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Walkmanの修理~その5~WM-FX70編

 これまでいくつかのWalkmanのレストアに取り組んできましたが,今回で一応一区切り,WM-FX70にとりかかります。

 WM-FX70は当時ちょっと欲しいなと思ったモデルでした。私がその当時新品で購入したのがWM-EX60で,これはWM-EX70の兄弟モデルでした。そしてWM-EX70のラジオ付きモデルが,このWM-FX70です。

 当時の私はFMラジオが大好きで,時間があればFMを楽しんで聞いていました。どんな音楽が流行っているのかを知るだけではなく,実際にその音楽を聴いて気に入れば買ってみると言ったカタログ的な要素が,私にとてもあっていたのだと思います。

 もちろん,流行していなくても初めて耳にする音楽との出会いもありましたし,FM放送でしか聴く事の出来ないスタジオライブなどは,その録音を今でも楽しく聞くことが出来ます。

 うちにはもともとHi-Fiなオーディオ機器などありませんでした。FMだってモノラルの安いラジカセがあるくらいで,ちょっと音がいいくらいのラジオでしかなかったのですが,父が借りてきたステレオでFMを受信できるラジカセ(なんと8トラック)で初めて「立体音響」を体験して感動したことから,私のオーディオはスタートしました。

 買ったものよりただで聞ける放送がいい音のはずがない,などという思い込みもあり,内心馬鹿にしていたFMラジオでしたが,実はちょっとやそっとじゃ手に入らないような最高の機材を使って高音質の音を放送していることを知るにつけ,FM放送への信頼がますます強まっていったのでした。

 だから,初歩のラジオに掲載されていたFMステレオラジオ(TDA7000とTA7343でした)は作ったものを持ち歩いて使っていたくらいでしたし,後年FMチューナーを買うときも良いものを買おうとF-757を買ったりしました。

 外にカセットテープの音楽を高音質で持ち出せるようになると,同時にFMラジオもと思うのは自然の流れですが,2万円も高いラジオ付きは買えないなと断念した記憶があります。というより,いくら高音質とは言え,据え置きのオーディオの音質や信頼性を知っていた身としては,中途半端な性能のものにプラス2万円は出せないと考えていたのが大きいでしょう。

 てなわけで,WM-EX60を買い直すことと,当時欲しかったラジオ付きを手に入れることの両方を実現するのが,WM-FX70のレストアなのです。

 ですがこのWM-FX70,はっきりいって難航しました。まずメカ。最初に手に入れたWM-FX70は液漏れが少しだけありましたがキャプスタンもほとんど錆びておらず,走行系は簡単に復活出来ると思っていました。

 ところが清掃と注油とベルト交換ではテープが走ってくれません。ピンチローラーが劣化していたので少し削りましたが効果はなく,仕方がないので新品に交換しようとするもぴったりなサイズはなく,直径が同じで厚みが0.5mmだけ分厚いものを削ることにしましたが,今度はテープがガイドを乗り越えて走ってしまい,テープをボロボロにしてしまいます。

 それもフォワードの時だけの走行不良という事で,ピンチローラーを左右入れ換えたりしましたが解決しませんでした。キャプスタンを磨いたり,最後の手段としてメカ全体の歪みを疑い,歪みを取ろうと頑張っていましたが,ピンチローラーを取り付けるピンが根元から曲がってしまい,ここで詰んでしまいました。

 ラジオが生きていただけに残念だったのと,WM-EX70や60,FX70のメカは結構デリケート(キャプスタンも他より細いしピンチローラーも小さいです)だと思い知りました。

 同じ物をもう1つ落札(こっちは1000円未満)して再チャレンジをしたのですが,この個体は電池の液漏れこそなかったものの,キャプスタンは真っ赤にさび付いていますし,再生状態で放置されていたのでピンチローラーはハート型に変形していました。

 メカとしてはこちらの方が明らかに程度が悪いのですが,これをベースに闘うしか手は残っていません。分解と清掃,注油を丁寧に行って軽く回るようにしたところで,キャプスタンを取り外して磨きます。

 このキャプスタンは両方とも真っ赤に錆びていて固着していた程でしたから,まず最初にアルコールで余計な錆を取り除き,この後紙やすりで慎重に磨いてデコボコをなくしていきます。

 削りすぎるとキャプスタンの径が変わってしまいテープ速度に影響が出ますからそこは慎重に行うのですが,これでいいかと思ったところで組み立ててベルトをかけ,試しにテープを再生してみます。

 すると,とりあえずフォワードもリバースもテープが走ってくれます。ただ,ピンチローラーを軽く押し当てないとテープが止まってしまいます。

 試行錯誤の結果,どうも新品のピンチローラーが柔らかすぎて,キャプスタンに押し当てられたときに変形して,ピンチローラーのケースを擦ってしまうようでした。

 そうなるとピンチローラーをもう少し削る必要がありますが,これがまた難しい。あまり削りすぎると押圧が足りなくなり,テープが走らなくなります。それに均等に削るのはなかなか出来るものではありません。

 少しずつ削っていきますが,なかなか上手くいきません。そしていよいよ擦らなくなるところまで削ったのですが,それでもテープが安定せず,ギリギリ走行している感じなのです。

 そこでふと閃きました。これはテープがスリップしているせいかもしれない。だとすればスリップしないように,キャプスタンに傷を付けてみようと,400番の紙やすりで傷を付けました。

