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2011年08月の記事は以下のとおりです。

OP-AMP低ひずみ選手権@自作発振器

  • 2011/08/31 00:06
  • カテゴリー:make:

 今日は思い立って,帰宅後に少し検討をしました。

 自作の状態変数型CR発振器のひずみ率が今ひとつな話は先日書きましたが,その対策としてOP-AMPを変えるとどれくらい改善するかが気になったのです。

 室温は30℃,1KHzで出力はアッテネータなしの約8Vです。OP-AMPは2つ同時に交換し,交換の度に再調整を行うことはしません。ひずみ率測定は先日動き出した歪率計を使いますが,これも室温が30℃になっていますし,調整が完全ではないので参考値として評価すべき値であることを前置きします。

・NJM4580D
 もともと指定されていた,日本を代表するオーディオ用OP-AMPです。4558系の素直な音に,低ひずみが誇らしげな定番品種で,また安いんです。
 この値は,0.00876%でした。先日よりも悪い値ですが,これが一応基準となります。

・NE5532
 便利だけどいまいち,とオーディオ用途では敬遠されがちなOP-AMPが,一気にスターダムにのし上がるきっかけになったOP-AMPです。1980年代に彗星のごとく現れ,4558しか知らなかった中学生の私にはまぶしくて直視できませんでした。当時のオーディオ機器にはよく使われたので,我々の世代は知らず知らずのうちに,このNE5532の音をすり込まれたことになりますね。
 なお,今回のNE5532は,シグネティックス製です(ちょっと自慢)。値は0.00868%です。いいんじゃないですか。

・LM4562
 秋月でもさえも1つ250円という高価な新世代OP-AMPです。圧倒的な低ひずみを誇るオーディオ用で,その評判も固まってきました。流れとしては4558系という事なので,音も私の好みかもしれません。
 値は0.00855%。さすが突出した低ひずみ率を誇る最新OP-AMPです。

・TL072
 TIが生んだ,J-FET入力OP-AMPの定番です。それまで高価だったFET入力OP-AMPを,なんと4558と張り合えるくらいに安価にした立役者です。私も大好きです。
 値はちょっと悪くて,0.00945%です。まあ,こんなもんでしょう。

・OPA2134
 こだわりのバーブラウンが生んだ,オーディオ用途を狙った低ひずみOP-AMPです。NE5532をターゲットにしたと思われるFET入力のOP-AMPですが,オーディオ以外の用途には案外使い道のない,しょーもないOP-AMPと言えるかも知れません。私にとって「BB」といえば,それはもうOPA627であり,それ以外は「その他大勢」ですが,それでも「OPA」で始まる型番には,不思議な神通力があります。なぜか面実装品が数百個あるので,もう一生かかっても使い切れません。
 値は,0.00887%です。あれ,こんなもん?

 うーん,まとめると,今時のOP-AMPはどれも低ひずみで,OP-AMPによる性能差というのは,厳しい条件でないと顕在化しない,ということでしょうか。周波数が高いとか,負荷が重いとか,負荷容量が大きいとか,そういう時に差が出るのは当然として,このくらいならそんなに差はでないんですね。

 世代が明らかに古いTL072が一番悪いですが,悪いと言ってもこの程度です。LM4562とNJM4580Dは秋月価格で5倍違いますが,性能差は(今回のケースでは少なくとも)僅かです。

 ということで,LM4562を使うほどでもないですから,OP-AMPについてはNJM4580Dで行くことにしましょう。ちゃんと調整を行ってやれば,ちょっと結果が変わるかも知れません。その時はまた考え直します。

 うーん,OPA2134がもう少しいくと思ったんだけどなあ。

 ・・・ここから先の低ひずみを狙うには,やはりAGCのFETをなんとかしないといかんということか。手持ちのFETに総動員をかけて試してみて,それで駄目なら回路変更でフォトカプラを考えて見ましょう。

1631Bの調整,VP-7201Aの修理,そして歪率計のとりあえずの完成

  • 2011/08/29 19:30
  • カテゴリー:make:

 この土日は,懸案事項がいくつか進みました。

(1)菊水1631Bの調整

 先日,400kHz-3mVという厳しい値で調整を行うのに失敗をしたという反省から,真面目に600Ω・40dBの減衰率のアッテネータを作る事にしました。

 600Ω・40dBのπ型アッテネータには,30kΩと612Ωの抵抗が必要ですが,手持ちの関係で15kΩの金皮を2本で30kΩ,612Ωは620Ωのカーボンと47kΩの金皮を使いました。標準電圧生成用のアッテネータですから,620Ωについては実測をして619Ωのものを2本選別しました。この際温度特性の悪さは目をつぶりましょう。

 こうして作った40dBのアッテネータですが,思いの外上手くできました。一応500kHzまではフラットなようです。また誤差も小さく,ちゃんと1/100の電圧になってくれています。(せっかくですので分解せずこのまま使う事にしましょう)

 土曜日の夜は涼しかったので調整を決行することにしました。室温はちょっと高くて27度ですが,まあ仕方がありません。

 この調整も何度目でしょうか。すっかり慣れてしまい,手際も随分良くなりました。アッテネータ無しで調整出来るところはさっさと済ませて,いよいよ400Hz-3mVと400kHz-3mVの調整です。

 まず,400Hzで300mVを用意します。この周波数ならマルチメータで測定できるので,300mVにあわせます。このとき負荷に600Ωをぶら下げたいので,1631Bに直結しておきます。

 そしてアッテネータをいれて,マルチメータで3mVになっていることを確認しつつ,オシロスコープでも電圧を読んでおきます。

 ここで1631BのVRを調整し,400Hzで3mVになるようにします。

 次にレンジを切り替え,400kHzにします。アッテネータ無しの状態にもどし,オシロスコープで400Hzの時と同じ電圧になるよう,発振器の出力を調整します。

 そしてアッテネータを入れます。この時,アッテネータの出力からは3mVの電圧が出ているはずです。これを直接測定する方法はありませんが,発振器の出力とアッテネータの減衰率が決まっていますので,その出力も3mVになるはずです。

