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2007年07月の記事は以下のとおりです。

オカルトグッズ

  • 2007/07/23 14:24
  • カテゴリー:散財

 某量販店がポイント13%をやっていまして,7月20日に発売だったオーディオテクニカのヘッドフォンスタンドを買うことにしました。大体5000円くらいのものなのですが,送料が500円(つまり1割)というのが実に微妙で,もし合計1万円に出来るのなら送料が無料になるからと,他に買える物がないものかといろいろ探してみました。

 はいそこ,まんまと罠にかかったとか,笑わない。

 ・・・で買った物は,オーディオテクニカのレコードクリーナーに使うクリーニング液,スピーカーの下に置くウッドブロック(実家用),それにオカルトグッズ。

 これまで絶対に手を出さなかったこの種のアクセサリも,ちょっとした油断で手を出してしまう物です。ある意味おとなになったということかも知れませんが,試しに買ってみることにしたオカルトグッズは,fo.Q(フォックと発音するらしい)の「RS-912」という,アナログプレイヤー用のアクセサリです。

 foもQも,その筋には思わずニヤリとしてしまうものなわけですが,果たしてそのRS-912とは,

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 最新の成型技術を使用した、滑らかな表面性を持つ半硬質で厚みの違う2種類
(1mm厚と2mm厚)のターンテーブルシートと、カートリッジ、ヘッドシェル、
トーンアーム用の薄い調整テープ(0.5mm厚の粘着付シート)から構成されています。
それぞれ1枚ずつ、あるいは2枚重ねで使ったり、お手持ちの硬質系ターンテーブル
シートと組み合わせたり、ご愛用のカートリッジ、ヘッドシェル、トーンアーム
等の振動調整をしたり、使い方は自由自在!最適な演奏モードを探り当てるあなたの
アイディアと腕次第で、レコードの音溝にこれほどまでの音楽情報がきざまれて
いたのかと思うほど、今までに経験したことのない、素晴らしい「音楽の
感動世界」が眼前に展開します。

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 というものらしいです。

 要するに,ターンテーブルシートと貼り物のセットなわけですが,これが7400円。まずは素直にこのままググってみますと,レビューや素人さんのページではなく,販売業者のページばかりがヒットします。評判云々というレベルではなさそうですし,口コミで知られている商品というわけでもないようです。

 メーカーのHPによると,「東京工業大学大学院 住田雅夫教授」がJST(科学技術振興機構)のプレベンチャー支援を受けて開発された新素材を使って,振動を効果的に吸収するオーディオアクセサリに応用したものとあります。

 胡散臭い。

 いわく,振動エネルギーを電気エネルギーに変換しこれを熱にして振動を吸収するとか,ゴムのようなクセのない振動吸収が可能とか・・・

 実に胡散臭い。

 さらにグラフも出ています。fo.Qを貼り付けた金属と貼り付けなかった金属の振動の減衰波形を示して,fo.Qを貼り付けたらこんなに振動が早く減衰しますよ,って書いてある。

 そりゃゴムでもなんでも貼り付ければ振動は消えますよ。金属の材料や質量,与えた振動の種類などが全然明らかじゃない上,他の貼り物との比較をしない以上はfo.Qの善し悪しなど議論できません。

 全くもって胡散臭い。

 しかし,ようやく見つけた素人さんのレビューを見ると,これはすごいだの,信じられないだの,これほどの情報が入っていたのかアナログには!などと絶賛です。「正直よく分かりません」という文字通り正直なレビューは1件だけです。

 まあ,こういうフラシーボグッズというか,オーディオに特有のオカルト文化に手を出すのも面白そうだし,実は私のレコードプレイヤーのターンテーブルマットの劣化がかなり進んでおり,出来れば交換したいと思っていた所だったので,買って見る事にしました。

 世の中には真鍮削りだしで20kgもあるターンテーブルを使ってらっしゃる方や,たかがターンテーブルに敷く敷物に何万円もかける御仁がいらっしゃり,私などは正直分かりませんという他ないのですが,そんなだから単に今使っているゴム製のターンテーブルマットを交換したいだけ,という私のような人は,安くて良い商品が買えなくて困っていたりするわけです。

