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2021年10月の記事は以下のとおりです。

AppleM1 Proについて考える


 新しいMacBookProが,噂通り発売されました。AppleM1を搭載したMacBookAirを,私もほぼ発売と同時に買ってもうすぐ1年になるのですが,「生活マシン」には十分過ぎるM1も,コンテンツ作成に十分な性能かと言われれば心許ないこともあり,そこはきっとAppleM2なるものがでてくるんだろうと,みんな思っていた訳です。

 しかし,出てきものはM1 PROとM1 MAXで,あくまでM1の派生でした。

 MacBookAirは,その性能を一気にハイエンドノートの領域に引き上げつつ価格は10万円そこそこと,かなりのお買い得感があったのですが,今回のMacBookProは14インチが24万円から,16インチが30万円からと,随分高くなったなあと言う印象です。

 もっとも,M1を搭載した13インチのMacBookProは併売となっていますし,お値段も16万円ということですので,棲み分けという点では問題ないのですが,14インチモデルが13インチの後継ならば値上がり,15インチモデルの後継なら妥当な価格,と言うことになるので,ここはもう考え方次第なのかも知れません。

 さて,私の興味はやっぱりプロセッサです。

 M1が高速であったことに偽りなく,また消費電力が極端に低いことを昨年12月に私も喜んで書いているのですが,実は1つだけ納得いかないものがありました。

 x265のエンコードの速度です。ffmpegからx265を使っているのですが,MacBookProLate2016(Core i7-6700HQ)を1とすると,M1はRosetta2上で0.5,ネイティブだとなんと0.3くらいまで低下します。

 M1の高性能コアでありFireStormの1コアの性能は,TigerLakeのコア1つとほぼ同じ程度ですので,この結果はどう考えてもおかしく,x265がM1に最適化されていないせいだろうと思っていました。

 あれから1年,しかし未だに速度に変化はありません。そろそろ誰かが指摘してもいいだろうと思うのですが,少なくとも日本語でここを突っ込んだ記事を見かけることはなくて,もしかしたら私だけの話かも知れないと焦っていました。

 実はmacOSには,VideoToolBoxというサービスがあり,これを使うとハードウェアアクセラレーションを利用することができます。ffmpegでも利用可能なので,これを試したこともあるのですが,速度は大幅に向上しつつもエンコード品質があまりにひどく,使うことはありませんでした。

 そんなこともあってMacBookProを買い換える気も起きず,今回の祭りは静観していたわけですが,先日真面目に調べたところ,ようやく詳しいことがわかりました。

 x265は,NEONに対応していなかったのです。

 NEONはARMのSIMD命令セットです。それなりに昔からあるものなので,まさかこれにx265が対応していないとは思っていませんでした。AppleはHandBrakeというソフト向けに,M1のNEON対応パッチを出しているのですが,ffmpegで利用することは現時点では出来ていません。

 これを使えば速度は品質そのままで3倍になるという事ですので期待出来るのですが,まずは本当かどうかを確かめてみる必要があります。

 調べてみると,ffmpegでもNEONに対応したバイナリを配布してくれている奇特な方がいらっしゃって,ビルドが面倒な私はこれで試してみることにしました。

 すると確かにエンコード品質に影響なく,3倍の速度になりました。ファンレスのMacBookAirで,ファンが唸るMacBookPro2016と同じ結果が得られるというのは,確かにすごいです。しかし,fdkaacを使えないので,このバイナリを常用することはあきらめざるを得ません。

 ならばとHandBrakeを試してみたのですが,こちらも同じ結果です。M1のMacBookAirとMacBookPro2016は,ほぼ同じ速度でした。

 うーん,そうなると,新しいMacBookProのM1 PROとM1 MAXが俄然気になってきますよね。どれくらい高速化されるのだろう,この際買い換えちゃうかとか・・・

 ということで,M1シリーズについて,少し辻褄が合うように調べてみました。

 まずM1から。

 M1は高性能コアであるFirestormが4つ,高効率コアであるIcestormが4つの8コアのプロセッサで,TDPは15W,クロック周波数は最大3.2GHzです。

 この1年で様々なベンチマークが発表されていますが,シングルコアの性能は,インテルの現行のアーキテクチャであるTigerLakeとFirestormがほぼ互角となっています。(一世代前のIceLakeに比べたらFirestormは圧勝です)

 高効率コアのIcestormは,ベンチマークの結果からざっくりForestormの0.3倍と考えてよさそうです。そうすると,M1のパフォーマンスはシングルコアの5.2倍と計算出来そうです。(ちなみにIcestormの電力はFirestormの1/10ということですので,随分電力効率の良いコアなんだなあと思います)

 インテルのCPUではノート用では4コアですからこれが4倍となるわけで,M1との差は約1.3倍。これはMacBookAirが登場した時によく見たベンチマークの結果とほぼ一致しています。

 で,当時は,インテルだと20万円のマシンがファンをぶん回しているのに,M1だと10万円でファンレスというのがすごいという話だったのですが,今数字を並べてみるとなるほどと思います。

 メモリについてはLPDDR4-4266で128ビットで繋がっているということでしたから,4266*128/8=68.2GB/sという帯域幅です。これでCPUからGPUからなにからなにまで面倒を見ます。

