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2023年09月の記事は以下のとおりです。

Walkmanの修理~その5~WM-FX70編

 これまでいくつかのWalkmanのレストアに取り組んできましたが,今回で一応一区切り,WM-FX70にとりかかります。

 WM-FX70は当時ちょっと欲しいなと思ったモデルでした。私がその当時新品で購入したのがWM-EX60で,これはWM-EX70の兄弟モデルでした。そしてWM-EX70のラジオ付きモデルが,このWM-FX70です。

 当時の私はFMラジオが大好きで,時間があればFMを楽しんで聞いていました。どんな音楽が流行っているのかを知るだけではなく,実際にその音楽を聴いて気に入れば買ってみると言ったカタログ的な要素が,私にとてもあっていたのだと思います。

 もちろん,流行していなくても初めて耳にする音楽との出会いもありましたし,FM放送でしか聴く事の出来ないスタジオライブなどは,その録音を今でも楽しく聞くことが出来ます。

 うちにはもともとHi-Fiなオーディオ機器などありませんでした。FMだってモノラルの安いラジカセがあるくらいで,ちょっと音がいいくらいのラジオでしかなかったのですが,父が借りてきたステレオでFMを受信できるラジカセ(なんと8トラック)で初めて「立体音響」を体験して感動したことから,私のオーディオはスタートしました。

 買ったものよりただで聞ける放送がいい音のはずがない,などという思い込みもあり,内心馬鹿にしていたFMラジオでしたが,実はちょっとやそっとじゃ手に入らないような最高の機材を使って高音質の音を放送していることを知るにつけ,FM放送への信頼がますます強まっていったのでした。

 だから,初歩のラジオに掲載されていたFMステレオラジオ(TDA7000とTA7343でした)は作ったものを持ち歩いて使っていたくらいでしたし,後年FMチューナーを買うときも良いものを買おうとF-757を買ったりしました。

 外にカセットテープの音楽を高音質で持ち出せるようになると,同時にFMラジオもと思うのは自然の流れですが,2万円も高いラジオ付きは買えないなと断念した記憶があります。というより,いくら高音質とは言え,据え置きのオーディオの音質や信頼性を知っていた身としては,中途半端な性能のものにプラス2万円は出せないと考えていたのが大きいでしょう。

 てなわけで,WM-EX60を買い直すことと,当時欲しかったラジオ付きを手に入れることの両方を実現するのが,WM-FX70のレストアなのです。

 ですがこのWM-FX70,はっきりいって難航しました。まずメカ。最初に手に入れたWM-FX70は液漏れが少しだけありましたがキャプスタンもほとんど錆びておらず,走行系は簡単に復活出来ると思っていました。

 ところが清掃と注油とベルト交換ではテープが走ってくれません。ピンチローラーが劣化していたので少し削りましたが効果はなく,仕方がないので新品に交換しようとするもぴったりなサイズはなく,直径が同じで厚みが0.5mmだけ分厚いものを削ることにしましたが,今度はテープがガイドを乗り越えて走ってしまい,テープをボロボロにしてしまいます。

 それもフォワードの時だけの走行不良という事で,ピンチローラーを左右入れ換えたりしましたが解決しませんでした。キャプスタンを磨いたり,最後の手段としてメカ全体の歪みを疑い,歪みを取ろうと頑張っていましたが,ピンチローラーを取り付けるピンが根元から曲がってしまい,ここで詰んでしまいました。

 ラジオが生きていただけに残念だったのと,WM-EX70や60,FX70のメカは結構デリケート(キャプスタンも他より細いしピンチローラーも小さいです)だと思い知りました。

 同じ物をもう1つ落札(こっちは1000円未満)して再チャレンジをしたのですが,この個体は電池の液漏れこそなかったものの,キャプスタンは真っ赤にさび付いていますし,再生状態で放置されていたのでピンチローラーはハート型に変形していました。

 メカとしてはこちらの方が明らかに程度が悪いのですが,これをベースに闘うしか手は残っていません。分解と清掃,注油を丁寧に行って軽く回るようにしたところで,キャプスタンを取り外して磨きます。

 このキャプスタンは両方とも真っ赤に錆びていて固着していた程でしたから,まず最初にアルコールで余計な錆を取り除き,この後紙やすりで慎重に磨いてデコボコをなくしていきます。

 削りすぎるとキャプスタンの径が変わってしまいテープ速度に影響が出ますからそこは慎重に行うのですが,これでいいかと思ったところで組み立ててベルトをかけ,試しにテープを再生してみます。

 すると,とりあえずフォワードもリバースもテープが走ってくれます。ただ,ピンチローラーを軽く押し当てないとテープが止まってしまいます。

 試行錯誤の結果,どうも新品のピンチローラーが柔らかすぎて,キャプスタンに押し当てられたときに変形して,ピンチローラーのケースを擦ってしまうようでした。

 そうなるとピンチローラーをもう少し削る必要がありますが,これがまた難しい。あまり削りすぎると押圧が足りなくなり,テープが走らなくなります。それに均等に削るのはなかなか出来るものではありません。

 少しずつ削っていきますが,なかなか上手くいきません。そしていよいよ擦らなくなるところまで削ったのですが,それでもテープが安定せず,ギリギリ走行している感じなのです。

 そこでふと閃きました。これはテープがスリップしているせいかもしれない。だとすればスリップしないように,キャプスタンに傷を付けてみようと,400番の紙やすりで傷を付けました。

