多機能なNASでネットワーク環境を改善する
- 2012/06/27 14:38
- カテゴリー:散財
Pogoplugは「パーソナルクラウド」と銘打って,容量無制限なクラウドストレージを目指した新しいコンセプトで一世を風靡しました。かくいう私も注目をし,あふれかえる画像ファイルの安全な管理と共有を狙って,昨年導入をしました。
しかし,使っているうちに,どうもしっくりこないところが目立って来ました。
まず,速度が遅い。家の外で使う時にはADSLがボトルネックになるので仕方がありませんが,家の中で使うのにその遅さを実感します。
次に信頼性が低い。突然USBのHDDがアンマウントされていたかと思えば,ファイルが壊れていたとか,アップロードをしたはずのファイルが足りないとか,ファイルが壊れたわけではないのに正しいファイルとしてダウンロード出来なくなってしまったとか,そういう使い方ではどうにもカバーできない問題が発生する頻度が高く,1ヶ月に一度くらいはこれで頭を抱えることになります。
そもそもの使い勝手が悪すぎることも問題でしょう。Pogoplugは,MacOSでもWindowsでもローカルドライブとしてマウントすることが売りだったはずなのに,うちの何台かのWindowsマシンでは1つとしてマウント出来たものはありませんし,MacOSはマウント出来ても激遅で,全く使い物になりません。しかも知らないうちにファイル転送に失敗していることがあり,ファイルをロストすることもしばしばでした。
仕様が勝手に変わることにも閉口しました。ローカルドライブにマウントする機能が使い物にならない以上,専用クライアントを使うことになりますが,これがまたしょっちゅう仕様が変わるのです。細かいUIが変わることは大目にお見ます。しかし,機能が変わっていくことにはもうついて行けません。
最初はアップロードもダウンロードも出来る純粋なファイルアクセスのクライアントだったのですが,これが写真や動画,音楽を参照することに軸足を置いたメディアブラウザの性格を強めたかと思ったら,突然ローカルドライブのバックアップを目的としたものに変わって,あげくアップロードが機能が削られてしまいました。
のみならず,当初は専用クライアントをインストールしたマシンをストレージとして公開する機能があったのに,これが突然有償になって機能が削除されてしまったりと,重要機能の削除がポンポンと行われてしまいます。Pogoplugはスタンドアロンのマシンではなく,その機能や仕様,操作の感触はすべてPogoplugのサーバーを管理する人が握っています。
pogoplugで出来る事出来ない事がポンポン変わってしまう可能性も大きいわけで,私はこういうサービスに身をゆだねる気にはなりません。
そして最後に,pogoplugのコンセプトがいよいよ分からなくなってしまったことです。本来のクラウドストレージは,特に実体としてのハードウェアの存在が見えず,雲の上にあるものとして扱えることがありがたいわけで,そのストレージは世界中に分散しているかもしれないわけですね。
一方のNASは,ハードウェアの実体が見えるところにあり,電気も食いますし管理もメンテも必要です。しかし,多くは外部からのアクセスが出来ないもので,あくまでファイル共有をローカルネットワーク内で行うことが目的です。
しかし,NASは近年大幅な機能アップを果たしており,もはや外部からのアクセスが出来ないものはないと言って良いでしょう。iPhone向けのクライアントが提供され,ダイナミックDNSと組み合わせればpogoplugと同じ事が出来ます。
そうなると,pogoplugってなにが特徴なのか,ということになります。唯一ダイナミックDNSへの登録をしなくてもよい,という事がメリットなのかも知れませんが,別にお金がかかるわけでもないし,自分のドメインを取得できる方が何かとつぶしが利いてありがたいだけに,まあ中途半端な話です。
時代がpogoplugに追いついたというのもあるでしょうが,pogoplugが明後日の方向にいってしまったことも事実で,「去る者を追わず」を地で行く私としては,お別れの時だと悟ったわけです。
