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2014年02月の記事は以下のとおりです。

第2種電気工事士の資格

 第2種電気工事士の免状が昨日手もとに届きました。これで名実共に,家の中の電気配線をいじることができます。

 なぜこんな資格を取ったのかと言えば,いろいろ動機はあるのですが,根底にあるのは今私が持っている知識や技術で,十分取得可能な公的な資格があるんじゃないかと思った,ことにあります。

 この歳ですから,今からわざわざ受験勉強に全力投球するなどは,もう無理です。若いときと違って頭も硬くなっていることですし,今から新しい事を学ぶのはなかなか大変です。

 資格の取得というのは,そもそもそうした努力を必須とするものであるが故に値打ちがあるわけですが,幸いにして私が今あるものを使って資格が取れたら,あるいはちょっと勉強したり,知識の整理をしたりするだけで合格出来るなら,それはお得だなと思う訳です。

 とはいうものの,自分の力がどの資格に相当するのかは,試してみるまでわかりません。試験に落ちれば私の力はそれ以下ということになるのですから,言い換えると自分の力を推し量る客観的な指標として,資格試験が利用出来そうです。

 そんな気持ちで,何度か資格試験を受けていますが,今回は電気工事士をターゲットにしました。電気工事士は2つのクラスに別れていますが,上級資格である1種は実務経験がいるので私には無理,自動的に2種になります。

 2種でできることは,概ね一戸建ての家屋の電気配線です。よく,電気工事は資格がないと出来ませんよ,と言われますが,その資格が電気工事士です。

 工業高校卒業程度を想定した比較的簡単な資格試験で,その割には役に立ちそうな資格という事で,以前から狙っていたものでありましたが,最大の難関は実技試験があることです。

 工事士なんですから,知識だけじゃなく実務も出来ないとそりゃまずいわけです。しかもその実技試験は形式的なものではありません。課題そのものは簡単ですが,なにせ試験時間が短く,手際よく作業しないとまず間に合いません。失敗してやり直す時間もないので,慎重さも求められ,少なくとも工具類は手足のように使えないとまずいでしょう。

 ですが,これをむしろ楽しむというくらいの気持ちで,今回チャレンジすることにしました。

 申し込みは昨年の春先でした。試験は春と秋の2回行われ,それぞれ1次試験である筆記試験に合格すると,実技試験を受けることができます。私の場合,春には引っ越しをひかえていて,準備どころではないという状態でしたから,自動的に秋の試験を選びます。

 引っ越しと新しい生活に慣れること,娘の病気と怒濤の日々が過ぎ去る中で,夏休みを過ぎたあたりには,さすがの私も焦りが出てきました。一応見ておこうと買った問題集をパラパラとめくってみると,見たことのない図記号,聞いたこともない専門用語,理屈じゃなく暗記しないといけないことがたくさん目に付きます。

 やばいですね・・・なめてました。

 せっかく受験するんですから,受かりたいですよね。ちょっと頑張って見ようと思ったのがお盆もあけた9月の頭でした。

 まずは過去問題を,なにも勉強しないでいきなりやってみます。わからないところは勘でやらないで空欄にして0点にします。そうして採点をすると,大体半分くらいの正答率です。これでは全然合格しません。

 そこで,分からないところを重点的に勉強します。独特の言葉,記号や道具を覚えること,計算問題はちゃんと原理から導き出せるようにします。

 その結果,正答率が8割を超えるようになったのが9月末くらい。一番大変だったのは図面の問題で,図面からどんな工事が必要なのか,どんな部品を使うのかを聞かれるのですが,これは全く初めての分野ですので,ゼロからの勉強になりました。

 試験の直前には9割くらいの正答率になり,これならまあ大丈夫だろうというレベルにきました。試験会場は行ったこともないへんぴなところにあったので,ここにたどり着けるかどうかが,方向音痴な私にとって実は最大の難問であったと言えました。

 結果は無事に合格。自己採点で結果が出る前に合格していることがわかっていたので,とっとと実技用の工具セットと,練習用の材料セットを手配します。

 こういうのは,早めに用意しておかないと売り切れたり,高いものしか残っていなかったりするので,早めに動く事が肝心です。工具類については,早めに買って使っておくと,それだけ慣れる時間が確保出来ますし。

 しかし,これも私はなめていました。

 まず,単線図と呼ばれる試験問題の図面から,実際の配線図である複線図に書き換える作業がとにかくつかめず,あえいでいました。なんか独特の世界なんですが,それも別に文化と言うほどのものではなく,ちゃんと法律で決まっていることだから,仕方がないのですが・・・

 それもなんとかねじ伏せて,実際に作業をやってみますが,今度は全然時間が足りません。何か忘れたことに気が付いたら,そこでもうアウトです。

 とにかく複線図への書き換えを2分ほどで「確実」に行い,あとはゆとりを持って手が覚えるまで工具を使い,ひたすら作業です。

 幸い,実技試験はあらかじめ公表されている13問からしか出題されません。私は丸暗記は苦手なのですが,13問ですから出題範囲は自ずと限られます。13問の問題を3回ほどまわして,やがて30分程度ですべての作業をきちんと終えられるようになりました。

 とはいうものの,筆記試験と違って,ミスは1つでもあると不合格,軽微なミスでも3つまでしか許されていません。言い換えると完璧を求められる世界です。これはなかなか緊張しますね。

 その上実技試験が怖いのは,当日のちょっとしたアクシデントです。慣れているはずの作業をうっかりミスしてやり直しが発生し時間がなくなり焦って全滅とか,工具を忘れた,工具を壊した,指をけがした,などなど,リカバリが難しいことも考えられます。

 そういう場合はもうジタバタしないで,さくっとあきらめることも肝要でしょう。それくらいの緩い気持ちで臨まないと,しんどいですし。

 実技試験はお台場でしたが,私はこのお台場というところがどうも苦手で,人は多いし広くてわかりにくくて,距離感も方向もつかめません。方向音痴の私にとっては,もう目が見えないのと同じくらいの厳しさです。

