ニコンZ f(Zとfの間にはスペースが入るのが正しいようなのですが,これだとZとfみたいになるので,以後私はZfと書きます)を買いました。予約開始と同時に予約したので,発売日の午前中に手に入りました。
Zfcが登場した時に,いずれはフルサイズでクラシックデザインのカメラが出ることを多くの人が予想したし,私も期待もしたわけですが,そのZfcがよく売れたこともあり,満を持して登場したのが,フルサイズのZfです。
Zfのなにが素晴らしいといって,Zfcの時とは違い,ZfがZ5のような下位モデルをベースに外側だけ交換したモデルではないということです。外側はFM2をモチーフにしながら,中身は実はZ6クラスの最新モデルであり,性能にも軽快さにも妥協がなく,間違いなくこのクラスにおけるニコンの最も新しい技術が盛り込まれた,戦闘力の高いモデルなのです。
Zfの売りはデザインなの?性能なの?と聞かれたとき,その両方!と答えたニコンはすごいと思いましたし,同時に無茶をするなあとも思いました。Zfcは間違いなくデザインに振ったモデルであって,質感であるとか性能的なものには妥協が強いられました。
しかしZf,どうですか,この質感の高さ,この性能の高さ。
同時に値段も本格的なものになってしまいましたが,それも含めて「最新のカメラとして真面目に買う」モデルになっていると思います。誤解を恐れずに言えば,ライトユーザーや初心者,ちょっと別の入り口からカメラに興味を持った人たちの受け皿としての役割は,もうないといってよいでしょう。それはZfcの仕事ですし。
ということで,Zfです。
Zfはクラシックなカメラのデザインを纏った,本格的なミラーレスです。2400万画素クラスのフルサイズはミラーレス一眼カメラの激戦区ですし,Z6IIはもちろん各社本当に良いカメラが揃っています。性能と扱いやすさのバランスがちょうど良く,私も最もカメラらしい万能選手が揃っていると思います。Zfはその最新機種なのです。
お値段も本格的になっていて,実売価格は約27万円。円安が進んだこともあって数年前なら23万円くらいだった(だって10年前のα7って15万円だったんですよ)と思うのですが,それはまあ仕方がありません。
決して私はバーゲンプライスとは思いませんが,27万円に相応しい質感と性能を備えていることは間違いありません。つまり,27万円に期待するものは十分備えているという事です。
ということで,最新の高性能カメラを昔のUIで使う楽しみを味わいつつ,レビューです。
(1)質感とデザイン
Zfcは全体にプラスチッキーで,ちゃちな印象を受けました。しかもダイアルもグラグラしていましたし,レリーズボタンも遊びが多く,それ以外のボタン類のクリック感も良くないものでした。
しかしZfはそれらがすべて解決しています。中身が詰まっていそうな密度感,触れた時に感じるヒンヤリとした質感,指にしっかりかかり,精度良く確実に回転するダイヤル,そして適度な反発力と底打ち感のあるレリーズボタン,上品なクリック感とストロークを持つボタン類,すべてが上質で,触っていたいという感覚が沸いてきます。
サイズも私にはちょうど良くて,少し大きめのフィルムカメラを触っている感じです。それからあまり誰も触れないのですが,右側のグリップは,F3のそれとそっくりです。特に側面に繋がる部分の処理がうり二つで,ここの処理はF3を見た時に私が感心した部分の1つなのですが,私は,Zfは本当はF3になりたかったんだろうなと思いました。(ZfはFM2でもF3でもなく,Zfシリーズなのです)
デザインそのものはZfcの踏襲ですが,大きさが変わっているのでそのままというわけではなく,辻褄合わせの細かい処理が散見されます。そもそも大柄なFMやFEシリーズなんてのは世の中には存在しないわけなので,FMらしさをこの大きさから引き出すのは,結構大変だったんじゃないかと思います。
それこそ,潔くF3やF2のようなデザインテイストにすればすべて解決だったと思うのですが,ニコンがやりたかったのはF3やF2を復活させる事ではなく,あくまでクラシックデザインの「Zシリーズ」を作りたかったわけで,そういうブレないところもニコンらしくて私はとても良いと思いました。
