DL2050の調整完了
- 2025/11/18 15:26
- カテゴリー:make:
さて,DL2050の修理の次は,調整です。
ところで,測定器を誤差がある範囲に入るようにすることを,一般に校正(calibration)と呼んでいますが,調整(adjust)と校正は違う意味を指し示しています。
校正は誤差がどれくらいあるかを調べ精度が保証される範囲にあるかどうかをはっきりさせることで,調整はその誤差がある範囲に入る様に調整を行うことです。
一般に校正というと,調整のニュアンスが含まれることが多いと思いますが,瀬尾土が保証出来ませんでしたでは話にならないので,調整が前提で校正が行われているからだと思います。
とまあ,これも受け売りで本当の所はどうなんだか自信があるわけではないのですが,私個人は校正と調整は使い分けようと思っています。なので,今回は調整のお話です。
調整は2018年にも行っていますが,この時はCALボタンを押した後にわけもわからずデタラメな操作を行った結果,測定が不可能になるという致命傷からの復活が主なテーマでした。
その方法も補正値が書き込まれたEEPROMを直接書き換えるという乱暴な方法で,かつよく使う直流電圧の低いレンジだけを対象として物でした。
今回は電解コンデンサの交換と基板の修理でせっかく直ったのですから,できる限りのレンジとモードで校正を行って,調整をした上で気持ちよく使おうというのが目標です。
ただ,この目標はなかなか大変で,SモードとMモードでそれぞれ33のモードとレンジの組み合わせがありますので,全部で66もの校正箇所があります。それをEEPROMの直接書き換えで調整すると,下手をすると1000回近くもEEPROMの抜き差しが必要になるかも知れません。
ということで,出来るだけEEPROMへの直接アクセスが減るように考えるのですが,ともあれ直流電圧から調整します。
直流電圧に限らず,すべての調整はゼロアジャストからはじまります。入力端子をショートした時にゼロになるようにしなければ話になりません。
方法は,CALボタンを押して,モードとレンジをマニュアルで選び,入力をショートした状態でLOCALキーを押します。これをすべてのモードとレンジで繰り返して,終わったらもう一度CALボタンを押してCALモードから抜けます。
残念な事に,この作業だけでは測定値が正確にならなかったので,本格的に調整を行います。
調整はCALボタンを押してCALモードに入るところまでは同じですが,各モードとレンジにおいて決まっている値の基準電圧(もしくは電流や抵抗)を与えた上で,RELキーを押します。
こう書くと簡単なのですが,Sモードのようにフルスケールが120000の場合には100000,Mモードのようにフルスケールが40000の場合には36000になるような基準を与えなければなりません。(なお750Vレンジでは750Vが基準電圧になるそうです)
安定化電源があれば余裕だぜ,と思った方は少々甘いです。例えば120mVレンジでは100mVの基準電圧が必要ですが,小数点以下3桁の表示が安定するには1uVの安定性が求められます。仮に安定性は目を瞑ったとしても,DC360VやAC750Vなど,そもそも一般家庭にあるはずありません。
ということで,校正用の基準電圧発生器が欲しくなるわけですが,残りの人生を考えたら,そんな大げさな物を買ってしまうのは遺族に対しての嫌がらせになってしまいます。ここは知恵と工夫で乗り切ります。
とりあえず,SモードのDC1.2V,12Vレンジについては並列に繋いだHP34401Aで1.0Vや10Vを作り,これでフルスケールを登録します。Mモードについては360mV,3.6Vで登録です。
それ以外については出来るだけフルスケールに近い電圧を与えて,34401Aと同じ値になるようにEEPROMを直接書き換えます。残念な事にISPで書き込むことが出来なかったので,一々EEPROMを外して書き込み,戻して電源の再投入という面倒な方法で行わざるを得ません。
120mVや40Vレンジでは100mVや36Vに近い値,120Vやそれ以上の値では安定化電源の最大値である32VでEEPROMを直接いじって調整をします。誤差が大きくなりそうですが,仕方がありません。(高圧怖いですし)
ACについてはどういう訳だか,RELキーによるフルスケールのセットに失敗しますので,すべてEEPROMの直接書き換えで調整を行います。
基準電圧はファンクションジェネレータを用い,50Hzの正弦波で,Sモードでは100mVrms,1.0Vrms,Mモードでは360mVrms,3.6Vrmsを発生させて入力します。私のファンクションジェネレータでは8Vrmsが最大電圧なので,これ以上の電圧は8Vrmsを使って調整をするしかありません。
ただ,AC100Vについては測定をする機会もあると思いますから,乱暴ですがコンセントの電圧を測定してEEPROMを書き換えます。
ここまででなんと6時間ほどかかってしまいました。EEPROMを付けて外しては手間も時間もかかります。温度なんかでも値が変わりますし,EEPROMのアドレスを読み間違ったりしてなかなか大変な作業でした。
続けて電流です。この際AC電流は測定する意味はないと思うので触らず,DC電流だけ調整をします。2018年の時点では電子負荷を持っていなかったので手も足も出なかったのですが,今は電子負荷を使って基準の電流を作る事ができるので,電圧と同じ手順で調整を進めていきます。
次に抵抗です。これはまず,34401Aの4Wで,多回転の半固定抵抗で基準抵抗を作り,同じケーブルをDL2050に差し替えて,まず4Wモードから調整を行っていきます。
とはいえ,高抵抗を作るのは難しいので,1MΩから上はEEPROMの書き換えで対応することにします。これが終わったら,同じ抵抗で2Wも調整を行います。
この作業で4時間ほど。合計10時間ほどかかって,ようやく自分の出来る事を終わらせることが出来ました。
おわってからひととおり測定を行ってみたのですが,やっぱりズレるものです。また電源投入からの値の変化も大きくて,電源投入直後では誤差が大きすぎ,これが実用範囲に入るのに30分,落ち着くのは1時間ほどかかるので,このあたりは34401Aと違ってすぐに取りかかることができず,ワンランク下がる測定器という事になりそうです。
