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2013年02月の記事は以下のとおりです。

ハンドセットの増設と充電台の改造

 先日,固定電話を買い換えたという話を書きました。xxxがyyyしてzzzだったりするので詳しいことはちょっと差し控えたいのですが,後日談です。

 本格的な運用に入ってみると,これがなかなか便利でして,親機と子機という訳のわからん区別ではなく,ベースステーションにワイアレスのハンドセットという携帯電話のようなシステムは,どの電話機を使っても機動性が損なわれることなく,また電話機によって機能差があったり使い方が違ったりするという問題もありません。たいへん合理的です。

 そして,インターコム(内線ですね)がまた便利です。フロアが分かれているときには手軽に連絡が付く手段として我が家では定着しつつあります。

 今は2階の家に住んでいますが,近々引っ越しをする新しい家は3階建てですので,2つしかハンドセットがない今のシステムをどうやって設置するかが問題です。

 外線は1階に来ます。リビングは2階,寝室は3階に来ますので,ベースステーションを1階に置き,ハンドセットを2階と3階に置くというのは結構自然だと思うのですが,悪いことにベースステーションが充電台を兼ねていますので,残念ながらベースステーションだけ単独で設置するわけにはいきません。

 最初からハンドセットが3つのシステムを買っておけばよかったのですが,使い物になるかどうか半信半疑でしたし,3台のシステムは2台のシステムよりも割高なので,まあ2台で試してから考えようと思ったのです。

 そもそも1階にもハンドセットがあった方が便利ですし,追加でハンドセットを買い増しすることにしました。

 しかし,悪いことに簡単には手に入らないんですね。

 そこで,同じハンドセットを同梱する,ベースステーション付きのセットを買ってみようと言うことになりました。ハンドセットが1台だけのセットなら,そんなに高価ではありません。

 ただ,ベースステーションとのセットで販売されているハンドセットが,別のベースステーションに登録出来るのかという問題はあります。しかも,全く同じハンドセットを買うことが出来ず,下位機種の留守番電話機能なしのモデルしか買えませんでしたから,これはかなりのバクチです。

 まあ,3600円だし,面白そうだから試してみました。


・異なるベースステーションに登録出来るか

 結論から言うと可能でした。

 ベースステーションのシステムはL702M,今回買ったのはL601Mです。L70xとL60xとの違いは,留守番電話の有無です。

 留守番電話はベースステーションの機能ですので,ハンドセットは一見すると同じに見えるのですが,その留守番電話を操作するためのキーに,印刷があるかないかが見た目の違いです。

 実は,追加用の別売りハンドセットは,L70xとL60xで共通のL7という製品です。つまり,L7を買えば留守番電話のないL60xでも使えるわけです。ということは,L70xのハンドセットはL60xでもつかえると推測されます。

 問題は逆が可能かどうかです。印刷の違いだけで中身が同じであれば,L70xのベースステーションにL60xのハンドセットを登録することは可能でしょう。ですが,下位機種のハンドセットが登録出来るとなにかと不都合もあるだろうし,あえて登録出来ないようにしてあるかも知れません。

 届いてから試したところ,うまくL70xのベースステーションにL601Mの'ハンドセットを登録することが出来ました。ちゃんと電話もかかります。

 DECTという規格は汎用の規格ですので,メーカーや機種が違っても同じ仕様に従っています。異なる携帯電話メーカーの電話が同じように使えるのと同じ話ですが,話はベースステーションとセット販売されるコードレス電話ですから,特定の相手しか登録出来ないようになっている可能性は大いにありました。

 しかし,少なくとも今回のケースでは大丈夫でした。

 
・機能制限はあるか

 L601は留守番電話のない下位機種です。留守番電話の機能そのものはベースステーションにありますが,操作はそれぞれのハンドセットから行います。ですから,ハンドセットには留守番電話の操作という機能が求められるのです。

 L702Mの留守番電話の操作には2つの方法があります。1つはメニューから留守番電話機能を呼び出して操作する方法,もう1つは左上のボタンにあるショートカットを使って直接機能を呼び出す方法です。

 試したところ,前者はメニューに現れず,選ぶ事が出来ませんでした。フタをされてしまっていますね。

 そこで後者を試したところ,左上のボタンを押した瞬間にメッセージの件数を知らせる音声が流れ,留守番電話の操作メニューが表れました。

 そこからは,テンキーに割り当てられた操作も受け付けるようになり,留守番電話機能のすべてにアクセス出来るようになりました。

 つまりこの操作にはフタはされていないことになるのですが,ひょっとするとフタをすることが出来なかったのかも知れません。

 つまり,ショートカットでの機能呼び出しは,キーが押されたことをベースステーションに伝えるだけがハンドセットの仕事で,そこから先は決まった手順でベースステーションとハンドセットがやりとりをするという仕組みなのかも知れないです。

 メニューなら,メニューに出てこないようにフタをするのは簡単です。ショートカットボタンの処理がハンドセット側で行われているなら,ここにもフタをするだけですので,話は簡単だったはずです。

 しかし,そうなっていないところを見ると,ハンドセットではボタンを押したことをベースステーションに送るだけの機能しかしていないんじゃないかと思うのです。ボタンを押したことを伝えないようにフタをすると,他の機能にも影響が出ますので,それは出来ません。

 ベースステーションからの返事がハンドセットから届くときに,ハンドセット側で無視するような修正は可能でしょうが,それは新機能の追加になるくらい面倒な修正でしょう。それなら放置が一番楽です。

 つまり,メニューからの留守番電話機能へのアクセスが出来ないのは,入り口がふさがれているだけで,機能そのものが消されていたわけではなかったということです。

 留守番電話機能のキーへの印刷がありませんので,慣れていないと使いにくい物になるかもわかりませんが,ショートカットで留守番電話機能に入ってしまえば,あとはメニューに従うだけですから,なんということはないでしょう。むしろキーがスッキリとして,見やすくなり,格好良くなっていることの方がメリットがあるかも知れません。


・充電はどうする?

 登録がうまくいった場合に,ちょっと考えないといけないなあと思っていたのは,この問題でした。

 一番簡単なのは,追加のハンドセットに付いてきたベースステーションをそのまま使う事です。もちろん外線には接続しません。

 しかしこの方法は2つの懸念点があります。1つは,ベースステーション機能を殺しているわけではないので,電波が出続けている可能性があるということ,もう1つはベースステーション機能が動いていることで消費電力が大きいこと,です。

 この問題を根本的に解決するには,ベースステーションを改造し,単なる充電スタンドにすることです。

 そこで,ベースステーションを分解し,中の基板を取り出しました。

 そして6Vのスイッチング型のACアダプタを用意し,これに合うジャックをベースステーションの穴に接着剤で貼り付けます。

 充電の接点との間を配線して完成です。

 ただ,充電端子にどんな電圧が出ているかわかりませんので,L702Mのベースステーションと充電台それぞれの電圧を測ってみます。ベースステーションは6.8V,充電台は7.9Vほど出ています。これだったら6Vに安定化されたACアダプタを直結しても大丈夫だと,考えました。(これが間違いだったのですが)

 改造したベースステーションに電話を置くと,ちゃんと充電を開始します。しかし1時間ほどで充電が完了しています。随分早いです。

 消費電力は,AC100V側で0.2Wほど。無改造のベースステーションでは2Wくらいでしたから,ヒトケタ違います。よしよし,これでok。

 ・・・と思って数日後にハンドセットを手に取ると,ほんのり暖かいのです。まあこういうことは別に珍しいことではないので気にしないでいたのですが,問題なのは電池そのものが暖かかったことです。