 ゴムの敷物に良い商品ってなんだ,と思った方もあると思いますが,このターンテーブルマット,一応私もその重要性は理解していて,レコードがスリップしなけりゃなんでもいいよ,というほど無頓着ではありません。

 アナログレコードは音の溝を直接拾って音を出していますか,理想的にはレコードもカートリッジも振動の一切ない状態で,微動だにしないようしっかりと固定されていることがよいのは想像がつきます。

 しかし,レコードは回さなければなりませんからどうしても振動は発生しますし,カートリッジやトーンアームも音溝をトレースするために自由に動き回ることが出来なければならない訳ですから,そこにどうしても振動が発生したり,複数の共振点を持ったりすることになります。

 測定器で数値化できればそれが一番よいのですが,私のような素人にも,そうした余計な振動が必要な振動(つまり音)に混じってしまうことは容易に想像がつき,混ざってしまったものを分離することが難しいことも,また理解できるわけです。

 実際,先日見る事が出来た30年ほど前のアナログレコードに関する書籍で行われていた実験では,ターンテーブルマットやキャビネットの素材などで,出力される信号波形やスペクトルに大きな差がありました。可聴帯にも影響がありましたので,これはその振動が直接聞こえてくるということもあり得ます。

 そんなわけで,私の使っているプレイヤーの当時のカタログにも,レーザーホログラフィ(ってなんじゃそれはよ)で解析した特製ターンテーブルマットを付属と大々的に書いてあるくらいですし,トーンアームの共振については私自身もテストレコードなどで身をもって体験していますから,まあ分からなくはないのです。

 相変わらずアンプを液体窒素で冷やすとか,1cmくらいの丸いプラスチックをCDのトレイの真ん中に貼ると音が劇的に変わるとか,そういうのは信じませんが,楽器が使っている木材や乾燥具合によってあれだけ音が変わるのですから,直接振動を扱うスピーカやアナログレコードは,やはりそれなりに気を遣ってあげないといけないだろうと,思っています。

 そんなことは言い訳で,まあおもしろグッズですよ。

 さて,届いたRS-912ですが,想像以上にチープです。この種のグッズとしては実際チープなわけですから文句はありません。

 元々のマットが結構分厚い物だったので,今回は1mmと2mmの2種類のマットを重ねて合計3mmで使うことにします。溝などもなく,平面性が高いので,密着してくれます。レコードを置いたときの安定感はかなりありそうですので,従来物に比べて安心感があるのは確かです。もうこの段階で私はこの商品を許しました。

 さて,問題は貼り物です。カートリッジやトーンアーム,シェルの貼ると振動を吸収できるんだそうで,貼りすぎに注意とあります。まあどんなものでも貼れば共振周波数は変わります。変わったことを良くなったと大騒ぎする連中には迎合できませんし,良くなるまで試行錯誤を続ける気力もないので,とりあえずトーンアームの真ん中へん,目立たない下側に細長い貼り物を貼ってみます。カートリッジやシェルに貼るのは,美観を損なうので却下します。

 一応聴いてみましょう。悪くなっていたりするといやですから。プレイヤーはDP-2500,カートリッジはV15typeVxMR,シェルはAT-LH13/OCC,イコライザは先日のK&Rのキット,音源はエディ・ヒギンズ・カルテットの「恋去りし時」です。いわゆる重量板というやつですが,先日秋葉原で新品を買ってきました。

 え・・・

 濁りが消えています。イガイガするような感触がなくなり,ビールでいうところの,雑味が消えてのどごしすっきり,という感じです。こりゃ驚いた。

 元々モーターのゴロゴロ音とか,そういうのは問題にならなかったのですが,出てくる音が非常に整ってきていると言いますか・・・悪く言うと淡泊になるので,ある種の物足りなさが寂しい時もありますが,ザラザラしない音は全然疲れません。

 友人にも聴いてもらったところ,CDに近づくなあという感想でした。そう,我々は全体でレコードらしさを感じていたわけで,そのうちの1つを要素を低く抑えたことで,まるでそれが最初から含まれていないCDの音に近づいたと感じるのだと思います。私も同じ感想です。それゆえあまり面白くないわけです。

 で,使用前後での比較は面倒臭いのでやってません。貼り物を剥がすと再利用は出来ませんし,ターンテーブルマットは古い物はしまってしまいましたから,今さら出してくるのは面倒です。てことで,もうこのままでよいことにします。

