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RD-2000EXアップグレード

  • 2024/09/11 14:20
  • カテゴリー:散財

 先日,ローランドからRD-2000EXのアップグレードの割引クーポンがメールで送られてきました。75%引きですって。

 この話,少し説明が必要でしょう。

 まず,RD-2000という,今もって最高レベルのステージピアノが登場したのが2017年。あくまで名称についてですがRD-500を始祖とするRD-800から,RDの初代機であるRD-1000の正統後継者であることをアピールするその名前からわかるように,RD-1000を含む様々な電気/電子ピアノを網羅するだけではなく,モデリングよる高品位なアコースティックピアノまで搭載する,まさに究極の1台として登場しました。

 この時の価格は275000円だったそうで,およそ25万円程度という線でした。

 私が買ったのが2020年ですが,その後VPiano ExpansionのGerman Concertを追加しました。内蔵のピアノは確かにモデリングらしい音だったと思いますが,本当に欲しい音だったかと言えば微妙なところで,表現力がやや狭いなと感じ演奏していてあまり楽しくなかったことに加え,ちょっと発音が遅れてしまうという問題もあって,積極的に使わなくなっていました。

 ところがGerman Concertは素晴らしく,高音から低音,大音量から小音量まで大きく変化し,しかも変化もスムーズで,とても表現力の高いピアノでした。演奏して本当に楽しい音で,発音の遅れもある程度解消されていて,私はこれでようやく,アコースティックピアノの代わりになるんじゃないかと思いました。

 価格は安いところなら23000円ほどなのですが,私はもうちょっと高いところで買ったような気がします。Roland Cloudで買うとドルベースで買うことになるので為替相場に影響されるのですが,一部のライフタイムライセンスについては一般の楽器店で買うことも出来るので,この場合は円で買うことになり,為替相場に振り回されることもなく,ポイントがつくお店だと得をします。

 で,先日RD-2000の後継機であるRD-2000EXが登場しました。7年ぶりの新機種ですが,EXがつくだけというマイナーチェンジモデルで,価格も30万円越え。高くなったなあと思いますが,昨今の様々な物の値上がりを考えると仕方がないところもあります。

 新機能は,German Concerに加え,アップライトのモデリングであるEssential Uprightの標準搭載で,後者は別売りされていないので欲しければRD-2000EXに買い換えるしかないわけですが,RD-2000EXがRD-2000に150ドル程度で売られるVPiano Expansionが2つがついてきたと考えれば,そんなに値段も上がったことにならないのかも知れません。

 ただ,他の機能はなにも変化なし。一部違いがあるそうですが,ソフトだけで対応出来るような機能なので,ハードウェアに違いはないとみて良いでしょう。

 そんなことを考えていたら,まさかのRD-2000EXへのアップグレードの案内です。RD-2000にアップグレードをインストールすると,RD-2000EXに生まれ変わるこのキット,お値段は199ドルなので,RD-2000ユーザーがこの値段で最新機種になるというのは,うれしいサービスだと思います。

 私もアップグレードを考えたのですが,すでにGerman Pianoも買いましたし,アップライトピアノが欲しいわけでもなく,他の機能も変わっていないということで,今回は見送ることにしました。

 そんな中で届いたのが,前述の割引クーポンです。このクーポン,German Concertを買った人だけに配布されているものです。

 75%割引という事ですので,RD-2000EXアップグレードの代金200ドルからGerman Concertの価格である150ドルを割り引いた価格にしてくれるという事ですので,お買い得と言うよりも同じ物をダブって買わないようにという,購入者の救済措置です。

 なので,German Concertを先に買った人でも,RD-2000EXアップグレードを新たに行った人と同じ負担でRD-2000EXに出来るという事で,私としてはRD-2000EXにアップグレードすることへの抵抗が一気に下がりました。

 しかしこのクーポンはROland Cloud専用です。昨今の円安で50ドルが8000円になるわけで,ちょっと高いかなあとおもいつつ,せっかくですのでRD-2000EXにアップグレードしました。

 まず,German Pianoはこれまでのインストールしたものがそのまま引き継がれます。新たにインストールする必要はありません。バージョンも同じですので,違いはないものと思います。

 設定などもそのまま引き継がれるほどですので,通常のファームウェアアップデートと同じ手順でRD-2000EXにしたあと,Essential Uprightをインストールすれば終了です。

 さて,何が変わったかといえば・・・なにも変わりません。起動時のメッセージが違うことくらいで,LEDも変わりません(まぶしいのもそのまま)し,機能の追加もありません。音色の追加もない,デモ曲さえも変わっていないことには,心底拍子抜けしました。

 悪く言えば,これは通常のシステムアップデートレベルです。あたらしいExpansionを追加するために必要となったファームの変更を,新製品と共に有償で行うようになったと言う感じでしょう。

 価格の改定で一番波風が立たないのは,新機種にしてしまうことです。旧機種を廃番にして新製品を値上げすれば,誰も文句は言いません。RD-2000EXの場合発売から7年も経っていますから,むしろ妥当と言えるでしょう。

 Essential Uprightは,本当なら欲しい人だけ買えば済むものだったと思いますが,RD-2000EXを発売する時の新しい音色として内蔵することで,価格アップを緩和していると考えると,良心的だとも思います。

 そのEssential Uprightですが,笑ってしまうほどアップライトです。リアルであることはもちろんですが,相当高級なアップライトだと思いました。グランドピアノの鍵盤を再現した鍵盤に,構造の異なるアップライトをくっつけることにどれだけの違和感があるかと気になりましたが,思っていたほど問題を感じません。

 それよりアップライトは,これはこれで楽しいですね。きらびやかさはありませんが,グランドピアノと違った感触があります。ロックピアノの場合,ちょっとグランドピアノだと派手過ぎるので,アップライトを上手く使えば演奏の幅が広がるように思います。

 そんなわけで,合計200ドルでRD-2000EXになりました。うれしいのは今後のアップデート対象機種になったことで,これからも現行機種としてサポートされるという安心感です。機能よりもサポート料金と考えて,今回のアップグレードを考えてみるのも良いかもしれません。

 

フィンガードラム,FGDP-30を買った

 昨年秋に発売と共に話題になり,現在も品薄が続いているヤマハのフィンガードラムFGDPシリーズですが,情けないことに私はチェックが漏れており,この面白そうな電子楽器の存在に気が付いたのは,つい先日のことでした。

 そもそも,フィンガードラムというのが1つのジャンルを作っていることすら私は知りませんでした。このジャンルが確立したのは4x4のパッドで本物顔負けのプレイをするプレイヤーが出てきた事にあるそうですが,今を去ること35年,私の高校の時の友人はRX5というヤマハのドラムマシンをリアルタイムで演奏し,その華麗なタム回しに心奪われましたし,私自身も鍵盤でドラムを演奏することには何の抵抗もなく,自慢ではありませんが実はそこそこ出来たりします。

 もちろん難しいフレーズは無理ですし,体に入っていないリズムは叩きようがないのですが,一般的な8ビートは複数のパターンを心得ていますし,フィルインもいろいろ出来るようにしています。また,同時になるはずのない音には気を付けているので,ハイハットとスネアとか,3つのタムを同時とか,そういう人の能力を超えた演奏はしないようにしています。

 もともと,打ち込みでもドラムのトラックは鍵盤でリアルタイム録音する人でしたが,それがフィンガードラムという言葉を与えられているとは知りませんでしたし,当然人前で演奏するようなことは,ウケ狙い以外では考えもつきませんでした。

 35年もこんなことをやってますので今さら違和感もないのですが,確かに鍵盤でドラム演奏というのは慣れないと難しいかも知れません。バスドラムとスネアドラムが隣り合っているので,左の人差し指でスネアを叩こうとすると,バスドラムは自ずと左の中指か薬指で叩くことになります。

 ハイハットは右の人差し指,クラッシュシンバルは右の中指か薬指,タムは左の人差し指,中指,薬指ということになりますが,こういう配列ではミスタッチも多いです。

 もったいないのは親指がフリーになっていることですが,もともと人間には手2つと足2つしかありませんので,小安日を使わずとも数はそれなりに足りてたりします。

 思い通りに指が動くようになると,あとはリズム感を養うことと多くのパターンを体に刻む作業という事になるのですが,これもまた興味がないとなかなか出来ないもので,私の場合はPOPとROCK,HR/HMくらいしかこなせないままです。

 こうして30年,密かに体得した一芸であるフィンガードラムをですね,専用機で演奏出来るようになるとは思わなかったのですよ。だって,もう練習しなくてもそれなりに演奏出来ちゃう私に取って,専用機があればもういきなりデビューですからね。

 で,話題になっているヤマハのフィンガードラムですが,FGDP-30とFGDP-50の2機種です。FGDP-50は上位機種で,バンドエイドのようなLCDを備えているあたり,往年のRXシリーズを彷彿とさせます。

