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2023年10月の記事は以下のとおりです。

XC-HM86が壊れた

 XC-HM86がまた壊れました。今度もCDのトレイが出てきません。

 前回壊れた時は保証期間内だったので無償修理,しかしその修理があまりにずさんで,LCDの画面と正面のパネルに大きなキズ,背面はACコードを挟み込んでケースの外にはみ出していましたし,全体に傷だらけ,指紋でベタベタになって戻ってきました。

 新品を買って,1年以内に壊れたので修理に出したらこの有様ですから,それはもうがっかりしました。この時は,使い続けるには危険があるということで新品交換となったのですが,それでももう私に取って,パイオニアとその修理を引き継いだオンキョーへの信頼は崩れていました。

 その後,結局両社は消えてなくなってしまったわけですが,どちらももともと大好きなメーカーだっただけに残念でなりません。

 そのXC-HM86が,また壊れました。前回はモータードライバの破損で部品交換となったのですが,今回もそういうことじゃないかなと目処を立てます。

 すでに保証期間は過ぎていますし,ようやく修理を引き継いだTEACが修理可能機種としてアナウンスするに至ったくらいですから,修理をするにしても有償になることは間違いありません。2017年製造のシールが貼ってあるので,すでに6年も経過したいますから,もう自分で修理するのがベストでしょう。

 さっとgoogle先生にこの件を尋ねると,どうも同じような状況で壊れたケースが多数見つかります。設計の問題なのか,部品の不良なのかわかりませんが,どっちにしても傾向不良である可能性は高そうです。

 問題の破損箇所はやはりモータードライバで,AM5869Sという聞き慣れない型番のICの破損ということです。AMTECという中国のメーカーらしいので知らないのは当然として,このICのちゃんとしたデータシートが見つからないのも問題です。

 XC-HM86についても,回路図は見つからなかったのですが前の機種であるHM72なら見つかりました。概ね同じはずで,実際CDの制御部についてはほぼ同じでした。

 で,このドライバICはちょっと面白くて,フォーカス,トラッキング,スレッド,スピンドルの4つのサーボのドライバに加えて,トレイを動かすローディング用のモーターのドライバの5つをワンチップにしたICです。

 なかなか集積度の高いICだなと思うのですが,サーボに関係ないローディングモーターのドライバまで一緒にされてしまうと,今回のようなケースでサーボのループに入っているドライバもろとも交換することになり,サーボの再調整が必要になるんじゃないかと心配していました。

 しかし,よく考えたら今どきのサーボはデジタルサーボで,自動調整されるものがほとんどですからね,ドライバが変わってトータルのゲインが変わってしまっても,そんな程度なら自動調整で吸収されるはずです。

 そんなわけで,こういうややこしい部品はaliexpressで調達です。5個で1000円,送料まで入れて1600円ほど(円安はやくおわんないかなー)しましたが,1週間ほどで無事到着,早速交換作業に入りました。

 交換作業はうまくいき,綺麗に出来上がったのですが,組み立てて動かしてみるもやはりトレイは出てきません。スレッドもスピンドルも起動時に動くのでドライバは問題ないのですが,交換前の状態は,交換前に通電しなかったのでわからず,悔やまれます。

 こうなってくるとドライバから後の話だろうと,メカデッキを外してトレイを動かすローディングモーターを調べます。ゴムベルトは生きていますし,手動でトレイを動かす事は難なく出来ます。

 そこでモーターの導通を調べると導通していません。正常ならここは導通状態でなければならないのですが,これだとモーターに電流が流れないのと同じなので,回らないはずです。

 モーターを外して指でシャフトを回すと,どうもスムーズに回りません。コリコリという引っかかりがあります。電源器に繋いで見ますが,やはり回りません。大きな電流が流れている様子もないので,ショートはないようです。

 この状態で指で少しシャフトを回すと,ガタガタと回り始めました。電圧を上げると異音をさせながらもなんとか回っている感じですが,一度止めてしまうと再起動しないので,これではだめだと思います。

 こういう場合は即モーターの交換ということになるんでしょうが,同じ定格の同じモーターが手元にある訳ではないので,私はまずはモーターそのものの修理を試みます。

 よく見る小型直流モーターですので,さっさと分解しますが,別におかしいところはありません。整流子が異常に汚れているので,もしかするとゴミか金属片が引っかかっているのかも知れません。

 整流子とブラシを清掃,ベアリングに注油して組み立てると,嘘のようにスムーズに転がります。電源を繋げば滑らかに低い電圧から回ってくれます。これなら大丈夫でしょう。

 メカデッキに取り付けて組み立て直して通電すると,何事もなかったかのようにトレイが出てきました。あとはさっさとテストをして組み立て直して,修理完了です。

 心配していたサーボですが,こちらも問題ありません。CDは問題なくかかりましたし,サーチもジャンプも素早く出来ているので,サーボも問題ないでしょう。

 ということで,ドライバICは黒でした。まさかモーターが問題とは・・・

 私の印象ではありますが,どうも中国製のモーターというのは信頼性が低く,壊れやすいように思います。壊れた時に,オープンで壊れる今回のようなケースもあれば,ショートで壊れる厄介なものもあり,傾向不良として表面化しているドライバICの問題というのは,実はモーターの不良で過大電流が流れたことによるんじゃないかと,疑ったりもします。(そんなことはさすがにないでしょうけど)

