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2021年09月の記事は以下のとおりです。

レトロマシンのメンテ~その1

 大阪から運び込んだ数々のレトロマシン。当然そのままでは動かす事も難しく,むしろ壊れていた方がうれしいという倒錯した感情が,積み上がったゴミを宝物に見せてくれます。

 今回は比較的簡単で,すぐに修理も済むだろう(あるいは壊れてないだろう)と思うものに取り組みました。

 が,思いのほか,苦労しました。


・CZ-8RL1
 X1シリーズ用のデータレコーダです。X1turboシリーズやX1Fなどに接続可能なデータレコーダなのですが,X1のデータレコーダは電磁メカカセットデッキというやつで,再生/停止,早送り/巻戻しやサーチをソフトから制御出来る立派なものを内蔵していました。

 これを外付けにする時には,制御機能を落としてしまう方法(X1Dなんかそうですね)と,そのまま内蔵のデータレコーダを外に引っ張り出す方法とがあります。

 CZ-8RL1は後者のもので,7ピンDINという変なコネクタで本体と接続します。しかし,マニュアルモードに切り替えるとそこら辺の普通のデータレコーダにもなるという汎用性も備えているので,2700bpsという高速の読み書き性能と相まって,信頼性の高い高級なデータレコーダとして利用可能です。

 これ,うちで一番程度のいいデータレコーダだったのですが,全く動きません。ゴムベルトを疑いましたが分解の結果違うと判明,結論としては巻取側のリールを駆動するギアのグリスが固着して回らなくなっていました。

 ギアを取り外して洗浄,新しいグリスを入れて組み立てると復活。これは不安なく使えそうです。


・PC-6082
 PC-6000シリーズの1つとして登場した高級な方のデータレコーダです。信頼性も高く,操作性も良かったので,NECの他のシリーズはもちろん,他社のマシンとも良く組み合わされていたように思います。

 入手時に既に使い古されたものだったので程度は悪かったのですが,今回持ち帰って通電してもうんともすんともいいません。

 調べてみると,キーを押し込むとまず最初にONになり,各機構を駆動するモーターを回転させるリーフスイッチが割れていました。ただのリーフスイッチなら交換なんですが,このスイッチはキーの押し心地に直結する部分と言うこともあり,構造がマイクロスイッチのようになっていて,クリック感があるのです。

 こんな特殊なものは見たことがなく,交換の部品も目処が立ちません。そこでクリック感は犠牲になりますが,改造してリーフスイッチを修理しました。

 これでメカが動くかと思いきや,延びきったベルトがあったので交換。それで動くかと思ったのですが,よく見るとピンチローラがキャプスタンに接触していません。ポーズ機構がおかしいのかもと分解するとグリスの固着で動かなくなっており,洗浄して動くようにしました。

 それでもやっぱりピンチローラが浮いています。よく観察すると,ヘッドのブロックを上に押し上げるバネの一端を固定するプラスチックが割れていて,バネが利かなくなっていました。

 かなり強い力がかかるので,接着なんて作戦は通用しません。そこでバネを変形させて,残ったプラスチックで力を受ける様にして,なんとかピンチローラを接触する位置にスライドさせることができました。

 この段階で一応一通りの機能が動くようになっているのですが,ヘッドブロックを外したことでアジマスは狂っていますし,モータとフライホイールを繋ぐメインベルトは伸びているので,交換が必要です。

 メインベルトはちょっと窮屈なものにしてしまうとテープ速度が数パーセント遅くなるので,なかなか選ぶのが難しいところです。オリジナルだとぴったりの速度なんですが,早送りや巻戻しがスリップして出来ません。

 いろいろ試して,なんとか2%程度遅くなるだけのものを探し出して交換することにしました。それでも2400Hzの音が2350Hzになるので,もしかしたらエラーが出るかも知れません。

 モーターの速度を調整出来ればよかったんですが,そういうボリュームは見当たりませんでした。もしかしたら,機械式ガバナー内蔵のモーターかも知れません。

 これでいけるかと思ったのですが,カセットのフタのヒンジを固定する部分がこれてしまったり,ネジ山がなめてしまったり,ボスが折れてしまったりと,とにかくプラスチックの劣化がひどく,割れたり折れたり崩れたりと,もうどうにもならない状態です。

