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2006年09月の記事は以下のとおりです。

おかしなテレコンと古いストロボ

  • 2006/09/29 15:43
  • カテゴリー:散財

 先日,行きつけの中古カメラ屋を定期巡回した際,いつものようにジャックを見つけて買って帰りました。今回の戦利品は2つ。

・ニコン AFテレコンバータTC-16A

 どうやらテレコンバータがまとまって入荷したようで,いろんな種類のものが純正・非純正を問わず転がっていました。どれも安価です。

 私が目についたのは,ニコンの純正で,AFレンズと同じデザインの,比較的新しそうに見えたTC-16Aという品種です。価格は3500円。

 AFテレコンバータと書かれているところから,AF対応であることが推測できるので,ますます好都合です。しかし不思議なことに,マスターレンズ側のマウントに,電気接点が全く見あたりません。ボディ側にはあるんですけどね。後で気が付いたのですが,AF駆動用のカップラーも出てません。

 それでもニコン純正です。というのも,テレコンバータは安いものと高いもので,全然画質が違うという事を体感したからです。テレコンバータはマスターレンズの欠点も拡大しますが,それを出来るだけ押さえるために複雑なレンズ構成を取ったり,特殊なガラスを使う事があります。

 その分高価になるため,数千円で手に入るケンコーのテレコンバータと,数万円の純正品とでは,全然画質が異なるわけです。

 だけど,必ず画質の劣化が起こるテレコンバータに,数万円も出せません。それで純正品を買うことはしませんでした。所詮私にとっては面白いおもちゃに過ぎない存在でした。

 それが3500円ですからね。1.6倍という倍率も適度です。そこで買うことにしました。

 TC-16Aを調べてみたのですが,googleで調べてみてもなかなか引っかかりません。もちろん現行ではないのでニコンのHPにも全く見あたりません。

 わずかにヒットした情報を総合すると,どうもマニュアルのニッコールレンズを,AFレンズとして使用するアダプタらしいのです。

 発売時期はF-501と同じといいますから,もう20年くらい前ですか。当時,全くAFレンズのラインナップがなく,大量に出回っていたMFレンズをこのテレコンバータで一気にAF化するというのが狙いだったようです。

 AF化するために,テレコンバータのレンズ群をモーターで駆動するようになっています。当然焦点距離も変わってしまうので,AFアダプタとは言わず,テレコンバータと呼んだのでしょう。

 これで辻褄が合います。電気接点がレンズ側にないのは,そこにつくのがマニュアルフォーカスのレンズだから。AFカップラーがないのも,同じ理由。テレコンバータの下部が膨らんでいるのは,そこに駆動用モーターが仕掛けてあるから。

 ほほー,なかなか面白いなと思った瞬間,現行のボディにはほとんど使えないという情報も引っかかりました。AFにならないだけではなく,シャッターが切れないらしいのです。全く使えないというわけです。

 F4というカメラは,市場に出ているニッコールレンズを,最も多く許容するボディとしてここ数年マニアから再評価されていますが,こうしたマニアの遊び道具としてTC-16Aも利用されているようで,それ以外の使われ方を見ることはほとんどありませんでした。

 そんな中,D200では動かなくても,D2Hでは動いたという報告が見つかりました。これは幸い。D2HはデジタルワールドのF4になれるでしょうか。

 試してみます。CarlZeissのPlanar50mm/F1.4ZFがAFになったら面白そうでしょ。早速やってみましょう。

 予想通り,D2Hはこのレンズをきちんと認識しました。1.6倍した焦点距離に絞り値を設定して,Ai連動も済ませます。

 シャッターボタンを半押しすると,ものすごい速度でAFが合焦します。言うなればインナーフォーカス方式ですし,レンズの移動量も小さいので,高速なのは理屈通りではありますが,超音波モーターを内蔵するDX Nikkor18-200mmに比べてもかなり高速という結果には驚きました。

 ところが,ちょっとアンダーです。そういえば集めた情報の中に,「F1.8より明るいレンズはテレコンバータ自身が絞りになってしまうので,F1.8より絞って使え」とありました。なるほど,前玉をのぞき込むと,テレコンバータが光路をふさいでいるのがわかります。

 そこで露出補正をするとよいとのこと。私の場合+0.3位で,適正な露出になってくれました。

 いろいろ試して見ます。Ai-Nikkor45mm/F2.8PなんかもAFで使えると面白いですね。誰もが試してみたくなる超望遠の世界だと,私の持ってるレンズで最も焦点距離の長いものは300mm/F4ですので,テレコンバータで480mm相当,これをD2Hに使うとさらに1.5倍で720mm!