 そして1631Bのトリマコンデンサを調整し,3mVになるようにします。400Hzと400kHzの調整を何度か行うと,綺麗にどちらの周波数でも3mVを示すようになります。

 いやー,気持ちのいいものです。すっきりです。

 最大の山場をクリアし,残りの調整もさくっと済ませて,予想以上に手早く終了。試しに発振器とつないでいろいろな周波数で測定してみましたが,大きなズレもなく,概ね良好な結果になっています。マルチメータの実効値にあわせてありますので,両者がほぼ一致してくれています。

 マルチメータでは300kHz以上の測定は出来ませんから,それ以上の周波数の電圧については「あってるはず」で使わねばなりません。このあたり,ちょっと自信がないのですが,基本的にはオーディオ帯域向けの電圧計と割り切って,まあ100kHzくらいまでで測定値を信用することにしたいと思います。

 ところで,発振器(VP-7201A)は,ステップ式のアッテネータがついています。VP-7201Aの0dBは1V,1631Bの0dBレンジもフルスケールは1Vですので,VP-7201Aの0dBが1Vになるよう,発振器も調整しました。これで3つの機械が一致したわけです。

 で,VP-7201Aのアッテネータを-20dBにして,1631Bも-20dBレンジにすると,100mVでフルスケールになります。これはほぼ正確です。-40dBでもほぼ一致です。

 しかし,VP-7201Aのアッテネータを-10dBに切り替えて,1631Bのレンジも-10dBにしても,メータがフルスケールである300mVを越えて,振り切ってしまうのです。うーん,1631Bが狂っているのか,それともVP-7201Aがあてにならないのか・・・

 賢明な皆さんならおわかりのように,300mVにしたいなら,アッテネータは-10dBではなく-10.46dBにしないといけません。-10dBにしただけだと3.16Vとなり,3Vを越えるため振り切って当然です。「デシベル」がわかってないなんて,情けなくてorzです。

 ということで,アッテネータを-10.46dBにすると,ほぼ0.3Vを示し,-10dBレンジでもフルスケールになりました。1631Bの場合,-10dBレンジで3.16Vを入れると0dBレンジ(1Vレンジ)のフルスケールを示すようになります。VP-7201Aも1631Bも,ちゃんと10dBを扱ってくれているんですね。安心安心。

(2)VP-7201Aの改良

 これは土曜日のうちにやったことなのですが,VP-7201Aのメインダイアルの改善をおこないました。

 というのも,私のVP-7201Aのメインダイアルは,ぽっきりと折れてしまい,全く動かなくなったことがあるからです。

 減速機構を持つメインダイアルはユニット交換ではないので,修理には壊れた部品を交換するしかありませんが,なにせ専用のメカ部品を使って作ってありますので,素人には修理は無理です。

 減速機構はなくなるけど,つまみでも付けとくか,と思っていたのですが,ダメモトでアキバでバーニアダイアルを買ってきて,無理矢理くっつけたのが,前回の修理でした。

 この時,シャフトの長さの関係で,ダイアルとボリューム軸を繋ぐジョイントを付けることが出来なかったのです。結果,ツマミを回してもすぐに周波数が変わらず,手を離しても周波数の変化が止まりません。ボディエフェクトもあるし,そもそも高価な2連ボリュームに応力がかかってしまっています。

 これはいかんと,もともとついていたジョイントを探しますが,どうも捨てたらしく見当たりません。仕方がないので,タイトカップラをサトー電気に注文しました。

 タイトカップラは,絶縁性の高い磁器の円盤の両側にバネ性のある金属を取り付け,これにシャフトを繋いでやると,左と右のシャフトが電気的にも絶縁され,かつ機械的にも分離できるという優れものです。

 こんな部品,私は写真でしか見たことがなかったのですが,今回初めて買ってみました。このタイトカップラにあわせてボリュームの位置を調整し,上手く間に挟み込むことに成功しました。

 結果ですが,なかなか良い感じです。回転は相変わらずスムーズではありませんが,これはバーニアダイアルの素性なのでやむを得ませんが,ちょっと手で触ったくらいじゃ周波数は動きませんし,手で回せばさっと変化し,手を離せばぱっと変化が止まります。

 こういう問題が解決することはわかっていたのですから,どうしてもともと付いていたジョイントを使わなかったのかと理解に苦しむところですが,当時の私がVP-7201Aをなめていたというのは,事実でしょう。


(3)歪率計をとりあえず完成

 翌日の日曜日には,電源と発振器,そしてBEFだけ出来上がり,あとはアンプ基板と全体の配線を残すのみとなった(しかしこれが一番きつい)歪率計の組み立てをしました。

 おかげさまで,2時間ほどで完成,ややこしいロータリスイッチの周辺もなんとか乗り越えました。

 ただし,この日の室温は30度近くあり,ここで調整を行うのは無理ですので,前回エアコンで25度にしたときの調整をそのまま利用して,暫定的に測定をしてみることにします。

 どうも,時々フィルタが発振したり,ノイズが乗って値が狂ったり,10%レンジで調整不良があって10%レンジでの測定値が大きく狂ったりと,問題がないわけではありませんが,1%レンジでマルチメータを繋げば,歪み率が直読できます。

 VP-7201Aの1kHzを測定すると,0.0012%。0.1%レンジでも似たような値が出てきましたので,これはほぼ実力でしょう。なかなかいいんじゃないですか。100Hzも10kHzもなかなか良いのですが,10kHzについては歪率計の周波数特性が高域で落ちている可能性があり,もし落ちていたら低めに出ますので,これは確認してからにします。100Hzは1桁ほど悪いのですが,これも50Hzのハムが載っている可能性があるので,調べてからにしましょう。