 気になって他のハンドセットを確かめると,冷たいままです。

 おかしい。

 この時,L702Mに付属の充電台を分解したときのことを思い出しました。なにやら大きめの抵抗(47Ω)が入っていたのです。

 なるほど,これが電流制限抵抗か。

 そこで,電圧を無負荷で測るだけではなく,負荷を入れた時の電圧も測定してみました。予想通り,大きく電圧がドロップします。直列に大きめの抵抗が入っている証拠です。

 まてよ,この抵抗は,もしかするとトリクル充電の為の抵抗なんじゃないのか。

 そう考えて計算すると,やはりその通りのようです。ざっと20mAから30mAくらいの電流が流れます。トリクル充電は,電池の容量の1/20から1/30の電流を常時流しますので,まさにぴったりの数字です。

 私は,ハンドセット側に充電回路が入っている物だと思い込んでいましたが,トリクル充電しかしないなら,抵抗1本で済んでしまうのですね。それならベースステーションなり充電台に入れた方がよいですよね。

 今度はベースステーションも測定します。無負荷で6.79V,1kΩの負荷で6.00Vまで下がりました。この結果,等価的に見える内部抵抗は131Ωとなります。

 私はここでかなり焦っていました。トリクル充電の抵抗を入れず,電池に直接ACアダプタの出力(しかも6Vに安定化されている)を繋いでいたかも知れないのです。電池があっという間に過充電になり,もしかすると安全性も損なっているかも知れません。

 そこで,ACアダプタと充電端子の間に100Ω2Wの抵抗を入れることにしました。47Ωでもよいのですが,手持ちに適当な物がなかったことと,充電電流が少ない方が安全だという考え方からです。

 これで試してみると,30mA程でトリクル充電されることがわかりました。仮に電池の容量が700mAhなら1/20以下ですので,大丈夫でしょう。

 今のところ,これで満充電にもなりますし,おかしな発熱もありません。やれやれです。

 後日,他社製のコードレス電話の回路図を見てみると,やっぱり私の推測は当たっており,トリクル充電を抵抗1つでやっていました。充電回路であるこの抵抗はハンドセット側にはなく,充電台側に仕込まれていました。いやはや,危ないところです。


 そんなわけで,これでようやく3台体制になりました。今どき固定電話に手間とお金をかけるなんてどうかしてるなあと思いつつ,やはり携帯電話とは違う面白さがあるものです。昭和生まれはこれだからなあと,自分の年寄りっぷりに,苦笑いが出てしまいます。やれやれ。

2012年の散財を振り返る

 今年は冷静に考えると,毎年年初にやっている「昨年の散財」をまとめてませんでした。

 遅ればせながら,自戒の念を込めて,昨年の散財を振り返っておこうと思います。


(1)ネットワークオーディオプレイヤーN-30

 まずは,ネットワークオーディオプレイヤーです。パイオニアのN-30です。

 購入してから11ヶ月経過していますが,すっかり我々の生活に定着しています。DLNAによるFLAC再生,AirPlayによるiPadからの再生,そしてインターネットラジオと,大変便利に使っています。

 価格も安く,比較的大きなカラーディスプレイも装備されていて,基本性能も十分な物があります。ちょうど先日アップデートがあり,さらに完成度が上がったわけですが,音質云々ではなく仕様については,個人的にこの機種を越える物はないんじゃないかと思うほど,そつなくまとまっています。

 価格を考えると大変良く出来た製品だと思います。買って良かったです。人が集まる部屋には1台欲しいので,もう1台買おうかと思うくらいです。


(2)食洗機

 これも大変よい買い物をしたと思います。ただし,プチ食洗機は小さすぎて,使いこなしはなかなか苦労します。

 プチ食洗機は2人から3人くらいの家族を対象にした小型モデルなわけですが,通常サイズの食洗機との差分が対象とする人数,つまり格納できる食器の数だけだと思ったら大間違いで,特に奥行きが狭いことによる影響は大きなお皿が入らないという,数以上の形で表面化します。

 カゴの形状や食器の入れ方は大変工夫されていて,よくこのサイズにこれだけ入る物だと感心しますが,余裕のないギリギリの設計になっているので,ちょっと変わった形の食器や,少し深いお皿をいれると,途端に数が入らなくなります。

 ですから,経験的に格納しやすい食器ばかりを使うようになってしまいます。あれこれとお皿を使い分けるという楽しみが食洗機の導入以後なくなってしまい,食事が殺風景になったことは否めません。

 
(3)HP15cLE

 復刻版のHP15cLEも昨年の買い物です。買った時は全然使うこともなく,なんだか使いにくい電卓だなあくらいの感じだったのですが,HP20bを改造して作ったWS34Pのあまりの使い心地の良さに,HP15cLEも難なく使えるようになってしまい,単なるコレクターズアイテムから,実用マシンへの昇格を果たしました。

 とはいえ,もったいないので普段は箱にしまってあります。それでも目立つ傷がついているのはなんでだろうと,ちょっと凹みます。


(4)D800とレンズ

 なんといっても昨年の散財の筆頭は,D800とレンズでしょう。D800が27万円,AF-S24-70mmF2.8が15万円,AF-S300mmF4Dが10万円,そのほかなんだかんだで・・・いやー,すごい買い物ですね。いくら下取りを使ったとはいえ・・・

 しかし,D800は価格以上の価値がありました。36Mピクセルという超弩級の画素数を誇るフルサイズ機ですが,ボディの作りも高レベルで,今のところこれ以外に欲しいカメラが見当たりません。間違いなく一眼レフの頂点の1つです。

 高画素,高画質であることは,それ自身も重要なことですが,失敗の多くが救われるようになったことも思わぬ収穫でした。当初,高画素機ゆえの手ぶれによる失敗が多発することを覚悟していましたが,葉書サイズくらいに印刷するのであればそんなに神経質になることはありません。

 それより,フルサイズで高画素なのでトリミングの自由度が高いこと,高感度なので露出の失敗を救えることが多く,大変助かっているのです。

 そもそも失敗しないことが一番大切なのはわかります。

 しかし,失敗を意識してシャッターを切るのをためらうようなことがあると,貴重な瞬間を逃します。私はアマチュアですので,あまりストイックなことを言っていても始まりません。下手なんですから意地を張っていてもプラスにならず,そんなことよりむしろ,シャッターチャンスを逃さないことの方が大事です。

 ですから,トリミングも露出の調整も出来なかったD2Hに比べて,撮影が随分ラフになりました。本気のD2HとラフなD800を比べても,D800の方がはるかに良い写真が撮れるという現実は,受け入れなければなりません。

 これは私だけの話かも知れませんが,D800の唯一気にくわない点であるAFの性能が今ひとつなことでシャッターチャンスを逃しがちです。失敗写真の大半はピンぼけである現状で,1枚でも多くの写真を救えることはとても大きな意味があります。

 D800の被写体は,1歳ちょっとの娘です。生まれてから現在に至るまでの成長の早さ,変化の大きさには目を丸くするばかりですが,それを現時点における最高性能のカメラでたくさん残せたことは,本当に有意義だったと思います。

 とはいえ,レンズは試行錯誤ですね。AF-S24-70mmF2.8はなるほど良いレンズですが,大きくて重くて寄れないので案外出番は少なく,AF-S300mmF4Dなどは円高を理由に海外から買いましたが,本格的な出番は一度もありません。いずれ必要になると思われるレンズですから,大幅な価格上昇が予想されるリニューアルの前に,しかも超円高のうちに買っておこうと思ったのですが,ちょっともったいなかったかなと思います。

 結局のところ,一番稼働率の高いレンズは,AiAF35mmF2Dです。おそらく私だけでしょうね,D800のオーナーの中でこんなもったいない使い方をしているのは。


(5)ベビーカー

 マイクラライトのベビーカーは,5万円を越えるのが普通になったベビーカーの現状から考えると,性能に対して安価だと思います。

 ただ,必ずしも使い勝手がよいとは言えず,やはり重量の問題と取り回しの問題,そして前輪からの振動が多くて案外乗り心地が良くないのではないかと,そんな懸念もあります。