 今はなんとか修理が出来ていますが,今後ボロボロと壊れていくので,いつまで動くかわかりません。もう修理をやめて廃棄しようと何度も考えました。ただ,このモデルは当時よく広告で見た代表的モデルですので,持っておきたかったという一念でなんとか修理を終えたという感じです。

 最後にアジマスを調整し,一通りの動作確認を終えて修理完了です。


・CE-1600P
 PC-1600用のプリンタで,当時流行した4色のカラープロッタプリンタですが,80桁という大型のものは珍しく,また漢字の印字も可能というのが面白いです。

 この頃のポケコンにはありがちなことなのですが,実家で発掘した時に,内蔵のNi-Cd電池が液漏れしていました。かなりひどい状態で,シルバーの塗装が剥げています。

 これくらいひどいと内部の基板もパターンがきれて大変だろうなあと思って恐る恐る分解すると,基板はほぼ無傷です。恐れていたフレキの断線もコネクタへの液の回り込みもなく,回路まわりが無事で何よりでした。

 塩を盛大に吹いた電池を取り外し,基板などを取り外してケースを水洗いしたあと,組み直して通電しますが,プリンタが動いてくれません。

 見ると,ペンをチェンジするモーターのピニオンギアが割れて空回りしています。アルプスのカラープロッタプリンタユニットはギア割れが持病なので予想してはいましたが,交換用のギアはちょっと珍しいものなので手持ちはなく,とりあえず接着で修復です。

 やり方は簡単。難接着性のプラスチックに塗布するプライマーを塗り,瞬間接着剤を割れ目に流し込み,しっかり接着します。このままではシャフトを圧入するとまた割れてしまうので,1.5mmのドリルで穴を広げてシャフトとは瞬間接着剤で固定します。

 はみ出した接着剤がギアの谷を潰してしまうと回らなくなるので普通はカッターで綺麗に成型する必要があるのですが,今回の用途ではペンのチェンジだけで,ピニオンが1回転しません。取付位置を上手く調整するとギアの割れていない部分だけで回転できる(しかし大きなトルクがかかるので固定はしっかりしないといけない)ます。

 なんどかやり直しましたが,上手く固定できて,ペンのチェンジも問題なく出来るようになりました。これでプリンタは問題なしです。

 ところで電池ですが,もう内蔵するのはやめました。持ち運ぶことはないですし,忘れた頃に液漏れ塩吹きってのも困ります。


・CE-1600F
 CE-1600Pに取り付ける事の出来るディスクドライブで,サイズはQDと同じ2.5インチながら,QDとは違ってセクタもトラックもあってランダムアクセスが可能なフロッピーディスクです。

 とはいえ,片面で64kBしかないですし,両面ドライブでもないので,同時期の8ビットマシンに匹敵する性能を持つPC-1600Kにはちょっと物足りないというのと,アクセスタイムが遅いことも問題で,なによりブランクディスクがほぼ入手不可能なことが深刻です。(そうでもないか)

 面白いデバイスですので,動くようにしておきたいのですが,予想通り動かなくなっていました。このドライブは三協精機のオリジナルなんですが,ベルトが伸びる,切れる,溶けるという問題が知られています。

 きっとこの持病だろうと分解すると,いやはや大変なことになっています。もう溶けてベトベト,飴のようになっていて,原形をとどめていません。

 アルコールで拭き取れると思ったのですが,真鍮製のプーリーが錆びて固着しており,溶けたゴムをピンセットで削りとり,錆びてデコボコになった部分を紙やすりで滑らかにしてようやく作業完了です。ここまで2時間。

 外したプーリーやフライホイールを組み直して,直径65mm程度のベルトを探し出して引っかけていきます。問題なくスムーズに回ることを確認出来たら元のように組み立ててCE-1600Pに取り付けます。

