電ドラボールプラスで楽をしよう
少し前から人気商品となっているのが,電動ドライバーです。昔からある電気ドリルのようなピストル型ではなく,またペン型と呼ばれている筒状の物でもなく,見た目は普通のボールグリップのドライバーのくせに,なんと電動という優れものです。
これ,従来型の電動ドライバーが進化してそのままの性能で小さくなったもの,といううまい話ではなく,従来のボールグリップのドライバーと同じ大きさになる程度の低出力のモーターと小型バッテリーを使うことで,基本は手動の工具である「ハンドツール」としながら,トルクが必要とされない早回し作業の効率化を目指しています。
言い換えると,人間の力よりも大きな力を持つ「パワーツール」を出発点に小型化したものではなく,ハンドツールに小型のモーターとバッテリーを持たせて,その範囲で可能になることで省力化するというものでしょう。
考えてみると,途中のクルクル回す作業は私もドライバーの軸をつまんで高速で回転させ,グリップをはずみ車として慣性を使って,楽をしながら高速でネジを回していました。この作業を電動で行おうという話だということです。
このあたりの商品コンセプトは,メーカーのカタログには書かれていたりするのですが,もはや当たり前過ぎるのか,私が見た限り明確に書かれた記事やレビューを見ることがなく,実のところ私は買って使ってみるまでどういう商品なのか,わからずにいたのです。
せっかく電動なのに最初と最後は手で回すってなんじゃそりゃとか,こんな小さなトルクで意味あんのかとか,クラッチがないとネジをなめてしまうがなとか,どうもイメージが沸かずに毎回「まあいいか」と買わずにいました。
ここが一番重要なのですが,電動であることは強い力で回すことではなく,速く回すことにあるというわけです。確かにネジを回すときには,最初と最後は注意をして回しますが,途中はクルクルと力のいらない単純な作業になることが多いですよね。
ここを省力化するのが,どうも流行っている電動ドライバーの狙いみたいです。だから最初と最後は手で回しますし,トルクが小さくても良いし,クラッチも必要ないわけです。その代わり,手で回す作業に違和感がないようなグリップの形状と大きさを実現しています。
加えて,私自身がプロの間では標準となっているボールグリップが苦手で,長年使い続けているベッセルのクリスタラインの方が締め具合も早回しも勝手がわかっているので安心だったというのもありました。
ただ,先日洗濯機を分解して掃除することになり,あのたくさんのネジを手で緩めるのは大変だなあと思った時に,ふと思い出して買って見る事にしたわけです。
いざ買うとなるとどれを買うか,と言う話になるのですが,プロも使うベッセルとパナソニック,そしてそれ以外に価格帯で分かれていそうです。でも,こういう道具はしっかりした物を買いたいところで,ベッセルかパナソニックで迷いました。
この分野の先駆者はハンドツールの老舗ベッセルのようで,発売時には品切れで入手が難しかったらしいです。今は二世代目になっていて,3段変速が可能です。
ブレーキ付きで一気に人気が出たのが後発のパナソニック。さすが電動工具のメーカーだけによく分かってるなぁと思いますが,価格もちょっと高いですし,変速機能もないので今回はパス。
ということで,お気に入りのブランドであるベッセルの「電ドラボールプラス220USB-P1」を買うことにしました。
うーん,私に使いこなせるか。
届いた電ドラボールは,思った以上に小さく軽く,心配していたグリップの握り心地も良いです。さすがにプロが選ぶ形状だなあと思いました。
変速は3段階ですが,ボタンの長押しで切り替えです。切り替わった時にはLEDの表示が変わり,また回転させると照明用のLEDと同時にモード表示のLEDも点灯するのですが,回転させる前はどのモードかわかりませんので,軽く回してモードの確認をしてみるのが良さそうです。
スイッチはスライドスイッチになっていて,ビット側にスライドすれば正転,グリップ側にスライドすれば逆転です。これ,最初は戸惑うだろうなと思いましたが,ネジが進む向きをイメージすればなんと言うことはなく,10分もすれば慣れてしまいました。
先程も書いたLEDの照明ですが,私自身普段困った事がないので期待していませんでした。しかし,実際に使ってみるとなかなか便利で,作業性がアップします。
トルクが小さいというレビューも見ますが,もともとそういうコンセプトの商品なのでそこは文句の言いっこなしです。個人的にはちょうどいいところで止まる感じで,そこからの本締めは手で行うのにちょうどいい塩梅だと思います。
3段階のうち私は一番低速度の物を使っています。長いビスなどは高速で使う方が楽なんだろうと思いますが,ブレーキがないので早めにスイッチを切らないと,手が持って行かれます。
ブレーキがあるとこういう気の遣い方をしなくても作業に没頭できるわけで,やっぱりブレーキはあった方がいいみたいです。