 しかし,あまり変化はありません。ここでもう一度発想を切り替えて,今度は回転方向に付けるのではなく,回転方向とは垂直に傷を付けることにしました。

 すると嘘のようにテープが安定して走ってくれました。ワウフラッタもかなり小さく押さえられています。

 とはいえ,あまり強くピンチローラーを押しつけるとワウフラッタが増えるので,0.2mmのプラ板をヒンジの部分に貼り付けて,テープが本体に強く押しつけられないようにしました。これで一応スムーズになったということで,速度調整まで行ってカセットテープのメカについてはレストア終了。

 次にラジオ部分です。ラジオはメカがないので調整など必要ないと思われがちですが,高周波の回路はなにせコイルやトランスといったアナログ部品が多用されていて,それぞれ最適な状態に調整されて出荷されます。

 調整箇所は複数ありますし,コイルは経年変化による調整点のずれも大きい部品なので,本来の性能を出そうと思ったら5年に一度くらいは調整をやり直さないとダメだと思います。

 一応現状でもAM/FM共に受信していますが,FMはスキャン時に100Hzほどずれるようですし,AMもあまりよい感じではありません。ここは調整でビシッといきましょう。

 なお,ラジオの調整について記述されたサービスマニュアルは入手できなかったので,回路図や使っているICから推測して行っているところもあります。正しい方法かどうかはわかりませんので,ご注意ください。

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(1)まずバリキャップの電圧を調整します。ラジオ基板に「VT」と書かれたランドがありますので,こことGNDの間に電圧計をいれて,AMでは531KHzに設定して電圧が1.0VになるようT2を,FMでは87.5MHzに設定して電圧が3.4VになるようL4を調整します。

(2)AMのトラッキングを調整します。SGを400Hz,30%変調で出力し,なにか適当なコイルに入力します。コイルはAMの受信コイルとしてつかえるものなら最高ですし,ない場合でもそこら辺に転がっているコイルでよいと思います。

(3)SGを1395kHzにし,先程のコイルをバーアンテナ(L8)に近づけて結合させ,ヘッドフォン出力に電圧計を繋ぎます。1395kHzを受信して出力(400Hzが出ているはずです)が最大になるように,CT3を調整します。

(4)本来だと621kHzで出力が最大になるよう,バーアンテナのコイルの位置を左右に動かす作業をしないといけないのですが,バーアンテナのコイルはパラフィンで固定されていますので,ここはこのままとします。

(5)次にAMのIF調整です。ちょうど中間の周波数である999HzにSGをセット,ラジオも999kHzに設定して受信出来たら,出力が最大になるようにT1を調整します。これでAMラジオの調整は終わりです。

(6)続けてFMのトラッキングの調整です。SGを400Hz,22.5kHzのデビエーションで変調し,出力を80dbにして基板のアンテナ入力に繋ぎます。SGの周波数を76MHzにしラジオで受信し,その出力が最大になるようにL3を調整マス。

(7)次にSGを90MHzに設定し,ラジオも90MHzに設定して受信出来たら,出力が最大になるようにCT2を調整します。

(8)これを何回か繰り返して76MHzも90MHzも最大になるように調整します。

(9)次にFMのIFと検波の調整です。SGを83MHzに設定,ラジオもこの周波数を受信しておきます。そしてその出力が最大になるようにT4とT?交互に調整します。

(10)最後にステレオ復調のVCO調整です。先程の83MHzが受信出来ている状態で,IC2の14ピンに周波数カウンタを繋いで,19kHzちょうどになるよう,RV1を調整します。


 これで終了です。なお,今回調整しなかったL1,L2,CT1はTV(4ch - 12ch)の受信使われるものです。これらの電波が停波している現状では,もう二度と使われる事はないと思いますので,なにもいじらず放置しておきましょう。

 この調整によってFMラジオのスキャンは正常に動作するようになりましたし,感度も上がっているように思います。一方のAMラジオは相変わらずですが,まあAMですのでよいとします。

 しばらくラジオを聞いていましたが,やっぱりラジオは面白いものです。ケースを組み立て直して完成しました。

 残念だったのは,この後再度テープをかけたところ,ワウフラッタが大きくなっていたことです。なにが原因なのかはわかりませんが,ここであきらめずに試行錯誤に入り,結局壊してしまうことも多いので,余程の事がない限りこれでいこうと思います。


 ということで,ラジオがついたWalkmanは厚みがあり,しかもカセットの走行状態が見えないと言うことあり,価格のこともあって当時としても中心的なモデルだったとは言えないと思います。

 しかし,オマケ扱いではない本気のPLLシンセサイザーチューナーをこの大きさで実現し,Walkmanにくっつけたというのは技術的にも面白いものといえて,これでカセットが完璧だったらと,悔やまれてなりません。


 あらためて出来上がったWalkmanを並べて,実際に再生して程度を比べて見ました。一番良いのはWM-EX666で,ほぼ同じ程度でRQ-SX11。RQ-SX11の方が音質は好みですから,こちらを常用してもいいかなと思います。

 そしてテープが安定しないのはWM-FX70とRQ-SX35です。WM-FX70はいろいろいじった結果ですので仕方がないとしても,RQ-SX35はワウフラッタも大きく,フォワードのトルクが小さすぎてリーダーテープを越えられませんし,しかもフォワードとリバースでテープスピードが大幅に違っています。

 これがなんとか解決すれば,すでに傷だらけですから,躊躇なく常用出来るのですが・・・

 

