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2019年06月の記事は以下のとおりです。

instax mini LiPlayはチェキの正常進化版なのか

  • 2019/06/26 13:00
  • カテゴリー:散財

 7,8年ほど前に,正月の福袋に「チェキ」が入っていたことがありました。数千円で買える最も安いチェキの,当時の型落ち品でした。

 デジタルカメラが大きく進歩しているときで,フィルムが少しずつ店頭から消え,どこでも出来た現像が出来なくなっていき,まず真っ先にインスタント写真など消えてなくなるだろうと,そう信じて疑わなかった時代です。

 1枚1枚,じーっという音と共に紙切れが吐き出され,しばらくすると画像が浮かび上がってくるという神秘性に,面白いなあと思った事は私にもありましたが,実用性を考えても,画質を考えても,そしてコストを考えても,どうしても肯定的な気分にはなりません。

 やがて子供が生まれ,彼女が私の写真を撮っている姿を真似するようになると,一眼レフは当然として,簡単操作が売りのコンパクトデジタルカメラでさえも,子供ににとって難しい事がわかってきました。

 操作が難しいのではありません。操作によって結果がどう変わるかを,とにかくたくさん「暗記」しなければならないのです。

 電源をいれ,シャッターボタンを半分押せばAFが作動し,画面の真ん中の四角が緑色ならピントが合っていて,赤ならピントが合っていない,そこからさらに押し込めばシャッターが切れる。

 たったこれだけの事,誰にもわかると思うでしょう。

 しかし,

 シャッターボタンってなんだ?
 半押しってどのくらい押すことだ?
 ピントってなんだ?AFってなんだ?
 真ん中の四角ってなんだ?
 ピントが合うってなんだ?
 シャッターってなんだ?切れるもの?

 我々は,ある程度の基礎的知識をベースにあらゆるものを使っています。ものを作る人も,そういう基礎的知識のある人を対象にして作っていますし,そうしないととてもものを完成できません。

 でも,結局,ここでやりたいことは単純に,目の前の光景を紙に印刷したい,それだけなのです。

 その上,この難しい操作のあとには,本当の地獄が待っています。

 SDカードを取り出し,PCに転送,プリンタをUSBでつなぎ,印刷用の紙をプリンタに入れて,印刷用ソフトを立ち上げ,印刷する。おっと,インク切れ?筋が入るけどどうしたらいい?

 もうくどくど書きません。

 繰り返しますが,やりたいことは目の前の光景を紙に印刷したいだけです。

 こんなの屁理屈だ,現実的にこんなに説明しないといけない人などいない,と私も思っていました。しかし,いるんですね。

 そう,子供です。

 子供だから知らないわからない,のではありません。その人にとって,初めての事だからわからないのです。子供は初めての事がほとんどです。だから子供はなめられますが,大人だって初めての事には右往左往するでしょう。

 しかし,子供も,自分がやりたいことははっきりしています。目の前の光景を紙に印刷したいのです。

 私は,小さなデジカメを子供に渡し,せめてデータとして目の前の光景を取りこむところまではやってもらおうと頑張りましたが,何もしらない,すべてが初めての子供には,説明不能である事を思い知り,そこに立ち尽くしてしまいます。

 無理だ,子供には無理だ。

 しかし,私の前に一条の光が差し込みます。

 チェキです。

 レンズを引っ張れば電源が入ることで,電源とは,の説明が不要。
 パンフォーカスなのでAFもピントの説明も不要。
 シャッターボタンに半押しがないので,半押しの説明が不要。
 カメラを相手に向けて「唯一の」ボタンを押せば,紙が出てきて画が出てくる。
 電池が数年間もつ。交換したことなどない。

 すごい,すごすぎます。

 もう一度繰り返しますが,やりたいことは,目の前の光景を紙に印刷することです。デジカメだととても印刷までたどり着けないのに,チェキならあっという間に,自分のしたいことにたどり着きます。

 私は,感激しました。チェキが大好きになりました。

 そして,子供に,チェキをどんどん使わせました。

 低画質? 出力サイズが決まっているのに画質云々なんか関係ない。
 高コスト? これだけ簡単なのは,難しい処理がフィルム側に入っているから。

 そして,このシンプルな「ボタンを1つ押せば紙にその光景が印刷される」ことを実現する仕組みを作ることは,案外難しい事にも気が付きます。そして最も簡単な仕組みこそが,インスタント写真技術です。

 感光,現像,定着,色の調整など,難しい事はすべてフィルム側が担います。だからユーザーは難しい事はなにも考える必要はありません。一方で,ユーザーが調整を行う余地はありません。
 
 そんなわけで,私は子供に,写真を撮影することも面白さ,ひいてはその本質である「なにをどう撮るのか」に興味を持ってもらうことにしました。そう,デジタルカメラは,写真の本質を経験し楽しむために,越えなければならない壁が多すぎるのです。

 果たして,チェキは,子供のカメラになりました。やがて,名刺サイズの印画紙があちこちに山積みになりました。

 もったいないからなんでもかんでも撮るなよ,という言葉は,チェキを与えた大人が発してはいけない言葉とわかっています。しかし,私の現実の経済状態が,この言葉をどうしても口から出るのです。

 そんなある日,ハイブリッド型のチェキが登場したというニュースが耳に入ってきます。曰く,デジタルカメラとチェキへのプリンタを一体化したものだそうです。

 私の最初の印象は「賢い人がウンウンいって考えた結果閃いた,1周回って元のところに戻ってきたアイデア」です。直接光を当てて感光させればいいようにせっかく作ってある印画紙を,なぜわざわざデジタルで撮影し,このデータを元に印刷をせねばならないのか・・・

 どうも,印画紙をデジタルで感光させたら面白そうだという思いつきから,そのメリットを後付けで考えて商品化を押し通したように見えて,それはチェキのあるべき姿ではないと思えたのです。

 この考えは今でも変わりません。しかし,現実的な問題として,デジタル写真を印刷することを考えた場合に,本体のプリンタ機構を簡単にするには,やはり紙の側に色を出す仕組みを入れるしかなく,そしてそれは今のチェキの印画紙が最適であるという事実があります。

 この時登場したハイブリッド型のチェキは,スクエアフォーマットの大型のものでした。我々が一般にチェキと呼んでいる名刺サイズのInstax miniというフォーマットではありません。