とはいえ,ネットワークオーディオプレイヤーであるN-30のためにはDLNAサーバーを止めるわけにはいきませんし,外からファイルをアクセス出来る便利さ,世界中どこにいても大量の自炊した書籍やCDにアクセス出来る安心感,そしてストレージの小さなMacBookAirでiTunesがMacBookProと同じ状態で再生できることの素晴らしさ,写真を家族で共有する価値の大きさを知ってしまうと,これに変わるものを用意しないわけにはいきません。
そこで,高機能化したNASを探すことにしました。
コンピュータの周辺機器は,実際の生産は台湾や中国で行われてはいても,アメリカか日本のメーカーの製品が安心なわけですが,NASについてはちょっと事情が違うようで,台湾のQNAPのNASが,大変評判がよろしいようです。
NASだって中身はLinuxですので多機能化は難しくありませんが,多機能になるとCPUパワーもいるし,なんと言ってもメモリがたくさん必要です。それが価格を押し上げ,信頼性の確保も大変になります。
もともと台湾メーカーの製品は機能てんこ盛りで欲張りな製品が多かったですが,それぞれの作り込みは甘く,バランスを欠いたものが多かったように思うのですが,特に最近,こと小規模なNASに限って言えば,QNAPの製品がベストであると思います。
NASですから,ここは最低でも2ベイでRAIDだとか鼻息荒く機種選定をやっていましたが,大きくなって場所ふさぎになるし,HDDがまだまだ高価なご時世でRAIDはもったいないということで,CPUパワーの高さで選んでみました。
結局,TS-119PIIという機種を選びました。お値段は結構値下がりしていて,23000円ほどでした。これ,出た時には3万円ほどしたらしいです。
ARMコアの2GHz,DDR3の512MBメモリと,なかなかリッチなハードウェアが,ベンチマークでも100MB/sec以上の速度をたたき出すとのことで,USBのHDDケースよりも高速というのは,実にありがたいです。
その上,消費電力の公称値がシリーズ中最も低く,HDD停止中なら4Wと,24時間運転を行うNASにはとても重要な性能を持っています。
1ベイですから,RAIDを組んでストレージを大きくしたり冗長度をあげるということは出来ないのですが,esATAの端子とUSB3.0の端子を持ち,いざという時にはこれを使うことも出来るでしょう。
NASですからファイルアクセスは完璧で,smb,afp,nfsと主要なプロトコルは網羅していて,どんなOSが来ても不自由しません。まあこれは当たり前です。
また,WEBベースのファイルブラウザが用意されているので,WEBを使ってどっからでもファイルにアクセスができます。iPhoneやiPadには専用クライアントも用意されており,モバイル用途にも最適化されています。
ファイルサーバですので,DNLAサーバにもなります。定評あるTwonkyMediaが使われていますから安心です。
QNAPのNASはこれだけではなく,多機能サーバーとして充実しています。高速CPUにメモリ,Linuxなのですから当たり前のことですが,http,ftp,VPN,sshに加えて,プリンタサーバ,iTunesサーバ,TimeMachineのストレージなどの機能も持っています。
しかも,ipkgによる機能拡張もサポートしており,WEBでphpがperlで書いたCGIを動作させることも可能です。
ということで,うちには私自身のホームページを置いたサーバーがあります。中古で購入したThinkPadX20に,VineLinux4.0を入れたものを2007年の1月にセットして,以後5年以上もこのままでした。
別に不満もないとはいえ,5年もすればHDDはもちろん本体だって壊れてしまうだろうと思っていたのに,さすがにIBMですね。HDDも含めてちっとも壊れません。
しかし,狭い部屋でゴロゴロとものばかりが増えることも問題ですし,電気代も気になります。そこで,NASにサーバを統合し,ThinkPadの運用を止めようというのが目論見です。
実は,TS-119PIIは5月下旬の出荷分からUSBが3.0に仕様変更されており,手に入れるならこちらだろうと思っていたのと,安いお店を探したことから,納期が結構かかってしまい,注文から10日以上かかって手元にやってきました。その間,いろいろ構想を練ったりネットワーク環境の改善を行ったりと,コツコツ作業は進めていました。