Walkmanの修理~その4~RQ-SX11編

 今回の修理は,パナソニックのRQ-SX11にしました。1995年の発売のようですので比較的新しい年式で,カセット関連では眼中になかった松下電器の製品にあって,SX11という型番だけは広告による露出度のせいもあってか,良く覚えています。

 最初に修理したRQ-SX35が1998年のモデルでしたから,RQ-SX11はその3年前のモデルになりますが,実はこの3年間の間にメカデッキが一新されていました。SX11はAR-90,SX35はAR-10です。

 一説によると,ライバルのソニーが超低消費電力を達成したのに追いつくには,もうメカデッキを作り直すしかないという判断で開発されたのがAR-10メカだったという話で,なるほどワウフラッタは大きめですし,ギアによる動作音も耳障りです。トルクも小さいのでテープによってはリーダーテープを残り得られません。

 ならばとAR-90メカを試してみたくなり,SX11を手に入れてみたというわけです。

 SX-11はなかなかデザインも秀逸で,特にブルーがよいなと思うのですが,手に入れたのはブラックです。それでも精悍ですし,特に蓋を開くと,蓋が縮んで短くなる仕組みには思わず唸ってしまいました。

 しかし,裏側に返して操作ボタンを見てみると,安っぽいギラギラのメッキのボタンが楕円状に配置されていて,このあたりは格好悪いと思います。パナソニックは丸いのが好きなんでしょうけど,反対面とのアンバランスを考えないのかと思います。

 さて,手に入れた段階では液漏れはなかったものの,フォワード側のキャプスタンに少し錆がありました。この影響でピンチローラーにもフォワード側に結構なへこみがあります。リバース側は無傷です。

 落下も打撃痕もなく,程度は良さそうなのですが,なんと早送りボタンを押してもクリックがかえってきません。

 ここで通電してしまうと,融けたベルトがモーターに巻き付くのでそれはやめて,分解に入ります。内部は比較的綺麗なもので,ベルトさえ交換すれば動きそうです。

 基板を外すために一部ハンダを取り除き,慎重に基板を外します。並行して筐体を分解し,ハンドソープで洗って乾かしておきます。

 先程の早送りボタンの破損ですが,完全に壊れていてスイッチ上面のペコ板が完全にへこんでいました。強く押さえつけられたからだと思うのですが,さらによく観察すると,ケースも変形してへこんでいました。ボタンが強く抑えられたというよりは,ケースが強く圧迫されたんだろうと思います。踏んづけたとか,そういう感じですかね。

 フライホイールやプーリーの融けたベルトを綺麗に除去し,モード切替のクラッチのプーリーのグリスが固着していたので清掃して,適当な長さのベルトを試してかけてみます。

 AR-10のモータはベルトが太いとモーターの内部で接触して回転不良を引き起こします。だからRQ-SX35の時には0.5mmのベルトをわざわざ買ったのですが,AR-90ではどうだろうかと手持ちの0.7mmで試したところ,接触もなく上手く回ってくれました。試しに再生するとワウフラッタはリバース側は小さく,ゴムベルトはこれで大丈夫なようです。

 ここで興味深いことがあったので書いておきます。実は最初,再生速度が強烈に速くて,速度調整ボリュームでも出来ないほどでした。これはキャプスタンが滑っているからだろうと思っていたのですが,よくよく考えてみるとモーターの上側のローターを外していました。

 パナソニックのブラシレスモーターは面白い構造をしていて,コイルの並んだステータをマグネットのついた上下2つのローターが挟み込んでいます。おそらくメカW全体を薄く作る事が出来るのだろうと思うのですが,ベルトの交換は上側のローターを外さないと出来ません。(出来なくはないが失敗しやすいし難しい)

 それでローターを1つ外して通電したのですが,これで速度が強烈に速くなったというわけです。ピンと来た人も多いと思いますが,直流モーターは磁石(界磁と言います)が弱くなると回転数が上がります。

 そこでローターを戻して2つで回転させると,ちゃんと正規の回転数で回ってくれるようになりました。いやー,面白いです。

 これ,なぜそうなるのかという話です。直流モーターは電圧を上げると回転数(もトルクも)が上がるので,磁石を強くしても回転数は上がると思いがちですがさにあらず,回転数は下がるのです。

 これは,直流モーターは回転するとき,同時に発電も行っているからです。磁界の中をコイルが動いているのですから,当然電圧が発生します。これは与えられた電圧とは逆になるので,逆起電力と言います。

 モーターを回している電圧は逆起電力と相殺されて,電圧が下がったのと同じようになり,回転数が上がらないのです。理屈では知っていましたが,実際にこういう現象を体験すると,ちょっとした感動があるものです。

 さて,フォワード側のワウフラッタが大きいのはピンチローラーの変形が原因でしょう。これは基本的には新品交換が一番よいのですが,外してみると5.5mmという小さい径です。手持ちもないし入手が難しいかなと悩んでいたのですが,かつてWM-805から外したピンチローラーを削って6mmにしようとしたところ削りすぎたものが出てきました。

 ゴムも柔らかいので,もうちょっと削って5.5mmにすれば大丈夫そうです。そこでさらに削ってみたのですが,削りすぎてアウト。そんな失敗を何個か作って,ようやく5.5mmのローラーを作る事が出来たので,少しだけあったキャプスタンの錆を取って,組み立てて動かしてみます。