 そして先日,いよいよこの名刺サイズのフォーマットでハイブリッド型が登場しました。それがinstax mini LiPlayです。

 チェキの面白さがわかってきた私としては,フジが作るんだから印画紙の画質はもっと高いに違いない,チェキの画質が悪いのはきっと光学系がプアだからだと思っていました。事実,子供の使っていた廉価なチェキは,プラレンズです。

 真面目な光学系のチェキはどうも売っていないようで,もったいないなあと思っていた所にこのハイブリッド型の登場です。ここで初めてハイブリッド型への期待を私は持つに至ったのでした。

 instax mini LiPlayは,ハイブリッド型にしたことによる明確なメリットがあります。1つは本体が小さくなったこと。チェキは印画紙に直接露光しますので,投影面はずばりあの印画紙のサイズを持っていますから,当然光学系は大きくなります。(一方で精度はゆるくなるので,安く作る事ができるはず)

 しかし,一度デジタルにするなら,光学系は小型に出来ます。小さいCMOSセンサ(instax mini LiPlayは1/5インチです)にオートフォーカス機構やレンズなどの光学系を1つにまとめたカメラモジュールが携帯電話やスマートホン用に安く用意されているので,これを使えば小さく出来ます。

 AFのように,レンズを動かす機構が入れば,マクロモードを入れることも簡単です。つまり寄れるチェキが誕生します。

 子供が失敗する撮影の多くは,近寄りすぎでした。そりゃそうです,子供は近づいて今見ているものを撮影したいのですから。

 パンフォーカスのチェキでは60cm程度が限界で,それでは子供が手のひらに載せるような大きさのものでも,豆粒のような大きさでしか撮影出来ません。

 まして,素通しのファインダーしかないチェキで,撮影結果を正確に予想するなど難易度が高すぎます。近寄るとぼけてしまう,近寄るとファインダーの位置から被写体がズレてくる(パララックス)ということは,子供には窮屈な制約です。

 instax mini LiPlayは,寄れることがとても大きなメリットだと思います。

 プリンタ機構はすでにフジが選考して商品化しているので,得に問題になりません。極論すれば,instax mini LiPlayとはこのプリンタのどこかに,カメラモジュールを押し込んでしまえば完成するような商品です。

 消費電力が増大するので乾電池ではどのみち無理で,そうすると小型の充電池を内蔵することになります。そうするとさらに小さく出来ます。

 そしてそのプリンタについても,小型化が可能です。印画紙とカートリッジのサイズが決まっているので面積は小さく出来ないかも知れませんが,光学系に奥行きが必要な従来のチェキに比べ,有機ELで出来た印刷ヘッドを密着させて印刷するプリンタは,薄く作る事が可能です。

 小さいカメラと薄いプリンタを電線で繋いで,1つの箱に入れたものが,このinstax mini LiPlayというわけです。

 一度デジタルになってしまえば,何でもありです。ストレージに蓄え,失敗写真を印刷せずに済むのは当然として,フレームを追加したり画像を加工したりすることは,誰でも思いつくことでしょう。

 カメラの画像をPCやスマホに転送することも出来るし,PCやスマホの画像を印刷することも可能になります。

 これだけでは足りないと感じたフジは,音声をクラウドに置き,ここへのアドレスをQRコードで印刷することで,短い音声を写真に取り込む事にしました。これも新しい機能でしょう。

 それで,価格はプリンタ単体よりもちょっと安いくらいです。カメラの値段はもう無料みたいなものです。しかしその分,全体的な安物感は拭えなくなってしまいました。

 しかし,このチェキには,スマホプリンタとしての機能に加えて,高画質化というカメラにとっての本質的な改良と,ランニングコストの大半を占める印画紙の無駄な消費を抑えるというコストダウンを期待出来る製品と,私の目には映りました。

 チェキが我々家族の標準ツールとなっている現状から鑑みて,これは買うしかありません。

 予約して発売日に届いたinstax mini LiPlayですが,インプレッションを簡単に書きます。


(1)質感

 歴代最小とまで謳っている本体の大きさは,手に取ってみると想像以上の大きさに面食らいます。もっと小さく,もっと凝縮感のあるものを期待しただけに,叩くと「カンカン」と無粋な音を発する筐体に,まず最初に幻滅しました。

 実際に大きいという事もそうですが,多用された曲面とデザインの妙技によって小さく見えているはずですから,実際には見えている以上に大きいはずです。事実,大きさから来る持ちにくさまでは,隠し切れていません。

 プラスチッキーで,ああこれはやっぱりチェキ一族なんだなあと思うのですが,これだけ設計に無理をしていなければ,落としたりぶつけたりしても,壊れることなどないんじゃないかと思います。


(2)画質

 注目点である画質ですが,これもちょっと期待外れでした。本体で撮影,本体で印刷してみると,銀塩のチェキとそっくりの画質で印刷されます。

 スマホから印刷してみましたが,これもまあチェキで撮影したかのような見事な画像処理です。色合いといいコントラストといい白飛びの具合といい,チェキの雰囲気をこれほど残せるものかと感心しました。

 カメラのは500万画素と10年前の携帯電話並み,一方の印刷は312dpiで階調ありですのでかなり高画質なはずですが,カメラの画像はそれなりに綺麗でも,印刷するとチェキになります。
 
 原因が印画紙の性能によるものなのか,それとも画像処理でわざと銀塩のチェキと同じ程度の画質を落として印刷しているのかわかりません。しかし,フィルターによって画質がそれなりに変化していることを考えると,印画紙の性能の限界によって画質が低下しているとはちょっと言い切れないように思います。


(3)使い勝手

 使い勝手は悪いです。まず説明書が不親切で,手に取ってもオロオロするだけです。

 設定の一部はスマホのアプリからしか出来なくなっていますが,それがどの機能なのかは説明書には書かれていませんので,試行錯誤が必要です。

 また,広くハイブリッド型を標榜する製品の宿命である,それぞれの機能の切り替えですが,このカメラについては画像の再生と印刷に独立したボタンはあるのに,撮影モードに移行するボタンがシャッターボタンと兼用になっています。私はこれがなかなか理解出来ず,カメラモードへは電源投入時にしか入れないものだと思って,いちいち電源を切っていたくらいです。