 一方のFGDP-30は見るからに廉価版。出来るだけややこしいインターフェースを廃して,シンプルに徹するのはいいのですが,機能を盛り込みすぎて限界を超えるのがいつの物ヤマハの悪いところ。シンプルな操作のためには機能を絞る必要があるのに,機能をモリモリ盛ってUIをシンプルにするという自殺行為で本当に散っていったプロダクトは,1つや2つではないでしょう。

 しかし,お値段を見ると納得する物があります。FGDP-30は25000円,FGDP-50は4万円。この価格帯の楽器で15000円の差は大きいです。本当はFGDP-50で一本化して32800円くらいが適当だったように思うのですが,思うにこの2つは全く別物と考えた方がよさそうな気がします。

 上位機種のFGDP-50は,プレイバックサンプラーがあったり,ディスプレイがあったりと機能的にも優れていますが,なんといってもこれ一台でセッションが可能なように,他のパートを含むデモ曲が入っていて,ドラムだけ抜いて自分の演奏を重ねることが出来たりする点が面白いです。

 どっちにするかちょっと迷いましたが,フィンガードラム専用機に多くを求めるのは間違いだろうと考えて,シンプルなFGDP-30にしました。といいますが,入手可能だった機種がこれしかなかったので,他を検討しても仕方がありません。

 で,先日のハモンドオルガンを買った楽器店のポイントが残っていて,これに期間限定のポイントをあわせると5000円分くらいのポイントがあります。調べてみるとFGDP-30なら在庫あり。面白そうなアイテムが2万円で即納,運命的なものを感じてポチってしまいました。

 とはいえ,届くまではなかなか不安でした。ヤマハの楽器と私はどうも相性が悪く,体に馴染みません。もともと縁遠いメーカーでしたが,手に入れてもすぐに手放すことが多かったように思います。SEQTRAKも結局体が受け付けず,1年未満で売却しましたし。

 それに,ただのおもちゃなら2万円は出せません。しかしヤマハの楽器の音は素晴らしいので,MIDIの音源として使えるなら買いでしょう。また,フィンガードラムに最適化されたパッドも良い評判ですので,入力デバイスとしても魅力的です。

 調べてみると外部音源としても,入力デバイスとしても使える事がわかりました。これで一安心ではあるのですが,ヤマハだけに油断大敵です。

 ということで,翌日届いたFGDP-30ですが,なかなかこいつは大変な代物でした。

(1)大きさ,重さ,質感など

 想像以上に大きくて,想像以上に重いです。ただこれは悪いことではなく,しっかりした剛性感を持たせる工夫でしょうし,実際に少々激しいドラミングにびくともしない安定感があります。

 これが安物っぽいプラスチッキーな筐体だと,演奏中に勝手に動いてしまうようなことがあるでしょう。打楽器としての重厚さを持たせる事に成功しているあたり,さすが総合楽器メーカーだと思います。

(2)音の良さ

 ヤマハの楽器には,音の良さで裏切られたことはありません。安い物から高いものまで,電子楽器からアコースティックまで,本当に音にハズレがありません。この優等生ぶりが損をしているんじゃないかと思う事もあるのですが,価格以上の音質と,価格に関係なく使える音に整っている点で,実際に手に取って使ってみると本当にヤマハの楽器には隙がないと感じます。

 FGDP-30も他例に漏れず,音は抜群にいいです。もちろん,2万円そこそこの楽器ですので多くを望むことは出来ませんが,パッドを触った時の音が期待を越えるというのは驚きに繋がります。楽しいです。

 プリセットされているいろいろな音の完成度も高く,これは本当にドラムが好きな人が作ったんだなあと思わせるものがあります。

 また,往年のRXシリーズの音も入っているのですが,これがまた良く出来ていて,ニヤニヤしてしまいます。そうなんです,RX5なんかは12ビットだったので,結構音がざらつくんですよ。このあたりも良く再現されています。

 あと,シンセドラムです。シモンズなんかのあの特徴ある音を,こうして手元で再現出来るなんてのは,ちょっと夢みたいです。そもそもシモンズってちゃんと使える状態でどれくらい残っているんでしょう。

 仮にフィンガードラムをマスターできなくても,この音の良さで2万円や安いくらいです。私のようにドラムに詳しくなく,セッティングやエフェクトなどがすでに完成済みでセットとして揃っているわけですから,これをそのままDTMのシステムに組み込めば,ドラムパートは安心です。

(3)パッド

 パッドは本当に,本当に良く出来ています。最初,リモコンのようなゴムボタンなのかなと思っていたら,へこまないんですね。クリック感がありませんが,長時間の演奏ではかえって指が疲労しますので,このパッドは本当によく分かっている人が考えたんだなあと思います。

 聞けば,FGDPシリーズを作り上げた人はフィンガードラムのベテランだそうで,いわば大先輩からのプレゼントですね。

 感度もリニアリティも抜群で叩きやすく,表現がしやすいです。また,パッドの位置に関係なく同じ強さなら同じ音が出てくるので,これもかなり苦労されたんじゃないかと思います。素晴らしいです。

 加えて,アフタータッチです。パッドを押し込めばチョークになりシンバルの音が止まります。私はこれまで,いろいろなMIDIインプリメンテーションチャートを見てきましたが,ポリフォニックアフタータッチを送信する機器を初めて手に入れました。こんな使い方があるんだなあと感心。

 スネアも,跳ねるように演奏するときと,指をパッドにおいたままにした場合とで,響きがちゃんと違ってきます。クラッシュシンバルの連打(シンバルロールというそうです)も見事に再現出来ます。これ,鍵盤ではまず無理ですし,普通のドラム音源では再現出来ずに困るところです。

 とにかくこのパッドは,本当によく出来ています。FGDPシリーズの良さは,このパッドに集約されているのではないでしょうか。

(4)演奏のしやすさ

 FGDPシリーズは世界初のフィンガードラム専用機ですので,パッドの配列などは「やったもん勝ち」です。4x4のパッドや鍵飯が標準だった世界に,いきなりこの配列ですから,これまでにフィンガードラムをやっていた人からは反発もあるでしょうが,新規のユーザーを重視したという姿勢が見て取れます。

 これだけパッドの配列が変わり,またこの配列を前提とした運指があるという事実は,私のように鍵盤で経験していた人には,一種の覚悟や判断が求められます。

 私が仮にフィンガードラムの熟練者であるなら,自分の慣れた運指で叩けるようにアサインを変えればいいと思います。逆に全くの初心者なら,ヤマハのお奨めする運指をマスターすれば怖い物はありません。

 しかし,私のように中途半端な人はどうしたらいいのか・・・我流で先に進めば限界があるのは明白ですし,さりとて今さら全くの初心者として修行を積むのもしんどいです。というかちょっと片手で8ビートをやってみましたが,厳しいものがありました。

 我流で可能な範囲で楽しく遊ぶか,本気で取り組むかなのですが,これはまだ結論が出ていません。

 我流で進めるにはアサインを変える必要がありますが,ディスプレイのないFGDP-30では厳しい作業になるでしょう。しかも,変更するのはノートナンバーだけではなく,音量やパン,感度やチョークのグループ割り当てなども全部変えないといけないですし,悪いことに現在の値を一覧で見ることが出来ないので,1つ1つメモを取る必要があるでしょう。ここまでの情熱を私は維持出来るのか・・・

 ということで,今はとりあえず本体を右に90度回して叩いています。ただ,これだとタムが叩きにくくて困るので,なんとか解決策を見つけたいところです。

(5)楽しさ

 これはもう,文句の付けようがないくらい楽しいです。ドラムはギターやピアノと違って,叩けば音が出て,アンサンブルがすぐ出来ます。赤ちゃんにだって音を出す楽しみがわかってもらえる楽器ですが,これが電子工学とリンクすると,こんな面白い楽器になるんです。

 意外にバカに出来ないのが内蔵スピーカーの音の良さです。こんな小さいスピーカーでは,ドラムのキモである低音もさっぱりで,オマケのような物だろうと思っていたのですが,これがなかなかしっかりといい音を出しています。大口径スピーカーではないし,ステレオでもないのですが,ドラムの美味しい音をきちんと出してくれているので,本当によく頑張っていると思います。

 試しに,外部入力から聞き慣れた音楽を入れてみて下さい。驚くほどいい音がしますよ。

 さて,少し慣れてくると,外部から入力した音楽に合わせて叩くことも出来ます。これがまた楽しく,CD1枚を最初から最後まで通しでドラムを叩くということが,簡単にできてしまいます。他の楽器だとなかなかこうはいきません。

 そして,決まったタイミングで正確にパッドを叩くという基本が出来たら,次には強弱を付けたり,微妙なタイミングのズレを持たせたりという,いわゆる「ノリ」を表現する練習になりますが,FGDP-30は生意気なことに,こうしたノリを求める表現にも十分に対応出来るだけの器を備えています。すごいです。

 スネアを左右のスティックで短い時間差で叩くのをフラムといいますが,これが再現出来ることにも驚きました。これで,叩く場所による音の違いが連続的に表現出来たら,もうフィンガードラムでバンドに加入できますよ。


(6)残念なところ

 この値段ですから多少の問題は目を瞑りますが,やはりディスプレイは欲しかったです。それからBluetoorth。今どきワイヤレスではない音源などあり得ません。まして指を激しく動かす楽器ですので,ワイヤレスで繋がらないと演奏に集中出来ないでしょう。

 MIDIが標準でついてこないのも問題です。USBを経由すればMIDIを扱えますが,USBは必ずホストが必要になるので,繋ぎたいものが繋がりません。増えていったUSB-MIDIが,気が付いたらデバイス側のUSBばかりじゃありませんか?