 しかし,やっぱり動作しません。困ったなあと調べてみると,フタがかなり浮き上がっています。ここを押さえてやるとアクセス出来るようになりました。なんで浮き上がっているのか,フタがきちんと閉まらないのかを調べなければなりません。

 ドライブの上面を外し,フタを確認すると,フタを閉じた状態で維持するラッチ機構がおかしいようです。さらに分解すると,プラスチック製のフタの裏側に金属製の爪が,浮き上がってグラグラしています。これ,よくあるプラ製のリベットを溶かして固定しているものなんですね。3つあるリベットのうち2つが完全に外れており,3つ目も外れかかっています。

 ちょうどこの部分が浮き上がってしまい,蓋が閉じたことを感知するスイッチを押し込めないようです。

 さあ困った。またしてもプラスチックの劣化です。折れてしまった部分は元と同じような精度や耐久性で修理出来ないです。しかもプラスチックは難接着性ですし,相手は鉄です。

 そこで,0.4mmのプラ板を小さく切り出し,僅かに残ったリベットよりも少し小さな穴を開けて押し込み,瞬間接着剤で固定しました。これでしっかり固定できました。

 組み立てて見ると無事に動作します。よかった,修理出来ました。こうなってくるとブランクディスクがもう2,3枚ほど欲しいですよねえ。


・V-Saturn
 セガサターンはセガだけではなく,国内ではビクターと日立製作所からも発売されていました。ビクターのものはV-Saturnを呼ばれていますが,価格も入手性もセガとそれ程変わりませんでした。

 当時サターンにどっぷりだった私は盆暮れの実家でサターンで遊ぶため,実家用にサターンを買っておくことにしたのですが,面白半分でV-Saturnにしたのでした。

 このV-Saturn,RG-JX2という形式名でわかるように,中身は白サターンそのものです。新しいですし,そんなに使っていないこともあるので,全く壊れておらず快調そのもの。久々に遊んだダイナマイト刑事が面白かったです。

 これは面白い事なんですが,CD-ROMドライブはセガサターンの方が良く出来ていて,なかなか壊れたという話を聞きません。一方のプレイステーションのCD-ROMドライブはひどく,もはや欠陥品と言っていいレベルです。

 次世代機が登場する前に壊れて動かないものが出てきたゲーム機は後にも先にもプレイステーションシリーズだけでしょう。任天堂やセガといった老舗とは,ゲーム機に求める性能が異なるんだろうなと思いました。

 ということで,とにかくプラスチックの劣化がひどく,これが原因で壊れていたケースが多くありました。この手の故障は修理も困難ですし,修理出来ても元の性能を維持できない場合がほとんどなので最終的にはあきらめて廃棄せざるをえないでしょう。

 それに対して電気回路や部品が壊れたケースが見当たりませんでした。金属部品も大丈夫だったことを考えると,このあたりの信頼性の高さはさすがだなと思いました。ということは,結局のところ個体の寿命を決定するのはプラスチックであるという悲しい事実です。

 さあ,実家から持ち帰ったものは,まだまだこんなものではありません。Apple][,System16B,PC-6031など,手こずりそうなものがまだまだ残っています。頑張らねば。

 

さらば大阪

 先日,大阪の実家に住む母から電話がありました。

 曰く,実家を売るという事です。これまで父とは別居していましたが,よりを戻して父と暮らすことにして,なにかとややこしい実家を売ってすっきりしたいという事のようです。

 そのことそのものはなんとも思わないですし,むしろ面倒なものを後始末してくれるので歓迎すべきところです。

 ただ,両手を挙げて喜べるかといえばそうといもいえず,1つは故郷を失うことのさみしさ,もう1つは実家の私の荷物をどうするかという問題がふと頭をもたげます。

 私も,生まれ育った場所で過ごした時間よりも,生活の拠点を東京に移してからの時間が長くなっているので,もう大阪に住むこともないと思っていますが,自分を形成した大阪が自分に取って特別なものにならなくなったことはさみしいですし,大阪で寝泊まりする場所がホテルになることはつまり,帰郷ではなく旅行になることを意味します。