 LCDの画質も悪く,解像度も足りなければ発色もコントラストも悪いです。なにより,視野角の狭さには閉口もので,少し横から見ると色が派手に転びます。娘は,こういう機能だと思っていたほどです。

 UIとしても,ボタンへの機能割り当てが直感的ではなく,暗記しないといけないものが散見されます。悪いことにグローバルモデルゆえボタンに付いているのはアイコンで,そのアイコンもわかりにくいものです。

 私自身が操作方法を習得するのに30分ほどかかりましたが,これを娘に教えるのにとても苦労しました。

 もう1つ,許せないのが通信についてです。

 プリンタとして使う時にはスマホとBluetoothで繋ぎます。しかし,同時にペアリングしておける台数が1台に限られているのです。

 複数のスマホと共有出来ず,一々ペアリングを削除しなければなりません。プリンタだけではなく,スマホの設定からも削除が必要なので,とても面倒です。

 スマホやタブレットは一人一台です。家族で共有出来ないと不便で仕方がありません。

 セキュリティ面が理由ではないかと考えましたが,スマホから可能な操作が少ないこともあり,複数のスマホのペアリング情報を残しておくことは難しくないはずです。

 もっとも,設定がスマホのアプリから行う現在の仕組みは,本体の設定状態とアプリの設定の記録とを同期させねばなりません。Aさんが設定したあとBさんが設定をいじり,またAさんに戻ってきたとき,Aさんのスマホに残っている設定状態との食い違いをどこで同期させるのか,真面目に考えないと破綻しそうです。

 個人的には,接続したスマホごとに設定を切り替えるのが良さそうですが,それだとスタンドアロンで使う時にどの設定で使うのかという問題が残ります。ということは,やっぱりスマホのアプリで設定をさせるという現在の仕様そのものに無理があったという事になるでしょう。

 もう1つ,せっかく低画素なカメラなのに,画像をPCなりスマホに転送する方法がないのです。マイクロSDで持ってくればいいのですが,なぜBluetoothで転送できるようにしなかったのでしょうか?これも疑問が残る,不便な仕様の1つです。


(4)面白さ

 実のところ,一度デジタルを経由するかどうかは,紙の写真をすぐに手に入れたいという目的に対して,どうでもいい些末な事なのかも知れません。撮影し,選んで,印刷を行うと,いつものチェキの写真が出てくるという事に,ややこしい背景は関係がありません。

 撮影は手軽に,しかし印刷はよく考えてということで,撮影と印刷が同時に起こるかつてのチェキに比べて,悩む「壁」の場所と大きさが再調整されたものと考える事ができるでしょう。

 そして,撮影と印刷の2点間には,フレームの追加とフィルタによる加工というデジタルならではの遊びがはいります。

 娘はこの2つが面白いらしく,私としてはここをもっと強化するして欲しいなあと思いました。


(5)電池寿命

 電池がすぐ切れます。娘もびっくりしていました。

 充電がUSBからになったことはよいのですが,3時間ほど充電にかかってしまい,その間は使えなくなるのに,簡単に電池が切れてしまいます。

 LCDの輝度を落とすとか,LCDをOFFにするとか,そういう低消費電力化の設定があるかと思いましたがありません。

 原理的なものは仕方がないとして,以前のチェキが,いつ電池を交換したかを忘れてしまうくらい電池が切れなかったことを考えると,今回のモデルはあまりに電池寿命が短すぎるように思います。


(6)全体として

 これはなんとも難しいカメラです。歴代最小のチェキとみるか,スマホの周辺機器とみるか,安い低画質デジカメとみるか,画像を加工できるチェキとみるか,見方によって評価は変わると思います。

 個人的には,画質と質感,大きさと電池寿命で大きく期待から外れてしまった感は否めず,それがこのカメラの魅力を半減させているのですが,嬉々として使っている娘を見ていると,そんなものはどうでもいいのかも知れない,とそんな風にも思えてきました。

 私が残念だと思った点は,おそらく次のモデルの改良点として必ず検討されることだとは思いますが,小型軽量は別にして,高画質化が果たしてチェキのユーザーの望むことかといわれれば,それは違うような気もします。

 オモチャと割り切るにはちょっと高価ですし,スマホのカメラにも画質で負けているので,カメラ代わりにはなり得ません。

 かといって半額の光学式チェキとそんなに出来る事も違ってこないわけで,私の中では,これは結局,賢い人がウンウン唸って1周回って原点に戻ってきたチェキだということに,なってしまいました。

 楽しいのは事実です。子供も面白がって毎日使っています。これが来てから家族で遊ぶことが増えました。

 ただ,それはきっとチェキの面白さが根本にあると思うので,安いチェキとよく比べて選んで欲しいなあと思います。

 夏休みが間近に控えています。チェキを自分の道具にした私の子供が,この夏をどんなふうに切り取って残すのか,楽しみです。

 

F2の分解清掃で小ネタ2つ

 完全な機械式カメラであるF2フォトミックがまともに動き出して,あとはフィルムでの試写を行うのみとなったのですが,その後の小ネタを2つほど。

(1)ファインダーアイピースバラバラ事件

 さすがに50年も経過すると,プラスチックは分解し,柔らかくなったり欠けたりします。ひびが入ってボロボロと崩れていくこともしばしばです。

 プラスチックは安いし,自由な形に成型できるし,強いし美しいし,色も選べるということで,今やこれなくしていかなる工業製品も成り立たないのですが,問題の1つは経年変化に弱いことがあると思います。

 実際,金属で作られた大昔のカメラは修理可能でも,プラスチックを多用した比較的新しいカメラは修理出来ないことがごく普通に起こっています。

 ニコンFもF2も機械式カメラであり,壊れても修理可能だといわれていますが,プラスチック部分については例外で,ここが壊れてしまうと別の方法を使って修理するしか方法がなかったりします。F2の電池ケースの割れは,もはや定番の故障です。

 で,私のF2もようやくにしてボディとファインダーが組み上がって,暫定的に露出計の調整も終わって一息つき,改めて眺めていると,アイピースがねじ込まれる部分のプラスチックにひびが入っているのを見つけました。