 わざわざ中国から入手したドライバICは役に立たず,タダで治ってしまったことに拍子抜けしつつ,とりあえず直って良かったなあと思います。

 それにしてもですね,この全体に漂う品質の低さはなんでしょうか。

 まず,使われているビスがタッピングビスではなく,ただの木ネジってやつです。2本ほどネジ山が潰れていましたし,それ以外もほとんどのネジが斜めに入っていました。

 無駄なネジも多いですし,綺麗なのは基板だけで,手作業が必要な部分は非常に厳しいものがあります。先日,A&DのGX-Z9100EVを分解しましたが,この丁寧さとは雲泥の差です。

 今回初めてXC-HM86を分解しましたが,これは申し訳ないですが,私の知るパイオニアが作ったものではありません。安い値段で買った物ですので文句は言うまいと思いますが,不思議なことにこれでもちゃんとパイオニアの音が出てくるんですよね。

 ネットワークプレイヤーとレシーバーを組み合わせた商品は海外製を含めるといくつか現在でも売られていますが,CD等の光学ディスクを再生出来るものということなると,ほとんど見なくなりました。

 その点で言えば,この機種はそれなりに貴重であって,CDが多い我が家では壊れると困るものです。壊れやすいとされているドライバICも予備を含めて5個も確保しましたので,しばらく困ることはないでしょう。もう少し付き合ってもらう事にします。

 

さようならZfc,ようこそZf

 ニコンZ f(Zとfの間にはスペースが入るのが正しいようなのですが,これだとZとfみたいになるので,以後私はZfと書きます)を買いました。予約開始と同時に予約したので,発売日の午前中に手に入りました。

 Zfcが登場した時に,いずれはフルサイズでクラシックデザインのカメラが出ることを多くの人が予想したし,私も期待もしたわけですが,そのZfcがよく売れたこともあり,満を持して登場したのが,フルサイズのZfです。

 Zfのなにが素晴らしいといって,Zfcの時とは違い,ZfがZ5のような下位モデルをベースに外側だけ交換したモデルではないということです。外側はFM2をモチーフにしながら,中身は実はZ6クラスの最新モデルであり,性能にも軽快さにも妥協がなく,間違いなくこのクラスにおけるニコンの最も新しい技術が盛り込まれた,戦闘力の高いモデルなのです。

 Zfの売りはデザインなの?性能なの?と聞かれたとき,その両方!と答えたニコンはすごいと思いましたし,同時に無茶をするなあとも思いました。Zfcは間違いなくデザインに振ったモデルであって,質感であるとか性能的なものには妥協が強いられました。

 しかしZf,どうですか,この質感の高さ,この性能の高さ。

 同時に値段も本格的なものになってしまいましたが,それも含めて「最新のカメラとして真面目に買う」モデルになっていると思います。誤解を恐れずに言えば,ライトユーザーや初心者,ちょっと別の入り口からカメラに興味を持った人たちの受け皿としての役割は,もうないといってよいでしょう。それはZfcの仕事ですし。

 ということで,Zfです。

 Zfはクラシックなカメラのデザインを纏った,本格的なミラーレスです。2400万画素クラスのフルサイズはミラーレス一眼カメラの激戦区ですし,Z6IIはもちろん各社本当に良いカメラが揃っています。性能と扱いやすさのバランスがちょうど良く,私も最もカメラらしい万能選手が揃っていると思います。Zfはその最新機種なのです。

 お値段も本格的になっていて,実売価格は約27万円。円安が進んだこともあって数年前なら23万円くらいだった(だって10年前のα7って15万円だったんですよ)と思うのですが,それはまあ仕方がありません。

 決して私はバーゲンプライスとは思いませんが,27万円に相応しい質感と性能を備えていることは間違いありません。つまり,27万円に期待するものは十分備えているという事です。

 ということで,最新の高性能カメラを昔のUIで使う楽しみを味わいつつ,レビューです。

(1)質感とデザイン

 Zfcは全体にプラスチッキーで,ちゃちな印象を受けました。しかもダイアルもグラグラしていましたし,レリーズボタンも遊びが多く,それ以外のボタン類のクリック感も良くないものでした。

 しかしZfはそれらがすべて解決しています。中身が詰まっていそうな密度感,触れた時に感じるヒンヤリとした質感,指にしっかりかかり,精度良く確実に回転するダイヤル,そして適度な反発力と底打ち感のあるレリーズボタン,上品なクリック感とストロークを持つボタン類,すべてが上質で,触っていたいという感覚が沸いてきます。

 サイズも私にはちょうど良くて,少し大きめのフィルムカメラを触っている感じです。それからあまり誰も触れないのですが,右側のグリップは,F3のそれとそっくりです。特に側面に繋がる部分の処理がうり二つで,ここの処理はF3を見た時に私が感心した部分の1つなのですが,私は,Zfは本当はF3になりたかったんだろうなと思いました。(ZfはFM2でもF3でもなく,Zfシリーズなのです)

 デザインそのものはZfcの踏襲ですが,大きさが変わっているのでそのままというわけではなく,辻褄合わせの細かい処理が散見されます。そもそも大柄なFMやFEシリーズなんてのは世の中には存在しないわけなので,FMらしさをこの大きさから引き出すのは,結構大変だったんじゃないかと思います。

 それこそ,潔くF3やF2のようなデザインテイストにすればすべて解決だったと思うのですが,ニコンがやりたかったのはF3やF2を復活させる事ではなく,あくまでクラシックデザインの「Zシリーズ」を作りたかったわけで,そういうブレないところもニコンらしくて私はとても良いと思いました。

 Zfcでは,デザインに軸足を置いたせいで操作性が犠牲になっていました。Zfもそうしたきらいはあるのですが,大きさが変わったことで操作系のゆとりも出来た事で,随分と楽に操作ができるようになりました。