 変換ケーブルでもいいので,MIDIが欲しかったです。そうするとぱっとシンセサイザーに繋いだり出来ますし。

 それから,今どきmicroUSBはないです。Type-Cでないと販売出来ない地域も出てくると思うんですが,大丈夫ですかヤマハさん?

 今後に期待出来る物として,PCやスマホでパッドの割り当てを帰る事の出来るエディターがあります。FGDP-30は2つしか設定を残せないので,PCで外部の機器で管理することが必要だと思いますし,ディスプレイのないことはPCと繋がることで解決するわけですが,こうしか外部機器との連携を是非実現して欲しいです。

 でも,ヤマハの悪い所って,面白い商品が出ても単発で終わり,基本的に売りっぱなしになっちゃうんことだと思います。あまり期待しないで待つことにしましょう。


(6)まとめ

 FGDPシリーズは間違いなく面白い楽器です。これまでヤマハが何度かトライしてきた非鍵盤楽器のなかでも,圧倒的に実用的で,圧倒的に楽しい楽器になっていると思います。キワモノではなく即戦力として,面白いではなく楽しい楽器が,FGDPシリーズです。

 問題はFGDP-30にすべきかFGDP-50にすべきかですが,これはもう予算だけで決めて下さい。FGDP-50の方が絶対にいいです。見た目もそうですが,ディスプレイがあること,単体でセッションが出来る事は,この商品の価値を十分に高めてくれると思います。

 もちろん,FGDP-30でも十分に楽しいですから,25000円で買って損をしたと思う事はないでしょう。

 私はヤマハの楽器とは縁がなくて,手元に残っているヤマハの楽器はほとんどないのですが,FGDP-30だけは長く楽しめそうです。他社が触発されてこれを越える物をこの価格で作ってくるかどうか,あるいはヤマハ自らが進化させてくるかどうかが,今からとても楽しみです。

9年ぶりの自転車のメンテ

  • 2024/08/08 14:13
  • カテゴリー:散財

 私の自転車,プジョーのCOM70M。2001年4月に二子玉川の東急ハンズで購入して以来,幾度の引っ越しにも耐え今も私の自転車であり続けています。そっかー,勝ってから23年か,短いようで長いなあ。

 修理の履歴をたどってみたのですが,2004年の正月に劣化したタイヤを交換しています。当時のCOM70Mのカタログに700X35Cとあったようで,おそらく私のものもこれを履いていたと思われるのですが,この時の交換ではお店の在庫の関係で38Cという少し太めの物にチューブも含めて交換してありました。

 35C標準の自転車に38Cですから,見た目にもごっつくなり,明らかに転がり抵抗が増した感じはしたのですが,やはり乗り心地は向上していて,これはこれで楽ちんな自転車でした。

 2011年の5月に32C(パナレーサーのPASELA)にチューブ含めて交換。ここで標準よりも細いタイヤになっていました。さらにブレーキシューも交換したのですが,間違って買った先端にネジを切ってある物を,危険なことにそのまま無理矢理取り付けて使っていました。

 2015年に泥よけ,スタンド,リアディレイラーとシフトレバーを交換しています。タイヤとチューブ,ブレーキシューはこの時は交換していないみたいです。

 ですが,この時すでにうちの主力マシンは電動アシスト自転車であるBikke2eで,私のCOM70Mはもうほとんど粗大ゴミ状態,放置されたままでまさに朽ちていました。

 ですが,先日娘が入院し,出来れば毎日見舞いに行く必要性が生じました。病院までは距離にして3.5km。自転車なら15分ほどの距離なので,自転車で最適な距離です。

 電動アシスト自転車は確かに楽ですが,20km/hを越えたあたりでアシストがなくなりますし,重量があって加速も減速も今ひとつなので,やはりCOM70Mに乗ってみようと考えました。

 しかしCOM70Mはもう朽ちる寸前です。タイヤはひび割れて危険ですし,ブレーキシューにもひびが入っています。全体的に錆びてしまってボロボロな感じが漂いますが,フレームとリムはしっかりしています。

 スタンドも使い勝手が悪くて困っていましたから,ここは一発奮起して,ちゃんとメンテして乗りましょう。どういう訳だか,私が自転車の作業をするときは真夏の炎天下になるんですよねー。

 早速部品の手配です。が,ここで私はまたもミスをやらかします。そういえば太いタイヤを履いていたよなあとおぼろげな記憶で1つ小さいタイヤにして標準に戻そうと,28Cを買ってしまいました。パナレーサーのComfyという安い奴です。

 ところがですよ,35C->38C->32Cと,すでに1つ細い物になっていたのに,さらに細い物にしてしまいました。乗り心地もそうですが,このリムに使えるのか?

 調べてみると,リムの内側は20mmでした。というか,リムの外側が実測で25mm,それでリムにP20と書かれていたので,まず内側は20mmで間違いないでしょう。

 20mmなら,28Cから48Cまで履けるそうですので,詳しいことはさておき,安全性には問題ないでしょう。

 スタンドは購入時についていたブリジストンのスタンドと同じ物を選びました。何だかんだでこれが一番使い心地が良かったです。ブレーキシューは以前買ってあった物が残っていますので,これをそのまま使いましょう。

 そうそう,グリップとサドルです。グリップは当時あまりいいものがなく,太めの物を使っていましたが,これもシンプルなゴム製のものに買えます。サドルはボロボロですので交換必須ですが,これもいつか交換しようと,1000円ほどの安い物を買ってありましたので,これをとりあえず使います。

 リアディレイラーはこのまま使えそうですのでこのままいきます。シフトレバーも機能的には問題ないですが,風防のプラスチックが黄色くなってしまっていますので,もったいないですが交換しましょう。

 あと,尾灯も自発光の物にしましょう。ブリジストンのものをBikke2eに使っていますが,長持ちしますし機能的にも申し分ないのでこれと同じ物にしましょう。

 ということで,9年ぶりのメンテです。

 まずタイヤとチューブ。これはささっと済ませることができました。特別書くこともないのですが,ここで知った事として,2020年に規格が変わっていたんですね。私の場合リムが旧規格,タイヤとチューブが新規格になるので,注意が必要かもしれません。

 次にスタンド。これもさっと交換です。ここまでは実にスムーズ。

 はまったのはなんとグリップです。古い物をカッターナイフで切って外し,薄く油を塗って新しいグリップを差し込みますが,途中から入りません。ハンマーでお尻を叩いても全く動かず,途方に暮れてしまいました。

 反対側のグリップを先に試すかと,今度はたっぷり油を塗ってみたところ,スルスルと入ってしまいます。ならばとやり直そうと抜きにかかるのですが,微動だにしません。万事休す。真夏の炎天下でグリップと格闘すること45分,意識が薄くなってきたころ,ようやく抜く事ができました。

 油をしっかり塗って差し込むとウソのようにするすると入っていきます。この段階で私は熱中症の一歩手前でした。アホな話です。

 次はサドル。これも苦労しました。買ってあった物が元のサドルと土地付けの部品が異なるのです。さっと交換というわけにはいかず,流用出来る部品を組み合わせてどうにか目途を立てますが,元のサドルを外そうにもちょうどいい大きさのアレンキーがありません。そういえば前回もここで挫折したんだよなと思い出し,今回は6.35mmのラチェットと付属のアレンキーでなんとか外すことに成功しました。

 部品をあれこれと組あわせて取り付け完了。しかし,安物のサドルですのでスプリングもクッションもなく,これはお尻が痛そうです。

 試しのりで分かった事は,強烈にお尻が痛いと言うこと。それから,路面のデコボコがダイレクトに体に入ってくること。長距離はもちろん,街乗りにも不適切だと判断せざるを得ません。

 そこで,スプリングのあるサドルを探してみたところ,購入時についていたのと同じじゃないかと思ったほどそっくりなものを見つけました。実は,ブラウンに鋲のついたサドルはこの自転車には似合っていると思っていたので,今の黒い実用一点張りのサドルは見た目にもうれしくありません。

 そこで早速取り付けてみたところ,見た目も満足。乗り心地も思っていた通りで,ソフトになりました。

 尾灯はまたも買い間違いをしました。バックステー取り付け型と思って買ったら,なんと泥よけ取り付け型でした。しかし,サドルの下に取り付けられていたもとの反射板のアームにぴったりフィットしたので,無事に交換できました。

 太陽電池がサドルの陰に入ってしまうことが気がかりなのと,見た目に格好悪いのはしっくりきませんが,尾灯が高い位置に取り付けられてより視認性が上がったことと,買い直すのももったいないので,これでいきましょう。