 これはまずい。今のうちに手を打たないとえらいことになります。

 急いでアイピースを取り外し,周辺の張り皮を剥がします。2本のネジが出てきますが,これを緩めて,接眼レンズがくっついているこのブロックを取り外します。

 よく見てみると,上と下にそれぞれひびが入っていて,上のひびはもう少しで完全に破断しそうなほど長く伸びています。

 更によく見ると,ビスの穴から横方向にひびが入っていて,もうボロボロと壊れてしまいそうです。

 プラスチックには接着剤なのですが,ここは最強の接着法である「溶着」を使います。アクリル用接着剤を隙間に流し込み,ぐっと押しつけておくと,接着面が溶けてくっつきます。くっついてしまえば元のように一体化するので,割れてしまったことすらなかったように,元の強度が戻ります。接着の強さは,力を加えてねじったら,接着部分ではなく他の部分が壊れてしまうほどです。

 ただし,寸法がちょっと変わってしまいます。溶けるのですから当然です。

 それと,接着剤とはいいつつ,揮発性の有機溶剤ですので,乾いてしまうのはすぐです。しかし,溶けたプラスチックが固着し,元の強度を発揮するには最低一晩放置しなくてはいけません。1時間や2時間程度で力を加えると簡単に剥がれてしまいます。

 ということで,完全で破断すると位置合わせも難しくなるので,割れ筋のうちに修復です。

 裏側の押さえ金具,接眼レンズ,そしてゴム枠の3つを取り外します。順番と向きはメモしておきます。

 そして割れ筋の部分を両側から押さえて,隙間が小さくなることを確認します。そしてその割れ筋に,接着剤を流し込みます。すっと入り込んで行きますが,ここで力を緩めず,出来ればテープやゴムで密着させておきます。これで一晩です。

 あまり強く押すと,溶けた部分がはみ出してしまい,寸法が変わってしまいます。また,力を緩めると隙間が余計に広がってしまい,接着そのものが出来なくなってしまいます。

 事故は個々で起きたのですが,指で挟むようにして押さえつけていたのところ,なんと別の部分がひび割れてしまい,そこが完全に破断してしまいました。大慌てで部品を集めてあわせて,さらに接着剤を流し込みます。

 ようやく元の形に戻りました。翌朝様子を見ると,幸いうまく接着できているようです。

 せっかくですので,接眼レンズも綺麗にクリーニングしておきます。そしてゴム枠,磨いた接眼レンズ,そして押さえ金具を戻し,ファインダーに取り付けてビス留めです。

 しっかり修理が出来ていることが確認出来たら,張り皮を貼って完成です。どうも,視度補正レンズを強くネジコンd事も悪かったような気がします。少しゆるめにしておきましょう。

 この,アクリル用接着剤でプラスチックを溶着する方法は最近私が多用するもので,スチロールはもちろん,接着が難しいとされるABSでも強力に接着できます。ポリプロピレンやPETなんかはやっぱりダメなんですが・・・

 F2の電池ケースもこれで修理をしていますし,結果は上々です。

 ただ,古いプラスチックの修理は,溶着した部分こそ元通りになるかも知れませんが,全体的に脆くなっていますから,他が割れてしまうかも知れません。
 

(2)シャッタースピード簡易テスタ

 メカだけで1秒から1/2000秒を作り出すF2のメカシャッターは,カメラが精密機械といわれていた時代があったことを我々に思い出させてくれますが,電子制御シャッターと違って精度が心配なのも事実です。

 特に,高速側のシャッターは無理をしているのか,最高速が出ていないことが多くのカメラで見られたそうです。(アサヒカメラのニューフェース診断室のバックナンバーを見てみて下さい)

 そういう話になってくると,自分のF2も心配になってくるものです。多少のズレはいいとしても,大幅に狂っていないかだけは確認しておきたいです。

 アナログオシロを使って簡易チェックはやっていますし,結果1/2000秒で問題ないことをある程度確認してありますが,もうちょっとちゃんと,楽に確認出来ないものかと思っていたところ,フォトトランジスタがONになる時間を測定することを思いつきました。

 調べてみると随分と古典的な方法で,オシロスコープを持っているカメラ修理を趣味とする人ならほぼ全員がやっているんじゃないでしょうか。

 フォトトランジスタは手持ちの関係でTPS603Aという東芝の廃品種を使います。フォトトランジスタですので速度は遅く,電流を流しても数msの遅れがあります。

 1/1000秒なら1msですので,あまりに遅いと正確に測定出来ませんが,かといってフォトダイオードは使うのが面倒ですし,スローシャッターを確認出来るだけでも意味がありますので,さっさと作ってしまいます。

 アクリル板を適当にカットし,真ん中に3.2mmの穴を開けます。ここにTPS603Aを押し込み,そばに両面テープで貼り付けた基板に,足をハンダ付けします。

 基板には470Ωの抵抗も取り付け,電源とGNDと出力の3つの端子を出しておきます。

 電源は10Vあたりをかけ,オシロスコープを繋ぎます。

 カメラの裏蓋を外して,フィルムの代わりにアプリル版をテープで固定します。ミラアップし,マウント側からマグライトで光を当て,シャッターを切ります。

 おお,ちゃんとシャッターが開いたときにONになっています。

 さすがに1/1000秒くらいになるとなまってしまいますが,F3でも測定を行って相関を取っておけば,結果を目安くらいには使う事が出来るでしょう。

 また,本当はシャッターは走り始めと走り終わりで速度が違っていて,それが露光ムラの原因になります。だから,シャッターが開いている時間を測定する前に,シャッター幕の走行速度を合わせて置くのが必須なのですが,それはそれでまた別の測定器が必要なので,今回はやめます。

 横走なら,左側と右側のシャッターの開いている時間を比較すれば,幕速が出ているかどうかもわかるでしょうし,今回はこれでいいです。

 さて,結果ですが,X接点よりも低いスローシャッターは完璧でした。高速側も1/100秒まではほぼ完璧,1/2000秒が速いということがわかりました。

 ただ,速いと言っても,立ち上がりと立ち下がりがF3よりもなだらかで,ダラダラと露光している感じです。とはいえ,どんなシャッターの動きがこういう露光に結びつくのか私はちょっとわからず,もしかするとシャッター幕とフォトトランジスタとの距離が開いていたとか,光源との光軸が大きくズレて斜めから光が入ったりしていたのかも知れません。