 次に本題です。M1 Proです。

 M1 Proは,FirestormもIcestormもM1と同じと見て良さそうです。だからM1という名前を継承しているんだと思いますが,M1 ProではFirestormを8コア,Icestormを2コアと,高性能コアに割り振っています。

 よってTDPは60W台ということらしく,M1に比べて大幅に大きくなっています。

 さて,問題のパフォーマンスを考えてみます。M1 ProはFirestormが8コア,Icestormが2コアですので,シングルコアの性能の8.6倍ということになります。M1が5.2倍でしたから,M1に対して65%ほど高速という計算になりますが,これはAppleの公式発表の70%や,各種ベンチマークの結果である60%程度という数字と大体合っています。

 インテルですが,8コアのTigerLake-Hが今年の5月に発表になっています。TDPは65Wということですので,M1 Proと性能も電力もほぼ互角なんじゃないでしょうか。

 ところで,M1 Proには8コア版もあります。一番安いMacBookProに搭載されるM1 Proがそれなのですが,これは先程の計算だと6.6倍となりますので,10コアのM1 Proとの性能差は約25%となりますが,これも実際のベンチマークの結果によくあっています。

 メモリ幅についてはM1 Proは大幅に向上していて,LPDDR5-6400を256ビット接続しているとのことです。ざっと計算すると6400*256/8=204GB/sと,Appleの公式発表の数字に合います。

 私はGPUにはあまり関心がなく,それはつまりグラフィック関連で重たいソフトを使わないということなんですが,それにしても200GB/sという数字は強烈だと思いますし,M1 MAXになるとさらにその倍ですから,そりゃ高くもなるわな,と思います。

 ということで,名前はM1のままではあるのですが,搭載するコアの能力を選ぶ事でハイパフォーマンス向けのCPUも作る事が出来るということがわかったのですが,これがコアそのものに手が入るM2世代になると,一体どうなることやらと思います。

 よく考えてみると,CPUをインテルに委ねていたAppleは,MacBookAirに適したCPUとMacBookProに適したCPUを,今あるラインナップから選ぶしかなかったわけです。

 しかし,M1ではFirestormとIcestormの構成比率を変更するだけで,パフォーマンスも電力も調整可能になりました。しかもその調整幅が10万円の生活マシンから,40万円のプロ用ノートまでカバー出来るようになるわけです。

 Appleがやりたかったことは,まさにこれなんだろうと思うのです。

 これも,Firestormがインテルのシングルコア性能に匹敵するものであるからこそ成り立つ作戦であって,従来Armはインテルのコアにはパフォーマンスでかなわなかったことを知るものとしては,多くの人が言うように,大した設計能力だと感心せざるを得ません。

 さて,Appleは2年かけてApple Siliconへの移行を宣言しています。今回のMacBookProはちょうど1年経過して登場したメインストリームでしょう。あと1年でMacProまでサポート出来る強烈なCPUが出てくるのと同時に,もっと安価なモデル用のものも出てくるかも知れません。

 私はと言うと,結局MacBookProを買い換えるには高すぎるし,MacMiniにM1 Proが搭載されることを期待しつつ,もうしばらく様子を見ようと思っています。


 

Lightroom6の限界

 OSのアップデートがあったり,Zfcを使うようになったりして,少しずつ変化していく環境ですが,変えたくないのが現像から印刷までのワークフローです。

 私はLightroomを長く使っていますが,使っているのは買い切りライセンス版の最終であるLightroom6です。すでにサポートが切られて久しく,対応するカメラはD850が滑り込みで対応したことで,そのまま使っています。

 ここから専用のプラグインを経由してCanonのPRO100に印刷をするというのが一連の流れとなるわけですが,要となるのはやはりlightroom。AppleM1は当然として,64bit化も行われておらず,ゆえにcatalina移行は動作しません。

 それ以前からサブスクリプション版であるLightroomClassicに移行すべきだったわけですが,それまでの「アドビ税」と揶揄された毎年のアップグレード代金が重く,それでもライセンスは残るからと重税に耐えてきましたが,サブスクリプションはこのアドビ税が毎年から毎月に変わるようなもので,文字通り税のような重さです。

 年間を通して支払うお金はあまり変わりませんし,こういうのはサービスと対価がその人にとってバランスしているかどうかが問題ですので,文句をいう筋合いではないのですが,ライセンスを購入した人が実質的にそのライセンスを行使できない(バグで動かない)ことへの憤りは世界レベルで目にします。

 私の場合,新機能にあまり魅力を感じませんでしたし,対応カメラはD850が最新,レンズも新しいものをサポートしてくれなくてよいということもあり,しばらくはLightroom6で行くことにしていました。いよいよダメになってからlightroomClassicへ移行することにしました。

 これね,買い切りなら早く買った方が得になるのに,サブスクリプションならいつでもいっしょだと思うと,移行が後回しになります。こういう損失ってあると思うんですけどね。もしLightroom6からの移行に割引クーポンでも出てくれば,さっと移行すると思うんですが・・・

 そんなわけで,CameraRawの最新版をインストールして,レンズプロファイルとカメラプロファイルをLightroomに移植,ZfcのRAWはDNG ConverterでDNGに変化して羽読み込ませるという手間をかけて,Lightroomでのワークフローに無理矢理のせています。