 試してみましたが,室内ではどこにも合焦させることが出来ませんでした・・・

 画質の劣化も思ったほどなく,おもちゃとしては最高でしょう。なにしろたくさんあるマニュアルレンズが1.6倍の頂点距離になったあげくAF化されるわけですから,D2Hと一緒に持ち歩くとなにかと便利に使えそうです。 
 

・ペンタックス オートストロボAF160

 中古カメラの世界においてストロボは,純正の多機能ストロボ以外,ゴミ扱いされる傾向にあります。ところがそのカメラとストロボの多機能化が進む昨今,現行の一眼レフの機能を生かし切るストロボは現行のストロボだけに限られるのが現状で,一世代前のストロボでさえ,現行機種に取り付けると,ただの外光式オートストロボとしてしか動いてくれません。

 中には外光式オートに対応しないストロボもあったりして,もうこうなるとほとんど専用品です。

 となると,中古のストロボというのは,外光式オートストロボとして使うことが前提となってしまいますし,そうなるとメーカーや新旧に関係がなくなり,最大光量を表すガイドナンバーくらいしか選ぶところがありません。

 そんなですから,ストロボの中古はゴミ扱いで,どれも安価です。もっとも,新品でも外光式オートの汎用ストロボは,メーカーを問わず安いのですが・・・

 電池が単三2本くらいで,小さく,ガイドナンバーも内蔵より少し大きいくらいの小型ストロボが欲しいなあと思っていたのですが,今回見つけたのがペンタックスのAF160というものです。ガイドナンバーは16,価格は300円。動かなくても文句の言えない価格です。

 接点を見るとシンクロ接点とチャージ完了の接点くらいしか見あたらず,TTL調光やら通信用やらという最近のにぎやかさはありません。プラスチックの変色具合やフィルム感度の表記がASAであるところ,PENTAXのロゴや会社名が「ASAHI OPT.」と書かれているところを見ると,25年くらいは経過しているのではないかと思います。

 PENTAXのHPに奇跡的に存在したこのストロボも取説を見てみると,やはりMEsuperやMXなどが対応機種として書かれています。MEsuperが1979年の発売ですから,今からざっと27年も前のストロボですか・・・

 それはともかく300円です。滅多に壊れるものでもないし,安いのはちょうどいいと思ってお金を払います。

 特にコメントの書かれたシールも貼られてない割に,300円というのは気になったのでしょうか,店員さんが電池を入れて動作チェックをしています。とりあえず発光することは確かめられたのですが,オートモードがおかしいとのこと。理由は周囲の明るさによって変わるはずのチャージ時間に全く変化がないことでした。

 外光式オートは,周囲が明るければ発光時間が短く制御されるので,次の発光に必要なチャージにかかる時間が短くなるというのが常識です。ところがこのストロボはそうはならないので,オートはダメだというのです。

 これは使い物になりません。やめようかとも思ったのですが,光るという事だけでも十分300円の価値があるだろうということで,そのまま買うことにしました。まあ大阪だったらまけてくれたか,ただにしてくれたかも知れません。

 家に帰って確認をしてみます。満充電のNi-HM電池で8秒ほどかかるチャージ時間は,周囲の明るさによって全く変化しません。マニュアルモードのフル発光でも,蛍光灯の下でも同じです。発光時間は,なんとなく変わっているように思うのですが,おそらく気のせいでしょう。

 D2Hに取り付けてテスト撮影です。むむ,やはり白飛びしてます。明るいところでも暗いところでも白飛びしているということは,やはりフル発光しているというだろうと推測し,故障と断定。

 そうと決まれば分解です。

 なかなか分解しにくい構造だったのですが,コンデンサに気をつけて(先日サムライの分解で感電しましたしね),ばらしてみました。

 オートが動作しないのですから,調光回路周辺の故障でしょう。半導体は壊れにくいですが,フォトトランジスタはまだ新しい部品でもあり,ちょっと外してテストします。すると一応明るさによって反応している様子です。ここは壊れてないと判断。

 次にコンデンサですが,電解コンデンサは目視で液漏れや破裂,膨張などもありません。フィルム系のコンデンサはシーメンスのポリカーボネートコンデンサが使われていましたが,これも調べてみると問題なし。

 すると抵抗ですね。このストロボの抵抗にはソリッド抵抗が使われています。誤差は10%品というあたり,時代を感じさせます。ソリッド抵抗は私の印象では信頼性が低く,故障の原因となっていますので,調べてみます。

 おおむね大丈夫だったのですが,10MΩという高抵抗については1MΩほどの抵抗しか示しません。しかも安定しないので,これが壊れていると判断して交換です。

 あいにく手持ちには10MΩなどありません。そこで4.7MΩを2つ直列にして代用します。テスターでは9.7MΩを示していますので,まあよいでしょう。

 バラックのまま発光テストを行います。すごいですね,ストロボって最大で3A以上の電流が流れるんですね。チャージが進むと徐々に減っていきますが,最初電源器の保護回路が働いてしまって,どこかショートさせたんじゃないかと焦りました。

 テスト発光させると爆音と共に発光します。センサを覆って暗くすると,明らかに爆音が大きくなり,発光量も増加しているように感じます。ただ,チャージ時間にはあまり変化がないような印象です。よく分かりませんが,抵抗がおかしかったのは事実ですし,直っているんじゃないかと期待して組み立てることにします。

 その前に,センサを覆う透明プラスチックの板が曇っていたので磨いて(それでもあまり綺麗にならなかった),組み立てます。コンデンサを抵抗で放電させて安全に注意しながら作業を進めます。

 組み上がってからテスト発光。問題はないようです。しかし,やっぱりチャージ時間は相変わらず8秒で一定です。

 やっぱりダメだったんだなあと,D2Hでテスト撮影をします。

 心なしか白飛びの程度が改善されているようですが,比べてみて分かる程度の差です。ただ,明るいところでも暗いところでも,同じ程度の白飛び具合であることに,実は調光されているのではないのか,と考え始めました。