 VP-7201Aがなかなかよかった事に気をよくして,自作の発振器の測定もやっています。ところが,100Hzは発振しない,10kHzは異常発振する,1kHzは結構歪みが大きいのです。

 1kHzを発振ギリギリに調整するとかなり歪みも小さくなりますが,この時10kHzが異常発振します。そこで収束時間の調整を行うとなんとか異常発振が収まりました。しかし相変わらす100Hzは発振せずです。

 100Hzが動作しないのはハンダくずによるショートか異常発振か,まあなんかだろうと思っていましたが,OP-AMPを指で触ってみると,あっちっちです。発振を疑ったのですが,オシロスコープには何も波形は出ていません。電源電圧は+15Vが1v近く下がっています。これはおかしい。

 ハンダくずのショートを確認するために,ネジを外して基板を裏返し,目視で確認しますが問題はありません。このまま通電すると,なんと100Hzが機嫌良く発振しているではありませんか。


 ますと,金属製のスペーサが100Hzの回路の一部に接触していて,ケースと繋がっていました。OP-AMPの出力がGNDに落ちてしまい,それで発振が止まってOP-AMPが発熱,電源電圧も下がってしまったんですね。

 こういうストレスがかかった部品を計測器に使うというのもどうかと思うのですが,気を取り直して再調整,そして測定です。

 100Hzと10kHzは前述の理由で後日計り直しますが,1KHzについては0.0063%でした。まあ,悪くない数字ですが,VP-7201Aに比べて6倍も悪い数字です。100Hzでの発振を無視するのなら,0.0002%くらいまで下げることが出来ることは確認したのですが,これでは1kHz専用になってしまいますからだめです。

 もう少し良い数字が欲しいですから,この発振器の改造も視野に入れて検討したいと思います。やるべき事は2つ。1つはOP-AMPをもっと低歪みなものに交換することです。現在のNJM4580Dもかなり良いOP-AMPですが,これを例えば同じく低歪みで知られるOPA2134(手持ちがあります)にするというのも手です。ただ,面実装品なので変換基板を作らないといかんですね。それに,オーディオ用と狙ったOPA2134は,案外こうした用途には弱かったりします。NE5532や実はTL072なんかの方が良かったりしますので,これはもうやってみるしかありません。

 もう1つは,AGCにJ-FETを使わず,フォトカプラを使う方法です。これはもう回路が違った物になるので,真面目に検討しないといけませんが,もし歪みが減ったらいいなと思います。

 実は,AGCのJ-FETは,同じ品種,同じランクのFETと差し替えても歪み率が変わるくらいのものなのだそうです。言ってみれば当てずっぽうという気もしますが,それがFETを使った回路の限界と言うことかも知れません。だから他のFETに交換するだけで結果が大きく変わる可能性もありますが,それならいっそのことフォトカプラに交換してもいいかな,と思っています。

 どちらにしても,歪率計がちゃんと信用出来るようにならなければいけません。まだまだやらねばならないことがありますが,これまで見えなかったデータが見えるようになるというのは,なんと面白いことかと思います。

 完成したら,いろいろやりたいんですよね。先日作ったHT82V739のアンプやら,先日メンテしたばかりのMOS-FETアンプ,300Bのシングル,6V6シングル,5998プッシュプルなど,作ったアンプの素性を調べたくて仕方がありません。

Steve Jobsが去るとき

 テレビのニュースでも相当の時間を割いて報道された,米AppleのCEOであるSteve Jobs氏の突然の辞任。私が今さら書くことなどなにもないので,この話には触れないでおこうと思いましたが,Apple][と「二人のスティーブ」を知って30年,Macintoshを愛機として使うようになって20年,そのころから常にAppleとJobsを意識していたことを思い起こすと,やはり1つの時代が終わったと感じざるを得ず,簡単でも書いておかねばならないと思うようになりました。


 昨夜のニュースをいくつか見ていて思ったのですが,どうもJobsを「カリスマ経営者」としてまとめてしまい,変革者としての偉大な功績をたたえることに終始したが故に,その多面性を伝え切れていないように思うのです。

 彼だって人間です。特に若いときの傍若無人ぶりから,多くの敵がいたし,多くの失敗を重ねてきました。今の彼のありようは,当たり前のことですが,それら全てを包含しているのです。

 私とて,彼と友人でもなんでもなく,会ったことすらありませんから,普通の人が触れることの出来る本や映像などの情報から得られる物からの想像によるわけですが,これらに加えて30年近く前からASCIIやI/O,Oh!PCやOh!MZなどの雑誌に目を通し,そこに掲載されていた海外ニュースを通じて,経営者としてよりはむしろ,コンピュータ業界の「お騒がせ屋さん」として彼を「リアルタイム」に知っていた事実は,当時の彼がどんな評判だったかという記憶も加味して,「iPhoneの人」「プレゼンの達人」という程度の知識の今時の人々を凌駕していると自負します。

 まず,Macintoshが生まれるまでのエピソードは,バトルオブシリコンバレーというTVドラマが大変良くできていると思います。元ネタはあれだな,と思う映像がたくさん出てきますが,複数の本を読みこなすより,このドラマを2時間見た方がよほど正確で,楽しく当時の状況を知ることが出来るでしょう。ドラマの放送時点で話題になった登場人物が大変似ている,という話は本当で,「ふつう知らんぞ」と思うような一瞬しか出番のない登場人物でさえも,そっくりです。これだけでも見る価値があると思います。(アデル・ゴールドバーグはちょっと美化されてますが)

 そして,自らが口説いたScullyに追われる身になってからのJobsです。ScullyはJobsを追い出し,その割に彼が大した功績を残せなかったこともあって,評価されてはいませんが,当時のJobsは確かにAppleにとって有害であり,誰かが決断しなければならなかったことを考えると,Scullyは少なくとも自らの野心だけでJobsを追い出したのではないと思います。