 一応これで印刷まで出来るんですが,気にしないといけないのは,現像バージョンが古いという事です。LightroomClasssicの現像になると,高感度時のノイズを効果的に潰すなど,画質に直接影響を与えるような進化があります,レタッチや編集にそれほど興味のわかない私でも,かつて撮影したデータが最新の現像で最新画像になるというのは興味深いものがあります。

 もちろん,MacのOSが先日Montereyになり,着実に前に進んでいるのに,Lightroomを使う時は未だにMojaveで再起動というのも面倒ですし,プリンタドライバのサポートもいつまで続くか心配です。なにより,最新のMacBookProへの買い換えが出来ないという縛りは,しんどいものがあります。

 Lightroom6は,実はインストール済みのマシンのOSをアップデートした場合には,最新のMontereyでも,とりあえず動作します。ルーペ表示で情報をオーバーレイ表示すると白い帯が横たわってしまうので,表示をOFFにしないといけませんが,まあそれくらいの不具合です。

 ただ,もう無茶苦茶遅くて,いくらなんでも昔はここまで遅くはなかったと思います。

 Zfcを買った機会に,lightroomをサブスクリプションに移行させることを本気で考えないといけなくなりそうです。

D850修理完了

 D850の修理が終わり,返ってきました。かかった修理代は250303円で,最初の見積より5000円ほど安くなっています。

 ニコンの見積は結構ドンブリで,あくまで概算というスタンスからぶれないことで知られていますが,多くのケースで見積よりも安い金額で済むので,見積にびびって修理に取りかからない場合があるとすれば,結構もったいない話だなと思います。

 無論,逆の話もあり得て,修理費が見積を大きく上回ることもありますが,その場合でも分解してしまえば技術料が発生するというのは,引くに引けないユーザーという立場の弱さから言わせてもらうと,昔の日本のメーカーならそれは大目に見てくれたんだけどなと,つい思ってしまいます。

 2000年頃までのニコンのサービス対応の素晴らしさは有名で,それが理由でニコンのユーザーになる人も,親子二代でニコンユーザーということも,普通でした。しかし,サービスというのはお金も手間もかかり,その割には利益を生みませんから,会社としてはなかなか高水準を維持するのが難しいもので,業績の悪化で真っ先に手が入るものだけに,このままニコンのユーザーでいいんだろうかと,考えさせれてしまいます。

 さて,今回の修理は完璧のようで,今のところ不具合や気になるところは全くありません。故障箇所がはっきりしていて,かつ互いに確認出来ているのですから,問題になるようなことはないと思います。

 部品代もLCDが2000円ほど,あとは分解のために交換する必要のある張り皮が1000円ほどで,合計3000円ほどでしたし,技術料が18000円で,あとは送料の実費ですので,妥当な金額だったと思います。

 とはいえ,ニコンのサービスのシステムは結構変わるので,今回も戸惑いました。中には改悪と思うものもあったので,書いておきます。

 まず,以前は修理伝票への記入は,電話でピックアップサービスを頼んだ人だけで,WEBから依頼した場合は記入の必要はないと明記されていたのですが,今回は削除されていました。WEBから依頼した場合でも記入することになり,WEBで依頼した時に出来るだけ詳しく書こうと気合いを入れたのが,空振りになりました。

 修理伝票への記入は昔ながらの手書きですので,久々にボールペンで長い文章を書きました。

 それから,見積が郵送される件です。しかも修理の続行はその見積をみて判断し,こちらから電話で続行の可否を連絡しないといけないシステムでした。これまで私が他社も含めてお世話になったケースでは,見積時に修理費用の上限を指定し,それを越える場合には電話で修理の意思確認があって,その場で判断というものでした。

 今回は,WEBからの概算が30085円だったので,30000円以上なら確認と記入したところ,わずか85円の超過で修理が止まり,電話で進行の連絡をしないといけませんでした。

 わずか85円ですからね,電話代でペイしてしまうくらいですし,金曜日の夜に普通郵便で受け取った見積への返答を月曜日の午前中にしたことを考えると,時間的ロスが大きいなあと感じました。

 ネットとスマホでなんでも出来るこの時代にですよ,郵便と電話でって,なんちゅう逆行だと私は呆れてしまいました。

 細かい事ですが,電話の相手をして下さった方が,修理進行の意思を伝えたところまでは明るい声だったのに,「ところで」とこちらが話すと微妙な間があって,明らかに不機嫌な声色に変わったのが,ちょっと怖かったです。そんなに警戒せんでもねぇ・・・

 それで,郵送されてきた見積というのが,WEBの概算と全く同じなわけです。実機が届いて現象の確認が済んでから発行された見積なのに,WEB見積と同じ精度というのは意味がありませんよね。

 私としては,実機を見た結果,その見積がWEBの概算を越えないなら修理を進めて下さい,という意味だったのですが,実機を見ても精度の低い見積で判断しないといけないなら,もう郵送の必要なんかないと思います。時間の無駄ですわね。

 そもそも修理って,分解する前にそれなりの精度で修理代がわかるものです。もちろん,技術者の勘と経験に依存する世界なので,技術者のレベルが下がってしまえばだめでしょうし,そうした属人的なものを減らして行こうという近年の会社のあり方から考えると,誰がやっても同じ結果が出るようにするには,分解するまで見積の精度が上がらないというのは正しいのかもしれないですが,私はサービスくらいは属人的な方がいいんじゃないかと思いますし,かかった必要の多少の誤差は他の修理費用とまとめてしまえばいいでしょう。大きく異なる場合は事情を説明して了解を得るようにすれば揉めませんし,それは多くの会社が昔から使っている手段でもあります。

