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2019年11月の記事は以下のとおりです。

Jupiter-Xmはシンセオタクの夢

  • 2019/11/26 14:53
  • カテゴリー:散財

 私の目の前に,先日発売になったばかりのJupiter-Xmがあります。

 小振りなモノシンセか,あるいはかなり大きめのポータブルキーボードか,という外観は,その実1980年代前半のローランドを文字通り代表するJupiter-8へのオマージュにあふれています。

 ローランドは,アナログシンセサイザーを育ててきた自負からか,パラメータに直結したツマミとLEDを簡単には捨てずにいました。

 DX7の登場でシンセサイザーはパラメータを内側に隠し,我々はそこへのアクセスに深い洞窟に潜り込むことを余儀なくされました。

 洞窟ですから,もちろん周到な準備が必要ですし,手探りで進まねばならないときも,そして引き換えさねばならないときもあります。

 ローランドもその時流に抗うことはできず,アナログシンセサイザーであるJX3PやJX8Pからツマミを取り上げてしまいました。それでもシンセサイザーメーカーとしての矜恃からか,あるいはある種の罪悪感からか,パラメータをダイレクトに操作できる専用のプログラマーをオプションとして提供するあたり,それが本意ではなかったことを我々に想像させます。

 デジタル化してもアナログを意識した音源であったローランドは,D-50でもその後のシンセサイザーでも,パラメータをダイレクトに動かす事で得られる音作りの快感を忘れることが出来ず,JD-800を世に問います。

 その音の良さと存在感,シンセサイザーの原点に立ち返ったことの格好良さが受け入れられてヒットすることで,ローランドは自らの進む道の1つに確信を持ちました。シンセサイザーは音を創造する楽器である,私個人もそのメッセージに共感した一人です。

 ただ,そうした音作りがお金を稼ぐ手段にならないのも現実で,ライバルメーカーのシンセサイザーは言うまでもなく,自社の別機種もプレイバックサンプラーとしての使い勝手を追求するものがヒットし,ローランドはシンセサイザーを一体どうしたいのか,そのメッセージが焦点を結ばなくなってきました。

 昔のものをただ復刻することはしない,という方針だったローランドが方針を転換したのは,皮肉にも創業者が表舞台から姿を消し,外資が入る様になってからのことです。

 私は,ようやくローランドが過去の自分の仕事に向き合って,冷静に自分の姿を振り返る事ができたのだろうと,そんな風に思いました。

 確かに,過去の遺産を食い潰すだけでは先細りです。Jupiter-8も,D-50も,XVもそれまでにないものを作り出せたから,当時も今も圧倒的な名声を勝ち得ています。過去と断絶したオリジナリティは最も歓迎されるべきものでしょうが,過去の実績を冷静に見つめることも,また許される事だと思います。

 妥協なきフラッグシップにJupiter,安価でカジュアルなJunoというブランドを復活させ,それまで頑なに拒んできたTR-808やビンテージ機の復刻を行うようになってきましたが,そうした流れの中でローランド自らが純粋に「欲しいな」と思ったシンセサイザーを形にしたのが,Jupiter-Xmです。

 ローランドは個々の設計者があまり外には出てこない会社でしたが,Jupiter-Xmを見ていると,本当にシンセサイザーとシンセサイザーを演奏することが大好きな人達なんだなあと思えてきます。

 単純にJupiter-8を真似るだけで満足してはいけません。Jupiterを最新のPCMシンセと重ねることで,互いを活かすことが出来ます。しかし,複数のシンセサイザーを上下左右に積み重ねて演奏出来る人は限られていて,ましてそれらを一式持ち運んで演奏するなどあり得ません。

 Jupiter-Xmは,それが出来るシンセサイザーです。Jupiter-8の美味しい使い方ができる環境そのものを,この小さな筐体に押し込んだものといってよいでしょう。

 スピーカーが内蔵されていることも,電池駆動出来る事も,Bluetoothを内蔵していることも,XV-5080やRDの音源まで搭載していることも,ミニ鍵盤を採用したことも,すべてそのためです。

 なるほど,Jupiter-Xmでやりたいことはわかった,しかしそのために,具体的にどんな機能を搭載し,どういう操作をさせるのか,それはとても難しい問題です。

 私は,Jupiter-Xmが持つ機能から,これが今自分にもっともフィットしたシンセサイザーであることを確信しました。そして,事前に予約し,発売日に楽器店で購入しました。高校生の時に初めて買ったD-20以来,本当に久々に楽器店の店頭でシンセサイザーを買いました。