 適正露出にするために,カメラ側のISO感度を下げて試そうとしたその時,私は自らの過ちに気が付きました。ISO感度の設定が,400になっています。

 D2Hは標準が200です。そのつもりで絞りを合わせていたのですが,感度が400になっていたのであれば,オーバーになり白飛びが起こるのは無理もありません。ISO200に設定し直し,再度撮影すると,なんと適正露出になりました。

 明るいところでも,暗いところでも,ほとんど同じ明るさです。試しにマニュアルモードでフル発光してみると,ほとんど画面が真っ白になってしまいました。

 ははは,オートモードは最初から動いていたようです。

 まあ,おかしかった抵抗を交換したことで分解した価値はあるのですが,もっと気をつけて確かめるべきでした。

 しかしそうなると,チャージ時間の疑問が残ります。

 調べてみると,ストロボの調光方式には,バイパス方式(もしくは並列方式)と直列方式の2つがあるそうです。

 バイパス方式は,キセノン管と並列に別の放電管(これをクエンチ管というそうです)を用意してやり,積分された光量に応じた発光停止のタイミングで,クエンチ管をトリガして放電させる方式です。

 一方の直列方式はキセノン管に直列にサイリスタを入れ,積分された光量に応じた発光停止のタイミングで回路を切断する方式です。(サイリスタってよく分からないのですが,トリガをかけると導通し,回路を遮断するまで導通状態を保つ素子じゃなかったでしたっけ?なんでトリガ回路で回路が切断できるのかわかりません・・・)

 前者は安く簡単なのですが,発光量に関係なくコンデンサは空っぽになるので,チャージはいつも長時間かかります。

 後者は複雑でコストがかかるのですが,発光量によって消費されるエネルギーが変わりますから,発光量が少なければチャージは使った分だけで済み,短時間で完了します。発光量によってチャージ時間も変化します。

 ここが重要なのですが,最近はチャージ時間が短くて済み,電池も長持ちする直列方式が主流で,バイパス方式はほとんど見あたらないようなのです。

 今回のストロボもサイリスタが2つほど使われていましたので,私はてっきり直列方式だと思っていたのですが,確かに放電管も存在しました。オートモードではこれも青白く光っています。

 ということは,間違いなくバイパス方式ですね。これで全部辻褄が合います。

 恐るべしはこのカメラ屋の値付けです。他のストロボが1000円程度だったにもかかわらず,このストロボだけ300円だったのです。きちんとバイパス方式であることを見抜いて根付けしていたに違いありません。むむむ,恐るべし。

 まあ,店員さん自らもだまされてしまうほど高度なテクだったわけですが,さすがは生き馬の目を抜く中古カメラ業界。うかうかしてるとお陀仏です。

 それはともかく,一応小型ストロボが手に入ったので,使い道を考えたいところです。ES2にも似合いますが,出来ればCLEに使えるといいですね。CLEはストロボを動作させることは出来ないのですが,ちょっと手を加えて駆動できないかと思案中です。


 とまあ,こんなわけで,またくだらないものが増えてしまったのでした・・・

コツコツES2

 毎日少しずつですが,コツコツとES2のメンテを続けています。

 いちいち書くようなことではない気もするのですが,記録として残せば後で役に立つこともあるかも知れません。そんな気分で書いています。

 さて,昨日ですが,コネクタの取り付けを行いました。私のES2はコネクタが破損し,リード線を基板に直接ハンダ付けしてあるのですが,複数手に入れた部品取りのES2から基板をすぐに移植できないのは不便だということと,オリジナルに近づけるという目的で,その部品取りの個体からコネクタを移植しようと考えました。

 2つ手に入れたES2のうち,1つはコネクタにひびが入っていました。こちらの個体は外観の程度が悪いので,先日プリズムを移植したものなのですが,ひびの入ったコネクタは経年変化でボロボロに割れてしまうので,どうしようかと迷いました。

 そこで,割れたところを瞬間接着剤で固めて見たのですが,接着剤との相性が悪いらしく,ちょっと触ると簡単に割れてしまいました。それならと0.4mmのプラ版をコの字に曲げて接着してみました。

 結果は上々で,かなりしっかり固着してくれています。接着剤は瞬間接着剤を使っていますが,強度的にも問題はなさそうです。

 基板を差し込むと,ピンの圧着力で粉クタが膨らみます。この力で割れてしまうのが問題なのですが,プラ版で上下を挟み込むようにしたことで,かなり補強されたと思います。

 気をよくしてコネクタをES2に取り付けてみます。終わったら基板を差し込み,テストです。問題なく動作しています。

 すんなりと進んだ作業に水を差したのが,底板が閉まらないという問題でした。

 コネクタの厚みが結構ギリギリだったのは分かっていましたが,0.4mmの厚みが上下で合計0.8mmの余裕もないとは思いもよらず,ちょうど1mm程度底板が浮いてしまっています。

 よく見てみると,コネクタを押さえ込んでいるのは底板自身でした。だから多少膨らんでも,割れてしまう事は少なく,仮にひびが入っても崩壊することはなかったんですね。納得です。でも,外装部品をコネクタの支持や補強に使うというのは,ちょっとどうかという気もします。