 確かに宗教のようなもので,信じれば救われる世界ですから,今回のグッズで良くなったと思った人は使い続ければいいし,変わらなかったと思う人は使わなければ良いだけのことです。

 問題は,お試しをするには少々高いということでしょうか。これなど7400円って全然安いですが,何万円,何十万円にもなると「変化なし」という事実を認めることはすなわち敗北ですので,根本的に価格の高低がその性能をある程度保証することが出来ない「趣味の世界」であることが,オカルトのオカルトたるゆえんなんでしょうね。

 今回のように,7400円で当たりが出ればラッキー。でも数百万円でもハズレを引く人がいるのもこの世界。家電にしてもカメラにしても,基本的には高価な物なら使いやすかったり高性能を実感できたりするものなのですが,むしろ安物が敬遠される世界では,根拠のない価格がついていたりするので,そういうのがオーディオという世界の間口を狭めてかつ怪しい物にしているように思うのです。

 ところで,この材料,相変わらず胡散臭いままですよね。振動を電気に変え,それを熱にするなんて,怪しいなあと思うのですが,結果が予想外だったのでこの東京工業大学大学院の住田雅夫教授という先生でググってみました。

 もちろん面識はありませんが,なにやら高名な先生のようです。この材料に関してもその発想のスタートから非常にわかりやすい図で説明をなさっていました。

 制振材料や遮音材料の軽量化ニーズがある一方で,従来の制振材料は粘弾性材料の粘性効果や無機充填材の摩擦効果によって振動を熱に変換することで成立していて,これだと原理的に質量則に逆らえず,材料の軽量化には限界があったというのです。

 そこで,高分子材料の中に圧電性,誘電性,導電性を持つ低分子を加え,振動を一度電気に変換,これをさらに熱に変換することで振動を効率よく吸収しようというのを試みられたようです。結果軽量化という当初の目標も達成出来たわけですね。

 言うが易で,この高分子に低分子を練り込むというのはなかなか難しいでしょう。均一になっている必要もあるし,耐久性や強度もそれなりにないといけない。それにあまりに高コストではダメなわけですし,材料が出来上がっても成型できなければ意味もなく,成型の条件などの試行錯誤もあったことと思います。

 ここに目を付けてオーディオアクセサリにしたのがfo.Qというわけですが,こういう経緯がきちんと分かると,なるほど余計な振動を押さえ込むことは出来そうだなあと感じるわけです。(余計でない振動まで吸収されちゃうんじゃないかと思いますが)

 そういえば,メーカーのFAQには,fo.Qは電気を通しますと書かれていました。導電性の低分子が練り込まれているのですから当然なわけですが,冷静に考えるとこれは静電気がたまりませんね。確かに今回,静電気の発生は全くなく,レコードの帯電も少なかったように思います。なるほど,帯電防止にも有効なわけですね。むしろこれを売りにしたらいいのに。

 ピンとくるのが,カセットテープの防振でしょうね。カセットのハーフに貼り付ける,テープデッキのヘッドや走行系に貼り付ける,カセットのホルダーに貼り付けるなど,なにせカセットデッキは振動の影響が大きい割に,振動だらけです。

 試してみようかと思いましたが,今時カセットのチューニングというのも馬鹿馬鹿しいので,やめときます。

 まあ,思った以上にびっくりしました,というお話です。

EUREKA!

 「魔法の薬」と一部の頭痛持ちに熱狂的に支持されるグランドールですが,すでに備蓄も底をつき,多くの難民が頭痛との闘いの中彷徨い続けています。

 かくいう私もあと数回分しかないグランドールをじっと見つめては,赤と青のキャンディーがいよいよあと1回分となってしまったときのメルモちゃんの心境を察してみたりするわけです。

 そんなことをしていても始まりません。突然私を襲う頭痛で気力と体力を奪われ,一気にダメ人間に墜ちてしまう,そんな理不尽なことに抗する手段を手にしなければこの格差社会を生き残れません。

 私の研究では,グランドールが魔法の薬たるゆえんは,その贅沢な成分にあります。おさらいしておきましょう。1回分です。

アスピリン・・・350mg
アセトアミノフェン・・・215mg
無水カフェイン・・・30mg
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム・・・160mg
重質炭酸マグネシウム・・・160mg