 今回のケースでも,ざっと3万円ですという一発目の見積で実機を送り,エンジニアが25000円という見積を出して確認無しで修理を継続してくれれば,お互いに時間の無駄がなかったんですよね。

 確かに85円オーバーし,それで修理が保留されたのは誠実ではあったのですが,結果は25000円で済む修理だった(そしてそれは予測可能だった)わけで,修理を止める必要は,本当はなかったはずでした。

 以前のニコンは,こういう時間の無駄もなく,実にスムーズで,かつこちらの期待をいつも上回り,なにがユーザーにとって良いことかをいつも考えて対応してくれていました。

 今回の対応も悪いものではなく,むしろいいものだったと思います。しかし,どうしても以前と比較をしてしまいますし,その結果として印象が良くなかったことも確かでした。

 贅沢なことですが,年々,人を相手しているという感じが薄くなっていきます。

 そういえば,Z7が発売になってまだ数ヶ月という時に,D850を新宿のサービスセンターに持ち込んだことがありました。

 この時,私の隣にいたお年寄りが,泣きそうな声で訴えているんですよ。保証書を忘れたんだけど,どうにかならないか,と。

 受付の女の人は,保証書がないと有償ですと,その一点張りです。

 それは規則ですし,忘れた人が悪いんですけどね,でもね,Z7って1年保証の商品で,発売から1年経過していないものが壊れたと言って,修理を受けているんですよね。

 このおじいさんがズルをしているわけでも,ウソをついているわけでもありません。発売からどうやっても1年経過しないのですからね。そのZ7が試作機とかサンプルとか,そういう保証対象外の機種かどうかは,シリアルを見ればわかることですし,そんなケースはほぼないでしょう。そもそも,そういうケースはあってはならないことです。

 保証書という書類を重視するか,それとも1年間は壊れませんという品質の保証を重視するか,どちらがこの場合に本質的な問題なのかと考えた時,私はどうしても保証を重視するという結論にはならないのです。

 とはいえ,ルールはルール。この時の最善の対応はおそらく,保証期間内の故障である事をまず詫びて(これは重要ですよね),無償修理を前提に保証書を送ってもらって,その内容を確認出来るまでは修理の進行を止めておく,結局保証書がなければ有償修理という話じゃないかと思います。

 とにかくダメなんです,と言われ続けたおじいさんは,結局壊れたZ7をそのまま残念そうに持ち帰っていました。せっかく新宿まで来たのに・・・この受付の女の人は,自分の親にも同じ事をするのかなあと,こちらまで悲しくなりました。

 幸い私の担当してくれた人は良い人で,満足な対応を頂きました。最終的には人によるんですけど,それを是正するのに属人的な要素を排するというのは後ろ向きで,担当者のレベルを高いところで揃えるのが本当の姿ではないかと思います。

 あれこれ書きましたが,D850はまだまだ使えます。レンズも縦位置グリップも外したD850は筋肉質で,手に収まった時の感触の頼もしさから,買った時の感激を思い出しました。

 Zfcもいいですが,やっぱりまだまだ。D850はうちのメインです。

 

ミラーレスを使うようになって新しく覚えたこと

 ミラーレスのカメラを使うようになって,覚えたことがいくつかありました。長く使った一眼レフからすんなり移行出来るようにしてあるのがカメラメーカーのミラーレスだろうと思っていたのですが,そういう配慮はZ6やZ7などの第一世代に向けてのようで,すでに離陸したあとのZfcなどでは,ミラーレスになって考慮しないといけない点が「新しい常識」として浸透していました。

 興味深かったのが,シャッターの仕組みについてです。

 一眼レフ時代の常識は,メカシャッター万能論です。とにかくメカシャッターが最強であって,これを中心に機能が組み立てられていますから,電子シャッターなどは静音動作などの特殊な場合に使い分けるものだと考えていました。

 ところが,Zfcでは可能な限り電子シャッターを使うのが初期設定なんですね。それも「オート」なる設定です。オート?なにが??

 ということで,調べてみました。

 CMOSセンサは(一般的にデジタルカメラに使われる)CCDと違って,外部へのデータの出力は横一列分(ラインといいます)ごとに行われます。厄介なのは,読み出されたデータはそのときの露出によるものである,ということです。

 1つ前のラインの出力が終わったらようやく出力を行うことが出来るのですが,ラインごとに露出時間が異なっていると明るさが変わって来ますので,露光開始も遅らせねばなりません。

 つまり,ラインのデータ出力時間だけ露出開始が遅れるわけです。

 それが最終ラインまで続けば,当然一番上と一番下の間には時間差が生まれるわけで,その結果高速で走る被写体を撮影すると,長方形のものが平行四辺形に撮影されてしまいます。

 我々が普段耳にする「ローリング歪み」というのはこれです。ローリング歪みを根本的に防ぐには,ラインごとの露出時刻を揃えることに尽きますから,データの転送を全ライン一気に行うか,データを画素ごとにメモリに一時的に蓄えて,それを後でゆっくり読み出すか,くらいしかありません。