 やむを得ずプラ版を外すことにしました。しかし外したままだと問題があるので,別の補強を考えねばなりません。

 ひびがあったのはコネクタの横側ですが,ここだけを補強することにしました。

 シルボン紙(ニコン純正のレンズクリーニング用の紙です)を5mm程度の幅に切り,コネクタの横側にあてがいます。そこにプラリペアを盛り,固着させます。

 プラリペアがコネクタにくっつくかどうかが心配だったのですが,とりあえず問題はなさそうで,なかなかしっかり補強されているようです。

 厚み方向も問題は当然なく,底板もきちんと閉まるようになりました。

 基板を差し込んでみましたが,問題はありません。試しに入手した2台のES2から基板を外し,交互に差し込んでみます。

 どうも2つとも正常のようですね。これで基板の故障があっても当分心配することはありません。

 オート時のシャッター速度には差があって,1秒の時間は新しい基板の方がかなり短めに出ています。2つとも同じ程度の短さだったので,おそらくそれが標準だったのではないかと思います。

 バッテリチェックについても,4.4Vで1/60秒付近を示すようにというサービスマニュアル通りのものはなく,いずれも4.3Vで1/30秒程度,5.2V付近で1/8秒を指し示すようになっています。

 私のES2の基板もその程度ならギリギリ調整範囲ですので,これに合わせておきました。

 というわけで,一応ES2は電気的にも思い当たる部分の修理と調整が終わりました。メカシャッターも昨日までに,後幕がかぶるという問題は出ていません。

 週末に試し撮りを行ってみて,そこで判断をすることになりますが,今回はかなり期待できると思います。楽しみです。

D-DECKに想いを寄せて

 ヤマハから,ちょっと変わったキーボードが登場しました。「D-DECK」というのですが,二段鍵盤を持つスタイリッシュなデザインから持つ第一印象は「またヤマハのキワモノか」でした。

 値段が約40万円という非常に高価なものであること,搭載したLCDが800x480というかなり高精細なものであることなど,詳細を知るにつけそのキワモノ感は高まっていったのですが,ホームページに掲載されている開発ストーリーを読むと,その考えが一変します。

 いわく,キーボードの存在が非常に地味になっている,これはまずいと。

 いやはや,メーカーの方がそういう考えを持ってらっしゃるということを初めて知りましたし,実のところほっとしました。私も全く同じ事を考えていたからです。

 D-DECKの開発が始まったのは1999年。世紀末にスタートした開発は7年もの時間をかけ世の中に出てきたわけですが,考えてみるとこの7年間に進歩したテクノロジーってなんだろう,と考え込んでしまいます。

 80年代には3年経つと一世代進み,新製品が出す音に可能性の広がりを確実に期待できたキーボードという楽器は,90年代も終わりになると音そのものに対する進歩が飽和し,メモリ容量の増加によって得られる「自然で予測可能な進化」だけが新製品に期待される,実に面白くないプロダクトに成り下がってしまいました。

 それでもプロの現場では新しいキーボードが求められ,その時々で常に一定の評価を受けていたわけですから,私はキーボードはPAなどと同じ,裏方の機材としてアマチュアの注目を集めるものでもなければ,期待されるものではなくなったのだと,そんな風に思っていました。下手な商業主義に走らずプロの仕事を支えるプロ用の機材には,ストイックな魅力に満ちあふれています。むしろ歓迎すべき傾向ではないのかとさえ思っていました。

 ですから,私が昨今のキーボードをつまらないと思っていたのは私がアマチュアだからという理由がすべてであって,メーカーもすでにアマチュアを顧客とは見なしていない,それが私なりの答えでした。これは同じ楽器でも,ギターやドラムとはちょっと違う傾向ですね。

 しかし,その考えに,なにかしっくり来ずにいたのも事実で,同じ事をD-DECKの開発者も感じてらっしゃったことに,少々驚きを感じたというわけです。立場がこんなに違うのに,です。

 開発者はいいます。キーボードは楽器ではなく,機械として「操作される」存在になってしまったのではないか,キーボードは演奏して楽しいと感じる楽器にならねばならないのではないか,と。

 なるほど,そうかも知れません。ただ,操作の対象となる機械としての魅力と,演奏される対象となる楽器としての魅力が両立していた特異な世界こそ,キーボードやシンセサイザーの世界だったというのも事実です。

 それでは,我々がシンセサイザーを演奏して楽しいと思うのはどんな時だと言われると,それはおそらく2つあって,1つは自分の演奏に対する反応の直線性と,もう1つは自分の頭の中で鳴っている音が現実に飛び出した時の感動ではないでしょうか。

 前者は楽器全般に言えることで,良い楽器と悪い楽器の差となって認知されますよね。ピアノのリニアリティには底なしの快感と安心感を感じますし,安い電子ピアノに違和感を感じるのは,リニアリティが著しく悪いからです。

 後者は「音を創造出来る」唯一の楽器であるシンセサイザーならではの楽しみであり,現実にある音はもちろん,自分の頭にしか存在しない空想の音まで,現実にする事が出来るその喜びは,体験しないと分からないものかも知れません。

 実はこの両者はなかなか両立しません。本当は別のテーマですから両立してもよいはずなのですが,なぜかそうはなりません。

 70年代に誕生し,80年代に急速に発展したシンセサイザーは,当初後者の能力を高めるために進歩を続け,どちらかというと前者については割り切られてきました。理由は簡単で,後者の能力があまりに低く,一方で前者については演奏者が大幅に歩み寄ってくれたからです。

 そしてこれは楽器メーカーの身勝手だと思うのですが,「シンセサイザー」という新しい楽器として,これをそのまま受け入れてくださいという姿勢さえ見せるようになります。

 そうした言い訳がなんとなく成立したことで,楽器メーカーは安心して楽器としてではなく機材としての進歩に専念できたのですが,その流れを変えたのがコルグのM1だったと思います。