 ミソはアスピリンとアセトアミノフェンの2つが同時に含まれており,かつこれだけの分量があるということで,これだけのものは他になかなか見つからないという話を今年の初めにここにも書きました。

 無論これだけではなく,実は無水カフェインが頭痛を軽くする力を持っていますし,メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと重質炭酸マグネシウムは胃への負担を軽くする薬で,アスピリンのような胃に厳しい薬と組み合わせることで胃の負担を軽くしようという心遣いがまた素晴らしいです。まさに優しさでできていますね。

 それで,先日偶然ですが,これに代わるであろうと思われる頭痛薬を発見しました。「エキセドリンA錠」です。

 その成分はといいますと,

アスピリン・・・500mg
アセトアミノフェン・・・300mg
無水カフェイン・・・120mg

 いやー,強力です。しびれますね。

 アスピリンもアセトアミノフェンもグランドールの実に1.4倍,カフェインに至っては4倍も含まれています。見るからに効きそうです。本当にしびれるかも知れません。

 しかし一方で胃の負担を軽減する薬は一切入っていないという潔いストイックさはどうでしょう。ソレタコ4点フルバケコンロッドバランス取りにポート研磨LSD装備で内張完全撤去って感じのまさにレーシング仕様です(いいすぎです)。

 成分的には間違いなくグランドールを越える物であるとはっきりしましたが,効き目ばかりは試してみるまでわかりません。そこで何度か試してみたところ,私の場合は少なくともグランドールと同じかそれ以上の効き目を示してくれています。

 大体どんな頭痛でも30分以内に痛みが消えます。消え方もほぼ同じで,これは明らかにタイレノールなんかとは別の物。まさにグランドールのそれです。

 胃への負担が心配なところですが,私の場合幸いにも胃は丈夫な方ですので,これもほとんど問題になりませんでした。

 価格については標準的な小売価格が10回分で800円ほどですので,グランドールの12回分で同価格に比べ,2割ほど高いことになりますか。でも成分は1.4倍増しですから,これはもうどっちがお得とかそういう問題ではないです。それに,私がグランドールは私が調達していた薬局ではいつも半額で売られていたので,そもそもその段階で勝負になっていません。

 ここまでに約一箱(10回分ですね)ほど試した結果,そのいずれも期待を裏切ることはなく,ほぼ完全にグランドールを置き換えることが可能であったといってよいでしょう。本当に助かりました。

 ただ,そのエキセドリンも,置いていないお店が結構あるのです。グランドールが「なんですかその薬?」という反応だったのに対し,エキセドリンは「あーそれは置いてないねえ」という反応なので随分ましなのですが,手に入らないことには始まりません。

 どこにでもあるバファリンやイブとは違って,入手性の問題というのは相変わらずで,特にエキセドリンの大箱を見たことは一度もありません。

 とまあいうことで,グランドールでググってみても,グランドールが手に入らず困っている人はそれなりにいるようなので,そんな方にはエキセドリンを試して頂きたいなと思います。ただし,胃にはかなりきついと予想されますので,胃に自信がない方はやめといた方が無難です。胃に自信がある方でも,空腹時は避けて,なにかおなかに入れてから服用することはグランドール以上に考慮されるべきでしょう。

 あと,願わくは,私が死ぬまでエキセドリンが販売され続けてくれること,です。

まさかの復活の噂

 6月で廃業したニノミヤですが,売り尽くしセールも結局行われることはなく,日本橋の店舗のシャッターが開かれることはありませんでした。

 私は大阪に住んでいるわけではないのでこの目で見ているわけではないのですが,情報によると,模型などホビー分野は倒産品(大阪で言うところのバッタもん)としてとある業者に引き取られたようです。事業の継続というわけではなかったようですね。

 下馬評ではむしろ引き取り手が見つからないだろうと思われた電子パーツは,なんと奇跡の復活の噂が流れています。

 ソースがアレなのでどこまで信じていいのか分かりませんが,ニノミヤの電子パーツの小売りと法人営業を担当していた外商部の有志4人が新会社「パーツランド株式会社」を立ち上げたとのこと。

