オカルトグッズ
- 2007/07/23 14:24
- カテゴリー:散財
某量販店がポイント13%をやっていまして,7月20日に発売だったオーディオテクニカのヘッドフォンスタンドを買うことにしました。大体5000円くらいのものなのですが,送料が500円(つまり1割)というのが実に微妙で,もし合計1万円に出来るのなら送料が無料になるからと,他に買える物がないものかといろいろ探してみました。
はいそこ,まんまと罠にかかったとか,笑わない。
・・・で買った物は,オーディオテクニカのレコードクリーナーに使うクリーニング液,スピーカーの下に置くウッドブロック(実家用),それにオカルトグッズ。
これまで絶対に手を出さなかったこの種のアクセサリも,ちょっとした油断で手を出してしまう物です。ある意味おとなになったということかも知れませんが,試しに買ってみることにしたオカルトグッズは,fo.Q(フォックと発音するらしい)の「RS-912」という,アナログプレイヤー用のアクセサリです。
foもQも,その筋には思わずニヤリとしてしまうものなわけですが,果たしてそのRS-912とは,
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最新の成型技術を使用した、滑らかな表面性を持つ半硬質で厚みの違う2種類
(1mm厚と2mm厚)のターンテーブルシートと、カートリッジ、ヘッドシェル、
トーンアーム用の薄い調整テープ(0.5mm厚の粘着付シート)から構成されています。
それぞれ1枚ずつ、あるいは2枚重ねで使ったり、お手持ちの硬質系ターンテーブル
シートと組み合わせたり、ご愛用のカートリッジ、ヘッドシェル、トーンアーム
等の振動調整をしたり、使い方は自由自在!最適な演奏モードを探り当てるあなたの
アイディアと腕次第で、レコードの音溝にこれほどまでの音楽情報がきざまれて
いたのかと思うほど、今までに経験したことのない、素晴らしい「音楽の
感動世界」が眼前に展開します。
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というものらしいです。
要するに,ターンテーブルシートと貼り物のセットなわけですが,これが7400円。まずは素直にこのままググってみますと,レビューや素人さんのページではなく,販売業者のページばかりがヒットします。評判云々というレベルではなさそうですし,口コミで知られている商品というわけでもないようです。
メーカーのHPによると,「東京工業大学大学院 住田雅夫教授」がJST(科学技術振興機構)のプレベンチャー支援を受けて開発された新素材を使って,振動を効果的に吸収するオーディオアクセサリに応用したものとあります。
胡散臭い。
いわく,振動エネルギーを電気エネルギーに変換しこれを熱にして振動を吸収するとか,ゴムのようなクセのない振動吸収が可能とか・・・
実に胡散臭い。
さらにグラフも出ています。fo.Qを貼り付けた金属と貼り付けなかった金属の振動の減衰波形を示して,fo.Qを貼り付けたらこんなに振動が早く減衰しますよ,って書いてある。
そりゃゴムでもなんでも貼り付ければ振動は消えますよ。金属の材料や質量,与えた振動の種類などが全然明らかじゃない上,他の貼り物との比較をしない以上はfo.Qの善し悪しなど議論できません。
全くもって胡散臭い。
しかし,ようやく見つけた素人さんのレビューを見ると,これはすごいだの,信じられないだの,これほどの情報が入っていたのかアナログには!などと絶賛です。「正直よく分かりません」という文字通り正直なレビューは1件だけです。
まあ,こういうフラシーボグッズというか,オーディオに特有のオカルト文化に手を出すのも面白そうだし,実は私のレコードプレイヤーのターンテーブルマットの劣化がかなり進んでおり,出来れば交換したいと思っていた所だったので,買って見る事にしました。
