aitendoで買い物をした際に,懐かしさのあまり6石スーパーラジオのキットを一緒に買いました。
いや,懐かしさのあまり,というのは2つの点で誤りですね。1つは,私は6石スーパーを作った事がないし,子供の頃からあまり興味もなかったので,過去に作ったという懐かしさはありませんでした。
もう1つは,20年前からずっと同じようなキットが今でも普通に買えるので,仮に懐かしいと思ったとしても,それがこのキットを買う理由にはなりません。
細かい事はさておき,私は電子工作を趣味にしながら,ラジオをまともに作った事がないことが1つのコンプレックスにしていて,特に調整が必要なスーパーラジオを完成させたことがないことを,負い目に感じています。
しかも,小学6年製の時に,3石スーパーを本を見て作ろうと部品を集めたのですが結局完成できず,部品も散逸してしまったことがあるだけに,失敗という汚名も背負っているのです。
そんなわけで,この失敗という経験を思い出し,今こそリベンジだ,今なら調整も含めて完璧に仕上げられる,と息巻いて購入したと言うわけです。
しばらく放置し,ようやく先日から作り始めましたが,これがなかなかくせ者で,とても大変なキットである事がわかりました。初心者お断り,中級者も妥協が必要,まさに定数の見直しだけではなく回路形式の変更も厭わないような。上級者向けのキットだと思います。
・回路図がない,配線図がない
まずなんといってもこれ,回路図も配線図も,組み立て方を書いた説明書も入っていません。aitendoはコスト削減のためWEBからダウンロードせよ,といっていますが,やっぱりキットですし,子供も買うでしょうから,せめてこの手のキットくらいには,説明書を入れて上げられないものかなあと思います。
ちなみに,私のキットにも,ケースに張り付ける周波数表示のシールが入っていませんでしたが,なんでもこれは注文時にお願いしないと,ついてこないんだそうです。なんか,そういう役所のような対応って,子供には厳しいと思いますよ。
幸いにして,先人達の記録が広大なインターネットの海に漂っていて,google先生に聞けば探し出してくれます。私も回路図などの情報をネットから入手しました。
・ケースの仕上がりが悪すぎる
これはもう中国のクオリティなので仕方がありません。気の毒だと思うのは,このクオリティしか知らずにいる,中国国内の人々だと思います。良いものを安く作ってみんなを幸せにするという大きな夢は,特にこれから頑張ることになる国や地域の人々には,ぜひ持っておいて欲しいものだと,私は思います。
まあ,多少の事は辛抱する私ですが,これはひどいですね。自分でケースを探してきて加工した方がいいんじゃないかと思ったくらいです。
・回路と部品の仕様が不明
回路図も説明書もないので当たり前の話ですが,部品の素性がわかりません。トランジスタも中国仕様,バーアンテナもバリコンもIFTも,トランスも全くどんなものかわかりません。
基板のシルクを見ていれば組み立てられるように思いがちですが,なんとまあ低周波用のトランスは3ピンずつ合計6ピン出ているもので,どちらの向きにも取付が可能です。
向きを間違えれば全く音が出ませんので,ここは初心者には厳しいでしょう。よくよく見ると,2次側に印付けておいてくれてあるので,これに気が付けばいいのですが,わかりにくいので向きを間違えて取り付けてから気が付く可能性は高いでしょう。
もう1つ気が付いたのですが,普通IFTは,1段目から順番に黄色,黒,白の順番になっています。IFTの帯域は1段目が一番狭いので,調整は1段目から順に行うのが普通です。
しかし,このラジオは,1段目が白,2段目が黒です。(中間周波増幅が1段しかないので,IFTは2つしかない)
だから,調整も白が先,次に黒となりますが,なんで順番が違うのかなあと,不思議でなりません。