 業務範囲は旧ニノミヤの外商部と同じでパーツの小売り,通信販売,そして法人営業ということです。にわかに信じがたいのは法人営業で,一度倒産した会社の残党が立ち上げた先行きの分からない会社を出入り業者にするなんていうことが,実際にあり得るもんなのかと思ってしまいます。本当なら余程前任者の信用が厚かったか,あるいは逆に今回の立ち上げが取引先からのバックアップによるもの,という話だったりするかも知れないですね。

 ただ,これははっきりしているのですが,旧ニノミヤでもいわゆるこの外商部というのは黒字部門で,極めて堅実なビジネスをやっていました。規模は大きくありませんが安定度は抜群で,それはなにかと手間のかかるパーツ販売を最後まで残したということからもよく分かります。

 パーツランド株式会社はすでに発足しているという話もありますし,小売店舗も今月末に日本橋でオープンという情報も出てきています。

 ただ,無線機がどういう扱いになるかはわかりません。取り扱いはないという話が大勢を占めていますし,今さら積極的に無線機を扱う理由もありませんから,仮に関連商品を扱うことがあったとしても,特定小電力トランシーバとマルチバンドレシーバくらいのものではないでしょうか。

 この話が本当だとして,彼らにそこまでさせた物というのはなんだったのかなあと思います。他に再就職先が見つからなかったからですかね,それとも意地ですかね,あるいは好きだからですかね・・・好きだからであって欲しいですね。

 以前ここにも書きましたが,利用者として,ニノミヤにしかなかったものが結構ありましたし,今にして思えば部品も探しやすく買いやすかったことを覚えています。値段も安めだったこともよかったです。

 それが有志によって復活ということですから,私は個人的に応援したいです。

 彼らがパーツ店の復活を目指して立ち上げたということは,これで一儲けしようとか,大きなお店にしようとか,そういう野心はなかったのではないかと思います。こういう真面目な人たちがあえて苦労を背負い込むことが,報われる世の中になってくれればいいなあとそんな風に思います。

 ガセネタだったらどうしよう・・・

楽器仕込みのRIAAイコライザアンプを試す

  • 2007/07/10 15:21
  • カテゴリー:make:

 とあるところで耳にしたのですが,アナログレコードを聴くために必須となるRIAAイコライザアンプで,K&Rという会社のキットが良い評判のようです。

 このK&Rという会社,オーディオというより,ギターなどのエフェクタのキットで有名なんだそうです。

 あっちの世界(エフェクタの世界)はなかなか道険しい物があるようで,同じJRCのNJM4558でも表面がツルツルのパッケージとザラザラのパッケージでは音が違うとまことしやかに信じられており,その筋ではツルツルパッケージが高値で取引されているとかいないとか。

 音の善し悪しといっても,ピュアオーディオと違って,原音に忠実であることを一応の基準におくわけではなく,積極的に波形をいじる「エフェクタ」での話ですので,そこはもう測定もクソもなく,徹底的に感性の世界であるとしか言えません。

 手作りエフェクタは今でも根強い人気を誇っているようで,30年ほど前から革新的な技術が登場するわけでもなく,ほとんど確立された回路を磨き上げて今日まで続いているということですし,それに音楽を聴くという「受け身」の立場というより,音楽を作るという,より研ぎ澄まされた耳と感性を持つ人がその善し悪しを論ずる世界でもあるので,私個人はずっと好感を持っています。

 そんな世界に独自のこだわりと良心的な価格で評判になっているK&Rさんが,RIAAイコライザアンプを作っているそうです。価格はキットで6800円。うーん,中途半端な値段です。

 汎用OP-AMPを使ったイコライザアンプならキットで6800円はやや高い,かといって部品1つ1つに高級品を使ったディスクリートのものなら安すぎます。どう位置づけたらよいやら難しいところですが,ホームページには回路の特徴だけではなく,きちんと詳細な測定データを掲示してあり,その自信の程がうかがえます。

 RIAA偏差などは極めて優秀ですし,ダイナミックレンジやひずみ率も文句の付けようがありません。

 NE5532とOP07というおなじみのOP-AMPを使ったものではありますが,低域のカーブをNF型で,高域のカーブをCR型で作るというハイブリッド型。確かにCR型を使って仕上げるには回路上のの工夫や実装が難しいですし,NF型は低域と高域の帰還率が違うために特性の差が大きく,高域の歪みっぽさが抜けません。この両方のいいとこ取りをするというのは非常に理にかなっています。

