために作るというケースもあれば,演奏しないけど面白いから作る,と言うマニアックなケースもあるのですが,プレイバックサンプラーが主体の電子楽器界にあって,音を作る事そのものが目的になるようなシンセサイザーというのは,なかなか存在が難しい位置にいます。

 私は今回,動作が限りなく安定し,再現性も抜群で,使いやすくまとめられた小型のアナログモデリングシンセサイザーによって,シンセサイザー本来の楽しみを久々に味わったのですが,病みつきになる面白さです。音が良くなければ面白くないだろうし,操作や設定が音に素直に反映しないとこれもまた面白くないわけで,その点でmicronは抜群のものがあると思います。


 これ単体で出来る事はそんなになく,ぜひシーケンサーを使ってDTMに使いたいと思うのですが,あいにく私のシーケンサーはMacOS9時代のPerformer6.03のままです。DigitalPerformerにアップデートするには,当時の使用頻度からちょっともったいなくて,ほったらかしにしていました。

 Performerからの乗り換えの簡単なソフトがなかなかなかったりして,結局DTMから遠のいてしまったことは悔やまされるのですが,どうも現行のDigitalPerformerは安定性が低く,決して満足に使っている人が多いわけではないようです。

 結局みんな,安定しないし高いし重いしで不満はあるけど,あの操作性が最高!という「辛抱」を強いられているような感じですが,辛抱しない人たちはどうしているかというと,どうやらAppleのLogicに流れているようです。

 LogicはAppleに買収される前から,私には一番馴染まないソフトだと思っていたのですが,先日発売になったLogicExpress9に至っては,Proと機能差がほとんどないのに21800円と格安です。

 Apple純正だし,SnowLeopardにきちんと対応しているし。Appleの洗練された操作体系やUIにも信頼感があって,この際だから乗り換えるか,と購入を検討しています。MacBookProにしておいて良かったなあと思う瞬間です。

 オーディオ信号とMIDIを統合的に扱った経験がない私にとっては,まさにゼロからのスタートなのですが,Performerの頃のように,時間をかけて作り込むのではなく,短い時間でさっと楽しく音楽が作れるようになると,いいですね。

Make: Tokyo Meeting 04 - 工作大好き人間のお祭り

  • 2009/11/24 20:13
  • カテゴリー:make:

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 さる11月22日,23日に,大岡山の東京工業大学で,Make: Tokyo Meeting 04(以下MTM04と略)が開催され,私も今回初めて見て来ました。一応工作好きで,Make:は日本語版が出る前から知っており,日本語版もずっと買っているということもあって,以前からいってみたいと思ってましたが,ようやく今回その夢が叶うことになりました。

 電子工作についていえば,アメリカやヨーロッパではそれなりに認知された大人も楽しめる趣味であるのに対し,残念な事に日本では工作=夏休みの宿題という刷り込みからか子供の遊び,と言う先入観が強く,大人が楽しむことは「特殊な例」として見られるようです。(模型や鉄道も同じような感じでしょうか)

 しかし,インターネットの普及によって,国境を越えた情報交換,部品の入手,そして作品の公開が可能となり,にわかに工作という趣味の裾野が広がって来たように感じます。

 一部の硬派なマニアの中には,回路設計も出来ないのになにが電子工作か,アセンブラも出来ないのになにがマイコンか,と眉をひそめる向きもあるようですが,逆に言うとそうした専門的な知識がなくとも電子工作を楽しむ事が出来る環境が整ったことは,もっとたくさんの創意工夫を見ることが出来るようになったと考えるべき事で,歓迎すべき事だと私は思っています。

 それこそいろいろなレベルの人が,ものづくりが楽しいという1点で集うMTM04,私も同じ趣味を持つ人間として,大いに触発されてきました。この居心地の良さは何だと思うほど,本当に楽しく過ごしてきました。

 Make:というよりむしろCraft:に興味のある友人に,友人の妹さん,そして妹さんの友人の清楚で賢そうなかわいらしい女子高生(!)の4人で見学しようという話になっていたわけですが,会場に入るや否や女性3人を放置してピューッと単独行動をしてしまった私は,真のMakerだと誇って良いと思います。

 まず,みんな優しいですね。会場はとても混雑していたのですが,例えば鞄がポンとぶつかったりすると,みんなちゃんと「すみません」といいます。朝の品川では考えられないことで,ここにいる人々が互いに関係のある人として意識し合っていることを感じました。一言で言うと仲間意識とでもいうのでしょうか。

 人が通るときにはさっとよけてあげたり,荷物が通るときには道を作ってあげたりと,みんなやさしいんですよ。物販ブースでもみんな我先にと争うこともなく,丁寧だし,マナーもよいし,こういう集団に自分が属していると思うと,とてもうれしくなります。

 展示をしている人は,自分の作品を公開する勇気のある人ですが,そのレベルは本当にまちまちです。しかしどの人も物怖じせず,気軽に見学者との意見交換を楽しんでいます。

 出展者は別に何かを買ってもらおうと思っているわけではないし,見学者も別に何かを買おうと思っているわけではありません。互いに金銭上の問題や損得勘定を外に置き,むしろ対等な立場で意見の交換を行って,お互いに触発されることを目指しているので,どのブースに行っても面白いお話が出来ます。いやほんと,時間の経つのを忘れてしまうほどです。

 多くの出展者にとって,自分の作品を見てもらうことが大きな目的になっていますから,ウソはつかない前提で「これは面白い」「これはxxxな可能性がありますね」というと,みな一様に喜びます。見学者は見学者で,口だけではなく実際の形にしてきたことに最大限の敬意を払いつつ,自分だったらどうするかなあと妄想し,それを口にしては,最後に互いに「ありがとうございました」でお別れするわけです。