世の中には真鍮削りだしで20kgもあるターンテーブルを使ってらっしゃる方や,たかがターンテーブルに敷く敷物に何万円もかける御仁がいらっしゃり,私などは正直分かりませんという他ないのですが,そんなだから単に今使っているゴム製のターンテーブルマットを交換したいだけ,という私のような人は,安くて良い商品が買えなくて困っていたりするわけです。
ゴムの敷物に良い商品ってなんだ,と思った方もあると思いますが,このターンテーブルマット,一応私もその重要性は理解していて,レコードがスリップしなけりゃなんでもいいよ,というほど無頓着ではありません。
アナログレコードは音の溝を直接拾って音を出していますか,理想的にはレコードもカートリッジも振動の一切ない状態で,微動だにしないようしっかりと固定されていることがよいのは想像がつきます。
しかし,レコードは回さなければなりませんからどうしても振動は発生しますし,カートリッジやトーンアームも音溝をトレースするために自由に動き回ることが出来なければならない訳ですから,そこにどうしても振動が発生したり,複数の共振点を持ったりすることになります。
測定器で数値化できればそれが一番よいのですが,私のような素人にも,そうした余計な振動が必要な振動(つまり音)に混じってしまうことは容易に想像がつき,混ざってしまったものを分離することが難しいことも,また理解できるわけです。
実際,先日見る事が出来た30年ほど前のアナログレコードに関する書籍で行われていた実験では,ターンテーブルマットやキャビネットの素材などで,出力される信号波形やスペクトルに大きな差がありました。可聴帯にも影響がありましたので,これはその振動が直接聞こえてくるということもあり得ます。
そんなわけで,私の使っているプレイヤーの当時のカタログにも,レーザーホログラフィ(ってなんじゃそれはよ)で解析した特製ターンテーブルマットを付属と大々的に書いてあるくらいですし,トーンアームの共振については私自身もテストレコードなどで身をもって体験していますから,まあ分からなくはないのです。
相変わらずアンプを液体窒素で冷やすとか,1cmくらいの丸いプラスチックをCDのトレイの真ん中に貼ると音が劇的に変わるとか,そういうのは信じませんが,楽器が使っている木材や乾燥具合によってあれだけ音が変わるのですから,直接振動を扱うスピーカやアナログレコードは,やはりそれなりに気を遣ってあげないといけないだろうと,思っています。
そんなことは言い訳で,まあおもしろグッズですよ。
さて,届いたRS-912ですが,想像以上にチープです。この種のグッズとしては実際チープなわけですから文句はありません。
元々のマットが結構分厚い物だったので,今回は1mmと2mmの2種類のマットを重ねて合計3mmで使うことにします。溝などもなく,平面性が高いので,密着してくれます。レコードを置いたときの安定感はかなりありそうですので,従来物に比べて安心感があるのは確かです。もうこの段階で私はこの商品を許しました。
さて,問題は貼り物です。カートリッジやトーンアーム,シェルの貼ると振動を吸収できるんだそうで,貼りすぎに注意とあります。まあどんなものでも貼れば共振周波数は変わります。変わったことを良くなったと大騒ぎする連中には迎合できませんし,良くなるまで試行錯誤を続ける気力もないので,とりあえずトーンアームの真ん中へん,目立たない下側に細長い貼り物を貼ってみます。カートリッジやシェルに貼るのは,美観を損なうので却下します。
一応聴いてみましょう。悪くなっていたりするといやですから。プレイヤーはDP-2500,カートリッジはV15typeVxMR,シェルはAT-LH13/OCC,イコライザは先日のK&Rのキット,音源はエディ・ヒギンズ・カルテットの「恋去りし時」です。いわゆる重量板というやつですが,先日秋葉原で新品を買ってきました。
え・・・
濁りが消えています。イガイガするような感触がなくなり,ビールでいうところの,雑味が消えてのどごしすっきり,という感じです。こりゃ驚いた。
元々モーターのゴロゴロ音とか,そういうのは問題にならなかったのですが,出てくる音が非常に整ってきていると言いますか・・・悪く言うと淡泊になるので,ある種の物足りなさが寂しい時もありますが,ザラザラしない音は全然疲れません。