 これにDCサーボをかけて完全DCアンプとしてあります。スペックも周波数特性が10~100kHz,RIAA偏差が±0.15dB(20~20kHz),SN比が84dB,歪率が0.0028% (1KHz 5mVrms)と,大変に現代的で立派なものです。

 私もこれまでに,とりあえず補正できますよ程度のものから,現在使っているディスクリートのものまでいくつかイコライザアンプを作ってきましたが,数値的にこれだけ優れた物を作ってきたことはなく,一度試してみようと思いました。価格も6800円ですからね,自分で部品を集めて基板を作ると,こんな値段では作れません。

 早速注文すると定形外郵便で数日後に届きました。代金は同封の振り込み用紙で行えばよいと言うことで,後払いなんですね。個人に近い形でやってらっしゃるはずなのに,前払いではないなんてきっと大変だろうなと思ったりします。

 部品を見てみると,実はかなり厳選されていることに驚きました。抵抗がすべて金皮であることはまあよいとして,温度特性がきちんと管理されているんですね。オーディオ雑誌などで多くの製作記事を見ますが,温度特性をきちんと管理している記事はほとんど目にしません。

 特にRIAAイコライザのカーブを決定する抵抗の精度と温度特性は0.1%・±15ppm/℃となっていて,個人レベルでは入手さえも難しいのではないかと思われる物を使っています。

 コンデンサもフィルムコンデンサを中心に組み立てられており,カーブ決定用のコンデンサは1%誤差のものです。これだって入手は簡単ではありません。

 電源に入る電解コンデンサも音響用のものを使っています。私などこんな高級な電解コンデンサだったら信号電流を流して使いますよ。もったいない。

 基板もFP-4に金メッキ,片面ですが分厚く機械的にもしっかりしています。パターンも綺麗で申し分ありません。

 これが6800円か・・・できるもんだなあと感心しました。

 例えば,これがよくあるピュアオーディオのキットだったら,やれ抵抗はDALEのなんだとか,やれコンデンサはスプラーグのなんちゃらだとか,配線材はベルデンのなにやらシリーズだとか,そういう「ブランド」が先行してお値段29800円とかになるんでしょうが,このイコライザアンプは部品のブランドよりその素質を重視し,お金をかけるところとかけないところをきちんと分けて,極めて合理的に作ってあります。これは設計者の良心でしょう。大いに共感します。

 キットですが,部品点数も少ないのでサクサクと1時間ほどで完成してしまいます。小学生の時に初めて作ったキットのように,純粋に楽しいと思う作業を済ませたところで,ケースや電源回路用の部品を秋葉原で調達します。

 ケースはタカチのUC12でこれまで使っているイコライザアンプと同じ物です。電源回路はDC±9V~±15Vで20mA以上というスペックが必要ですが,面倒なので12Vの三端子レギュレータで済ませます。三端子レギュレータを嫌う人もいますが,ではその人がどんな電源回路を作っているかというと,ディスクリートでシリーズレギュレータを作ってあるだけだったりして,世の中どうなってるのかと思います。シャントレギュレータあたりを作ってあったりすると説得力もあるというものなんですが・・・

 トランスは手持ちの物を使いますが,実はちょっとケースが小さすぎて収まらなかったため,今使っているイコライザアンプに入れたクリスキットのRコアトランスを外して使います。外されたイコライザアンプには,今回使う予定だったものを入れておきます。

 電源回路は慣れたもので,特に回路図を書かなくてもさっさと作れてしまうほど簡単な物です。電圧は固定ですので調整も必要ありません。ただし,GNDだけはしっかり取っておきます。

 全体のレイアウトを検討しますが,今回はかなり窮屈なケースに押し込みますので,トランスや交流電源からの誘導によるハムがとても心配です。基板との距離を出来るだけ離すことはもちろんですし,小信号のラインは可能な限り短く,また誘導を避けるように引き回します。Rコアのトランスを使えたことも漏洩磁束対策としてはいい方向に向かうと思います。

 決まったら引き続きケースの穴あけを行いますが,これが楽しいやらしんどいやら面倒やらで,結局半日つぶれてしまいます。ACインレット用の角穴がいつも面倒なのですが,これだけでもシャシーパンチがないものかと,いつもいつも思います。