回転が完全に止まるとロックがかかるので,グリップとビットが直結した感じになり,手で締めることができます。とはいえ,内部でグリップに繋がっているわけではなく,遊星ギアを介して繋がっている状態ですから,あまり力をかけると壊れます。ラフな遣い方をするとまずいので,このあたりは慎重に厚かった方がいいと思います。
特筆すべきはビットの精度の良さです。メッキや塗装がないせいもありますが,M3のビスががっちり食いついて,下を向けても落ちないくらいです。グラグラすることもなく,まるで吸い付いているような一体感があり,実に気持ちがいいです。
同じベッセルでも私のクリスタラインはここまで食いつきませんので,これだけでも価値があると思いました。
また,強めの磁石が埋め込まれているそうで,手が入らない場所のネジ締めでも,ネジを一度も落とす事なく作業できました。こういう,ドライバーとしての基本がしっかりしているのは,さすがにベッセルです。
さて,実際の作業に入ると,これがもう快適で快適で,これ無しには戻れません。手で回すのも握りやすく力が適度にかかり,スイッチを直感的にスライドすれば意のままに高速でネジを回すことが出来ます。無理せずとも,自然に電動と手動を使い分けるようになっていました。
とはいうものの,前述のようにブレーキがないことにはちょっと戸惑うところがあり,手首をぐいっと持って行かれますし,そのせいでネジを押し込む力が緩くなってしまいがちでした。しっかり持つと手首かドライバーの内部か,はたまたネジ自身を傷めてしまいますから,やっぱりブレーキは欲しいです。
気になった点もあります。ます充電要のUSB-TypeCです。TypeCは便利なので好意的な感想が目に付きますが,私自身は微妙かなと思っています。確かに便利ですが,安全性という点で私は疑問を感じています。
先日,パナソニックがシェーバーをリコールしましたが,これはコネクタ部に水が入り込み,端子をショートさせたことで発煙発火に至ったものでした。Type-Cは端子の間隔が狭く,電源とGNDがショートしやすい構造になっています。実はこの手の事故は最近増えていて,各メーカーは密かに対策を打っているんですよね。
ただ,こういう話って公知の物はないようですし,またUSB規格に規定された物でもありませんから,事故が起きて初めて気が付くようなものだと思います。
で,この電ドラボールプラスはゴムのキャップが着いているとは言え,グリップのてっぺんにコネクタがあります。ここから水が入り込むことはどうやっても防げそうになく,濡れている状態で準電を始めれば,かなりまずいことになるんじゃないかと思います。(怖くて試してはいませんが)
あと,こういう工具は自動車に積んだままと言うケースもあると思いますが,高温になる車内で電池の安全性はどれくらい担保されているもんなんでしょうか。私は自動車に乗せることはありませんが,真夏の炎天下で使うことはあると思いますので,心配にはなります。
それから,ビットを交換出来るドライバーには無理もないことなのですが,ビットのぐらつきが気になります。ベッセルは嵌合部にゴムリングを持つビットも用意していて,これだとグラグラしません。ナイスアイデアだと思うのですが,これに交換するのもいいかもしれません。
さて,私はもう1つ便利な遣い方をしています。電動ピンバイスです。ピンバイスは1mm以下の穴をドリルを折らないように慎重に丁寧に開けるための手動工具ですが,1つや2つの穴開けなどのちょっとした作業で,いちいち電動ドリルやボール盤を用意するのが面倒くさすぎて,3mm程度の穴もピンバイスで開けることが多いです。
でも,さすがに1mmくらいのアルミ板に3mmの穴を開けるのは大変で,ハンドドリルが欲しくなるところでした。でも,ハンドドリルって結構大きくて,収納も面倒なんです。それに収納するなら電動ドリルを出してくればいいわけですし。
そこでこの電ドラボールです。固い金属は無理ですが,アクリル板や1mm程度のアルミなど,そこそこの作業がこれで解決するでしょう。私は3.2mmをよく使うので,このサイズのビットを用意しました。例えば基板に固定用の穴を追加で開けるときなど,穴を開けてその場でネジ締めまで出来てしまう便利さです。
もともと手動で開けていた穴ですから,電ドラボールのトルクで十分ですし,それ以上の重たい作業は本気で電気ドリルを出してこないいけないシーンでしょう。
ということで,大幅に作業効率をアップするこの新しい工具。小型モーターとリチウムイオン電池がこのサイズで実用的な工具を実現してくれました。パワーツールが小型化しハンドツールサイズになったものではなく,ハンドツールがサイズを変えない範囲で電動化したというのが「その手があったか」と思わせる便利商品に繋がったわけですが,すでにこのジャンルが確立し,開発競争が始まっていることを考えると,まだまだ数年は進化した新製品の登場に目が離せない状態が続きそうです。