 どっちもなかなか非現実な方法なのですが,これがかつてのCCDだと全画素をメモリに蓄えてゆっくり転送できたので,ローリング歪みは発生しませんでした。

 もちろんCMOSセンサでも転送を高速で行うことで目立たなくすることは出来るのですが,根本的な解決ではありません。

 そこで,現実解としてメカニカルなシャッターを用います。フィルムも露光時間によって明暗が記録されますので,シャッターの開閉によって積分時間を調整しているわけですが,同じ仕組みをCMOSセンサでも使うというわけです。カメラの象徴である「カシャッ」という音は,メカシャッターの音でもあるのです。

 さて,一眼レフではフィルムをCMOSセンサに置き換えた構造ですのでこれで問題解決です。しかしミラーレスはそうはいきません。

 ミラーレスでは,ファインダーに投影する画像を光学的に導くのではなく,CMOSセンサが取りこんだ画像をディスプレイで表示することで作り出しますから,撮影していない時でもシャッターは開けておかねばなりません。

 いざ撮影となったらシャッターを閉じて,改めてシャッターを開いて露光,終わったらまたシャッターを開けるという面倒な動作が必要です。一眼レフに搭載されたライブビューというのは,こういう仕組みだったことを思い出した方も多いでしょう。

 そのライブビューが,今のミラーレスの仕組みそのものであるわけですが,常時開けてあるシャッターを閉じて開いてまた閉じて開いて,という非合理的な動作によって,タイムラグやレスポンスと言った時間的な問題,シャッター稼働による振動によるブレの発生,そしてシャッターの耐久性が半分になるという信頼性の問題がついて回り,これがミラーレスカメラの魅力を半減していました。

 ここからミラーレスは,一眼レフの作り上げた道から分岐します。

 実は,CMOSセンサは,露光の開始は全画素一斉に行うことが可能なのです。露光開始をずらしているのは,露光完了が1つ前のラインのデータ出力が終わってからでないとダメだったからで,そのせいで露出時間を揃えるために露光開始もずらしたからでした。

 ならば,シャッターの先幕の代わりに露光開始を一斉に始めることで行い,露光の終了をメカニカルなシャッター後幕で行えば,撮影前にメカシャッターを閉じる動作はいらなくなります。そして撮影時は後幕だけをメカで動かしてやればよいのです。

 これが電子先幕シャッターです。

 電子先幕シャッターは,露光開始を行うシャッターという点で,メカシャッターの先幕となにも変わりません。しかも撮影前にシャッターを閉じなくてもいいので,タイムラグもなく,ブレも軽減(撮影時のブレというのは露光時のブレですので先幕による振動が原因であって,後幕による振動は原因ではありません),しかもシャッター寿命が延びる(とはいえ後幕の寿命は同じなんですが)と,すべての問題を一気に解決します。しかもそのために,新しい回路を仕込んだ専用のCMOSセンサを開発する必要もないのです。

 これほど美しい解決策にも,やはり弱点がありました。露光ムラです。

 電子先幕シャッターはCMOSセンサの画素の中身をリセットすることで行われます。なのでシャッターとセンサとの間の距離はゼロです。これに対してメカシャッターを使う後幕との距離は数ミリ程度あります。わずか数ミリですが,なにせ相手は電子先幕シャッターのゼロミリですので,無視できません。

 CMOSセンサへの露光は,フォーカルプレーンシャッターである以上は,それが電子であろうとメカであろうと,先幕が開いて後幕が閉じるまでの時間で作られるスリットの幅でその時間が決まります。

 光がスリットに対して真正面から来ているときは別に問題はありません。しかし,スリットが上または下に(そう,今のカメラのほとんどはシャッターが下から上に走るのです)ある時,センサから離れたところにある後幕がセンサに密着していると見なして良い先幕よりも先に光を遮ってしまうので,スリットの幅に差が出来てしまうのです。

 少し考えて見ればわかることですが,スリットが下にある時はスリットが広く,上に向かって走るに従ってスリットが細くなっていきます。これが露光ムラの正体です。

 この露光ムラは,スリットの幅が細いほど影響を受け,スリットの幅が広いほど影響が少なくなっていきます。また,スリットを通るときの光の平行度によっても違ってきます。

 後者については,純正のレンズのように既知のものであれば,レンズごとの平行度から露出の補正を行うためにシャッターの動作速度を調整することも可能ですし,ひょっとしたら現像時に露光ムラを補正するようなことも行われているかも知れません。

 しかし前者は,スリットが細いほど露出ムラが大きくなってしまいますから,自ずと使用可能な範囲が制限されてしまいます。スリットが細いというのはつまり高速シャッターということですので,ニコンなどは1/2000秒以上は電子先幕シャッターを動作させないようになっています。

 後者については,純正レンズであれば補正も可能なのですが,非純正のレンズだったりすると補正が出来なくなります。しかしもっと深刻なのは,ボケの形が変わることです。

 ボケというのは,ピントが合っていないことで点がぼやーっと広がって面になってしまうということです。点ならば前後に差があるシャッターのスリットを通ることに問題は発生しないのですが,面になるとそうはいかず,スリットが上にあるときと下にあるときで,ボケの一部が露光されないことが起きてしまうわけです。