 ということで,彼の「失敗」を列挙してみましょう。

(1)Apple///
 Jobsがイニシアチブを取ったApple///は,IBM-PCをに怯えてか,ビジネスよりのマシンとして企画されたが,Apple][との互換性が軽視されたこと,放熱ファンの搭載をJobsが「絶対」に許さなかったことで故障が頻発したこと,そして独自仕様のフロッピードライブの自社生産にこだわりここでも故障を連発したことで大失敗し,Appleに相当の損害を与えた。
 当時Appleを支えたApple][がなぜ売れていたのかを冷静に考えず,また裏付けのないまま直感に頼った方針決定が失敗の原因。

(2)Lisa
 XeroxのPARCで見たGUIに衝撃を受けてLisaを作ったところはさすが,であるが,そのLisaが向いていた方向が,またもやビジネスだった。ビジネスマンが当時マウスとビットマップディスプレイを必要としていたのかどうか,まずそこが疑わしい。
 日本円で100万円を越えるマシンを重役以上がデスクにおくことを狙ったそうだが,それで何台売れると考えたのか。
 またソフトは全てAppleが開発してバンドルするという方針も,ソフト会社を締め出すことに繋がっている。ハードウェアの信頼性も低く,しかも高価な別売りのハードディスクがなければ実質動作しなかった。
 ちなみにMacintoshXLに改修されなかったLisaは,砂漠に埋められたらしい。

(3)初代Macintosh
 Lisaを安くしようという流れは正しく,そのために開発された技術(QuickDrawやToolBox)も確かに素晴らしかった。しかし,相変わらず放熱ファンを許さなかった事による信頼性の低下や,拡張性を認めず,ユーザーが筐体を開くことすら許さなかったことは,Macintoshというマシンを「過信」していた事の現れである。
 この勘違いは,結果として膨大な在庫としてAppleを圧迫し,レイオフまで余儀なくされるほど深刻な事態を引き起こした。
 Jobsが許さなかった放熱ファンの採用と拡張性は,Jobsが追放されてからのマシンには搭載されるようになり,コンピュータとして評価されるようになった。

(4)NeXT Computer
 JobsがAppleを追われて作ったNeXTというマシンは,その先進性が今日伝説になるほどの素晴らしさを誇っていたが,ストレージがハードディスクの何倍も遅い光磁気ディスクであったり,処理能力が不足していたりと,ハードウェアの能力が不足していたのが現実であった。
 また非常に高価なマシンで,納入されたのは大幅なディスカウントがある大学など教育機関がほとんどであったため,利益を生み出すことはなかった。
 後にNeXTはハードウェア部門をキヤノンに売却,AT互換機で動作するNEXT STEPを商売にしようと試みるが失敗。

(5)PowerMacG4 Cube
 Apple復帰後のマシンだが,放熱ファンを搭載しないことでまたもや信頼性を落とした。タッチセンサ式の電源スイッチは誤動作を連発し,ウェルドラインが目立つようなデザインにこだわりすぎたためクレームも連発。短命に終わる。


 (4)と(5)はちょっと置いておいても,(1)から(3)はどれか1つだけでも,創業社長の大失敗としては破格の物があり,普通なら速攻会社を潰したか,緊急動議で社長解任てなことになったと思います。そうならなかったのは,Apple][が利益の源泉として機能し続けたことと,やはり「怖い人」であったJobsに対する遠慮があったのだと思うのです。なんといっても創業者です。やりたい放題で,気に入らない奴には容赦ない罵声を浴びせ,クビにする。

 そんな厳しさの中で,良識ある人は彼の元を去ったし,残った人は彼の機嫌を損ねないようにしていました。彼と対等に話が出来るメンバー,例えばMike MarkkulaやWozniakは,彼を何度もたしなめ,ブレーキを踏み,時に尻ぬぐいまでやるわけです。そして,彼らでさえ「手に負えない」とさじを投げたとき,貧乏くじを引いて彼に最後通告したのが,John Scullyだったというわけです。

 JobsはNext Computerを設立して,自分の作りたかったコンピュータを作ることにしますが,それが必ずしも他の人が欲しいと思うとは限らない事実を思い知ったはずです。しかし,当時の彼には,Appleに一泡吹かせてやりたいという,ある意味で不順な動機が強かったように思います。

 決してうまくいっていない会社の社長が,傍若無人とも言える横柄な態度であったことも問題で,私に言わせればNeXTが失敗したのは必然です。


 そして彼は,ふとした縁からPixarを買うことになります。Pixarは技術的には素晴らしく,これに私財をなげうったJobsの先見性には脱帽で,本当に一文無しになる寸前まで相手を信じてPixarを支え続けて,ギリギリの所で大成功を収めるというドラマチックな話は,Jobsという人の転換点を示しているように思います。

 PixarではAppleやNeXTの時とは違って,お金は出すけども口は出さず,彼らにやりたいようにやらせていました。これは映画,とりわけCGという,Jobsにとっても口出しできない分野だったこともあるでしょうし,そうした素人の口出しが失敗に繋がることを確信していたからだとも言われています。

 なかなか成果が出ないPixarでしたが,それでも,Jobsは信じてお金をつぎ込みます。彼らを信じて成功に導き,Jobsは現在ディズニーの取締役です。

 Jobsはここで,自分以外はバカだ,と言う考えを捨て,相手を信じ,お金を持っている人間が何を成すべきかを考えて,その役割を忠実に遂行することを体得したように思うのです。Jobsが人の上に立ち,成功に導く経営者として飛躍するのは,この時からだというのが,私の考えです。