 人混みが苦手の私も,このMakerたちとの接触と,会場の雰囲気の良さに疲れ知らずであちこち見て回っては,出展者の人と利害関係を越えてお話を楽しんできました。

 本当に楽しかったので,お礼も込めて,印象に残ったブースを紹介します。


・学研 / 大人の科学

 MTM04は別にアマチュアの祭典ではなく,アマチュアスピリットのある企業も参加しています。学研もその1つで,大人の科学というシリーズがMakerたちをどれだけ焚き付けてきたかわかりません。

 かくいう私も大人の科学は随分買っていて,その度にその創意工夫に感心します。つまり,電子工作はアマチュアでも出来るのですが,メカ設計やプラスチック成型というのはアマチュアには非現実だということを大人の科学はよく分かってらっしゃって,逆に自分達の得意なところはメカだといって,そこに注力されるところが,素晴らしいのです。

 来年春の予定ですが,前回の4ビットマイコンに続くマイコンシリーズとして8ビットマイコンというのがアナウンスされていました。実体としてはArduino互換のマイコンボードと,これに繋いで実験できるメカ部品のセットになっているものです。左手で持ち,右手でハンドルを釣り竿のリールのように回すと,LEDが8つ列んで付いている棒がワイパーのように左右に動くというものです。

 これでバーサライタが手軽に作れるというわけですが,なにせ付属している基板はArduino互換ですから,可能性は無限です。2回目以降は基板を付属せず,そこに取り付けて遊べるものでシリーズ化していこうと思っています,と言うお話でした。

 「だってこれが我々得意ですから」と,切削で試作されたメカ部分を指さしながら,そんな風におっしゃってるのを聞いて,これはなんと頼もしい話だと思いました。

 あくまで付録ですから,基板の欲しい人は何冊でも買って下さい,と笑ってらっしゃいましたが,前述の通り基板はどうにでもなるが,メカはどうにもなりません。メカを目当てに何冊も買うのもありでしょう。2作目3作目も期待大です。


・ISH / Arduino YM2151シールド

 なにやら聞き慣れた音とYM2151という文字,そして28ピンのDIPパッケージに思わず立ち止まったのですが,そう,4オペレータ・8音ポリのFM音源ICであるYM2151をArduinoのシールドとして基板をおこし,PCから往年のMDXデータを流し込んで,演奏出来るというものが展示されていました。

 その昔,私はYM2151電子オルゴールというのを作ろうと考えていた時期がありました。私の弟は,かつてはMDX作者としてちょっと知られた存在らしく,奴に音色とシーケンスデータの作成をお願いして,マッチ箱くらいの大きさでFM音源がなりまくる,というのを考えていましたが,なんだかんだで散りかかることなしに,お蔵入りとなりました。

 YM2151なんて手に入るんですかと問えば,流通在庫があるようですとのお返事。電源の逝ってしまったX68000から外すというのも手ですねと言えば,自分もそうした口ですとのお返事。

 エミュレータでは心許ないですね,やっぱ実物で音が鳴るから値打ちがあると言えば,満面の笑みでその通りとお返事。やっぱシリコンから出てくるFM音源には格別なものがあります。残念ながら基板の頒布などは部品の入手の問題もあり,考えていないとのこと。

 Arduinoの可能性は本当に無限ですね。YM2151とUSBが繋がってMDXが演奏出来るというのも,Arduinoのおかげでしょう。ただ,私はPC側のソフトは苦手なので,最終的にはPC側も自分で出来ないと,せっかくのArduinoも宝の持ち腐れになってしまいそうです。


・GPS Labo / パラナビ・GPSクロック

 GPSモジュールが安く手に入るようになり,シリアルインターフェースにレベルコンバータまで内蔵したものが普通になって,アマチュアにもGPSが手軽に利用出来るようになりました。

 パラナビはMake:08でも紹介済みのもので,GameboyAdvanceでパラグライダーのナビゲーションシステムを作ったというものですが,残念ながら私はパラグライダーはやりませんので,その隣にあったGPS時計に注目。

 GPSからの信号には時刻情報ものっていますが,これをただ単に表示させるだけのものです。GPSには原子時計が搭載されているので,精度は原子時計並みです。

 これがネットワークに繋がって,NTPサーバになるとすごいでしょうねという話をしますと,それは実はもう取りかかっています,fonの安いルータはLinuxベースで動いていて,ハックできることが分かっているので,これをベースにNTPサーバにする計画で,次のMTMには間に合わせますよ,といわれていました。

 雑誌の記事になったりしたそうですが,アメリカが国防を目的に膨大なお金をかけて打ち上げた測距システムであるGPSを,単純に時刻表示を行うだけに使ったということで,非難する声もあったとかなかったとか。

 しかし,私はそういうアマチュアイズムが大好きで,アメリカにしてやったりと実に痛快です。時間と時計に興味の深い私も,実はGPSを時計代わりに出来ないかと考えた事があったのですが,結局アイデア倒れになっていました。これは是非作ってみようと,そんな話をしていると,出展者の方が「では今動いているマイコンをそのまま1つ,実費の100円でおわけしましょう」と,ビックリするようなお申し出を頂きました。

 悪いですから,といったのですが,どうぞどうぞと言ってくださり,では書き込み代金としてもう100円というと,そんなものはいりません,あくまでTiny2313の代金だけで結構ですと。

 私はAVRのライタを一応持ってはいますが,一度も動かしたことがない体たらくで,自分で焼くのはちょっと面倒だなと思っていただけに,このお話は本当にありがたく,目の前で動いているAVRマイコンをそのまま頂いてきました。

 一緒に必要になるGPSモジュールは秋月電子に注文済み。届いたら早速追試です。


・Jinno / Rainbow Engine

 直接お話はしなかったのですが,電球の熱でスターリングエンジンを回し,偏光板を回転させ,様々な美しい色やパターンを見せるものです。

 これ,見る人によって注目する部分が違っていて,一緒にいた女性達は偏光板の織りなす色とパターンに感心していましたが,私はもっぱら電球の熱でゆっくり動くスターリングエンジンに興味がありました。残念な事にスターリングエンジンは箱に収まっていて動いているところを見ることが出来ませんでした。


