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2021年06月の記事は以下のとおりです。

いつかはジューキ

  • 2021/06/28 15:11
  • カテゴリー:散財

 うちのミシンを買い換えました。

 これまでのミシンは,嫁さんが独身時代に買ったシンガーの機械式の卓上ミシンです。ぱっと見たところ,そんなに安物ではなく,それなりに良いものであったみたいです。

 本人は刺繍は好きだがミシンはダメ,といって憚りませんが,ならなんでわざわざ買ったのか不思議ではありますが,とにかく買ったミシンはそんなに悪いものではなさそうです。

 ただ,さすがに20年も経過していますし,その間の稼働率も低く,同左音もあまり良い音がしません。頻度が低いことは嫁さんの言い分によると,あまり使い勝手が良くないらしく,まず糸通しが面倒,糸のテンションの調整が難しい,というあたりでくじけてしまうそうです。

 私の母親はテーブル付きの本気のミシンを使いこなして自分の洋服を作るのが趣味だった昭和の女性だったので,ミシンはそれなりに良いものを使っていました。(調べてみるとブラザーのペースセッターでした)

 私は裁縫は好きではありませんでしたが,それでも市販品に気に入ったものがないという理由で筆箱や巾着袋くらいはさっさと作っていましたので,ミシンの使い心地については全くわからないわけではません。

 昨今,巣ごもりということもあってミシンもよく売れているそうです。そんな中,子どものの持ち物を縫ってあげられる程度の安価なミシンが話題となっていて,なかなか評判もいいようでした。

 そこで嫁さんに買ってあげようか,と水を向けると,ぜひぜひ,という前向きな返事。嫁さんとしては,ミシンは欲しいけど機種選択が面倒くさい(これは実際やってみて辟易しました)ので,それをやってくれるのが助かるということのようです。

 なら結構,「私」がよいと思うミシンを使ってもらおうじゃないかと,ミシン購入プロジェクトがスタートしたわけです。

 ミシンというのは,かのシンガーが始め大成功をおさめた月賦販売がビジネスモデルとして定着していて,工業製品としての面白さと同時に,販売面でも特別なものです。家電品のように多くの製品から比較して選んで買うと言うより,メーカー直販のお店で,分割払いから修理まで全部ひっくるめて,セールスマンから買うというのが普通です。

 こういう買い方だと,売れるミシンは客が欲しいミシンではなく,セールスマンが売りたいミシンになりがちで,このあたりがなかなか胡散臭いのです。

 もちろん,自分で選んで買っても良いのですが,そういうイレギュラーな買い方にメーカーは冷たく,価格に釣られて買った天罰とばかりに,相手にしてもらえないことも耳にしました。

 最近は直販店やフランチャイズのお店が減っていますし。そもそも市場が小さくなっていることに加え,量販店や通販が力をつけているのでそんなこともないのですが,高額商品でしたし,修理して末永く使うものだっただけに,一生に一度の買い物で客の経験値も上がらず,胡散臭いまま100年が過ぎたという事ではないでしょうか。

 今回も,いつものように通販で買うことにしました。

 なんでも,子どもの入園や入学をきっかけに,親が手作りに挑むことがきっかけでミシンを買う家庭が多いようで,その時の価格帯は直線縫いの安いもので2万円くらい,ジグザグで4万円くらいのものが中心なんだそうです。
 
 で,6万円とか7万円になると経験者がステップアップのために買ったり,本気でミシンをやろうと思った人が考えるようになるらしく,家庭用ミシンとしては10万円くらいまでが一区切りになるようです。

 てことで,まずは欲しい機能です。うちは洋服を作るような高度なことはしませんし,複雑な刺繍もやりません。まして任意の画像を刺繍するような面白そうな機能も欲しいとは思いません。

 よって基本的な直線縫いとまつり縫いなどのジグザグ,ボタン穴くらいでOKです。ですが,薄い生地から厚手のものまで難なくこなす力は欲しいので,送り機構と押さえにはこだわりたいところです。