 ここは大人の対応をしようと,駄目と思った瞬間にタクシーを使いました。これで余裕です。

 果たして実技試験は,周辺の人達に比べても早く完成し,そのクオリティも万全と言えるものでした。複線図の書き間違いや勘違いなどがなければ,まず合格するでしょう。

 こればかりは自己採点できませんので,合格発表を待ちますが,結果は合格。手応えがそれなりにありましたので,ほっとしたというのが感想でした。

 そして,免状の申請を2月の中旬に行いました。新宿の都庁に出向いて手続きです。綺麗で小柄な若い女性が同じように免状の申請に来ていて,電気工事士をこんな女の人が取るんだなあと,生暖かい目で見ていると,彼女が申請していたのは第1種でした。うむむ,実務経験もあるのか・・・すごいな。

 ようやくにして免状が届いたのが,昨日です。これで私の長い闘いは終わりました。

 受けようと思ってから1年,家族の理解を得て準備を始めて半年,時間も手間もお金もかかった資格でした。難易度云々より,これは長期戦に耐えられるかどうかが試されているなと思いました。

 免状を手にしたら,もう私は電気工事士です。大きな顔をして自宅の電気工事が出来ます。

 例えば,スイッチが壊れたから交換しよう,トイレの照明が気に入らないから買い換えよう,キッチンの照明をLEDに変えよう,LEDダウンライトの寿命が来たから交換しよう,などが全部自分で出来るようになります。最近は部材も通販で安く早く簡単に調達できますし。

 ただし,資格があることと,上手に工事が出来ることとは別の話です。資格があっても壁に穴を開けるのに失敗すれば,素人工事なってしまいます。

 なにせ,うちは電気で動くモノがたくさんある家です。コンセントが慢性的に不足していますし,その場所も必ずしも最適化されていません。不細工で危険なタコ足配線が,すでにあちこちに散見されます。

 これをスッキリさせる作戦を今考えていますが,まず簡単にできることは,2口のコンセントを3口のものに交換することです。これで1つ増えます。作業は数分です。

 それでも駄目な場合は増設ですが,これも例えば1連のものを2連にすれば,壁の穴を広げるだけで大丈夫です。一番大変なのは新しい場所に新設することです。

 なにせ新しい場所に穴を開けますので,あけたところで柱があったとか,電線を引っ張りこめないとか,そういうことがあるとどうにもならなくなります。

 穴を開けることそのものに失敗するかもしれません。大きすぎた,斜めになったなど,鈍くさい私にはあり得る事故です。

 こういう大がかりなものは,ちょっとやめておこうとおもいます。まずは3口コンセントに交換することから始めてみようと思います。

 そうそう,いわゆる就職に役立つかどうか,です。一応公的な資格ですし,資格がないと出来ない作業があるもので,かつ電気は我々の生活になくてはならないものですから,資格がないよりはあった方が,仕事をするのに有利だとは思います。

 とはいうものの,試験に実技試験があることが示すように,資格の有無以上に工事のうまさが最重要なわけで,そのスキルは経験で得られるものですから,有資格者でも経験豊富な人でないと意味がないのが現状でしょう。

 まして,高卒で取得するのが一般的な資格なだけに,歳を取ればその分経験も豊富につめるわけですから,40歳を過ぎて未経験では,余程の事がない限り有利になんかならないでしょう。

 ということで,例えば爆発的な人口増加で急激な住宅建設ラッシュがやってきて,とにかく有資格者をかき集めないといけないとか,それこそ徴兵制でも始まって(そもそも40歳過ぎの人間を徴兵する時点でもう負け確定なわけですが),資格があると工兵部隊を希望出来るとか,そういう事でもない限り,ありがたみ(?)はないんじゃないかと割り切っています。要するに,自分の出来る事を広げるだけのもの,ということですね。

 さて,次は何を取ろうかなあ。
 

Blu-ray導入はポータブル型で

  • 2014/02/25 15:47
  • カテゴリー:散財

 さて,昨日USB3.0増設の話で書いた,BDドライブ導入の話です。

 民生用光ディスクはBDが最終になるだろうという話,そのドライブもかなりこなれてきて値段も安く,いろいろな種類のものが買えるようになってきたこと,そしてこの時期を逃すと選択肢が少なくなっていくんじゃないかという気持ちもあり,導入を検討しました。

 どうせ光ディスクは消えゆく運命にあるわけですから,以前はこのままBDなど導入しないで,HDDベースでいこうと腹をくくったこともありましたが,光ディスクというのは案外耐久性があるということ,機械ものではないので信頼性があるということ,25GBというサイズは案外使いやすいんじゃないかということで,使ってみる気になったのです。

 ついでにいうと,今のMacは光学ドライブが搭載されていません。MacBookは言うに及ばず,iMacでも未搭載です。OSが正式にDVDまでしかサポートしませんし,アップル自身が光ディスクでソフトを供給しなくなったので,その必要性はなくなったというのが言い分でしょうが,世の中にはまだまだ光ディスクで供給される情報があります。

 それに,CD-DAやDVD-Videoという音楽や映像のパッケージメディアは,当分なくなりません。今家にあるものが駄目になるのは,随分先でしょう。

 いつも必要なものではないから,外付けというMacのポリシーは合理的な考え方だと思います。そういう点でも,1つくらいポータブルの光学ドライブがあってもいいかなと思ったのです。

 さっそく機種選定を始めますが,BDではパイオニア一択です。最初は5インチのバルクを買うつもりでしたが,それは使い道が限られますので,ポータブルがやっぱり欲しいと思い,BDR-XD05という昨年秋に出たものを買うことにしました。8500円ほどです。