 楽器店に向かう高揚感,支払いの時の背徳感,ちょっとした待ち時間に感じたムズムズした感覚,そして電車で持ち帰る間の自意識過剰な優越感と,まさに当時の私が味わった時間を,今こうしてまた過ごしています。

 欲しくてまたらなく,でも分不相応なことも痛いほどわかっていた,憧れに過ぎなかったJupiter,その末裔がここにあります。マーケティングの結果ではなく,シンセサイザーが大好きな人達が作った理想が,形になっています。私がその理想に一票入れて,今手元にあります。シンセサイザーという楽器には,こんな力もあるのです。

 早速Jupiterの音を出します。

 正直に言って,ピンと来ません。そのはずです。私はJupiterを弾いたことが数えるほどしかありません。Jupiterでギターとやり合ったこともなければ,他のシンセサイザーと重ねたこともないのです。

 シンセブラスを出してみます。ストリングスを出してみます。あれ,こんなにヘロヘロな音だっけ?

 しかし,重ねてみると,別の表情を見せます。そう,欲しくて欲しくてたまらなかった,あの音がでています。

 Junoにします。これは何度も演奏していますが,その頼りなさに不安を感じた,あまり思い出したくないモヤモヤがまた甦ります。コーラスを切った時のがっかりも,完全再現です。

 JX-8Pは,廃棄したことを特に後悔しているシンセサイザーです。もう二度とその音を聞くこともないと諦めていましたが,出てきた音はまさに私が演奏したJX-8Pの音です。まさかこんな形でJX-8Pの音に再会することになるとは,夢にも思いませんでした。

 SH-101は,ポリフォニックシンセサイザーしか興味がなかった私には,安物モノシンセというイメージしかなく,しかも当時なにげに流行していたシンセサイザーの通信講座の教材に使われていたりしていて,嘲笑の対象でした。(DX100,CZ-101,SH-101が通信講座の定番でした)

 SH-09を今でも持っていますが,これは純粋なアナログのくせに,音が細くてちっとも使い物になりません。安いものはそれなりだという法則に則り,SH-101にも過度な期待はしていませんでしたが,その音を聞いて驚きました。この伸びやかなシンセリードなら,きっとギターと互角に戦えます。

 XV-5080はどうとらえていいのかわかりません。「これ一台で何でもOK」の多用途音源として使いこなせばいいのか,JupiterやJXを重ねるための引き立て役として扱えばいいのか,それとも1990年代や2000年代を再現する過去の音源として向き合えばいいのか。

 ただ,使える音がたくさんあります。逆に使えない音も満載です。

 RDはRD-700GXだそうです。うちは初代RD-700をまだ現役でつかっています。壊れやすいと評判の鍵盤も元気で,娘のピアノ練習もRD-700です。これも比較的初期に買ったのですが,最初のうちはとにかく音が遅れて全然ダメで,何度目かのアップデートでようやく改善されたことを懐かしく思い出します。

 しかし,RDはちょっと厳しいです。入っている音色がアコースティックピアノだけで,しかもバリエーションがほとんどありません。RDに恥じないエレクトリックピアノが何種類か入っていることを期待しましたが,それはXVでカバーせよという事でしょう。しかし,RDとXVでは,エレクトリックピアノの音も違うのです。

 リズム音源も悪くないです。スネアは良く通りますし,シンバルも良く出ています。バリエーションも多くて,使えるキットがたくさん見つかります。

 これらトーンを最小単位とし,これをリズム用1パートと4つのパートにアサインして,マルチ音源として使うも良し,レイヤーで重ねるも良しで,ローカルのキーボードからもMIDIからも鳴らしていくのが,パートです。

 パートごとにエフェクトを調整出来ますが,パートに共通する設定まで含むのが,シーンです。シーンを切り替えれば,手元の4台+1リズムのセットが一気にごっそり切り替わります。肉体労働はありません。すばらしいです。

 気温を測定し,その結果でモデリングされたVCOやVCFの特性を変化させることも可能というこだわりが実用的かどうかは不明ですが,エージングというパラメータを目一杯まで大きくすると,まさに壊れたポリシンセが再現できます。調子の外れたVCOが1つあると,ここにアサインされた時にその音が狂ってしまうのですが,その時のあのがっかり感というか,悲壮感というか,そういうものまで再現するというのは,もはや実用的かどうかではなく,アナログシンセサイザーへの興味と関心,そして尊敬によって実装されたような気がします。