 Appleに戻ってからのJobsは,専門家として口を出す経営者として数々の成功を収めてきました。iPodは音楽の持ち歩き方を変え,iTunesStoreは音楽の売り方と買い方,そして作られ方をも変えてしまいました。iPhoneは一部のマニアのオモチャだったPDAとスマートフォンを一般に広めて人々の知的能力を平均的に底上げしましたし,MacOSXは常にパソコンOSの先頭を走っています。

 全てがJobsの成果物ではないと思いますが,Jobsは自分が口を出すべきところと,出さざるべき所をちゃんと区別するようになったのではないかと思います。そして,成功によってのみ,自分のいう事を人が聞いてくれるようになるのだという真理も,実感しているのではと思います。

 Jobsという人が人間的に豊かになり,彼の話に涙を流す人が現れて,人間としても尊敬を集める存在になったとき,彼は病魔に襲われます。ニュースで見た,やせこけたJobsの姿は実に痛々しい物ではありましたが,その表情からはつかみかかるような厳しさや傲慢さ,その裏に潜む劣等感が消え,まるで聖人のような気高さのようなものを,持っているように感じました。

 Jobsという人の魅力に,改めて気付かされた,昨日のニュースでした。

調整びより

 東京はここ数日気温が下がり,室内でも25度を下回る温度でした。

 25度?電子機器の調整にもってこいの気温です。

 ということで,昨日は帰宅後,菊水の1631Bの再調整を急遽行う事にしました。

 1631Bは夏休み中に修理と調整を済ませたはずでしたが,昨日少し動かしてみるとどうも値がレンジによって派手にバラツキ,信用に足りません。それに400kHzで3mVの信号による調整に自信がなく,この点も考えなければなりません。

 DL2050で測定可能な交流電圧の周波数範囲は100kHzあたりまで。400kHzでは正確な実効値を示してくれる測定器は,オシロスコープくらいしかありません。

 そんなわけで,さっさと調整をやり直します。

 細かい事は省略しますが,結論だけ書くと,今回も失敗に終わりました。まず,発振器であるVP7201Aの出力電圧が今ひとつ信用出来ないということ。またノイズが載るので,特に3mV位の微少電圧ではどうも誤差が大きくなるようです。

 また,発振器も1631Bもそうですが,インピーダンスが600Ωですので,これを無視して調整を行うわけにもいきません。3mVを作るのに普通のボリュームを使いましたが,これではインピーダンスが回転角によって変わってしまうので,信用出来ません。

 1時間半ほど頑張って,結局あきらめました。

 今回の成果物は,やっぱりなんちゃってで調整という物はできないということです。ちゃんと治具を作って,真面目に調整をするための計画を練ることにします。

(1)VP7201Aのコンディション

 なにせ,先日適当に調整をしただけの状態ですので,歪みも電圧も無茶苦茶なはずです。歪率計が完成したら,まずはVP7201Aをベストな状態に調整しましょう。

(2)アッテネータを作る

 600Ωのπ型アッテネータを作る必要があります。減衰比を固定しておけるので,入力電圧さえ管理していれば,減衰された電圧は直接測定出来なくても信用して良いはずです。もう1つは,入出力のインピーダンスを600Ωに固定しておけることです。

 この治具を作る際,400kHzを扱うということから,ノイズ対策はもちろん,配線容量による減衰などを考慮しないといけませんから,出来るだけ短い配線を心がけるようにします。

 問題の減衰率ですが,40dBとします。今回欲しい3mVを得るには,入力に0.3Vを入れればよいので,手頃です。

(3)マルチメータとオシロスコープを併用

 マルチメータは高い精度と真の実効値を表示する機能がある一方で,帯域が100kHzまでです。オシロスコープのHP54645Dは演算機能で実効値を計算できますが,あまり精度は高くないようです。しかし帯域は100MHzです。

 そこで,400Hzで0.3Vをマルチメータで測定し,この時の値をオシロスコープでも測定しておきます。実効値でなくても波高値でいいでしょう。この時,アッテネータからは3mVが出ているはずです。

 そして400kHzに切り替えます。マルチメータでは測定出来ない周波数になってしまったので,頼りになるのはオシロスコープです。400Hzの時と同じ波高値になるようにVP7201Aを調整してやると,アッテネータからの出力は3mVになっているはずです。


 今回の目玉は,40dBのアッテネータです。実は,オーディオアンプの測定をしていると,案外アッテネータが欲しいときがあるのです。10,20,40dBのステップ式アッテネータを,この機会に作っておいたほうがいいかもなあ,などと考えているところです。まあ,スイッチなんかで切り替えるとシールドをしないといけないし,帯域も伸びないので,今回は40dB固定のアッテネータにしておきます。

 なんか,ちっとも片付きません・・・

 

夏だ!一番電子工作祭り!

  • 2011/08/22 18:32
  • カテゴリー:make:

 先週はまるまる1週間,夏休みでした。

 私は学生時代はフルタイムで働いていたので,夏休みなどはありませんでした。そういう意味では,丸一日家に閉じこもって,好きなことをただひたすらやるだけの生活をこれほど毎日堪能した夏休みというのは,実に高校生の時以来だと言えます。

 社会人になってから,これほど印象深い夏休みになったことは,私にとって大きな意味を持ちます。

 というわけで,この長い夏休みの成果を列挙しようと思います。この夏休みのテーマは「夏だ!一番電子工作祭り!」でした。いやー,中学生以来だなあ。


・松下 RC低周波発振器VP-7201Aのメンテ

 VP-7201AはRC発振器の癖に,なかなかの低歪みをたたき出す,当時の定番でした。出力レベルが0.1dB刻みのアッテネータで調整出来ることもなかなか素晴らしいのですが,10年ちょっと前に私の手元に来たときには満身創痍。

 周波数調整用のダイアルは根本から折れてしまい,アキバで売っていたバーニアダイアルを分解して取り付けてなんとか修理をしましたが,徐々に100Hz以下で発振しにくくなってきたのと,各レンジの4xから5xあたりで突然発振が止まるなどの問題を出していました。