友人にも聴いてもらったところ,CDに近づくなあという感想でした。そう,我々は全体でレコードらしさを感じていたわけで,そのうちの1つを要素を低く抑えたことで,まるでそれが最初から含まれていないCDの音に近づいたと感じるのだと思います。私も同じ感想です。それゆえあまり面白くないわけです。
で,使用前後での比較は面倒臭いのでやってません。貼り物を剥がすと再利用は出来ませんし,ターンテーブルマットは古い物はしまってしまいましたから,今さら出してくるのは面倒です。てことで,もうこのままでよいことにします。
確かに宗教のようなもので,信じれば救われる世界ですから,今回のグッズで良くなったと思った人は使い続ければいいし,変わらなかったと思う人は使わなければ良いだけのことです。
問題は,お試しをするには少々高いということでしょうか。これなど7400円って全然安いですが,何万円,何十万円にもなると「変化なし」という事実を認めることはすなわち敗北ですので,根本的に価格の高低がその性能をある程度保証することが出来ない「趣味の世界」であることが,オカルトのオカルトたるゆえんなんでしょうね。
今回のように,7400円で当たりが出ればラッキー。でも数百万円でもハズレを引く人がいるのもこの世界。家電にしてもカメラにしても,基本的には高価な物なら使いやすかったり高性能を実感できたりするものなのですが,むしろ安物が敬遠される世界では,根拠のない価格がついていたりするので,そういうのがオーディオという世界の間口を狭めてかつ怪しい物にしているように思うのです。
ところで,この材料,相変わらず胡散臭いままですよね。振動を電気に変え,それを熱にするなんて,怪しいなあと思うのですが,結果が予想外だったのでこの東京工業大学大学院の住田雅夫教授という先生でググってみました。
もちろん面識はありませんが,なにやら高名な先生のようです。この材料に関してもその発想のスタートから非常にわかりやすい図で説明をなさっていました。
制振材料や遮音材料の軽量化ニーズがある一方で,従来の制振材料は粘弾性材料の粘性効果や無機充填材の摩擦効果によって振動を熱に変換することで成立していて,これだと原理的に質量則に逆らえず,材料の軽量化には限界があったというのです。
そこで,高分子材料の中に圧電性,誘電性,導電性を持つ低分子を加え,振動を一度電気に変換,これをさらに熱に変換することで振動を効率よく吸収しようというのを試みられたようです。結果軽量化という当初の目標も達成出来たわけですね。
言うが易で,この高分子に低分子を練り込むというのはなかなか難しいでしょう。均一になっている必要もあるし,耐久性や強度もそれなりにないといけない。それにあまりに高コストではダメなわけですし,材料が出来上がっても成型できなければ意味もなく,成型の条件などの試行錯誤もあったことと思います。
ここに目を付けてオーディオアクセサリにしたのがfo.Qというわけですが,こういう経緯がきちんと分かると,なるほど余計な振動を押さえ込むことは出来そうだなあと感じるわけです。(余計でない振動まで吸収されちゃうんじゃないかと思いますが)
そういえば,メーカーのFAQには,fo.Qは電気を通しますと書かれていました。導電性の低分子が練り込まれているのですから当然なわけですが,冷静に考えるとこれは静電気がたまりませんね。確かに今回,静電気の発生は全くなく,レコードの帯電も少なかったように思います。なるほど,帯電防止にも有効なわけですね。むしろこれを売りにしたらいいのに。
ピンとくるのが,カセットテープの防振でしょうね。カセットのハーフに貼り付ける,テープデッキのヘッドや走行系に貼り付ける,カセットのホルダーに貼り付けるなど,なにせカセットデッキは振動の影響が大きい割に,振動だらけです。
試してみようかと思いましたが,今時カセットのチューニングというのも馬鹿馬鹿しいので,やめときます。
まあ,思った以上にびっくりしました,というお話です。