 M1は,音を創造する機能も素晴らしかったのですが,ユーザーが絶賛したのはその音色でした。楽器である以上音の良さは第一であるべきで,この方向は間違っていませんでしたが,結果として起こったことは,誰も音作りをしなくなったということでした。

 メーカーのプリセットを選ぶだけで,十分なクオリティの音が出てくる。リニアリティで言えば本物のピアノの足下にも及ばないこの機械は,様々な楽器に化けることの出来る持ち運び可能な「代用楽器」として使われるようになるわけです。

 かくてM1が決定づけたシンセサイザーの方向性は,他社の追随によってより堅固なものになります。

 機会のあるごとに言うのですが,M1の功罪のうち最も重いのがこれで,これ以前と以後で,シンセサイザーやキーボードに求められるものが大きく変わったと思います。プロとアマチュアの差が(少なくとも音質面で)どんどん小さくなり,アマチュアでもプロ級の機材が使えるようになったことは素晴らしいのですが,一方でシンセサイザーは演奏する楽器ではなく,いろいろな楽器の音の出る機械として進歩していきます。それが我々ユーザーの望みだったからです。

 ですから,本来人間との接点として不可欠であるはずの鍵盤を持たないシンセサイザーがコンピュータにのみ繋がれ,ある時はカラオケに,ある時はゲームに,ある時はアイドルのCDにと,演奏を意識しない形で我々の眼前から姿を消して,裏側にまわってしまいました。

 D-DECKの開発者は,この理由の1つに,これまで演奏者に押しつけてきた演奏のしにくさと,ビジュアルとしての演奏の格好悪さを上げています。

 ステージでキーボードをプレイすると分かるのですが,61鍵のキーボードが1つでは全然足りません。右手と左手で別々の音を出す必要性もありますし,それを61鍵という限られた広さで分割して使うのは,あまりに制約が厳しすぎます。

 そこで最低76鍵,欲を言えば61鍵を上下に2つが必要になると,どんなプレイヤーでも痛感させられるに違いないのですが,これが無理なく,かつ格好良く実現できる仕組みは,考えてみるとほとんどお目にかかりません。

 二段鍵盤は演奏は非常にしやすいのですが,いかにもエレクトーンという品の良さか,もしくはいかにもハモンドオルガンというコンテンポラリーなイメージしか与えません。やはりステージで映える,華のあるプレイには,スタイリッシュなキーボードで縦横無尽に暴れ回ることが必要なのです。

 ローランドはSHシリーズやV-Synthで,音を創造する機材としてのシンセサイザーにこだわりを見せ,そこに個性を求めています。プレイバックサンプラーとしての便利楽器を見限ったわけではなく,それはそれで充実させる一方で,本来のシンセサイザーにあるべき姿を追い求めているといってよいと思います。悪く言えばメーカーの自己満足であり,これに共鳴できる人だけ使ってくださいという,高飛車なスタンスでもあります。

 このマニアックな方向性には,私自身はとても共感するのですが,しかしその音作りの可能性が深く広くなることを,どれだけの人が実感し,また必要とするのかを考えると,ちょっと難しい面もあります。

 出てくる音の差は機材やメーカーによってどんどん小さくなり,かつて隆盛を誇ったピュアオーディオが,やがて重箱の隅を突くような,小さな小さな音質の差を云々するようなるに至り,その差を感じられない人々,その差を必要としない人々,その差に興味のない人々が増加し離れてしまうことで,一部のマニアの小さく閉じた精神論の世界に入り込んでしまった歴史と同じ危うさを,私は感じずにはいられません。

 そうなのです。実用レベルで十分な水準に達したキーボードは,音作りを目標にする限り,その性能の差を感じる人だけに向けられる,特別な存在になるかも知れないのです。

 これに対し,D-DECKは,音はもう十分な水準に達したとし,その演奏にこだわったキーボードとして誕生しています。二段鍵盤もそうですし,鍵盤の近くに用意されたボタン類もそうです。そして演奏しているプレイヤーの姿が格好よく見えることを目指し,そのために努力を積み重ねたキーボードなんて,最近は滅多にお目にかかれません。

 これってローランドとは対極にあるコンセプトです。

 楽器は,本来,機能美を持つものです。音を追求していく過程で,自然にそれぞれが持つ形に収れんしていきました。これを制約と捉えて自由な形に挑戦してきたエレキギターでさえ,明らかに形状や木材による音の違いがあります。

 そうした楽器を使いこなす演奏者の姿には,特殊技能に対する羨望の眼差しが注がれ,芸術性に神秘性が加わるのです。

 電子楽器,特にキーボードには残念ながらそれがありません。もちろんミニモーグをソロに使うプレイヤーには同様の輝きがありますが,残念ながらミニモーグは過去の楽器であり,もはやミニモーグという単独の楽器と見なして良い存在です。

 ヤマハが目指すD-DECKのコンセプトとは,演奏者が演奏を楽しめることと,オーディエンスが演奏者に神秘性を見いだせることなのですが,ここで気付くことは,この2つは表裏一体であるという事実です。演奏を楽しんでこそステージで映えることに,異を唱える人はいないでしょう。

