壊してしまった2465A
- 2013/08/30 08:52
- カテゴリー:make:
さて,2465Aの調整がおわって数日後,CH2にプローブを繋いでもリードアウトが10倍にならない問題に気が付きました。CH1やCH3,CH4はちゃんと10倍になりますから,CH2だけ壊れてしまっています。
リードアウトが10倍?あまり意識されない話ですので,ちょっと詳しく書きます。
オシロスコープの入力インピーダンスは1MΩであることが一般的です。しかし,1MΩというのは案外小さい値で,測定している回路に影響を与えるのに十分です。そこで,繋いだプローブでインピーダンスを10MΩにすることにします。
オシロスコープそのものを10MΩにすればいいんじゃないの,と思うでしょうが,オシロスコープの回路構成上の制約加えて,入力インピーダンスが高い場合,ケーブルに飛び込んでくるノイズの影響が大きくなってしまうこともあって,長いケーブルの先にあるプローブで10MΩにすると好都合なのです。
しかし,いいことばかりではなく,電圧は1/10になってしまいます。そうしたデメリットがあっても,この1:10プローブは長年標準的に使われていて,多くのオシロスコープで付属品となっています。
管面の表示は実際の1/10の電圧になりますから,そのまま読むことは出来ません。リードアウトやカーソルがないオシロスコープなら,垂直軸の値を10倍して読むだけの話ですが,2465Aのようにせっかくリードアウトやカーソルで値が直接読めるのに,わざわざそれを10倍するというのは面倒です。
そこで,繋いだプローブが1:10のものかどうかをオシロスコープが検出し,表示される値を自動的に10倍する機能が高級機には付くようになりました。
リードアウト対応と書かれたプローブのBNCコネクタの縁には,バネの付いているピンが1つ出ています。一方のオシロスコープのBNCコネクタ側にも工夫があって,コネクタの付け根の部分が,GNDの外側にもう1つ,GNDから絶縁された金属部分がぐるっと一周しています。
プローブを繋ぐと,プローブ側のピンがこの金属部分に接触し,1:10プローブがつながったことを伝えます。
もう少し具体的に書くと,このピンとGNDの間は約10kΩの抵抗でつながっています。オシロスコープはこの2つの間が10kΩになっているかどうかを見て判断しています。ちなみにGNDにつながると,ID表示といって,そのプローブの信号が水平方向に1divだけむくっと上がります。
プローブにスイッチをつけておけば,プローブと表示の対応を確認出来るわけですね。多チャネル入力可能なオシロスコープでは便利な機能です。
話を戻すと,私の2465AはCH2だけこの機能が働かないようになっていました。きっとメイン基板を取り外してコンデンサの交換を行ったときに,コネクタをつけ忘れたか部品を壊したかしたのでしょう。
とりあえず回路図とマウント図を見ます。
プローブの検出を行う端子から,CPUがのったコントロール基板に配線が伸びていますが,面白い事にCH1とCH3,CH4は直結されているのに,CH2だけコイルが入っているのです。L200という番号のコイルがそれで,2.45uHという値が書かれています。部品の故障があるとすれば,これがくさいです。
あるいは,BNCコネクタの近くにある端子から基板へは,4ピンのコネクタを介してメイン基板につながっています。このケーブルを差し込み忘れているのかも知れません。
2465Aのケースをあけて,メイン基板を覗き込んでみます。まず最初に確認したのはコネクタの挿し忘れですが,これは問題なしです。ちゃんと刺さっています。
ということは,部品の故障による,断線かショートです。
L200の周辺は,CH3のコネクタと基板との配線などでややこしくなっています。ショートがないかどうかを確認しますが,それは大丈夫でした。そこでL200の両端をテスターで当たってみると,案の定断線しています。これが原因のようです。
しかしなんで断線するのかなと思ってよく見ると,L200の近くには,基板固定用のナットがありました。そういえば,基板を外したり固定したりするのに,小型のペンチでこのナットを挟んで回したんですよね。その時,ペンチの角をなにか近くの部品にぶつけて,傷つけてしまったことを思い出しました。
その部品が運悪く,このコイルだったようです。
L200というコイルは,ベークライトの棒の表面に細いウレタン線を巻き付けて,表面をワニスのようなもので固めてあるだけの簡単な構造です。表面にかたいものが当たれば,簡単にウレタン線が切れてしまいます。
こういう時は,ドナーとして存在する2445から同じ部品を外して交換です。