 ブレーキシューの交換は,そんなに難しくないはずでしたが,なにせ前後とも今や旧式のカンチレバーブレーキです。調整が面倒で,またも太陽にあぶられて気を失いそうになりました。前輪のブレーキの右側のシューが斜めに当たってしまうことが発覚したのですが,どうも上手く修正出来ず,仕方がないのでこのままにしました。

 ところで,カンチレバーブレーキってもう絶滅寸前で,カンチレバーブレーキ用のブレーキシューも貴重品なんだそうですね。今のうちに確保しておく必要があるかも知れません。

 続けてサイクルコンピュータです。といってもGPS内蔵とかスマホと連携とか,各種センサー対応でナビまでついてるようなまさにコンピュータとは違って,単なる速度計です。速度とトリップメータはないと困る物なので,安物でも着けることにしています。

 これまでは小さいという理由でCAT EYEのVELO5という古い物を使っていましたが,ちぎれた結束バンドを付け直しても時々センサーが動作しなくなってしまうので,この際だから買い換えることにしました。有線式は確実だろうと思っていましたが,どうもブラケットの端子と本体の端子の接触が悪くなっているみたいです。(ちなみにBikke2eのVELO9は全く動かなくなっています)

 どうせこのVELO5はタイヤサイズの設定に700Xがありませんから,ちょっと気持ち悪かったんですよね。最近のモデルだとタイヤの円周が入力出来るのでこの問題も解決しそうです。

 早速amazonで見てみますが,数万円の高級機か,安物の中華製しかありません。別に中華製でもいいのですが,どうも壊れやすいとか速度センサの誤動作があるようなので,日本製がいいですね。

 安い物で日本製というと,結局CAT EYEになります。この会社のラインナップを見てみると,主力はセンサと本体が無線で繋がるタイプみたいで,取り付けも楽そうです。

 価格は以前の倍になるのでもったいない気もしますが,無線式にこだわると4000円以上はやむなしです。バックライトも欲しいところで,結局選んだのがMICRO WIRELESS(CC-MC200)です。VELO9のワイヤレスタイプとほぼ同じだったので,こっちにしました。時刻が常時表示されているというのもうれしいところです。

 取付は簡単そうに見えて,やっぱり夏の暑さにやられて手こずりました。ハンドルバーへの取り付けは簡単で,配線の取り回しもありませんので楽ちんなはずですが,問題はセンサーです。

 センサーはワイヤレスなので大型化しており,本体との距離を50cm程度,スポークに取り付けた磁石との距離を5mmに出来るような場所に確実に取り付ける必要があります。

 しかし5mmってのはかなり難しいところで,内側に倒してなんとか5mmにしました。取付の際の結束バンドを,スポークごと通してしまってうなだれたことは秘密です。

 取付は問題なく完了,従来のVELO5からの進化点は結局バックライトと取付位置の自由度アップで見やすくなったくらいで大した変化はありませんが,信頼性や精度の向上は期待していいと思います。

 さて,最後の大物,シフトレバーです。

 前回のシフトレバーはSL-M310だったのですが,今回用意したのは後継機種のSL-M315です。違いはよく分かりませんが,互換性があるならなんでもいいです。ただ,正直なところSL-M310を使ってみて,指二本で操作するのがちょっと面倒だなと思いました。以前のシフトレバーはママチャリ用の簡単なものだったのですが,これが以外に使いやすくて,気に入っていました。

 交換はリアディレイラーの調整も必要になるので気軽という訳にはいかず,後日仕切り直すことにしたのですが,これが間違い。当たり前の事ですがグリップを外さないと交換出来ないことに気が付きました。

 そういえば前回も同じような事ではまった気がします。情けない。

 ということで,油を塗って差し込んだグリップをもう一度外す羽目になりましたが,これがなかなか外れません。というかピクリとも動きません。

 分解して一部古い部品を残して新しいシフトレバーを組み付けることも考えましたが,適合する星形のトルクスドライバがないため諦めました。

 また死ぬ思いをして,炎天下でグリップを外しました。いったい私はグリップでごれだけ体力を消耗しているんだろう・・・

 古いシフトレバーを外して,新しい物を固定すればもう話は簡単です。さっさとケーブルをまわして,リアディレイラーに繋いで,ケーブルを調整します。この作業は案外スムーズにいき,気持ちよく変速できるようになりました。

 これで全メンテメニューが終了です。COM70Mらしさを残しつつ,部品を新しくしたので信頼性や安全性も確保出来たでしょう。まだまだしばらく乗る事が出来そうです。

 

ブラウン管,プラズマディスプレイ,LCD,そして有機ELへ

  • 2024/07/18 14:41
  • カテゴリー:散財

 テレビを買い換えました。TVS REGZAの55X8900Lです。

 これまで使っていた東芝の55BM620Xとは,サイズこそ同じ55型ですが,今回はなんといっても有機ELです。我ながらすごいですね,とうとうここまで来ましたよ。

 55MB620Xは,画質はともかく音は当時の薄型テレビとしては一線を画したもので,特に低音の再生能力は高くて,外部スピーカーやサウンドバーなどの必要性を全く感じることがありませんでした。

 背面にはウーファーと,ウーファーを格納する膨らみがしっかりとついていて,およそ薄型テレビとは思えないごっつさです。そう,東芝で低音と言えば,細野晴臣さんがベースを抱えて登場したCMで我々の記憶に永遠に残り続ける,あの「バズーカ」ですよ。

 なるほど音は良かったと思うのですが,いかんせん背中が出っ張っているので,壁掛け出来ないとか,そういう理由もあってでしょう,この低音重視モデルはこれっきりになり,次の世代からは出なくなりました。私としては残念だったのですが,初の4Kチューナー搭載モデルであったこともあって,大変気に入って使っておりました。

 異変はこの春頃から起こり始めたのですが,どうも画面の中央部のやや下あたりに,キュウリを横にしたくらいの白いムラが気になり始めました。日に日に大きくなるという事ではないのですが,画面が白くなると目立ちますので,主人公がバーンと大写しになると顔の真ん中に白いキュウリが目に入るというのはがっかりします。

 空のシーンなんかでは,雲が浮かんでいるのかと思うほどのムラで,映画を見ていても気が削がれます。そんなことを3ヶ月ほど続けていましたが,もう限界です。

 そんな折,レグザの55型有機ELが15万円,という広告がふと目に入ってきたからたまりません。さっさとスペックと他店の価格を調べて,即決しました。

 55X8900Lは2022年モデルで,現行の2024年モデルである55X8900Nからは2年も前のモデルになります。テレビの世界において2年の進化は大きいですが,実はミドルクラスの8000番台では1世代前に過ぎません。スペックを比較するとそんなに違いませんし,マイナーチェンジモデルという見方をしている媒体もありました。

 とはいえ,4Kの倍速補間があるというのはちょっとうらやましく,気にはなったのですが,左右に動くスタンドの角度が25度(そういえば55MB620Xは別売りのスタンドをわざわざ買っても左右で20度でした)というのも55X8900Lのメリットですし,実勢価格で比べると6万円くらいの価格差があることを考慮すると,ここは最新モデルを選ぶ必要はないなあと判断しました。そう,15万円で買えることが,55X8900Lの最大のメリットだと考えました。

 まあ,噂レベルですが,現行モデルでも13万円で買えたとか,,いろいろ耳にはしたのですが,関東一円の量販店を駆けずり回り程の元気も時間もありませんし,素直にこの値段で買えることを受け入れたいと思うわけです。

 あと,65型の65X8900Lはamazonがプライムセールの目玉にしていて,これが9万円ほど高い値段で出ています。65型の有機ELが24万円は安いですが,実はヨドバシ.comでは65X9900Mという65型で昨年の(とはいえ1世代前)フラッグシップモデルが実質18万円だったり,55型の55X9900Mが実質17万円という具合に,もうなにがなんやらという値段になっていました。(ただしヨドバシは瞬殺だったみたいです)

 うーん,確かにヨドバシはフラッグシップモデルで1年前のものがこの値段で相当安い。65型でタイムソフトマシンで3万円しか差がないというのはかなり悔しい・・・でも,何度も言うように15万円にこそ価値があるのです。もう迷わないようにしないと。

 で,さっさと決済を済ませようと配送日を検討したところ,なんと最短で翌日の夕方と言うではありませんか。古いテレビの引き取りや設置という手間のかかる大型テレビの配達には1週間ほどかかると思っていたので,平日ですが翌日に受け取ることにしました。

 そうすると忙しくなるのは,古い番組の移行です。

 SeeQVaultを使えば移行出来るだろう,コピーに時間がかかるから夜通しやるしかないよなあと思って調べてみると,まず4Kは最初から対応しない,そして55X8900Lはそもそも対応しないという事が判明しました。

 なんということだ,HDD録画の救世主だったはずのSeeQVaultは,すでにオワコンだったのです。

 どうも,最近の機種は軒並み対応しないものが増えているという事らしく,2022年モデルの55X8900Lでも未対応という事でした。せっかくSeeQVaultのHDDを買って移行させようと思っていたのに,あてが外れてしまいました。

