エントリー

2016年10月の記事は以下のとおりです。

ロシアより愛をこめて

  • 2016/10/31 10:12
  • カテゴリー:make:

 さて,先日のKT-1100Dの再調整の件で,半導体を少しばかり確保そしておこうと思いました。LA3350は,たまたま秋葉原の店頭で買えたから良かったものの,手に入らないともうおしまいだった部品なわけで,代用可能なものでない限り,困る前に手配しておくと幸せになれるというのが,長く生きてきた結果学んだものの1つです。

 まず手配しようとおもったのは,このころのケンウッドのチューナーの要である,アナログ乗算器です。

 MC1495という定番のICで,古くからあるメジャーなものですから,高価であっても入手は簡単だと思っていました。1つ違いのMC1496なんか,新日本無線がセカンドソースを作ってくれているくらいですし。

 調べて見ると,入手などとんでもない状態であることがわかりました。

 どうやら生産中止。世界中のどの部品屋さんでも在庫はなく,もともと高価で特殊な用途に使われた高性能部品だっただけに,似たようなICはいくらでもあるのですが,このICに限ってはほとんど見かけません。

 また,電子楽器に使われたICでもあり,ヴィンテージ電子楽器という特殊な市場で取引される部品の1つとくれば,もう価格なんてあってないようなものです。私は絶望しました。

 しかし,面白いものですね。MC1495でgoogle先生に聞いてみると,ロシア製ならあるよと教えてくれるじゃありませんか。

 ロシア,あるいは東欧圏においてもICが生産されていたことに疑問はないと思いますが,アメリカや西ヨーロッパのデッドコピーが生産されていたことは,当時の鉄のカーテンのせいもあり,あまり知られていません。

 旧東ドイツ製のZ80とか,結構マニア向けのものが珍重されているという話も聞いたことがあります。

 MC1495相当品である,ロシア製のICの名前はKR525PS1Aとのことです。

 10個で1400円ほど。なんとamazonで注文可能。470円ほどの送料,わずか1週間でロシアから届くそうです。ほんまかいな?

 まあ全部で2000円ほどですし,騙されたと思って買ってみましょう。いやはや,旧共産圏の半導体は初めて買いますね。大丈夫なのか・・・

 果たして,10日ほどで届きました。すごいですね,本当にロシアから自宅まで届きました。見たこともない相手の姿をなんとなく想像して,なんだかあったかい気持ちになりますね。

 電子メールではなく,封書で海外の友人と文通なんていうと,毎回こういう気持ちになるんだろうなと思いました。

 とはいえ,先日書いたようにKT-1100Dがまともに動いていない状態だったので,このICに交換することもしていませんし,他に動作の確認をする方法もありません。型名と数量があっていること,ピンの状態から少なくとも外し品ではないこと,でも変なマーキングがあったりなかったりでとても不安なこと,そんな複雑な想いが交錯しながら,私の机の上に置かれています。

 プレミアが付いていない状態でも,MC1495というICは数千円しました。怪しげな互換品とはいえ,これが本当に動くならば,とてもお買い得だったという事になるでしょう。いずれ確かめてみたいと思います。

KT-1100Dの再調整で泥沼

  • 2016/10/27 11:46
  • カテゴリー:make:

 先日,オーディオアナライザVP-7722Aに,自作したIHF-BPFを装備し,FMチューナーをちゃんと測定出来る環境を整えたわけですが,懸案だったKT-1100Dの再測定を行いました。

 行いましたが,もうとにかくひどい有様で,ここに書く気もおきません。セパレーションは30dBを割り込んで,そこらへんのラジオ並みです。歪み率も良くないので,意を決して再調整することにしました。

 これが不幸の始まりです。

 再調整は,実にスムーズにいきました。RFの調整はいつもの通り難しくなく,簡単にできました。歪みを減らすDCC回路の調整も,IHF-BPFのおかげで不要な高調波がカットされ,とても楽に調整出来るようになりました。

 セパレーションは70dBに達し,歪率もステレオで0.02%@1kHz以下になりました。よしよし,これなら万全だと安心をしたのも束の間で,セパレーションの値がどんどん悪くなって行きました。

 そこでまた調整をしますが,またずれる。これを何時間か繰り返してもなかなか落ち着く気配がありません。適当な所で妥協してフタを閉じると,そこから急激に悪化し,30dB程度になってしまいました。

