Cherryの赤軸
- 2020/04/13 14:38
- カテゴリー:散財
キーボードというのは宗教のようなもので,自分のためにこだわることに労力を厭わない性格の物です。
配列は言うに及ばず,ストローク,重さ,キーの高さやキートップの形状に至るまで,こだわる人は徹底的にこだわる世界です。
まあ,長年キーボードと共に生きてきた人に取ってはとても大事なことというのも理解出来ますが,一方でどんなキーボードでも文句を言わずにスラスラ涼しい顔で打鍵する人をかっちょいいなと思う事もしばしばで,私もできればそういう人になれればなと考え方にちょっと変化が生じてきたこの頃です。
私の個人的な趣味に誰も興味はないでしょうが,もともとラフで,しかも正しいタイピングをしない私は,キーボードを快適に使うための許容範囲が極めて狭いといえて,正確で正しいタイピングを体得している嫁さんなんかは,ノートPCのヘコヘコキーボードでも文句を言わずに使いこなしています。
でも,意識や思考と文字との間には大きな壁があり,この1つにキーボードがあることは否定のしようがありません。理想的にはキーボードを意識しないことが重要なわけですが,そのためには長年使い込むことが必要だと思います。
よく,心地よいタイピングとか,打鍵感が優れているとか,そういう話がありますが,それはあくまで長く使い続けるための条件であって,それが目的になってしまうとまずいです。
私は長く使い続けられるものとして,東プレのRealForceを20年ほど前に奮発して買いました。耐久性と嫌にならない打鍵感,そしてできるだけ小さいもを選ぶ事で環境の変化にも追随できるようにと,テンキーレスの日本語を買いました。もちろん長く使えて,マシンを選ばないUSB接続です。
おかげさまでこのキーボードは手に馴染み,もうこれ無しでは思考にノイズが混じってしまうほど気に入っているのですが,あくまでこれは仕事用,会社で使う物としてずっと私と共にいます。
しかし,昨今のテレワークの状況が,話をややこしくしています。
1ヶ月ほどでまた会社で仕事をすることになるだろうと高をくくっていて,キーボードは持って帰らずにいたところ,出社可能になるのがいつになるやら目処も立ちません。
RealForceを買う前に,HappyHackingKeyBoardLiteを買って試した事があり,今ではすっかり使わなくなったHHKBLiteを引っ張り出してしのいでいましたが,やはり当時使うことをあきらめたのと同じ理由が今回も断念,急遽新たなキーボードを探すことになりました。
家族がいる場所でのタイピングですので出来れば静かな物がいいですし,仕事用のノートPCで使いますから小さい物が望ましいです。テンキーは邪魔ですが,しっかりしたストロークがないと嫌ですし,剛性感がなくてたわんでしまうような物ならノートPCのキーボードをそのまま使うのが一番です。
とはいえ実際に店頭で触って試すのは今は自殺行為ですし,そもそも外出できません。ならばすでにある程度分かっているものから選ぶほかありません。
同じRealForceを買えばいいんですが,大変高価です。どうしたものか考えたところ,ここはやっぱりCherryのメカニカルキーボードだろうという話になりました。
Cherryはドイツのキースイッチのメーカーで,PCに詳しい人ならおそらく誰でも知っているでしょう。古くからこの世界に君臨する老舗の1つであり,すでに生産をやめた日本のアルプス亡き後,我々の期待に応えてくれる唯一のメーカーと言って過言ではありません。
私が持っている最古のCherryのキーボードは,1983年のEPSONのHC-20で,これは大変素晴らしいキーボードです。状況が許せばこれをUSBにして使い続けたいと思うほどですが,近年特許が切れたとかでCherryのキースイッチの互換品が出回るようになっています。
Cherryのキースイッチには様々なバリエーションがあり,それぞれ軸の色が異なっていることは有名です。
かくいう私はかつて,RealForceに出会う前にCherryの青軸を使っていました。これはうるさく,キーボードマイコンのバグもあって私の手に馴染むことなく,他の人に譲ったのですが,当時の私はアルプスの代表作であるAppleExtendedKeyboardIIを使っており,これを基準としていました。
あれこれ悩んで結局RealForceに落ち着いたわけですが,この時Cherryのキースイッチに対する印象は良くないものに固まってしまい,以後手に取ることもなかったのです。
しかし,今回はそうも言ってられません。クリック感がなく,できるだけ柔らかい打鍵感覚がRealForceに近いと考え,赤軸から選ぶ事にします。
ちょうどセンチュリーのBlackQueenが特価しており,これを買うことにしました。今まさにこれでこの文章をかいています。