 今年の冬は寒く,インフルエンザも流行っているので,晩秋からずっと,積極的な外出はしていません。夏は夏であまり外に出ることはしませんでしたから,案外ベビーカーって活躍しないものです。

 これは親が出不精だからという理由が一番大きいのでしょうが,毎日ベビーカーで出かけるようになると,もっと軽くてコンパクトなベビーカーがありがたくなり,マイクラライトという選択肢が必ずしも正解とは言えなくなるかも知れません。


'(6)NAS

 不安定で遅いPogoplugにぶち切れてQNAPのNASを導入しましたが,これもなかなか良い買い物でした。NASという本来の機能に加えて,WEBサーバーもこれに統合し,Linuxであげていたサーバーを1台廃止(のち廃棄)することが出来たのですから,大したものです。

 DLNAによるオーディオ再生,複数台のMacをTimeMachineでバックアップなど,日常的に便利に使っている機能だけではなく,写真や動画の共有なども出来るQNAPのNASは,個人用のNASとしてはとてもよい製品だと思います。

 また,これをきっかけに導入したギガビットEtherの恩恵も大きく,USBなどの外付けストレージのプライオリティは低くなったと思います。それでも,無線LANを使っているとギガビットEtherと高速NASの恩恵は受けられません。ここが今後の改善点になるだろう思います。

 ついでにいうと,近頃の円安でHDDも値上がりしていますが,WDのREDシリーズの3TBもよいです。そこそこ速いし,発熱も少なく,SMARTのレポートを見ても壊れる気がしません。通常の3TBよりも高価ですが,その分の安心感は大きな物があります。


(7)Lightroom4

 購入したソフトの中ではダントツの稼働率で,もはやこれがないと私の写真趣味は成り立たないと言っても言い過ぎではありません。

 D800のように画像データが大きいカメラを使うには,写真の管理から現像,調整,印刷というワークフローを効率よく行う必要があります。容量と速度で大きなデータにへこたれないストレージ,高速なCPUに大容量のメインメモリというハードウェアは当然としても,自分にあったソフトウェアを見つけて使いこなすことも同じくらい大切な事です。

 D2HやK10Dをメインに使っていた頃にLightroom4を使い始めましたが,D800のようにデータのレタッチ耐性が高く,前述のように多少の失敗が救えるようになってくると,ますます現像ソフトの役割は大きくなります。

 ここで,メーカー純正のソフトを使うのが一番良いは説明の必要もないわけですが,メーカーが違えば異なる操作体系や概念を学習し直さねばなりません。また,データ管理から印刷までを一気に行えるバランスの良いソフトは純正には少なく,現像は優れていてもノイズ除去が下手くそとか,印刷が苦手とか,得手不得手があるものです。

 それをカバーするために,データが小さかった時代なら複数のソフトを組み合わせる方法でなんとか出来たかも知れませんが,1枚あたり30MBになろうかというD800の巨大なRAWデータでそれはなかなか大変で,多少の欠点には目を瞑ってでも一連のワークフローを1つのソフトで完結させることが出来ないと,現実的に作業が難しくなると思います。

 Lightroom4は安価で高機能,優れたUIを持ち,現像の能力はプロも認めた安定性を誇り,印刷の機能も本気で実装されている,コストパフォーマンスに優れたソフトです。ファイル管理は私はOSに任せているのでLightroom4の機能を使ってはいませんが,それ以外の機能については大変手に馴染み,D800との組み合わせにおいて不自由を感じません。

 現像機能だけとっても,メーカーが違っても同じ手順で処理が出来,そのくせ仕上がりは撮って出しのJPEGに近い物がちゃんと出てきて,そこからの調整や修正も問題なし,ノイズ除去性能の高さも手伝って,カメラの性能を1段引き上げていることは間違いないと思います。

 そこに良く出来た印刷機能やファイルのフィルタリング機能があって,使いやすく統合されたLightroom4は,買って良かったソフトの1つであると思います。


(8)ブラックアンドデッカーmultievo

 ブラックアンドデッカーの電動ハンドツールで,アタッチメントを交換するとドリルになったり丸鋸になったりジグソーになる,便利ツールです。

 リチウムイオン電池で動作し,多機能で安価といいことずくめなわけですが,そこはやはり価格相応のクオリティであり,剛性感も5万円クラスの電動ツールと比べれば,みじめな気分になります。

 でもそこはDIYの本場アメリカです。無骨でアメリカンな外観通り,不思議と不安感はありません。よく考えられているようで結構大雑把,持ちやすそうに見えて実はそうでもないとか,無駄にゴツゴツしていてやたら存在感だけはあるとか,マキタやボッシュにはない,独特の押しの強さがあると思います。

 と言いつつ,実はこれ,まだ本格的に使っていません。ですから使った実感というのはまだ沸いていないのですが,十徳ナイフやアタッチメント式の道具にありがちな,結局中途半端でどれも使いにくいという話は,ないように思います。

 パワーもあるし,予備の電池もあるので,このツールが作業の足かせになるようなことはないでしょう。


(9)Kindle Paperwhite

 3台目のKindleです。最初に買ったKindleDXは良く出来た機器でしたが,昨年秋に249ドルに値下げされた後,今はディスコンになってしまいました。惜しいですね。

 2台目に買ったKindle Keyboardは安くて軽くて小さく,標準で日本語に対応した初めてのKindleでしたが,やはりSVGA相当の解像度の低さがネックでした。

 そしてKindleの日本でのサービス開始を受け昨年末に購入したのがしたのがKindle Paperwhiteです。

 実は,購入してからずっと,ほぼ毎日使っています。以前は寝る前にふとんの中で読むことが多かったのですが,最近は通勤中に電車で読むようになりました。小さいのにXGA相当の解像度を持ち,高いコントラストをフロントライト併用で実現したこのマシンは,手で持った感触もすばらしく,読むという行為へのストレスが随分小さくなったなあと思います。このあたり,さすがに一日の長ありです。

 欠点は,PDFでは綺麗に読めないのでmobiに変換が必要であること,変換に手間がかかるので一気にやって蓄えておきたいのに容量が小さく,油断していると内蔵ストレージがいっぱいになり,ファームのアップデートすら出来なくなっていることでしょうか。

 そうそう,私は3Gモデルを買ったのですが,WiFiモデルで十分だったと思います。3Gで出来る事は限られ,ファームのアップデートすら自動で行われません。WiFiにバグがあるので3Gがないと時計も狂うという状況でしたから,確かに3Gに意味がなかったとは言いませんが,WiFiとの価格差を考えると自炊の人はWiFiにすべきですね。


 ということで,昨年も随分散財しました。それぞれに価値のあるものであり,純粋な無駄遣いは減ってきていると思うのですが,D800とレンズがこれだけ高額であることを考慮すると,今年以降はかなり引き締めて行かねばならないと,そんな風に思った次第です。

 なにかの雑誌で読んだのですが,年収400万円の人も年収1000万円の人も,そんなに貯蓄額は変わらないそうです。理由は年収に応じたお金の使い方をしてしまうからなんだそうですが,私の場合年収が高くないのに欲望に抗わずに散財しますから,このままでは破滅します。そう,身の丈に応じた生活をしないといけないのです。

TimeMachineがエラー

  • 2013/02/22 12:31
  • カテゴリー:備忘録

 先日,生活マシンであるMacBookAirが,エラーを吐き出しているのを見つけました。いわく,

 信頼性を向上するために、Time Machine は新規バックアップを作成する必要があります。

 とのこと。

 QNAPのNASを導入してから,TimeMachineによるバックアップを積極的に行うようになったのですが,もともとMacBoorAirは内蔵のSSDが64GBと少なくバックアップの負担が軽く,しかもうっかり操作でメールなどを消してしまうことが多い私としては,それなりに便利に使っていたのです。