Zfcでは,デザインに軸足を置いたせいで操作性が犠牲になっていました。Zfもそうしたきらいはあるのですが,大きさが変わったことで操作系のゆとりも出来た事で,随分と楽に操作ができるようになりました。
どちらかというとZfcは派生モデル,飛び道具的な位置付けで,悪く言えばそれは卑屈に見えたりしたのですが,ZfはもうZの中核をなす新しいカテゴリであり,実に堂々としていると感じます。全体にそういう雰囲気を纏っていることが,私はなにより素晴らしいと感じています。
(2)画質と基本性能
画質は文句なし。2400万画素クラスですのでトリミング耐性は低いですが,ダイナミックレンジも広く,発色も素晴らしいですし,ノイズも低く高感度特性も高いです。
ぜひ触れておきたいのがモノクロモードの搭載です。以前からモノクロ撮影を行うモードを持っていますが,一々メニューから切り替えないといけないこともあり,私も使ってきませんでした。
しかし,Zfではシャッター速度ダイアルの下に動画と静止画と同じスイッチで,モノクロの切り替えが行えるようにしてきました。動画撮影を同列ですよ。
そしてこのモノクロは,3つのモードが選べるようになっています。モノクロはどの色をどの濃さで表現するかという問題に加えて,白から黒にどういうカーブで変化するかという2つの要素が絡み合ってなかなか難しい世界です。
カラーの場合,実物との比較(あるいは記憶との比較)が可能で,比較対象に近いことが一応の正解となるわけですが,モノクロの場合色という情報の欠如が大きすぎて,どんだけ頑張っても実物には近づけません。
なので,もはや最初から撮影者が伝えたい情報を取捨選択することが求められるという芸術性の高さがモノクロ写真にはあると思うのですが,これを積極的に楽しんで欲しいというのが,Zfを作った人の想いのようです。
使ってみましたが,モノクロは楽しいです。フィルムによって随分結果が変わるのがモノクロですが,自分の考える結果がそのまま出てきた時の感動は大きな物があります。
Zfでは,ディープモノクロームが私のイメージに近く,これがデジタルカメラの手軽さで手に入るのは素直にうれしいと感じました。しかもミラーレスらしく,ファインダーがモノクロになってくれると言うのですから,モノクロ撮影の難易度がぐっと下がってきます。
これまでもこうしたモノクロモードを備えたカメラはありましたが,私はどれも遊びでちょっと使った程度で終わっていました。しかしZfでは案外積極的に使っていくことになるかも知れません。欲を言えば,もう少し階調が滑らかなモードがあったらいいなと思います。
AF性能も良くなっています。D850を使う私にとっても,もう十分なものがあると思います。顔とか飛行機とか認識出来るようですが,そんなことより基本性能としてのAF精度や速度がここまで来たことが感慨深いです。
手ぶれ補正はZシリーズ最高の,まさかの8段。あの大きなセンサーを動かして8段もの補正をするというのですからすごいなと思いますが,実際オールドレンズを装着してもぴたーっと像がファインダー内で吸い付くのを見ると,恐ろしささえ感じてしまいます。D850にVRレンズの組み合わせよりもスペック上も体感上も上です。
私自身は手ぶれ補正が強力になっても,被写体ブレがある以上はシャッタースピードを下げられないと思っていますので,その恩恵は限定的と考えていますが,レリーズの本体ブレを強力に押さえられるというのは魅力的な一方で,ますます1枚1枚をラフに撮影してしまうんじゃないかと心配になります。
そして連写速度。連写速度は重要ではないと言う人が多いですが,数字の問題と言うより,その連写に対応出来る骨格と筋肉を持っていることが重要であり,それは連写をしない場合でも,剛性感とか信頼性とか精度とか,そういう全体的な性能に大きく影響します。連写は使わなくても出来るモデルを私なら選びます。
ZfはなんとJPEGで最大7.8コマ/秒,露出が安定しないらしい拡張モードではJPEGで14コマ/秒という速さです。これらはいずれもメカシャッター時ですので,私の言う骨格と筋肉という観点ではこの数字が重要になるのですが,確かにこの速度を実現するだけの機構が入っていることを感じさせるのが,シャッター音です。