 ワウフラッタはかなり押さえられたのですが,よく見るとフォワード側のピンチローラーが上下に1mm程動いています。見た目に最悪な動きなのですが,ワウフラッタは出ていません。

 おそらくですが,ピンチローラーを削るときに,真円に削ることができなかったのだと思います。この場合,ピンチローラーを押さえる付ける圧力が変動するのでワウフラッタは当然出るものだと思っているのですが,結果はそんなことなくて,なかなか良好です。

 これほど動くんですから異常な動作であることは間違いなく,なんとかしないといけないとは思うのですが,実害はありませんし,最終的に見えないようになるので,もうこれ以上追い込むのはやめようと思います。うーん,気持ち悪いなあ。

Walkmanの修理~その3~WM-EX666編

 WM-805の修理が難航して,いよいよあきらめるかと思っていたときに私が取った行動は,別のWM-805を手に入れてニコイチを作る事と,比較的年式の新しいWalkmanを手に入れる事でした。

 WM-805は調子に乗って入札しまくったことで,修理が出来てしまったにもかかわらず2台(どちらも黒色)も手に入ってしまい,合計3台という陣容です。いずれも塗装は劣化しているのですが,1台は前オーナーが根性で塗装を剥がしたらしくシルク印刷もなくなっていますが,もう一台はベトベトがなくなるまで放置されていたもののようで,白く粉を吹いたような状態になっていますが,印刷は綺麗に残っています。

 メカの様子は先日修理した赤色のWM-805が一番程度が良く,sきあもピンチローラーも新品ですので,一番性能が出ているように思います。残りの2台はキャプスタンが錆びていたり,ピンチローラーに変形があったりするので,これを修理しても今ひとつかなとモチベーションも上がりません。

 年式の新しいWalkmanを手に入れたいと思うのは,同じように年式の新しいパナソニックのRQ-SX35が修理が楽だったからなのですが,そうして手に入れたWM-EX666は予想に反して修理に大変手間のかかるじゃじゃ馬でした。

 WM-EX666・・・私はどんなモデルかさっぱり知らなかったのですが,どうもベーシックモデルで価格を下げたもののようでした。メカはプランジャを使わない興味深いもので,モーターを逆回転させることでモード切替を行い,そのためにリバース再生時でもモーターを正回転させるようにしてあるという,当時の設計者の創意工夫が感じられるものでした。

 プランジャは高価な部品ですので,コストダウンを動機とした斬新なメカだと思うのですが,修理後に使ってみると,モードの切り替えも滑らかで上品ですし,動作音も実に静かで,いいメカデッキだなと思いました。

 ただ,そこはコストダウンを目的にしたメカデッキだけに,耐久性というか,経年変化が起こる部品を肝心な部分に使ったりと,長く使うことは考慮されていないように思います。当時のソニー製品ならどれもそんなもんかも知れませんが。

 さて,そんなWM-666の修理の記録です。

(1)塗装の問題

 ゴムっぽい風合いの塗装は加水分解でベトベトになりますが,1990年代から2000年代にかけて流行しました。このころの製品は何十万円もするカメラでさえもベトベトになってしまい,現在の価値を下げてしまっているわけですが,当時の技術者は本当にこうなることを知らなかったらしく。罪悪感と言うよりも自ら被害者という意識が強いんじゃないかと思うほどです。

 WM-666も一部にこの塗装は使われていて,操作ボタンの周辺のプラスチックと,下ケースと蓋の間に挟まれる枠にべとつきがありました。

 気持ち悪いのでなんとかしないといけませんが,WM-805のようにクリアラッカーで仕上げると傷に弱い塗装になるので常用は難しくなります。そこで多少の傷は仕方がないとして(クリア塗装をすると小さなキズは綺麗に消えます),重曹でべとつきを抑えた状態で使うことを考えました。

 分解して該当する部品を取り外し,重曹に2時間ほど漬け込んで水洗いしたのですが,なんと操作ボタンの周辺の塗装が一部剥げてしまい,とてもみっともなくなってしまいました。

 こうなるともうクリアを吹き付けるしかありませんが,そのために元々の塗装を綺麗に剥がす必要があります。1500番の耐水ペーパーで塗装を剥がすことにしましたが,BATTとREPEATと書かれた印刷もなくなってしまいます。でもこれはあきらめましょう。

 枠も多少剥げていますが目立たないのでこのままとします。デコボコしているので塗装が剥がしにくく,しかもぶつけやすいのでせっかくクリアラッカーで仕上げても剥がれてしまうだろうと思ったからです。


(2)ギアが外れてガリガリ

 クリアラッカーの塗装が終わったら内部の修理です。ゴムベルトは使えそうなものが手持ちにあったのでこれを使うとします。電池の液漏れもないので基板は無傷ですから,ゴムベルトだけ交換すれば済むだろうと思っていました。

 ところがそう甘くはありません。早送りや巻戻しをすると,テープエンドでリールが止まる時に,ギアが飛ぶ激しい音がガリガリとしてからストップします。壊れてしまいそうな音ですから,おちおち使っていられません。

 分解してメカを確認しますが,動作状態を見られないので手で動かして想像するしかありません。分かった事は,再生時のリールの回転はスリップリングで空回りできる仕組みがありますが,早送りと巻戻しはどのギアもきっちりかみ合うので,リールが止まってしまうとモーターまで止まってしまうという,よく分からない仕組みだったことです。