 キーボードという楽器において,ここに気が付いたエンジニアがいて,その考えが具現化したことは奇跡です。同時に本当に素晴らしいことだと思います。

 正直なところ,D-DECKが売れるとはあまり思えません。40万円はアマチュアには高価すぎますし,プロには使い道がなさ過ぎます。価格と機能において誰に売りたいのかはっきりしないのですが,それでも世に出たことも奇跡です。

 私もぜひ欲しいと思いましたが,40万円の費用対効果を考えると,悩む余地すらありません。悲しいかな,それが現実です。

 個人的には,ヤマハには下位機種においてもこのコンセプトを貫いて欲しくて,演奏して楽しいこと,演奏者が格好良く見えることを,キーボードという楽器の本質として,ぶれないで維持し続けて欲しいなあと思います。

 それが,キーボード復権の最初のステップになるような気がします。

ES2不定期報告

 実家に持って帰ったES2は,あえなくトラブルが出たために使用を断念せざるを得ず,戻ってからも実は毎日メンテを続けています。

 これまでにも書いていますが,問題になっているトラブルで深刻なのはシャッターの幕速の問題で,後幕が先幕に追いついてしまって,1/1000秒で重なってしまうというものです。

 いやらしいのは,きちんと調整をしたつもりでいても,一晩経つとまた重なってしまっていることと,シャッターを何度か切るうちに重なりがなくなってしまうことです。

 シャッター幕のテンションが低すぎるために,時間の経過で下がったテンションが限界値を超えて重なってしまったのではないかと考えて,問題が出る度にテンションを上げている(つまり幕速を上げている)わけですが,3日ほど前に行った調整以後,重なってしまうという問題は出ていません。

 これで解決すればと思っていたのですが,巻き上げのトルクが妙に重たいのです。実家から持って帰ったSPにしても,最近2台手に入れたジャンクのES2にしても,もっと軽くてスムーズなんですよね。

 幕速が速いと,幕が停止するときにぴたっと止まらず,跳ね返ってしまいます。これが起こると露光ムラを引き起こしてしまいますが,一方で幕速が遅い場合のフラッシュ撮影時に全開にならない問題よりは,ずっとましと言えるかも知れません。

 幕速の測定は,スタート点からストップ点までの時間を測定すれば良いことになっていて,ES2の場合フィルムの両端から2mm内側の34mmの間を,12.5msで走り抜けば良いことになっています。

 幕速を測定する測定器を作っても良いなあと思って,回路も考えたのですが,なんか面倒になってしまって,今すぐ実行しようという気にはなっていません。気持ち悪いのでなんとかしたい気持ちもあり,でも果たしてその測定器を信用して良いのかどうか,そこもあやしいと思うようになったらもう底なしです。

 少々話が逸れますが,現在シャッター速度の測定をどうやっているかといえば,以前作ったシャッター速度測定器の使用を諦め,オシロスコープを使うようになっています。

 シャッター速度測定器の問題はいくつかあって,1つは光源の明るさで測定値が大きく変わるという問題があります。おそらく明るさによってフォトトランジスタが反応を始めるタイミングが変わってしまうことが原因だと思いますが,1/1000秒で2割も測定値が変化すると,どの明るさを信用すればいいのか,わからなくなります。

 また,この測定器では自動露出のシャッター速度を測定するのが難しいです。フォトトランジスタが反応する明るさまで光源を明るくしなければなりませんが,そうすると低速側の速度が全然測れません。

 配線が面倒臭い,操作性が悪いなどの問題もあって,さっぱり使わなくなったのは,オシロスコープを使った方法が思った以上に楽ちんだったからです。

 私の手持ちのオシロスコープはテクトロニクスの2465Aというアナログタイプのもので,今から20年ほど前のものです。

 ブラウン管のテレビを使ってシャッター速度を確認することはよく知られた簡易チェック法なのですが,悪いことに私はすでにブラウン管のテレビを一掃して久しく,その代わりにならないかと思いついたのが目の前にあったオシロスコープです。

 トリガモードをAUTOにして掃引をフリーランさせておき,入力はGNDに落として水平線を表示させておきます。そして掃引時間を1ms/divと設定して,1/1000秒でシャッターを切ります。

 レンズを付けず,裏蓋を開けてシャッター越しに表示を見てみると,本当に1/1000秒でシャッターが切られているなら,1divだけ輝線が見えるはずです。ただし,掃引方向とシャッターの走行方向は直交している必要があります。

 同様に,2ms/divで1/500秒のシャッターを切ると1divの輝線が見えますし,16ms/divで1/60秒でもやはり1divの輝線が見えます。1ms/divで1/500秒のシャッターを切れば2divの,1/250秒のシャッターを切れば4divの輝線が見えるはずですから,いろいろな組み合わせで確かめる事も出来ます。

 2465Aはリードアウトがありますので,掃引時間の細かい設定も可能ですし,測定器でですからそこそこ信用できる精度を持っているでしょう。さすがにオーバーホールを済ませたF3で試すと,どの速度もきちんと1divの輝線が見えます。

 この方法だと,操作するのはカメラ本体だけなので,作業がテンポ良く進みます。目視による確認ですので精度は出ませんが,極端に狂っていれば意外によく分かるので,全面的にこの方法に切り替えました。

 幕の重なりがあった場合,先幕と後幕のテンションをそれぞれ上げて,重ならないところまで持っていきます。そしてオシロスコープを使って速度を確認し,後幕のテンションで調整を行います。このまま一晩放置して,また重なりがないかどうかを確認するのです。