 TimeMachineのような,履歴を遡って復元できるバックアップというのは,その保存期間が長いほど安心感があります。時間が経てば経つほどそのバックアップに値打ちが出てくるような錯覚に陥るのはそのせいですが,老舗のとんかつ屋の「秘伝のソース」のような気分で,ずらーっと列んだ自分のTimeMachineを見るのは,悪い気分ではありません。

 このエラーメッセージが出た時の選択肢は2つ。バックアップをやめるか,親近いバックアップを作り直すか。突然出てきたエラーメッセージに,過去の資産をすべて捨てろと言われることの,精神的ショックはかなり大きいです。

 こんな貧乏くさいのは私だけかなと思っていたら,国内外の先輩諸氏が同じ気持ち(かどうかは定かではありませんが)でこの問題に取り組み,見事に打破していることがgoogle先生の指南により,はっきりしてきました。

 まあ,こういうのはケースバイケースで,同じ手段で必ず解決出来るわけではない,特に最近のPCやMacは複雑化しているので,ダメモトでやってみました。

 なかなかうまくいかず,あきらめかけたのですが,幸いなことにうまくいきました。UNIXのコマンドに抵抗がないこと,MacOSXにおけるファイルシステムの扱いと共有の概念がきちんと分かっていることが求められますが,尻込みしていても仕方がないので,試行錯誤を繰り返したのです。

 このトラブルは今後も出てくると思います。そこで,ここにメモしておくことにしました。

 先輩諸氏は汎用性のある書き方をしてくれています。それは分かっている人にはありがたいのですが,分かっていない人には具体的な作業が分からず,結果が好ましくない場合になにが間違いだったのか,わかりにくい側面があります。そこで今回は,私のケースをそのまま記述しておくことにします。

(1)まず,TimeMachineのエラーが出たときに,バックアップしないを選択する。

(2)ターミナルを立ち上げて,
sudo su -
と入力する。これで以下の作業はrootで行う事が出来るが,失敗すると大変なことになるので,くれぐれも気をつける。

(3)カスタムアクセス権がかかっている場合に解除の必要があるため,以下のように打ち込む。
chflags -R nouchg /Volumes/TMBackup/MacBook\ Air.sparsebundle

 /Volume~は環境によって違うのだが,私の場合はこう。

 ここで出てくる「sparsebundle」というのは,MacOSX Leopardから採用されたディスクイメージの形式で,約8MB単位でファイルを細かく分割して保存することで,差分の保存を素早く行う為のもの。「スパースバンドル」と読む。

 成功してもなんのメッセージも出ないので気を落とさず次に進む。

(4)いよいよ修復。以下のように打ち込む。

hdiutil attach -nomount -noverify -noautofsck /Volumes/TMBackup/MacBook\ Air.sparsebundle

 すると,以下のように表示が出る。あくまで私の場合。
 
/dev/disk1 GUID_partition_scheme
/dev/disk1s1 EFI
/dev/disk1s2 Apple_HFS

 これを見ると,TimeMachine用のディスクイメージは/dev/disk1s2にマウントされていることがわかる。

 実はこのコマンドを実行すると,すでにfsck_hfsが走っており,修復がバックグラウンドで行われている。topコマンドを実行するとfsck_hfsが走っていることがわかるし,以下のように打ち込むとfsck_hfsのログがリアルタイムで見られる。

tail -f /var/log/fsck_hfs.log

 私の場合,こんな感じに。

QUICKCHECK ONLY; FILESYSTEM DIRTY

/dev/rdisk1s2: fsck_hfs run at Thu Feb 21 21:33:32 2013
/dev/rdisk1s2: ** /dev/rdisk1s2
/dev/rdisk1s2: Executing fsck_hfs (version diskdev_cmds-557~393).
** Checking Journaled HFS Plus volume.
** Detected a case-sensitive volume.
The volume name is Time Machine Backups
** Checking extents overflow file.
** Checking catalog file.
** Checking multi-linked files.
** Checking catalog hierarchy.
** Checking extended attributes file.
Invalid sibling link
・・・以下つづく

(5)ログに以下のように出てくると,修復は成功。

** Checking extents overflow file.
** Checking catalog file.
** Checking multi-linked files.
** Checking catalog hierarchy.
** Checking extended attributes file.
** Checking multi-linked directories.
** Checking volume bitmap.
** Checking volume information.
** The volume Time Machine Backups was repaired successfully.

 ここで,修復できないというメッセージが出てきた場合には,

fsck_hfs -drfy /dev/disk1s2

 と打ち込めば,もう一度fsck_hfsが走る。

(6)ディスクイメージをアンマウントする。以下のように打ち込む。
hdiutil detach /dev/disk1s2

 すると,以下のようにかえってくる。

"disk1" unmounted.
"disk1" ejected.

(7)壊れていることになったままの設定を変更する。以下の操作をする。

cd /Volumes/TMBackup/MacBook\ Air.sparsebundle
vi com.apple.TimeMachine.MachineID.plist

 viを使えるようになっておくと,こういうときなにかと便利。

 そして,以下の2行を削除。

RecoveryBackupDeclinedDate
{whatever-the-date}

 続けて,

VerificationState
2

 の2を0に変更。

 ファイルを保存して終了。

(8)これで復活。TimeMachineを手動で実行すると,おそらく成功するはず。


 という感じで,書けばなんてことない作業なのですが,私の場合何度も失敗していました。まず,TimeMachineのディスクをマウントしておくという先輩諸氏の記述を忠実に守らんとし,デスクトップにアイコンが出るようにするために,TimeMachineに入って中止するという手順をやったのです。

 はっきりしないのですが,これがよくなかったらしく,fsck_hfsがすぐに止まってしまいます。

 それで,こうした手動のマウントしないで,いきなり上記の手順を始めると,/dev/disk1s2 Apple_HFSてのは出てくるのですが,そこから進んでいないように見えます。

 仕方がないので手動でfsck_hfsをやるのですが,最後の最後にエラーが修復できない,と返ってきます。何度やっても修復できず,これはもう私の場合は修復できないエラーだったのかなあと,くじけそうになりました。

 今にして思い返してみると,hdiutilを行った後に,自動でfsck_hfsが動いているにもかかわらず,fsck_hfsを手動で実行してしまったからではないかと思います。

 そして最後に上記の手順に素直に従ってみると,どういうわけだかうまくいったと,
こういうわけです。

 とりあえず結果オーライということで,TimeMachineは順調に動いています。他に問題も出ていないようですから,これでよいということにしますが,TimeMachineは気持ち悪さも含みつつ,しかし一度でも救われた経験があるとやめるわけにはいかなくなる,そんな存在です。

 もう少し信頼性が上がってくれればありがたいのですが,NASとの組み合わせで問題が出てもそれは自己責任ですし,なんとかやっていくしかありませんね。

埋もれたHDCDでハイレゾ音源を入手

 ハイレゾ音源がにわかに脚光を浴びています。SACDの基盤技術として生まれたDSDも配信ですっかりメジャーな存在になりましたし,かつては雲の上の存在だった24bit/192kHzのPCMでさえも楽しめるようになってきました。再生環境もPCを使うか,一部のハイエンド機器しかなかった時代を経て,今はネットワークプレイヤーを使えば3万円ほどで楽しめます。

 良い時代になったものです。

 私もN-30というネットワークプレイヤーや,SACDでCDを越える情報量の音楽を楽しむ人間ではありますが,いかんせんハイレゾののソースを確保するのがなかなか面倒です。SACDはリッピングできませんし,DVD-Audioはすでに死んでいます。

 そうすると配信に頼るほかなくなりますが,なかなか高価ですし,一気に揃えるのは難しいです。

 まあ仕方がないなあと思っていたのですが,ある時「HDCD」という4文字を見て,突然記憶が蘇りました。

 そう,前世紀の遺物ゆえ,すっかり忘れてた,あのHDCDです。

 HDCDは日本国内ではマイナーな規格に終わりましたので知らない人が大多数かと思いますが,これ,アメリカで生まれた高音質フォーマットです。

 CDと完全な互換性を有しており,従来のプレイヤーで再生可能,しかしHDCDに対応したシステムで再生すれば,20bitに拡張されるんです。

 対応機器は1990年代後半から2000年代にかけて様々なメーカーからリリースされていて,アメリカやヨーロッパのメーカーだけではなく,日本のメーカーにも対応機種がいくつか発売されていました。

 「ほーすごいなそいつは」と感心する事なかれ。

 大体,16bitのCDに,余計に4bit追加して20bitの情報を詰め込むような錬金術や永久機関などどう考えても不可能です。だから,HDCDというのは冷静な目で見る必要があります。

 Wikipediaを見ても,どうも読みにくくてスッキリしません。そこで,私の知っている範囲で簡単にHDCDのことをまとめておこうと思います。正確な表現をすると難しくなるので,簡単な言葉で直感的にわかるような説明をしますので,厳密には正しくないことを書くかも知れません。ご了承下さい。


・そもそもHDCDってなんだ?