・Hotproceed / CupCakeCNC

 3Dプリンタって,まだまだ先の話だと思っていたのですが,ここでは目の前に見ることが出来ます。MicrobotIndustoriesのキットで,USBでPCとつなぎ,3つのステッピングモータで3軸を制御,溶かしたABS樹脂をノズルから吹き出して,立体を印刷します。

 安価に仕上げるために骨格と外板は木製,アクリルで作ったギアなどはいかにもちゃちな印象ですが,出来上がった「印刷物」は,まさに成形品です。

 価格は約16万円だそうで,消耗品のABS樹脂はHotproceedさんが用意してくれるそうです。また,オリジナルとして,もう少し大きなステージを用意したキットも用意されるとのこと。

 結局の所,アマチュアの泣き所は,プラスチック成型です。回路や基板はどうにかなるとして,見た目の悪さが最大の弱点です。また,ギアなどのメカ部品が自分で作れないことも問題で,様々な足かせになっています。これらが3Dプリンタで一気に解決するなら,これはすごいことです。

 木で出来ていること,精度をそんなに追求しているわけではないこと,ノズルの径などから,そんなに精密な加工は出来ないようですが,日本の住宅事情では騒音がひどく切削加工を自宅で行うのは至難の業。音がほとんどでないこの3Dプリンタは,Makerの夢を叶えるものでしょう。


・エレピプロジェクト / DIY型電気ピアノ

 ギターの弦とピックアップを使い,電気ピアノを作ってしまった人がいました。残念ながらご本人ではなくお留守番の方としかお話出来なかったのですが,木の板を使ってピアノの本体,鍵盤,そしてアクションまで手作りされています。ちゃんと音が出ていて,その音は綺麗な澄んだ音でした。

 いわく,製作者の方はベースを弾く方で,その音でピアノを作ったら面白そうと言う,いかにもアマチュアイズムあふれる発想から,実際にアクションまで手作りしてしまうとは,脱帽です。ほんまよーやるわ。

 木工職人さんの協力を得て,きちんと木製パーツを作る目処も立ったそうで,さらに精度の良い,さらに見た目も良い,手作り電気ピアノが,次は見られるかも知れません。


・ごうだまりぽ / 手作りアンテナによる気象衛星受信の展示

 これも詳しい話は伺えませんでしたが,水道用の塩ビパイプをつかって,人の背丈ほどあるアンテナを作り,気象衛星の信号を受信して天気図をPCに表示するというシステムを展示されていました。

 知る人ぞ知る世界ですが,世の中には天気図をFAXで送信してくれるシステムというのがあり,市販のオールバンドレシーバをPCにつなぎ,天気図を表示するフリーウェアを使って音声信号になった天気図をデコードするというのは,今に始まった特別なことではありません。ただ,これを安価な塩ビパイプでやっちゃうところが面白いです。


・Nov-Co / 光るクラフト

 私はMake:だけではなく,Craft:も是非日本語版を出して欲しいと思っている人ですが,このブースはMake:の翻訳者としてもおなじみの金井哲夫さんと奥様の金井伸子さんのお二人が作った光り物クラフトを展示されていました。

 直径8mm程の円盤の縁に,長さ20mm程の4本の細い針金を取り付けます。鳥かごのような見た目になったところで,円盤の真ん中からおもりを付けたワイヤーを垂らします。こうすると振動でおもりが周囲の針金に接触し,導通がおこります。

 そうすると4つのLEDがアットランダムに点灯するようにできるわけで,これをクラフトに仕込むというお話です。このセンサは哲夫さんの発案だと伺いましたが,実に面白いのです。

 例えば,このセンサをマイコンに繋いだらどうだ,センサを複数用意し,それぞれのおもりの重さを変えたらどうだ,LEDを縦横のマトリクスに配置して,複数のセンサからの情報で光らせたらどうだ,など,いっぱい思いつきます。そんな話をしていると,「ここの来ている皆さんのレベルは本当に高くて,いろんな意見をたくさん頂きます」といってらっしゃいました。

 私は,実際にモノを作った方が一番偉いと思うのですが,技術者というのは作ったモノに意見されると,それが良い意見でも悪い意見でも,とりあえず「言い訳」をするものです。

 このブースに限らず,皆さんそうでしたが,言い訳は一切無し。私も彼らの作品にケチをつけるのではなく,私ならこうするかなと言う程度の話を気楽にしただけなので,警戒されずに済んだのかも知れませんが,仕事では出来ない理由ばかりを聞かされるうんざりな毎日を過ごしているだけに,発展的な意見交換が出来る楽しさを,再発見したのでした。


・綛田幸司さん / 藤井の素

 床のゴミを取る粘着ローラーってありますよね,あれにそっくりなものを前後に動かして,ぴぎゃーぴぎゃーいってるものがあったので見ていると,出展者の方に話しかけられました。

 これはなんですか,と聞くと,床の情報を読み取って音に変換する楽器です,とのお返事。確かに床に敷いた紙の上をなぞると,白と黒の文字の状態で音が変化します。

 私はてっきり金属探知機か何かかと思ったのですが,これが楽器になるためには音を止める仕組みが必要だなあと思ったので,音程に加えて,音を出したり止めたりする仕組みがあるといいですね,というと,その発想はありませんでしたとお返事。

 楽器というのはそういうものなのですか,とおっしゃるので,テルミンでもそうですね,音程と音量の調整ができる,多少難しくても演奏者というのは訓練でどうにかしてしまうものなので,音量の調整の仕組みについては,例えば棒を起こす角度で調整するとか,どうですかね,というと,なるほどーと言われていました。