 どちらかというとZfcは派生モデル,飛び道具的な位置付けで,悪く言えばそれは卑屈に見えたりしたのですが,ZfはもうZの中核をなす新しいカテゴリであり,実に堂々としていると感じます。全体にそういう雰囲気を纏っていることが,私はなにより素晴らしいと感じています。

(2)画質と基本性能

 画質は文句なし。2400万画素クラスですのでトリミング耐性は低いですが,ダイナミックレンジも広く,発色も素晴らしいですし,ノイズも低く高感度特性も高いです。

 ぜひ触れておきたいのがモノクロモードの搭載です。以前からモノクロ撮影を行うモードを持っていますが,一々メニューから切り替えないといけないこともあり,私も使ってきませんでした。

 しかし,Zfではシャッター速度ダイアルの下に動画と静止画と同じスイッチで,モノクロの切り替えが行えるようにしてきました。動画撮影を同列ですよ。

 そしてこのモノクロは,3つのモードが選べるようになっています。モノクロはどの色をどの濃さで表現するかという問題に加えて,白から黒にどういうカーブで変化するかという2つの要素が絡み合ってなかなか難しい世界です。

 カラーの場合,実物との比較(あるいは記憶との比較)が可能で,比較対象に近いことが一応の正解となるわけですが,モノクロの場合色という情報の欠如が大きすぎて,どんだけ頑張っても実物には近づけません。

 なので,もはや最初から撮影者が伝えたい情報を取捨選択することが求められるという芸術性の高さがモノクロ写真にはあると思うのですが,これを積極的に楽しんで欲しいというのが,Zfを作った人の想いのようです。

 使ってみましたが,モノクロは楽しいです。フィルムによって随分結果が変わるのがモノクロですが,自分の考える結果がそのまま出てきた時の感動は大きな物があります。

 Zfでは,ディープモノクロームが私のイメージに近く,これがデジタルカメラの手軽さで手に入るのは素直にうれしいと感じました。しかもミラーレスらしく,ファインダーがモノクロになってくれると言うのですから,モノクロ撮影の難易度がぐっと下がってきます。

 これまでもこうしたモノクロモードを備えたカメラはありましたが,私はどれも遊びでちょっと使った程度で終わっていました。しかしZfでは案外積極的に使っていくことになるかも知れません。欲を言えば,もう少し階調が滑らかなモードがあったらいいなと思います。

 AF性能も良くなっています。D850を使う私にとっても,もう十分なものがあると思います。顔とか飛行機とか認識出来るようですが,そんなことより基本性能としてのAF精度や速度がここまで来たことが感慨深いです。

 手ぶれ補正はZシリーズ最高の,まさかの8段。あの大きなセンサーを動かして8段もの補正をするというのですからすごいなと思いますが,実際オールドレンズを装着してもぴたーっと像がファインダー内で吸い付くのを見ると,恐ろしささえ感じてしまいます。D850にVRレンズの組み合わせよりもスペック上も体感上も上です。

 私自身は手ぶれ補正が強力になっても,被写体ブレがある以上はシャッタースピードを下げられないと思っていますので,その恩恵は限定的と考えていますが,レリーズの本体ブレを強力に押さえられるというのは魅力的な一方で,ますます1枚1枚をラフに撮影してしまうんじゃないかと心配になります。

 そして連写速度。連写速度は重要ではないと言う人が多いですが,数字の問題と言うより,その連写に対応出来る骨格と筋肉を持っていることが重要であり,それは連写をしない場合でも,剛性感とか信頼性とか精度とか,そういう全体的な性能に大きく影響します。連写は使わなくても出来るモデルを私なら選びます。

 ZfはなんとJPEGで最大7.8コマ/秒,露出が安定しないらしい拡張モードではJPEGで14コマ/秒という速さです。これらはいずれもメカシャッター時ですので,私の言う骨格と筋肉という観点ではこの数字が重要になるのですが,確かにこの速度を実現するだけの機構が入っていることを感じさせるのが,シャッター音です。

 Zfcのパシャコンという感じの間延びした音に対し,Zfはカコンという感じの切れ味のいい音がします。この音はかなりいい音で,どんどんシャッターを切りたいと思わせるものがあります。

 連写速度の高さ,そして最高シャッタースピードが1/8000秒というのももはや上級機レベルであり,明らかに一山越えたところの表現力を身につけているといえるでしょう。

(3)操作性

 操作性はZfcを踏襲しているので,Zfcユーザーだった私にとっては,良い面も悪い面もそのまま継承という感じです。

 私は,せっかくZfcなんだからと積極的に軍艦部のダイアルを使っていましたから,Zfでもダイアルを中心にした使い方をしています。Zfcでは本体が小さくて,ファインダーを覗きながらシャッター速度を変更するのがちょっと大変だったのですが,Zfはちょうど良い大きさで,ファインダーを覗きながらの作業がやりやすくてよいです。

 ただ,ISO感度については散々言われたZfcの使い勝手の悪さがそのまま残っていて,ISO感度の自動設定との折り合いがよくありません。

 前後のコマンドダイアルは固くなったことと,指の引っかかりが強すぎてちょっと痛いので,あまり使いたくはありません。特にフロントのコマンドダイアルは指が自然に届かず,出来るだけ使わないような設定に変えてしまいました。

 前板の下側にあるボタンは特等席のボタンで,かつてF3ではAEロックでした。有効に使いたいのですが,私の場合,さっと握ると小指があたるので,大事な機能にはアサイン出来ません。

 あと,これはZfcもそうなのですが,ドライブモードやAFモードの切り替えがメニュー呼び出しなので非常に面倒です。Zfcは機能的に貧弱なので切り替えも必要なかったのですが,Zfは本気のカメラですので,これらの機能の切り替えにさっとアクセス出来るインターフェースが欲しい所です。