 送り機構は楕円で動く送り歯では安定した送りが出来ません。ここは工業用ミシンと同等の直線的に送る機構が欲しいです。当然ですが7枚刃でしょう。

 押さえのバネ圧を可変する機構は様々な生地の厚さに対応するために必須ですが,この機能を持つ機種は少ないです。そういえばペースセッターには付いていました。

 そして,しっかりした押さえを支える,筐体の剛性も重要です。歪む,たわむが起きてしまうと,目が揃いません。ということは,ある程度の大きさや重さは許容されるということです。

 最後に,これらをなんなく駆動するパワーも必要でしょう。パワーが大きいとそれだけ筐体もしっかり作らないといけないですが,これらは自動車やカメラなんかにも共通する,およそメカものにはついて回る話じゃないかと思います。

 意図のテンションを自動で制御する機能は初心者向きかと思っていたのですが,初心者が選びそうな安価なミシンには搭載されておらず,このあたりに矛盾を感じつつも,高価格のミシンに経験者を誘導する手段になっていると推測。いってみればプロ用のカメラに最高性能のAFとAEが惜しげもなく搭載されるようなものかも知れません。

 それからフットコントローラは必須です。両手があくことは仕上がりや安全にも直結します。手で速度を可変する仕組みは,速度の調整をどうしてもしなくなりがちです。速度を細かく調整してこそ,短時間で高品質な縫い物が可能になります。(とはいえ,速度や負荷の変動に対しても常に一定の縫い目を実現するのは,なかなか難しい事なはずです)

 ということで,大体の姿形が見えてきたところで,メーカーです。日本はミシン大国で,家庭用ミシンでは多くのメーカーが存在していますし,工業用ミシンではほとんど日本製です。

 家庭用ではブラザー,ジャノメ,シンガー,ジューキあたりが大手なのですが,ここは私の好みでジューキからまず探してみましょう。ブラザーもジャノメも良いものですし,シンガーもOEM元はしっかりしていますので,なにも問題はありません。

 家庭用を中心としたメーカーばかりですので,むしろ家庭用のことをよく知っているだけに,安心という話もあるでしょう。しかし,ここは,工業用ミシンで高いシェアを持つ,プロの道具であるジューキを選んでみましょう。

 ジューキは工業用ミシンで圧倒的な力をもつメーカーですが,家庭用としては今ひとつ目立ちません。高いとか直販店が少ないとか,そもそもメーカーが力を入れていないとかいろいろあったと思いますが,ここのところは家庭用にも力を入れており,特に専門学校などで服飾を学んだ人たちからご指名を受けるブランドだそうです。

 個人的にもジューキにはちょっとした憧れがあり,死ぬまでに一度は使ってみたいなと思いつつ,きっと一生縁がないんだろうなと思っていましたが,こうしたきっかけがあった以上は,やはり少々問題があっても選びたいものです。

 大した問題ではありませんが,ブラザーにしてもジャノメにしても,丸っこいデザインでかわいらしいこと,家庭らしいことを狙っているような感じがします。でもなんかちがう,もっとストイックに,工作用の機械工具であることを狙って行きたいのです。

 可愛いから,丸いから女の人向けというのは私は違うと思っていて,そんなものに男も女もありませんから,機能を追求した結果この形になった,と言う機能美こそ,ミシンのような複雑な機械にはあってしかるべきと思っています。

 予算に近いものは,ジューキからだとHZL-G100シリーズということになるのですが,5万円を越える割には,本当に基本機能だけのシンプルさです。致命的だったのは糸のテンションが自動ではないことです。この段階でこの機種は候補から外れます。

 とはいえ,他社のミシンでもテンションが自動のもので,かつ押さえのバネ圧が可変のものは7万円近いものになってきますから,その価格帯でジューキをもう一度探します。

 見つかったのは,HZL-VS200です。

 名機と誉れ高いHZL-F400JPからあまり重要ではない機能を削減し,価格を下げた下位機種として誕生したもので,実勢価格は7万円ちょっと。F400JPは古い機種なのでもう売っているお店も少ないのですが,価格は20%程高くなりそうです。

 うーん,確かにF400JPは機能も十分だし,液晶もドットタイプでバックライト付き,テンキー操作で使いやすそうです。

 VS200はF400JPから刺繍のパターンを減らしたこと,LCDをセグメントにしてバックライトなくしたことが一番目立つ変更で,あとは2本針の対応がないこと,ボタンホールのメス幅が可変出来ないことが違いですが,あとはすべて同一です。