 HDCDは「High Definition Compatible Digital」略です。最後のCDがCompact Discでないことに注目して下さい。つまり,CDのハイレゾというわけではなく,デジタルの音楽そのものを,互換性を維持して高精細化するという,まあ夢のような嘘のような話です。

 実際にはDATにもMDにも適用可能なんだそうですが,そういう例を私は知りません。ですので,ここでは「CDと完全互換ハイレゾCD」という意味ぐらいに考えておいて下さい。面倒ですから。


・HDCDの特徴って?

 HDCDは,従来のCDと完全な互換性を維持しつつ,20bitに相当する情報を詰め込んだものです。HDCD対応のプレイヤーで再生すれば20bitで再生されますが,非対応のプレイヤーでもちゃんと16bitで再生されます。極端に劣化したり,再生出来なくなったりするようなことはありません。


・どうやって20bitを16bitに詰め込むの?そんなこと出来るの?

 例えば,ソニーのSuperBitmappingという技術があります。これはノイズシェーピングという手品を使って,低域のノイズを高域に移動させるものです。

 20bitでA/D変換された音を16bitに丸めてしまうと,本当なら録音されていた小さな音がノイズにうもれて再生出来なくなってしまいます。そこで,低域のノイズを減らし,20bitで記録出来ていた小さな音が埋もれないようにするわけです。

 ノイズを減らすとS/Nが上がり,ビット数を増やしたのと同じことになります。20bitでA/D変換した情報が無駄にならないわけですね。

 とはいえ,CDは16bitしかない箱ですから,20bit相当の情報をそのまま入れるわけにはいきません。そこで,ノイズシェーピングによって低域のノイズをノイズが耳に付きにくい高域に移動させ,全体の箱の大きさを変えずに,耳に付きやすい部分のS/Nを改善しようというのが,SuperBitMappingです。

 なんだか騙されたような気分になるのは無理もありません。私だって騙しているような気分ですが,まあ難しい数学の話はちょっと置いておいて,そういうことが出来るんだと思って,納得して下さい。

 HDCDは,これと同じような事をやっています。聴感上目立たない高域にノイズを持って行き,低域のノイズを減らすという点ではSuperBitMappinngと同じなのですが,それを実現する方法がノイズシェーピングではなく,ディザという方法になっています。

 ディザというのは「震える」という言葉を語源に持つ処理なのですが,わかりやすいのは白か黒しか印刷出来ない場合に,点描によって中間のグレーを表現するという例えでしょう。この点描のことをディザといいます。ディザを使えば,離れてみたときに白と黒が混じってグレーに見えてくれます。

 しかし,近づけば白と黒がはっきり点々になって見えてきます。それに,細い線などは完全に潰れてしまうでしょうね。

 白と黒しか表現出来ないということは,つまり1bitです。1bitしかないのですから,中間のグレーは本来なら表現出来ません。しかしディザを行うとグレーが表現出来ます。1bitの器しかないのに,それ以上の情報を埋め込む事が出来ていますよね。

 その代わり,近づけば白と黒がブツブツと見えてきますし,細い線は潰れてしまい,表現することが出来なくなります。細い線,つまり白と黒の繰り返しの回数が多いものは表現出来なくなるわけですが,繰り返し回数が多いということを「周波数」と置き換えて考えると,低い周波数は1bit以上の情報量を持つ一方で,高い周波数は情報量を減らしているわけです。

 これが,ディザによる,低域から高域へのノイズの移動です。近づくというのは人間の目の周波数特性を高域に拡大する事で,その時に見える白と黒のブツブツは,つまりノイズと置き換えてよいでしょう。

 ノイズシェーピングは,高域に行けば行くほどノイズが増えるという特性を持っていますが,ディザの場合には最終的に高域にノイズを押しやることになっても,低域や中域のノイズの量を一定にすることが出来ます。

 HDCDでは,高い周波数の成分を元の信号に加算することでディザを行って,16kHzまでのノイズの量を一定に保つことで,聴感上不自然にならないようにしています。

 このように,HDCDでは,20bitでA/D変換した音を,ディザによって16bitの器に押し込んでいます。人間の耳には目立たない16kHz以上のノイズは増えていますが,その代わり16kHz以下のノイズは均等に減っていますので,効果が大きいというわけです。

 これで分かるように,HDCDはエンコードの時に仕込む物で,再生時には特別な仕組みが入りません。ですから,HDCDは普通のCDプレイヤーで再生しても高音質だということになりますね。


・んじゃ結局16bitなんじゃないの?

 その通りです。16bitの器に,捨てていた20bit相当の情報を詰め込んだだけですので,全体の情報量は16bitのままです。それに,20bit相当の情報を入れても,再生時のD/Aコンバータが16bitだったりしたら,ここでノイズがばーっと発生してしまいますので,無意味になります。

 つまり,デジタルフィルタによって20bitになった信号を,20bitのD/Aコンバータで変換して初めて,その恩恵を受けることが出来るわけです。ただし,この時も特別な処理が必要な訳ではありません。


・でも20bitになるという話もあるんじゃ?

 そうそう,そうなんです。HDCDにはオプション規格があり,本当に20bitのデジタルデータを作る事が出来るんです。16bitの器から20bitのデータが出てくるなんて,なんだか嘘のような話ですが,これは一種の圧縮によるものです。このオプションを,ピークエクステンションといいます。


・ピークエクステンションとは?

 HDCDのうまみは,このピークエクステンションにあると思います。

 例えば,CDの16bitの器に入りきらないような音量差を録音しないといけないとします。この時,一番大きな音に合わせて録音するので,小さい音はノイズに埋もれて録音されなくなります。

 けど,1時間の録音のうち,大きな音が出るのはほんの一瞬で,ほとんどの時間は16bitの器で十分取り込めるような場合,この大きな音の為に他を犠牲にするのはあまりに惜しいですよね。

 同じ事は,デジタル録音が生まれる前,テープレコーダで録音していた時代にもありました。しかし,デジタルではある最大値を超えると急激に歪むのに対し,アナログでは大きくなるに従って徐々に歪みが増えるような特性になっていました。

 だから,アナログの場合には,急激に大きな音が入ってきても,そんなに大きく歪みません。アナログ録音の時には,多少オーバーになっても,普段の音量を重視して,大きめの音で録音することができたのです。

 HDCDではこの仕組みを再現しようとしました。音が小さいときはそのまま比例関係でA/D変換しますが,音が大きくなると,比例関係をわざと崩し,A/D変換の時に音が10増えてもA/D変換は5しか増えないというような,一種のコンプレッサをはさんだのです。

 こうすると,大きな音が実際よりも小さい音になってしまいますが,その代わり大部分の時間を占める小さな音がちゃんと記録出来るようになります。自然界の音は,16bitくらいではどうせ取り込めません。だから切り捨てるか,曲げて押し込むか,どちらかしか方法はありません。