 ざっとスペックを並べると,USB3.0,BD-Rを6倍速で書き込み,4層のBDXLに対応します。バスパワーで動き,ポータブルBDドライブとしては世界最軽量の230g,本体サイズ133x14.8x133mmという小ささで,手に取ってみるとCDのケースみたいです。

 ケースはアルミに綺麗な塗装がなされていて,とてもきれいです。質感も高く,いい意味で想像を裏切られました。ただ,アクセスランプの光がケースの隙間から漏れるのはいけません。これ,誰か気が付かなかったんでしょうかね。不細工です。

 早速使っていますが,まだBD-Rを焼いたことはありません。読み出す事はばかりですが,多少汚れていても問題なく読み取る性能はさすがです。

 しかし,先日のUSB3.0カードは電源供給能力が低く,バスパワーでは怖くて動作させられません。そこで,外付けの電源を用意します。見れば,5Vで2AくらいのACアダプタならよいそうで,探してみるとちょうど良いものがありました。

 最初,極性が逆になっていることに気が付かず,動かないなあと思っていたんですが,途中で気が付いて配線を入れ替えて対応しました。問題なくセルフパワーで動いており,システムプロファイラでも200mA必要なデバイスとして認識されています。

 読み出すだけならこれでいいんですが,書き込みを考えるとMacでどうやってかき込むかです。一応古いTOASTがありますが,これはBD-Rにギリギリ対応したくらいの時期で,最新のドライブに対応しているかどうかわかりませんし,BDXLは絶望的でしょう。フリーのライタを使うか,書き込む時はPCを使うかくらいしか考えつきません。

 買い物のついでに,BD-Rを30枚ほど,BD-REを20枚ほど買っておきました。今必要なことではないのですが,とりあえずBD-REの試し書きをMacBookAirで行ったところ,電源供給能力の問題から,エラーで止まりました。リードは別にして,ライトについては安定した電源が必須で,ACアダプタは必ず必要になるような感じです。

 BDについていろいろ考える機会になっているのですが,例えばCDは配布メディアとして誕生し,その後ライトワンスやリライタブルを可能にする技術が生まれて実用化されました。それゆえにCD-RやCD-RWでの混乱は少なかったように思います。

 DVDでも配布メディアが前提でしたが,この時はライトワンスやリライタブルの技術がまだまだ発展途上であり,様々な方式が提案され,多くの規格が実用化されて混乱状態にありました。これはひどかったですね。

 BDではその反省から,先にリライタブルメディアを決め,その後配布メディアを作るというアプローチにしたことで,DVDのような混乱は起きませんでした。

 けど,冷静に考えて,もともと光ディスクの利点って,まるで印刷のような流れ作業で短時間に大量のディスクを量産できることにあるわけですよね。かつてテープメディアが全盛を誇っていたころ,これが配布メディアになり得なかった理由は,ダビングに時間がかかってしまったことにあります。

 だから,BDって,本来の姿を見失っているなと感じます。50GBの容量の器を大量に生産できる仕組みは,今のところBDしかありません。HDDが安くなっても,フラッシュメモリが安くなっても,この優位性は変わらないでしょう。

 配信になるといらないという意見もありますが,50GBのデータを仮に100MByte/secの速度の出ているネットワークでダウンロードすると考えても,ざっと10分ほどかかるわけですよ。

 これほど高速なネットワークを維持するにはお金もかかります。もっと遅い速度のネットワークしか使えない人はまだまだ多いと思います。ですから,webサイトから欲しいBDをポチって,その日のうちに玄関先に届くことがそんなに不便なこととは思えません。

 もし,BDのメリットが失われる事態が来るとしたら,大量生産大量配布に意味がなくなるときです。つまり,同じ内容のものが大量に必要とされない時がやってきたら,その時こそ配信の時代が来たといってよいでしょう。

 BDは混乱がなかったと書きましたが,厳密にはウソですね。カートリッジに入っていた第1世代のBDと,その後出たBDとの間には,同じBlu-rayといいつつ,互換性がありません。ファイルシステムも違うなんて,もう詐欺でしょ,これは。

 HD-DVDとBDとの戦争は,BDの勝ちという事になっていますが,正しくはどっちも負けです。どちらもこけて,次に出てきた実質的な次世代規格が市場を制したというのが,ちょっと斜に構えた私流の解釈です。

MacBookProにUSB3.0を用意する

 先日ACアダプタが壊れたMacBookProですが,もうしばらくうちのメインマシンとして使うにあたり,心許ないのが外部ストレージです。

 1つには大容量の光学ドライブ,もう1つは接続インターフェースです。

 前者はBlu-rayディスクへの対応ですが,正直なところ,いまさら片面1層で25GB程度の光学ディスクが焼けたところで,手間ばかりかかって大したメリットはありません。

 大容量のHDDが安く買える今,すでに光ディスクの役割は終わったなあと,磁気&光メディア大好きの私は寂しい思いをするわけですが,この考えを少し変える出来事がありました。

 2002年頃に導入した,HDD/DVDレコーダーで録画した番組を発掘したことです。

 あれから10年を経て,DVD-Rにかき込まれたテレビ番組をPCでコピーしH.264に変換していたのですが,それなりに読めるんですね。もっとも読み込みをあきらめたものもありますが,ほとんど大丈夫でした。

 HDDにこうした番組を記録しておいたとしても,きっと読み出す事なしに,消えていたでしょう。また,容量が大きなHDDは壊れると被害も大きく,実は正月明けに2TB近いデータが消失し,そのフォローに1ヶ月もかかったことがありましたが,この時に大容量HDDの怖さを思い知ったのです。

 25GB程度に小分けされたデータであれば,1枚2枚読めなくなっても大部分は救えます。機械部分が別体になっていて,その気になれば新品を調達出来る光ディスクのシステムは,その点でとても合理的です。

 加えてBD-RはDVD-Rと違い,無機材料を使って作ります。有機材料を使うCD-RやDVD-Rは紫外線や温度変化に対しての変質が起きやすく,保存性がいまいちだったわけですが,BD-Rはこの点で期待が持てます。