 ここに至って大阪はのんびり過ごす場所ではなくなったと言うことですし,大阪でなくても北海道でも沖縄でも良くなったということです。

 高校を卒業したとき,親しい友人が神戸の大学に通うために実家を出た後,両親が北海道に引っ越してしまったことで,18歳にして故郷を失った話を聞いて驚いた事があるのですが,この歳になってしまうと,それももう特別な事ではなくなってきたんだなあと思いました。

 娘は,私の大阪の話を散々聞いて育ったので,その目で大阪を見る日と楽しみにしていましたし,いずれその時が訪れることを当然のように思っていました。それが突然縁もゆかりもなくなった事に頭の整理が出来ず,随分悲しんでいました。

 もう1つの問題,私に荷物の片付けです。これまでに何度か整理をし,廃棄したり東京に持ち帰ったりして減らしてきましたが,結局扱いに困るものばかり残っていて,正直どうしたものかと頭を抱えていました。

 コロナがなければさっと戻って処理できたのですが,そうこうしているうちにコロナで動けなくなり,ここまでズルズル放置してしまいました。

 今回ばかりは,ほっとくと問答無用で廃棄されてしまいます。なんとか仕事に都合をつけて,1泊2日で仕分けをしてきました。

 なにせ時間がないことと,コロナが怖くてウロウロ出来ないので,最後の大阪になるにも関わらず,デジット跡地も新しいシリコンハウスも見る事なく,あべのハルカスも一度も見ることがありませんでした。難波から堺筋を通り通天閣の足下を抜けて動物園を渡り,天王寺公園を突き抜けてアベノの歩道橋から阪堺線を眺めるというルートを,最後に歩きたかったと思います。

 さらば大阪。もう二度と私に安らぎと懐かしさを与えることはないでしょう。


 最初に,持ち帰ったものを列挙します。

 PC-6001,PC-6001mk2,PC-6053,PC-6082,PC-6031,PC-DR3111,CZ-870CB,Apple][,Appleコンパチディスクドライブ,セガサターン,V-サターン,ドリームキャスト,ワンダースワン,ゲームボーイアドバンス,M5jr,CE-1600P,SR-05(自作のワンボードマイコン),新品のメタルテープ100本くらい,AppleKeyboard,ケイブンシャの大百科,コロタン文庫,System16B(ソニックブーム),カラーブックス,真空管アンプ(三栄無線のKT88シングル),Matrix-1000,VintageKeysPlus,D4,ソフト多数


 向こうで廃棄したものは,

 PC110,アコースティックギター(トーカイのキャッツアイ),SH-09,電子ブロック(EX-100とEX-15),未開封のプラモデル
 
 ・・・あれ,ほとんど捨ててない(笑)


smc PENTAX-FA 31mmF1.8AL Limitedを買った

 なにかと話しかけてくれる知り合いが,今度はレンズについて話を振ってくれました。奥行きを表現出来るレンズとは,と言うなかなか難しお題です。

 彼は自分が初心者だと謙遜しながら,また多少それを言語化するのに苦労しながら,ボケだとか味だとか,そうした曖昧な言葉を慎重に避けて,「クレヨンのような画は気に入らない」といったような的確で鋭い表現をするので,油断なりません。

 話を聞いていると,どうもしっかりとした色のり,フォーカスが外れていく時のボケの変化が滑らかでリニアであり,自分が見たものをそのまま写し取ってくれることが良いレンズであると考えているようです。

 彼が選んだのは評判の良いフォクトレンダーのAPO-LANTHAR 50mm F2 Asphericalでしたが,確かにこれは素晴らしいレンズですし,他にいくらでも便利で優秀なレンズがある中で,わざわざMFのレンズを写りの良さで選んでしまえることも,羨ましく思いました。

 これとは違うジャンルであることは百も承知で,私の基準レンズはAF-S70-200F2.8Eなわけですが,プロの道具であり実用性で最右翼に来つつ,しかしながらその表現力はここ一番の期待に応えるレベルであるということで,私としては仕方なく持ち出すレンズではなく,ワクワクしながら使うレンズです。