 LCDは残念で,バックライトは実際に使い出すと不便だなあと思うようになったのですが,まともそうなお店で安く買えるという魅力に惹かれ,68000円にポイント3000円分で購入しました。

 ちょっと使ってみたのですが,思わずうーんと唸るほどの機械です。久々に夫婦で大喜びの買い物となりました。

 下糸をボビンに巻き取るのも専用モーターでスムーズ,次に上糸をかけますが,自動糸通しが便利でもう手放せません。

 縫い初めに下糸を引っ張り出す作業も必要なく,テンションの調整もいりません。もう何もせずに,いきなり縫い始める事ができます。

 押さえを卸してペダルを踏み込み,縫い始めます。

 抜群の精度と安定性,そしてゆとりあるパワーとこれを受け止める剛性感の高さがまず伝わって来ます。

 速度を可変しても送りは安定し,目は綺麗に揃っています。直線縫いはその名の通り直線が縫えなければなりませんが,歪みが少なく精度が高い事もあり,手を離しても曲がって進もうとはしません。直進安定性は抜群です。

 そして自動糸切り。こんなものはおもちゃtのようなものだと思っていましたが差にあらず。とても便利で,作業が捗ります。工業用ミシンに自動糸切りが搭載されたことで生産性が大幅に改善され,衣料品の価格低減に貢献したという話があるんですが,まさにそれを実感しました。

 縫い終わりは必ず針が下がった位置で止まります。これも非常に便利です。

 次は,自動止め縫い糸切り機能を試します。縫い初めにこのボタンを押しておくと,最初に返し縫いと行ってくれます。そして縫い終わりには返し縫いボタンを押すと,自動的に返し縫いを行い,止まった後に糸切りまでやってくれます。いやこれ,もう超便利ですよ。テンポ良く縫い物が進みます。

 糸のテンションも自動で全く問題なし。操作も含め,全く問題なく試し縫いが終わりました。

 F400JPとの比較で,やっぱり残念だと思った事もあります。一番大きいのは液晶で,バックライトがないために作業性が落ちます。やはりバックライトは必要だと思います。

 セグメントLCDでも実用上は問題ないのですが,ドットタイプのF400JPでは糸を通す順番をLCDに出してくれます。いちいち取説を引っ張り出すこともないので,欲しいなと思った機能です。

 あとはジグザグの基線を変更出来る機能もいいなと思います。もちろん計算すれば問題はないのですが,ちょっとした勘違いがあったりすると失敗しますし,縫い物によっては基準線が中心よりも左端にあった方がいい場合もあると思います。

 あとはボタンホールのメス幅です。実際に困ったことはまだないのですが,ボタンの厚みに応じてメス幅も変えられた方がいいわけで,ここはもしかしたら公開する部分かも知れません。

 F400JPとの比較ではありませんが,重いし大きいことは,ちょっと女の人には厳しいかも知れません。それからケースですが,全体をすっぽり覆うのではなく,上面は本体から出ている取っ手が飛び出すために,大きく切り欠いてあります。ここから誇りが入り込むわけですから,現実にはホコリを防ぐ機能はありません。

 そういう細かい事に不満があるのは,本体の基本機能にこれほどの完成度があることを考えると,家庭用に特化したメーカーではないからかも知れません。

 ということで,今回の買い物の結論,ミシンは60000円以上のものを買うと幸せになれるということ,そして基本機能がしっかり作ってあるものを選ぼうという事です。見た目のかわいらしさや刺繍のパターンの面白さや数に惑わされてしまうと,本当に使い心地の良いものに巡り会えず,そのうちミシンを使わなくなってしまうかも知れません。

 道具は手に馴染んでこそ,いい仕事が出来ます。だからこそ自分の手に馴染んだ道具はお金を出しても買えない財産であり,壊れてしまってはまた何馴染むところからやり直しです。

 そう考えると,手に馴染むもの,そして壊れず長く使えるものが,道具には求められると言えて,それは高価なものとは限りませんが,安いものは例外なく,何かに我慢を強いられるものです。

 ミシンこそ,安物はダメだと思いました。そうそう何度も買い換えるものではありません。出せる予算よりもワンランク上を,ちょっと無理して買うべきだと感じた買い物でした。

 