 MacOSXでは正式サポートのないBDですが,次世代光ディスクのアナウンスがなく,民生品としての最終品になるであろうBDを,こなれてきた今導入するのは良い機会と言えるでしょう。

 で,BDの導入の話は後日。

 もう1つ,接続インターフェースです。

 HDDがSATAに移行して久しく,内部接続用途としては決着が着いた高速インターフェースですが,外部用についてはまだまだ規格の乱立が続いています。勝者USB2.0はすでに時代遅れになりましたが,その椅子を狙ういくつかの規格のうち,最近USB3.0が頭一つリードしている感じです。

 私も,HDDが1TBを越えたあたりで,インターフェースの見直しを行ったのですが,結論はeSATAでした。当時はこれが最速であったこと,HDDのSATAとほとんど変わらない信頼性を持つこと,そしてMacBookProで用意出来ることが理由でした。

 安定性と言えば,express cardで増設を行う以上,非常に不安定です。最初期は数回に一度は必ずフリーズし「カーテン」がするすると降りてきましたし,今でも不安定なときがあります。Macにおいて安定するのはやはりFireWireであり,標準装備でドライバも完備しているという純正の安心感は,何にも代えがたいものがあります。

 大事なデータはFireWire800で運用していますが,eSATAの魅力は裸のHDDをそのまま繋いで使えること,なにより高速であることです。しかし,eSATAはあくまでHDDを繋ぐためのものであり,カードリーダや光学ドライブを繋げるのは一般的ではありません。

 MacはThundervoltを採用していますが,世の中の流れは明らかにUSB3.0です。USB3.0の対応機器が増えて,非常に安く買えるようになってきました。最新のMacなら対応出来るこれらの機器を,なんとか私のMacで使えるようには出来ないものでしょうか。

 ちょっと調べてみると,express cardでUSB3.0を増設する方法があるようです。

 以前検討したときには,まだまだ安定せず,高価で,接続機器が限定されたり,ドライバが専用だったりと,手を出すには早いという感じがありました。

 ところが今は状況がかなり変わって来ています。そこで,express cardという難易度の高い仕組みを使って,新機能の追加をしてみることにしました。

 思い起こせば,PowerMac7600にUSB2.0をつけたり,ATAを増設したりと,随分延命をしたことが懐かしいです。あのころはPCIを使って,安いPC用のカードを使って楽しんでいたのですが,やっていることは全く同じですね。

 さて,MacBookProのexpress cardでUSB3.0を使うにはドライバが付属したものを買うか,PC用の安いものを買ってドライバを別途用意するかの2つに別れます。前者は確実ですが高価ですし,ドライバの更新がそのメーカー任せになるので,陳腐化する心配があります。

 後者は言うまでもなく非対応機器ですから,駄目で元々です。しかもドライバの導入はかなり危険で試行錯誤が不可欠,うまく動いているように見えて実は駄目でしたという事を見抜く目も必要なので,技術と時間がないと出来ません。

 その代わり安いし,最新デバイスを使えるし,ドライバもうまく選ぶと常に更新されたものを使えたりしますので,こちらの方が知的好奇心を満足できることは間違いありません。

 私はもちろん,PC用のカードを使います。ざっと状況を調べます。

 まず,ドライバは3つの方法で用意することが出来そうです。1つは他社製のカードのドライバをそのまま使う,あるいはApple純正のドライバにパッチをあてる,最後の1つは有志で作られた汎用のドライバを使うことです。

 そして,カードそのものについては,チップが実質ルネサスのuPD720200シリーズに限られていることから,あまり気にしなくても良さそうです。

 動作実績や価格,出っ張りがないことや入手性から,いつもの玄人志向から選びます。PITAT-USB3.0R/EC34という製品で,チップは最新のuPD720202です。価格は2000円ほど。amazonで買える便利さがいいですね。

 土曜日に届きましたので,早速検討開始です。

 まず,他社製のドライバをそのまま入れて見ます。LaCieのドライバを入れて見ますが,これで動いたという報告とは裏腹に,全然動かず。まあ当たり前ですね。

 次にApple純正のドライバにパッチを当ててみます。IOUSBFamily.kextの中にあるAppleUSBXHCI.kextを,パッチを当てたものと入れ替えます。パッチはカードのIDを変更するのが目的です。

 この方法だと,express cardを認識し,ドライバがロードされていることが確認出来ました。システムプロファイラでも,USBにSuperSpeedと表示されているので,動いたと喜んでいたのです。

 ところが,実際にカードリーダを繋いで見ても,全然動いてくれません。接続時に点灯するLEDも消えたままですし,システムプロファイラでも接続されていないことになっています。

 これは,カードが壊れているか,ドライバがおかしいか,どっちかです。壊れているならお手上げですから,とりあえずドライバを入れ替えることにします。3つ目の作戦,有志が作った汎用のドライバです。

 結論から言うと,これで動きました。

 導入は実に簡単で,有名なMultiBeastを使います。

 まず,tonymacx86のサイトにユーザー登録。次にMultiBeast-Mravericks6.1をダウンロードし,起動します。ここからUSB3.0用のGenericなドライバをビルド&インストールし,再起動です。

 再起動後,USB3.0カードを差し込んでシステムプロファイラを見れば,ドライバもロードされ,USBもSuperSpeedで認識しています。

 ここにカードリーダを差し込むと,ちゃんと動作します。ぱっと見たところUSB3.0として動いていそうです。

 しかし,電力不足はいかんともしがたく,USB3.0対応のポータブルBDドライブはスピンアップでこけます。セルフパワーにすると動くようになるので,注意しないといけません。