そんなわけで,DL2050の調整までが終わりました。DCV,ACV,DCA,2W,4W,までは調整もできましたし,誤差の範囲もある程度つかめました。ACAについてはノータッチとしましたが,そんなに大きくズレていないと思いますし,他の測定器を使うことにしますので,ここは割り切りました。
ところで,今回はEEPROMを直接書き換えることを何百回と行いました。ISPができないながらも,作業W効率の向上とミスを防ぐ目的で,レンジとモードで66もあるパラメータがどのアドレスに割り当てられているかを一覧にした物を作りました。
左側がアドレス,次の数字がバイト数,右側がレンジとモードです。
S-Mode0000-0005 0,1,2 DCV120mV0006-000B 3,4,5 DCV1.2V000C-0011 6,7,8 DCV12V0012-0017 9,10,11 DCV120V0018-001D 12,13,14 DCV1000V001E-0023 15,16,17 ACV120mV0024-0029 18,19,20 ACV1.2V002A-002F 21,22,23 ACV12V0030-0035 24,25,26 ACV120V0036-003B 27,28,29 ACV750V003C-0041 30,31,32 2W1200042-0047 33,35,35 2W1.2K0048-004D 36,37,38 2W12K004E-0053 39,40,41 2W120K0054-0059 42,43,44 2W1.2M005A-005F 45,46,47 2W12M0060-0065 48,49,50 2W120M0066-006B 51,52,53 4W120006C-0071 54,55,56 4W1.2K0072-0077 57,58,59 4W12K0078-007D 60,61,62 4W120K007E-0083 63,64,65 4W1.2M0084-0089 66,67,68 4W12M008A-008F 69,70,71 4W120M0090-0095 72,73,74 DCA12mA0096-009B 75,76,77 DCA120mA009C-00A1 78,79,80 DCA1.2A00A2-00A7 81,82,83 DCA12A00A8-00AD 84,85,86 ACA12mA00AE-00B3 87,88,89 ACA120mA00B4-00B9 90,91,92 ACA1.2A00BA-00BF 93,94,95 ACA12A00C0-00C5 96,97,98 Cond(導通)
M-Mode00C6-00CB 99,100,101 DCV400mV00CC-00D1 102,103,104 DCV4V00D2-00D7 105,106,107 DCV40V00D8-00DD 108,109,110 DCV400V00DE-00E3 111,112,113 DCV750V00E4-00E9 114,115,116 ACV400mV00EA-00EF 117,118,119 ACV4V00F0-00F5 120,121,122 ACV40V00F6-00FB 123,124,125 ACV400V00FC-0101 126,127,128 ACV750V0102-0107 129,130,131 2W4000108-010D 132,133,134 2W4K010E-0113 135,136,137 2W40K0114-0119 138,139,140 2W400K011A-011F 141,142,143 2W4M0120-0125 144,145,146 2W40M0126-012B 147,148,149 2W300M012C-0131 150,151,152 4W4000132-0137 153,154,155 4W4K0138-013D 156,157,158 4W40K013E-0143 159,160,161 4W400K0144-0149 162,163,164 4W4M014A-014F 165,166,167 4W40M0150-0155 168,169,170 4W300M0156-015B 171,172,173 DCA40mA015C-0161 174,175,176 DCA120mA0162-0167 177,178,179 DCA1.2A0168-016D 180,181,182 DCA12A016E-0173 183,184,185 ACA40mA0174-0179 186,187,188 ACA120mA017A-017F 189,190,191 ACA1.2A0180-0185 192,193,194 ACA12A0186-018B 195,196,197 Cond(導通)
パラメータは6バイトで1組になっていて,最初の2バイトはゼロアジャスト,続く4バイトが補正値です。もともと16ビットの数値なので上位と下位のバイトを入れ換えて読む事になります。
例えばがC4 FF 06 00 34 36と並んでいたら,FFC4がゼロジャスト,00063634が補正値となります。表示される値が低すぎるのでこれを増やしたい場合には補正値を小さくし,逆に表示が高い場合には減らすために補正値を大きくします。
また,MモードとFモードはパラメータを共有しています。フルスケールが同じだからだと思います。
これで一応,私が普段使う範囲については34401Aと同じ程度の測定値が得られるようになりましたし,誤差も把握出来たので,実用レベルになったと思います。
ただ,残念なのは値の更新周期が長かったり,高精度が期待出来る4Wの抵抗測定では測定時間が非常に長く,DL2050の最大の特徴である2つの測定を同時に行う昨日も,結局後進周期が2倍になるので使い物にならず,測定器を2つ並べた方がよほど使い勝手が良かったりします。
精度でも更新周期でもHP34401AとDT4282が揃えばもう怖い物なしで,残念ながらDL2050の出番はないなあというのが現実です。それでも現場復帰できたことはうれしいもので,機会を見つけて使いたいなあと思うところです。