 グリップは握りやすくて,F3を彷彿とさせる物があります。握りやすいことと関連があると思いますが,フィルムカメラに比べて厚みがあって,これが握りやすさや安定感を増すことに繋がっていると思います。

 ただ,この厚みは結構不細工で,もっと薄く作る事にこだわって欲しいと思いました。特にLCDのバリアングルですが,これがなくなる代わりに薄くなるなら,私は喜んで薄い方を選ぶでしょう。

 EVFはZの伝統で相変わらず見やすく,我慢を強いられません。OVFの方が見やすいのは事実なのでOVF並になったとまでは言いませんが,このEVFで不満の出ることはありません。

 これら操作系のダイアルやボタンやEVFの良さを下支えしているのがプロセッサのEXPEED7だと思います。このプロセッサはZ8やZ9で使われている最新のものですが,おかげで動きがキビキビしていて,まるでメカニカルカメラを使っているような瞬発力を感じます。

(4)そのほか

 気になったこと,気に入らなかったことをちょっと書いておきます。

 まず電池。EN-EL15a/b/cが使えると言われているのですが,同梱の電池は空っぽなので,届いてすぐに撮影は出来ません。ならば早速充電をと思うのですが,充電器が同梱されていません。じゃどうするかといえば,本体にUSBから給電して充電です。

 ただ,これだと予備バッテリーを常備して撮影不可能な時間をゼロにするという運用が出来なくなってしまうので,どのみち充電器は必要になるんじゃないでしょうか。

 それから電池の種類についてです。EN-EL15系というのは名機D800で登場したバッテリーで,多くの機種に使われている電池です。ですが,内蔵されたセルの仕様が変わったことと,サードパーティー品を排除する対策が入った事で,無印/a/b/cの4つで相互互換性があるとはいえません。

 Zfでは無印が使用可能な電池から外れたのですが,私の手元にはD800を買ったときの予備バッテリーとして用意した無印があります。そこでこれをZfに入れて見ました。

 結果はNG。使用可能な電池を入れて下さいと怒られてしまいました,ほんの一瞬EVFが映るんですが・・・残念です。

 無印はD850に取っておき,EN-EL15aはZfとD850で使い回すことにします。

 そうそう,アイピースは丸形です。いやー,ニコンはよく分かってますね,この丸いアイピースが高級機の証であることを。Zになって丸いアイピースをどうするのかと思っていたのですが,Z6とZ7では角形に統一,しかしZ9で復活し,Z8はZ9と同じものを流用ということで,F時代と同じように2系統に分かれてしまいました。

 Zfcでは無理矢理丸いアイピースにしたのですが,Zではちゃんと丸い物が付けられています。ただ,昔は視度補正レンズが別に必要だったこともあって丸くなければならない理由もあったのですが,今は視度補正は内蔵されていますので,本当は丸い必要はありません。

 ここで,アイカップなんかが昔のように出てくれればうれしいのですが,かつては高級機から廉価なモデルまでくまなく用意されたアイカップが,Zでは全く用意されていないのです。誰も欲しくないのかなあ。

 私は昔からアイカップがないとダメな人なので,可能な限り装着しているのですが,ZfcでもF3時代のアイカップ(DK-2)を無理矢理貼り付けていました。

 Zfでも同様にアイピースに無理矢理DK-2を接着して使っています。サードパーティー品ではZ9ように大げさな形のアイカップが売られていたと思いますが,こういうプレーンなアイカップは,もうみんな必要ないと思っているのかもしれません。

 LCDのバリアングルについても1つ。実はZfcでは,LCDのヒンジの部分が割れるという持病がありました。中古品では結構な割合でひびが入っているそうですが,幸い私は割れることはありませんでした。

 力がかかりやすいこともそうですし,もしかすると材料や設計の問題かも知れないのですが,それにしてもあのヒンジの部分だけ出っ張っているのが気になります。ぶつければ割れてしまうものなので,Zfでは改良されているだろうと思っていました。

 しかし全く同じ構造です。材料など見えないところでの対策が入っていることを願ってやみません。


(5)最後に

 レトロな外観を纏った,最新の万能選手がZfです。気軽に買える金額ではなくなりましたし,その点で万人にお勧め出来るモデルとは言えないのですが,あらゆる表現に我慢を強いられない,本気のカメラだと思います。

 先にも書きましたが,デザインで売るのか性能で売るのかという二者択一の考え方は視野は狭く,そのどちらもという考えには私もはっとさせられました。

 そして,そのデザインというのも,可愛いとか懐かしいとか,そういう話ではなく,実際に使ってわかるのはその使いやすさです。カメラの長い歴史の中で,様々なデザインや操作性が世に問われたものの,今なお我々のイメージに残り続け,愛されているデザインは,FM2などのクラシックなデザインです。

 これは,持ちやすさや操作の仕方が理にかなっていること,合理的かつ直感的であることに尽きると思います。100年前のように,操作系がメカ設計の都合で決まった時代を乗り越え,今のように電気で操作系を自由に配置できる時代が来ても,今なお右肩にはレリーズボタンとシャッター速度ダイアルがあるのです。

 Z6の後継機が,Zのデザインでいずれ登場するでしょう。その時このZfとの棲み分けは,デザインの違いというよりも,どっちの操作系がお好みですか?という,ユーザーの使い勝手で選ばれるのではないかと思っています。

 ちなみにお値段のお話ですが,私はZfcとDXフォーマットのレンズ(18-140mmと24mm),それからあまりに大きすぎて使い道がないFマウントの200-500mmを処分して,約23万円を作りました。これならあと4万円ほど上乗せすればZfを買えるということで,今回は早々に予約を入れました。(D850は壊れるまで使うつもりです)