 気をよくした私は,最も需要の高いD800用のコンパクトフラッシュの読み込みを,従来のexpress card経由からUSB3.0に移行させようと考えました。USB3.0でCFおよびSDに対応し,CFはUDMAに対応していることが条件で,ざっと探してバッファローのBSCR17TU3が2400円ほどで買いました。

 早速,お約束のベンチマークです。USB3.0でちゃんと動いているのか,express card経由の方が有利なのか,そのあたりが気になるところです。

 まず,express card経由での速度を取り直します。環境も変わっていますからね。使うCFは前回と同じで,D800に使っているWINTECというアメリカの会社の製品で,3FMCF64GBP-Rというものです。容量は64GB,リードは90MB/s,ライトは45MB/sとうたっています。

Sequential
Uncached Write11.00 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write9.20 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read15.64 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read78.87 MB/sec [256K blocks]
Random
Uncached Write0.88 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write8.72 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read7.40 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read74.16 MB/sec [256K blocks]

 以前取ったときよりも全体に速度が落ちていますが,それでも256kのリードが80MB/sec近く出ています。シーケンシャルでもランダムでも余り差がないのは,ブリッジチップに起因するんじゃないでしょうか。

 次に,USB3.0です。これは2回測定しました。

Sequential
Uncached Write31.51 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write30.81 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read6.28 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read92.46 MB/sec [256K blocks]
Random
Uncached Write0.80 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write17.27 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read4.90 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read54.03 MB/sec [256K blocks]

Sequential
Uncached Write27.24 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write23.66 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read6.25 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read92.36 MB/sec [256K blocks]
Random
Uncached Write0.81 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write17.41 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read4.88 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read53.95 MB/sec [256K blocks]

 まず,256kのシーケンシャルリードが90MB/sec越えですので,USB3.0で動いていることは間違いないと思います。読み取ったデータも問題なく扱えていますので,正しく動作しているとみて良いでしょう。

 express card経由との比較は傾向がつかめず,ちょっと難しい所です。シーケンシャルリードは高速ですが,ランダムリードは25%近くも遅いです。そうかとおもうとシーケンシャルのライトが3倍も速かったりと,よくわかりません。

 確かによくわかりませんが,このくらいの読み書き速度が出ているなら,わざわざexpress card経由で読み書きする必要はありません。安心ですし,CFとSDが同じカードリーダで扱えるようになるメリットは大きいです。

 ついでに,SDカードも測定してみました。GRに使っている,トランセンドの32GB,SDHCのclass10,UHS-Iに対応するものです。

Sequential
Uncached Write21.67 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write26.36 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read4.78 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read41.85 MB/sec [256K blocks]
Random
Uncached Write0.77 MB/sec [4K blocks]
Uncached Write3.54 MB/sec [256K blocks]
Uncached Read3.74 MB/sec [4K blocks]
Uncached Read35.84 MB/sec [256K blocks]

 CFと比べてみますと,リードは遅い一方で,ライトはそんなに悪くありません。これはNANDフラッシュの速度がボトルネックになっているからでしょうね。

 後で分かったことですが,これまでよく使われていたuPD720200という初期のチップに比べて,今回私が買ったカードに使われているuPD720202という新しいチップは,USBでの転送速度が30%ほど向上し,消費電力も下がっているんだそうです。

 シーケンシャルのリードが90MB/secを越えているというのは出来すぎですが,もしかするとこのチップの性格を示しているのかもしれないです。

 いずれにせよ,USB3.0が私のMacBookProで動くようになりました。普及速度があがり,安い対応機器が入手しやすい形で提供されていることを横目で見ながらの生活はこれで終わりです。

 PCが陳腐化する3大理由は,メモリ不足,インターフェースの陳腐化,最新OSの対象機種から外れる,だと思うのですが,インターフェースの陳腐化についてはUSB3.0が動くようになったことで,もう心配はなくなりました。

 BD-Rの書き込みが出来るのか,外付けHDDがちゃんと動くのかなど,いろいろ試さねばなりませんが,少なくとも懸案だったSDカードの高速化とCFカードとの統一環境構築が達成出来たことは,大きな収穫だったと思います。

壊れたMacのACアダプタを買う

  • 2014/02/17 13:32
  • カテゴリー:散財

 2008年6月に購入した,私のMacBookPro。Ealry2008と呼ばれ,ユニボディになる前の最終モデルに該当するこのマシンは,購入から5年半を経過した現在でも主力機として,私の日常を支えています。

 バッテリーが取り外せるという事は,取り外せる機構がなければ駆動時間の短さや電池の寿命そのものが尽きることが問題なんだという裏返しで,すなわちこのMacBookProの弱点を物語っているといえるわけですが,その後出たモデルが電池をはめ殺しにした構造になっても,特にそれが大きな問題を起こしていたり,不評を買っていたりしないことを考えると,当時は交換が出来ない事を疑問視する声が大きかった事を考えると,アップルはちゃんと技術的な裏付けを行っていたんだなと,感心します。

 電池交換可能,光学ドライブ,アイソレーションタイプではない旧式のキーボード,FireWire400/800を標準搭載,ExpressCardスロットがある,MagSafe,などなど,やはり古いマシンなんだなと思う一方で,それらレガシーなものを便利に使っている私などは,最新のマシンに移行するのがためらわれてしまいます。

 6年近くも使っていますが,OSは幸い最新になりますし,それなりの処理能力があるので,快適とは言えなくても,ちゃんと私の期待に応えてくれる,頼もしいやつです。

 いつものように,ちょっと重たい処理を続けていた私は,ふと画面上の電池残量表示が50%近くになっていることに気が付きました。ACアダプタで使っているのに,電池が減るとはこれいかに。

 おかしいと思ってMagSafeを見ると,ランプが緑にもオレンジにもなっていません。消灯しています。一度抜いてもう一度刺しますが,状況は変わらず。Mac本体はACアダプタが挿されていない状態となっているようです。

 ACアダプタが動いていないと言うことですから,AC100Vを確認しますが,これも問題なし。代わりにMacBookAirのACアダプタを刺してみると,ちゃんと動きます。