 これではホールセンサがリールが止まったことを検知するまでギアが外れてガリガリ音がするのは正しいですが,本当にそんな設計をするもんだろうか,と随分悩みました。

 もしかするとゴムベルトを緩くしてあって,ゴムベルトのスリップを使うのかもと考えて少し大きいものを試したりしましたがスリップするよりギアが外れる方が先で,どうにもなりません。

 そこで外れて音を出しそうなギアの取り付け高さを厳密に調整しようと考えて,ギアの台座の部分を少し削って高さを揃えました。この結果走行は安定しましたが,テープエンドでもっと激しくギアが外れるようになってしまいました。

 もっとよく観察すると,スリップリングを持つギアの高さが問題のようです。モード切替時,再生モードの時にはメカの一部の突起がこのギアの高さを下げてギアのかみ合わせをリリースし,このギアの下側のスリップリングを介した別のギアとかみ合うようになっています。

 一方で巻き戻しや早送りの時はギアが上がり,スリップリングのギアは外れてギアが直結するのですが,直結の時の高さが足りずに高負荷時に外れてしまうようです。

 スリップリングが経年変化で薄くなり,摩擦が増えたり高さが低くなったりするのは良くある話なので,かさ上げを考えます。一番良いのはメカをいじってギアのリフト量を増やすことなのですが,それはちょっと難しいですから,スリップリングを分厚くする作戦を立てます。

 そこで,ポリイミドテープをスリップリングに貼り付けてかさ上げを試みます。何度かカット&トライをしてかみ合わせが確実になるようにしたのですが,それでも高負荷では外れてガリガリをイオンをさせますし,しかもスリップリングの摩擦が増えたことでワウフラッタが激増し,もう使い物にならないレベルです。

 疲れ果てた末に私が下した判断は,スリップリングのテープを剥がし,元の高さに戻します。さらにおまじないとして,別のギアの台座を少し削っておきました。

 ポリイミドテープは糊が剥がれてスリップリングに付着していて,これを剥がすのも一苦労です。何度も空回りさせて糊を剥がして,軽くスリップするようになったことを確認してから組み立てます。

 期待していませんでしたが,これで再生すると恐ろしいほどワウフラッタが消えています。負荷が軽くなったのでBATTランプも明るく点灯しています。

 さらに巻戻しと早送りも,高負荷時にギアが外れることがなくなりました。これはおまじないの台座を削ったことがきいているのか知れません。

 そして緊張のテープエンドです。テープエンドになると,即座にストップしました。以前のようにギアが外れる時間もありません。なるほど,本来はこういう動作でギアが外れたり異音がしたり,ギアの歯が欠けたりすることを防ぐ仕組みなんですね。上品と言えば上品ですが,ギア欠けはいずれ起きるような設計だと思います。

 それでも条件が悪いと高負荷時にギアが外れてガリガリいいますが,以前のように100%ガリガリいうことはなくなりましたし,テープエンドでも高確率で止まってくれるので,もうこれでいきましょう。

 おそらくですが,スリップリングを綺麗にした時に,高さも復活,摩擦も軽減されたんじゃないかと思います。この結果初期の状態を取り戻したことで,ギアが外れにくくなり即座に停止できるようになったのと,ワウフラッタが大きく軽減されたんじゃないかと思います。


(2)他の問題

 ガリガリ音がする問題で心身共に疲れたのですが,問題は他にもありました。ヘッドから出ているフレキをコネクタに差し込むのに,どうにも刺さりません。どうもフレキの厚みがこのコネクタにあっていないようです。

 このままではフレキを傷めてしまうと考えて,おそらく元の付け方だと思われる(悪いことに写真を撮り忘れていましたし,パッパと外したので覚えてもいません)方法で差し込みました。方法ではクランプがしっかり出来ず,外れてしまうように思うのですが,フレキを綺麗に曲げてテープ(ヒメロンといいます)で固定してあるので,これでいきましょう。

 実は無理に正しい差し込みにこだわり,コネクタを基板から剥がしてしまいました。外れただけだったのでハンダ付けをやり直せば済む話でこれは大した問題ではなかったのですが,パターンが剥がれてしまうのはまずいので,もう正しい方法にこだわりません。

 モーターのフレキも壊れかけました。もう何十回も付け外しをしましたので銅箔が剥がれてしまうのは避けられませんが,これもなんとか壊れる前に修理完了です。


(3)リモコンの改造

 跡で気付いたのですが,このモデルは標準的な3.5mmのヘッドフォン端子を持たず,リモコン対応のために特殊な9ピンのコネクタを採用しています。リモコンから直接ヘッドフォンが出ているので交換出来ないのが当時から不評だったことを覚えていますが,30年も前のヘッドフォンを使うことは考えられないので,途中でケーブルを切断し,ここに3.5mmのジャックを取り付ける改造をしました。

 ちょうどよいサイズの熱収縮チューブがなくて不細工な外観になったのが残念ですが,当初の目標はクリアしたのでまあいいとしましょう。


 ということで,WM-666もなかなか手強い相手でした。電気のトラブルと違って見えるものが相手ですが,基板の下に隠れている以上は見えない相手みたいなものですし,交換部品が有るわけではありませんから,修理は本当に難しいなあと思います。

 あのままガリガリいったままつかっていたら,いずれギア欠けが起きて再起不能になっていたかも知れません。ギアが外れないことを前提に,即座にストップをかけるという電気回路の工夫でメカの破損を防ぐ思想は,一瞬でも大きなトルクがギアにかかるわけで,いずれ歯が欠けてしまうんじゃないかと思います。