 しかし,この調子外れの音は,何度聴いても悲しくなります。ビンテージアナログシンセサイザーが,入手の難しさだけではなく,維持の難しさからも,限られた人しか持つことを許されないことを訴えて来るからでしょう。

 エフェクトもよくかかりますね。今どきのシンセサイザーは当たり前なのでしょうが,リバーブも透明感があり,良く抜けていきます。コーラスは往年のBBDをよく再現していて,ウォームで心地よいです。そして高品位だからなのでしょう,ディレイが上品で良く馴染み,邪魔になったり浮いたりしません。

 Bluetoothで音楽を飛ばし,これにあわせて一緒に演奏することは,とても良い練習になりますし,音の評価にも有用です。こうしてあっという間の数時間を過ごして,Jupiter-Xmの全貌がようやく見えてくると共に,残念と思う部分に押さえつけられるような,ストレスを感じてもいました。

 まず,パートが少ないです。

 複数のシンセサイザーを上下左右に並べる環境を再現するのがJupiter-Xmのコンセプトなら,台数分だけのパートがないと説得力がありません。いいですか,リード,ピアノ,ベース,PAD,ドラムで既に5パートです。ここにブラス,ベルやチャイム,オルガンを加えるとき,使っていないパートをあてがっていちいちプログラムチェンジで音を切り替えて,PANやエフェクトまで変更しないといけないのでしょうか?

 確かに,Jupiter-Xmを複数台接続することでこの問題は解決しそうです。でも,それはJupiter-Xmのコンセプトを自ら否定していることになりませんか?

 ただ,この4パートまでという制限は,BMCという音源チップの能力限界からくるものだそうで,確かにどうにもならない問題のように思います。これを解決するにはBMCチップを強化するか,BMCを2つ搭載するしかありません。

 些細なことですが,MIDIチャンネルが固定される事も気分的によくないです。特にリズムパートは,伝統的にCh10であって欲しかったです。

 パネルに並んだツマミは,分解能も素晴らしく,ひょっとすると本物以上に滑らかに音が変化します。しかし,今変化しているパラメータはどのパラメータなのかが今ひとつピンと来ていないので,結果オーライになっていることも否めません。これでは再現性が低くて,レコーディングには使えないように思います。

 ディスプレイにも限界があります。小さい画面に情報を詰め込みすぎていて,意味がわからなくなっています。大画面である必要はなく,その時欲しい情報だけをシンプルに表示してくれればそれでいいのにと思います。

 スピーカーは頑張っていると思いますが,残念な事にせっかくのJupiterの音が再生出来ていません。Jupiterの音を出しても,それがJupiterらしく聞こえないくらい,情報が落ちています。もう少し頑張って欲しいです。

 リズムパターンを入れておいて欲しかったです。なにも入っていないと,練習すら出来ません。

 LEDが白色だけというのも,ちょっとさみしいものがあります。せっかくカラフルなJupiterなのですから,もう少しいろいろな色を使って操作性向上に役立てて欲しいなあと思いました。

 そうそう,ミニ鍵盤は,私にはやっぱりしんどいです。慣れていないだけかも知れないのですが,鍵盤の間隔と言うよりも,奥行きが短すぎて辛いです。それに,もう少し重みのある鍵盤であって欲しかったなと思います。今のままだと本当にカシオトーンの高級版って感じです。

 アフタータッチは是非欲しかったです。JX-8Pはアフタータッチがあって,とても楽しく演奏していました。私はまだ捨ててしまったことを後悔しなければならないようです。

 ピッチベンダーとモジュレーションホイールも,ローランド独自のレバータイプも選べるようにして欲しかったです。世界的にはホイールが主流なのでしょうが,長年レバーになれてしまった私には辛いものがあります。また。ベンドしながらビブラートとか,そういうことが出来ないのにもフラストレーションがありますし,ビブラートを戻すのに,いちいちホイールを回さないといけないというのも面倒です。

 最後,今後への期待です。

 近日中にVer1.02から1.03にアップデートされることは,マニュアルにも記載されています。僅かとは言え新しい機能やパラメータが追加される可能性があるので,どう変わるかが楽しみです。

 それと,新しいモデルの追加もワクワクします。今のところJupiter,Juno,JX,XV,RDですが,ここにさらに追加されることもさりげなくアナウンスされています。

 Jupiter-Xmの音源というのは,BMCと呼ばれる音源チップがまず存在します。これは高い処理能力を持つDSPで,このDSPに実装されるソフトウェアフレームワークとして,汎用音源のZEN-Coreがあります。