Zfcのパシャコンという感じの間延びした音に対し,Zfはカコンという感じの切れ味のいい音がします。この音はかなりいい音で,どんどんシャッターを切りたいと思わせるものがあります。
連写速度の高さ,そして最高シャッタースピードが1/8000秒というのももはや上級機レベルであり,明らかに一山越えたところの表現力を身につけているといえるでしょう。
(3)操作性
操作性はZfcを踏襲しているので,Zfcユーザーだった私にとっては,良い面も悪い面もそのまま継承という感じです。
私は,せっかくZfcなんだからと積極的に軍艦部のダイアルを使っていましたから,Zfでもダイアルを中心にした使い方をしています。Zfcでは本体が小さくて,ファインダーを覗きながらシャッター速度を変更するのがちょっと大変だったのですが,Zfはちょうど良い大きさで,ファインダーを覗きながらの作業がやりやすくてよいです。
ただ,ISO感度については散々言われたZfcの使い勝手の悪さがそのまま残っていて,ISO感度の自動設定との折り合いがよくありません。
前後のコマンドダイアルは固くなったことと,指の引っかかりが強すぎてちょっと痛いので,あまり使いたくはありません。特にフロントのコマンドダイアルは指が自然に届かず,出来るだけ使わないような設定に変えてしまいました。
前板の下側にあるボタンは特等席のボタンで,かつてF3ではAEロックでした。有効に使いたいのですが,私の場合,さっと握ると小指があたるので,大事な機能にはアサイン出来ません。
あと,これはZfcもそうなのですが,ドライブモードやAFモードの切り替えがメニュー呼び出しなので非常に面倒です。Zfcは機能的に貧弱なので切り替えも必要なかったのですが,Zfは本気のカメラですので,これらの機能の切り替えにさっとアクセス出来るインターフェースが欲しい所です。
グリップは握りやすくて,F3を彷彿とさせる物があります。握りやすいことと関連があると思いますが,フィルムカメラに比べて厚みがあって,これが握りやすさや安定感を増すことに繋がっていると思います。
ただ,この厚みは結構不細工で,もっと薄く作る事にこだわって欲しいと思いました。特にLCDのバリアングルですが,これがなくなる代わりに薄くなるなら,私は喜んで薄い方を選ぶでしょう。
EVFはZの伝統で相変わらず見やすく,我慢を強いられません。OVFの方が見やすいのは事実なのでOVF並になったとまでは言いませんが,このEVFで不満の出ることはありません。
これら操作系のダイアルやボタンやEVFの良さを下支えしているのがプロセッサのEXPEED7だと思います。このプロセッサはZ8やZ9で使われている最新のものですが,おかげで動きがキビキビしていて,まるでメカニカルカメラを使っているような瞬発力を感じます。
(4)そのほか
気になったこと,気に入らなかったことをちょっと書いておきます。
まず電池。EN-EL15a/b/cが使えると言われているのですが,同梱の電池は空っぽなので,届いてすぐに撮影は出来ません。ならば早速充電をと思うのですが,充電器が同梱されていません。じゃどうするかといえば,本体にUSBから給電して充電です。
ただ,これだと予備バッテリーを常備して撮影不可能な時間をゼロにするという運用が出来なくなってしまうので,どのみち充電器は必要になるんじゃないでしょうか。
それから電池の種類についてです。EN-EL15系というのは名機D800で登場したバッテリーで,多くの機種に使われている電池です。ですが,内蔵されたセルの仕様が変わったことと,サードパーティー品を排除する対策が入った事で,無印/a/b/cの4つで相互互換性があるとはいえません。
Zfでは無印が使用可能な電池から外れたのですが,私の手元にはD800を買ったときの予備バッテリーとして用意した無印があります。そこでこれをZfに入れて見ました。
結果はNG。使用可能な電池を入れて下さいと怒られてしまいました,ほんの一瞬EVFが映るんですが・・・残念です。
無印はD850に取っておき,EN-EL15aはZfとD850で使い回すことにします。