私の場合,さすがにトランスの向きと,バーアンテナの線だけはテスターで導通だけ調べましたが,あとは行き当たりばったりで組み立てました。
・6石スーパーの標準回路ではない
それでも,よく見かける6石スーパーの回路ならなんとか完成させることが出来るかもしれません。しかし,この6石スーパーは,6石とは言いながらも標準的な回路構成とは違っています。
よくある6石スーパーは,局発に1石,ミキサに1石,中間周波増幅は2段で2石,検波はダイオードで行い,低周波電力増幅は2石でプッシュプルです。
しかし,この6石スーパーは,局発に1石,ミキサに1石まではいいとして,中間周波増幅は1段で1石,検波と低周波増幅に1石,低周波s電力増幅に2石という構成です。
なんで中間周波増幅が2段じゃないのか,なんで検波をトランジスタでやるのかなど,回路を設計した人に聞いてみたい(逆に言うと回路図からはそれらの必然性がちっとも読み取れない)です。
特にぎょっとするのは,電力増幅段です。一見するとプッシュプルなのですが,トランジスタラジオによく見られた出力トランスを使ったプッシュプルではなく,トランスのないいわゆるSEPPです。
それはそれで結構なのですが,NPNとPNPで作る純コンプリメンタリではなく,NPNだけで構成された回路です。これだと,片側はエミッタフォロワなのに,もう片側はエミッタ接地で動くので,どうしたってアンバランスが出ます。
これを打ち消して補正するためにいろいろ回路的な工夫をして出来上がったのが,準コンプリメンタリという方法ですが,今は誰も使いません。
そうかといって,このラジオが準コンプリメンタリかといえばそうではなく,入力にドライバトランスを設けてあって,位相反転をこれでやってるんですね。しかも,電力増幅にもかかわらず固定バイアスで熱暴走もどんとこい,という配慮のなさです。
私の場合,おかしな改造はせず,一応設計者の意図を尊重して,出来るだけオリジナルで組み立てましたが,トランジスタはすべて入れ替えました。
手持ちの関係で,電力増幅段の2つは2SC2120,残りはすべて2SC1815のYランクです。別にすべて2SC1815でも良かったのですが,2SC2120も売るほど持っているので,電気的に余裕のあるものを入れておこうと思いました。
また,2SC1815についても,ランクを使い分けたり,hFEを実測したりしている方がいらっしゃるようですが,私はそんな面倒な事はせず,同一ロットでhFEが250前後のものを4つ使いました。
・感度がとれない
これは他の方の検討結果なのですが,特に中間周波増幅段のトランジスタのhFEが低く,感度に影響が出るんじゃないかということでした。実測で100を切るようなトランジスタがわざわざ使われているようですが,ここに250くらいのトランジスタを選ぶと,かなり感度が上がるそうです。
そういう話を事前に聞いていたので,前述のように2SC1815に入れ替えたのですが,あまりゲインが上がりすぎると,今度は発振するんじゃないかと思っていまして,そこは注意が必要な点かもしれません。
・部品の不良を疑わねばならない
私の場合は幸いにして起こりませんでしたが,部品の不良が結構あるそうで,取り付け前にテスターで一応良品かどうかを確認しておくべきというのが,他の方からのアドバイスでした。
これってね,初心者にはものすごく厳しいのですよ。部品の良否判定を,その部品を使う前に行うというのはとても高度な技術と知識が必要です。
・無駄な回路がある
最たる例は,電源ONで光るLEDでしょう。ラジオですよ,音が出ていれば電源ONってわかるじゃないですか。もちろん音量を絞ればわからないかもしれないし,そのまま放置すると電池が切れてしまうかも知れません。