 もともとRC発振だし,どうせ歪み率も0.1%くらいだよ,と調べもせずに放置していたのですが,偶然仕様を見たところ,なんと1kHzで0.002%を実現していました。うーん,このだと修理しないともったいないですね。

 回路図が手に入らなかったので,回路をざっと見た限りですが,状態変数型の発振回路で,フィードバックにモリリカのMCD521という有名なフォトカプラを使って,低歪みを実現しているようです。トラッキングも管理された2連ボリュームも奢られています。現在でも中古品が15000円以上するということからも,この手の発振器としては,なかなか良くできた人気機種です。

 とりあえず,劣化していると思われる電解コンデンサを全て交換しました。交換して見ると,足下から電解液を出しているものも多数見つかりました。危ない危ない。

 電源を入れてみるとさっと発振を開始して,壊れている様子はありません。オシロスコープで波形を見ると,波形も綺麗です(まあ0.5%でも目視で分かるほど歪みはしませんが)。

 100Hz以下での発振も安定していますし,なんといっても面倒だった4xから5xでの発振が止まりません。電解コンデンサを交換しただけで,これだけ状況がよくなるとは,ありがたい話です。

 この勢いで調整まで済ませてしまいたい所ですが,サービスマニュアルが手に入らなかったのであまり適当にいじるとかえって状況を悪くします。とりあえず電源電圧を測定して出力レベルを校正(0dB = 1.0V),DCオフセットを0Vにしてから,フォトカプラのフィードバックを調整してギリギリ発振するところを狙っていきます。こうすると歪みが小さくなるのです。

 10Hzと500KHzで同じレベルになるように,それらしいトリマやらボリュームをちょっとずつ回していきます。あとは,レンジを切り替えたときに,2,3かい程度で振幅があるレベルに終息してくれればそれでもう大丈夫。

 歪率計がないので,私ができる事はここまで。後述する自作の歪率計が完成したら,まず調べてみたいですね。


・菊水 交流電圧計1631Bのメンテ

 中越地震の日に蒲田のカマデンで買った1631Bです。平均値を正弦波の実効値で目盛ってあるなんちゃって実効値電圧計ですが,見やすいアナログメータに-80dBまで測定出来る高感度,それに見た目にかっちょいい(これとオシロスコープを並べておくと,大体の素人は「おおおー」と声を上げます)ので,なくてはならない測定器です。

 これも電解コンデンサを交換しましょう。こちらの電解コンデンサはそんなに劣化している様子はありません。もともとそんなにおかしな動作をしていたわけではないのですが,菊水のホームページで取説と調整法も手に入ったことですので,調整をしてみます。

 詳しい手順は書きませんが,実はなかなか難航しました。まず,基準となる電圧計を決める必要がありますが,実効値が測定出来て1MHzあたりまで帯域が伸びているのは,先日購入したDL2050だけです。これを信じるしかありませんが,考えてみると長い単線で繋がった電圧計が,特に高域かつ低レベルの状態で正確な値を表示するとは思えず,発振器の正弦波を測定しているのやら,ノイズを測定しているのやら,わからない状態でした。おかげで,400KHz・3mVでの校正で調整範囲を超えてしまい,作業を翌日に持ち越す羽目になりました。

 ずるい方法なのですが,発振器からは1V程度とノイズの影響を受けにくい電圧を取り出し,外部に用意したアッテネータで3mVを作る事にします。400Hzで3mVになれば,400kHzでも3mVになるはずと言う間接的な方法に頼ることにしました。

 調整をしてみると,なんとなくそれらしい値を示すようになり,各レンジ間でのバラツキも小さく収まっています。DL2050のようなデジタルメータに比べて読み取り誤差が大きいと言われるアナログメータですが,ほんの少しの変動でも針が動くので,正確な値は分からなくても相対的な状態の確認には,やっぱりアナログがよいなあと,再認識しました。

 とはいえ,やっぱり400KHzの3mVなんてのは,なかなか素人では用意が難しい信号です。今回の校正の結果としては,実用になるのは可聴帯域である20KHz位までだなと,ある程度割り切って使う必要があるかも知れません。


・ハンダゴテのパイロットランプ増設

 私はハッコーの936というハンダゴテを使っていますが,このハンダゴテの欠点の1つが,通電中を示すランプがないことです。唯一のLEDはコテのヒーターがONの時に点灯するものなので,電源が入っていても消えるときがあります。

 実は先日,一晩電源が入りっぱなしだったことがありました。しっかりしたコテ台もありますし,滅多なことはないと思いますが,先日オシロのプローブを溶かしたこともあり,ぞっとしました。

 そこで,切り忘れがないよう,目立つパイロットランプを用意することにしました。穴を開けてLEDを増設する手もありますが,基板から直流電源を探し出すのも面倒なら,その改造で特に安全性に影響がないとも限りません。

 そこでAC側で光るネオンを使います。また,私は936の本体を,電源スイッチが上に来るように横に倒して使っています。このスイッチをネオンランプ内蔵型にすれば,綺麗に収まりますね。

 偶然,手持ちに同じサイズの波動スイッチで,ネオンランプ内蔵型がありました。2回路タイプですので,2極を同時に切ることができて安心ですし,抵抗とネオンランプも配線済みですので,スイッチを取り付けるだけで光ってくれます。これ,また買っておこう。

 1時間ほどの改造で,どこにも穴を開けずに,目立つパイロットランプを取り付けることが出来ました。切り忘れはありませんが,トイレに行くときもこまめに電源を切る癖が付きましたし,チラチラとパイロットランプを見ることも多くなったので,この改造は本当にやって良かったと思います。


・安定化電源器の検討

 小学生の時に,共立電子のキットで作った1-14V・3Aの安定化電源器は,今でも重宝しています。精度やノイズ,安定性,電流の制限機能がないなど,それほど高いスペックではありませんが,普段使っていて特に問題を感じません。