 ZEN-CoreはバーチャルアナログとPCMをカバーする守備範囲の広い音源で,ここがXVやRDを作っていたり,あるいはJupiter-X独自の音を作り出すと言って良いでしょう。

 BMCにはこれだけではなく,JupiterやJunoを再現する音源も別に入っています。これがABMです。ローランドのビンテージ音源と言えば高い再現性を持つACBが有名ですが,ACBが1つ1つの部品レベルでのモデリングからボトムアップして積み上げて行くのに対し,ABMはツマミや音などの振る舞いを上流から再現していく点で大きく異なり,再現性は完全ではない一方で,飛躍的に演算量を減らすことが出来ます。

 いってみればACBが仮想的に電子回路を動作させて結果としてもその音を再現しているのに対し,ABMは回路や仕組みは違っているが最終的な音を似せている,ということになります。

 どちらも理屈の上では,JupiterやJunoの音を再現出来ることには違いはありません。もちろんABMには微妙な再現性まで期待出来ないのですが,その代わりたった1台でJupiter-8を4台レイヤーすることも可能になったりします。

 このZEN-Coreを使うのがよいのか,ABMを使うのが良いのかはわかりませんが,今度追加して欲しいシンセサイザーとして,やはりD-50,D-70,JD-800,RD-1000,VK-8,VP-330はぜひ欲しいなと思います。現実的にD-50あたりは実現するんじゃないかと思っていますが,仮想的にトーンホイールがずっと回り続けているというVK-8も,ぜひ再現して欲しいなあと思います。

 さて,まさに古今東西のローランドの音がぎっしり詰まったJupiter-Xmですが,今後はこれを基本形として,様々なシンセサイザーが登場するのだろうと思います。BMCチップとZEN-Coreが熟成され,さらに可能性が広がる間に,私もJupiter-Xmを使いこなせるように,身近において楽しんでいこうと思います。

 

Rollei B35のレストア

 前回の続きです。

 前玉のドナー用に手に入れたRollei B35は,前玉はカビが出ていますが他は綺麗なもので,いじっているうちに動作するようになったシャッターのフィーリングが同じB級Rollei35であるRollei35LEDよりずっと良質であることにいたく感激し,レストアを始めたのでした。

 Rollei35LEDで慣れたもので,分解と清掃は簡単でした。素人が分解した形跡はありませんでしたし,大事に使われていたのか程度も悪くありません。

 レンズは前玉こそカビがありますが他は綺麗で,シャッターも絞りも粘りはありません。ホコリの侵入だけが気になるので,分解してホコリを飛ばしましたが,やったことはそれくらいです。

 全体の動きが渋いのは清掃と注油で復活,破損箇所もありません。

 シャッタースピードも確認しましたが,すべてJISの範囲内です。優秀です。露出計もきちんと確認しましたが,これも問題なし。十分な精度が出ています。

 白いエナメル塗料でスミ入れを行い,張り皮も一度剥がして綺麗に張り直します。

 3時間後には完成していました。

 改めて見ると,Rollei35LEDよりも程度が良いです。しかもかなり使いやすいこともわかりました。Rollei35LEDはファインダーを覗き込まないと露出計を確認出来ません。これ,スナップでは結構面倒です。

 しかしB35はトップに露出計があります。連動しませんが,そんなことは全く気になりません。Rollei35シリーズの面白さはいちいちファインダーを覗き込まない速写性にもありますから,B35はRollei35と同じような使い勝手による楽しさを,電池なしえ味わえる優秀なカメラである事がわかったのです。

 しかも,同じB級ローライと言われるB35とLEDですが,LEDの方が随分軽いですし,華奢です。機種名もLEDはシルク印刷ですが,B35はちゃんとへこませスミ入れをしてあり,高級感があります。絞りのクリックがあるのもうれしいです。

 筐体の剛性も違いますから,シャッターの音も違います。B35の方が心地よい音がします。ファインダーもB35の方が見栄えが良く,LEDは暗く赤っぽいです。B35はそれでもRollei35を意識して作られているように思いますが,LEDはもう別物です。

 ただ,LEDが悪いとばかりも言えません。SPDを使った露出計の測光範囲は広く,反応速度も早いですし,なんと言っても連動します。B35は連動しませんし,セレン光電池の測光範囲の狭さゆえ,実質的に屋外専用と割り切らねばなりません。

 ここで,私は前玉を元に戻す結論に達していました。レンズをまた外し,交換した外枠をまた入れ換えて,元の本体に戻します。

 これでB35は綺麗な後玉と中玉と前玉が揃いましたし,LEDは元のボケボケレンズから研磨によってどれくらい救われたかがわかります。(でも時間がなかったので今回はLEDの試写はしませんでした)