 しかし,前述の通りプランジャを使わないモード切替は滑らかで動作音も小さく,とても上品で心地よいものです。ワウフラッタも気にならないくらい小さくて,後年の低消費電力モデルに見られる,低トルクのモーターと低マスのフライホイールのせいでワウフラッタが原理的に問題になるようなこともありません。

 外観も比較的綺麗ですし,テープの収まりも精度良く,使っていて気分のいいモデルだと思います。個人的にはこれを常用機にしてもいいかなと思っているのですが,それはこの後に続く,修理待機品の仕上がり次第というところでしょうか。


 さて,ここまででRQ-SX35,WM-805,WM-EX666と3台復活してくれました。次はどれにしようかなあ。

 

Walkmanの修理~その2~WM-805編

 さて,次に取り組んだのが本物のWalkman,WM-805です。

 WM-805は1990年の発売で,「ワイヤレスウォークマン」と呼ばれたシリーズの4代目にあたります。今ならそれ自身が音楽再生能力を持つくらいの大きなワイヤレスリモコンから無線で操作をしつつ,本体から無線で音もリモコンに飛ばすというはじめての双方向を実現した画期的な高級モデルでした。

 高級と言いつつ,当時の事ですので無線はFMラジオをベースにしたアナログ方式ですし,回路が大幅に増えるために大きくなり,無線ゆえに筐体はプラスチックでどうしても厚ぼったくなります。消費電力も大きいですし,リモコンにも電源が必要ということで,私は当時冷ややかな眼で見ていました。

 ある時,某オークションを見ていると,真っ赤な格好いいWalkmanが目に入ってきたので調べてみると,それがWM-805という当時無視していたモデルだったと知り,ジャンクを手に入れました。

 手に入れたWM-805は,表面のゴム塗装が加水分解でベトベトになるというWM-805の持病は当然として,電池の液漏れは派手に起きている(これがあとで地獄を見る)上,リモコンは付属していないというゴミのような状態でした。

(1)分解とベトベト対策

 分解は手がベトベトになるので大変だったのですが,幸い石鹸で落ちるのでこまめに手を洗いつつ分解します。分解が終わったらハンドソープで洗った後に重曹に2時間ほど漬け込んで対策します。重曹ですが,本当にベトベトがなくなります。これで加水分解の対策は決定だと思います。

 分解途中で筐体を割ってしまったのでこれを補修し,つや消しのクリヤーを吹き付けます。すると細かい傷も消えて,とても上品で新品のような見た目が甦りました。しかし,そこは模型用のスプレーラッカーですから,擦れば剥げてしまいますし,角から剥がれていってしまうことは覚悟しないといけません。

 分解して見ると,想像以上に電池の液漏れが広がっているようで,なかなか難しい修理になりそうな予感です。


(2)モーターの修理

 分解をして駆動系を確認しますが,モーターが軽く回りません。これは内部でローターのマグネットが錆びて膨らみ,ステータのコイルに接触しているのが原因です。こうなったモーターは交換しかないのですが,交換出来るものもないのでモーターそのものを修理します。

 モーターを分解し,ローターのマグネットの錆びた部分をヤスリで削り取り,接触しないようにします。マグネットが割れていないので助かりました。

 元通り戻し,エポキシ接着剤で固定して修理完了。モーターは滑らかに回るようになりました。


(3)でも全く動かない

 モーターを戻し,プーリーを綺麗に清掃してベルトを掛け,電源を入れてみますが,うんともすんともいいません。ここで数日足踏みしましたが,どうやらマイコンが動いていないみたいです。

 そこでセオリー通り電源とクロックとリセットを確認します。電源はDC-DCが動作していて3.2Vが出ています。OKです。

 リセットは解除されているのでここも問題なし。残念なのはクロックで全く発振していません。クロックは500kHzのセラロックで作っていますが,これが発振しないというのはセラロックの不良に始まり,果てはマイコンが死んだまで考えないといけないので,ちょっと大変です。

 セラロックの不良から疑ってみますが,似たような周波数のものと交換しても動きません。どうもセラロックではなさそうです。そうこうしているうちに,時々発振するようになったり,ゆっくりと発振が始まったりするようになりました。

 セラロックに繋がっているとコンデンサの不良を疑いますがこれはシロ。少し値を前後させますが変わりませんので,発振条件から外れたとかそういうことではなさそうです。

 どうも電池の電解液が悪さをしているような感じなので,疑わしいところをハンダゴテであたっていると,発振することが増えてきました。上手くするとソレノイドの初期化まで進むことも出てきました。

 さらにあたっていくと,あるスルーホールを触ると確実に発振することを見つけました。ここが怪しいので細い線材でバイパスしたのですが,これだと全く発振しなくなりました。

 このスルーホールとその周辺に熱を加えてやると,安定して発振するようになってきました。原因ははっきりしませんが,どうも電解液が染み込んで配線容量が大きく変わってしまい,発振しなくなっていたのではないかと思います。

 とりあえずこの段階でモーターが回り,テープが走るようになっていました。


(4)ミュートがかかっていない

 ヘッドフォンを繋げてみると,テープを止めてもノイズが出ていますし,FFやREWでも再生音がキュルキュルとなっています。ミュートがかかっていないようです。

 本来あるべきミュートのトランジスタのベースに繋がる抵抗(100kΩ)が外れていたので,これを取り付けるとミュートはかかるようになりました。しかし何でだろう,外した記憶はないんだけどなあ。