 この方法では,幕速そのものを測定できませんし,シンクロ速度でシャッターが全開になっているかどうかも,シャッター幕の跳ね返りが起こっているかどうかも分かりません。

 1/1000秒というシャッター速度を装備することが1つの技術的な壁になっていたという当時の事情を,なんとなく追体験した感じです。

 そんなわけで,ES2は現在調整を終えて現在確認の最中です。今のところ幕の重なりもなく,速度もメカ/電子制御を問わずきちんと出ているようですので,かなり期待をしていますが,やはり巻き上げトルクの大きさが気になります。かなりテンションが上がっていると思われますので,あちこちに無理をさせているようで気がかりです。

 ところで,ここ1週間ほどの間に,2台ほどジャンクのES2を確保することが出来ました。外側の程度は非常に悪く,2台ともへこみがかなりあり,1台は裏蓋が開かないほど変形しています。ただ,中身の程度はなかなか良いようで,プリズムの腐食は皆無,ミラーもとても綺麗ですし,基板にも錆一つありません。1台はスローシャッターがそのまま切れてしまうほどの程度の良さでした。

 しかし,あまりに外側が汚いので当初の予定通り部品取りにすることに決めました。

 私のES2は,残念ながらプリズムの腐食があります。早速腐食のないプリズムに交換することにしました。

 軍幹部を開けて,プリズムを押さえているバネを外します。プリズム前方の左右にあるネジをゆるめると,簡単にプリズムが外れてくれます。

 この時期のペンタックスはモルトやスポンジが加水分解を起こしてボロボロになっていて,しかも水分を多量に含んで湿っています。最悪の場合には周辺の真鍮をサビさせてしまいますし,プリズムの腐食もこれが原因で起こります。

 交換用のプリズムもスポンジを丁寧に取り除きます。注意しないとこの時銀のメッキを傷つけてしまいますので,慎重に作業をします。

 本体も綺麗に掃除を行い,プリズムが収まる部分にモルトを貼り付けます。ゴミが入るのを防止して,ショックを和らげる目的で元々ついていたスポンジの代わりなのですが,プリズム側に貼り付けると糊がメッキを痛める可能性があると考え,本体側に貼り付けました。

 逆の手順で組み上げて完成。作業そのものは1時間もかかりません。のぞき込んでみるとすっきり,いい感じです。

 次に気になっていたのが,バッテリチェック機能の調整です。今回,基板が2つも手に入りましたから,それぞれのバッテリチェック電圧がどうなっているかを見てみることにしました。

 サービスマニュアルには,4.4Vで60付近を示すように調整せよとあるわけですが,私のES2は調整範囲内にありません。現在,ギリギリのところで調整を行ってあって,5.2Vで8付近を示すようになっています。

 結論から言うと,基板の2つとも,私のES2と似たような状態でした。4.4Vでは全然60には届かず,5.2V付近で8を示しますので,私のES2が特別おかしいということではないようです。

 ところが,突然私のES2のスローシャッターが切れなくなりました。原因は電池が減っていたようなのですが,電池単体の電圧は1.357V程度。4つで5.428Vですから,バッテリチェックボタンでは指針は中央付近を示します。

 電池がLR44だったせいで,大電流を引っ張るときに電圧が急降下したためでしょう。このカメラは潔く,高価な酸化銀電池で運用するのが確実なようです。

 ここまで分かったところで,あまりバッテリチェック機能にこだわるのはやめにしました。他の基板でも似たような状態ですし,そもそもあまりあてにならないなら,気休めと割り切るべきところだと思います。

 今後の予定ですが,今基板に直接ハンダ付けをしてある部分をコネクタに戻そうかと思っています。基板の差し替えが簡単にできるのは便利ですし,オリジナルに近づけることが出来るというのもよいことです。

 ただ,コネクタは今回のジャンク品でもひびが入っており,修理や補強で使用することが出来るかどうか,判断の難しいところです。やっぱりコネクタより,ハンダ付けの方が信頼性は高いですから。

 あと,露出計用のγカーブを持つCdSを手に入れたわけですから,ニコマートELに組み込んでみようかなと思ったりしています。調整からすべてやり直しになりますが,これでニコマートELが完璧になるのであれば,試してみる価値はあるでしょう。

 そうそう,CLEのブライトフレームの問題ですが,これはさっさと修理しました。ブライトフレームがちょっと変形していて,レバーから外れていました。変形を戻し,レバーに正しく引っかけて元通りなのですが,心配なのはブライトフレームが金属疲労で破断してしまうのではないか,ということです。スプリングで斜め方向に力がかかっているブライトフレームですので,今回の変形が今度起こってしまうと,そこにクセがついてしまって,修理不能になる可能性もあります。

 スプリングを少しのばして,力を弱めておけば良かったなあと今更反省です。

SPの電池アダプタを作ってしまおう

 実家からペンタックスSPを持って帰ってきました。目的は,電池アダプタを作ることと動作の確認,必要に応じて調整や修理を行おうと思ったことです。

 実はこのSP,私が子供の頃から慣れ親しんでいたものとは違います。もとは父親がSuperTakumar50mm/F1.4付きで中古品を買ったものだったのですが,私が高校生の時にはすでにプリズムの腐食が現れ,コマも揃わなくなっていました。