しかし,それでも,電源が入っているかどうかを示すランプに,10mAも電流を食わせているんですね。そもそもこのラジオが動作する全体の電流が20mAほどなのに,何を考えているんだと思います。
例えばですね,チューニングインジケータとかなら,まあ許せますよ。単なる電源ランプでも,1mAくらいならそれでも許せなくはありません。ですが10mAは無茶苦茶です。
私?LEDを取り付けることをしないことにしました。無駄ですもん。
・このままでは熱暴走
これは結構深刻です。組み立ててから気が付いたことで,他の方もあまり指摘されていないようなのですが,致命的な欠陥です。
電力増幅段のバイアスは固定バイアスで,3Vの電池電圧を4本の抵抗で分圧して,約0.8Vを与えています。ですが,電源電圧の変動がもろにバイアス電圧と連動するので,トランジスタのベース電流が大きく変化してしまいます。
ということは,動作点も大きく変わりますから,電池が減ると急激に歪みが出たり,電池が新品だと消費電力が増大します。
私の場合,安定化電源器で音を出していたのですが,3.0Vなら20mA程度だった消費電流が,3.3Vにすると100mAを越え,3.5Vにすると200mAを越えます。この時電力増幅段のトランジスタはチリチリに発熱していて,やけどをするくらいです。
電圧が上がるとバイアスが上がり,ベース電流が増えます。そうするとコレクタ電流が増え,温度が上がります。ところがトランジスタのVBEは正の温度係数を持っているので,温度が上がるとVBEも上昇し,ますますベース電流が増えます。そうするとコレクタ電流も増えて温度が上がって・・・を,トランジスタは壊れるまで繰り返します。これが熱暴走です。
温度上昇がそれほど出ないような小さい電流の回路なら,バイアスの安定化だけで温度補償まではあまり気にしなくてもいいのですが,特に発熱のある電力増幅器で温度補償をしないのは自殺行為です。
この回路は,温度補償はおろか,固定バイアスですのでバイアスの安定化さえ行われていません。恐ろしい・・・
本格的な温度補償をするのは面倒だし,そこまでしなくてもいいだろうと,とりあえずバイアスの安定化だけ行います。とても簡単で,それぞれのトランジスタのエミッタに直列に,22Ωの抵抗を入れます。これだけです。
ベース電流が増えてコレクタ電流が増えると,エミッタの抵抗に流れる電流も増えるので,この抵抗に発生する電圧も大きくなります。
するとトランジスタのVBEは下がるので,ベース電流も下がります。同時にコレクタ電流も下がります。こうして一定の状態を維持しようとするのです。
ただし,抵抗を入れてしまうので,出力は小さくなります。かといって抵抗を小さくしすぎると一定の状態を維持しようとする力が弱まるので,ぽろっと安定状態から外れて暴走しがちです。
ということで,とりあえず22Ωで電源電圧を振って試したところ,うまく制御出来ているような感じです。5V以上に振っても,電流が急激に増加するようなことはなくなりました。
この時のVBEを測定してみると,0.62V弱です。ちょっと低めですね。
確かに,このままの回路では電圧が低めで,ベース電流も小さめですから,分圧抵抗の値を調整して,少し高めにします。ここでは4本の分圧抵抗をすべて150Ωにしました。結果としてVBEは0.63V程度に少しだけ上昇しましたが,なかなか安定せず,ジワジワと上昇するので,不安があるのは確かです。
きっとどこかで安定するはずなのですが,時間もなく安定するまで待てませんでした。肝心の音質ですが,あまり改善していません。もうちょっとベース電流を流してもいいかも知れませんが,もう面倒だからこれでいいです。
ところでちょっと気になるのは,この分圧抵抗には,7mA近い電流が流れ込んでいるんですね。ラジオ全体の消費電流が20mA弱である事を考えると,3割4割がここで消費されているのです。もったいないと思いませんか?