 早速B35の試写を行います。光漏れもありません。シャッタースピードは全速であっていますし,露出計も十分にあてになります。

 画像も,研磨したレンズよりもコントラストは高く,発色も良いです。ただ,もっと良く写ることを期待していたので,それでもトイカメラの域を出ないことに私はがっかりしました。

 ただ,現像後のネガを見てみると,ネガのベース面にキズが走っています。圧板にトゲでもあるかと調べましたが確認出来ず,原因がはっきりしないのでもう少し調べてみる必要がありそうです。

 気が付いたのは,フードを使うと露出計に一部が被さってしまい,明らかに測光値が狂ってしまうことです。一定の割合で狂うのであれば設定をずらせばいいだけなので対応出来るのですが,光源の位置や角度によって変わってくるので,とりあえずフードなしで使うしかないようです。

 これが,センサが小さくて測光用の窓が小さいRollei35LEDなら問題ないのですが,十分な起電力を得るために面積が必要なセレン光電池だと影響が出てしまいます。

 もともと,ファインダーにも被ってしまうのでフードを使いにくいのがB級Rollei35なのですが,やっぱりフードは使いたいので,いろいろ考えさせられます。

 試写では36枚撮影しましたが,なかなかテンポも良く,楽しく撮影出来ました。外光式の露出計ですから,必ずしも連動している必要はないですし,ファインダ-を覗き込まなくてもすむ使い方は,Rollei35で楽しいとおもった撮影スタイルでした。

 それでいて軽く,持ち運びが楽ちんです。もともとLEDにはRollei35のカジュアルバージョンを期待していたのですが,その役割はむしろB35の方が適切だったようです。Rollei35LEDは,やはり別系統のカメラと言って良いかもしれません。(そう,Rollei35TEやSEですね)


 そしてつくづく思うのは,初代のRollei35の出来の良さです。巻き上げやシャッターのフィーリングは雲泥の差ですし,重さはともかく質感の高さとファインダーの良さはさすが高級機です。

 なによりレンズが素晴らしく,Tessarの名前は伊達ではありません。絞ってパンフォーカスで撮影すればスキッと写り,開けてポートレートを撮れば人がポッと浮かび上がります。この立体感と線の細さは素晴らしいです。

 対してB35のTriotarは線が太く,シャープネスもありません。透明感も落ちますし,やはり廉価版だなあという印象はどれだけ持ち上げても消えてくれそうにありません。

 残念な事に,私のRollei35はコマ間の送りのバラツキが大きくなってしまいました。最初はきれいに整っていたのに,なにが原因かよく分かりません。

 とまあ,そんなわけで9月から続いたRollei35祭りは,ようやく終了です。中古カメラフェアで手に入れた高価なRollei35は修理に散々苦労しましたし,Rollei35LEDはレンズ研磨,Rollei B35も期待していた程の写りではなく,収穫は少なかったように思います。

 結局常用するのはRollei35で,気が向いたらB35,LEDは使わなくなりそうな感じですが,それ以前の問題としていつまでフィルムを使うかを,今回の件で私は考える事になりそうです。

 ちょうど良いタイミングで,フジフイルムがACROSIIを発売することになっています。相変わらず高価なフィルムですが,自家現像できるフィルムが普通に手に入ることのありがたさを知った我々は,かつてのカラーネガフィルムの安売りが異常であり,1枚1枚を心を込めて大切に撮影することを,改めて学んだ気がします。

 

Rollei35LED,前玉を研磨(あるいは移植)

 Rollei35LEDですが,決着していません。出口のない検討にもういい加減疲れてしまっていて,すでに惰性でやっている感が強いです。

 露出計をきちんとあわせ一段落,とした前回から,今回までの流れです。

 試写をした結果,条件にもよりますが,まるでキヨハラのソフトフォーカスのような画になることがわかり,愕然とします。被写体の回りが白くぼやけ,コントラストが著しく低下して,黒も白もグレーになります。近いところから遠いところまでまんべんなくぼやけており,絞ってもほとんど改善しません。

 これはもう複数の理由が重なっているためだとしか言いようがないのですが,それにしてもこれだけひどいのに,レンズそのものは綺麗なのです。

 手詰まりになり,もうこのカメラはこんなもんだ,と割り切る決心をしたところで,ふとシャッターをバルブにして,後玉からレンズを覗き込んでみました。

 ん?