 ただ,不思議と悔しいと思う事がないのは,もう録画して残しておこうという気持ちがなくなっているからだと気が付きました。著作権保護と消費者の自由でせめぎ合い,最終的に消費者に不便を強いる方法で決着した日本のデジタル放送の録画の問題は,散々警告されたとおり日本独自とも言われた録画文化を根本的に破壊して,消え失せてしまいました。

 録画に値する番組は作られず,繰り返しみたいものは実はサーバーにあり,いつしかサーバーから消えてしまってもその事に気が付かずに終わってしまう,テレビ放送はそんな刹那的なものになってしまいました。

 かくいう私も,2.5TバイトのHDDDに一杯になった番組のどれ1つとして,もう一度見ようと思うものはありませんでした。むしろスッキリしたという印象しかありません。

 そして当日,予定が早まり昼過ぎに届いた55X8900L。早速有機ELの実力を見てみました。

(1)画質

 さすが有機ELです。どこから見ても色が転びません。黒が黒に見えます。赤,緑,青と行った原色の発色が鮮やかです。肌色のグラデーションが見事です。それから,奥の方で光っているという感じがありません。

 ただ,これまでの55MB620Xも善戦していたんだなと思いました。2018年という古いモデル,しかもエントリークラスでVA型のLCDでしたが,それでもあれだけの画が出ていたんですから,大したものだとおもいます。

 ただ,その印象も地上波とBSの話。BS4Kになると全然別の印象です。55MB620XはまだBS4Kが放送される前のモデルだったわけで,画像処理がまだまだで,とりあえず映ってますくらいのかんじでした。高精細ではありましたが,ぱっと見た画は他の放送波とは別物で,トータルの画質ではBSの2Kに負けていたんじゃないかと思います。

 しかし2022年モデルである55X8900Lになるとさすがにこなれた印象で,BS4Kも他の放送ソースと共通の画作りになり,画質も4Kであることを生かした素晴らしいものになっています。

 当時,4Kは画質が悪いと新聞などでも騒がれたのですが,めっきりそういう話を耳にしなくなったのは,本当に画質が改善されたからだと思いました。

 地上波についても大変素晴らしい画質の改善が行われているので,地上波だからとかそういう割り切りで我慢をしなくても楽しめるところはすごいです。これを標準化すればもっと送信帯域を狭めて多チャンネル化ができるんじゃないかと,そんな風に思うほどです。

 正直なところ,55MB620Xもなかなかいい画質だったと思っていて,ニュースなどの番組では有機ELの画質の良さを実感することはあまりないと思います。しかし,緑の多い森の空撮や,青い海のシーンでは驚くほど伸びやかで鮮やかな画像を出してきます。底なしの表現力というのでしょうか,ここらへんで限界かなと思われるような無意識のあきらめを,そうか必要がなくなったのかと再認識するような感覚を何度も覚えました。

 そうそう,輝度についてですが,明るすぎです。有機ELは暗くして使った方が消費電力面でも,パネルの寿命の面でも絶対に有利なのですが,画質の設定に「おまかせAI」を選ぶとあまり暗く出来ません。

 「放送プロ」や「映画プロ」を選ぶと暗くなるのですが,画質の調整を毎回毎回手動で行うのも面倒ですし,色域の広い有機ELを万全の状態で使う調整を行う自信もないので,メーカーがお奨めする自動調整で使ってみようと思っていただけに,どうしたものかと考え込んでしまいました。


(2)音質

 音質は55MB620Xが圧勝です。タイトでバランスのいい音でしたし,音楽番組でも不満はありませんでした。

 55X8900Lも音吐にはこだわっているようで,特にコーンの面積を大きくするのと実質同じ意味を持つパッシブラジエータを備えたスピーカーシステムは,フルレンジ4つ,ツイータ2つという贅沢なスペックです。しかし,どうも中域の盛り上がりが耳につき,たっぷりとした低音もなければ,まっすぐ届く高音もありません。

 興味があったのはキャリブレーション機能で,リモコンについたマイクでテレビから出した補正用の音を拾って補正をかけるものだそうで,どれくらい改善されるのか楽しみに試してみました。

 結果はいまいち。中低音が痩せて,高域がキンキン言うようになりました。そんなに大きな差があるわけではないのですが,中低音を豊かにする傾向を見せないあたり,本当にこれを信じていいのかなあと思います。

 そもそも,リモコンのマイクからどうやって本体に補正用のデータを赤外線ごときで送っているのでしょう?マイクの音をそのままA-D変換して送信するにはビットレートが確保出来ないだろうし,解析までリモコン側でやるのも無理があるでしょう。

 それから,Dolby ATMOSのデコードにも対応しているというので,手持ちの映画を試してみましたが,もともと音がそんなに良くないだけに,大した感動はありませんでした。

 これは,音が画質についてきていない感じです。なんとかせねば。


(3)機能

 いろいろな機能があるのは結構ですが,私としてはAmazon PrimeVideoとTVer,NHK+に対応してくれてあれば,それで十分です。

 そういえば,番組をいろいろお奨めする機能があるようなのですが,自分が見る番組までいちいち押しつけられるのは嫌なので,全部切りました。余計なお世話です。


(4)外観

 外観は55MB620Xと同じ様な感じだと思っていたのですが,全然違いました。

 パネルの大きさは同じですが,本体の位置が数センチ低い位置にあること,下側のベゼルがなくなったことでさらに数センチ下がったことで,かなり低い位置に画面があります。

 その上,55MB620Xではやや上向きに傾いていた本体が,55X8900Lではほぼ真正面に向くようになりました。そのおかげで天井の照明の映り込みがなくなり,格段に見やすくなりました。

 ただ,全体の高さが下がったことで,画面が小さくなったような錯覚があります。これなら65型でも良かったかなあ・・・

 そうそう,低反射パネルについてですが,確かにグレアパネルとは違って有機ELらしさが損なわれているような印象を持ちますが,その分映り込みは少なく,見やすいです。

 有機ELはもともと解像感も発色も素晴らしいので,この程度の低反射処理を行ったところで,画質が悪化するという印象はないでしょう。映画マニアが真っ暗な部屋で見るのとは違い,このくらいの値段であれば明るいリビングに置かれてニュースやバラエティを映すこともこなさねばなりません。

 また,家族で見るなら,場所によって映り込みが大きい小さいがあったらだめでしょう。このパネルの表面処理には,私は問題を感じません。


(5)まとめ

 なにせ15万円です。それで憧れの自発光デバイスです。カラーフィルター式のLGのパネルなので本物の有機ELの画質はこんなもんじゃないと思いますが,それでも十分過ぎる画質です。反応速度も速いので,高速のスクロールも55MB620Xに比べて圧倒的に見やすくなっていますし,どこから見ても同じ色,というのも素晴らしいです。

 かつて使っていたプラズマディスプレイに比べるとまだまだと思う所もありますし,LCDも十分高画質になっていることを考えると,無理に有機ELにすべきとも,有機ELをゴールに置く事も違うかなと思いますが,それでもやはり緑の表現力には息を呑むものがあります。

 今のところ,私の期待が大きすぎたことで75点という点数になるでしょうが,もう少したくさんの番組を見てから判断したいと思います。

 

本物のハモンドオルガン,M-solo

  • 2024/07/05 11:19
  • カテゴリー:散財

 ハモンドオルガンを私ごときがあれこれと語るのはおこがましく,しかし憧れだったその楽器について,私はようやく自分のものとして語ることが少しだけ出来るようになりました。

 本物のハモンドオルガンで一番安く一番小さい,M-soloです。やっと買いました。

 現代にハモンドオルガンの新品を買うことの出来るこの幸せ,もちろんヴィンテージではなく,デジタルでモデリングかもしれないけれど,それは紛れもなくハモンドオルガンの純血種であり,だからこそ「B-3をモデルに」と公言できるのです。

 もちろん作り手にも,歴史と伝統,そして文化を創った楽器であるハモンドオルガンを名乗ることに,それなりの覚悟があるでしょう。果たして,その覚悟は私のような中途半端なハモンドオルガンの信奉者にも伝わって来たのでした。

 M-soloは,前述のようにハモンドオルガンの最新機種であり,歴代最小最軽量,そして歴代最安のモデルです。さっとスタジオに持ち運び,セッションに参加出来る可搬性,わずか13万という価格,音は上位機種のXB-4と同一の最新のモデリング音源,そしてなによりユーザーインターフェイスはハモンドオルガンの「それ」,ドローバーです。

 本気のレスリーのシミュレータも内蔵,オーバードライブもコーラスもリバーブも入っていて,あの大げさ極まるハモンドオルガンのシステムをこれ1つで完結することが出来ます。

 さらにうれしいのは,M-soloがパフォーマンスキーボードであって,リアルタイムでドローバーを動かして演奏するという,ハモンドオルガンのあり方に徹していることです。

 おかげで音色を記憶しておくメモリは3つしかありません・・・このストイックさよ。

 個人的にはこれだけでお腹いっぱいなのですが,ハモンドオルガン以外のトランジスタオルガンも(サンプリング音源ですが)内蔵,そして一度は使ってみたかったストリングスアンサンブルに加えて,8音ポリのアナログシンセも搭載というのですから,もう60年代からDX7が出る直前まで,ピアノ以外は任せておけというキーボードです。