 温度変化によって,セパレーションがどんどんずれていくんですね。これは以前もそうでした。前回は結局あきらめて,常用温度域で50dB程度のなるような調整をして,手を打ったのです。

 今回もそうしようと思ったのですが,ちょうど暑い日と寒い日が交互に来るときがあり,数日通電してせぱれーしょんの変化を追いかけたのですが,気温によって大きく変動することがわかりました。

 機内の温度がそれなりに高くなっても,やっぱり気温の変化は影響を受けるのです。これでは夏と冬とで性能差が大きくなりすぎて,使い物になりません。

 こんなに温度変化が大きいのは,どこかが壊れているからだろうと故障箇所を調べることにしましたが,やっぱりよくわかりません。

 そもそも,70dB以上のセパレーションをたたき出す回路ですので,本質的な部分で回路が動作していないということはないわけで,きっと交換した部品の温度特性が悪いか,半導体の劣化だと思いました。

 指で触って大きく変動する部品を探してみると,なんだかんだでLA3350というFMステレオデコーダのICを触った時が一番変動が大きいです。

 KT-1100Dのステレオデコーダは,一般的なものとはかなり違っていて,コンポジット信号から副信号だけを抜き出したものと,38kHzのサブキャリアをアナログ乗算器に突っ込んで,L-Rの信号を復調します。ここにお金がかかってます。

 主信号のL+RとL-Rを加算してLを,L-Rを反転してL+Rに加算してR信号を得るというのがKT-1100Dです。

 別にそんなことをしなくてもと思う訳ですが,一般的なスイッチング方式というのは38kHzのサブキャリアを正弦波ではなく矩形波で乗算したものと考える事が出来るわけですが,その結果どうしても綺麗に分離できない部分が出たり,歪みが増えたりするそうなんです。

 そこで,正弦波で分離が出来るように,わざわざ高価なアナログ乗算器を使っているのですが,問題はアナログで信号処理を行う難しさとどう闘うかということです。

 38kHzのサブキャリアは,一般的なステレオデコーダICを部分的に利用して,19kHzのパイロット信号からPLLを使って生成します。LA3350を指で触ってセパレーションが悪化するというのは,どうもこの38kHzの位相が狂ってしまうからじゃないかと考えてのです。

 VCOのフリーラン周波数がずれると,どうも位相のズレが大きくなるようで,PLLがロックすればフリーラン周波数など関係ないと思っていた私は,己の不勉強を恥じました。

 で,そのフリーラン周波数は,指で触ると大きく変動することが分かっています。ここが温度特性を持っているのは間違いなさそうですが,もはやLA3350の内部の話です。故障や劣化が起きているのであれば,交換しか手はありません。

 しかし,LA3350は今はなき三洋の半導体ですし,40年も前の部品です。アマチュアに広く使われていた定番でもないので,入手は絶望的だと思われました。

 しかし,若松通商にあるとわかり,2週間ほど前の土曜日にさっと秋葉原まで買いに出かけました。本当にこのLA3350だけを買いに行った感じで慌ただしかったのですが,帰宅後交換しても現象は変わらずです。

 困りました。

 他の故障があるなら仕方がないのですが,実は気になっていたのが,温度特性の大きなカーボン抵抗ばかりが使われていることでした。ここをずっと温度特性の良い金属被膜にすると,抵抗の数が多いだけにかなり改善されるんじゃないかと思ったのです。

 100個近い抵抗をコツコツを数日かけて交換したのですが,すべてを交換してから通電すると,ステレオにならないばかりか,モノラルでさえも左右でレベル差が倍ほどあります。

 これはつまり,部品を交換し間違えたということです。悪いことにカーボン抵抗のカラーコードは4本,金属被膜は5本ですから,読み間違いをしがちです。大きい鞄ですから裏表をひっくり返すのも大変で,差し込む場所も間違いやすいです。そういうことが重なって,どうも抵抗を付け間違えたようなのです。

 私は回路図を持っていませんし,ケンウッド独自のステレオデコーダーの動作原理も正確に分かっておらず,しかも高価で今や貴重品扱いのMC1495のピン配置や動作など全然わかっていませんので,波形を追いかけてもどの抵抗がおかしいかわかりません。

 試行錯誤を繰り返し,1日1箇所位ずつミスを見つけたのですが,セパレーションが全然良くなりません。真面目にMC1495を勉強し,似たような機種の回路図を眺めて動作を頭に入れて,波形を見ながら調べましたが,それももう限界です。