まず,事前のネットワーク環境の改善です。うちは1階と2階に分かれており,電話線が1階に来ているので,ADSLモデムは1階に設置することになります。ここがインターネットの窓になります。そして,このADSLモデムがルータを兼ねています。当時はこのADSLモデムのルータが最も多機能で,最も信頼できたのです。
しかし,主なコンピュータは2階に揃っていますので,これまでは802.11nのAirMacExpressをADSLモデム/ルータに接続し,全てのマシンがこれに繋がるようにしていました。デスクトップPC出さえ,メディアコンバータを使ってこれに繋いでいたのです。
しかし,5GHzは2階ではかなり通信性能が悪化して,リンク速度が最善でも54Mbps,悪い時は14Mbpsと,辛抱できない遅さです。しかもAirMacExpressの有線LANは100NASE-TXですので,かりに300Mbpsでリンクしても,100Mbps以上は出ません。
そこで,なんとか2階の速度を向上させる方法を考えてみました。AirMacExpressを2階に置くと,それだけで通信速度は向上します。そのためにはルータとの接続を無線で行う必要が出ますが,そんなことって出来るのか?
実験してみましょう。ADSLモデム/ルータにメディアコンバータを接続し,2階のAirMacExpressに接続します。AirMacExpressは黄色のLEDが光っていて異常を示していますが,ハブと繋げば緑色に変わりました。有線で繋がっていないことを警告しているだけなのですね。
ありがたいことに,ADSLモデム/ルータはきちんとそれぞれのPCから見えており,上りも下りも通っています。WANへの接続も問題なく,これで2階に高速な有線LANを設置する目処が立ちました。
2階にはGbitのハブを置き,これにAirMacExpress,PC,N-30,pogoplug,そしてThinkPadX20を繋ぎます。MacBookProとMacBookAirは,802.11nで繋ぎますが,リンク速度が300Mbps近く出ているので,これでよしとします。
PCはオンボードのEthernetが100Base-TXなので,貴重なPCIスロットを使ってGbitにします。その結果苦労したGeForce6200のカードは外さねばなりません。
しかし,このPCにMacBookProからアクセスしてもあまり速度が上がっていません。ほとんど上がっていないといっても良いのですが,WindowsだしPCIだし,オーバーヘッドも大きいんだろうなあと,あまり深い追いしなかったのです。
しかし,この環境にやってきたばかりのTS-119PIIをpogoplugの代わりにつないで,MacBookProからアクセスしても,遅いのです。おかしいなあ・・・
冷静に考えてみると,AirMacExpressとMacBookProが300Mbpsでリンクしても,AirMacExpressが100Base-TXで繋がっているので,ここがボトルネックになっていました。もともと無線LANは実効速度が遅いので,300Mbpsでリンクしても,どうぜ100Mbpsちょっとしか出ていないだろうから,無線はやめろ,と言う話になります。
そこで,MacBookProを有線で繋いでみました。しかし,これでも随分遅いのです。あまり変わらないといってもいいです。ハブを見てみると,どうも100Mbpsでリンクしているようです。Macを確認しても,リンク速度は100Mbpsでした。
おかしいなあとケーブルを変えると,今後はGbitでリンク。これまでGbitでネットワークを構築してこなかったので,ケーブルも混在していて,ややこしいことこの上無しです。
こうして,MacBookProとTS-119PIIは爆速で繋がるようになりました。USB2.0よりも高速で,esATAに匹敵というのもあながちウソではありません。
ようやくMacBookProとPCとNASをGbitで繋いで,うちのデータの流れを最適なものに出来ました。マシン同士で大きなファイルをNASを介して受け渡せることで,可能性が広がっていくように思います。ADSLはたかだか8Mbpsですので,50Mbpsくらいでリンクしている無線LANでも全然構いません。1階にあるテレビは,もうネットワークから外しましたし。