 つまり,HDCDでは曲げて押し込む事を選んだのですが,ここではっと気が付くことがあります。もしもHDCDであることを判別できるなら,HDCDの時には,その曲げた部分を逆の規則によってまっすぐに伸ばして元通りにしてやればいいんじゃないでしょうか。

 これがピークエクステンションです。

 HDCD対応のデコーダーは,HDCDであることを判別し,かつピークエクステンションが有効であることが分かった場合に,ノンリニアPCM部分をテーブルから伸張し,20bitのデータに戻します。

 ノンリニアの部分を演算でリニアに戻すわけですから,当然情報の欠落はあります。ピュアな20bitではないのですが,それでも小さい音から大きい音まで,全部取り込む事の出来るメリットはとても大きいと思います。

 Wikipediaによると,ピークエクステンションはオプションであり,これが使われている例は少ないとありますが,実は私の手もとには結構な割合で使われているディスクがあります。HDCDの存在意義はここにあると私が思うゆえんです。

 ただし,注意があります。

 もともと16bitだったものを,ピークに合わせて20bitにしたのですから,全体の音量は下がってします。4bitも追加されますから,音量は24dBも下がるんですね。

 そこで,HDCDでは,20bitになった状態を基準におき,16bitの場合にはこれと同じ音量になるよう,16bitの時の出力を小さくすることを求めています。でも,なんだかバカバカしいなあと思うのは,出力を小さくすると,今度はアナログのステージでノイズに埋もれてしまうかも知れませんよね。アナログ部の設計がなかなか高度になってしまいます。


・他のオプションはないの?

 あります。ローレベルエクステンドがそれです。これはピークエクステンションの逆で,レベルが低い時間が続く場合に,その部分の音量をブーストして記録し,再生時に元に戻して再生するものです。

 しかし,このオプションが使われているディスクはかなり少ないと思います。実際に,私の手もとには1枚もありませんでした。

 技術的にも,レベルが低い時間がどのくらい続けばいいのか,急に大きな音が来たときはどうなのか,エンコード時のブーストと真逆の変化が,本当にデコード時に実現出来るのかなど,ちょっと疑問なところがあります。


・HDCDを判別する仕組みは?

 従来のCDとの互換性を維持するために,なかなか巧妙な方法を取っています。CDのフォーマットをいじる訳にはいきませんので,そこに書き込まれるデータに細工をして,判別しています。

 音が変わってしまわないように,比較的長い間隔をおいて,判別する信号を入れてあるというのが1つ目の工夫です。

 2つ目の工夫は,16bitのデータのうち,LSBの1bitだけ,ディザの信号を重ねるというものです。その信号の揺れ方がHDCDだと判別できるような規則に従っていて,まるで隠しコードを埋め込んだように見えます。

 このように,ディザのかけ方をある規則に従って行うことで,HDCDかどうか,あるいは各種オプションが使われているかを判断出来るようになっています。確かにこれだと,従来のCDとの互換性を維持することが出来ますし,音質の劣化も最小に出来ますね。


・どこにもHDCDと書いてないけど,実はHDCDだった?

 HDCDのエンコーダを通せばHDCDの判別信号が埋め込まれます。だから,スタジオに設置されているHDCDエンコーダの存在を意識しないで,いつのまにやらHDCDになっているものもあるんじゃないか,という意見があるようです。

 HDCDをうたうのに,特にライセンス料が発生したり面倒臭い手続きがあるわけではありません。だから,「知らないうちにHDCDになってた」という話は本当の話じゃないかと思います。

 こういう場合,問題となるのはHDCDにふさわしいデータになっているのかどうかです。

 極端な話,マスターが16bitだったらHDCDにする意味はありません。HDCDデコーダを通して20bitになっても,その中身は16bitです。

 また,マスターが20bitや24bitであっても,A/DコンバータがΔΣ型だったら,ちょっと面倒です。

 先に,HDCDはディザによって16kHzまでのノイズを均等に下げると言いましたが,これは均等に量子化ノイズを含むマルチビット型のA/Dコンバータが疲れている場合にのみ,意味があります。

 ΔΣ型はノイズシェーピングを使ったA/Dコンバータですから,すでに高域になるに従ってノイズが増えた状態のデータを吐き出します。そんなデータで均等になるようにディザをかけても,意味がありません。

 元のデータがどうやって作られたのかが結構大事で,HDCDではその規定もあります。


・CDと完全互換で20bitならすごいじゃないか。今後も期待したい。

 残念ながら,エンコーダを作っていた会社はすでになく,スタジオで稼働しているエンコーダが壊れてしまったら,もうおしまいです。

 デコーダについても,半導体はすでにディスコンになっていますから新規に採用して製造することは難しいでしょう。

 ソフトウェアデコードなら可能性はあって,PCでHDCDを楽しむ方法はあると思いますが,以前正式に対応し,解説まで丁寧に行っていたマイクロソフトも,最近はHDCD対応を積極的にうたわなくなりました。


・自分のCDがHDCDかどうか見分けるには?

 いろいろ手はあるのですが,私の場合foobar2000というソフトを使いました。HDCDのプラグインをインストールしたfoobar2000には,HDCDかどうかをスキャンする機能が備わります。

 HDCDの判別信号は,CDからのリッピングでも維持されます。さらに面白いのは,可逆圧縮であるflacで圧縮して,ちゃんと維持されることです。

 ですから,flacになっている音楽データをfoobar2000に登録,そしてHDCDスキャンをかけると,HDCDと判別されたファイルがリストアップされます。この時,ピークエクステンションなどのオプションの対応具合も分かるので,大変便利です。


・HDCDのデータを作ってみよう

 HDCDスキャナでHDCDのファイルが抽出できたので,これをハイレゾ音源に変換してみましょう。ツールはDOSコマンドになっているのですが,HDCD.exeを使います。

 HDCD.exeはなかなか使いにくく,ワイルドカードが使えなさそうなので,私の場合バッチファイルを使って一気に処理しました。変換に時間のかかる物もあり,そうかと思うと数十秒で終わるものもあったりで,どうもよくわかりません。

 まず,HDCD.exeに食わせるために,flacをwavに戻します。

 そして,wavファイルをこのコマンドで処理します。そのファイルがHDCDだと判断されれば,Detected HDCDと表示されます。そしてしばらくすると,24bitのwavファイルが出来上がります。

 ここで音を出しても良いですが,私の場合はこれをflacに変換してN-30でならしてみました。

 結果ですが,やはり音量は相当下がっているように思います。24bitのデータに,ほぼ16bitのデータを入れるのですから,8bit分,つまり48dBも小さくなるのですから,当たり前ですね。

 それで,20bitにした音はどうかというと,はっきりって私にはよく分かりませんでした。もともとそれなりに音の良いCDだったので,これが20bitになっても微々たる差だと思うのですが,じっくり聞き込めば違いがわかるようになるかも知れません。

 ここで注意しないといけないのは,ピークエクステンションの有無です。ピークエクステンションが有効であろうとなかろうと,HDCD.exeはDetected HDCDと表示し,24bitのデータを作ります。HDCDに対応していない普通の16bitのファイルでも,HDCD.exeはMSBに8bit分のゼロを追加して,24bitのファイルを作ります。もちろん,音量はそのまま小さくなります。

 ピークエクステンションが有効なHDCDを24bitに変換し,これをflacに圧縮すると,元のflacに比べて大きなファイルが生成されます。しかし,ピークエクステンションが有効ではないファイルを24bitに変換してflacに圧縮すると,HDCDであるにも関わらず元のファイルとほぼ同じ大きさになるのです。

 つまり,ピークエクステンションが有効でないと,元の16bitから意味のあるデータは増加しないということになります。こういう場合,音量が小さくなってしまうという弊害しか出てこない訳で,手間もかかるし作業自身の意味がありません。