 ということで,とにかくACアダプタ自身が壊れたことだけはわかりました。そうこうしているうちにどんどん電池が減ってしまって困るので,嫁さんのMacBookのACアダプタを借りてきて,これでしばらく使う事にします。

 MacBookPro付属のACアダプタは85W。MacBook付属のものは60Wで,Air付属のものは45Wです。うちにはこの3つがあるわけですが,さすがに45Wでは充電は出来ず,本体の動作が精一杯です。60Wなら処理の軽いときに充電をちょっとずつ行うようで,充電完了までに5時間以上もかかると出ています。

 6年近く前とはいえ,メモリは6GB,SSDに入れ替えてあるMacですから,まだまだ使うつもりです。ACアダプタが壊れたくらいでマシンを買い換えるのは,あまりに早計です。そこでACアダプタを買い直すことにします。

 事情通の方なら,そのアダプタはリコールかかってるよ,と親切に耳打ちしてくれるかも知れません。確かにMagSafeはコネクタの根元の設計が悪く,ねじれると網線が露出してショートすることから,無償で交換される場合があります。

 私も一瞬考えましたが,私のACアダプタを見るとねじれた様子も網線が露出している様子もなく,とても綺麗です。しかもこの交換プログラムは日本では結局アナウンスされなかったようですし,アメリカでも2012年頃に終わっているそうです。

 そもそも,大電力を扱っていた電子機器が5年以上も動き続けていたわけですから,さすがにこれをメーカーの責任にするのは気が引けます。

 交換の交渉はアップルストアに出向く必要がありますし,急いでいたこともあって,今回は新しいものをさっさと買うことにしました。

 純正品は7800円です。高いですね。以前,PowerBookで安価な互換品が出回っていたことを思い出し,amazonを探してみます。

 有名なメーカーの互換品は全然見つかりませんが,ノーブランドのものが2000円台で買えたりするようです。

 レビューを見ていると,すぐに壊れた,煙が出たなど,散々な評判です。いかに安いとはいえ,こんなものに手を出したら火事を出してしまいます。

 4000円くらいで有名メーカーの互換品があったらいいなと思っていた私は,価格と信頼性の大きな開きに,めまいを起こしていました。

 調べてみると,MagSafeの仕様が公開されなかったため,有名メーカーは互換品を投入出来なかったそうで,純正品かアングラ品の二者択一という困った状況になっているようなのです。困りました。

 もうこの際新しいMacを買うかなーとつぶやくと,嫁さんが鬼の形相で「またそういう極論を」と言いながら,私を睨んでいます。新マシン導入計画はわずか数秒で頓挫しました。

 仕方がありません。根気よくもう少し調べてみます。

 amazonを見ていると,5000円台の商品が時々目に付きます。正規品ではないのですが,互換品というわけでもないという微妙な商品です。いわく,純正のバルク品だと。

 ものが純正品なら別にどんなものでも構わないのですが,本来出回らない形でなぜ純正品が出てくるのかちょっと不安を感じつつ,3000円近く安いという現実に目が眩み,アップル純正という触れ込みの商品をポチりました。

 しかしながら,amazonのレビューは,特にマーケットプレイスの場合には,複数の業者が1つにまとめられているので,どの業者のレビューなのかわからない仕組みになっているんですね。まともな業者はとばっちりを受けるだろうし,そうでない業者は労せず良い評判を得られることになるので,我々利用者も気をつけないといけません。

 最初にお願いした業者は海外からの発送という事で,納期が2週間近くもかかってしまうことから,申し訳ないけどキャンセルさせてもらい,国内発送の業者に再度お願いすることにしました。

 途中で祝日を挟んだことと,違う住所に配達されるという事件のせいで受け取りが遅くなりましたが,なんとか入手しました。

 開けてみれば,間違いなく純正品です。ドキドキしました。もしパチモンが入っていたら,泣くに泣けません。

 当然,普通に使えます。充電もばっちり,システムプロファイラーによる診断でも,ちゃんと85Wの純正品として認識されています。発熱や発煙もなく,なんら問題なく使えています。

 価格は送料込みで5200円でした。これも少し前なら5000円未満だったらしいですが,ここのところの円安傾向で,値上がりしたんでしょう。こうしてジワジワと物価が上がっていく感じがこわいです。

 毎日酷使していますが,1週間ほど経過した現在のところ,なんら問題はありません。もうしばらくこのMacを使い続けることになりそうです。

PC雑感

 PCはいつから,こんな「面倒な存在」になってしまったのでしょうか。

 そんなことをつくづく考えさせられる事が続いています。PCという事業からの撤退や売却です。

 1980年代を駆け抜けたメーカーは,その出自も含めて強い個性を放ち,製品と共に我々ユーザーに強力なアピールを続けてくれていました。これらメーカーの動向をウォッチすることは,それ自身がとても楽しい行為でした。

 思えば,作り手も使い手も,共に模索し,成長をしていた時代だったということなのでしょう。

 しかし,気が付けば,縮小,撤退,売却と,暗いニュースばかりがウォッチされ,変化が進歩と同義である時代は,終わってしまっていました。

 TK-80を経てPC-8001,そして我が世の春を謳歌したPC-9801を生み出したNECと,PCの本家本元でありDOS/Vで日本のパソコンを根底から覆した日本IBMは宿敵のライバル同士であり,それこそ汎用機から個人用のPCまで,まさにあらゆる分野で競い合った間柄でしたが,PC事業は共に中国発祥のレノボに売却されています。この両者がボロボロになった末に同じ傘の元にいることなど,誰が想像出来たでしょう。