 完全に開いている部分は500us以下ですが,開き始めるて完全に閉じきるまでの時間は70usを越えているので,ならすと500us程度になるでしょう。ですのでトータルで1/2000秒の露光時間になっているのだと思う事にします。

 本当は,F3だけではなく,F100などの縦走りの電子制御シャッターも測定したかったのですが,F100は裏蓋があいているとシャッターが動かないようになっていますし,SFXnはシャッターは動きますが開いてくれません。

 もう面倒くさくなったので,ここで終了。当初の目的であった,F2のメカシャッターがそれなりに精度で動いていたことがわかっただけで十分です。

 

F2のフォトミックファインダーのメーターにゴミ

 さて,前回フォトミックファインダーのメータが動かない問題を書きましたが,その続きです。

 メーターが動かないという電気のトラブルが,30度傾けると100%発生するというのも首をかしげたくなるのですが,接触不良を疑うも,バネ圧を増やしたり清掃しても改善しません。

 ボディとファインダーの電源端子が悪いのかと思い,ファインダーのおでこの下にあるフックが引っかかるボディ側のピンを少し下にずらそうと,ビスを緩めたりしめたりしているうちに,マイナスネジの頭を飛ばしてしまいました。

 これには参りました・・・ああ,どんどん壊れていく私のF2。

 原因ときちんと調べることもなく,とにかく組んでばらしてを繰り返していても解決するはずもなく,時間ばかりが経過します。

 そうしているうちにネジはなめ,更に深い部分を分解し,組み立てミスを連発するようになってきます。これはまずい。再起不能になる前に手を打たねば。

 そこで,論理的に原因の究明を行うべく,真面目に回路図と検討する事にしました。

 まず,メーターが動かなくなり,その時露出計も動かないのですから,可能性が高いのは電源が来ていないことです。

 傾けてメーターが動かなくなる現象が出ていることを確認した上でフォトミックファインダーを外し,電源端子にテスターを当ててボディを傾けてみます。しかし,電圧が下がってしまうことはありません。どんなに動かしてもちゃんと3Vが出ています。

 ボディに原因はなさそうです。

 そうなるとファインダーです。

 ファインダー単体に電源を繋ぎ,ファインダーを傾けると,やっぱり再現します。

 続けてファインダーを上下に分解し,メーターがある上半分に電源を直接入れて,傾けます。すると現象は再現。上下の間をつなぐ接点の不良ではないことが判明しました。

 上半分の回路を追いかけていきますが,断線箇所はありません。

 ファインダーに電源を入れず,メーターを含めた回路に抵抗レンジにしたアナログテスタを入れて導通を見てみます。すると,当然導通があるわけですが,面白い事にメーターが止まっても全く変わらず導通が維持されています。

 ん?

 とういことは,回路が切れて電流が流れなくなったためにメーターが止まるのではなく,電流は流れているのに,なにか物理的なものがメーターの動きを妨げていることになります。

 それならばと,メーターを軽く叩いてみます。メーターが動かない状態でも叩けば動きますし,何度か叩いていると,そのうち現象が出る角度が変わって来ました。

 さらに叩くと,現象が出なくなりました。

 うーん,ゴミでしょうね。

 ただ,このゴミを取り除くにはメーターを外し,分解しなくてはなりません。そこまでばらしてしまうのも怖いですし,メーターはただでさえ壊れやすい精密部品です。今問題がないなら,わざわざ分解することはやめておきます。

 ということで,この問題の原因はわかりました。

 あとは組み立てです。

 しかし,この組み立てがまたくせ者です。実は,以前からf2kとf1.4の間が1段ではなく0.5段ほどしか変化しないという問題がありました。きっとギアのかみ合わせがズレているせいだと思っているのですが,なにせ正しいかみ合わせ位置をメモしていないので,もう試行錯誤でやるしかありません。

 しかも,これまでの組み立ててでは,f22にするとブラシがコモンから外れてしまうこともわかりました。これはさすがにまずいです。

 ついでに,リング抵抗に接触するアースの接点を清掃していないことに気が付いたので,清掃して正しい位置に曲げておきます。

 そうして組み立てるのですが,やはりなかなかうまくいきません。何度か組み立ててバラシ手を繰り返して,ようやくEV1からEV17まで連動するようになりました。

 しかし,絞りの連動機構の動きが渋くて,f5.6から絞り込むときに,随分と大きな力をかけないといけません。これあはなにかがおかしいです。

 改めて組み立てを確認して。なんとか落ち着いたところを探し出して,やっと完成です。はっきりいって,ボディよりも時間がかかってしまいました。

 基準となるのはF3です。F3の露出計と同じような結果になるよう調整をして,これですべての作業が終了です。

 一通りに動作試験をやって,あとはひたすら,脳内麻薬を出しながら空シャッターを切るだけです。

 近いうちにフィルムを通そうと思います。以前なら100円のカラーネガフィルムをテスト用に撮影し,自家現像してすぐに再修理出来たのですが,今はラボに出さないと現像もできません。

 面倒ですが,カメラは撮影してなんぼ,です。

 数は減りましたが,手元にあるガチャガチャ可能なレンズを取り付けて,撮影を楽しもうと思います。

 しかし,私はつくづくメカのセンスがないなあと思います。メカ屋さんが電気屋さんの手つきを不安そうに眺めていることって,設計の現場では良くある事なのですが,それをまさに地で行っている感じがしました。

 こうして改めてF2を見ていると,やっぱり格好いいです。Fのように角張っておらず,F3ほどややこしくなく,角の取れたほどよい丸みにシンプルな外観と,良く出来ているなあと思います。

 F2本体がデザインされたとき,一緒に考えられたのがフォトミックファインダーのデザインでしょう。後に何種類もファインダーが出ますが,個人的にはDP-1のデザインが一番しっくりきますし,F2らしくて格好いいなあと思います。

 ニコマートELを修理した時,そのシルエットの美しさに,ぜひこの当時のフラッグシップを使ってみたいと思ったものですが,そのF2を実際に手にしてみて,F3とは繋がっている部分もあるけど,繋がっていない部分も多いなあと感じました。

 そして,AEカメラではないことが,こんなにしっくりくるというのも,冷静に考えて分かった事です。思えば,私はPENTAXのSPを長く使っていましたから,AEではない内蔵露出計の指示だけで,シャッター速度も絞り値も露出補正もささっと決めていたのです。