 ピークエクステンションが有効な場合には,明らかに意味のあるデータが加わっていることがわかりますから,これは意味があります。結論から言うと,foobar2000のHDCDスキャナでピークエクステンションがかかっているものだけを選び出し,変換すべきだったということです。


 そんなわけで,見慣れたCDラックからお宝を発掘する楽しみと,費用をかけずにハイレゾ音源を増やせるメリットがHDCDにはあります。今後増える事はないでしょうが,当時のCD製作者が,出来るだけいい音で聞いてもらいたい,と言う気持ちを込めたHDCDを,ようやく味わうことが出来たことを素直に喜んでおきたいと思います。

MIDIが変えた世界にグラミー賞

 2月10日の夜のニュースで,ローランドの創業者である梯郁太郎さんが,MIDIの開発への貢献をたたえられ,グラミー賞を受賞したと報じられました。

 昨年2012年はMIDI誕生から30年の節目の年でした。

 昨年末にはローランドの梯郁太郎さんとシーケンシャルサーキットの創業者デイブ・スミスさんの両名がグラミー賞を受賞するというニュースは,関係者の間ではすでに広く知られていましたから,先日のニュースは「そうかそうか授賞式だったんだな,ご本人は出席されなかったのか,残念だな」くらいの話だと思っていたのですが,国内のテレビニュースでの扱いは大きく,個人受賞としては日本人初の快挙,国際的な規格の開発者が日本人だったなどと,わかりやすい形でその功績が紹介されていました。

 思えば私がMIDIを知ったのは1984年のコンピュータ雑誌(電波新聞社のマイコン)でした。MIDIと一緒に歳を食ってきたなんだなあとつくづく思うわけですが,MIDIが他の規格と違って特徴的なのは,その間基本的な仕様が全く変更されず,30年前の機器と現在の機器がちゃんと通信して動作するということでしょう。

 もちろん,USBのようにUSB2.0の機器にUSB1.1の機器はつながって動作します。しかし,MIDIにはバージョンはなく,機器によってメッセージの対応能力に差はあっても,規格上は対等です。それだけ良く出来た規格だったと言えるのでしょう。

 ということで,MIDIの誕生のお話を,ローランドの貢献を中心に少しまとめてみたいと思います。

 1970年代に登場した音楽用のシンセサイザーは当然アナログ式でした。VCO,VCF,VCA,LFO,EGなどがそれぞれの機器として独立していて,それらをパッチコード繋いでいくというモジュラー式のシンセサイザーが多く存在した時期でしたが,特筆すべきは減算方式のシンセサイザーの生みの親であるモーグ博士が,それぞれのモジュール間でのインターフェースを「電圧」で行う仕組みを徹底したことでした。

 これによって,モジュールの出力を別のモジュールの入力に入れて制御するなどの柔軟性が生まれ,シンセサイザーは大きな表現力と可能性を手に入れる事になります。

 余談ですが,ミニモーグなどのステージ用シンセサイザーは,このモジュール間接続が固定されていて自由度に乏しいと見なされていました。またモジュールを縦横に並べ,その交点をON/OFFすることでややこしいモジュール間接続を行おうとしたのが,マトリックスモジュレーションです。

 音程を指定する鍵盤との接続インターフェースも電圧で行われ,鍵盤からはその音程に応じた電圧が出力されるわけですが,鍵盤の代わりに自動的に電圧を決まった時間で出力する装置を取り付ければ自動演奏も可能になります。

 8個や16個程度のボリュームを一定の間隔で切り替えるだけの簡単なシーケンサーに始まり,やがて当時普及を始めたマイクロコンピュータを搭載して,何千もの音を記録出来るMC-8やMC-4が登場して,「テクノポップ」のブームを技術的に支えたのでした。

 ですが,この電圧による制御というのは,なかなか面倒なのです。まず,1Vあたりどれだけ音程が変化するのかという取り決めに2種類ありました。Hz/VとOct/Vの2種類です。

 Hz/Vは電圧と周波数が比例,Oct/Vはオクターブと電圧が比例します。モーグやローランドはOct/Vを,ヤマハやコルグはHz/Vを採用していましたが,使い勝手の良さはOct/V,安定性と回路の簡略化や低コスト化はHz/Vに分がありました。

 このように,単純な電圧のやりとりにも関わらずメーカー間での互換性はありませんでしたし,それ以前にポリフォニックシンセはこの方法では制御できません。かの名機Prophet5でも,CV/GATE入力はVoice5のモジュールのみにつながっている,モノフォニック専用のインターフェースでした。

 和音が演奏出来るポリフォニックシンセには,和音分だけのモノシンセと,それぞれに割り当てを行う為のマイクロコンピュータが必要だったわけで,それは世界初のポリフォニックシンセであるProphet5であっても,Jupiter8であっても同じです。

 ポリフォニックシンセは,鍵盤のうち,どのキーが同時に押さえられたかをマイクロコンピュータがスキャンし,内蔵された複数台のモノシンセを割り当てていきます。モーグのPolyMoogやコルグのPS3100のような,キーの数だけモノシンセを用意するという方法はマイクロコンピュータを使わないならやむを得ませんが,現代の視点で見るとあまりに無謀な解決策です。

 では,このマイクロコンピュータから信号を出し,他のポリフォニックシンセのマイクロコンピュータに入力してやれば,シンセサイザー同士が接続出来ることになりますね。なにせ,どの鍵盤を押さえられたかを知っているのはマイクロコンピュータですし,それをどこに割り当てたかもマイクロコンピュータが決めているのですから。

 少なくとも,マイクロコンピュータに与える情報は,どのキーが押されたのかという情報だけで済みそうです。この情報を,ある仕組みに従って送受信する仕組みがあれば,ポリフォニックシンセを「発音情報」だけで操ることが出来そうです。

 こうして,内蔵されたマイクロコンピュータを使って,シンセサイザーが通信を行う考え方は,比較的早くに登場していたようです。しかし,当時のアメリカのシンセサイザーメーカーは大型化を志向しており,同時に出せる音の数にせよ,反応速度にせよ,高いものを望んでいました。その結果,インターフェースにはパラレル方式が望ましいとされていたのです。

 一方,まだまだ零細企業だったローランドは,ステージで利用出来る小型のシンセサイザーを主軸に置き始めていました。そこに求められるのは信頼性と簡便性です。そこでローランドは,マイクロコンピュータを使った通信方式に,シリアル方式を開発します。

 DCBと呼ばれたこのインターフェースは,14ピンのアンフェノールコネクタに,i8251というUARTの信号をそのまま引っ張り出し,5VのTTLレベルで送信と受信を31.25kbpsで行うデジタルインターフェースで,1982年にJuno60とJupiter8に搭載しました。

 DCBによって,ポリフォニックシンセは初めて他のシンセサイザーとつながって,制御し,制御されるようになったのでした。

 ただし,DCBには欠点もありました。まず,14ピンのアンフェノールコネクタは大きく,高価でした。また,通信の方式も5VのTTLレベルでしたからノイズに弱く,異なる機器でグランドを繋ぐ必要があったためにグランドループが出来上がり,これがノイズを発生させて動作が不安定になったりしました。それにケーブルも長くは出来なかったのです。

 そこでローランドはDCBの欠点を改良します。まずコネクタには,ヨーロッパで標準的に使われていたDINコネクタを採用します。この時,送信と受信が1つのコネクタに揃って出ている必要はないという判断から,入力と出力をそれぞれ別のコネクタに分けることにします。

 次に通信の方法は,5VのTTLレベルではなく,フォトカプラによって絶縁されたカレントループで行う事にしました。電圧の高い低いではなく,電流が流れたか流れないかで判断するこの仕組みは,ケーブルが長くなったりノイズが乗ったりしても信号に与える影響は小さく,また接続した機器がフォトカプラで電気的に絶縁されたことで,グランドループも影響することがなくなり,高い信頼性と優れた使い勝手が実現しました。