 大げさな言い方をすると,このレンズとAF-S14-24mmF2.8を使える事がニコンユーザーにのみ許された特権であると思う訳ですが,はて他のメーカーにこういうレンズってなかったっけなと,思い巡らせました。

 そうそう,私が密かに「無人島レンズ」と吹聴している,FA43mmF1.9Ltdがそれです。

 画角といい,優しい眼差しといい,注目する部分から外にかけてぼやけていくフォーカスといい,大きさといい操作感といい,とにかくすべてが理想のレンズです。残念な事は,フルサイズでないと実力が発揮されないことと,それがKマウントであることくらいでしょうか・・・

 Ltdレンズはもうくどくど説明しませんが,31mm,43mm,77mmの3つがシリーズ化されており,どれも銘玉としてロングセラーを続けており,つい先日コーティングを改良してアップデートされたものが新製品になるなど,ディスコンになる気配がありません。

 Kマウントユーザーならあれこれ買わずにこれを買っておけ,三姉妹を揃えるのはKマウントユーザーの義務である,とまあ絶賛なわけですが,これは私も(多少は)理解出来ます。

 私は,43mmに加えて77mmも持っていたのですが,今ひとつピンと来なかったので売ってしまいました。これはきっとAPS-CのK10Dしか持っていなかった頃の話だったので,115mm相当というどうにも使いにくい焦点距離に対する苦手意識のせいだったように思います。

 といいつつ,43mmも結局K10Dではほとんど使うことがなく,フィルムのカメラで使うことしかないことから,稼働率はとにかく低いままだったのです。

 そういう状況ですから,高価な31mmを買おうという気はもともと35mm付近が今ひとつ使いこなせかったこともあって最初から起こらなかったのですが,先日の知人とのは話し合いで,31mmに対する憧れに様なものが急激に沸き起こってきました。

 そうだよ,今の私は28mmが大好きで,35mmがD850のボディキャップ代わりになってるじゃないか。

 なら,その中間である31mmだって,面白いはず。

 しかも,APS-Cなら46.5mm相当と絶妙な焦点距離だ。

 買おう。

 ということで,中古ですが,突然それはやってきたのでした。

 しかし,あいにく私の手元にはこれを生かし切るだけのボディがありません。久々にK10Dを引っ張り出してきましたが,これではどうも・・・

 なので本命はフィルムカメラだと思っているのですが,もう2週間もするとZfcがやってくるでしょうし,その時にはすでに用意してあるマウントアダプターでガンガン使えるはずです。

 ということで,K10Dで少し撮影した限り,少なくとも私が期待したような傾向である事がわかって一安心です。ここからどういう個性を持つレンズなのかを見極めて,使いこなしていこうと思います。あまり先入観を持ちたくないので,他人様のレビューは,読まないようにしておきます。

 

今さらAi-Nikkor28mmF2.8Sを入手

 今さらですが,Ai-Nikkor28mmF2.8Sを中古で買いました。

 25年ほど前に中古のF3を買ったほぼ同時期に,50mmの次は28mmだと中古で買ったAi-Nikkor28mmF2.8をずっと使い続けていて,28mmの話はこれでおしまいと思って気にもかけてなかったのですが,先日偶然,そう簡単な話ではないことを知りました。

 私が持っているものはNewNikkorAutoをAi化したもので,7群7枚です。ところがこの後「Nikkor」を名乗れない廉価版の「シリーズE」に5群5枚の28mmF2.8が登場,しかしこれが思いのほか性能が良く,Nikkorの立場を危うくするというので,Ai-Nikkorがリニューアルされることになりました。

 ちょうどAi-S化(AF-Sではないですよ)されるタイミングだったので,リニューアルされた8群8枚のレンズは,Ai-Nikkor28mmF2.8Sとなったのですが,これが1981年のお話だそうです。

 いちいちそんな理由でお金をかけてリニューアルすんのかよと,ニコンの生真面目さにクラクラしますが,こだわったのは0.2mmまで寄れるという近距離撮影距離で,そのために超広角で行われているような近距離補正まで行っています。