 なんだか,画像が波打っているようです。

 逆さまに写った景色をよく見ると,全面にわたって波打っています。クモリこそないのですが,直線がまっすぐ写っていません。

 おかしいと思って目をこらすと,どうもレンズが波打っている様子です。もしかしてと思い,前玉を表側からよく見ると,なんだかデコボコしているような感じです。

 さらにルーペで表面を見て,私はくずおれました。

 前玉の表面が,まるで月の表面のように,デコボコなのです。それは表面の全域にわたって広がっていて,角度によっては見えにくくなりますが,横から覗き込むようにすると,まるでニキビ面の中学生のようです。

 はっきりしたことはわかりませんが,少なくともこれだけデコボコになっていて,かつ画像が波打っているですから,これで綺麗に写真が撮れるはずがありません。

 もともと私の手元にきたときに,コーティングが剥げており,クモリも派手に出ていたわけですが,その後いろいろ調べて,これが硝材の問題の可能性であることを知りました。

 光学ガラスを溶融して作る際,ガラスに様々な材料を混ぜて性能を出します。この時,それらが均一に混ざって冷えてくれればいいのですが,濃度に差があったりすると,フッ化カルシウムなどが白く濁って,クモリの原因になります。

 更にひどいと,それらがガラスの表面にデコボコを作ってしまうそうで,ガラス製造時の問題である以上は,もはやどうにもならないそうです。

 確かに表面の研磨を行うとクモリやデコボコは消えますが,一般論としてこういう品質の悪い光学ガラスはまたクモリを生じてしまうものだそうで,あきらめるしかないということでした。

 目の前のTriotarの前玉は,まさにこれでしょう。

 レンズのガラスが劣化し,内側からコーティングを破壊してクモリとデコボコを生じています。表面のクモリをキイロビンで取り除くことは出来ても,デコボコまでは研磨しきれなかったということです。

 しかし,研磨は素人が手を出すようなものではありません。専門の設備と技術を持つ職人でも,「公差」に入る限界ギリギリまでしか研磨が許されない世界です。

 昨今,バルサム切れまでは素人でもなんとなく修理が出来るようになっていますが,さすがにレンズ研磨は高い壁で,google先生に聞いてみても「失敗しました」という話しか引っかかりません。これは厳しい。

 ここで私は2つの行動に出ます。1つは以前から最終手段として考えていた,前玉の交換です。同じTriotarを搭載するRollei35を手に入れ,前玉を移植します。同じRollei35LEDからなら大丈夫でしょうが,B35やC35など時代も異なるカメラで互換性があるかどうかはわかりません。

 それに,互換性があっても他のレンズとの組み合わせが破綻しますし,光軸もずれているので,おそらくうまくいかないでしょう。

 てなことを考えていたら,B35をジャンクで入手。Rollei35LEDの倍の値段がしてしまいました。なんだかバカバカしい・・・


 もう2つは,レンズの研磨です。酸化セリウムの研磨剤であるガラセリウムを手に入れていますから,これを使ってリューターで一気に研磨します。失敗する可能性は高いでしょうが,どうせこのままでは使い物になりませんし,もう怖いものはありません。
 
 ということで,先にこちらからやってみます。

 多くの人がレンズ研磨に失敗するのは,それが正しい曲率で研磨出来なかったからです。部分的な研磨で失敗するのは当たり前で,全体をくまなく研磨すれば(公差の範囲なら)大丈夫なはずです。

 確かに非球面ならお手上げですが,球面のレンズであれば,同じ曲率の雌型を作り,ここに研磨剤を塗って回転させればよいはずです。

 雌型を作るのも簡単ではないので,ここは「型取りくん」を使います。熱湯で熱を加えれば年度のように柔らかくなり,常温で固まります。固まっても弾力があるので,こういう用途には向いているかも知れません。

 なかなかうまく型が取れなかったのですが,試行錯誤で型を取り,中心付近にシャフトを取り付け,リューターで回転させます。少し小さめに作ったので,リューターをグルグルと動かしながら,全体をまんべんなく研磨することを心がけます。

 やってみると,なかなかうまくいきません。わかっていたことですが,研磨剤が回転で飛び散ります。小さめの空き缶の底にレンズを張り付けて研磨することで,外に飛び散るのを防ぎましたが,調子に乗って研磨していると摩擦熱で型が柔らかくなって変形してしまいました。