 そうなのです。私にも経験がありますが,自分だけで作っていると,袋小路に入ってしまうのです。赤外線LEDとフォトトランジスタで反射率を捉えて,それを音程にするという所までは実に面白そうだと思う訳ですが,これが楽器になるためにはもう1ステップ進まないといけないわけで,そのためには実際になにか演奏してみようと思う人の意見が役に立ちます。とにかく人と話せば,話した分だけアイデアがわいて出てくるものです。


・Gaje / アナログ電子楽器

 ここもご本人のお話を聞けず,お留守番の方とお話をしたのですが,アナログシンセサイザーのキットを準備中とのことで,どういうものかを見せて頂いていました。

 実は,アナログシンセサイザーというのは,大規模な半導体も必要なく,大げさなプログラムを書くこともなく,根性さえあれば小規模な半導体を繋げて作る事が可能で,その割には表現力のある楽器として成立し,なによりいろんな音が出て面白い,上級者向け電子工作の花形です。

 しかし残念な事に,その小規模な半導体でさえも,入手の難しいものが最近増えてきています。国内ではほぼ枯渇,海外ではわずかに在庫が残っていて,それも争奪戦になっているという状況らしいです。

 というのも,ビンテージシンセサイザーの修理に必要な部品でもあるからですが,そんなこんなで,なかなかアナログシンセサイザーを作るのは難しいのです。

 ここでそんな話をすると,設計意図としてはそこら辺で買える普通の部品で作る,というのを狙っていますと。だから入手の難しい部品は使いませんということでした。

 そういえば,ここのサイトは私も見たことがあります。詳しい回路までは見ていませんが,実機の基板を見ていると,VCFもトランジスタが目に付いたので,Moogのようなラダー型なのかなーと思っています。


・通電未踏組 / オンライン珈琲メーカー「萌香たん」

 家電がネットワークに繋がるとどうなるか,についてなかなか答えの出せない頭の硬いエンジニアが多い中で,今回最も私が素晴らしいと思ったのが,オンライン珈琲メーカーです。

 え,そんなもの珍しくない?まあ,そう言わずに。

 これ,現在mixiでエンジニアとして活躍中の井上さんが作られたものなのですが,ご本人と楽しくお話することが出来ました。

 コーヒーメーカーはコーヒーが出来た時にパイロットランプが消えます。これをCdSで検出,マイコンでA/D変換し,コーヒーが出来たかどうかを判別します。そしてその結果をTwitterで送信。(なんとフォローしている人が少なくないとか)

 しかも,コーヒーが沸いたという通知にいくつものバリエーションがあり,ツンデレ風味のものもあるようです。

 感心したのは,コーヒーメーカーを分解して改造するような,長期信頼性を損なうような方法を採用していないということです。高温,水分,高電圧とこの手の改造には鬼門である要素を廃し,パイロットランプで検出とは,いやはや脱帽です。

 技術的にも面白いですし,ツンデレも結構なのですが,なにより素晴らしいのは,井上さんが,このコーヒーメーカーが「人を集めるトリガになっている」とおっしゃったことです。

 mixiさんではみんなヘッドフォンをして作業をしている人が多く,他の人とのコミュニケーションが取りにくいところがあるのだそうです。私の職場ではヘッドフォンなど出来ないので,文化の違いがあるなあと思っていたのですが,そういう希薄な人間関係の中,できたてが一番おいしいコーヒーが,今まさに出来上がったということをトリガにして,みんな一斉にコーヒーを飲むようになったのだそうです。

 そうしたきっかけで人が集まり,同じ目的のために同じ時間を過ごし,そして少しばかり話が弾むというのは,どんなに楽しいことでしょうか。

 一見すると「いつでもコーヒーがありますよ」の方が便利で気が利いていますよね。でもそうではなく,「今コーヒーが出来ました」に集う人々が,ある種の帰属意識を持つようになるという事実。

 家電がネットワークに繋がることで,新しいコミュニケーションのトリガとなる,こんな素晴らしい話があったかと,そう私は思いました。


・ニコニコ技術部

 私はあまりニコニコ技術部の活動を普段見ていないのですが,なんだかミクがネギを振ることばかりに熱中していて(もっともニコニコ技術部がミクのネギふりから始まったものなので当然ですが),今ひとつミクに夢中になれない私としては,すごいのかすごくないのかよく分からないところで,通り過ぎてしまいました。

 あと,リアル野尻先生もお見かけしました。ついでに,某アニメで知られるパンツ型の飛行機もありました。あれはやっぱり羽ばたいて飛んでいないと,値打ちがないですね。


・オライリー

 エンジニアでオライリーの世話にならない人などもぐりだと思うのですが,オライリーもエンジニアの世話をすることを至上命題にしてくれているらしく,物販にもそういう傾向が見て取れます。

 アメリカで売られているキットなどもありましたが,やっぱりお目当ては本。以前から欲しかった英語版のMake:を探したところ,初年にでた4冊をまとめたBOXが2000円と破格値で出ており,またMakers Notebookも1000円で売られていたので買いました。いや,これはいい買い物ですよ。

 ちなみに友人は,ガチャガチャをやったところ大当たりが出てしまい,どれでも1冊欲しい本を差し上げますというので,時間をかけて選んでいました。うらやましくなった私もガチャガチャをやったところ,普通の缶バッジだったので,無言で立ち去りました。
 

・そのほか

 テスタ棒をスライドさせて音を出す,大人の科学のアナログシンセサイザーをMIDI化すると言う触れ込みで,メカ的に接点をギアで動かし,その位置をMIDIで制御するというものがありました。見た目にインパクトありますね。

 鍵盤を弾くと「ぎょーぎょ」といいながらスライドします。なにが笑ったって,ピッチベンダーを動かすと,微妙にスライダーが左右に動くんですよね。ピッチベンドまで実装してあるとは!