 日本のパソコンの先駆けであるMZ-80を世に問うたシャープもPCからは撤退,世界最高水準の半導体と汎用機をバックに持ち,日本で最初のパソコンであるベーシックマスターを作り上げた日立も法人向けをOEMで扱うだけで事実上の撤退,かつて御三家と呼ばれたパソコンメーカーのうち,今でも頑張っているのはFM-7の富士通くらいのもので,そこはさすがにコンピュータ専業メーカーの意地なんだなと思わせるものがあります。でもきっと苦しいでしょうね。

 日本初の16ビットマシンであるMulti16を投入した三菱電機は随分昔にPCからは撤退,ビジネス機からホビー機まで節操なく作っていた三洋電機は会社自体がなくなりました。

 強力な半導体開発力を持つ東芝も早くからパソコンに参入したメーカーです。でも富士通とは違ってコンピュータを作るきっかけは,その部品,演算素子である真空管のトップメーカーであったことが大きいと思うのですが,ふと見渡すと,1980年代から業態を変えずに総合電機メーカーとして生きているのは,東芝だけになってしまったことに気が付きます。

 Dynabookという固有名詞は,アラン・ケイによって創造された言葉ですが,これに(アラン・ケイの理想とは少々違ってはいても)実態を与えた東芝は,もっと評価されてしかるべきではないかと思います。

 あとはエプソンです。時計メーカーとして誕生し,プリンタで独り立ちしたこのメーカーは,時計で培った低消費電力の半導体技術を生かして,世界で最初のモバイルパソコンHC-20を生み出しましたが,PC-9801の互換機でパソコンメーカーとして強い印象を我々に与えて,今もちゃんとPC事業を営んでいます。

 そして1980年代にSMC-70という独自マシンを発売し,その後MSXでリベンジ,一方でUNIXワークステーションであるNEWSを手がけ,QuarterLという業務用パソコンから満を持してVAIOで個人用PCに再参入を果たしたソニーが,とうとうPC事業を切り離します。

 パイオニア,キヤノン,セガ,ソード,松下電器,日本ビクター,リコー,カシオなど,会社自身がなくなったり,パソコンをやっていたことすら知られていないメーカーもたくさんあるわけですが,新しい製品が市場を作り,その成長期には様々な分野からの参入が相次いで激しい闘いが繰り広げられた後,敗れた多くが静かに消えゆくという図は,別に珍しいことではありません。

 日本国内の工業製品に限った場合でも,バイクがそうでしたし,自動車もそうでした。カメラもそうですね,かつてはメーカー名の頭文字がAからZまで全部揃うと言われたほどあったのですが,今は数えるほどしかありません。

 しかし,これらとパソコンとの大きな違いがあります。メーカーは減っても製品そのものは進化を続け,その製品が十分に魅力的で,技術的にも経済的にも文化的にも先頭を走っているのか,そうでないのか,ということです。

 一言で言うと,その製品への周囲の期待度の差というのでしょうか。注目度の差というのでしょうか。突き詰めればその製品が放つ輝きの差とでもいうのでしょうか。

 PCはコモディティ化が進み,道具になったと言う人がいます。だから魅力を失ったという人もいます。しかし,本当に素晴らしい道具には,それ自身の魅力があり,大きな期待がかかるものです。果たして今のPCにそんな魅力があるでしょうか。

 似たような製品があるとすれば,電卓がそれでしょう。非常の高価なものがどんどん安く,小さくなり進化を続けて多くのメーカーが一気に参入,その後価格が下がって撤退が相次ぎ,今は数社しか残っていません。進化そのものも止まり,どこでも買えるものではありますが,どれを買ってもそんなに違いはありません。

 電卓とPCに共通するものは,それがビジネスツールであったことです。ビジネスツールに求められるのは,個人用のものとは根本的に違い,効率が優先されます。横並びで安く,必要最小限の機能があればよく,個性はむしろ疎まれます。

 しかし,業務用と個人用は,元来お互いに食い合うものではありません。例えば自動車のように業務用のトラック,ワンボックスカーやライトバンが,SUVやミニバン,ツーリングワゴンと名を変えて売られることに違和感を持つ人はいないでしょう。

 ではなぜ,PCではそうならなかったのかというと,業務用のPCをそのまま個人用に持ち込んでしまったからです。これは電卓もしかりです。

 先程の自動車の例では,トラックやワンボックスカーがそのままSUVになったりミニバンになったりしているわけではありません。初期にはそうであったかも知れませんが,進化と共に乗用車をもとにした製品に生まれ変わり,個人が所有するにふさわしいものになっています。

 PCはどうでしょうか。CPUやメモリー,HDDなどは別に共通でも構いません。自動車のエンジンやタイヤが,業務用と個人用で多少の差はあっても基本的な違いがないことと同じです。

 人に触れる部分,キーボードやマウス,ディスプレイはどうでしょうか。これは自動車で言えば,ハンドルやレバー,ペダルに相当しますが,これも多少の差はあっても根本的には違いません。むしろ違っていると同じ操作ができなくなってしまいます。

 では,残った部分,OSと,OSが提供するユーザーインターフェースやユーザー体験はどうでしょう。

 ここではっとするのは,会社のPCと自宅のPCが,いかに外観が違っていても,動き出してしまえば「全く同じもの」であることです。

 会社で表計算ソフトを使う,あるいはワープロを使う,一方家ではゲームをする,音楽を聴く,という風に違う目的で使うのに,画面も操作感も全く同じ。あのいつものWindowsです。

 PCは,その筐体を眺めることが目的ではありません。もっと言えば,操作を始めてしまえば,誰も外観など気にしません。注目するのは画面の中です。

 その画面の中は,会社でも家でも,全く同じなのです。

 果たして,それで楽しいでしょうか。面白いでしょうか,操作することそのものに,興味を持てるでしょうか。

 自動車には,目的地に人や物を移動させるという,業務用と個人用とに共通した本来の目的があることに加えて,個人用に特有である「運転することの楽しさ」と「所有することの楽しさ」があります。