そうそう,アイピースは丸形です。いやー,ニコンはよく分かってますね,この丸いアイピースが高級機の証であることを。Zになって丸いアイピースをどうするのかと思っていたのですが,Z6とZ7では角形に統一,しかしZ9で復活し,Z8はZ9と同じものを流用ということで,F時代と同じように2系統に分かれてしまいました。
Zfcでは無理矢理丸いアイピースにしたのですが,Zではちゃんと丸い物が付けられています。ただ,昔は視度補正レンズが別に必要だったこともあって丸くなければならない理由もあったのですが,今は視度補正は内蔵されていますので,本当は丸い必要はありません。
ここで,アイカップなんかが昔のように出てくれればうれしいのですが,かつては高級機から廉価なモデルまでくまなく用意されたアイカップが,Zでは全く用意されていないのです。誰も欲しくないのかなあ。
私は昔からアイカップがないとダメな人なので,可能な限り装着しているのですが,ZfcでもF3時代のアイカップ(DK-2)を無理矢理貼り付けていました。
Zfでも同様にアイピースに無理矢理DK-2を接着して使っています。サードパーティー品ではZ9ように大げさな形のアイカップが売られていたと思いますが,こういうプレーンなアイカップは,もうみんな必要ないと思っているのかもしれません。
LCDのバリアングルについても1つ。実はZfcでは,LCDのヒンジの部分が割れるという持病がありました。中古品では結構な割合でひびが入っているそうですが,幸い私は割れることはありませんでした。
力がかかりやすいこともそうですし,もしかすると材料や設計の問題かも知れないのですが,それにしてもあのヒンジの部分だけ出っ張っているのが気になります。ぶつければ割れてしまうものなので,Zfでは改良されているだろうと思っていました。
しかし全く同じ構造です。材料など見えないところでの対策が入っていることを願ってやみません。
(5)最後に
レトロな外観を纏った,最新の万能選手がZfです。気軽に買える金額ではなくなりましたし,その点で万人にお勧め出来るモデルとは言えないのですが,あらゆる表現に我慢を強いられない,本気のカメラだと思います。
先にも書きましたが,デザインで売るのか性能で売るのかという二者択一の考え方は視野は狭く,そのどちらもという考えには私もはっとさせられました。
そして,そのデザインというのも,可愛いとか懐かしいとか,そういう話ではなく,実際に使ってわかるのはその使いやすさです。カメラの長い歴史の中で,様々なデザインや操作性が世に問われたものの,今なお我々のイメージに残り続け,愛されているデザインは,FM2などのクラシックなデザインです。
これは,持ちやすさや操作の仕方が理にかなっていること,合理的かつ直感的であることに尽きると思います。100年前のように,操作系がメカ設計の都合で決まった時代を乗り越え,今のように電気で操作系を自由に配置できる時代が来ても,今なお右肩にはレリーズボタンとシャッター速度ダイアルがあるのです。
Z6の後継機が,Zのデザインでいずれ登場するでしょう。その時このZfとの棲み分けは,デザインの違いというよりも,どっちの操作系がお好みですか?という,ユーザーの使い勝手で選ばれるのではないかと思っています。
ちなみにお値段のお話ですが,私はZfcとDXフォーマットのレンズ(18-140mmと24mm),それからあまりに大きすぎて使い道がないFマウントの200-500mmを処分して,約23万円を作りました。これならあと4万円ほど上乗せすればZfを買えるということで,今回は早々に予約を入れました。(D850は壊れるまで使うつもりです)
Zfcと18-140mmが意外に高価だったことに驚いていますが,こうやって自分のライフスタイルの変化や環境の変化に合わせて機材の入れ替えをするのもまたカメラ道楽の楽しみです。
他にもまだまだ試せていない機能も多く,なにより撮影枚数も少ない中で,これからどんどん出来る事が増えていくでしょう。Zfcの時は最初から諦めていたことが,Zfでは余裕で出来ることも多いわけで,時代の進化によるものと,クラスが上級に上がった事によるものに加えて,シャッターの小気味良さやダイヤルの感触の良さという官能的な部分で,Zfを楽しみたいと思います。