 これも結局,突き詰めれば露光ムラと同じ事なのですが,ボケの形は画像処理による補正が難しいので,現実的には出来ません。ボケが欠けないように撮影するしか方法はないわけです。

 これも,光の平行度(射出ひとみまでの距離)が分かっていればシャッター速度の調整で回避出来そうなもんですが,非純正のレンズではどうにも出来ず,つまり影響が小さくなるまでシャッター速度を落とす事や,ボケ欠けが目立たないような被写体を選ぶ事が求められるということです。

 だったらもうこの際,電子先幕シャッターはやめて,メカシャッターを使えばいいじゃないかとなるのですが,それだと話が振り出しに戻ってしまいます。ここに至って,我々はなにを優先するかで使い分けを求められてしまったのです。

 ブレは低速でおきます。だからここは電子先幕シャッターを使いたい所ですよね。電子先幕シャッターは,スリットが発生すると露光ムラを引き起こすのですから,スリットが発生しないシャッター速度,つまりストロボ同調速度までは電子先幕シャッターを使わない理由はないでしょう。

 同調速度は多くのカメラで現在1/200秒くらいです。ここから影響のない程度のスリットまで許容して1/320秒くらいまでは,電子先幕シャッターにしておけば大丈夫でしょう。

 そこから上の速度は,完全にメカシャッターに頼らなくてはいけません。幸い,同調速度よりも高速なら,シャッター動作の完了時間は一定ですから,タイムラグが乗っかっても実際に露光を行っている時間が長い低速側に比べて,極端にタイムラグが遅いという印象を受けにくいです。

 こうしてシャッター速度で切り替える事でそれぞれのメリットを活かす必要があるのですが,これをユーザーが自分で判断して切り替えるのはかなり大変でしょう。

 さすがミラーレスの始祖であるオリンパスは,すでにこうした自動切り替えを実装しているので,ユーザーは気にしなくても良くなっています。ニコンは第一世代のZ6とZ7ではマニュアルで切り替えることを求めていましたが,電子先幕シャッターの上限が1/2000秒になることやブレを押さえる必要があることなどで,ファームウェアのアップデートで自動切り替えが実装されました。

 ここで素朴な疑問が。シャッターブレも手ぶれ補正で打ち消せないのか,という疑問を私は感じたのですが,これはある方が実験を行っていて,1/80秒をピークとして,1/60秒から1/100秒くらいの間では,手ぶれ補正によって補正しきれないということが起きているそうです。

 これ以下になると手ぶれ補正で補正出来ているようですが,結局Z6やZ7というニコンのミラーレスでは,メカシャッターと手ぶれ補正の組み合わせでも1/80秒付近のブレが大きいという結果になり,その根本対策として電子先幕シャッターが最も効き目があるという結論になっているのだと思います。

 そうそう,キャノンの場合,電子先幕シャッターの動作上限が制限されないそうで,そうなると1/8000秒などではボケ欠けなどが目立つらしく,かつシャッターの振動が小さいこともあるので,積極的に電子先幕シャッターを使わなくてもよいそうです。

 そう考えると,カメラとしての完成度の高さはキヤノンが最高,親切さでオリンパス,誠実さでニコン,という感じでしょうか。まあニコンはそのうち完成度を上げてくるだろうし,Z9などの上位機種では変わってくるんじゃないかと思いますが,こういうことが起きてしまった時のユーザーへの「見せ方」には,ちょっと興味深いものがあると思います。

 さてさてZfcですが,一眼レフと同じと思ってメカシャッターで使ってきたのですが,やはり低速側でのブレが抑えきれず,下手になったなあと落ち込んでいたのですが,実はシャッターが原因のブレとわかって,オートに設定し直しました。

 するとブレもかなり軽減されるようになりました。特に1/50秒から1/100秒付近というのは室内撮影で多用するシャッター速度ですので,ここでの撮影結果が大きく改善するのは,とてもありがたいことです。

 オートの設定は工場出荷時の設定ですので,わざわざいじらなければ良いという話ですが,設定を変更出来るようにしてあるからには,変更するとどうなるか,あるいは初期設定になっているのは何故なのかをきちんと説明してくれないいかんのじゃないかと,そんな風に思います。

28mm頂上決戦

 Zマウントデビューの私は,レンズがない,という窮屈さを,大昔に味わった懐かしさと共にちょっと心地よく味わっているのですが,Zマウントはフランジバックが特に短く,マウントアダプターで使用可能になるレンズが理屈上は最も多くなるはずです。

 ということで,Eマウントの人がレンズ遊びを楽しんでいるのをFマウントの私は羨ましく思っていたのですが,いざZマウントを使うようになって直面したのが,似たような焦点距離のレンズをどうやって使い分けようかという悩ましい問題です。

 私は28mmが好きなので28mmはいろいろあるのですが,DXフォーマットにとって28mmは35mm換算で42mmとこれまた大好物な画角です。「この一本」を探し当てたいと思うのは,無理からぬことです。

 そこで,とりあえず28mmに限って撮り比べを行って,常用レンズを探り当てることにしました。それにしても,よくもこれだけ個性が出てくるもんだなと思います。

 なお作例は自宅の窓から撮影した風景なのですが,そのまま掲載できない事情もあり,中央部のピントを合わせた周辺を等倍で切り取りました。コメントはこの作例についてではなく全体的な印象を書いたものである事をご承知おき下さい。