 Zfcと18-140mmが意外に高価だったことに驚いていますが,こうやって自分のライフスタイルの変化や環境の変化に合わせて機材の入れ替えをするのもまたカメラ道楽の楽しみです。

 他にもまだまだ試せていない機能も多く,なにより撮影枚数も少ない中で,これからどんどん出来る事が増えていくでしょう。Zfcの時は最初から諦めていたことが,Zfでは余裕で出来ることも多いわけで,時代の進化によるものと,クラスが上級に上がった事によるものに加えて,シャッターの小気味良さやダイヤルの感触の良さという官能的な部分で,Zfを楽しみたいと思います。

 

XD-S260の修理

 先日からカセットやLPレコードなどの音源をデジタル化してFLACにするということをコツコツとやっているのですが,この作業はとにかく時間がかかるのが問題です。

 楽しい音楽ならいいのですが,必ずしもそうではないところが「すべての音源」を目標にすることの厳しさで,まるでお経を聴いているかのような気分になることもしばしばです。

 だから途中で嫌になってやめてしまうのですが,数年するとまた「そろそろやるか」と重い腰を上げることになります。今回もわりとそういう間隔で始まった気がします。

 ここで数年というブランクが引き起こす悲劇があります。FLACにしたファイルの格納場所を忘れてしまい,デジタル化していないと勘違いしてもう一度取り込みをやり直してしまうことです。

 今回も,ふとDATの音源を探してみると,なんとMP3に変換した物しか見つかりません。当時はMP3で圧縮するのが容量的にベストであったとしても,今はそんなことで情報量の欠落を言い訳出来ません。やり直すしかないなあと,うちのDATデッキに目をやります。

 うちのDATデッキは,ソニーのDTC-59ESJと,アイワのXD-S260です。XD-S260の方が先に購入し,DTC-59ESJはいよいよDATが市場から消えるというタイミングで,バックアップとして買いました。

 このXD-S260は私にとっては画期的な一台で,これが当時のエアチェックの問題のすべてを解決してくれたのでした。

 FM放送を録音することをエアチェックといいました。今でこそFM放送は録音する価値などないものになりましたが,1980年代や1990年代は,FM放送でしか聞けない音源が流れていました。代表的な物はスタジオライブでしょうか。

 特にNHK-FMのスタジオライブは,当時でも音の良さで定評のあった505スタジオで録音されたものが毎週かかっていて,出演者のレベルの高さと相まって,本当に素晴らしい音源でした。今でも楽しく聴けてしまうのがすごいです。

 問題はこれをどう残すか,でした。もちろん,FM放送をそのままカセットに録音すれば良いだけなのですが,1時間の番組を切れ目なく録音することは出来ません。必ず裏返す必要があります。

 しかし,きっちり30分で演奏を切ってくれるわけもありませんし,裏返す時間がかかってしまうと,次の演奏の頭が切れます。それに,ただただ裏返しただけだとB面の録音時間が短くなってしまいますから,出来ればギリギリ,ベストなのはB面を巻き戻してから録音することです。(この点で言えばオートリバースデッキは役に立たない機能だったと言えます。)

 最後まで録音できなかったという最悪の事態はもちろん,ライブですから,MCも含めて切れ目がないのが楽しいのに,切れ目があるととても残念ですよ。

 そこで,一度出来るだけ長い高音質のテープに録音し,あとでダビングすることを思いつきました。とはいえ,当時のカセットデッキはA-450と,ジャンクの再生専用の改造カセットデッキだけですし,高音質のテープに120分のテープは売られていませんから,90分のテープを使っても,どっかで一度は裏返す必要があるのです。(裏返すのではなく別のテープの交換すればよかっただけではないかと,今思いつきました・・・)

 ところが,そうやって時間の問題を解決しても,ダビングによる音の劣化が問題です。まともなカセットデッキがなかった当時はもう深刻で,せめてメタルテープが使えたらと何度持ったかしれません。(A-450はメタルテープは使えないのです)

 ある日,日本橋でアルバイトをしていた私は,休み時間に近くのニノミヤムセンのオーディオ売り場を見ていました。すると,特価品としてXD-S260が忘れもしない,39800円で売られていたのです。夢にまで見たDATが,たった4万円で買える!

 悩むことなく買って帰ってから,その素晴らしさに感動しました。DATは標準録音時間がが120分ですから,1時間の番組など余裕です。16ビット/48kHzのリニアPCMですから,FMの音なんか「そのまま」です。いわば,私のためだけに再放送を何度もやってもらうような感覚なのです。

 ここから劇的にスタジオライブの録音品質が向上しました。当時の録音を聴いていると,A-450しか持っていなかった時でもDATからの録音だと十分音楽として聴くに堪えうるものが残っています。

 使っていて思ったのは,XD-S260はなかなか優秀で,ミニコンポサイズで安っぽい外観ではありましたが,音質もナチュラルでしたし,なんといっても信頼性が抜群でした。ドロップアウトもほとんど経験していませんし,DATにありがちなテープを傷めることはなく,安心して使うことが出来ました。

 その割には動作はキビキビしており,DTC-59ESJ等ではイライラさせられることもしばしばです。

 DATは,一応互換性は保たれている物の,やはり録音したデッキで再生するのが一番安定します。XD-S260で録音されたテープが多いのですから,XD-S260を出来るだけ維持しておきたいと思うのも人情です。

 一度,大がかりなレストアを数年前にやってはいるのですが,この時はベルトの交換と電解コンデンサの交換だけでした。電解コンデンサはこの当時の常として四級塩電解コンデンサの漏液がありましたが,基板の破損まではなかったので軽く見ていたのです。