AMラジオの役割

 先日,民放ラジオ各社がAM放送をFM放送に転換するという発表を行いました。
テレビのニュースでも報道されていたくらいなので,impressなどのインターネットメディアでも詳しく報道してくれるかと思っていたのですが,案外静かなもので,注目度の少ないニュースとして流れていってしまいそうな感じです。

 AM放送の設備はFM放送に比べて大規模で,設置も維持もお金がかかるというのは本当の話ですが,その代わりサービスエリアは広く,受信機が簡単で済み安いですから,多くの人に聞いてもらえます。つまり,全国共通の内容が中心になるということです。

 それに,なんといっても,とても貴重な中波という周波数帯です。ここは国際的にも放送波に割り当てられていて,簡単に手放すというのはもったいないかもなあと思ってしまいます。

 FM放送はVHF対を使いますので,見通し距離しか電波は届きませんからサービスエリアは小さくなりますし,だから出力も小さく,設備も小さく済みます。だから,FM放送は地域ごとに放送局や番組内容が異なっていて,地域色が豊かなのです。

 ただ,そういう特徴をもってしても,昨今のラジオ放送の経営環境は厳しくなっていて,公共性の高いラジオ放送であっても,経営判断が必要になっているということなんだと思います。

 すでにFM補完放送というわかったようなわからんような名前で,AM放送と同じ内容をFMでサイマル放送する仕組みが続いているわけですが,これもAM放送の設備の重さに耐えられないという放送側の都合の結果始まったものと記憶しています。

 そういう背景がありつつ,結局2028年にどうなるかというと,全国の民放各局はFM放送に移行します。ただ,直ちにAM放送を停波するということではなく,当面は同時放送という形を取るようです。

 ただし,秋田県と北海道についてはサービスエリアが広いためFM放送への移行はせず,現状のままとなりそうです。また,NHKについても2023年にAM放送を1波に集約してからは当分AM放送を維持するという事になっています。(NHKはつい最近放送設備を更新したので,停波する理由もありません)

 厳しいのは在京大手の3社で,ここは免許の更新年にあたる2028年にAMも停波することを目指しています。ただ,その段階でFM補完放送に対応したラジオ(90MHzから108MHzまでが受信出来るラジオ)が今のAMラジオなみに普及しているかどうかが問題になるはずで,停波した結果リスナーが減ったとあればスポンサーも離れていってしまうでしょうから,慎重に判断することになるでしょう。

 ただ,VHFは遠くに飛ばなくても,インターネットは遠くに声を運びます。FM放送の中継局に音声を配信する仕組みがある現在,FM放送のサービスエリアは十分に広いと考えるのも,正しいかも知れません。


 ここでちょっと考察してみます。

 なんでこのタイミングでこんな話が出てくるのか。もちろん2028年に免許の更新時期を迎えることや,設備の老朽化の問題が避けて通れないこと,リスナーの減少で経営環境が厳しい事もあると思いますが,それにしても「今」浮上する話としては今ひとつ説得力がありません。

 思い出されるのは,VHF-Lowと呼ばれる周波数帯の,総務省の失策です。もともとここはアナログテレビの1chから3chに割り当てられていたのですが,地デジへの移行によって空き地になりました。

 非常に貴重な周波数帯なのでいろいろな活用法が考えられたのですが,きっといろいろあって結局東京FMの子会社が「デジタルラジオ」放送を行う事になりました。これが大コケにコケて会社は清算,周波数帯は返上という話になったのでした。

 このまま一等地を空き地にするわけにもいかず,総務省もはやくなかったことにしたいということで,新しい技術開発の必要な用途ではなく,手っ取り早く有効活用できる(したように見える)FM放送の拡張を行い,ここにAM放送を移籍させることにしたんじゃないかなあと思っています。

 なんだか,AM放送各社が自分たちの都合でFM放送にするという話になっているようですが,実のところ総務省の強い意向があったんじゃないかと,まあそういうわけです。

 考えてみると,AM放送とFM放送では,なにからなにまで違います。もし総務省がそれぞれの放送局に「同じ事が安く出来る」などといってそそのかしているのだとするなら,総務省はどれだけラジオ放送を軽視しているのかと思います。ああ,かつて頼もしい(かつ怖い)存在だった郵政省はどこにいったのでしょう。