(5)音が割れる

 めでたく音が出るようになったのですが,電源電圧が1.4Vになると音が割れて,ボゴボゴという音になってきます。どうも電源の変動で発振しているようです。

 この場合,電解コンデンサがあやしいので回路図を見ていくと,DOLBYのICに繋がっている電解コンデンサがどうも臭います。外して見ると液漏れしていました。(本当に臭いました)これを交換すると音が割れるのはなくなりました。


(6)スタンバイのまま

 これでテープも走行し,音も出るようになったので組み立ててみたのですが,よく考えると一度テープを再生すると停止してもスタンバイ(リモコン操作可能な状態)のままなので,LEDもついたままですし,消費電流が70mAほど流れたままです。こんなに流れるとテープを止めたままでも電池が一晩でなくなってしまいます。これはおかしい。

 これがなかなか難問で,なかなか解決しませんでした。数日間またも足踏みしたのですが,最悪の場合も考えてもう一台WM-805を手に入れて,波形を比較していきました。

 そもそも取説がないので正しい操作も挙動も分からないままでしたが,ちゃんと動く基板を見てスタンバイのスイッチはONとOFFをオルタネートで切り替えるものとわかりました。

 おかしい基板では,このスイッチを動かしてもスタンバイがOFFになりません。波形を見ると,本来1.4Vにならないといけない波形が,3V近くでています。これもおかしいです。

 そもそも回路図を見ていると,ここに3V系は繋がっていないのです。どこからか3Vが回り込んでいるという事だと思うのですが,そのせいでスイッチ操作によって次のトランジスタを叩くほど電圧が下がらず,結果DC-DCコンバータを停止できないようでした。

 このおかしな回り込みを調べてみますが,なかなか尻尾がつかめません。部品を外したり違う値に交換したりして変化を見ますが,どうもわからないのです。トランジスタの故障,特にPNPのトランジスタはよく壊れるので外してチェックしますが問題ありませんし・・・

 そろそろあきらめようかと思った時にもう一度回路図を見て,この回路に3Vが回り込んでくる可能性を1つ1つ見ていきましたが,どうもDC-DCコンバータを停止するトランジスタの周辺からしか回り込みようがないことがわかってきました。

 そこでそのトランジスタのベースに繋がる時定数のコンデンサ(セラミックの1uF)を調べてみました。すると,容量が全然なくなっていて,コンデンサとして機能していません。しかも,外した基板を見てみると端子間にべっとりと電解液が染み込んでいて,これがどうも導通の原因のようです。

 この電解液によるショートで3Vがベースから入り込み,前段のコレクタから周辺の回路に3Vを与えるという事が起きていたようです。

 基板を綺麗にしてコンデンサを交換すると,あれほど苦労したスタンバイのON/OFFが上手く出来るようになりました。

 要約修理完了です。ふー。


(7)とはいえ

 組み立てて動かしてると,ワウフラッターも小さく(実はピンチローラーも新品に交換しています),最盛期としてとても優秀です。筐体も新品同様の綺麗さですし,電池接点などはもう一台のWM-805かと取り替えました。

 電解コンデンサはすべて交換しましたし,これだけ手間をかけたのですから愛着もあり,これで使おうと思うのですが,心配なのはやっぱりクロックで,原因不明なままなんとなく直ってしまったという悪い状況です。

 この場合,大体あとになって問題が復活することになるので,その場合は基板も交換することになりそうです。


(8)次のテーマ

 新品で購入し(よく覚えていますが特価で1万円を切っていました),その後数年間私のオーディオ環境の一翼を担ったのにあっっさり捨ててしまったWM-EX60が欲しいのですが,兄弟モデルのWM-FX70を手に入れています。これ,当時欲しかったラジオ付きで,ラジオは動いているのですが,テープは動きません。

 これを直すのが1つ目,もう1つは新しめでWM-EX666です。回路はシンプルになっていますし,実用機としてはちょうど手頃ではないかと思います。問題はヘッドフォン端子が特殊なので,どうやって汎用の3.5mmジャックにするかを考えないといけないです。


 という感じで,WM-805は3桁の数字で命名されるモデルとしては後期のものになりますが,回路はこれでもかと思うほどバイポーラトランジスタが多用されていますし,部品の隙間もないほどびっしりと並んでいます。

 1980年代の小型化技法として見るべきものがあるなと感心しますし,これが2,3万円で売られていた事もちょっと感心しますが,この後部品は小さくすると同時に,点数を減らすことを中心に行われていきます。まだ点数が多い時代の小型化というのは,なかなか興味深いものがあり,手にしたときの密度感も,心なしか高い様に思えてくるから不思議です。これが1980年代の魅力なのかも知れません。

 

Walkmanの修理~その1~RQ-SX35編

 さて,オークションに出品されているポータブルカセットプレイヤーを見ていると,大別して高価な修理やメンテが済んだ完動品と,故障品に分けられるようです。

 私は修理が目的ですので自ずと故障品を買うことになりますが,故障と言ってもピンキリで,写りの悪い,数の少ない写真から,故障を見極めるのは難しいものがあります。

 消耗品であるベルトの破損は当然としても,それ以外の故障によっては,結局修理出来ないという事も考えられるからです。

 ヘッドの摩耗,キャプスタンのサビや変形,樹脂パーツの破損は,あきらめるしかありません。モーターが動かない場合も深刻です。電気回路の修理についても,ICの破損になるとお手上げですし,基板の断線もかなり難しい修理になります。