・NIKKOR Z 28mm/2.8SE

 まずはキットレンズでいきましょう,最新の設計でZマウント,Zfcのために生まれてきたレンズですから,これをまずは基準におきましょう。

20211019104652.JPG

 作例はF4まで絞り,中央部を切り出しています。

 印象としては中庸のコントラスト,やや線の太さがあります。しっかり色も乗っていますし,しゃきっとしていますので決して眠いわけではありませんが,少々緩い感じがするレンズです。

 暗部も潰れずボケもうるさくありません。情報量も豊富で,中央部の立体感はもちろん,そこからの破綻もなく滑らかにボケていくあたり,素晴らしいバランスです。

 よく言えば優しい感じ,悪く言えばつまらない画像といえますが,絞りによる画質の変化が少なく,開放から余裕で仕事をこなすあたり,緩さというより,本当は出来る子が手抜きして涼しい顔をしている感じさえします。


・7Artisans 28mm F1.4 ASPH

 ライカMマウント用のレンズで,本家Summilux-M 28 mm f/1.4 ASPH.の十分の一のお値段で手に入る高級レンズです。

 だって,中華製レンズで6万円を越えるお値段ですからね,私だってなんでこんなレンズを買ったのか,よく思い出せません。

 プアマンズズミルクスといわれながら,似ているのはスペックと外形くらいのもので,レンズ構成も性能も全然違います。MTFは本家に勝るとも劣らないですが,もはや100万円のレンズにMTFがどうのという話はナンセンスで,どんな画質であってもそれは「ライカで100万円の画質」なのです。

 なにを言っているのかわからなくなってきましたが,Artisans 28mm F1.4 ASPHは28mmでF1.4という明るいレンズであり,しかも開放から使えてしまう高性能レンズです。これをZfcに使ってみましょう。

20211019104731.JPG

 作例はF2.8まで絞っています。

 開放からキレのある画像ですが,F2.8まで絞ると無理がなくなり,F4あたりでほぼ完全です。あらゆる収差が押さえ込まれてきます。

 そして線画のような線の細さが特徴的です。しかしコントラストは低く,黒が浮き気味です。同じ露出でもハイキー気味で写りますが,それでもしっかり線が飛んでしまわず,繊細な描写は残ります。

 色のりはやや薄く,淡泊な味わい。繊細ですが滑らかという感じはしませんし,かといってカリッとした硬質な感じもありません。なかなか立体感もあるし情報量も多いあたり,モダンなレンズだなあと思います。

 ですが,それ以前の問題として,なんといっても寄れません。広角の大口径レンズで寄れないってねぇ・・・うーん,どうしましょうかね・・・


・ColorSkopar 28mm/F3.5

 広角レンズは,レンズをフィルム面に近づけることで実現されてきた歴史がありました。しかしミラーボックスのせいでバックフォーカスに強い制限を受ける一眼レフの時代になってから,新しいレンズ構成と収差の補正が確立して,現在のような高性能レンズの時代になっています。

 しかし,ミラーレスの時代になり,またもレンズと撮像面が近づくことになり,過去のレンズを楽しめるようになってきました。

 特殊な硝子も非球面も使わず,コーティングをふんだんに使って枚数を増やすこともしないクラシックな設計の広角レンズは,それはそれで味わい深いものがあります。

 このColorSkopar 28mm/F3.5もそうしたレンズで,これまではレンジファインダーのCLEでしか私は使えなかったのですが,Zfcでは使うことができます。ワクワクしますね。

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 印象ですが,コントラストは強めで陰影がはっきりしているのと,解像感もあります。明るさを欲張っていないので全体に良くまとまっていますが。立体感はやや薄く,写実的な印象です。

 このレンズは小さく軽く,クラシックなたたずまいが格好いいレンズです。Zfcにもよく似合いますし,パンフォーカスでバシバシ撮影するのも楽しいレンズです。

 無理のない設計で安心して使える一本ですが,なにせ開放でF3.5で,F5.6くらいまで絞って使うことが多いので,それだったら他でもいいんじゃないかと思わなくもありません。(作例はF5.6まで絞っています)

・SMC PENTAX FA31mm F1.8AL Limited

 さあ,評判の良い銘玉が来ました。 FA31mmF1.8です。このレンズ,悪く言う人が誰もいないんです。姉妹であるFA43mmは私も大好きなのですが,FA77mmは気に入らずに売ってしまいましたし,それほどいうなら試してみるかと2週間ほど前にようやく買ったという感じで,早速Zfcで試してみました。

 で,その印象ですが,私の中では今ひとつ。性能も悪く,使い方が難しいという印象ですが,これを無理に使い込む必要などなく,もっといいレンズがあるじゃないかという冷めた感想しかありません。

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 まず目に付くのは,ピントが外れたところの画像の流れです。もやっと雲がかかったようなボケも厳しいし,二線ボケもあってうるさいです。しかも色ズレも派手に出ていて,これはじゃじゃ馬じゃないですか。

 かといって中央部のピントが来ている部分がすばらしいかといえばそんなこともなく,解像感はなく,コントラストも低め。立体感は感じられませんし,明部は飛んでしまっていて,昔のレンズの描写そのままです。色も濃厚というわけではありませんしねえ。

 作例ではF2.8まで絞っていますが,左下の木の幹にもやがかかっていて,かつ流れています。中央部の切り出しでこのざまですが,周辺部はもっとひどいです。これ,もしかして個体不良?

