先日,PENTAX Q7のレビューを書きましたが,200枚ほど撮影した後,ようやく先日Lightroomで現像するというワークフローにのせることが出来ました。
で,驚いたのは,その画像の素性の良さです。
先日の印象では,画質は2014年レベルにはほど遠く,過度な期待は禁物と思っていました。Qに比べてQ7はセンササイズが一回り大きくなっただけで,高感度特性も実質的に向上していないし,やっぱりレンズ交換式のコンデジの域を超えていないという結論に至り,むしろそのレンズ交換を楽しむデジカメだと考えたのです。
しかし,Lightroomで画像を開いた私は,大幅に進化した画質を見る事になります。思わず「いやー良く写るなあ」と声を漏らしてしまいました。
この画質の良さは,2つの意味があると思っています。1つはQ7というボディの画質向上,もう1つはレンズの良さです。
まずボディですが,ノイズの量から言えば,確かにQ7の方がノイズは少ないのですが,それでもISO3200は厳しく,ISO1600が常用範囲だと思います。この点でQとの違いはやっぱりないと思いますが,実際に現像をしていて思ったのは,色情報がしっかり残っていることと,コントラストをきちんととらえていることでしょう。
ISO1600の場合,Qなら色が落ちてしまい,いかにも高感度で撮りました,と言うかすれた印象になります。コントラストも低下していますから,もう階調が破綻しているんですね。だから調整をしようにも手出しが出来ません。
しかしこれがQ7だと,色もしっかり残っているし,コントラストも十分です。階調が破綻していませんから,調整もまだまだ可能です。この差は実に大きく,Qならもう遊びと割り切らないと行けないものでも,Q7なら記録として残す価値のあるものになるわけです。人の肌の局面の滑らかな階調をすべて残せているとはいいませんが,ISO1600でここまで残せるなら,現像もやる気が出てくるというものです。
それと,この傾向はISO2500くらいまでなら踏みとどまってくれる感じがあります。さすがにISO3200では駄目ですが,緊急避難的にISO2500くらいまでなら,まだなんとか救えるということがわかったので,これは大きな収穫でした。
色に関して思うのは,ホワイトバランスが優秀になったということでしょうか。ホワイトバランスの進化は各社本当に実感します。15年前のデジカメはもうボロボロでした。D2Hもよく外すので太陽光に固定していましたが,この話はK10Dでもそうでした。Qも良くなったとは言え,やっぱり外すことが多くて,ホワイトバランスの確認は現像時の必須事項でした。
ですが,D800,GR,そしてQ7と,もうオートで十分です。というより,オートが一番良いです。現像時にホワイトバランスを調整しないで済むというのは本当に楽が出来て助かりますし,なによりサムネールとして使うJPEG画像で正しいホワイトバランスが得られていることは,その写真に対する印象を正しく持つためにも必要なことです。
現像の前に,もしかすると面白い事になるかもなあと思いついて,Kマウントアダプターを引っ張り出してきました。Qでは結局使い物にならなかったのですが,Q7なら案外使えるかもと閃いたのです。
この写真は,先の日曜日のお昼に,近所の庭に咲いているアジサイを,自宅の窓から撮影したものです。Q7にFA77mmF1.8Ltdで,ISO800,1/320秒,絞りは忘れましたがおそらくF5.6かF4だったと思います。35mm換算で324mmの望遠ですが,手持ちでここまで撮れるんですから,面白いです。
実はこのアダプターを使うと,1段ほどオーバーになります。これで白く飛んでしまうのですが,現像時に露光を-1.0すると,なんとか階調が戻ってきます。色を見てみるとアジサイの淡い青が残っていて,葉の緑色と古びたコンクリートのグレーが綺麗だったので,六つ切りに伸ばしました。
その際に,ざっくりとトリミングをして縦にしたのですが,もともと2200x1700くらいの画像だったものを,ここでは1/4に縮小してあります。
もともと設計の古い銀塩用のレンズですから,画像が眠いのは致し方なく,それは最近のレンズやカメラの流行に乗っていないと思うのですが,それでもFA77mmの持つ滑らかさや視線の優しさは,私は十分残っていると思っています。センサも小さいし,トリミングをしておいて,残っているFA77mmの個性などごく僅かだとは思いますが,ただのオールドレンズの眠い画像とは,ぱっと見の印象が違っていると私は唸ってしまいました。
そもそもQが遊びのカメラ,マウントアダプタもお遊び,そしてFA77mmという古い設計のレンズとくれば,もう結果は実用性など微塵もない,趣味性の強いものになってしまいそうです。しかし,私はこの結果を六つ切りに伸ばしてみようと思うくらいの実用性を感じました。
さて,もう1つのレンズの良さです。
本体がこれほど改善しているから,レンズの良さが見えてきたという側面もあるのでしょうが,特に06と08の2つの画質が際立って良いのです。もう絶賛です。