 さらに悪いことに,電池の液漏れが致命傷を与えることが多いです。電池の電解液はアルカリで,基板を含む金属を腐食してダメにしてしまいます。キャプスタンが電解液で錆びたり回らなくなってしまっていると本当にあきらめるしかありません。

 電池を入れっぱなしにしてある場合,ほぼ100%液漏れしています。基板やモーター,キャプスタンなどのメカに電解液が回り込んでいないことを祈るしかありません。

 こういう観点でみていくと,最終的な落札価格はどんどん上がっていきます。即決出来るもので,パナソニックのRQ-SX35というモデルをまずは手に入れる事にしました。ほらそこWalkmanじゃないとかいわない。

 もともと単三電池のアダプターが付属しているものを探していたのですが,皆さん考える事は同じようで,価格は高めになります。私はガム電池が好きですし,調べてみれば今でもamazonで新品が買えるようですから,ここは躊躇せず,素モデルを狙います。

 しかし,思いつきでやるもんじゃないですね,RQ-SX35は,リモコンがないとすべての機能が使えないと言う恐ろしいモデルでした。

 新品のカセットプレイヤーが買えないのは,現行のモデルにはDOLBY-Bがないことが理由です,RQ-SX35はもちろんDOLBY-Bがついていますが,なんとこれを有効にするにはリモコンが必要なんだそうです。

 そして,即決したRQ-SX35には,リモコンがありませんでした・・・

 とりあえず,分解です。液漏れしたガム電池を取りだし,内部を眺めてみますが,基板に少々電解液が回っていて,モーターにも基板から少しだけ染み込んでいるようです。幸い軸は無傷でしたし,他のメカも無事でした。ソレノイドの断線もなく,これなら修理出来そうです。

 ゴムベルトは溶けていましたが,手持ちの0.7mmから選んでみます。最初はベルトの掛け方がわからなかったのですが,小さいベルトを2本使うと言うことに気が付いて,使えそうなものを探して取り付けます。

 通電してみますが,モーターが回りません。

 モーターのコイルに電解液が染み込んでいたようなので,これで断線があるともう修理出来ません。ベルトを外して通電すると回転したので,とりあえずモーターは無事でした。

 するとベルトが問題なわけですが,0.7mmで回らないほど重いメカというのも考えにくく,よく調べてみるとモーターの一部にベルトが擦っていました。0.5mmなら擦らないような位置に,コイルのボビンがあるのです。

 これをギリギリまで削って,ベルトがスムーズに動くようにしてから組み立てます。書けば簡単そうですが,作業そのものは4時間ほどかかっています。

 ソレノイドとカムの初期位置が分からず組み立てに手こずりましたが,とりあえず音が出るとこまで来ました。しかし,ワウフラッターが大きくて,ちょっと使えそうにありません。

 調べてみると,このシリーズのメカはモーターのトルクがギリギリなので,ゴムが0.5mmよりも太いと,回転ムラが大きくなってしまうんだそうです。心配なことは,キャプスタンの掃除を行う時に,滑り止めをアルコールで一部剥がしてしまったことです。これは確実に回転ムラの原因になるでしょう。

 並行してDOLBY-Bを有効にする方法を考えます。リモコンの回路を解析して同じ物を作る,内部を改造して強制的に有効にするなどを考えましたが,下位機種のRQ-SX25にはリモコンが付属しておらず,本体にもう1つボタンがある事が判明しました。

 このスイッチ用にパターンも残っているので,ここにスイッチを取り付けると,最初は全く動いてくれなかったのですが,回路図を見てもう一度取り付けると動いてくれました。まずは1つ目の問題をクリアです。

 ベルトの方は,結局0.7mmでは無理なので,高価でしたが0.5mmのものを,直径25mmと31mmの2つ手配しました。

 電池はamazonで手配しましたが,実は液漏れしていた電池に充電が出来てしまい,十分に使えてしまうことがわかり,合計4本の体制ですべてフル充電が終わっています。

 後日ベルトを交換しましたが,ワウフラッターは小さくなり,A面とB面の再生速度の違いも小さくなりましたが,それでも満足出来るレベルにはありません。やはりキャプスタンの滑り止めを剥がしたのがいけなかったのかも知れません。

 DOLBY-Bのスイッチは,本体に穴を開け,タクトスイッチを分解して凸型の部品を取りだし,スイッチに被せて押しやすくしました。押し心地も問題なく,見た目も綺麗に仕上がりました。

 あとはテープスピードの調整を行って組み立てて完成です。

 RQ-SX35は1998年という随分後になって発売されたもので,ミニディスクが主役になっていた時期のモデルと言うこともあり,そんなにお金がかかってるようには見えないのですが,それでも当時のトレンドとして連続再生時間がアルカリ電池1本で51時間と,低消費電力化が進んでいます。だからこそモーターにトルクを与えられなかったのですが,この時間使えるならやむを得ないかも知れません。

 傷だらけ,しかもワウフラッターも大きくて,その上テープによってはリーダーテープの終わりで引っかかってテープが進まなくなってしまうというこのRQ-SX35は,ちょっと常用には難ありかも知れません。

 そして私は,いよいよ本物のWalkmanに手を出すのでした。ああ,もともと持っていたWM-EX60を捨ててしまったことが悔やまれます。

 

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