 パフォーマンスキーボードというので,スタジオワークやDTMを狙ったものではありません。つまりは鍵盤をある程度演奏出来ることがこのキーボードに必要な最低限の技能という事になるので,きっとトランスポーズなどの甘い機能は搭載しないと思っていたところ,ちゃんと搭載されていることにまた涙。

 これってもしや,私のために作られたハモンドオルガンじゃないのか。

 ただ,私ももういい大人です。都合のいい誤解でポンポン高価なものを買うほどだらしなくはありません。

 だから,昨年秋に登場したときも心惹かれましたが辛抱し,一目見ただけでハモンドオルガンであることを主張してくる「バーガンディー」というカラーバリエーションが初回限定だと聞いたときも,私はぐっとこらえたのでした。

 しかし,5月下旬のこと。ある楽器屋さんのサイトに,M-soloのバーガンディーが復活とありました。いわく,前回瞬殺だったバーガンディーが,セカンドロットでまさかの限定復活とのこと。

 限定と言う言葉に惑わされ正気を失って買ってしまったM-soloユーザーには申し訳ないのですが,一度諦めたバーガンディーが復活,これを逃したら,もう二度と手に入らないでしょう。

 うーん,煩悩を断ち切ったはずの私に「ほんまにええのん?」と耳元でささやく悪魔が降臨します。

 恐ろしいことに,私は1週間ほど悩んだ末,その悪魔の囁きに屈してしまい,予約注文をしてしまったのでした。まあ,気が変わったらキャンセルするわ,と少しだけ逃げ道を残しつつ,です。

 しかし,そういう煮え切らない態度は失敗のもとです。このお店,予約注文でもキャンセル不可であることを後で知りました。カメラ業界では考えられない状況に戸惑いつつも,これはもう神の啓示のようなものです。私は,発売予定とされている6月下旬をおとなしく待つことにしたのです。

 そして,とうとう届きました。

 家族にはそのうち説明するつもりで,とうとう言い出せずその日を迎えました。私が在宅の時間帯に配達してもらう手はずを整えましたが,配達の方の呼び鈴に,少しだけ初動が遅れ,いつもならのんびりしている嫁さんが機敏な動きで応対,インターホンのカメラに映った大きな箱に,

「なんか大きなものがきてるよ?なによ,なんなのよ,大丈夫なの?」

 と強烈な不信感を持たれてしましました。

 慌てて玄関に突進,そんなに大きい箱なのかとビビりつつ,佐川急便のたくましいお兄さんが片手でひょいと担いだその箱を受け取りました。コソコソと中身を出して,とりあえず使われていない部屋に運び込みます。

 しかしながら箱をそのままにしておくと嫁さんに100億%バレます。ゆえに箱は潰して自室の隅っこに隠しておかねばなりません。

 まあ,それはいいです。目の前に,いよいよ本物のハモンドオルガンがあるのですから。

 ああ,思えばハモンドオルガンを意識したのが中学校の時,それがハモンドオルガンであることを知ったのは高校生の時,この時まではエレクトーンとの違いがわかりませんでした。

 発音原理を学びハモンドオルガンがそこらへんの電子オルガンではないことを知ったのが大学生の時,そしてそれが「ハモンドオルガン」という唯一無二な楽器として認知され愛されていることを知り,強い憧れを持つに至ったのが20歳のころです。

 当時,EmuのVintageKeysにサンプリングされていたハモンドオルガンのB-3が,私にとってのハモンドオルガンのすべてでした。

 音そのものは今思い出しても使えるよい音だったと思うのですが,サンプリングですので奏法を駆使することも発音原理に由来する音の変化を付けることも出来ず,ハモンドオルガンを演奏したことには全くなっていなかったのでした。

 後に手にするRD-2000でも,内蔵されたバーチャルトーンホイールをいじることはあっても,それが最終的にハモンドオルガンの奏法にどう繋がって行くのかがわかっておらず,結局最終的な音が気に入ったかどうかだけで演奏していました。レスリーのシミュレータについても「そういうもの」で終わらせていて,結局のところ曲の最後から最後まで同じ音で弾きっぱなしというのが,私の限界だったのです。

 しかし,それでも世の中の素人キーボーディストの中では,まだハモンドオルガンのことを理解している方で,それらしい演奏が出来るだろうと,そんな風に思っていました。

 それは思い上がりでした。M-soloを手に入れ,XK-5やXK-4,SK PROのマニュアルを読んでみると,その奥深さと共に自らがいかにものを知らなかったかが浮かび上がってきました。

 小さくても軽くても安くても,M-soloは演奏中にどんどん音色を変化させて演奏するハモンドオルガンそのものです。

 きっとすぐに演奏出来る,そう思って電源を入れました。キーを押します。

 しかし,音は全く出ません。そう,ドローバーを全部押し込んであったのです。そんなこともわからず,音が出ないと接続を確認したり,ボリュームツマミをいじったりした私は,こんなことさえもわかっていないド素人だったのです。

 自分の程度を思い知らされた私は,試しに,Rainbowの1976年のミュンヘンでのライブ演奏からKill the kingをバックに,M-soloを弾いてみました。

 これが本物か。リアルタイムで音をどんどん変化させていく楽しさ,もうとにかく楽しくて仕方がありません。音はバックの演奏に溶け込み馴染み,浮いてきません。

 楽勝だと思って入った洞窟は足下まで真っ暗で,少しの先も見えません。歩いても歩いてもまだ先は見えず,全くうかがい知ることの出来ない出口の果てしなさに心が折れそうです。

 しかし,音を出せば楽しくて仕方がありません。あっという間に時間が過ぎていきます。こんなみずみずしい体験は,いつ以来のことでしょう。

 前置きが長くなってしまったのですが,この感動を未だ家族と分かち合えない私は,もはやこの場にぶつけるしかありません。


(1)大きさ,重さ,全体の印象

 ぱっと見ると重そうなデザインですが,ひょいと持ち上げることの出来る大きさ,軽さです。バーガンディーカラーは上品で,鍵盤のベージュ色やドローバーのツマミの色とマッチし,とても高級に見えるのですが,パネルはプラスチックですし,決して剛性も高くありません。

 見た目が非常に良く出来ているので,実物のチープな感じは触って感じるものだと思いますが,これを軽くするためと考えればとても好印象です。

 デザインにはB-3をモチーフにしたと思われる角のRなどもあり,思わずにやけてしまいます。

 小さくとも,遠くから見てもすぐにハモンドオルガンとわかるデザインには惚れ惚れしますし,小さいディスプレイを覗き込まずとも状態を一発で把握出来るパネルレイアウト,すべてがリアルタイムの演奏のために作られています。

 これで鍵盤がウォーターフォールだったらなあ。


(2)バーガンディーカラー

 セカンドロットでも用意されることになったバーガンディーという色ですが,ぱっと見ると木に見えるような色です。ハモンドオルガンですから,キャビネットは木製が基本。鍵盤の色ともマッチしていて,なぜバーガンディーを標準カラーにしなかったのか理由がわからないくらい,ハモンドオルガンらしくてとても良い色だと思います。

 近寄って見るとメタリックが入っており,これもまた上品でよいです。


(3)鍵盤

 49鍵の鍵盤は,いわゆるシンセサイザー向けの柔らかい鍵盤で表面もツルツルしていて指のかかりもよいとは言えません。こういう鍵盤って久々だと思ったのですが,弾きやすいのは事実です。黒鍵は先端が緩やかに曲がっていて,手前になでるように演奏する時にはとても演奏しやすいなと思いました。

 白鍵の色はベージュでこれも上品,グラグラすることもなく,グリッサンドも気を遣わずに出来そうです。

 残念なのは,鍵盤がウォーターフォールでないことです。形の違いだけですので見た目の差だけだと分かってはいるのですが,やっぱりハモンドオルガンですから,ウォーターフォールであって欲しかったと思います。

 49鍵という鍵盤の数は少ないように感じますが,もともとB-3のようなオルガンは2段鍵盤で,1段では49鍵程度ですから,名前の通りソロを演奏する楽器としてなら,十分です。

 では,それ以外のジャズやロックで演奏するオルガンとして49鍵は不足かというとそんなこともなく,ちゃんと両手で演奏出来るので大丈夫です。

 とはいえ,左手でコード,右手で何らかのフレーズを演奏する時,ちょっと高い音で存在感を示そうとすると,もう1つ2つ鍵盤が足りなくなることがあります。

 特にソロの場合はそうなのですが,こういう場合はさっと左側のオクターブキーを動かして,高い方にシフトさせることになります。

 49鍵くらいあれば高い方も低い方も1つずつしかシフトしないので,今どこの音域にあるかをあまり意識しなくても済みますのでありがたいです。

 冷静に鍵盤だけ眺めてみれば,コンパクトなくせに弾きやすいキーで49鍵ですから,これはこれで他の音源を鳴らせるんじゃないかと思ったのですが,残念な事にホールドペダルがありませんので,無理でしょう。