 今回,久々にXD-S260を引っ張り出してみたのですが,やはり動きません。

 あれ,なんで私ワクワクしてるんだろう・・・・

 そんなわけで,修理開始です。症状はテープのトレイが出てこないからスタートです。

 トレイが出てこないのは想定内で,これはベルトが切れているか緩んでいるかです。交換すれば済むだけの話なので簡単で,あとは外観を綺麗にしたら終わりかなあなどと緩く作業をやっていました。

 しかし,テープが無事にロードされても,再生をしようとするとCAUTIONが出て全く動きません。これはなかなか面倒な事になってきました。

 注意して見ていると,早送りや巻戻しは出来る時があります。しかし再生は全くダメで,テープが回っている様子もありません。ということはキャプスタンかピンチローラーです。
 
 指でキャプスタンのモーターを回してみますが,なにから擦っているような感触があります。キャプスタンもーたーをメカデッキから取り外してみると,やはりローターがなにかと擦れているようです。

 モーターの故障ですから,普通はここでもう終了なのですが,諦めないのが私の良いところ。モーターを分解して見ると,ステーターのコイルに擦れた跡があります。何らかの理由で,どうもローターとコイルが接近しすぎたようです。

 理由が思いつかないのも気持ち悪いですが,ローターのマグネットを貼り付けた両面テープが膨らんだとか,コイルが広がったとか,いろいろこじつけることは出来るでしょう。とにかく擦れないようにスムーズにキャプスタンを回すことが最優先です。

 よく観察すると,キャプスタンの端っこを固定するベアリングは,スリーブの先端にねじ込む構造になっていて,ネジロックのペイントで固定されています。ここを調整すればいいんじゃないかと回してみますが,すでに目一杯回っています。ぐいっとねじ込んだらローターの擦れは軽減されますが,どう頑張ってもこれが限界です。

 本当に仕方がないので,壊す気持ちで紙やすりで削り,ネジがもう少し奥まで回るようにしました。これで組み立てると擦れることはなくなりました。

 しかし,あまりスムーズに回りません。どうも,ねじるときに歪んでしまったようで,軸受が一直線上に並ばなくなってしまったようです。モーターにとっては致命的でしょう。

 これももう仕方がないので,スムーズに回る向きと角度を出しながら,少しずつ指で曲げていきます。かなりスムーズになったところで深追いはやめました。やり過ぎると,ポロッと折れてしまいますからね。

 で,この修理したキャプスタンとモーターをメカデッキに戻してみますが,ローディングが完了せず,時間表示も出ないうちにCAUTIONが出ます。これもまた厄介です。

 よく観察すると,ドラムが回転していません。おかしい。再生でなくとも,ローディングした最初にはドラムは回っているはずです。そうしないと時間を読み取ることが出来ないからです。

 ということは,ローターを回すモーターです。ローターから出るフレキを見ると,もう切れそうになっています。何度も付け外した結果です。

 ルーペで見ると,1本は既に切れているようです。フレキ切れは致命傷ですが,この頃のフレキは太いので修復が可能です。フレキの被覆を削って銅箔を出し,ここに直接細いウレタン線をハンダ付けして修復です。

 組み立ててみるとローターは回っており,ローディングから時間の表示まで問題なく進みます。これで治ったかなあと思ったのですが,再生すると3秒ほどでCAUTION表示が出て止まります。いや,テープのたるみもなくて,なにもCAUTIONになるような状況はないんですが・・・

 早送りも巻戻しも7秒ほどでCAUTIONですので,これはリールのセンサだろうと思いつきましたが,センサ自身がどこにあるのかわからなかったのと,きっと光学式だろうからちゃんと回路図を読まないとダメだろうなと,ここで一度諦めました。

 翌日,回路図を眺めつつ,海外のオーディオ機器の修理趣味人が集まる掲示板を見ていると,全く同じ症状をXD-S1100という機種で経験し,修理を完了した人を発見しました。

 XD-S1100はXD-S260の兄弟モデルで,メカデッキと主要な電気回路は共通です。この人によると,巻取側か供給側のどちらかのリールのセンサからの入力が基板の腐食で断線していて,これをくっつければ治ったということでした。

 回路図を追いかけると,確かにリールセンサはTR8とTR9というトランジスタで受け
マイコンに入っています。早速マイコンとトランジスタとの接続を見ますが,ここはOK。

 続けてセンサが繋がるコネクタとトランジスタを見ますが,こちらもOK。ならばとトランジスタ周辺の回路を見ていると,供給側のリールセンサ出力とTR8のエミッタ(つまりGND)との間に入る22kΩの抵抗が浮いているようで,エミッタはGNDに繋がっているのに,抵抗は断線してGNDから浮いています。

 これが原因です。おそらく電解コンデンサの漏液で,電解液が基板を腐食し断線を招いたのでしょう。抵抗の値も25kΩとおかしくなっていたので交換し,抵抗とエミッタと配線して繋ぎました。

 組み立てて試すとバッチリOK。再生も巻戻しも早送りも問題ありません。ドロップアウトなどの経年劣化による症状もなく,すっかり元通りです。

 丸一日ずれ込みましたが外観を綺麗にして,それからベトベトになったACコードも交換して,修理完了です。

 これで気持ちよく使えるなあと思っていたのですが,一部耐久性の良くない酒類のテープでドロップアウトが発生してしまうようです。同じテープはDTC-59ESJでは跳ばないので,再調整が必要になっているのだと思います。(DTC-59ESJは再調整を数年前に行っていますがXD-S260は全くやっていません)