 mini-ITXのATOMのマザーボードに小型の液晶ディスプレイを繋ぎ,スタンドアロンのミキサーを作った人もいました。アルミの筐体に仕込んであるのですが,いわく,Ethernetでオーディオ信号をやりとりするんだそうです。ソフトシンセが入ってくると面白いですねーといったら,それは確かにありですね,と言われていました。

 モノクロの128x64位の小型液晶モジュールを,Windowsから認識してディスプレイにする工作もありました。案外モノクロでもちゃんと見えるものです。WindowsではノートPCの表面に小型のディスプレイを置いて,ここにメールが来たとか,そういう情報を表示する仕組みをもってるそうですが,ほとんど例を見ません。でも,この展示を見たら考えが変わるかも知れません。


 とまあ,こんな感じで,随分楽しんできたのですが,つくづくMTMというのは,ものづくりを趣味とする,あるいはものを実際に作る事を尊敬できる人の,お祭りなんですね。

 見る側が受け手で,出す側が送り手という言い方は,MTMにおいてはちょっと当てはまらないかも知れません。確かにモノを実際に作った出す側がもっとも尊敬を受けることは間違いありませんが,モノを作った人が「自慢がてら」に,見る人とコミュニケーションを取ることの出来るような,そんなチャンスを狙って来られているうちは,やっぱり見る人も同じ目線で楽しむ事が許される,フラットなイベントであると思います。

 そしておそらく,出展者もヘビーな2日間を終えた後,強烈な連帯感で繋がり,出展者同士の繋がりが生まれていることでしょう。それは出展した人の特権ですが,ものづくりを楽しむ人が,縦と横で繋がって,作る側も見る側も,より面白く,より楽しい趣味として進化してくれると,同じ趣味を持つ私も本当にうれしいと思います。

 悲しいことに,私には面白いアイデアが浮かばないという致命的欠陥があります。技術力とて大したことはありませんが,技術と言うのは所詮は道具に過ぎません。面白い事を実現したいという動機がなければ何の意味もありません。

 私がやってることと言えば,カメラのシャッター制御を行う回路をPICマイコンで置き換えるとか,今時珍しい電源同期式の時計を作るとか,そんな程度の話で,実用一点張りです。本人はそれで十分に満足していますが,工夫も面白さも全くないので,つくづくMake:という世界は,技術ではなくアイデアだと痛感しますね。

 何か作ろうとおもって出来るものではない,おもろいことを思いついた時がまさに旬,そんな気分で,自分も本物のMakerになりたいものだと,考えながら大岡山を後にしました。

 次回も,ぜひ行こうと思います。

(追伸)かの清楚で賢そうなかわいらしい女子高生ですが,友人の妹さんと一緒に,とっとと先に帰られてしまいましたよ。そしてMTM04の感想として「イケメンが少ない」と宣っていたとのこと。出展者,見学者,いずれも次は頑張ろう!

StarTrek in Another World

 スタートレックには世界中にファンがいます。

 アメリカにはスタートレックがある,日本にはようやくガンダムが現れた,と私はよく言うのですが,先進国の向かう先には,大人も子供も夢中になるSF作品があるんじゃないかと,そんな風に思ったりします。そしてそれぞれに共通するのは,宇宙と未来とメカと,そして分厚い人間ドラマです。

 ガンダムと同じように,スタートレックもいくつものテレビシリーズが作られ,映画も公開されてきました。しかし,いずれも非常にマニアックで,ファン以外お断りが不文律になっているような気さえします。

 1つの大きな世界観があり,そこに緻密な設定が存在,すべての作品において矛盾が許されず,整合性を強く求められるのは,ある意味でガンダムと同じく国民的SFの宿命といえるかも知れませんが,その整合性が完璧であるほど,マニアや歓喜し,一般人は遠のいていくものです。

 さて,そこでシリーズ最新作の「スター・トレック」です。

 アメリカでは大ヒット,日本でもまさかのヒットを記録した今年の夏の映画でした。スタートレックでも,カークやスポックが出てくる作品は,国内では「宇宙大作戦」としてタイトルが付けられるのですが,本作品は「スター・トレック」とそのままです。

 本当なら映画館で見たかった私ですが,結局引き籠もってしまい,見る事が出来ませんでした。Blu-rayで出ることを心待ちにしていたのですが,それがようやく先日発売になり,今頃になって皆さんに追いついたというわけです。

 このお話,時代的にはTOS(The Original Series,要するに最初のスタートレック)の少し前,カークやスポックが若者であった頃を描いています。しかし,これが直接TOSに続くのかというとそういうわけではなく,別次元の物語として描くことでTOSに続く物語という役割から上手に逃れ,小さな矛盾や整合性の取れていない設定に対するマニアからの批判をうまくかわすことに成功しています。

 のみならず,マニアの視線におびえることなく,面白い事を遠慮せずにやっていこうという非常に前向きな力も加わって,自由にのびのびやってるなあという印象さえ感じます。

 スポックが感情をむき出しにカークを殴るシーンもおかしければ,マッコイが離婚して仕事を失ったから艦隊に入るという負け組根性丸出しなのもどうかと思います。チェコフが最初からいる(しかもかなりきもい)のも変だし,あの凄腕のスコットランド人エンジニアのスコッティが辺境に飛ばされているというのもおかしいでしょう。ちょっと仕草とかそっくりなので笑ってしまいますが・・・それに,カークとスポックでウフーラを取り合うのはいかがなものかと。よくあるバンドの解散の理由はバンド内恋愛であることを彼らは知らないのか!(そんなもの知りません)

 一番ひどいのはカークで,謹慎中に無断でエンタープライズに乗り込み,正式な辞令も無しに無茶な行動を起こし,何度も死にそうになりながら,最終的には大成功,表彰されて昇格するなんて,宇宙艦隊には規則はないんですか?