 当然,教育テレビは無駄とかAMを2つも持つのは無駄とか,FMなんかやめてしまえといっている識者といわれる人々の声に推されて,当然NHKにも同じような圧力をかけているのだろうと想像出来ますけど,それでも当初の予定通りAMは1波にして続けますと言い切るんですから,NHKよくやったといってやりたいです。

 それから,これは私が一番懸念することなのですが,ラジオの自作がもう出来なくなるなあということです。FM放送では,電池を必要としないゲルマラジオを作る事が現実的に出来ません。

 本来電波を受信して復調することに電源を持つ事は必要なく,電波それ自身がエネルギーを持っていることを,ゲルマラジオは教えてくれます。グルグルと巻いたコイルにバリコンとダイオードと抵抗,そしてイヤホンがあれば電池もいらないラジオが出来上がるというのは,電気がないと動かない家電製品に囲まれた子どもたちを驚かせるのに十分なのです。

 それほど簡単な仕組みでラジオが完成するのは,これはいってみれば放送局側が負担してくれているからでもあって,FMラジオが安くなかった時代においては,この受信機の簡便性というのはとても大きなメリットでした。

 AMラジオは実用的な回路でも規模が小さく,自作にもってこいです。いまさらラジオを作る子どもがどれほどいるのかわかりませんが,自分で作ったラジオが市販品と同じ放送を受信して音声を出すその瞬間を目の当たりにすれば,そこに感動が生まれることは間違いないと思います。

 前述のゲルマラジオの始まり,トランジスタを減らしたレフレックスラジオ,かつての定番6石スーパー,ICを使ったストレートラジオ,果ては真空管を使って作る事も出来ます。でも,AMラジオに比べて回路の複雑なFMラジオを作るには,現実的にIC以外の選択肢はありません。

 殊更ラジオや無線の対するノスタルジーを協調したいわけではありません。ただ,FM放送に移行し,AMラジオが「ゴミ」になってしまうような時代になると,ラジオの自作はもう行われなくなってしまい,過去の文化になってしまいます。

 電子工学がとかモノづくりがとか,決して大げさな(かつありがちな)話では無く,夏休みの工作の選択肢がまた1つ減ってしまうという小さなレベルでも,私はとても残念な事に思えてならないのです。

 FMラジオにもキットはあるよ,という方の声も聞こえてきますが,それらは残念ながら,主要な回路は組み立てと調整まで済んでいる事がほとんどです。はじめてハンダゴテを使う人に,FMラジオの回路の組み立ては難しく,調整に至っては手も足も出ないものです。

 基板をネジ留めしてFMラジオを作ったことに出来るなら,どんなものでも手作り可能と強弁できます。ですが,それはAMラジオの自作とは根本的に異なる世界である事に,我々は気が付かねばなりません。

 そしてもっとも大切な事として,なぜ自作したラジオから音が出るのか,というラジオの仕組みを考える際,はるかに複雑なFMラジオの仕組みはAMラジオのように簡単に理解出来ないのです。

 作っておしまいなら,プラモデルと同じです。作る事をきっかけに学ぶことは,FMラジオでは難しいといわざるを得ません。だからAMラジオなのです。

 NHKだけでも残ってくれて良かったと思います。全国で放送が行われますので,地域によってAMラジオを自作する意味があったりなかったりするという差がなくなります。私はこの1点でNHKに受信料を払う理由があると思うほどです。

 AMラジオを維持するにはそれなり体力が必要であることは承知しているので,民放各局に期待はしません。ただ,NHKともう1社,どこか大手がしっかりとAM放送を続けてくれることを,望みたいと思います。

 総務省がまたスケベ心を出して中波帯で新サービスを考えついて,また哀れな民間会社が天下り先という使命を帯びて作られては消えてを繰り返すのは,もうみたくありません。

 

デジットの味をご家庭で

 大阪日本橋の電子パーツのお店,デジットが6月で閉店することになりました。

 閉店と言っても入居していたビルが老朽化のため取り壊しになり,移転することになったということなので心配することはないのですが,1980年代から変わらずあの場所で営業していた老舗ですし,私もよく通い,日本橋の巡回ルートに入っていたことはもちろん,あげくアルバイトまですることになったほどですから,感慨もひとしおです。