 基本性能は申し分なく,近距離撮影にも強いという28mmレンズは実は珍しい存在で,今でもこれを持ち出してマクロ的に使う方がいらっしゃるそうです。

 私はそんなことも知らず,古いAi-Nikkorを使い続けていましたし,そのAF-Nikkorも適当に買っては手放してをしていました。

 ついでにいうと,AF-Nikkorはもっと変な話になっていて,どういう訳だか初代のAF-Nikkor28mmF2.8SはシリーズEと同じ5群5枚,これで新時代のニコンを背負っていたというのですから驚きで,これが7群7枚のAF-Nikkor28mmF2.8Dになるのが1994年といいますから,随分あとになります。

 私は5群5枚のAF-Nikkor28mmF2.8Sを安いからと喜んで買ったのですが,今ひとつしっくりこなくて売ってしまいました。惜しいかなと思いましたが,今この事実を知って,完全にい吹っ切れました。

 とまあ,28mmが好きでF2とF3が好きな私としては,この28mmレトロフォーカス最終進化形を買わないわけにはいかないとなり,中古を捜す旅に出たのです。

 しかし,このレンズはなかなか人気で,値段があまり下がっていません。ただ,販売期間が30年近くあり,程度も大きく違いますし,当然価格も変わってきます。総じて3万円くらいのものは美品であり,普通に使える良品は2万円,それ以下は何らかの訳ありという感じです。

 でもですね,今このレンズに3万円を出せるかと言えば,それはちょっと・・・割り切って新品を6万円というなら考えもしますが,中古で3万円はちょっと考えていまいます。

 探したところ,あるところに13000円でクモリなし,カビなしの商品が見つかりました。破格値だと思ったのですが,これ,フィルター枠が大きく変形していて,フィルターが付きません。ぶつけたんだろうと思いますが,これだけぶつけたという事は,光学系にも影響があるんじゃないかと思います。

 しかし,問題点として上げられているのはフィルター枠の変形のみ。なんとかなるだろうとポチってしまいました。

 商品の到着までに修理方法を考えていたのですが,均等に広げるような工具って私は1つも持っていません。探してみるとあるんですね,フィルター枠の変形を治す専用工具が。

 中国製で3000円ちょっと。これなら買ってもいいかもしれないとこれも購入。考えてみると総額17000円ほどになってしまい,探せばまともな中古が買えたかもしれません。

 届いてから早速修理です。

 いきなり広げるのではなく,少しずつゆっくり広げていきます。変形した部分だけを広げると楕円になるので,少しずつ広げる部分をずらして一周させて,均等に広げるのがコツです。

 とりあえずフィルターが付くくらいには修理出来ました。実用上は問題ない程度の変形をしつこく直そうと頑張ったのが裏目に出て,違う部分に僅かな変形がでてしまいました。余計な事をしなければという,いつものやつです。

 あとは塗装のハゲをタッチアップして完成。ちょっとの歪みが残っていますが,まあそれはフードをつけてしまいますので目立たないでしょう。

 ということで,早速D850に取り付けて撮影です。最新のデジタル一眼レフでも使う人がいるという定番レンズだけあって,性能はまずまず。最新のレンズに比べたら解像感は今一歩ですが,そんなことはどうでもいいくらい,寄れます。28mmで20cmまで寄れるというのは,大げさに言うとちょっと別世界の視野を手に入れたような気がします。面白いです。

 四隅も綺麗に出ていますし,変な滲みも片ボケもなく,心配していた故障や不良はなさそうです。以前の28mmでもよく写るなあと思っていましたが,新しい28mmはそこにモダンな感じが追加されたような印象です。良く写ります。

 長年ニコンを使ってきましたが,こんなことも知らなかったのかと笑われるような話です。でもあれですね,なかなかこういう話が尽きないのがカメラとレンズの世界で,恐ろしい沼だなあとつくづく感じます。

 これでAF-Nikkor28mmF2.8S(たしかこれも訳ありでフィルター枠が欠けてしまってました)を手元に残してあれば,すべてのレンズ構成がそろったので撮り比べとかでネタがもう1つ作れたのかも知れないですが,仕方がありません。

 こんな話,ライカにはいくらでも転がっているんだろうなあ。

 

 

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