 そんな,バントのサインを無視して手当たり次第にバットを振り回したら,天性の才能に目覚めて外野に痛烈なゴロ,1塁で止まる気などさらさらなく躊躇せずに2塁を蹴り,3塁コーチが止まれというのにこれまた根拠のない直感だけでホームに突っ込み,砂煙が消えたらホームに指先1つで触れていて逆転満塁ランニングホームランにしちゃうような,そんでもってMVPまで持って行っちゃうような,そんな面倒臭いわがままな人がいきなり艦長になるなんて,私がクルーなら即刻船を下ります。命がいくつあっても足りません。

 なんか,傷物を集めてっていうあたり,なんか日本のスポーツマンガの典型のような気がするし,知恵と勇気と団結でどんな困難も乗り越える!みたいな流れになってしまいそうな気がして,ちょっと怖い気がします。かりにも人類の英知を結集した宇宙艦隊の旗艦エンタープライズですからね,愚連隊に任せるわけにはいかんのです。

 でも,いいんです。これは別次元のお話なのです。もはやなんでもありなのです。(だからといって好き放題しないところが,監督の腕の見せ所でもあります)

 そもそも娯楽至上主義のハリウッド映画で,監督自らも「マニアに向けて作ったわけではない」と公言してはばからないくらいですから,うるさいマニアがあきれて口をあんぐり開けている姿を期待しているんでしょうね。その分,何の知識もない人が,実に楽しく見る事の出来る映画になっています。スタートレックが理由も理屈もいらない映画になるなんて,私はちょっと驚いているくらいです。

 この映画の見所は,個人的にはテンポの良さと粋の良さ。はつらつとした若者が怖いモノ知らずで暴れ回る姿は実に爽快です。

 そしてキャストがまた素晴らしいです。カークのような生まれ持った直感の鋭いアウトローを描くと,どうしてもやんちゃなだけで終わってしまうのですが,思慮深さやリーダーシップ,そして時折見せる影の部分を見事に表現しています。

 スポックもそうです。ずばり,このスポックは男前の好青年です。おそらく,この映画でもっとも良い役者だったといえると思います。

 ウフーラもオリジナルをはるかに超越した美人で,もはやこれは反則です。

 カーデシア人の悪役ネロの演技も見事です。カーデシア人はTOSの世界ではTNGやDS9とは違った描き方をされていますが,TOSでの表現に比較的忠実で,実に陰鬱なイメージで描かれています。そもそもカーデシア人は遮蔽装置を持っていたり,小型のブラックホールを手なずけてエネルギー源にしているほどですから,ある意味最強の連中ですが,それがなぜ無鉄砲な地球人のカークに負けるのか,光と影によって表現された雰囲気が,それを説明しているかのようです。いやはや,Blu-ray万歳。

 キャストがみんな,まるで本当のクルーのように,仲良く結束して楽しく映画を作っていて,肩の力の抜け具合もよい塩梅で,スタートレックという大作に気負うことなく,自然に取り組んでいる姿が非常に好印象です。

 これだけヒットすれば,続編が出るのは間違いないんじゃないかと思っていますし,すでに家族や兄弟のような親しさで繋がったキャストの,強い結束感に基づく演技をもう一度みてみたいものだと思います。クルーの強い結束と信頼,これがスタートレック全シリーズに共通する背骨だと私は思うからです。

 外伝といいますか,スピンアウト作品といいますか,アナザーストーリといいますか,そんな雰囲気で,特に熱烈なトレッキーでもない人が,純粋に良質の娯楽を目指して作ったスタートレックは,鑑賞中のマニア的視点の維持も必要なく,作る方も見る方も楽しむ事に集中できる,大変に面白い作品でした。

速さは力

 なにやら,事業仕分けとやらが,毎日盛況のようです。

 ここ最近,毎晩のニュースを見ていても,この話が取り上げられない日はありません。

 確かに,無駄な予算にズブズブだった役人達が,上から目線の仕分け人の前で一刀両断にされる姿がテレビで放送されているのは実にわかりやすく,高圧的な突っ込みにあたふたしてファイルをめくる役人の姿は,政権が変わったことを強く印象づける「演出」としても,強烈な効果があります。

 まるで,大岡裁きとでもいうんでしょうか,いつの時代もお上や役人というのは民衆から遠いところにいて,なにかあるとやり玉にあがるものです。大岡裁きだって,厳格な法の適用という原則に反して弾力的運用を行ったことは,本当はあまりよいことではないはずですが,庶民感覚を重視した彼の判断が,多くの脚色の末,後世に名を残すほど下々の者に強いインパクトを与えたということだけは事実でしょう。

 今回の仕分け作業を非公開で行ったりすると,我々大衆は「やはり政治は密室で」と思う訳で,民主党は半ばあきらめかけていた庶民の政治への参加意識を復活させた点で,確かに素晴らしいものがあると思います。

 ただ,事業仕分けの内容を見ていると,ちょっとどうかなと思うものも散見します

 例えば,次世代スーパーコンピュータの開発予算です。廃止に近い縮減となったことが先日報道されています。どうも私はしっくり来ないのです。

 金額が減ったことが問題なのではありません。金額を減らしたその理由が,あまりに幼稚だと思うからです。

 いわく,

  世界一を目指す理由は何か

  2位ではだめなのか。一時的にトップを取る意味はどれくらいあるか

  一番だから良いわけではない

  ハードで世界一になればソフトにも波及というが分野で違う

 ということで,廃止に近いところまできたというのを耳にして,私はまあなんと幼稚な議論であることかと,ちょっと情けなくなりました。

 おそらく,スーパーコンピュータがどういうものか,スーパーコンピュータがなにを計算しているのか,スーパーコンピュータがある場合とない場合の違いがどんな所に出るのか,というあたりが,リアルに見えていないんだろうなあと思います。