 もう1台KT-1100Dを手に入れる事も考えましたが,価格が高騰していて手が出ません。

 万策尽きたと嫁さんに愚痴ったのですが,ふと素晴らしいアイデアを思いつきました。
 
 外した抵抗の数を数え,基板上に同じ値の抵抗が同じ数だけあるかどうかを確かめるのです。一致していれば,少なくとも違う値を付けてしまうというミスの可能性は小さくなります。

 この方法で1つ間違いを見つけ,ようやく交換前の状態まで戻せました。この間3日。のべ6時間ほどかけて,自分の尻ぬぐいです。

 なんで1本交換するごとに動作確認をしなかったのか,1本が面倒なら3本でも5本でもブロックでも,なんで逐一動作確認をしなかったのか,そもそも値を間違えるとか,場所を間違えるなんてのは,ハンダゴテを買ってもらったばかりの電子工作初心者の子供がキットを完成させられない原因トップ3に入る基礎的な話じゃないかと,自分を責めてももう遅いです。

 時間がないと言う理由で一気に交換してしまったのが最大の問題であり,結局けちった時間の数倍の時間をかけることになってしまいました。こういうことで,さんざん痛い目に遭ってきたのに,まったく学習しないものです・・・

 かくして,温度変化を確認したところ,少しは改善したようなのですが,相変わらず変動があります。

 あと温度変化に影響がありそうなのは,アナログ乗算器から電流出力を引っ張り出す際の,カレントミラー3段です。高級機であるD3300Tなどは,ここにペアトランジスタを使ってあるのですが,中級機であるKT-1100Dくらいだと,ここには汎用の2SA733や2SC945をバラで使ってあります。熱結合もされていません。

 ですので,ここはhFEでペアを取り直し,接着して銅箔で巻いて熱結合してみようと思います。でもまあ,出来る事はこのくらいなんですよね。LA3350を指で触ってセパレーションが悪くない問題は,このくらいでは解決しないと思います。



電子負荷をパワーアップ

  • 2016/10/14 12:11
  • カテゴリー:make:

20161013121543.JPG

 

 さてもう1つ,digikeyで手に入れた部品であるインフィニオンのBTS141を使うことにしましょう。

 もともとこれ,Re:load2という名前の電子負荷キットのアップグレード用に買ったものです。キットの説明ではBTS117という定格の小さなMOS-FETが使われていることになっているのですが,私が買ったキットにはBTS133という上位の定格のものが入っていました。

 これを,さらに上位のBTS141に交換し,さらに多くの電力を吸い込めるようにしようというのが,今回の目論見です。

 ここで,インフィニオンのBTS117,BTS133,BT141について簡単に書いておきます。基本的にはN-chのMOS-FETなのですが,熱や電流に対する保護回路が入っていて,外に設ける必要がありません。

 モータやソレノイドといったような決まった負荷を駆動する用途なら保護回路の設計も楽なのでしょうが,電子負荷のようにギリギリ上限を狙う必要があり,しかも発生する熱をきちんと考慮しないといけない保護回路というのは,なかなかきちんと動作させるのが大変そうです。

 それがチップの上に作り込まれているというのですから,これほど完璧なものもありません。確実に動作する保護回路のおかげで回路が極めて簡単になり,かつ確実で安全なわけですが,このキットはこの部品を選んだことで綺麗にまとまっているといってよいと思います。

 ということで,この3つの定格を並べてみます。左から順に,耐圧,定格電流,オン抵抗,最大許容損失,ジャンクションからケースまでの熱抵抗です。

BTS117 60V 3.5A 100mΩ 50W 2.5K/W
BTS133 60V 7A 50mΩ 90W 1.4K/W
BTS141 60V 12A 28mΩ 149W 0.84K/W

 見て分かるように,順に定格が大きくなっているのがわかります。

 オン抵抗が半分になると電流も倍流せるようになり,損失も倍近くを扱えるようになるわけです。

 とはいえ,電子負荷というのは完全にMOS-FETが導通状態(つまり上記のオン抵抗)になる前の,抵抗を持っている状態で使います。ドレインとソースの間に15Ωの抵抗がある状態なら,15Vをかけると1A流れるわけで,つまりここで15Wの電力を熱に変換してくれるということになります。