この手のキーボードには一定の需要があり,それこそHHKBが登場した30年も前から選択肢としての地位を固めていますが,常に問題となるのは減らされたキーをどうやって入力するようになっているか,です。
キーを減らすのですから,使用頻度の低いキーから削られていきます。問題は,その使用頻度が人によって違う事です。
削られたキーはFNキーとの併用で入力しますが,このFNキーの場所も決まっておらず,親指で慣れたと思ったら別のキーボードでは小指だったりと,なかなか面倒な話がついて回ります。
で,今回のBklackQueen「CK-63CMB-RDJP1」です。
すでに生産を完了した商品で,入れ替えのために実売8000円ちょっとと値下げされていました。Cherryのスイッチであることを明確にしているので,安くとも中身は確かでしょう。
その点での心配は全くなかったのですが,心配だったのは配列です。私はカーソルキーやPageDown,PageUpを多用しますし,DELキーもBSと使い分けています。ショートカットもよく使うのでCTRLキーの場所には敏感です。
いやいやカーソルキーなんて邪道でしょうというなかれ,特定のアプリではなく,OSの標準機能としてカーソルをどうやって動かすかは,いちいちマウスに手を伸ばさないといけないことの面倒さを考えると,とても重要な事なのです。
FNキー併用というのはカーソルキーについてはちょっと厳しいなあと思っています。SHIFTキーと併用で文字選択とか普通にやりますが,そうすると3つもキーを押さないといけないので,コンビネーションを体が覚えるまでとても大変です。
また,PageDownやPageUpが中央付近にあると,片手でスクロール出来ないのでこれもなかなか面倒。
このキーボードはそれでもできるだけの配慮はされていて,カーソルキーは右側のADWS以外にl:p;でも入力出来ます。同じようにDELキーもFNとBS以外にFでも入力可能です。
ARROWモードというモードに入れば右下のキーをカーソルキーとして使うことが出来るようになりますし,厳しい制約でもできるだけ使いやすくしようという工夫はうれしくなります。
惜しいのは,音がかなり大きいという事。これはCherryのスイッチ全般に言えることですが,押し込んだ時の底を打つ音に加えて,戻った時に天井に当たった音がかなり大きいのです。だから,1ストロークで2回の音が出てくるわけで,これがうるさいと感じる要員ではないかと思います。
でもさすがにCherryの赤軸です。ソフトな押し込み感には吸い付くような魅力があり,長時間のタイピングにも疲れが出ません。私は柔らかいキーボードが好きなのです。
スペースキーやリターンキーなどの大物は,いい加減なキーボードだと押す場所によって沈み方が違ってくるのですが,このキーボードは特に大物でのしっかり感がよいです。一般のキーよりも押し心地が良いくらいで,スペースキーやリターンキーが自己陶酔の発露である事を,とてもよく分かってらっしゃるんじゃないのかと思います。
剛性感も十分にあり,強いタイピングでもたわみません。キートップの形状も悪くないですし,塗装もなかなかよいです。でも,きっとこれすぐに剥げてしまうでしょうね。
いくつかのキーバインドは底面のDIPスイッチで修正可能で,1キーの隣をESCにしかりCAPSLOCKとCTRLを入れ換えるという定番から,FNキーの入れ替えまで,いくつかの設定が可能です。
完全に自分の好みに出来ないもどかしさがありますが,そこはギリギリ譲歩できるところまで設定可能です。随分熟慮したんじゃないかと思います。
で,最後に触れないといけないのがLEDです。
私個人はこういう電飾は全然必要性を感じず,どうせ使わないんだから良いも悪いもないというスタンスだったのですが,それもこの手の電飾が下品な物だったからで,今回のキーボードの電飾は,アンバーについてはなかなか良い印象です。黒とアンバーというのはとても精悍でよく似合う配色だと思います。
色もそうなのですが,この電飾のありがたいのは,キートップの側面にあるFNキー併用の機能が良く見えることです。この部分は影になることが多く,電飾がないと見えにくい物なのですが,実はこここそ見えて欲しい部分です。一般キーは覚えていますので一々見ませんわね。
ということで,ここまで打ち込んだことでようやく慣れてきました。
まだBSキーの位置が変わっているのに慣れておらず,変換前の入力ミスにBSで訂正をしようとしてリターンを押してしまい確定という事故が多発してイライラしますが,それも大分慣れてきました。
うるさいことが問題だとは思うので,周囲の理解が必要ですが,それさえクリアすれば非常に好感触です。以前使っていたCherryの青軸はロールオーバーが今ひとつで入力の取りこぼしが散々ありましたから,それがないというのもありがたいです。
ここまで使えるキーボードなのですから,あとは体が慣れていくことを期待しましょう。迷っていましたが,結果としては言い買い物が出来たと思います。