 それでも露出計を含め,基本機能には問題はないようで,TRI-Xを詰め込んでとにかく数を撮りました。

 社会人になってからですが,シャッターが時々切れなくなるようになってしまったので,どうせ壊れているのだしと修理を試み,あえなく壊してしまいました。あまりにも無謀だったなと思います。

 ただ,思い入れのあるカメラだったので,もっと程度のいいものを見つけて,いずれは買おうと思っていたところ,偶然デパートの中古市で見つけて購入しました。今,SPの程度よいものはなかなかいいお値段がするようですが,10年ほど前だったのでそれほどでもありませんでした。確か55mm付きで15000円ほどだったように思います。

 これ,今の目で見ても,結構程度がいいんですね。プリズムの腐食はありませんし,巻き上げもスムーズ,シャッターも気持ちよく切れますし,露出計も完動です。外側も割と綺麗で,素人さんが分解を試みて途中でやめた「躊躇した分解痕」が少しあるのが玉にきず,です。

 先日実家に戻ったとき,これで写真を撮ってみようと思ったのですが,よく考えると露出計の電池がありません。SPの電池は水銀電池でH-Bという型番のものですが,水銀電池は1995年に製造が全面的に中止されて,現在は入手困難とされています。

ファイル 35-1.jpg

 これは製造中止になる直前に大阪で買ったH-Bですが,これまで大事に使わずにとってありました。

 同じ時期に,ペンタックスがSR41という酸化銀電池をH-Bの代わりに使うアダプタをSPユーザーの為に安価で販売していたことがあり,これも私は入手していたはずなのですが,実家の取り壊しと新築のどさくさの中で,どうもなくしてしまったらしいのです。このアダプタが現在入手不可能なのは皆さんもご存じかも知れません。

 とりあえず実家で撮影するのに,この新品のH-Bを使うときが来たかと,封を開けて見たのですが,露出計は全く動作しません。電池が切れてしまったか,それとも露出計が壊れてしまったか,どちらかだなと思ったのですが,10年以上ですからね,こちらに戻ってきてから確かめてみると,やはり電池が切れてしまっていたようです。

 とりあえず手持ちのLR41を無理矢理入れてみたところ,露出計は問題なく動きました。ここまで来ると,やはりアダプタをどうにかしたくなりますよね。

 こんな時は作る,これしかありません。

 純正のアダプタは,実は電圧の調整機能は持っていません。水銀電池は1.35V,アルカリ電池は1.5Vで,酸化銀電池は1.55Vですから,本当なら電圧の調整が必要です。

 しかし,SPの露出計は電池電圧の変動に強くする目的で,ブリッジ回路になっているので,この程度の電圧差は無視できるのだそうです。H-Bを使っているすべてのカメラがそういうわけにはいかず,なかには数千円もする高価なアダプタが売られているようですが,SP専用と割り切れば,外形を合わせるだけで済むわけです。

ファイル 35-2.jpg

 H-Bの外形はこんな感じになっています。純正でも,SR41やLR41にはめ込むようなアダプタでしたから,これと同じようなものを記憶を頼りに作ってみましょう。

 まず,H-Bの型を取ります。「型想い」という名前の型どり材を使えば楽勝です。

 取った型の中央に,LR41を置きます。そしてその周りにポリパテを詰め込んでいきます。1時間ほどして固まってから型から取りだし,削るなど修正を少し行って完成です。

ファイル 35-3.jpg

 左側の黄色いリングがアダプタ,右側の電池がLR41です。

ファイル 35-4.jpg

 実際にはめ込んで見たところがこの写真。なかなかうまくいっています。

ファイル 35-5.jpg

 裏側の写真です。H-Bはツバのある方がマイナスですが,LR41では底面がマイナスになるため,絶縁も気をつける必要があります。外側のケースが底面に露出しないよう,調整しながら削ります。

 実際にSPに入れてみますと,なかなかうまい具合に収まります。露出計もきちんと動作しているようです。グレイカードで確認してみましたが,それほど大きなずれもないため,調整せずにこのまま使うことにしました。

 本体自身は1/1000秒がやや遅いようなので,後幕のテンションを上げて少しだけ速度を上げました。

 ダイアルなどの文字に,改めてエナメル塗料でスミ入れを行い,これで一応完成です。

 撮影は週末にでもやるとして,ぱっと手に取った感覚がやはり当時のままで,手が覚えているんですね。面倒な絞り込み測光も,重たい巻き上げレバーも,すっぽり手に収まるサイズも,なにもかも「いいなあ」と思わせるものがあります。

 思い起こせば,あの頃は1枚1枚をとても大切に撮っていました。無駄に出来ないから,自分の意図が確実に残せるよう,考えて使っていました。SPには自動露出はありませんから,露出計の指示をカメラの設定にどう反映するかは撮影者の考え次第なところがあり,露出補正などというむしろ面倒な操作などせずとも,思い通りに撮影できたものです。

 今でこそ露出補正を面倒とは思わなくなりましたが,はじめてSPからF3に乗り換えたとき,自動露出なんて全然便利じゃないなあと感じたものです。

 原点に返るカメラとして,このSPは手元に置いておきたい気がするのですが,それはやめときましょう。実家にあるから値打ちがあって,たまに帰省して手にとってこそ,原点回帰の意味があるように思います。

 今やるべき事をきちんとやって,実家に返しておきましょう。

 ちなみに,このSPが実は2代目であることを,当の父親は全然知りません・・・

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