 ただ,よく使う電圧調整用のボリュームが16型の安物で,25年も交換していないので,気になっていました。

 偶然,30型の2kΩで日本メーカーの高級品を手に入れたので,これに交換しようと思ったのですが,もともと10kΩですので,無改造というわけにはいかんでしょう。

 当時の説明書をみると,5kΩのボリュームが入ったキットもあったようで,その場合にはある抵抗の値を変えるようにと指示がありました。

 まあなんとかなるだろうと2kΩにしてみましたが,電圧可変範囲が狭くなり,ちょっと使い物になりません。さらに手持ちを探して24型の5kΩを見つけ,説明書通りに改造しましたが,やっぱりだめです。

 基板も古くなっており,簡単にパターンも剥がれてしまうので,無理に改造をしないで,潔く10kΩのボリュームを買って来ることにします。この時,同時に電解コンデンサも交換することにしましょう。


・GPS時計の改良

 以前,GPSモジュールを使って時計を作ったわけですが,私の作例ではLCDに大型のものを使いました。このLCD,大型は結構なのですがバックライトがなくて見にくく,結局見る事がなくなっていました。

 そこで手持ちの,バックライト内蔵の物に交換することにしました。秋月で売られている,白色LEDバックライトで,文字が白抜きになるやつです。

 抵抗を入れていたのに,勘違いして電源直結でLEDに過電流が流れて大ピンチ,とか,さすが鈍くさい私だなと思うような事故も起こしつつ,1時間ほどで作業完了。おかげでとても見やすく,作業台に置いてもさっと視線を動かすだけで正確な時刻がわかります。これも改造して良かったと思います。

 それにしても,雑誌に出ているGPS時計の作例は,相変わらず1PPS出力のないGT-720Fばかりです。これで原子時計の精度!なんていうのは超ウソっぱちだと思うのですが,そういう意味では最近の電子工作の世界は,とてもレベルが下がったなあと思います。そういえば,「最先端の有機ELを使った工作」といいつつ,実は発光原理も歴史も異なる無機ELを使った工作だった,という詐欺まがいの素人工作も雑誌に出ていました。

 そういうならおまえが雑誌に載せろ,となるわけですが,機会さえあればぜひやりたいです。アマチュアの心を知るプロのエンジニアが最大の配慮を行ってウソのない電子工作を行うとどんな物が出来るか,見せてやりたいところです。ふふ。


・歪率計の自作

 テスター,オシロスコープ,低周波発振器,そして交流電圧計が手に入り,オーディオ機器の自作が一通り出来るようになると,次に欲しくなるのは,歪率計です。文字通り歪みを測定する測定器ですが,これは系の直線性を確かめるために必要で,他に代用品がありません。

 原理は簡単で,例えば1kHzの正弦波を系に突っ込み,出てきた信号に1kHz以外の周波数の成分が出てきたら,それがすなわち系の非直線性から生まれた,いわゆる「歪み」の成分です。

 そこで,歪みを含んでいない系への入力の信号をある電圧に決めておき,系からの出力信号から1kHzをフィルタでカットして,その電圧を測定してから,入力の電圧との比率を出してやると,歪み率が求められるというわけです。

 とはいえ任意の周波数で歪み率を測定出来るようにするには,周波数の可変が可能な低歪み発振器と,カットする周波数を可変出来るフィルタを用意しなければならず,しかも測定時にはこの周波数をぴったり同調させなければならないので,操作がとても大変です。

 これらを自動化した測定器が「オーディオアナライザ」と呼ばれるもので,特にCDが登場してからの低歪みアンプを測定するために,新しいオーディオアナライザはとても高性能な発振器とフィルタを内蔵しています。

 しかし,このオーディオアナライザは新品を買えば軽く100万円,中古でも20万円近くします。最近安くなったとはいえ,それでも10万円程度は最低覚悟しないといけない測定器の最後の砦なのです。

 それでいて使用頻度は低く,アンプを作ったときに1度か2度使うだけ,と言う状況ですから,価格もそうですし置き場所ももったいないです。そこで自作という話になるわけです。

 私の場合,トランジスタ技術の2000年6月号に掲載されたものを,そのまま作る事にしました。ここまでの高性能なアナログ回路をきちんと設計して製作できるほどのスキルは,私にはありません。

 この回路は,100Hz,1kHz,そして20kHzの3ポイントの歪み率を測定出来るもので,最小レンジは0.1%です。0.1%レンジで1Vを示せば0.1%ですから,もし100mVなら0.01%,10mVなら0.001%,1mVならなんと0.0001%まで測定可能です。

 ただし,20kHzよりは10kHzの方がありがたいので,ある方の改造例を参考させて頂いて,10kHzに回路を変更しました。

 同時に低歪みの発振器も必要なので,これもトランジスタ技術2003年7月号のある発振器を作る事にしました。抵抗とコンデンサをロータリースイッチで切り替える事にし,必要な3つの周波数を発振できるようにしました。フィードバックの電圧制御抵抗にJ-FETを使っていますので,実はVP-7201Aの方が低歪みかも知れません。

  3年ほど前からコツコツと部品を集めてありましたが,なにせ部品点数も回路規模も難易度も過去最大級の工作です。時間が取れないという理由で尻込みし,なかなか取りかかることが出来ませんでした。

 そこでこの夏休みを使って,作ってしまおうと考えたのです。

 しかし,実に手強い相手でした。1枚の基板にフィルタが3つ,これが3つの周波数で9個の回路ブロックが存在します。これにリレーを使った全体のコントロールブロックにプリアンプと出力バッファ,そして電源回路に発振器と,基板の数は全部で6枚,すべて手で配線です。