 居並ぶ先生方がどの分野のご専門で,どういうバックボーンをお持ちなのか,私にはわかりません。わかりませんから批判は避けたいと思いますが,もしスーパーコンピュータが庶民レベルで「そりゃ絶対必要だ」と言われるような国は,それはそれでかなりやばい国ではないでしょうか。

 スーパーコンピュータは道具に過ぎず,裏方です。しかもお金も人も時間もかかります。結果は一般の人には体験しづらく,あった場合となかった場合の効能の差が,使っている人以外には想像も出来ない分野で使われています。

 繰り返しますが,スーパーコンピュータは道具です。本当に欲しいのは,強力な計算力です。そのためのお金であることを,なぜ分かってもらえないのかなあと思う訳です。

 だから,

  世界一を目指す理由は何か
    -> そんな理由はありません。欲しいのは世界一ではなく,計算力です。

  2位ではだめなのか。一時的にトップを取る意味はどれくらいあるか
    -> 2位でも3位でも全然構いません。自分達が成し遂げたい
      目的のために必要な計算力があれば順位は無関係です。

  一番だから良いわけではない
    -> その通りです。しかし自分達の欲しい計算力は
      結果として世界最高水準になります。

  ハードで世界一になればソフトにも波及というが分野で違う
    -> 当たり前です。世界一などどうでもよくて,とにかく
      今後も継続的に世界最高水準の計算力が欲しいのです。
      そのために,この事業を中断してはいけません。

 と,私なら反論するのですが・・・

 例えば,ある動画のエンコードに90分かかるとしましょう。10倍高速なマシンを導入すると,わずか9分で同じ結果が得られます。残りの81分は他の作業にまわせます。これはすごいことです。時間をお金で買う,と言うことそのものです。

 この事実があるからこそ,我々はお金と時間を天秤にかけ,どこまでならお金を出せるか,検討する事が出来るようになります。90分待てる人は安いコンピュータで待てばいいし,短縮した時間で稼いだお金が,かけた費用を超えるなら,それは迷わず10倍高速なコンピュータをすぐに買うべきです。とても単純な話です。

 以前は,いくらお金を用意しても5倍までしか買うことが出来なかったものが,今は10倍のものが買えるようになったとすると,技術的な限界ではなく,お金をいくら出せるかという経済的な限界に支配されるようになりますが,まさにこれが今起きていることだと言えます。

 もし,計算能力の需要がないなら,計算能力の供給に余力があっても(つまり技術的にその計算能力の供給が可能な状態にあったとしても),誰もその計算能力を供給しようとしないでしょう。

 しかし,これだけ頻繁に世界一が入れ替わり,ランキングに登場する顔ぶれも毎度コロコロ変わる状況は,計算能力の需要が旺盛である証拠であり,その需要に応える形で供給側がどんどん計算能力を高めるからです。

 先進国である日本だって例外ではなく,膨大な計算能力が必要とされています。世界一のスーパーコンピュータが必要かどうかを理由にするのではなく,それだけの計算能力がなぜ必要で,どこに使われ,どういう成果が期待できるのかということにこそ,議論を集中させねばならないのではないでしょうか。

 いや,私が知らないだけで,すでにやってるのかも知れません。そういう地味なところはカットして放送しているのかも知れないです。

 でも,そうだとしても,世界一とか,そんな無駄な話をする必要は全くありません。世界一が目的です,なんていうから,「それがどうした」っていわれちゃうのです。

 「ただ高速な計算機が欲しかったから」という理由で,ENIACは作られたでしょうか。弾道計算に使うから,という理由で予算が付いたわけです。

 Cray1はどうでしょうか。クレイ本人の動機は技術者として「世界最高の演算スピードを実現する」でしたが,同時に強力な計算能力が必要な人々に提供され,きちんとビジネスとして成立していました。つまり理由は需要があったから,です。

 で,次世代スーパーコンピュータです。理由は何ですか?で,世界一です,なんて,今時脳みそが筋肉で出来ているやつしか言いませんよ。こういうことに使います,だからこれだけお金がかかっても十分価値があるのです,と言わないと,お金なんて出てくるはずがないじゃないですか。小学生が親から小遣いをせびるときだって,同じでしょう。

 冒頭,「おそらく,スーパーコンピュータがどういうものか,スーパーコンピュータがなにを計算しているのか,スーパーコンピュータがあった場合とない場合の違いがどんな所に出るのか,というあたりが,リアルに見えていないんだろうなあと思います。」と書きましたが,これは仕分け人に対してというより,役人に対して強く言いたいことなのです。

 世界一などどうでもいい,しかし今必要な計算需要は結果として世界最高レベルである,今後継続してこの計算需要を満たすためには継続的な開発が必要で,中断すると海外にその計算能力を求めねばならなくなる,計算能力の低下と海外への依存は国家として大問題だが,その問題意識はあるのか?

 なぜ,こういえないのかなあと,本当に不思議です。

 幸いなことに,現時点でも富士通だけはこのプロジェクトに残ってくれています。しかも富士通は世界最高性能に匹敵するマイクロプロセッサの開発に成功しています。こうした基礎的な技術を持っていることで,荒唐無稽な夢物語に予算を求めることもなく,現実的な数字で予算の獲得が可能だったはずです。

 悪い癖で,神戸に次世代スーパーコンピュータ用の建物の建設が始まっているそうです。またしても役人は箱物から,なんですね。そこが重要なんじゃないでしょう。

 宇宙開発しかり,Spring8しかり,どんなことでもそうです。民主党の言う費用対効果というのは,こういうことでしょう。長い目で見ないといけないとか,短時間の費用対効果を求められても困るとか,そういうのは科学技術の性質を悪用した最悪の言い訳です。科学技術に無知な人ほど,こういう言い訳を考えるものです。元宇宙飛行士やノーベル賞受賞者の落胆が世の中を変えるわけではないのです。