 そのことを体が覚えていて,F2フォトミックでもなにも違和感を感じることなく,操作できているんだろうと思います。そう考えると,F3よりもずっと手に馴染んだ感じがあります。(そうなんです,F3が名機である事は間違いないのですが,長い付き合いにも関わらず,私はまだF3を手足のように使えません)

 さて,フィルムを通して,早く現像に出しましょう。そういえばGR1で1本撮ったものも現像に出さないといけないし,FA43mmも修理が上がってから一度も撮影していません。PEN EESにもフィルムが入ったままです・・・

 

 

F2の分解清掃(ボディ編)

 先日手に入れたニコンF2フォトミックですが,今度はボディのオーバーホールを行いました。

 ボディは特に大きな問題はなく,1/2000秒がやや遅いかなと思うことと,シャッターを切ったあとに「ビーン」という感じの響きが出ていて,あえて分解しなくてもいいんじゃないかと思うようなコンディションでした。

 しかし,50年近く経過している本体ですし,一応分解して中身を確認し,注油くらいはやりたいと考えて,分解することにしました。

 が,いきなり難題です。

 巻き上げレバーの飾りネジが,びくともしません。

 通常,ここはゴムで回して外すのですが,もう全く動かないのです。少し木槌で叩くとよいというので叩いてみましたが,全くダメ。これだけで2時間かけましたが,全く成果が出ません。

 ここで引き返せという神様の指示なのかも知れないなあと思いつつ,最後の手段です。飾りネジの頭にエポキシ接着剤で,ピンセットを接着します。別にピンセットでなくても構わなくて,エポキシ接着剤によくくっつく金属の棒として,目に入ったのがピンセットでした。

 こんな方法,思いつきもしないのですが,やはり幾多の先人達がここで足踏みを強いられたらしく,無理にプライヤーで挟んで傷だらけにしたという苦悶の歴史を私も学び,接着剤という方法にたどり着いたのでした。

 結果は成功。なんと,飾りネジはゴム系の接着剤で固定されていたのでした。ということは,アルコールで柔らかくすれば簡単に外れたかも知れません。

 まあ,結果オーライです。

 F2はトップカバーが左右に分かれていて,別々に外せます。しかも前板やミラーボックスを外すのにトップカバーを外す必要はありません。

 特に,パトローネ側のカバーは,アルミで出来た薄い化粧板を剥がさないとビスが出てこず,この化粧板を無傷で剥がすのは至難の業であると,先人達は語っています。よって必要がなければ外さないのが良いそうです。

 私も先人達の教えに学び,パトローネ側のカバーを外すことはやめました。

 巻き上げレバーを外し,シャッタースピードダイアルも外し,シャッターボタンのリングも外します。スムーズです。

 そして張り皮を剥がしてセルフタイマーを外し,前板を外します。ミラーボックスと分離し,動作の確認と注油と清掃をします。

 ビーンという金属音は,よく言われるようにミラーのダンパーのスプリングが響いている音で,本来はこれを抑えるためにモルトプレーンを張り付けてあります。このモルトプレーンが劣化していると,バネが響き放題になるというわけです。

 ミール-ボックスの劣化したモルトをはりなおすと,バネの響きががうまく押さえられて,精緻な感じになりました。

 他にも注油やグリスアップを行って,軽くミラーが動くようになったところで,前板と組み付けます。

 次にボトムカバーを外し,同じく注油とグリスアップです。あんまりベタベタやると,油が飛び散ってシャッター幕を汚しますので,ほんの少しだけにします。

 そしてスローガバナーを外します。ここも別に悪くなってはいないのですが,ベンジンにどぶ漬けして注油することくらい手間もかからないので,さっとやっておきます。

 あ,電池ケースがご多分に漏れず割れています。F2の持病の1つに電池ケースの割れがあります。そのせいで露出計が動かなくなっている個体も多いのですが,交換出来るような部品もないので,別の部分に金具を取り付けることで解決する方法が,やはり先人達の知恵として広く知られています。

 で,私の場合ですが,ここは1つ,割れた部分の溶着を試してみることにしました。アクリル用の接着剤を使って溶着してみますと,なかなかうまくいっています。他の部分が割れてしまえばもうおしまいなので,金具を別の場所に付け直すのが一番いいとも思ったのですが,これで様子を見ます。

 さて,ここまで組んでみて,いよいよ前板を戻します。

 そっと取り付けてビスをしめ,同じくベンジンで洗浄したセルフタイマーを取り付けて完成です。シャッターも綺麗に切れるので油断していましたが,実は組み上げたあとにセルフタイマーでシャッターが切れないという問題が発覚し,組み立てミスをやっていることに気が付きました。

 この問題を先に書くと,結構深刻な問題でして,前板のシャッター駆動のレバーが無理な組み込みのせいで曲がってしまっていて,セルフタイマーがシャッターレバーを動かせなかったようでした。メカは難しいです。

 次にボトムカバーです。これはまあ簡単ではめ込むだけですから,問題はありません。

 続けてトップカバーですが,これもよくある持病で,フィルムカウンターの窓の透明プラスチックが割れています。交換しようにも同じ物は手に入りませんし,接着しても割れ筋は消えません。

 窓にはめ込むようにプラスチックが成型されているのですが,そんな細かい加工は出来ませんので,0.3mmの透明プラ板を小さく切って張り付けてすませます。以外に違和感もなく,綺麗に仕上がりました。

 こうして出来たトップカバーを取り付けて,レバーなども組み付けて一応完成です。ここまで5時間ほどかかっています。素人丸出しです。

 一通りシャッター速度も確認し,完成したと喜んで張り皮まで張り付けたのですが,前述のようにセルフタイマーが動きません。

 また前板を外す羽目になりましたが,再度組み立てても今度は治らないばかりか,シャッターボタンも利かなくなったりします。これはまずい。こんな信頼性の低い状態では使えません。

 冷静に部品の動作を確認していくと,前述のように前板に付いているミラーを動かし,シャッターの係止を外すレバーが曲がっていることが判明しました。少しずつゆっくりと元に戻して,なんとか動くようにできました。