 しかし,あまり変化はありません。ここでもう一度発想を切り替えて,今度は回転方向に付けるのではなく,回転方向とは垂直に傷を付けることにしました。

 すると嘘のようにテープが安定して走ってくれました。ワウフラッタもかなり小さく押さえられています。

 とはいえ,あまり強くピンチローラーを押しつけるとワウフラッタが増えるので,0.2mmのプラ板をヒンジの部分に貼り付けて,テープが本体に強く押しつけられないようにしました。これで一応スムーズになったということで,速度調整まで行ってカセットテープのメカについてはレストア終了。

 次にラジオ部分です。ラジオはメカがないので調整など必要ないと思われがちですが,高周波の回路はなにせコイルやトランスといったアナログ部品が多用されていて,それぞれ最適な状態に調整されて出荷されます。

 調整箇所は複数ありますし,コイルは経年変化による調整点のずれも大きい部品なので,本来の性能を出そうと思ったら5年に一度くらいは調整をやり直さないとダメだと思います。

 一応現状でもAM/FM共に受信していますが,FMはスキャン時に100Hzほどずれるようですし,AMもあまりよい感じではありません。ここは調整でビシッといきましょう。

 なお,ラジオの調整について記述されたサービスマニュアルは入手できなかったので,回路図や使っているICから推測して行っているところもあります。正しい方法かどうかはわかりませんので,ご注意ください。

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(1)まずバリキャップの電圧を調整します。ラジオ基板に「VT」と書かれたランドがありますので,こことGNDの間に電圧計をいれて,AMでは531KHzに設定して電圧が1.0VになるようT2を,FMでは87.5MHzに設定して電圧が3.4VになるようL4を調整します。

(2)AMのトラッキングを調整します。SGを400Hz,30%変調で出力し,なにか適当なコイルに入力します。コイルはAMの受信コイルとしてつかえるものなら最高ですし,ない場合でもそこら辺に転がっているコイルでよいと思います。

(3)SGを1395kHzにし,先程のコイルをバーアンテナ(L8)に近づけて結合させ,ヘッドフォン出力に電圧計を繋ぎます。1395kHzを受信して出力(400Hzが出ているはずです)が最大になるように,CT3を調整します。

(4)本来だと621kHzで出力が最大になるよう,バーアンテナのコイルの位置を左右に動かす作業をしないといけないのですが,バーアンテナのコイルはパラフィンで固定されていますので,ここはこのままとします。

(5)次にAMのIF調整です。ちょうど中間の周波数である999HzにSGをセット,ラジオも999kHzに設定して受信出来たら,出力が最大になるようにT1を調整します。これでAMラジオの調整は終わりです。

(6)続けてFMのトラッキングの調整です。SGを400Hz,22.5kHzのデビエーションで変調し,出力を80dbにして基板のアンテナ入力に繋ぎます。SGの周波数を76MHzにしラジオで受信し,その出力が最大になるようにL3を調整マス。

(7)次にSGを90MHzに設定し,ラジオも90MHzに設定して受信出来たら,出力が最大になるようにCT2を調整します。

(8)これを何回か繰り返して76MHzも90MHzも最大になるように調整します。

(9)次にFMのIFと検波の調整です。SGを83MHzに設定,ラジオもこの周波数を受信しておきます。そしてその出力が最大になるようにT4とT?交互に調整します。

(10)最後にステレオ復調のVCO調整です。先程の83MHzが受信出来ている状態で,IC2の14ピンに周波数カウンタを繋いで,19kHzちょうどになるよう,RV1を調整します。


 これで終了です。なお,今回調整しなかったL1,L2,CT1はTV(4ch - 12ch)の受信使われるものです。これらの電波が停波している現状では,もう二度と使われる事はないと思いますので,なにもいじらず放置しておきましょう。

 この調整によってFMラジオのスキャンは正常に動作するようになりましたし,感度も上がっているように思います。一方のAMラジオは相変わらずですが,まあAMですのでよいとします。

 しばらくラジオを聞いていましたが,やっぱりラジオは面白いものです。ケースを組み立て直して完成しました。

 残念だったのは,この後再度テープをかけたところ,ワウフラッタが大きくなっていたことです。なにが原因なのかはわかりませんが,ここであきらめずに試行錯誤に入り,結局壊してしまうことも多いので,余程の事がない限りこれでいこうと思います。


 ということで,ラジオがついたWalkmanは厚みがあり,しかもカセットの走行状態が見えないと言うことあり,価格のこともあって当時としても中心的なモデルだったとは言えないと思います。

 しかし,オマケ扱いではない本気のPLLシンセサイザーチューナーをこの大きさで実現し,Walkmanにくっつけたというのは技術的にも面白いものといえて,これでカセットが完璧だったらと,悔やまれてなりません。


 あらためて出来上がったWalkmanを並べて,実際に再生して程度を比べて見ました。一番良いのはWM-EX666で,ほぼ同じ程度でRQ-SX11。RQ-SX11の方が音質は好みですから,こちらを常用してもいいかなと思います。

 そしてテープが安定しないのはWM-FX70とRQ-SX35です。WM-FX70はいろいろいじった結果ですので仕方がないとしても,RQ-SX35はワウフラッタも大きく,フォワードのトルクが小さすぎてリーダーテープを越えられませんし,しかもフォワードとリバースでテープスピードが大幅に違っています。

 これがなんとか解決すれば,すでに傷だらけですから,躊躇なく常用出来るのですが・・・

 

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