 昔話は程ほどにしておきますが,当時は新品の部品などほとんどなく,訳ありのジャンク品が所狭しと並んでいて,まあ次に買うわと店を出たら最後,同じ物には二度と出会えないという,非常にスリリングで面白いお店でした。

 折も折,ちょうど消費税が導入された時期ですが,同じ商品がシリコンハウスで買うと消費税がかかるのに,デジットで買えばかからないということで,消費税分だけ安く買うことの出来るというノウハウは,当時のマニアの間ではよく知られたことでした。

 リースの終わった汎用機やオフコンからCRTやFDDを外してきて,これを安価に販売する貴重なお店でもありましたが,とにかく当時の店長さんがその道に詳しく,1つ1つの商品に技術的な根拠を持って売っていたことが思い出されます。

 彼とは,それはもうたくさんのエピソードがあって,それぞれが10代だった当時の私の人間形成に大きな影響を与えていると思うのですが,秋葉原に行ったことがなく,もっぱら秋月電子で通販をすることを楽しみにしていた私に,昔の秋月はこんなもんじゃなかった,いつかうち(デジットですね)もあれくらいになれたらな,といっていたこともありました。

 果たしてデジットは全国区の電子部品店となりました。

 そんな私の知るデジットもこの6月でとうとうお別れです。そう,シリコンハウスも大きなお店になっていますが,私の知るシリコンハウスは東海電子の2階と3階であって,そこから移転してしまった現在のシリコンハウスは,私にとって新しく出来たお店に近いのです。

 おそらく,新しいデジットはもっと大きくもっと小綺麗になるでしょう。それはそれでとても良いことですし,私も愉しみなのですが,私の「デジット」が永遠に消えてなくなることには,やはりさみしい気持ちが大きいです。ああ,歳は取りたくないですね。

 とまあ,そんなデジットがファイナルセールを3月からやっています。いよいよ6月になり,セールも最終段階に入っているのですが,これまでもジャンク屋らしく,入っている数が多いかわりに,1つあたりは無茶苦茶安いものばかりが並んで,私もめぼしいものがあったときにはメモを取っていました。

 そして先日,いつか出るだろうと思ってずっと待っていた商品が登録されます。そう,「デジットセレクション ランダム部品箱」です。

 これぞジャンク屋の真骨頂。お値段は500円で,一人2個までの限定です。

 まず,ジャンク屋というのは,精機の部品屋さんと違って,仕入れのルートが多彩です。正規ルートなら注文できないような部品も入荷したりします。

 それから,訳あって廃棄されたものが流れてくることがあります。カスタム品などが大量に入ってきます。部品に限らず基板や完成品も流れてきます。

 再生品や廃棄物からも,使えそうなものが商品になりますが,いずれも共通するのは,正規品よりも極端に安いと言うことです。

 そんなお店の福袋ですからね,面白くないわけがありません。

 他に欲しいもの,例えば500個入りのLED(500円)を3袋とか一緒に買って,今日その「デジットセレクション ランダム部品箱」が2箱届きました。

 中身を細かく公開するのはルール違反なのでやめておきますが,少しだけ入っていたICやLSIについては,ちょっとここと紹介してもいいかなと思います。なかなか面白いものが入っていましたよ。

HD637B01X0P
 日立の8ビットワンチップマイコンです。SDIPの64ピンで,多ピンのマイコンとしてはよく使われた68系のCPUです。ただしマスクROM品なので,自分でプログラムを書いて使うのは絶望的,残念ですがゴミです。

Z8 BASIC Z0867108PEC
 これはあたりかも。Z8671,Z8 BASICです。Z8はザイログの8ビットCPUなのですが,ワンチップマイコンとしての印象が強いせいで私には馴染みがありません。そんな中でも異色なのはこのZ8 BASICで,内蔵ROMにBASICインタプリタを書き込んであり,RAMを繋げばBASICが動くそうです。