 そして,シャッタースピードダイアルの近くにあるシャッタースピードの調整ネジを調整して,1/2000秒もきちんと出るようにしました。これでボディは大丈夫でしょう。

 最後に張り皮を貼り,モルトプレーンを交換して,完成です。

 フィルムを通さないとなんとも言えませんが,ダミーのフィルムはちゃんと通っていますし,動きも見た感じでは問題を感じません。シャッタースピードには不安もありますが,これは後日ちゃんと測定システムを作ってから,確認をしたいと思います。(今はアナログオシロスコープによる簡易検査です)

 で,念願のフォトミックファインダーとの合体です。

 しかし,ここでまた問題発生です。

 フォロミックファインダーのメーターが,動かない時があります。バッテリチェックボタンを押しても反応がなかったことで気が付いたのですが,よく調べてみると,30度ほど上に向けると動かない,この時露出計としても動作しない,止まっている状態でボタンを押し直すと動く,止まっている状態でシャッタースピードや絞りを変えると動く,などと,どうも気まぐれな様子です。しかし再現性はほぼ100%です。

 電気的な問題だろうとふんで,フォロミックファインダーを再度分解しますが,おかしな所は見当たりません。ガタが多い部分を組み直しますが,それでも解決しません。

 なら,通電不良だろうとバネ圧を強めたり清掃をしますが,変化無し。

 そのうち,シャッタースピードインジケータの紐は外れるわ,ネジはピンセットから外れて飛んでいくわ,マイナスネジはなめてしまうわで,かなり大幅な分解をしなくてはいけなくなってしまいました。

 もう20回ほども分解と組み立てを繰り返したでしょうか・・・

 それでも原因はわかりません。

 続きは次回。

 

EL34シングルを三極管接続で味わう

 ある知り合いから,真空管アンプの修理の依頼を受けました。

 私はアマチュアなので,基本的に修理や製作代行などは受けないことにしているのですが,今回は音が小さくなって困っていて,誰か修理出来ないかという話をしていたということから,引き受ける事にしました。

 どうも,エレキットのTU-879Sというキットを改造したものを,譲ってもらったという話です。真空管をオリジナルの6L6GCからEL34に交換してあることは以前聞いていましたが,それ以外の改造があるかどうかは,全く聞いていませんでした。

 夏の暑い中で真空管アンプの修理をするのは,ほぼ罰ゲームなので,ちょっと急いでおくってもらったところ,確かに無茶苦茶小さい音です。

 どうせEL34の寿命だろうと思っていたのですが,手持ちの新品に交換しても状況は変わらないので,やっぱりどこかが壊れているんだろうと思います。

 あいにく回路図や説明書がなく,当然改造箇所も不明なので,5極管シングルアンプという前提条件で確認をしていきます。

 まず,底板を外すと,なにやら手が入った基板が見えてきます。そう,修理というのは経験上,目視で見つかったりヒントになることが実に多く,電圧を見たり波形を見るのは目視で目処を付けた場所にすると,効率よく進むのです。

 で,基板を外して裏返して見ると,真っ黒に焦げた抵抗と基板が・・・

 抵抗はスクリーングリッドに電圧を印加する抵抗で,3.3kΩです。5W品なので酸化金属被膜でしょう。これが真っ黒になっています。外して抵抗値を見ると無限大になっているので,完全に焼き切れています。

 5W品ですし,酸化金属被膜抵抗は熱に強いので,焼き切れるというのはかなりの電流が流れたからなのですが,スクリーングリッドに本当にそれだけの電流が流れると,かなり大変なことになっていたはずです。

 そしてさらに深刻なものを見つけました。左右両チャネルのカソード抵抗が一度焼損して,基板ごと燃やししまっているようなのです。もともとこのカソード抵抗は330Ωが基板の表面に付いているのですが,この個体では270Ωの赤茶色の酸化金属皮膜抵抗が基板の裏面についていました。

 改めて基板の表面を見ると,基板が真っ黒に焦げています。裏面を見返すとパターンも剥がれてしまっていて,ハンダ付けで修復しているようです。

 こりゃーいかん。

 真空管が内部でショートしたというなら,両方同時に燃えることはないでしょう。悪いケースで想像すると,高音質化を狙ってプレート電流を増やそうとして,カソード抵抗を小さくしたところ,副作用で真空管の暴走を押さえられず,プレート電流が増加して抵抗が燃えてしまった,ということでしょうか。

 この時スクリーン電流も増加して抵抗が焼損した可能性もなくないでしょうが,それだったら同時に交換されないといけませんので,スクリーン電圧を印加する抵抗の焼損は別の時に発生したのでしょう。

 調べてみると,あるメーカーがこのキットを改造したカスタムモデルを出していたようで,これがEL34への交換とプレート電流の増加をうたい文句にしていました。とりあえずこれを真似したんじゃないかと思います。

 もちろん,わかってやっているなら構わないんですが,抵抗の取り付け方を見ていると,基板に密着させていたりして,どうも高圧大電力を扱う事になれていないような感じがします。

 少し浮かせておくというのは,大電力を扱う人なら反射的にやることですし,そうでなくても組み立て説明書に書かれていることなので,説明書もちゃんと読まずに作るような,結構自信家だったんじゃないかと想像します。(でなければ,自分で作り,なおかつ改造し,あげく煙が出たものを修理までした真空管アンプを他人にあげるなど怖くてできないと思いますし)

 また,電源スイッチのスパークキラーもどっかのWEBサイトに書かれていた定番改造ですし,入力のカップリングコンデンサを外してしまうことも行われていました。

 その割にボリュームは元のまま交換されず,入力セレクタはLINE1とLINE2が逆に配線されていたりと,ちょっと首をかしげる箇所も多いです。

 さて,とりあえず持ち主に許可を取り,修理を進めます。あいにく酸化金属皮膜抵抗は在庫が多くないので,いくつか注文をします。数日後に届き,早速スクリングリッドの抵抗を新品に交換します。

 まずこの段階で,EL34は正常に動作をするようなったみたいです。音がちゃんと出て,各部の電圧もおそらく正常と思う値を示すようになりました。ここで一度オーディオ特性を見てみると,歪率はそこそこ,しかし低域が300Hzくらいまでしか出ていません。

 うーん,なにかある。

 続けて安全のため,カソード抵抗をオリジナルの330Ωに戻します。基板の表面に取り付け,パターンを修復しながら取り付けます。

 おや?テスターでパターンを追いかけていくと,どうもカソード抵抗に並列に入っているはずのコンデンサが,繋がっていないようです。なるほど,それで低域が出なかったんですね。