06はさすが通しF2.8の望遠ズームといった当たり前の使い勝手ですが,出てくる画像はキレもあり,豊かな階調もあり,色もこってりとのっていて,暖色系の色再現性に長けているような印象を持ちました。開放から使っても破綻せず,使っていて楽しいレンズです。
一方の08ですが,これはもうすごいです。35mm換算で18mmという超広角で,なにも考えずにレンズを向けると,余計なものがいっぱい映り込んでしまうのですが,その映り込んだ余計なものの写りがよくて,思わずニヤニヤしてしまうのです。
解像度も透明感もあるし,いわゆるアンシャープマスクで作ったエッジとは違って,ちゃんと色も乗っています。超広角ですからディストーションはありますが,周辺光量の低下もなければ,中心と周辺との解像度の差も小さく,色収差も含めた様々な収差も良く補正されて,ほとんど気になりません。
さすがにちょっとフレアが出たりしますが,このレンズは寒色系の色再現性に長けているような印象で,特に空や木の葉が美しく出ます。
そして,なにがすごいって,このレンズはほとんど補正がいらないのです。06では,Lightroomでもレンズプロファイルが用意されて,RAWからの現像時にはこれを適用しないと,ちょっと辛いものがありました。しかし,08はレンズプロファイルが用意されていません。
そのうち出るんじゃないかと思っていましたが,実は必要性がないんじゃないかとも思っています。RAWから現像するのに,レンズプロファイルなしで,もう十分な画像が出ているからです。
JPEGと見比べて見ましたが,ほとんど見分けがつきません。つまり,08は本体でも補正をあまり積極的にはかけていないということです。01は補正が前提,06も補正をしないと辛いものだったわけですが,ここへきて08は補正無しでも十分な性能を持つ,ともすればQマウントシステムの設計思想(すべての収差を光学的に平均的に潰すのではなく,光学補正で潰せる収差を徹底的に潰して,副作用をデジタル補正で補正するという,レンズ補正が前提という考え方)の根幹を揺るがしかねない,超高性能レンズなわけです。
確かに,08の値段はQ7本体よりもずっと高価です。この価格が故に購入を断念した声もちらほらあったと記憶していますが,ここまでの性能を見せつけられると,特にQ7のオーナーは,借金してでも買えと,言いたいくらいです。それくらい,Q7とはベストマッチです。
ところで,一緒についてきた(というと可愛そうですが)02ですが,さすがに標準ズームだけあって,画角は使いやすい(35mm換算で24-70ですからね)のですが,評判通り,画質は今一歩な感じです。いや,決して悪いわけではないのですが,やっぱり眠いというか,キレがないというか,今一歩感が画像から滲んででてくる感じなのです。
もっとも,06と08の列びで02を見ていますから,特にそういう気分にさせられるのでしょうけど,これが06だったら,あるいは08だったらなあと,思うことがしばしばありました。やっぱり,02のプレミアムバージョンが欲しいです。Q7の後継や上位機種が出るとしたら,24-70のF2.8通しズームが出ないと,ちょうどここだけ欠落した感じになってしまいます。この穴は大きいです。
ということで,Q7を私は見くびっていました。あちこちでみた作例も,撮って出しのJPEGで本体が加工に加工を重ねた,原形をとどめない画像だと思っていたのですが,さにあらん。RAWデータの質がもうQとは別次元で,たくさんの情報がそこには眠っています。現像でいじることの出来る範囲は大きく広がり,多少の無理も利くようになっています。
これに06や08を組み合わせれば,Q7は本当に懐の深い画像を吐き出してくれます。見た目のかわいらしさ,面白さに惑わされると損をしますね。良く出来たカメラだと感心しました。
さて,こうなってくると,Qシステムの今後が気になります。直接関係する話としてはレンズですが,予定に入っているのはマクロレンズでしょう。まあ,Q7でマクロレンズってどれだけの需要があるのかなと思う所もありますが,マクロレンズは解像度が命です。ポートレートにも使いやすい画角で出てくる事も考えると,どんなレンズになるのか楽しみです。
あとは,やっぱり標準ズームに高画質なものが欲しいですよね。02の立ち位置が微妙になりますが,24-70のF2.8通しは,もう絶対に必要です。
マクロでしょ,標準ズームでしょ,もうこれで最低限のラインナップは揃ったわけですが,ここにあえて加えるなら,大口径の標準レンズと,パンケーキでしょうか。35mm換算で35mmのF1.4とか,50mmのF1.2とか,大きな前玉が(それでもフィルタ口径は49mmだったりするんですが)ギラギラしてたりすると,もうたまりません。
パンケーキも,そうですね,PENTAX伝統の40mmでF2.8で,厚みは12mm-13mmくらいがいいですね。グリップとツライチになるくらいの厚みがちょうど良くて,ちゃんとAFがきいて,レンズシャッターがついているものがあるといいかなと思います。
今の01はちょっと分厚すぎますし,F1.9という明るさが中途半端で難しいです。かといって07は単レンズだし,パンフォーカスだし,トイレンズとしてはありかもしれませんが,あれを常用して貴重なシャッターチャンスを待ち受ける勇気は,ありません。