 そういう観点で言うと,実は電子負荷ではオン抵抗は関係がありません。

 BTS133を使っている現状の電子負荷では,15V・2Aの30Wで保護回路が働いてしまいますので,実はBTS117でも定格内です。放熱器をもっと大きくすればまだまだ吸い込める余地があるということではあるのですが,現実には無限大の放熱器は用意出来ませんし,仮に用意出来ても熱抵抗をゼロには出来ません。

 ここでBTS141にするとうれしいのが,ジャンクションからの熱抵抗の低さです。熱抵抗が大きいという事は,発生した熱を外に出すことが難しいという事になるので,よりジャンクション温度を低く維持するためには,熱抵抗を低くしないといけません。

 BTS117は2.5K/W,BTS141は0.84K/Wと大きな差がありますが,BTS141は熱抵抗が低いために,BTS117に比べるとよりジャンクションで発生した熱を外に吐き出す事が出来るので温度の上昇を小さく出来る,つまり大きな定格で使うことが出来るようになるということになります。

 ところで,BTS133はTO220で実装されているのですが,digikeyで手に入ったBTS141のパッケージはあいにくTO262でした。残念な事にTO220は生産中止で入手不可能とのことです。

 TO262はTO220ネジ留めをするフィンをカットし,足を曲げて基板に面実装を行うパッケージですので,とても似ているのですが取り付け方は全く異なります。

 TO220だと放熱器にネジ留めできたのに,TO262ではそうはいきません。

 先日購入した熱伝導型の接着剤でくっつけることを考えたのですが,絶縁が出来ないのでダメだとわかり,ちょっと考え込んでしまいました。

 TO262をTO220にする基板が売られていて,これを使えばいいように思うのですが,やっぱり間にガラスエポキシが挟まってしまうので,熱抵抗が増える方向に向かいます。それはちょっと嫌ですよね。

 で,考えた結論が,上から金属で押さえつけて密着です。これだと従来のTO220で使っていた絶縁シートをそのまま流用し,強い力で放熱器に密着させることができるでしょう。

 手頃な金属の板を探すのですが,うまい具合にタミヤの工作シリーズの,クランクの部品が発掘され,これを使うことにしました。

 放熱器にもう1つネジを切って,2本のネジで固定します。

 思った以上にしっかり固定できました。あまり強くしめると割れてしまうので程ほどにしないといけませんが,TO220での固定くらいの熱結合はしていると思います。

 あとは元通り配線するだけ。早速テストです。

 結論から言うと,安定して吸い込めるのは,従来の15V-2Aの30Wから,19.5V-2Aの19Wまで拡大しました。きりのいいところで20V-2Aなら良かったのですが,これだと15分くらいで保護回路が動作してしまいます。

 ということで,熱抵抗が1/3くらいになっているにも関わらず,吸い込める電力が3割増し程度にとどまっているのは少々不甲斐ない気もしますが,これはもう放熱器が小さくて,空冷をしていても追いつかない(事実かなり放熱器が熱くなる)言えて,もう少し大きな放熱器にした方が良い結果が得られたと思います。

 このサイズで40Wを吸い込めるんですから,無闇に大きな物にして利便性を損なうのもどうかと思いますから,これはこれでよし。

 ところでこの電子負荷ですが,電源回路や電池の性能のチェックに使うつもりで用意したものの,案外便利に使っているのが,ニッケル水素電池の放電です。

 劣化が進んで急速充電器が「不良品」と判定してしまうニッケル水素電池が増えてきたのですが,完全に放電しきってから充電するとうまくいくことがあります。

 その際の放電器に使っているのですが,0Vから動作し,電流もつまみ1つで可変出来るのでとても便利です。これだけでも電子負荷を作った甲斐があったとさえ思います。

VP-7722AにIHF-BPFを内蔵する

  • 2016/10/13 12:14
  • カテゴリー:make:

20161013121542.JPG

 FMチューナーの調整のための環境を,それなりの覚悟で行ったのはいいのですが,どうも調整しきれずにモヤモヤとした気分のままに,使い続けている状態です。

 まあそのうち,今後の課題だな,と問題の棚上げをずっとし続けるわけにもいかず,特にステレオ時の歪率やS/Nの測定値が非常に悪いことに,決着を着けないといけないなと思っていました。

 測定値が悪いのは,FMのステレオ放送の方式によるものなのか,あるいは本当に実力が低いのか。

 そう,F-757にしても,KT-1100Dにしても,こんなに悪いはずがないのです。やっぱり19kHzのパイロット信号が漏れていて,これが歪率を悪化させていると考えるべきです。