 税金は無駄に使って欲しくありません。それは我々国民から集めたみんなのお金であり,有意義に使われることを望むからです。無駄に使うのではなく,有意義に使ってほしいから,私は科学技術に対する投資をやめて欲しくはありません。次世代スーパーコンピュータの役割をもう一度定義し直し,その計算能力は時間を買うことに繋がるという,投資を国から受ける形で,再検討されるといいなと思います。その結果,やっぱり必要ないな,という事になれば,それはやっぱり無駄だったということになるわけですし。

 まあ,こういう建前ででも,スーパーコンピュータに熱意をもつ若いエンジニアが育つ土壌できれば,いいですね。所詮人間は競争せずにはいられません。コンピュータが時間を買う道具である以上,同じ金額でどれだけの時間を買えるのかが常に競われるもので,それはつまり,あくなき計算能力の向上を意味します。

 計算能力が向上するという事は,同じ計算能力なら安く買えるということを意味しています。コンピュータの計算能力の向上があったから,我々の身の回りにコンピュータがあふれているのです。

 少しでも高速な計算機を・・・クレイが唯一目的にしたこのロマンを,次の世代にも引き継いで欲しいなと思います。NECが90年代に使っていたコピーを引用します。

 「速さは力」

リコーのGXRが作る素晴らしき世界

 リコーから発表になった新しいコンセプトのデジタルカメラ,GXRを取り上げないわけにはいきません。

 名前の由来として,同社のコンパクトデジカメGXシリーズと,かつて同社が発売していた一眼レフ銀塩カメラXRシリーズをあげたあたり,ついついニヤニヤしてしまうオッサンとしては,XRシリーズの面白さってなんだったかなと考えてしまいました。

 XRはKマウントのカメラで,ペンタックスの豊富なKマウントレンズを使う事の出来る,非常にコストパフォーマンスの高いカメラでした。基本性能に特化し,普段余り使わない機能や性能にはお金をかけず,お金のない高校生なんかにユーザーが多かったように記憶していますが,これはこれで重要な価値がありました。

 ボディは基本性能さえしっかりしていれば,そんなに高価なものはいらないというのが私の考えです。高価なボディにはそれなりの理由もあるし,持っていてうれしくなる精神面での寄与が良い写真を生むトリガになるのも事実ですから,高価なものを否定する気はありません。

 しかし,ボディよりも,レンズが支配する割合が大きいのが銀塩写真の世界ですので,あの個性豊かなKマウントのレンズが,あんなに安い値段で使えるなんて,なんてうらやましいカメラだろうとXRシリーズに感じた事は,実は何度かありました。

 これはつまり,GXRシリーズの面白さに繋がるといえるのですが,GXRは撮像素子と光学系を1つのパッケージにし,ボディには画像処理エンジンとストレージ,そしてディスプレイと操作系を担わせたものであるわけで,レンズの交換によるメリットと共に,ボディ側の進化やシリーズ展開が期待できるということです。

 リコーも含め,報道でもこの点はあまり積極的に触れていないように思うのですが,私はこれを強く期待したいです。(そのためには長くこのシステムを継続してもらわねばなりませんし,魅力的なレンズユニットが登場することが必須ですけど,これは大丈夫なような気がします)

 つまり,耐環境性能に優れた完全プロ仕様のボディや,超大容量のストレージを内蔵したモデル,超高速化や超高画質化という流れもあるだろうし,電池寿命が極端に長いモデルもありでしょう。もしかすると2つレンズユニットを取り付けてステレオ撮影が可能なモデルもありかも知れません。

 逆に,液晶画面も小さく,耐久性もやや低い安いボディというのもいいですね。最初にこうした廉価版を買っても,後で高級なボディに買い換えるというステップアップも出来ます。

 製造の難しい光学系を電気信号で分離したことで,もしかすると他社の参入もあり得るかも知れません。こればかりはリコーの考え方によるでしょうが,各社の画像処理エンジンの性能差による画造りの差を楽しめたりするかも知れません。

 コンパクトデジカメを作る力があれば,このレンズユニットを作る事が可能という点で,こちらも様々なメーカーの参入が可能でしょう。光学系の製造は出来ても,画像処理はまだまだ,という海外メーカーは多く,それこそCarlZeissのような高級品から,旧ソ連のレンズのようなマニアックなレンズまで,それこそいろいろな可能性が出てくるように思うのです。

 これはもしかして,M42のレンズ沼になる可能性が・・・いや,それはちょっと気が早すぎるか。他社の参入があった時点で,その夢を膨らませることにしましょう。

 いずれにせよ,システムカメラとして一歩を踏み出す決意が,最初に50mm相当のマクロレンズをAPS-Cサイズの撮像素子で用意したあたりでうかがえるのは,私だけではないと思います。その長く険しい,容易に撤退することを許されない世界に飛び込んだ英断を賞賛したいと思います。

 技術的には,1つのパラダイムシフトといって良いと思います。レンズとボディは,連動無しから機械式連動になり,やがて電気信号を用いるようになりますが,ここまでは光学系と制御系が分離していました。

 しかしGXRではこの光学系についてもレンズで完結し,制御系共々電気信号に統合してボディに伝達するという,1つの到達点に来たように思います。

 このことによって,光学ファインダーを捨てることになってしまいました。逆の言い方をすると,光学ファインダーのせいで,光学系を電気系にまとめることが出来なかった,とも言えるかもしれません。

 電気信号になってしまうと,もうなんでもありです。

 レンズユニットとボディの接続に無線を使ってしまえば,レンズとボディは一体である必要さえなくなります。TCP/IPを実装すればインターネットに繋いで,世界中のレンズユニットと接続出来ます。距離という物理的な壁を越えるのです。

 レンズユニットから無線LANでPCにつなぎ,PCでボディを代替する方法もありですね。PCの巨大な演算能力をもってすれば,もはや何だって出来ちゃいます。

 いやー,夢はドンドン膨らみます。

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