 そこで,330Ωに交換する時にちゃんとコンデンサを繋げてやります。

 ここでもう一度通電し測定をしますと,カソード電流は50mAちょっとになりました。EL34にしては少な目ですが,安全なのは事実です。

 さて,オーディオ特性を取ってみると,やはり低域がぐっと伸びて20Hzくらいまで出るようになりました。

 ね,300Hzくらいしか出ない修理になっていることに気が付かないのに,いっちょ前に入力のコンデンサを外してあるんですよ。おかしいですよね。

 さて,一通り電圧と電流を測定し,オーディオ特性も取ったところで,返却前提でヒアリングです。

 ・・・しかし,どうにも音が悪い。長時間聞き続けることが困難なほどです。自作の6V6シングルと交換しても一目瞭然。というか比較しなくても音が悪いとはっきりわかるレベルです。

 気のせいかと思って嫁さんにも聞いてもらいましたが,確かに悪いと。

 原因の1つは,ボリュームでした。音を小さくしたかったので絞って使っていましたが,そのせいで音質の劣化がひどく,加えて左右のギャングエラーも大きいため,これは交換しないといけません。

 それでも,どうも音が良くないのです。なんというか,平面的というか,ボーカルに艶がないというか,ただ音が出ているだけというか・・・ペラペラでどうにも聞いていられません。

 これを真空管アンプの音だといわれてしまうことは,さすがに私にも悲しいものがあります。

 そこで,一念発起です。他人の改造を批判しておいて,自分はさっさと改造するのかという後ろめたさもあるのですが,そこを差し引いてもこの音のアンプをこのまま返してしまうことは,もう罪です。

 改造すると決まったら,それはもう私が良いと思う音質へ向かう道です。私が目指す音になるように,回路の修整を入れていくことになります。

 スピード感よりも滑らかさ,切れ味よりもきめの細やかさ,広帯域より立体感,周波数より位相というのが私の目指すもので,真空管でいえば多極管より三極管です。

 多極管は電力効率はよいけど音質は今ひとつ,一方の三極管は電力効率は悪いのですが,音質は実に豊かで,真空管ならではの音を奏でます。

 多極管というのは,そもそも三極管の電力効率を改善した真空管で,出力が大きく取れる代わりに歪みも多く,音質の劣化があります。ゲインが取れるので大量の負帰還を使って歪率を改善すると,周波数特性などもぐっと改善されて,数字が大幅に良くなるのです。現在の半導体アンプと似たような考え方です。

 三極管は電力効率が悪く,突っ込んだ電力から取り出せる出力が少ないのですが,その代わり音は素直で無理をしていません。歪みも波形の上下が対象に崩れる2次高調波が多く,適度な歪みであればむしろいい音に聞こえるくらいです。

 そして,ゲインが小さいから負帰還をあまりかける事が出来ず,結果として真空管そのものが持つ個性がそのまま出てきます。まさに大吟醸です。

 で,せっかく真空管なんだから,真空管アンプを三極管以外で作るなんてのは愚の骨頂。多極管を大量の負帰還で使うなら,半導体で作るのが一番です。

 てなわけで,改造の方針が出ました。三極管接続です。

 多極管のスクリーングリッドをプレートに直結すると,三極管と同じ特性を示すようになります。もちろん本来の使い方ではないので,その特性は好ましいものではない場合も多いのですが,幸いなことにEL34は昔から三極管接続の音が良いことで知られていますし,メーカーのデータシートにも動作例が出ているくらい,メジャーなものです。

 安全のため,スクリーングリッドを直結せず,100Ωでプレートと繋いでみます。

 結果,プレート電流は65mAに増加しました。かなり増えてしまいましたが,データシートの動作例にも出てくるくらいの値ですし,まあ良いとしましょう。もちろんプレート損失にはまだまだ余裕があります。

 各部の電圧を測定し,オーディオ特性を取ります。

 歪率は悪くなっています。三極管接続にすることでゲインが下がり,負帰還も小さくなったんでしょう。帯域も狭くなっていて,高域は18kHz止まりです。DFも3.5程度とちょっと小さいので,負帰還を増やしてみます。

 帰還率を3.5dBくらいにして再度測定すると,1Wの歪率が0.9%程度になってくれました。高域も20kHzを少し越えるくらいになり,DFも6を越えるようになりました。いい感じです。

 改造前と改造後で2次高調波と3次高調波をそれぞれ比べてみたのですが,改造前は3次高調波が歪みの主成分であったのに対し,改造後は2次高調波が主成分になり,奇数次の高調波がぐっと減りました。

 しかし,3%歪み時の出力にはそれほど変化がなく,4W弱です。これなら実用上三極管接続にしたことのデメリットは表面化しないでしょう。帰還量を変えたので発振していないか気になりましたが,波形を見る限りそれも大丈夫なようです。

 気をよくした私は,小躍りしながらヒアリングに挑みます。

 おー,これはいい,劇的に変わりました。自作の6V6シングルには圧勝,聴き疲れせず,まろやかで,とてもふくよかになりました。立体的で,人の声がとても生々しく聞こえますし,高調波の少ない楽器(オーボエとかフルートとか)も,きちんと奥行きを保って聞こえてきます。

 DFが良くなったことで低域も締まって聞こえますし,他の音を邪魔しません。

 音量を上げてもこの傾向は変わらず,聴き疲れしません。どんどん音量を上げてしまいます。さすがEL34,三極管接続がこれほど良い結果を生むとは。

 ボリュームを交換したおかげでギャングエラーもなくなりましたし,小音量時の音質劣化も減りました。入力のカップリングコンデンサも追加しましたが,これによる音質の劣化はほとんど気が付かないレベルです。

 よし,これでいこう。

 嫁さんにも満を持して聞いてもらいましたが,一発で良くなったことに気が付いてくれました。その後,どういう訳だか睡魔が襲ってきて目が半開きになっていましたが・・・

 これで少しテストを続け,10時間ほど動かして安全性を確認出来たら,返送しようと思います。

 ふと気が付くと,300Bのシングルと同じ傾向の音になっていました。

 やっぱり,製作者の好みに収れんしていくんですね。気に入ってくれるといいんですが。

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