 では,どうすれば正しく測定出来るのか。かつてケンウッドでFMチューナーを設計されていた方のサイトに記載があったのですが,なんでもFMチューナーの測定用に用意された,専用のフィルタを通して測定するのが正解なのだそうです。

 IHF-BPFと呼ばれるそのフィルタは,オーディオアナライザに標準搭載されることが多いので,特に断りもなくこれを使って測定を行うものなのですが,FMチューナーの測定を行うことが少ない現在,そうしたフィルタの存在は非常に希薄で,あまり話題に上がることはないように思います。

 私も偉そうなことを普段は言っていますが,やっぱり未熟者ですので,そうしたフィルタの存在をきちんと意識して測定していたとは言えません。だからFMチューナーの測定を,単純な30kHzのLPFで済ませては,結果が芳しくないと悩むことになるわけです。

 で,そのIHF-BPFですが,google先生に聞いてみても,案外ストレートな答えが出てきません。IHFという団体は名称が変わっていますし,国内の測定規格についても削除や変更があって,今どうなっているのかがよく分からないのです。

 しかし,フィルタの特性をきちんと合わせないと,公平な性能評価も出来ません。カタログに書かれた値に近づけて初期性能に戻して上げることも出来ません。やっぱり,IHF-BPFは,FMチューナーの調整環境には必須なのです。

 私のVP-7722Aには,このフィルタが標準では入っていません。オプションで内蔵できるようになっています。

 高級機なんだし最初から入っていて欲しいんですが,冷静に考えるとデジタルオーディオにも対応出来るくらいの高精度なオーディオアナライザゆえに,測定対象に合わせたフィルタを選べるようになっているんだなあと思います。

 内蔵はカードエッジコネクタに専用の基板を差し込むだけで終わります。それでフィルタ選択キーの「OPT」が有効になるという仕組みです。でも,そのオプションが今どき中古で市場に出てくる可能性はほとんどありません。

 なら,自作するか。

 IHF-BPFの特性がわかれば,それに準じたフィルタを作り,入力端子の前に置いてやるだけです。内蔵するのとは違って使い勝手はよくありませんが,なんとなくこれで十分な気がします。

 しかし,肝心な特性がよく分かりません。19kHzだけトラップするだけで済ませてもいいように思いますが,厳密に言えばIHF-BPFは400Hz以下をカットし,15kHz以上もカットして,送信されてくる音声信号以外をすべてカットするようになっているはずです。

 あーややこしい。

 ということでずっと棚上げになっていたのですが,ある時偶然,VP-7722Aのサービスマニュアルを見る機会がありました。珍しい物なのでじっくり見たのですが,ここにオプションのフィルタの回路図が出ているではありませんか。

 見てみると,そんなに難しいものではありません。2回路入りのFET入力OP-AMPであるNJM082Dが2つ使われているだけのものです。カードエッジコネクタのピン配も書かれているので,うまく作れば互換ボードを作って内蔵できそうです。

 よし,作ろう。

 とはいえ,GPSDOもNutubeも先に片付けたかったので,VP-7722A用のIHF-BPFはずっと後回しになっていました。コツコツと部品を集めて,8月頭には全部揃ったのですが,取りかかったのは9月末です。

 まず,必要な部品について。半導体は大した事はありません。どこでも売っている,安価な部品ですので足を引っ張ることはありませんでした。

 問題になるのは抵抗とコンデンサです。いずれも誤差は1%,抵抗に至ってはE96系列です。抵抗はアキバに行けばなんとか買えるとして,コンデンサは最近1%精度のフィルムコンデンサが軒並み製造中止になっているので,簡単には手に入らないでしょう。

 誤差が1%を要求しているということは,相応の性能の抵抗とコンデンサを求めているということですから,温度特性も校了しないといけません。カーボン抵抗を100本買って選別を行っても,温度特性でアウトなわけです。

 そこで,ちょっと考えました。抵抗については,多回転型の半固定抵抗(サーメット)と切りのいい値の金属皮膜抵抗を使い,指定の値の抵抗を作ります。抵抗値は実測で追い込む事になりますが,幸い秋月に50円くらいで売られているサーメットが温度特性も良くて,好都合です。

 このサーメットは横型なのですが,抵抗と組み合わせると立てて基板に取り付けることが出来ますから,今回の回路の実装にはかえって好都合です。
 
 とはいえ,安いと言っても50円です。組み合わせる金皮抵抗が10円として合計で60円ですから,アキバでE96系列の金皮抵抗を買っても,この値段以下で買えるんじゃないかと思います。