 逆を言えば,運転することと所有することが楽しくないなら,個人用の自動車ではないということです。だから,どの自動車メーカーも,個人用の自動車には運転することの楽しさと持つ事の楽しさを,非常に大切な要素として貪欲に取り込んでいます。そしてそれが,自動車が単なる道具に成り下がることなく進化を続けていることにつながるのです。

 PCは,情報処理という業務用と個人用に共通の目的があります。もしPCに単なる道具以上のものを付加して進化を自動車と同じように望むのであれば,個人用のPCにはこれ以外の目的がなければなりません。

 個人用の自動車が備える目的である,運転という行為に相当するのはPCを操作することです。PCにも所有する楽しさが見いだせればいいのですが,これはかなり高度で難しいことですから,そこまでは望めなくとも,「操作することが楽しい」状況がない,それどころか,会社のPCと全く「同じ」という状況に疑問を持たず,それをずっと個人に押しつけてきた怠惰を,PCを提供する立場にある人々は,猛省すべきです。

 ここで私がメーカーと言わずに,「提供すべき立場」と書いたのは,そこにOSのメーカーであるマイクロソフトの責任が大きいとみるからです。

 マイクロソフトの大きな勘違いは,自分達がOSを独占できたことを,Windowsが万人に広く支持されたと解釈したことです。PCは生産性を向上させる道具ですから,自ずと業務用が大きな数を占めます。そこで支持されたことが,すべての人々に支持されたと勘違いしたことに,罪深さがあるのです。

 商用車のジャンルにライトバンがあります。乗用車の扱いやすさとたくさん荷物が積めるという利便性は個人用途にも魅力的で,1990年代には個人用にもツーリングワゴンとしてブームとなりましたが,この時自動車メーカーはライトバンをそのまま個人用に売るのではなく,ちゃんと乗用車として作って個人用に販売し,その期待に応えてきました。

 PCだって同じです。仕事の道具をそのまま個人に売るのではなく,個人にふさわしいものをちゃんと丁寧に作り込んで,提供することをなぜしなかったのでしょうか。

 私は,PCにおける唯一の勝者といっていいマイクロソフトの奢りがすべてであったと思います。専門家にとってWindowsを操作することは,業務用のマシンを操作することと同じ楽しさを味わえるかも知れません。しかし世の中の大半の人々は,バスやトラックを運転して楽しいとは思わないのです。

 繰り返しになりますがマイクロソフトは,業務用と個人用を分けるべきでした。同じ物をほとんど同じ状態で売ったことは,厳しい言い方をすれば個人のユーザーの感性を低く見積もった結果だと言えるでしょう。

 その意味では,PCメーカーは実質的なOSの選択肢がなかったことで,業務用と個人用を根本的に作り替えることが出来ず,限られた方法で窮屈な試行錯誤を余儀なくされたわけで,すなわち彼らもまたマイクロソフトの犠牲者だったと,言えるかもしれません。

 すでに個人は,そうした状況を意識するかしないかは別にしても,すでにPCを見限り,高性能化したスマートフォンやタブレットに移行しています。いずれもアップルが道を開いたものですが,アップルが個人に問うたのは,自らも製品を持っているPCを進化させて個人用に提供することではなく,全く別のデバイスを作り上げたことが非常に興味深いところです。

 ここで,アップルは,PCが個人にそもそも適したものではないと考えていたことに気が付きます。マイクロソフトが大きくて運転が楽しくないトラックをそのまま個人に買わせようとしたのに対し,アップルはトラックではなく,もっと小さな自動車を自ら作り,運転そのものも楽しくしました。

 PCは大きな節目を迎えています。

 かつては人間よりも快適な環境に鎮座し,専任のオペレータにお願いすることでしか利用出来なかったコンピュータはまさに神であり,オペレータは神に仕える巫女でした。

 やがて神は新しく生まれた技術によって,気付かないうちに我々の身近なところにいる存在となりますが,それでも我々とは直接会話をすることも見る事もない,特別な神のままでした。

 そんな状況の変化に気付いた一部の人々は,ただ神と直接話がしたいという知的好奇心だけを理由に,巫女を介在しない直接の対話を目指し,寝食を忘れてその作業に没頭しました。

 結果,我々一人一人が直接神と対話し,神を独占できるようになったのです。ここに至って神は,そうした熱意ある人々の,とても親しい友人になりました。

 この友人は,最初は本当になにも出来ず,ただ知的好奇心を満たすだけの話し相手に過ぎませんでした。それでも,それまで直接話をすることさえ許されていなかった互いが友情を育むのに,そんなに時間はかかりませんでした。

 この友人は,我々の想像を超える速度で成長を遂げ,少しずつ我々の可能性を拡大し,生活を豊かにしていきました。そして遂に,この小さな神が互いに繋がって世界中を覆うようになり,爆発的な速度でその能力を高めていったのです。

 そんな小さな神は,一番の理解者である親友と共に,とても幸せな時間を過ごしていましたが,そんな緩やかな時間は長くは続きませんでした。

 あるとき,驚異的な能力を持つ小さな神をみた商人が,「これはもしかするとお金儲けに使えるんじゃないか」と思いついたのです。

 神は,お金儲けを考えた人達の,その潤沢な資金と組織力によって,一気にお金儲けをするための道具に作り替えられていきました。

 そして,良き友人は,ただのお金儲けの道具になってしまいました。あらゆる商人が群がっては,その力をむしり取っていきました。

 時は流れ,その道具は特別なものではなくなり,もはやお金が稼げなくなっていました。お金を儲ける事が出来なくなった小さな神は,役立たず,穀潰し,いくらお金をかけたと思ってるんだと商人に罵られながら,あるものは潰され,あるものは外に売られていきました。

 かつて,今よりもずっと力がなかった小さな神様と,親友として過ごした楽しい時間を覚えている人々は思います。多くの人が見捨てても,我々はずっとそばにいようじゃないか。だって,我々は親友なんだから。

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