 ところで,近年のハモンドオルガンには,仮想マルチコンタクトという機能が搭載されています。B-3などの往年のハモンドオルガンでは,鍵盤を押すと同時に9個のドローバーの音が出てくるのではなく,それぞれの音が出るのに時間差があり,9個の音がパラパラと出てくるのですが,それを再現したものです。

 ハモンドオルガンの発音機構を考えるとなるほどと思うのですが,B-3などは鍵盤を押し込むごとに9つのスイッチが順不同で入っていき,全部のスイッチがONになったとき,ドローバーで設定された9つの音がすべて出てくるのです。

 XK-5で搭載された仮想マルチコンタクト(以下VMC)は,こんな風に音がパラパラと出てくる事を再現しようと試みた機能です。

 オルガンは音の強弱を付けることが出来ません。ですから,鍵盤を浅く押した時と,深く押した時で出てくる音が違ってくれば,これを利用して表現力を高める音が出来ます。

 B-3では浅く押した時にはプチプチというクリックノイズやパーカッションだけがでてきますし,深く押し込むごとにドローバーの音が揃ってきます。確かにこれを精密に弾きわけるのは至難の業でしょうが,もっとも違いが出るのはグリッサンドでしょう。

  XK-5(おそらくSK PROやXK-4も)には,VMCのために順番にONになる3つの接点を持つ鍵盤が使われているようです。この3つで最初の音の発音開始と,2つがONになるまでの時間,そしてキーが完全に押し込まれて3つすべてがONになるまでの時間を使って,9つの音をそれぞれどのタイミングで出すか決めています。

 なので,これらの楽器をMIDIでつないだ外部キーボードで演奏すると,3つの接点の情報が得られず,鍵盤を押した時の速さ(ベロシティ)という乏しい情報だけでVMCを作動させねばならなくなります。

 ベロシティが小さい時は次の音が出るまでの時間を長く,逆に速い場合には次の音が出るまでの時間を短くしてそれぞれの音を出すようにすることで,出来るだけリアルなB-3を再現しようとしています。

 ベロシティは2つの接点がONになる時間を使って得る情報ですので,1つ目の接点がONになったときに発音することは不可能で,2つ目の接点がONになってベロシティ情報が生成されてようやく音を出すことが出来ます。

 ただ,2つ目の接点がONになるのはそんなに深く押し込んだところである必要はなく,1つ目と2つ目の接点の時間差を得るのが目的ですので,完全に沈み込むまでキーを押さずとも発音はします。

 ということで2接点のキーの場合,ゆっくりキーを押して途中で止めても順番に9つの音は出てきてしまいます。オリジナルのB-3とは全く異なる挙動ですが,9つの音が出きってしまう前にキーを離してしまえばそこで発音は止まりますので,一度発音させれば9つの音がすべて出てくるというようなことはありません。

 だから,素早くキーを離してしまえばクリックやパーカッションだけを発音させることも出来ますし,グリッサンドも綺麗に出来るはずです。さすがハモンドオルガン,さすがVMCです。他社のオルガンやシンセサイザーではこうは行きません。

 さて,XK-4やSK PROでは,VMCの動作を3つの接点で行うランダムモードと,キーを押す速さで行うベロシティモードの2つを選ぶ事が出来るのですが,M-soloではベロシティモードしか選ぶ事が出来ません。

 設定パラメータとしてVMCデプスという項目があるのですが,これは9つの音それぞれが出るタイミングを短くしたり長くしたりするもので,ゼロにするとVMCをオフにすることが出来ます。

 ここから推測するに,M-soloの鍵盤は,XK-5やXK-4で使われているような3つの接点を持つ特殊なものではなく,シンセサイザーなどに使われる2つの接点だけベロシティを得る,一般的なものであるということです。

 こういう鍵盤はコストも安く済みますし,処理も軽いですから,M-soloの価格で可能なものとして割り切られ,上位機種との差別化を図ったのではないかと思います。

 ですが,そもそも9つの音が同時に出ずばらけて出てくるというだけで,すでに他社のものとは大きく違います。本物との間に違いはありますが,違いを頭に入れて実際に演奏すれば,その違いが問題になることはなく,オリジナルが持つ多彩な演奏法を受け止める楽器であることは間違いないと思います。

(4)MIDIで鳴らしたとき

 ちょっとややこしくなるのはMIDIで繋いだ時です。M-soloをMIDIで鳴らす時に気を付けないといけない事として,B-3の発音はノートオンを受けてからになるという点です。

 前述のように,本体の鍵盤で演奏する時は,キーを少し下げた1つ目の接点がオンになると発音を開始,押し込んだところで2つ目の接点がオンになりベロシティが算出されます。

 そしてこのベロシティを使ってVMCが動作するわけですが,MIDIで鳴らす場合はノートオンで発音開始,この時同時に送られるベロシティでVMCも動作を開始します。

 ということは,外部の鍵盤ではキーを浅く押さえた時には発音しないのです。

 しかも,M-soloを演奏しながらMIDIアウトからのデータをMIDIシーケンサーで記録し,後でシーケンサーからM-soloを演奏させたときには,もとの演奏が再現されないのです。

 これは結構衝撃です。M-soloを優秀なハモンドオルガン音源として使うことも出来なければ,リアルタイム入力で打ち込んだデータが元の演奏を再現しないということですので,つまりM-soloのMIDIは実質使い物にならないということです。

 ほんまかいな,と思ったので,実験してみました。

 M-soloの鍵盤と音源をローカルスイッチの設定で切り離し,MIDIケーブルでM-soloのINとOUTを繋いでしまいます。

 これでB-3を演奏してみたところ,やはり推測は正しく,浅い位置では発音せず,完全にキーを押し込んだところで発音,その時のベロシティで9つの音の発音タイミングのズレが変化しました。

 キーを浅いところで発音させ,即座に指を離してやると9つのドローバーのうち低音部が発音する前に音が消えるのですが,MIDIではそれは再現されません。ということは,MIDIではグリッサンドやスタッカートの時に意図して付けた変化が出ないということになりますし,MIDIで記録することも出来ないのです。

 ではどうしたらいいのか,というと,実はどうにもいいアイデアがありません。MIDIはノートオンとベロシティを同時に送信しますので,M-soloのようなケースには対応出来ません。

 キーが浅い位置でノートオンを出してしまうのも手ですが,その場合ベロシティが不明ですので固定されてしまいます。ならばもう1つ接点を増やして,浅い位置でノートオンとベロシティを送信出来るようにすれば良いように思いますが,今後はキーを押し込んだ時の情報を利用出来ませんから,結局普通のキーボードの,ノートオンが出るキーの深さを浅くしただけのものになってしまいます。

 さらにいうと,グリッサンドもスタッカートも速度そのものは速いですから,ベロシティは大きな値で送信されるでしょう。これではVMCの動作が演奏者の意図から大きく外れてしまいます。

 うーん,ここら辺がMIDOとハモンドオルガンの限界なのかも知れません。こういうケースは今どき珍しいことではなく,本体の鍵盤ならベロシティは1024段階でも,MIDIなら128段階になってしまうピアノもあります。発音速度ももともと違いますし,そもそもハモンドオルガンは鍵盤と音源を切り離せない楽器です。

 ということで,M-soloはMIDIで繋いで使うような物ではなく,スタンドアロンでリアルタイムで演奏する楽器なんだという認識を,しっかり持っておく方が良さそうです。


(5)ハモンドオルガンとして

 ハモンドオルガンとして大切な事は,音の良さもそうですが,様々な奏法を可能に出来るかどうかです。グリッサンドに始まり,リアルタイムでドローバーを動かしたり,パーカッションを付けたり,もちろんレスリーをSLOW/FASTで切り替えたりという,演奏者の操作による音の変化がオリジナルに忠実なものかどうかが問われると思います。

 M-soloはこんなに小さいのに,立派にハモンドオルガンです。ハモンドオルガンを演奏しているという楽しさに満ちていて,この楽しさはきっと周りにも伝わるのではないかと思います。

 もちろん,2段でもなければフットペダルもありませんから,ハモンドオルガン上級者にはお笑いぐさかもしれません。しかし,ジャズやロックで耳にするあのハモンドオルガンの音をこんなに簡単に得られるというのは,とてもよい時代になったとしか言いようがありません。

 左3本のドローバーを手前に引き切って,パーカッションのスイッチを4つすべてをONにするFOUR UPで,レスリーをSLOWで回して演奏すると,自分が上手くなったように錯覚します。良い楽器を手に入れると上手くなったように感じるものですが,それは電子楽器でもそうなのです。


(6)音の良さ

 で,そのハモンドオルガンの音ですが,MTWIIという最新の音源だけに,文句はありません。上品すぎず,でも荒っぽくなく,柔らかい音も掴み掛かるような音も,ドローバーでどんどんデザイン出来ます。

 スキャナービブラートも秀逸です。私はハモンドオルガンというのは,トーンホイールとレスリースピーカーであの音が出るものと思っていましたが,ビブラートとコーラスが非常に重要であることを学びました。