 もっとも,FAリミテッドレンズは,収差をわざわざ残して撮影結果を重視する設計思想ですので,この画像が好ましいと思う人に取っては唯一無二なんだろうと思います。しかし,私の場合,このなんとも面倒くさい画像の印象が悪く,使おうという気も起きません。FA43mmはあんなにお気に入りなのになあ。


・シグマ17-50mm F2.8 EX DC OS HSM

APS-C専用の標準ズームで,F2.8遠しなのに2万円ほどで買えたという,実に財布に優しいレンズです。しかも手ぶれ補正まで入っていて,これで画質がいまいちでも誰も怒らないだろうというお買い得なレンズです。

 しかしその実,画質も素晴らしく,近年のシグマの個性である高コントラスト,高解像度,淡色系,というキレキレの画像をきちんと作ってくれます。

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 F4まで絞った作例を見てもおわかりと思いますが,一連の撮影結果のなかで,おそらくもっとも高画質と言っていいんじゃないでしょうか。ボケもうるさくなく,滲みももやもかかっておらず,画像の流れもありませんし,解像感も高く,高コントラストで切れもすごいです。

 陰影が強すぎて立体感は控えめではありますが,これはこれでシグマの個性です。木のような生き物でさえ人工物のようなソリッドな感じで撮影出来るのは,この安いレンズでも同じです。

 個人的にはこのレンズの性能に目を見張るものがあり,FTZとの組み合わせでも持ち歩きできるギリギリの大きさという事で,常用レンズにするつもりでしたが,冷静に考えて,これを使うならZfcの個性が死ぬなあと,考えなおしています。

 これは28mm相当ですが,望遠側の50mm(75mm相当)も素晴らしく,ズーム全域で全く躊躇なく使っていけるという懐の深さもあります。シグマはすごいですね,本当に。


・Ai Nikkor 28mmF2.8S

 さあ,ニコンの新旧対決です。「寄れる広角」として名高いAi28mmF2.8Sです。

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 作例はF4まで絞っていますが,高コントラストで画像も流れておらず,ボケも自然で立体感もあります。黒の沈みがやや残念ですが,しゃきっとした画像がなかなかいいですね。

 ただ,やっぱり時代的に解像感が今ひとつ。それがまたこのレンズらしさでもあるのですが,今のところ積極的に使おうという感じはしません。


・SMC Takumar 28mm F3.5

 最後は私にとって最も重要な28mmである,SMC Takumar28mmF3.5です。レトロフォーカスの黎明期に誕生したF3.5世代のレンズで,今回のレンズの中では最長老です。1971年生まれと言いますから,50歳ですか・・・

 この時代のレンズとしては驚異的な解像感とコントラストを誇り,良く写るレンズとして知られていますが,やっぱりこの時代のレンズらしく逆光に弱く,フレアも出やすいので万能という感じではありません。

 しかし,何よりこのレンズが素晴らしいのはそのデザインとたたずまいです。49mmのフィルター径に標準レンズかと思うほどの短い全長を,クラシックレンズらしいデザインでまとめていますが,これに純正の角形フードを組み合わせてやれば,これがまたストイックな感じで実に格好が良いのです。

 もちろん当時の代表機種であるSPでも格好いいですが,少し高さのあるESやES2ならさらによく,自慢したくてウズウズします。

 私にとっては28mmでもっとも好きなレンズなのですが,作例はF5.6まで絞っています。

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 写りは50年前のレンズとは思えないほどよくまとまっていて,FA31mmの方がよっぽど破綻していますよね。色ズレは結構出ていますが,シャキッと気持ちよく写っています。解像感は今ひとつですが立体感もありますし,コントラストが高いことが硬質な印象を与えます。

 暗部の処理はちょっと乱暴な印象で,情報量も少なめですが,そもそも私が28mmで欲しい結果はこれですので,やっぱりこれが一番なんだなあと思った次第です。

 私は確か,純正フードの付いた程度の良い個体を5000円ほどで買ったのですが,今でも十分使える頼もしい相棒です。


 とまあ,こんな感じでした。今回は絞りを含めた露出を統一しておらず,私が実際に使うであろう状況を再現して比較してみたのですが,やはり新しいレンズはさすがで情報量の多さには舌を巻きます。

 どのレンズも個性がしっかりしていて好印象なのですが,期待が大きかったこともあってFA31mmのだめっぷりには落胆しました。どの方もこのレンズを褒めていますが,その褒め方が手放しに近く,こういう被写体には向いているとか,そういう褒め方をしていないんです。

 Zfcに取り付けてみると,あまり格好が良くありません。フォーカスも合わせにくいですし,35mm換算で47mmくらいですから,まんま標準レンズです。画角的にも面白味が少ないので,どうやって使うか難しいなあと思います。

 さて結論。無難なのは純正。ぱーっと明るい写真を撮りたいときは7Artisans,便利なくせに画質がいいのはシグマの17-50mmです。結局,ハンドリングと利便性を天秤にかけて選ぶというつまらないオチになってしまいましたが,Zfcは手に取った感じが良いカメラなので,レンズ探しの旅はまだまだ続きそうな気配です。

 

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