もっとも,電力増幅段のドライブにはそれなりのベース電流が必要で,抵抗でバイアスを作るならベース電流の10倍くらいはブリーダー電流として流さないと不安定です。だから仕方がないといえば,その通りなのですが・・・
で,ここを改善しようとすると,電力増幅段をICに置き換えるとか,そういう大きな改造が必要になるので,今回はもうあきらめてこの回路のままにします。
ところで,この22Ωにパラレルにコンデンサを付けると,インピーダンスが下がります。交流的には抵抗がないのと同じように見えるからなのですが,今回は気休めという事で,一応10uFを入れておくことにしました。ただし,あまり効果がないように思うので,コンデンサはなくてもいいかも知れません。
・調整について
スーパーラジオですから,最終的に完成させるには調整が不可欠です。しかし,世の中なかなか良く出来ているもので,IFTもバリコンのトリマも,出荷時の状態でとりあえず音が出るように鳴っていることが多いです。
調整無しでもそれなりに動作するようになっているので,調整をすることが出来ない人は,変にいじらない方がよいと思います。ただし,受信出来る周波数の範囲がずれていて,端っこの局が入らない可能性は高いですが,これは割り切ってください。
それで,調整するための機材や知識がある人は,やっぱりトライしたくなるものだと思いますが,私はちょっと戸惑いました。
聞いた話ですが,どうもかの国の中間周波数は455kHzではなく,450kHzなんだそうです。完成品はもちろんですが,IFTも局発コイルも,だいたい450kHz付近に調整済みで出荷されているような感じです。
ですから,これを日本の標準である455kHzで調整しようとすると,大きく調整点が変わってくることになり,もしかすると部品の持つ調整範囲を越えてしまうかも知れません。
ということで,まずは調整の手順です。どうも発振気味なので,ちゃんと調整出来なかったことを先に書いておきます。
(1)バリコンの局発側の端子をピンセットでショートし,局発を止める。
(2)SGを455kHzに設定し,アンテナコイルの端子のどれかに適当に信号を注入する。
(3)IFTの白と黒を交互に回して,発振音がなんとなく出るようにしてから,IFTの白を回して音が最大になるようにする。
(4)IFTの黒を回して,発振音が最大になるようにする。これでIFTの調整は終わり。
(5)次に局発の調整。ショートしたピンセットを外し,SGを531klHzにセット,インダクタを繋いでアンテナコイルに結合して,ラジオの受信周波数を最低にしてから,赤いコアの局発コイルを回して,発振音が大きくなるようにする。
(6)次にSGを1602kHzにし,ラジオの受信周波数を上限にして,バリコンの局発側のトリマーを回して,音量が最大になるようにする。これを交互に何度か繰り返す。
(7)SGを531kHzにして,ラジオのダイアルを下限にしてから,バーアンテナのコアを抜き差しして,発振音が最大になるようにする。
(8)SGを1602kHzにして,ラジオの受信周波数を上限にしてから,バリコンのアンテナ側のトリマーを回して,発振音が最大になるようにする。これを交互に何度か繰り返す。
(9)バーアンテナが動かないように,接着剤なりロウで固めて終了。
実は,なかなか最大点って見つからないし,調整というのは結構難しいものです。ですが,入ってみれば調整範囲が広いと言うことでもありますから,性能は出にくくても厳密に調整を追い込む必要もないということで,そこそこのところでやめても,そんなに性能差は出ないんじゃないかと思います。
私の場合,調整がいまいちなときには,受信種は数の下限に近いNHKのラジオ第一が受信出来ませんでした。性能云々ではなく,明らかに受信出来ないというのは問題で,放置できません。
それと,私はうっかりアンテナコイルのリード線をギリギリの長さに切ってしまったので,コイルを動かして調整をすることがあまり出来なくなってしまいました。コアを動かす方法で逃げようとしましたが,ケースにぶつかってあまり大きく動かせません。これから作る人は,少し余裕を持って切った方がよいと思います。
それにしても,以前修理と調整を行った松下のポケットラジオは,調整もとても楽だったんですね。調整点がわかりやすく,追い込むのも簡単でした。中間周波増幅が1段しかないからなのか,トランジスタを交換して不安定になっているのかわかりませんが,とにかく今ひとつな感じでした。
・結論として
最終的に,音質はともかく,十分な音量と実用的な感度で,ラジオを完成できました。消費電力も小さく出来たし,安全性もそれなりに確認出来たので,実用機として使う事ができるでしょう。
受信出来る局も,関東の主要局はすべて入っています。ラジオは,趣味で聞くのも楽しいですが,一番活躍するのは災害時でしょう。災害時には,故障や電池切れ,その時々で入手出来る電池の種類が限られることから,いくつか,何種類か持っておくとよいと思っているので,このラジオの一応も動作する状態にしておいて,いざというときに役立つことを期待しています。
それにしても,2日ほどあれば完成できると思っていたのに,5日もかかってしまいました。なかなか手強いですね。
これ,ほんとに皆さん完成できてるんですか?