 オーバードライブのかかり方も派手ではありませんし,リバーブも控えめです。しかし,それでも十分に存在感のある音を聴かせてくれるのはさすがです。

 普段は邪魔で耳障りなクリックノイズがこれほど心地よいと思ったことはありませんし,正確無比なデジタル楽器と違ったメカニカルな電子楽器らしい,いい意味でいい加減なところも再現されていて,生きている楽器と対話しているような気分になります。

 おそらくですが,ほかの楽器とアンサンブルをすると,この音の良さが際立つだろうと思います。大きな音を出しても耳障りでなく,ギターと対等に対話できるはずで,そんな機会がないことを私はとても残念と思いました。


(7)レスリーシミュレータ

 知らなかったのですが,鈴木楽器はハモンドだけではなく,レスリーの商標も買っていたのですね。つまり,M-soloに入っているレスリーのシミュレータは,本物のレスリーなのです。

 M-soloはXK-5やXK-4と違い,細かい設定が出来ません。キャビネットの種類も,SLOWからFASTに切り替わる時間も,マイクの位置も固定されています。

 しかし,その固定された設定が大変良く出来ていて,本当にレスリーを使って自分の意のままに操っているような気分になるのですから,良く出来ています。

 確かに,曲によってはもうちょっと設定をいじれたらな,と思う事もあると思います。でも,そこに達するのはまだまだ先の話でしょう。それに,レスリーのような大きな機材は,一人一台がせいぜいで,使い分けをしたり改造したりは特殊な話だろうと思います。

 つまり,今目の前にあるレスリーが,自分にとってのレスリーのすべてです。そしてそのレスリーは,非常に良く出来ているレスリーです。これ以上望むのは贅沢だと思います。

 欲を言えば,スイッチの位置が遠いので,演奏中に無理なく切り替える事が難しいです。フットスイッチを使えば良いのですが,残念ながらSTOPはフットスイッチで操作できません。うーん。


(8)エフェクト

 エフェクトといってもオーバードライブとコーラス,リバーブくらいです。どれも上品で,良い感じのエフェクトです。浅めにかかる上,派手さもありませんが,とてもシルキーですし,しかしONとOFFとで違いがはっきりわかるので,十分な戦闘力を持っていると思います。

 これもまあ,欲を言えばイコライザーは欲しいところですし,リングモジュレータやフェイズシフターも欲しかったと思いますが,それをディスプレイなしで扱うのは難しいので,割り切ったことは正しいとも思います。


(9)他の音色

 ちょっと微妙な感じがするので,なんとも言えません。

 オルガンタイプ,Vx,Ace,ファルフィッサはサンプリングということですが,使う気が失せるほど当時のトランジスタオルガンを再現していると思います。私はこれらのオルガンを演奏したこともなければ積極的に使ってみようと思ったこともないのですが,Aceなどは確かに60年代のGSをやるには必須かも知れません。

 が,そもそもGSなんて,やるか?

 VxはAceよりも使い道はありそうですが,Vxがイメージを決定するような曲を,演奏するシーンなんて,あるか?

 ということで,これらは私にとって宿題です。

 お次はストリングスアンサンブル。これもまあ微妙です。

 ポリフォニックシンセサイザーが登場する前,和音が出る電子楽器の1つとして使われていたのがストリングスアンサンブルです。

 のこぎり波で和音が出るという,オルガンにはない特徴で当時のバンドでは重宝したらしいのですが,実際に音を出してみるとなんとも微妙だなあと思います。

 確かにアンサンブルではストリングスっぽく聞こえると思いますし,うまく混じってくれると思いますが,もっといい音がシンセサイザーで手に入る昨今,これを個性として前向きに活用するのはちょっと難しいかなと思いました。

 もちろん,機材運搬の関係で,M-soloしかステージで使えない場合などは重宝すると思いますが,それくらいならもうずっとB-3の音でやりきれよ,って思います。

 一方,クワイアはなかなかよいです。これは使えます。実のところ,この手の合成音声丸出しの機械音がするクワイアっていうのはなかなか使い道がある癖に,シンセサイザーのプリセットには入っていない事が多いです。わざわざ作る事になるのですが,そんなことをしなくてもM-soloを持っていけば解決です。コーラスとリバーブを深めにかけると即戦力です。


(10)アナログシンセサイザーとして考えると

 M-soloには8音ポリのアナログシンセサイザー(もどき)も入っています。これがサンプリングなのか,それともモデリングなのか,もっと単純なものなのかはわかりませんが,ドローバーの数に制約を受けた少ないパラメータで,どこまで使えるかを考えます。

 8音ポリでアナログシンセですから,とりあえずストリングスやパッド,シンセブラスを考えるのですが,ちょっと今ひとつな印象です。

 まず,のこぎり波がおとなしすぎて,物足りません。2VCOでもないので音の厚みは期待出来ないのですが,その代わりサブオシレータが良く出来ているので,これは使い勝手があります。

 それから,フィルターのキレが良くないです。カットオフあたりがルーズな音がします。レゾンナスももっと強烈にかかってもいいです。

 エンベロープはパラメータが少ないので仕方がないとしても,キースケーリングがないので高音域でフィルターを開けるとか,低音域で倍音を減らすとかできないのは,我慢や辛抱でどうにかなる話ではありません。

 ということで,残念ながら倍音の少ないパッド系の音ならどうにかという感じです。シンセリードなんかの存在感のある音は最初から無理だと思いますが,今ふと思いついたのは,B-3とリングモジュレータの組み合わせで変な音を出す技がありますよね,あれをこのシンセサイザーで代用するというのはありでしょう。


(11)残念な事

 イコライザーがありません。これは残念です。スタジオでもステージでも,常に自分の頭の中で鳴っている音が出るとは限りませんが,それをイメージに近づけるのがイコライザーですから,これがないのはちょっと致命的かなとおもいます。

 大した手間でもないでしょうし,リアルタイムでいじれなくても構わなかったので,イコライザーは本当に欲しいと思います。

 もう1つ,電源のON/OFFについてです。電源をOFFにした時に,それまでの状態が記憶されないのは,ちょっとどうかなと思います。

 電源を切る直前の状態のうち,記憶しておいて欲しいのは,選んでいる音色(プリセット3つかもしくはマニュアルか)と,もしマニュアルを選んでいた場合にはオルガンタイプ,コーラス/ビブラート,レスリー,オーバードライブとリバーブ,パーカッションの各設定をきちんと復元しておいて欲しいということです。

 例えば,ACEやVXを中心に使っている人が,電源を入れる度にB-3に戻ってしまうのは悲しいです。ACEやVXをプリセットに記憶しておいても,電源ONではMANUALに戻りますので,やはり一手間かかるのです。これはちょっと厳しすぎます。

 最後に,これはM-soloの性格上やむを得ないことなのですが,プリセットを呼び出した時に,それがどんなドローバーの設定だったのかがわかりません。プリセットからドローバーを変化させた時に,元の状態からどのくらい変化させたのかもわからなければ,他のドローバーの位置もわかりません。

 その状態で出来上がった音をプリセットとして記憶させると,結局ドローバーがどんな位置かを知らないまま演奏することになります。これ,思った以上に気持ち悪いです。だって,ドローバーの位置がそのまま音に反映されるのが,リアルタイム指向の真骨頂でしょう?


(12)まとめ

 確かにこれは"B-3"ではありません。ですが,ハモンドの名前を冠する「ハモンドオルガン」であり,B-3への尊敬がM-soloには宿っています。

 一生懸命試行錯誤を繰り返して,どうしたらハモンドオルガンっぽい音が出るかを模索したのに,M-soloを使えば簡単に実現してしまうのですから,とても楽しいです。

 今回わかったのは,やはりハモンドオルガンというのは,多列接点にあるのだなあということです。クリック,チャタリング,グリッサンドで出る音の「らしさ」も,結局この多列接点にあったということです。そりゃー,他社のオルガンではかなうはずもありません。

 まだ断言出来ませんが,ハモンドオルガンをハモンドオルガンたらしめているのは,

・トーンホイールによる音源
・一体化している鍵盤と音源
・リアルタイムで動かせるドローバー
・スキャナービブラートとコーラス
・キークリックとチャタリング
・パーカッション
・レスリースピーカー
・これらを駆使した奏法

 ということが,はっきりわかりました。特にキークリックとスキャナービブラートは,ハモンドオルガンで最も重要な要素の1つじゃないかと思ったほどで,でもこれを語る人って少ないですし,他のメーカーの製品でここにこだわったという話を耳にすることはありません。ハモンドオルガンに詳しくない人の中には,これらの単語を知らない人だっているんじゃないでしょうか。

 私は幸いにして,M-soloという形でハモンドオルガンのほんの一部を知ることが出来ました。今なおハモンドオルガンが世界中で愛されていることの理由が見えた気がします。

 同じ鍵盤楽器ですし,これまでにもよく使っていた音ですが,新しい楽器に手を出して,練習して少しずつ弾けるようになっていく,そんな経験を新たにする機会になりそうです。楽しくなるなあ。

 

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