 指で変形を修正しながら研磨を続けます。のべ20分ほども研磨を続けたと思いますが,いい加減飽きてきたので,水洗いをしてみます。

 指で触ると滑らかな表面です。これはいけるかも,と油断したところ,洗面台にレンズを落としてしまいました。

 カランと排水口に吸い込まれるレンズ。この後トラップを外して救出して事なきを得ます。

 水洗いをして綺麗に水気を拭き取ります。ドキドキしながら結果を確認すると,レンズを通して見た時の波打った画は,ほぼ解決しています。研磨が浅かった周辺部にまだ残っていますし,深いへこみは取り切れていませんが,中央付近は綺麗なものです。

 ルーペで表面を見てみますが,あれだけあったデコボコがかなり平坦になっています。前述のように周辺部にはデコボコがありますし,深いへこみは結構のこっています。

 また,少なくとも目視でわかるような偏った研磨は行われていません。全体を回転で研磨したので,それは大丈夫だろうと思います。

 こうしてレンズを研磨しましたが,曲率は変わってしまっているでしょうし,コーティングもありません。それでもデコボコが完全に消えているわけではありませんから,これはもうゴミ同然です。

 そうこうしているうちに,B35が届きました。沈胴せず,シャッターも切れないというジャンク品でした(その割には高かった)が,いじっているうちに正常動作をするようになりました。張り皮の程度も悪くないし,レンズも綺麗です。

 でもよく見ると,前玉の周辺部にカビがあります。がっかりです。うーん,ここにあるカビなら絞れば大丈夫かなあ。

 で,当初の予定通り,前玉の移植で。前玉の枠ごと交換出来ると踏んで入れ換えますが,LEDとB35で枠の互換性はなく,あえなく失敗。そこでレンズだけを交換する作戦に切り替えです。

 B35のレンズは枠から簡単に外せるのですが,LEDのレンズはなかなか外せません。内枠がかなりきつくはまっているので,これを取り外すのが一苦労なのです。

 先の尖ったものを差し込み,内枠を変形させながら外に引っ張り出しますが,ピーンと跳ねて飛んでいくこと数回,その度に「もう二度と出てこないだろう」と絶望しつつ,見つかった時の奇跡に感謝して,レンズを交換しました。

 これで無限遠を出し,2つのレンズを撮り比べです。

 結論から言うと,研磨レンズは大健闘です。コントラストの低下は完全に解消していませんが,気になるようなシーンは少なくなりました。解像度不足も気になるのですが,これも随分ましになっています。

 被写体の周辺がもやーっと白くなることも減りましたし,研磨の弊害として心配した片ボケやどこにもピントが来ない,と言う問題もなく,トイレンズそのものだったこれまでに対して,ようやくトイレンズを卒業した感じです。これなら実用になるでしょう。

 一方B35のレンズですが,他のレンズとの組み合わせが破綻しているにもかかわらず,さすが3枚構成のシンプルなトリプレットだけあって,ちゃんと写っています。

 ただし,あまりキリッとした画像ではなく,無難に写っているという感じです。発色は悪くないし,コントラストも研磨レンズよりずっとよいですが,それでもTessarよりは数段落ちます。

 これでとうとう決着かなあと思っていたのですが,動き出したB35を触って見ると,なんだか手に馴染むのです。露出計も確認するとバッチリあっていますし,なんかこのままおいておくのももったいない・・・

 そして私は,B35の後玉をみて,その綺麗さに感激しました。LEDの後玉はややクモリがでていますし,中玉にもカビの跡があります。

 B35の前玉は,もしかするとB35の後玉や中玉でこそ使ってやらねばならんのじゃないか・・・

 B35のレストアに取りかかるのは,もう時間の問題でした。

 続きは次に。

 

Rollei35LED決着

 Rollei35LED,ようやく決着させました。

 Rollei35LEDの最初のテストは白黒フィルムで露光不足でした。2回目のテストはカラーでしたが,これも露光不足と現像不良でした。

 そして今回の3回目は,露光も十分で,現像も問題なく出来ました。

 まず皆が絶賛するTriotarの性能についてと,研磨した結果についてです。

 Triotarの性能については,同じ被写体をTessarで撮影したものと比べて見ると,もう圧倒的にTessarの方がよいです。これはもう好みの問題ではなく。完全な性能差と言って良いと思います。

 Triotarの傾向は,シャープネスが今ひとつで全体的にぼやーっとしています。色はしっかりのりますし,歪曲もなければ中央部と周辺部での収差の違いもそんなに大きくありませんが,なにせ全体的にシャープネスが足りませんし,コントラストも低いです。

 一言で言えば,トイカメラのレンズ,です。

 加えて周辺光量の低下もあります。40mmくらいのレンズでこれだけ周辺が暗くなるというのも珍しいですが,それもF5.6くらいでの話であって,F11くらいまで絞り込めば気にならなくなります。