TC5054
 東芝のTC5000シリーズのCMOSで,4桁の10進カウンタ/7セグデコーダ/ドライバです。東芝はRCAのCD4000シリーズが出た当時,独自のCMOSプロセスにC2MOSという名称を与え,大々的に展開をしていました。モトローラがMC14500シリーズというオリジナルを開発したのと同じように,東芝はTC5000シリーズをオリジナルとして開発していました。TC5000シリーズはCMOSらしく大規模なLSIを揃えていたのですが,TC5054もその1つ。10進のカウンタを4桁,ダイナミックスキャンの7セグメントLEDのデコーダとドライバを内蔵し,ワンチップで4桁のカウンタを作る事が出来たLSIです。

TMP47P440AN
 東芝の4ビットワンチップマイコンです。正確なことは調べていませんが,型番からおそらくワンタイムPROMを内蔵したものだと思います。類似品種を調べると32kbitのROMらしく,2764と同じ方法で書き込みが出来るとあります。

HM62256LP-12
 言わずと知れた,日立のCMOS SRAMです。256kbitですので,1980年代中頃にはとにかく目にすることの多かったSRAMです。

TC8801N-0903
 東芝のASSPで,なんと音声合成LSIだそうです。内蔵のマスクROMに書き込まれた音声データを再生するものなのですが,名前の「-0903」が示すとおり,どこかの製品用に音声データを書き込んだ訳あり品です。音の出し方はわかったので再生してみても面白いかも知れません。

LH52256N-90LL
 これも256kbitのCMOS SRAMです。シャープ製のSRAMも当時はよく見ました。これはフラットパッケージのものなので,同社製のポケコンでもおなじみです。

TC9217
 東芝のラジオ用のICで,データシートにはPLLとあります。おそらく海外のデジタルラジオ用じゃないかと思うのですが,よく分かりません。

T3605
 東芝の時計用のLSIです。デジットではかつて,専用のVFDとセットにして販売していたことがあるようです。自動車用の時計に採用された定番品らしいです。たくさん入っていたのですがVFDがないので,使うには一工夫が必要でしょう。ただ,この手の時計用ICは絶滅していますし,7セグメントのスタティックドライブが出来るものは特に貴重です。

MB74LS30
SN74LS32
HD74LS145
SN74LS74
HD74121
DM7414
 TTLですね。特に注目するようなものはありませんが,ナショナルセミコンダクタのDM7414が懐かしいパッケージで出てきたのが,個人的には興味をそそりました。

TC35300
 DTMFレシーバです。プッシュホンのデコーダも1980年代に流行って,電子工作の定番だったものですが,今どき若者はDTMFの音など聞いたこともないでしょう。

MB88331
 富士通のNTSCシンクジェネレータです。かつて秋月電子の定番キットの1つ,ブルーバックジェネレータにも使われていたので知名度もあると思います。しかし,アナログテレビが絶滅し,NTSCの信号もほぼ消えた現在,このICにどれほどの意味があるのか疑問です。

TC74ACT02
 東芝の汎用ロジックで,ACシリーズです。まあ,ACとはいえ汎用のCMOSロジックですので,なにかに使えるでしょう。

TL497
 TIのスイッチングレギュレータICで,定番中の定番です。これは5つ手に入りました。

S2924
 メーカーは不明ですが,シリアルEEPROMです。おそらく128ビットでしょう。

PC725V
 シャープのフォトカプラです。通信用ではなく,スイッチングレギュレータに使うような絶縁用のようです。

PIC12C509
 PIC12シリーズです。名前の通りワンタイムROMです。20年ほど前はホビーストの間でもよく使われた8ピンのPICですが,今はもう全然見ませんね。私もPICは16F84ばかりでしたので,PIC12は使った事がないのですが,そもそもこのPIC12C509,書き込み済みだったらただのゴミです。


 というわけで,とても楽しく部品の仕分けをした結果,IC/LSIは以上のものが入っていました。もちろん,これ以外の部品もたくさん入っていましたし,値打ちのあるものはむしろそれ以外だったりしたのですが,見た目では判断出来ない半導体は意外なお宝だったりするかもしれないというワクワク感が楽しくて,これを肴に飲み会をやったら盛り上がるだろうなと思いながら,仕分けをしていました。

 使ってみようと思ったのはZ8 BASICとT3605,そしてTC5054くらいで,強いて言うならどんな音が入っているのかを確かめるためにTC8801を一度動かす位のものでしょうか。

 でも,この感じがデジットです。あのデジットの味をご家庭で,なのです。いやはや,満腹になりました。

 

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