 コンデンサについては,共立エレショップで1%を可能な限り買いました。ここは数年前まで1%品のフィルムコンデンサを常備してくれたお店だったのですが,生産中止だけはいかんともしがたく,今は在庫だけが買えます。

 例えば,2000pFは1000pFを2つ並列にして作るとか,そういう工夫でなんとか揃えて行きます。1000pFのようにたくさん使うものは,多めに買って実測して,ちょうど2000pFになる組み合わせを作っておくことも可能です。

 部品が揃ったら,今度は基板です。ユニバーサル基板で作る事は決まっていましたが,コネクタをどうするかです。適合するカードエッジコネクタが手に入ると考えていなかったので。分解してコネクタから直接配線を引っ張り出して内蔵することになるだろうと思っていたのですが,実際にVP-7722Aを覗き込むと,2mmピッチ,片側10ピンのコネクタでした。

 そういえば2mmピッチのカードエッジコネクタってあったかもとジャンク箱をひっくり返すと,ありましたありました,ミニコンピュータかなにかの拡張ボードを作るための,専用ユニバーサル基板がジャンクで安く出ていたときに,5枚ほど買っておいたのが出てきました。

 基板もそのまま使えるかと思ったのですが,ベークで片面,しかも電源は配線済みということで,アナログ回路を作るにはちょっと厳しいですから,コネクタ部分だけカットして,10ピンにしました,

 これを,両面スルーホールのユニバーサル基板の端っこにくっつけます。試しにVP-7722Aに差し込んで見ると,うまく刺さってくれます。よしよし。

 ところで,回路規模はそんなに大きくはないのですが,なにせCR類が多いですし,複雑に繋がっているものですので,あまり基板が狭いと配線が綺麗に出来ず,特性が出ないかも知れません。

 こういうのって勘に頼るところが大きいわけですが,後で悩むのも面倒なので,ちょっともったいないのですが大きめの基板を使うことにしたのです。

 先に手配したサーメットと,手持ちの金皮抵抗を組み合わせて,所定の値の抵抗を作って行きます。面倒ですが一応4端子法で測定していきます。

 コンデンサも実測して組み合わせを作りました。どうしても5%品しか手に入らないものもあり,実測しても結構ずれてしまうものがありましたが,もう仕方がありません。

 部品も揃ったので,コツコツとハンダ付けです。カードエッジコネクタから入り,同じ所に出て行くので,信号の流れはU字型になります。あまりこういう配線になれていないのですが,信号の流れに沿って回路をぐるっと旋回させて配線をします。

 正負両電源を配線し,あいた部分は銅箔テープでGNDに落として,完成です。

 特に電源部分の配線間違いがあると,VP-7722Aを壊してしまうかもしれないので,組み込み前に外部に電源を用意して,正常に通電できるかどうかだけ確認してみます。

 そうすると,案の定間違ってました。正負両電源のマイナス側を逆にしていたので,OP-AMPにかかる電圧が正負の電圧の差になってしまい,まともに動かなくなっていました。
 
 これを修正,ついでに一部GNDに落ちていない配線も見つかったのでこれも修正しました。ところが電源器に繋ぐ時にうっかり間違え,電源を逆接続してしまいました。このOP-AMPはもう壊れてしまったかも知れません。

 そこも修正,今度は電流もたくさん流れないし,なにやら出力に信号も出ているようなので,もうVP-7722Aを壊すことはないでしょう。思い切って内蔵です。

 まずはOPTキーでこのフィルタに切り替わるかどうかですが,これは問題なし。

 ですが特性を見てみると,もう全然ダメです。本当なら,下の図のような特性にならないといけないのですが,19KHzのディップは全く出てきませんし,30kHz以上の帯域も-30dB程度の阻止能力しか出ていません。明らかにおかしいです。

20161013121544.jpg
 配線間違いが大半だろうと何度も確認をしますが,なかなか尻尾がつかめません。電源ラインに入ったフィルタ用の15Ωが,マイナス側だけ75Ωになっていたのでこれを修正しましたが,変化はありません。