早速2445を分解してL200を探します・・・が,見当たりません。
どうも,2445には,コイルが入っていないようです。CH1からCH4まで,全部直結されています。2445の方が世代が古いですし,2465Aになったときに追加された対策部品なのかもしれないです。
交換部品が手に入らない以上,別の手を考えるしかありません。2445では直結ですし,所詮コイルですので,もう面倒だから直結するという手はあります。どうしようもなければ,この手で行きましょう。
しかし,わざわざCH2だけ追加された部品ですから,必要なものなのでしょう。測定系に入っているものではないので精度には関係なさそうですが,出来ればL200は温存したいです。
ならば,コイルそのものを修理することにします。
コイルという部品は私は今ひとつ馴染みがないのですが,部品として見た時には極めて単純で,コンデンサや抵抗,半導体と違って,ほとんど唯一そのものを修理出来る部品ではないかと思います。なにせ電線を巻いてあるだけの部品ですし,壊れる理由はほとんど断線ですし。
ということで,基板からL200を取り外します。ああ,なるほど,ペンチがぶち当たって,巻線を傷つけていますね。ウレタン線をよく見ると切れているようで,ピンセットで引っ張ると,そこからクルクルとほどけてしまいます。
切れた部分をほどいてしまい,切れていない部分を片側のリード線にハンダ付けします。テスターであたると,めでたく導通しています。念のためLCRメーターで確認すると,約2.0uHと出ます。ちょっと減ってしまいましたが,まあいいでしょう。
この部品を元のメイン基板に戻して,組み立てます。電源をいれて動作を見たのですが,やっぱり10倍の値になりません。あれあれ,おかしいなあと思って再度確認すると,コネクタが逆に刺さっています。
いやー,素人丸出しですね。すぐに戻して確認すると,今度はちゃんと10倍の値になりました。
今度こそ大丈夫でしょう。
プローブのことでいろいろ考えたのですが,前回の電源スイッチの修理の時に購入した秋月の500MHzのプローブは,2本セットで買ったのに残念ながら1本は断線しています。
350MHzのオシロスコープですし,実際には250MHz,あるいは200MHzのプローブでも十分だと思うのですが,それらの安価なプローブというのは,リードアウト対応ではありません。せっかく表示を10倍する機能があるのに,これが使えないのはかなり不満です。
デジタルオシロの時代になりましたが,安価なものはプローブの検出機能はないようですし,高級機種はもっと複雑なことが出来るように,多ピンになっています。
考えてみると,繋いだプローブに合わせて自動的に10倍することまでは必要なくて,手動で10倍にするか1倍にするかを設定出来ればそれで十分です。安価な機種では,そうそうプローブを交換したりしませんし,付属の10:1プローブを繋ぎっぱなしにするのですから,それで全然構いません。
一方の高級機種は,ほとんど専用のプローブといってもいいです。広帯域はもちろんですが,アクティブプローブ用の電源供給に始まり,私がかつて使った高級機では,プローブごとにフルカラーLEDが埋め込まれていて,画面の輝線の色に光っていました。
一見して便利そうですが,プローブなんてのは消耗品ですから,1本10万円もされると破産します。アマチュアにとっては,初期投資も大事ですが,維持費がかかることはもっと大変ですので,安価なプローブが普通に使えることが結構ありがたいだけに,手動で設定を切り替える方式で落ち着いているのは,理にかなっています。
ということで,手持ちのリードアウト対応プローブのうち,壊れていない500MHzのものと,15年ほど前に1万円で買った250MHzのものを常用し,ここぞと言うときには純正のP6137を使う事にしました。
CH3とCH4は使用頻度も低く,垂直軸も2レンジしかありませんので,安い200MHzのプローブをリードアウト対応に改造して使う事にします。BNCコネクタのGND側を少し削って,ハンダをもります。
ここにチップ抵抗の片側をハンダ付けし,もう片側には銅のバネをハンダ付けします。長さをうまく調整して完成ですが,これが案外うまくいきます。おかげで全部のチャネルがリードアウト対応になりました。
私が主力として使っているHPの54645Dも,このタイプのプローブなんですね。54645Dの帯域は僅か100MHzです。ここに500MHzクラスのプローブは,いくらリードアウト対応の必要があるとはいえ,もったいないです。
幸いなことに,54645Dには減衰率を手動でセットできるようなので,リードアウト対応でなくてもなんとかなりそうです。よかった。
さて,夏の測定器祭り,まだまだ続きます。