 最初は無限遠が出ていないのかなと思ったのですが,F16でパンフォーカスにしても,遠いところも近いところも同じボケ具合で線の太さだったので,まあこれが実力という事でしょう。

 絞り込んでもあまり画質は改善されず,絞ろうが開けようが,ダメなものはダメという感じでした。

 ただ,被写体によって得意不得意があるようで,例えば空に浮かぶ雲とか,高い建物を足下から見上げたものなどは,はっとするような写真が撮れていました。それでもまあ,Tessarの方が良い写真が撮れると思います。

 コーティングがなくなっているせいもあるでしょうが,ちょっと条件が悪いとフレアやゴーストが出ます。コントラストがますます下がったり,おかしな光の模様が出てきたりします。フードをしていても出るので,やはりコーティングがないことは厳しいなあという印象です。

 で,クモリをとるために行った研磨の影響ですが,ちょっとよく分かりません。研磨しないで曇った状態であっても,コーティングが生きているならスカッと写ったかも知れませんし,ソフトレンズのようにボケボケだったかも知れません。

 研磨によってクモリがなくなった一方で,正確な球面が出なくなっているはずで,その影響でこんなに締まりのない画像になっている可能性もあるかと考えると,どっちにしてもこのレンズは本気で使えるレンズじゃなかったんだなあと思ったりします。

 でも,少なくとも目視において,研磨の結果がデコボコだったり,ある部分だけへこんでいたりといったおかしな状態にはなっていません。前玉を覗き込むと,すーっと吸い込まれそうになります。それだけに,もっと写ると思っていたのです。

 周辺光量低下も問題なので,基本的にはこのレンズはF16やF11までしっかり絞り込んで,ブレを防ぐ為に1/60よりも高速なシャッターを切るのがどうもこのレンズの使い方のようです。

 線が太く,しっかり色がのることは他の方の評価と矛盾しませんが,繰り返しますが果たして写真としての最低水準を満たしている画質なのかと問われれば,疑問符が付くと言うのが私の結論でした。

 次,露出計についてです。

 内蔵の露出計をなんとなく調整し,単体露出計やRollei35の露出計に対して1段くらいの誤差に出来たので,調整に深追いをしなかったのですが,もともと精度が低い外光式の露出計がさらに1段2段とズレてしまうと,さすがにネガでも救えません。

 明るいところでアンダーになるので,露出計に画角と同じフードを付けると良いかもといろいろ試行錯誤をしましたが,改めて調べてみると低輝度は誤差が大きく,低輝度では誤差が小さいと言うことがわかりました。

 私は高輝度での調整だけを行いましたので,低輝度側がズレている可能性がありますが,そもそもSPDを使った露出計って,低輝度と高輝度を別々に調整するものなのかどうか,私は知りません。

 ですが,このままでは露出計が信用出来ないままです。なので,観念して露出計を再調整します。

 基板の端っこにあるボリュームはおそらく高輝度側,基板の中央にあるボリュームがおそらく低輝度側だと目処を立てて,それぞれのボリュームを少しずつ調整をします。

 するとうまい具合に,低輝度も高輝度も,Rollei35とほぼ同じ結果に出来ました。もともとRollei35の露出計の調整結果には実績もあり,そんなに外していません。ですから,Rollei35LEDの露出計と揃ったというのは,とてもありがたい結果です。

 これでまたフィルムを通して見たいと思いますが,Triotarの画質についても確認出来ましたし,フードも問題なく,露出計も大丈夫になりました。これでRollei35LEDを実用機として使い倒せます。

 そしてこれ以上お金をかけるのも,もうやめておきます。かつてはレンズを移植しようとか,もう一台買うとか,B35に手を出すとか,いろいろ考えていたのですが,せっかく安く手に入り,自分でコツコツと修理をしたのですから,このまま使う事にしようと思います。

 ところで,悲しい事が1つ。うちのKマウントを支えたMZ-10が,持病のピニオンギアの割れによって,壊れていました。これも持病のペンタ部のストロボも上がらなくなっていました。小さいくせにちゃんとしたKマウント機で,M42も問題なく使えてしまうと言う,隠れた名機だと私は思っているのですが,いかんせんこの頃のペンtラックスは耐久性が本当にダメで,とても残念です。

 修理用の部品も探せば出てくるかも知れませんが,次世代機として用意したSFXnが絶好調ということもあり,もう修理しないでこのまま廃棄しようかと思います。

 

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