 1日6時間頑張っても,最終日までに完成しませんでした。

 結局出来たところまで,ということになりますが,ケースの穴開けは完了,各周波数のフィルタは動作確認と調整を完了してあり,あとはコントロールブロックの動作確認と配線を行えば,一応完成となります。

 実は残った作業がなかなか面倒で,時間がかかります。週末にコツコツとやっていくしかないですね。


・低歪み発振器の製作

 先程のひずみ率計のケースに内蔵する,低歪み発振器です。先に書きましたが,トランジスタ技術の2003年7月号に掲載された回路で,状態変数型の低歪み発振器です。

 3つの周波数を切り替えられるようになっているのですが,アッテネータは面倒くさいので普通のボリュームを使っています。

 ただ,周波数の調整と歪み率の調整については,バーンズと東京コスモスの多回転型を奢りました。こういうのを使うのが,夢だったんだよなあ。

 基板が狭かったせいで無理な配線を強いられてしまい,安定して動くか心配になりましたが,いくつかの配線ミスを修正すると,スパッと発振してくれました。周波数の調整は多回転ボリュームのおかげでなかなかうまくいきそうです。

 あっさり動いてしまいましたが,オシロスコープでの波形を見る限り歪みもなく,かなり期待できそうな感じです。歪率計が組み上がったら,この発振器の歪率を測定してみたいと思います。


・ん,まてよ?

 これを書いていて気が付いたことがあります。

 1kHzの正弦波が0.9V,2kHzの正弦波が0.1Vの波形があったとします。1Vのこの波形の歪み率は,(0.1/0.9)*100=11.1%です。これが高調波歪み率の定義に従った真の値です。

 この波形を,自作の歪率計に入れてみますと,1kHzと2kHzの和である1Vを分母に,2kHzの高調波である0.1Vを分子にして,(0.1/1.0)*100=10%となります。1.1%もズレが出るのですね。

 測定器で有名なエヌエフ回路ブロックのホームページの解説を読むと,この方式の歪率計では,30%以上の歪率では誤差が大きくなるとあります。1kHzが0.9V,2kHzが0.3Vだったら真の歪み率は(0.3/0.9)*100=30%ですが,これが自作の歪率計では(0.3/1.2)*100=25%となります。なるほど,5%も少なめに出てくるとさすがに問題ですね。

 では,0.1%あたりだとどうでしょうか。1kHzが0.999V,2kHzが0.001Vとすると,真の歪み率は(0.001/0.999)*100=0.1001001%です。自作の歪率計では(0.001/1.000)*100=0.1%となり,その差は0.0001001%とごくわずかです。これなら無視しても構わないでしょう。

 同じように1%だとどうでしょうか。1kHzが0.99V,2kHzが0.01Vとすると,真の歪み率は(0.01/0.99)*100=1.0101%です。自作の歪率計だと(0.01/1.00)*100=1%で,その差は0.0101%です。まあ,このくらいなら読み取り誤差に埋もれてしまうでしょう。

 次に,真の歪み率が0.01%の信号を使って,0.1%の歪み率の系を測定するケースを考えます。

 まず0.01%の信号ですが,1kHzが0.9999V,2kHzが0.0001Vの波形の真の歪み率は0.0010001%です。自作の歪率計では0.01%となりますね。その差はわずかです。

 測定対象の系の歪み率は0.1%です。これは1Vの1kHzを入れると,2kHzが0.001V発生する系です。

 この系に,0.01%の信号を入れて見ます。1kHzは0.9999Vのまま変わりませんが,2kHzは0.0001V+0.000999V=0.0010999Vになります。真の歪み率は0.110001%,自作の歪率計では(0.001099/1)*100=0.1099%となります。両者の差はごくわずかですが,本来0.1%となって欲しいところが,発振器の歪みである0.01%がのってしまいました。

 まあそれでもこの程度なら許せるでしょう。では0.1%の発振器しか手に入らなかった場合はどうなるでしょうか。

 同様に計算をします。1kHzが0.999V,2kHzが0.001Vで,真の歪み率は0.1001%です。自作歪率計では0.1%です。

 これを0.1%の歪み率の系に入れると,2kHzは0.001999Vになります。1kHzには変化はありません。よって真の歪み率は0.2001%となります。自作の歪率計では0.1999%です。同じように,両者の差はほとんどありませんが,発振器の歪みがそのままのってくるため,実際には0.1%の系が0.2%と測定されてしまいました。

 ノッチフィルタを使った歪率計など,私はほとんど使ったことがありませんから,測定結果が真の値からどのくらいずれるのかを意識したことなどありませんでしたが,今回の自作歪率計を使いこなすには,このあたりもちゃんと整理しておくべきでした。

 結論としては,

(1)今回自作する歪率計は,分母に入力信号の電圧がそのまま入るため,高調波の電圧も含んでいる。本来の歪み率の定義から考えると分母には基本波のみの電圧が入るべきであり,この歪率計は正確な歪み率を測定できない。

(2)高調波が分母に含まれるとは言え,低歪みな信号ならその量は少なく,1%以下の信号なら歪み率の誤差は無視して良い。

(3)しかし30%を越えるような大きな歪み率の場合には,分母の値が大きく変わってくるので,実際の歪み率よりも小さく出るようになり,その誤差も無視できなくなる。

(4)今回自作する歪率計は,発振器とフィルタの間に挟んだ系で発生した高調波だけを測定するわけではないので,発振器そのものの歪み率を測定することも可能。

(5)系が発生する高調波は,発振器の高調波に加算されて測定されるため,発振器の歪み率以下の値を測定することは出来ない。従って入力される発振器は十分に低歪みである必要がある。


 どれも考えてみれば当たり前のことですが,では誤差が実際にどのくらいになるのか,発振器の歪みをどう考えればいいのかどうか,など,モヤモヤしたまま測定するのはよろしくありません。原理を知り,回路を知り,結果を知る。測定器自作の醍醐味というのは,実はこのあたりにあるのかも知れませんね。

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