 今回は塗装はしません(もともとヘアラインにアルマイト処理ですので塗装などしても無駄です)から,このまま組み立てに入ります。

 ちょっとした配線ミスなどがあったりしましたが,組み立てと配線を終えて,確認作業です。電源電圧は問題なし,出力オフセット電圧の測定と調整も終わって,いきなりですが音を出してみましょう。

 まず無音です。びっくりしたのはノイズの少なさ。壊れているのかと思いました。また心配していたハムもほとんど出てきません。助かりました。

 ここまで来たらレコードを実際に再生してみたくなるのが,これ人情というもの。DL103を昇圧トランスにつなぎ,さらにイコライザアンプをつなぎます。

 音を出して一発目の印象は,何とも現代的な,きらびやかな音だろうということでした。シンバルやハイハットのシャリシャリが心地よく,きちんと定位します。ボーカルはすーっと頭のてっぺんから抜けて行く伸びやかさがありますし,1つ1つの楽器が見えるように鮮明です。

 CD的といえばよいでしょうか,ほんとにクリアな音がします。

 いや,気のせいかも知れない,そう思ってこれまでのイコライザアンプ(シェルターのmodel216のデッドコピーです,すみません)に戻してみましたが,こちらはやはり以前の音です。頭の上にフタをされたような抑圧感がある一方で,ボーカルはぴくりともせず中央で艶を放っています。まさに肉声といってよいその存在感は,私がこれまでアナログレコードに求めてきたものです。

 金属音は一気に奥に引っ込み,シンバルもハイハットも妙に耳障りになってしまいます。全体的に華がなくなり,小さなライブハウスを彷彿とさせる音は,善し悪しではなくもはや個性だろうと思います。

 もう一度今回のイコライザアンプに戻します。やはりクリアですね。ボーカルの艶はなくなりますが,その代わり伸びが加わります。スケールの大きさも出てきますので,ジャズよりクラシックなどの方が向いているのかも知れません。

 同様に,MCであるDL103とMMであるV15typeVxMRとで比べて見ましたが,今回のものはその差が出にくい感じです。MMとMCの個性の差を埋めるというか,どちらもとてもクリアに聴かせるので,私がMMに求めている中音域のエネルギー感は薄くなります。

 以前のイコライザアンプはMCカートリッジの繊細さを殺してしまう代わりに中音域のパワーをたくましく前に出してくれるので,V15typeVxMRでジャズやロックを聴くとその躍動感に心ふるえるものがありました。

 情報量は今回のイコライザアンプが圧勝です。特性も大変素晴らしく,文句の付けようがありませんが,前回のイコライザアンプのような個性がなく,それが良い場合と悪い場合に作用することは覚悟しておく必要があるかも知れません。

 ロックやジャスの鑑賞には以前のものを,保存版の録音やクラシックには今回のものを使うという使い分けになりそうです。

 実は,DL103というカートリッジの良さがこれまでよく分からなかったのです。日本の標準機であることは知っていますし,今なお根強いファンがいることも分かっていますが,どう考えても丸針で設計の古いカートリッジが現代に通用するはずはないと思いこんでいたのです。

 しかし,今回のイコライザアンプと組み合わせてみて,本当の力というのはこれなんだなと思うようになりました。何も引かず何も足さない,これがこのイコライザアンプの個性であり,それがDL103の方向性と一致するわけですから,これほどストレートに情報を拾い上げてくれる組み合わせもないでしょう。結果はその通りになっています。

 全部で1万円かかっていませんし,時間も手間もかかっていませんが,これは非常にいいものを手に入れることが出来ました。ますますもってアナログレコードが楽しくなってきます。

 うちはとりあえず,DL103とV15typeVxMRでいいです。それ以外は気分で使うことにします。

 いつも思うのですが,アナログのオーディオの世界は,一仕事終えると「ここまできたなあ」と感慨深くなることが多いです。お金をかけて一流品を揃えればことを,わざわざ遠回りして苦労しているだけの話で見る人が見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ないのですが,それでもまだまだ中学生の時にその音に感激した叔父のシステムの足下にも及ばない現状に,またため息をつくのです。

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