 こうして,次世代DCBがローランドによって開発されているなか,シンセサイザーのインターフェースを統一しようという動きが出てきます。前述のように,アメリカのシンセサイザーメーカーは大型化を目指していて,処理能力のあるパラレル式が有望とされていました。

 一方,いち早くマイクロコンピュータを内蔵してシンセサイザーをポリフォニック化したシーケンシャルサーキットは,ローランド同じステージで使用される小型モデルを主力としていました。

 シーケンシャルサーキットも,電話用のモジュラージャックを流用たマイクロコンピュータ同士の通信手段を開発していましたが,グランドが共通の電圧インターフェースであるなど欠点も多く,同じような思想で開発を行っていたローランドは,次世代DCBをシーケンシャルサーキットに紹介するのです。

 当時,せっかく開発した技術を他社に公開するなど危険すぎると,ローランド社内には当然反対意見も多かったそうです。しかし,こうした通信規格は広く公開して多くの機器がつながるべきだという梯郁太郎さんの考えで,公開されました。

 これを受け,シーケンシャルサーキットは次世代DCBの採用を決定,そしてヤマハ,カワイ,コルグ,オーバーハイムを加えた6社によって1981年,ついにMIDIとして発表されます。

 以後,ローランドを中心に開発が進み,1982年10月に仕様が公開されます。そして記念すべき1983年1月のNAMMショーで,シーケンシャルサーキットのMIDI対応1号機であるProphet600と,ローランドのMIDI対応第1号機であるJX-3P(実際にはJupter6の可能性が高い)との接続デモが公開されたのです。異なるメーカーのポリフォニックシンセが細いケーブルで繋がり完全に操作できることは,その後の音楽制作のスタイルを劇的に変えていくことになります。

 そして30年が経過し,MIDIは現在においても標準的な楽器間接続インターフェースであり続けています。これまでに機能の拡張もありましたが,発音情報を実時間でやりとりするという楽器接続の基本的な機能にはほとんど変更はなく,現在に至っています。

 1990年前後には,MIDI2の噂も流れていました。当時を思い出すと,コネクタをMiniDINコネクタという小型の物にするとか,MIDIの最大の欠点と言われた転送レートの遅さか来る発音タイミングの遅れを改善する高ビットレート化,さらに長い距離で通信が可能なるように長いケーブルを使えるようにするなどの話が出ていたように思うのですが,結局MIDIは当時のままです。

 こうして,MIDIは日本のローランドとアメリカのシーケンシャルサーキットが旗を振り,シンセサイザーの標準的な接続インターフェースとして広く普及することになりました。MIDIのベンダーIDのトップはシーケンシャルサーキットで,ローランドは日本のベンダーIDの2番目に定義されています。(1番目はカワイです)

 この貢献に対し,ローランドの梯郁太郎さんと,シーケンシャルサーキットのデイブ・スミスさんが,グラミー賞を受賞したわけです。

 アナログシンセサイザーをマイクロコンピュータで制御する,そしてマイクロコンピュータ同士を繋いで通信させる,そうした発想がどれほどの利便性を生み出したか。アマチュアからプロまで,スタジオからステージまで,電子楽器のある,ありとあらゆる所で,MIDIは今も使われています。

 ざっと調べたところ,MIDIという規格が大きく変更されるという話はなさそうです。30年もの間安定して使われ続け,高い評価を受け続けたインターフェースは本当に珍しく,見事と言うほかありません。これからもMIDIは使われ続けることと思います。


 - おまけ - DCBの詳細

 MIDIの原型となったDCBは,ローランドのローカル規格ですし,すぐにMIDIに置き換わったために,ほとんど情報がありません。ですがちょっと調べてみました。MIDIとの比較を行いながら見て頂けると,面白いのではないでしょうか。

・電気的仕様

 14ピンのアンフェノールコネクタです。ピンアサインは以下の通りです。

1. Rx Busy
2. Rx Data
3. Rx Clock
4. Ground
5. Tx Busy
6. Tx Data
7. Tx Clock
8. Unreg (Jupiter8ではNC)
9. VCA Lower
10. VCA Upper
11. VCF Lower
12. VCF upper
13. VCO-2
14. VCO-1

 Jupiter8では上記すべてが接続されていますが,Juno60では1から7のみが接続されています。9から14まではCV信号です。

 Juno60の回路図を見ると,2から7はi8251からシュミットインバータを介してそのままつながっています。1はオープンコレクタになっていて,i8251のRxRDYにつながっており,5はDSRに,2,3と6,7はそれぞれクロックとデータにつながっています。

 データとクロックとビジーの3つを送受信に使うというなかなか贅沢な仕組みで,MIDIの前身とは言えあまり綺麗な方法ではないような印象です。

 ビットレートはMIDIと同じ31.25kbpsです。ここはMIDIにそのまま引き継がれていますね。LSBファースト,データ長8bit,ストップビットは2bitで奇数パリティです。


・プロトコル

 DCBでは,ブロックという単位で通信が行われます。ブロックは識別子とデータ,そしてエンドマークの3つで構成されます。

 識別子は後に続くデータがどういう意味なのかを示すもので,F1hからFEhまでが予約されていますが,パッチを切り替えるFDh(パッチコード)と音程情報を示すFEh(キーコード)の2つ以外は未定義です。

 まずパッチコードですが,続くデータは1バイトで,音色を切り替えます。MIDIでいうプログラムチェンジにあたりますが,これが有効なのはJupiter8だけで,Juno60では無視されます。

 次にキーコードです。これは続く1バイトが音程を示しています。7bit目が1ならノートオン,0ならノートオフです。0bit目から6bit目の7bitで音程を示しますが,0をC0,96をC8として割り当てています。

 そしてこのデータは同時発音数分だけ送信され,Juno60では6バイト,Jupiter8では8バイト続きます。

 それぞれのブロックの終わりにはエンドマークのFFhが送信され,これで通信が終了します。

 MIDIと同じく,時間情報は含まれず,音程と発音のON/OFFだけが実時間で送信され,受け取った側がその場でリアルタイムに処理します。通信で発生するレイテンシや,受け取った側での処理によって,発音に遅れが出るのはMIDIでもそのままです。


・チャネル

 DCBは機器を1対1で繋ぐことが前提になっていて,必ずマスターとスレーブが決まります。従ってMIDIと違い,チャネルという考え方は必要なく,そのメッセージがどの機器を対象としているかを区別する手段はありません。

 初期のMIDI機器がチャネルを実装せず,オムニモードでしか動作しないことを考えると,当時はどうもチャネルという考え方が一般的ではなかったような感じです。そう考えると,MIDIがメッセージの下位4bitにチャネル情報を割り当ててあることは,なかなか先進的だったと言えるかも知れません。


・まとめると

 よく見てみると,DCBとはなんとまあ原始的な規格でしょうか。これがどうやったらMIDIになるのかと思うほどです。仕組みが原始的という事もそうですが,それ以上に概念が単純で,MIDIで投入された様々な考え方が,いかに検討を重ねたものであったかをうかがい知ることが出来ると思います。

 例えばデイジーチェーン接続が可能になるTHRU端子,同時発音数に制限を設けない,チャネルによる16台までの同時制御,ベロシティをノートメッセージに盛り込む考え方,ピッチベンダーなどのコントローラをリアルタイムで送受信する方法,メーカーIDやプロダクトIDによる機器の区別,ベンダーローカルなプロトコルを規定できるシステムエクスクーシブメッセージを許可するなど,DCBの改良とは言えないくらいに,新しい技術で作られているのがわかります。

 梯郁太郎さんの著書に,DCBをベースにしたように受け取れる表現もあるので,DCBがMIDIになったという話も耳にしますが,こうしてみてわかるように,DCBからMIDIへの飛躍は大きく,もしもDCBがそのままMIDIになっていたら,きっと廃れていったに違いありません。

 DCBを過度に評価するのは,どうやら公平ではないようです。

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