 うーん,困った。

 作っている間に調整したサーメットが狂ったかも知れないと回路から切り離して測定しますが問題なし。

 何段かになっているフィルタの回路を順番にバイパスしていき,どこの回路が正常に動いていないかを調べて,そこを重点的に確認すると・・・あったあった。

 1000pFを付けないといけない部分に,なんとまあ2700pFが付いているではありませんか。大きさも色も形もそっくり,ちょっとだけ2700pFの方が分厚いかなと思う感じなのですが,マーキングが他の部品で隠れていたため,確認が漏れていたようです。

 それにしても,部品の値を間違うとは・・・情けないです。

 交換してやると,期待通りの特性が出てきました。いや,よかったよかった。

 では,調整です。このボードには2つの半固定抵抗があります。1kHzでのゲインと15kHzでのゲインです。

 特性図を見ると,1kHzと15kHzで0dBにすればいいように思うのですが,調整を試みると15kHzでは0dBになりません。調整範囲の上限と下限を見てみると,どうも-12dBぴったりに合わせるのが正しい様な感じです。

 ということで,1kHzと15kHzのゲインを交互に調整し,1kHzで0dB,15kHzで-12dBになるように調整をします。

 調整が終わってから,改めて動作の確認です。

 先に記載した特性図とほぼ同じような特性が出ています。19kHzのノッチフィルタついては,ちょっと周波数がずれてしまっていて,一番低くなる周波数が18.8kHzになりました。残念な事に19kHzでは-50dBは出ず,-46dBくらいまで悪化します。

 これでは今ひとつなんですけども,もう追い込むのも面倒なので,このままいきます。

 歪率やS/Nを確かめましたが,どちらもフィルタの有無で差が出ません。うまく動いているようです。

 取り付け場所が狭く,基板がショートしそうなので,ここにプラスチック板を張り付けて絶縁し,完成です。

 やれやれ,やっとIHF-BPFが内蔵できました。近いうちにFMチューナーの特性を測り,調整を行おうと思います。

 そうそう,1つ書き忘れていました。

 VP-7722Aをラックから引っ張り出したのですから,digikeyで買ったリレーに交換したのです。安いリレーを外し,DS2G-S-DC5Vに交換です。

 結果は当然のことですが,問題なし。特に良くなったわけではなく,正直言って交換の必要があったのかどうかもよく分からないのですが,こういうのってしばらくしておかしくなるものだったりするので,今交換しておく事で安心が得られるならちょうどよかったと思います。

 とはいえ,レンジの切り替えがあるとレベルが変わったりしますし,オシレータの周波数のズレも大きくなっているようですので,そもそもこのVP-7722Aの程度がだいぶ悪くなってきていると考えるべきでしょう。

 もちろん,再調整をすることでなんとかなりそうな気もしますが,やっぱり面倒ですし,歪率やS/Nにそんな厳密な測定結果が欲しいわけではありませんので,とりあえずこれでいいです。

digikeyでお買い物

  • 2016/10/12 14:08
  • カテゴリー:make:

 私が電子部品を買うお店は,昔は住んでいた大阪日本橋のパーツ屋さんでしたが,引っ越しして秋葉原になり,今は時間がないのでもっぱら通販です。

 販売店側も通販の比重が増えているということもあり,通販はお店にとっても「ついで」という感覚ではないと思います。

 秋月などは送料は無料になりませんが,1000円でも10000円でも送料は500円ですので,ついついたくさんまとめ買いをしてしまいます。以前にも書きましたが,部品の在庫が増え続けていて,おそらく死ぬまでに使い切ることは不可能だと思います。

 ところで,秋月にも共立にも若松にもマルツにも売っていない部品が最近チラチラと出てくるようになりました。子供の頃は,国産の部品ばかりで工作していたので海外の部品などは目にすることもなかったのですが,1つには国内メーカーのラインナップが整理されたこと,1つにはパーツ屋さんも在庫をたくさん持たなくなったこともあってか,日本のメーカーの部品でも海外のお店なら在庫があるという事が起きるようになっています。

 先日,VP-7722Aが故障した際に,リレーを交換した話をここに書きました。パナソニックのDS2G-S-DC5Vという黄色いリレーが壊れていたので,似たような品種に交換して治ったという話なのですが,このリレーが中国製で秋月価格で100円くらいのものです。

 スペックを比較してみても,やっぱり接触抵抗が大きいようで,オーディオアナライザという測定器にはちょっと気になるポイントでした。動いているから問題ないし,このスペックの差が結果に出てくるようなこともないので別にいいと言えばいいのですが,やっぱり同じ部品に交換したいものです。