 しかし,通常のテープは全く問題ありません。夢のDAT同士のダビングも出来るような環境に戻ったことに満足し,このプロジェクトは終了。

 ちなみに,MP3にしてしまったという音源は,再録音を終えた後でサーバーの置くからFLACになった物が発掘され,結局DATを修理する意味がなくなってしまいました。

 XD-S260の調子は以前ほど良くはないようです。DTC-59ESJの調子が良いのでまだ安心していられますが,もう30年も前のメカものですからね,いつ壊れてもおかしくありません。

 でも,DATは私の音楽生活を一変させた,夢のマシンです。ゆっくりゆっくりテープが回って,そこからとんでもない音が帯出すという不思議な体験は,今もってしても新鮮な感激があります。

 メカですから,いつかは壊れます。致命的な故障は簡単に起きるでしょう。それまでは,なんとか維持しておきたいと思います。修理は楽しいですしね。

 そうそう,そういえば,XC-HM86がまた壊れたようなんです。新品を買ってすぐに壊れた時と同じ,CDのトレイが出てこないというやつです。

 この時はモータードライバの破損という事だったのですが,あまりに修理がずさんで新品に変えてもらうというすったもんだがありました。

 同じ問題がまた起きたので,調べてみると同じような故障が頻発しているようです。傾向不良というやつですね。設計ミスなのか部品の不良なのかはわかりませんが,回路図を見る限りこんなところが壊れまくるというのは,メーカーの設計技術も下がった物だと思います。

 代替品で修理出来るかと思いましたがそういうわけにもいかないようで,同じ部品を手配中です。11月上旬には届くと思いますので,届き次第修理に取りかかりましょう。

 

DL-103の針交換

 なんやかんやで私の話のネタになることが多い,浅からぬ縁の山下達郎さんが,満を持してアナログ盤で過去のアルバムを復刻させるというニュースを小耳に挟んだのが春頃のことだったと思います。

 なにもめんどくさいLPを,しかも4000円も出して買うもんか,と思っってほったらかしていたのですが,発売が近づくにつれ,どういうわけだか広告を目にすることが増えました。

 発売後も目につく広告に閉口し,ええいチラチラと鬱陶しいと,もう10年ぶりくらいに渋谷のタワーレコードに出向いて「FOR YOU」と「RIDE ON TIME」を買ってきました。そして,勢い余って「GREATEST HITS」まで予約してしまい,これで文句はなかろうと,私の中では解決済みの話になっていたのでした。

 時は流れ,9月末に予約していた「GRATEST HITS」が発売になったのですが,今年の夏は特に暑く,お作法の厳しいアナログ盤を聴こうという気が起きませんでした。それに,きっとこの暑さですから,カートリッジのダンパーのゴムがグニャグニャになっているに違いありません。もう少し涼しくなってから,という言い訳には十分です。

 かくして朝晩が少し肌寒く感じるようになった先日,ようやく重い腰を上げてアナログ盤を聴くことにしたのです。

 ところが,前回アナログ盤を聴いたのがもう4年も前の話。ちゃんと音が出るのかも怪しい中で,のんびりと準備を始めることにしました。カートリッジは邦楽ですから,もうDL-103一択です。

 身に覚えのないイコライザアンプの改造を分解して知った時には,「アルツハイマー病になるとこんな感じなんかなあ」と考えてみたり,グレースのトーンアームは右と左が逆になってることをすっかり忘れていたりと,なかなかスムーズに事が運ばない中でようやく音出しです。

 しかし,音を出してみると,左右の音量のバランスがおかしいです。片方だけ2dBくらいレベルが低いです。レベルを合わせてみても,どうも高音の伸びが悪く,周波数特性もアンバランスになっているようです。

 カートリッジをSPU#1に交換するとバランスは正常になりますので,問題はDL-103になると考えて良いでしょう。2時間ほど再生していると左右の音量バランスは1dBくらいになってきたのですが,相変わらずヌケが悪くて,これは我慢なりません。

 針の寿命でこういうことが起きるという話はあまり耳にしませんので,きっとダンパーの劣化か,内部機構の故障でしょう。

 こういう場合,カートリッジ本体の買い直しとなるわけですが,幸か不幸かDL-103はMCカートリッジで,針交換はすなわち本体交換です。MMカートリッジの針交換ほど安くはないのですが,本体を買うよりも随分安いので,DL-103所有者の特権とも言えるかも知れません。

 値段を調べると34000円ほど。うーん,以前このくらいの価格でDL-103を買った覚えがあるのですが,あれから何度も値上げがありましたし,致し方ないか・・・

 そんなことより,在庫です。在庫があれば店頭でその場で交換してもらえるはずですが,在庫というのはあくまで針交換用に準備された本体であり,通常の製品とは区別されています。交換品の在庫を持っているお店なんかそうそうあるわけなく,期待しないで調べていると新宿や秋葉原のヨドバシにあるじゃないですか。

 新宿なら1時間かかりません。DL-103を購入したのが2007年5月ということですので,今年で16年を経過していますから,新品に交換するというのも良い選択です。ちょっともったいない気もしますが・・・

 ということで,先日の日曜日の午後,DL-103の針交換品を購入してきました。

 久々の新宿だったので疲れてしまいましたが,戻ってきて早速取り付けて聴いてみましょう。

 どこかで読んだのですが,DL-103は,針交換をする度に感動する,らしいです。果たして,私も感動してしまいました。そう,DL-103の音です。

 新しいカートリッジに交換すれば,音が良くなって初めて感動するものです。しかし,今回はあくまでDL-103の元の音に戻っただけであり,良くなったわけではありません。それでもこの感動はなんでしょう,変わらないことに対する驚きでしょうか。