まあ,レンズはそんなもんですが,あとはボディです。これだけレンズの性能が高いのですから,ボディにももっと期待したいところです。Qの画像を見て,もうQはこの路線でいくんだろうなと思っていましたが,Q7の画像は,カメラとしての本質を今後も追いかけていくだけの素質を,垣間見せてくれました。
PENTAXの命名ルールからいくと,7はフラッグシップ機で,その後継は5,そして3に続きます。きっとQ5は出るでしょうし,Q3も続くかも知れません。名機で知られたK-5に続き,Q5も名機であることを望みたいところです。
ところで,QからQ7への進化は,センササイズの変更という,まさかの飛び道具によって成された部分が大きいわけですが,イメージサークルの大きさからいって,これ以上のセンササイズに拡大する事は出来そうにありません。
ということは,Q5になって進化するのは,センサで言うと画素数のアップ,高感度特性の向上,そしてダイナミックレンジの拡大という,正常進化になるはずです。
このうち,画素数のアップに対して高感度特性とダイナミックレンジの2つは,両立が難しい問題です。Q7の画素ピッチはすでに1.9umまで小さくなっています。GRはAPS-Cで1600万画素ですが,これならさすがに画素ピッチは4.8umありますし,K-3のような2400万画素になっても3.9umあります。D800はフルサイズで3600万画素なので3.9umということで,さすがに大型センサはしっかり画素ピッチが確保できるのがわかります。
これが,例えばNikon1J3のような1インチになると2.9umまで小さくなりますが,それでも2umを割ることはありません。2umを割るのは,もうコンパクトカメラの世界なのです。逆にびっくりするのは,iPhone5SとPENTAX Q10の画素ピッチが同じなんですね。
こういう状況を踏まえると,画素数アップはかなり厳しいなあと思います。もちろん,画素数が上がることで得られるメリットは大きいですから,頭から否定するつもりもありませんが,画素数が1600万画素になって画素ピッチがQ10並になっても,あんまりうれしくないですよね。2400万画素になって,画素ピッチが1um近くなったら,それまで出来ていたことが出来なくなったりしますよね。
かといって,画素数を減らすという選択肢は,今さら出来ないでしょう。そうすると,もう1/1.7のセンササイズ,1200万画素で,ひたすら高画質化をするしか,ないでしょう。しかし,プレミアムコンパクトカメラのセンササイズがAPS-Cに移行するに至って,1/1.7はもう性能的な要求の低い,普及価格帯のセンサになってしまうでしょう。
そうすると,画像処理エンジンの高性能化によって高画質化することになりますが,これも結局撮って出しのJPEGで有利になる話ですから,私のようなRAWで使う人には,難しいなあと思います。
ちょっと視点を変えて,センサのアスペクト比を変えてみたらどうでしょうか。今は4:3のセンサで,実はイメージサークルが目一杯生かせるのですが,これが3:2になると,どんな風になるかなあと思ったりしました。
が,冷静に考えると,4:3のセンサを3:2でクロップするのと同じですね。それならQ7で出来ています。(そうそう,QはRAWデータにクロップデータが入っていませんが,Q7はクロップデータが埋め込まれているので,3:2で撮影すればJPEGだけではなく,RAWでも3:2で自動でクロップされるんですね。小さな違いですがちょっとうれしい機能です)
そんな中で,Q5はまず,全体のレスポンスを向上させて,2014年レベルのサクサク感を実現せねばなりません。メモリカードへの書き込みも高速化しないといけないし,撮影画像のプレビューも今は時間がかかりすぎです。待たされることが多いQ7は,まだまだこの点で伸びしろがあります。
高感度については,ISO3200が常用域,ISO6400までが緊急用,それ以上は画像処理と組み合わせてISO25600までという感じがボトムラインでしょう。
LCDは,色,明るさ,画素数と,もっともっと進化しないといけません。バッテリーの持ちも悪いので,低消費電力化もテーマになりますね。
それとぜひお願いしたいのが,薄型化です。ボディの厚みが結構あるので,これをもう2mmほど薄くすれば,持ちやすく,また格好良くなるはずです。
Kマウントアダプタをもっと主役に引っ張り出して欲しいというのも感じる事です。デザイン上の統一感,持ちやすさの向上もそうですし,いちいち焦点距離を入力するのも面倒なので,いくつかプリセットして選ぶようにする仕組みとか,手ぶれ補正をもっと強くかかるようにして,500mmオーバーでも手持ちOKとか,とにかくこのマウントアダプタをもっと使えるようなボディにして欲しいです。
うーん・・・無理にQ7から買い換える必要性って薄くなってきてますよね。だったら,Q7とQ5は併売とし,Q5はストイックな全金属超小型モデルとして登場しても面白いかも知れません。縦グリップも付属,バッテリーは2個内蔵できたりして,大口径のKマウントレンズにも見た目に負けないカメラになると,面白いなあと思います。