 ですがこのDS2G-S-DC5Vというリレーは,主立った日本のパーツ屋さんには売っていないのです。売っている店もあるのですが,高価な上に取り寄せになっていて,納期に数週間以上かかるという,なんとも気の長い話です。

 で,この品種をそのままgoogle先生に尋ねて見ると,digikeyなるアメリカの部品屋さんに在庫があるというではありませんか。しかも値段も高くありません。(かといって安いわけでもありませんが)

 以前,RSコンポーネンツで買い物をしようとした際,個人ではダメと言われてしまった事がありました。digieyもきっとそういう,素人お断りのお店なんだろうと決めてかかっていたのですが,調べて見るとそういうことではないらしいです。

 といいますか,ホビーストの間でdigikeyは絶賛されています。

・検索がやりやすく部品がすぐに見つかる
・在庫が膨大でここでダメならあきらめるしかないと言うレベル
・アメリカから発送されるのに,中1日で届くくらい早い。
・個人も大丈夫。
・アメリカから発送なのに,7500円以上買えば送料無料。
・支払いは銀行振り込みを使える。
・銀行振り込みならなんと後払い。従って最速で発送される。
・安い。価格表示は日本円。

 日本語で部品を検索できますし,サポートも日本で大丈夫なのですが,それでもアメリカの業者ですし,アメリカから発送されるものです。飛行機に乗って成田までやってきますし,税関を通って,「輸入」されるものです。

 10000万円以内の場合,受取人の消費税支払いを免状されるというルールもありますし,7500円以上を買えば送料を含め,税金等もすべてfdigikey持ちですから,7500円以上10000円未満であれば,本当に商品の代金だけ支払えばよいことになります。これ,結構大切なことです。

 というとで,ものは試しです。digikeyで買い物をしてみましょう。手続きは水曜日の夜9時過ぎに行いました。

 買ったものは,まずリレーのDS2G-S-DV5Vです。これを10個。そして電子負荷キットのアップグレード用に大型のMOS-FETとしてインフィニオンのBTS141を買いました。

 BTS141はTO220タイプがディスコンになっていて,ネジ留めできない面実装品のTO262しか買えませんでしたが,国内では手に入らないものなので文句は言えません。

 SI5351Aも買いましたが,秋月が250円,digikeyなら200円です。これは安い。

 あとは,先日のDC45の修理で壊れた部品です。MOS-FETのSI4652と,コモンモードチョークのWL2シリーズです。

 これらを数個ずつ買って,8600円ほどでした。秋月でもこのくらい買うことを考えると,まあこんなものでしょう。

 明けて木曜日の深夜2時過ぎには発送完了のメールが届き,朝起きてからその早さに驚愕した訳ですが,到着予定がなんと金曜日とあるではありませんか。水曜日の夜中,実質木曜日にお願いした部品がですよ,海を越えて金曜日に届けると言うんですから,魔法でも使うのかと思ってしまいます。

 UPSのトラッキングをしていると,本当に金曜日の朝には成田に到着,そこから国内配送になりました。そして16時前には自宅に配達に来てくれたようです。帰宅すると不在票が入っていました。

 UPSは土日祝日は配達をしません。再発をするには,WEBからか電話で,ヤマト運輸で土曜日に再配達してください,とお願いすると,以後はUPSからヤマトに荷物が完全に渡ってしまうので,いつものクロネコヤマトと同じ感覚で受け取ることが出来ます。

 私の場合も,土曜日の夜の時間帯に無事受け取ることが出来ました。

 届いた部品も全く問題なく,支払った金額も予定通り,さっさと銀行に振り込んで,digieyでの買い物は完了です。

 日本国内ではなかなか買えない部品を,とても検索しやすく,しかも安い値段で買うことが出来て,支払いも受け取りも納期も国内業者となにも変わるところなく,本当にこれがアメリカなのか,これで本当に儲かっているのかと,不思議になるくらいでした。

 特に,海外製の家電製品の部品については,有効な購入先となりそうと思って開拓したdigikeyですが,部品小売りの世界的勝者として知られるだけあって,その利便性には感心しました。

 それでもまあ,国内の部品屋さんでの買い物が中心になるとは思いますが,digikeyとの上手な使い分けで,欲しい部品が買えないというストレスから脱却しようと思います。

 なお,今回買った部品を使った検討の結果は,後日。

ページ移動

  • ページ
  • 1
  • 2

ユーティリティ

2016年10月

- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

過去ログ

Feed