 工業製品ですし,ばらつきもあれば,長年の製造で材料が変更されることもあります。そんな量産品の宿命を乗り越えて,変わらないこと,つまりいつも同じ音を出すと言う安定性や信頼性を特徴の1つとしていることが,素晴らしいと感じました。

 DL-103の良さは,なにも足さずなにも引かず,刺激の少ない自然な音をそのまま出す事にあり,それはもちろん体験済みです。これい加えてよく言われるのが安定性や信頼性ですが,これを今回味わうことができたと思います。

 確かにMC-20もSPUも素晴らしいのですが,あれこれ交換しても結局最後にはDL-103に戻してしまいますし,録音していつも聴く音源にするときにはDL-103を選んでいますから,DL-103に対する信用というのは,絶対の物があるんだなと思います。

 悪く言えば地味な音ですから,DL-103には音をグレードアップするという魅力はありません。しかし,この高いレベルで標準器が存在し,それが長年変わらず生産されて入手が容易であることは,実は改良品を作る事よりも難しいんじゃないかと思いました。

 私のように,アナログ盤をたくさん持っておらず,聴く機会も環境もそんなに整っていない人間にとって,カートリッジを持つことの意味は,その違いを楽しむことにあります。

 違いを楽しむには,標準的なものが1つ定まっていなければなりません。それがこのDL-103なんだと思います。

 おそらくですが,針を折ってしまうとか,断線するとか,そういうことでもない限りDL-103の針交換品を買うことは,もうないでしょう。ですが,価格が上がっても,DL-103が作り続けられて,今と同じように入手も容易であることを願ってやみません。そう,日本にはDL-103があるのです。

 

GX-Z9100EVのメンテ

 さて,私の相棒GX-Z9100EVですが,右チャネルの録音が出来ない問題はさすがに放置できず,とりあえず分解することにしました。

 しかし,何度か録音を続けているうちに正常に録音出来るようになってしまいました。問題が出なくなってしまったので対策が打てなくなってしまい,残念ですがこの件はこのまま終了してしまいました。

 これでしばらく使っていたのですが,巻戻しと早送りが満足に出来ない問題が気になって不便で,これはもうアイドラーゴムを交換しないといけないだろうと,交換用の部品を手配しました。

 久々のメカデッキの分解ですのでもう忘れていますが,ヨタヨタしながらアイドラーを交換し,メカデッキを組み立て直します。が,なかなか上手く組めません。こんなに下手だったかなあと呆れてしまいますが,2時間もかかってどうにか組み立てました。

 次は起動時のカタカタ対策です。モード切替カムの調整不良と考えて,サービスマニュアルに従ってVR1とVR2を調整しますが,むしろ悪化してしまいました。プーリーを触ってみるとピタッと止まるので,単なる調整不良とは言えないようです。

 ちょっと詳しく書きますが,モード切替カムにはボリュームが同軸に繋がっていて,回転角に応じた電圧が制御回路に入ってきます。各モードに応じた電圧がマイコンによって生成されますが,これとボリュームが作った電圧が一致するようにサーボがかかってモーターが回転してモードが切り替わるという仕組みです。

 このサーボというのがミソでして,カタカタ音というのは行きすぎと戻りすぎを繰り返してしまうことで発生しています。行きすぎと戻りすぎというのはつまりサーボの発振ですから,位相かゲインを調整しないと根本対策は難しいです。

 では劣化が進むとなぜカタカタ音がするのかといえば,おそらくこれはベルトが緩むからだと思います。ベルトがきついと回転負荷が大きく,これにあわせたゲインでは当然問題はありませんが,ベルトが緩むとゲインが大きすぎて発振するというわけです。

 調整点をずらすなどいろいろ試しましたが,カムの位置がずれるなら本末転倒ですし,かといってベルトはまだまだ使えますから,ここはサーボのゲインを落とす事をやってみました。R420の300kΩを小さくするとゲインは下がります。そこで820kΩをパラ付けしたところ,カタカタ音はなくなり,ピタッとカムが所定の位置からずれることなく止まるようになりました。気持ちいいですね。

 本当はアジマスも調整したいのですが,ちゃんとしたテストテープもありませんし,これでこれまでのテープの再生に支障が出てしまえばそれも悲しいですから,実害がないうちはこのままでいくことにします。

 これでまだデジタル化できていないテープを再生して取りこんでいくのですが,さすがに録音から30年も経ているとテープそのものの劣化も進んでいます。レベル変動も左右別々で起きますし,そのことでDolbyも正しく動いてはくれません。カビなどはありませんが,前回(2016年)に行った時に比べて,やはり劣化は進んでしまっているというのが印象です。

 前回はすべてのテープを録音することが出来ずに途中で投げ出してしまいましたが,今回はそういうことを言ってはいられません。とりあえず手元にあるテープはすべて取りこんで,どうしても程度の悪いもの(こういうものが出てきたのも今回の録音が初めてでした)でCDが手に入りそうなものはCDを買うと言うことを行うようにしました。

 それにしても,1990年代中頃,土曜日の夜にNHK-FMで放送されていたジャズのライブ番組をたくさん残してあったのですが,そのクオリティの高さには驚くばかりです。今や大ベテランとなった方々がまだ30代という脂ののった時期に行ったライブは,とても貴重だと思います。

 すでにこの番組はなくなっているようで,とても残念な気がするのですが,結局CD化されているものについては後でお金を出せば手に入るわけで,お金を出しても手に入らないFMのライブ番組というのはとても貴重なものだったと思えるだけに,こういう点だけは昔の方が良かったなあとしみじみ思います。

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