ところで,2.4GHzの802.11gを残す必要もあり,1階に古いAirMacExpressを設置することにしました。PS3やNintendo3DS,Kindleなどはこれで繋ぎます。そしてこのAirMacExpressにはAirTunesの役割も持たせて,1階のオーディオに繋いでおくのですが,しばらくすると突然ネットワークからこのAirMacExpressが見えなくなってしまい,接続出来なくなるというトラブルに見舞われました。
試行錯誤の結果,AirMacExpressを固定IPで使うと発生することがわかり,ルータにDHCPのエントリを用意してAirMacExpressだけDHCPで使うと,ウソのように問題が消えました。バグでしょうね。
かくして,NASは動き出しました。なかなか高速で,ファイルの読み書きにはストレスはありません。NASがこれだけ快適なら,もう外付けHDDなんてバカらしくて使えないよなあと思いました。
さて,次に各種サーバーの構築です。
ThinkPadX20を停止させるには,web,ftp,DNSの書くサーバーを肩代わりさせねばなりません。ftpはTS-119PII標準のものを使い,DNSはそもそもローカルのサーバーにWANと同じドメインネームでアクセスするために立てたものですので,面倒でもそれぞれのマシンのhostsを編集しておけば,なんとかなります。
WEBもTS-119PIIに標準ですが,私のサーバのblogシステムはperlで書かれているので,TS-119PII標準のphpだけでは動作してくれません。
phpベースのシステムに置き換えることも考えましたが,過去のblogが参照できないとだめなので,面倒でもperlでCGIが動くようにします。
TS-119PIにQPKGをインストール,sshでログインしてipkgでperlをインストールします。apacheの設定を変えてCGIを実行出来るようにして,これでOKのはず,でした。しかし,CGIが動きません。
こういう時にまず確認するべきなのが,ホントにperlが動いているのかということと,スクリプトのパーミッションです。パーミションを変更してやると,動き出しました。
しかし,まだ所々でエラーが出ます。pluginフォルダに読めないファイルがあるとのエラーです。pluginフォルダを見ると,Macでおなじみの不可視ファイルがゴロゴロしており,これをpluginと勘違いして読み込んで,エラーを出しているようです。
スクリプトをftpで流し込むべきですが,面倒なのでafpでMacにマウントて,そこからコピーしたのが失敗でした。
手作業で余計なファイルを削除し,確認すると問題なし。これでwebサーバの移行も可能になります。実はトップのアクセスカウンタが動かなかったのですが,SSIの実行も許可してこれも解決。
そしてすでに現段階で,ThinkPadX20の電源は落とされ,ネットワークからも外されています。それでもこうして動いているのですから,案外簡単だったなあという印象です。
ただ,掲示板が動いていません。ローカルなら動いているのですが,外からだとエラーになるという問題ですが,掲示板は荒らされまくったあげくに非公開としましたから,これを機会に停止してしまおうと思っています。
DNSはちょっと困っていて,ipadやandroidはhostsを編集する事が出来ませんから,ローカルネットワーク内でドメインでのアクセスが出来なくなってしまいました。
まあこれも,iPadもNW-Z1000も家の中で使うものですので,ローカルアドレスを直接打ち込めば済むでしょう。もしDNSがTS-119PIIで簡単に動かさせれば,試してみようと思います。
次にiTunesサーバーです。これは設定だけで簡単です。問題なく動作しましたが,iPadで動かす方法が分からないので,今はMacBookAirだけの機能になっています。
TimeMachineサーバーも動き出しました。知らない間にバックアップが出来ていることがメリット故に,NASで出来れば便利だよなと思っていましたが,それが実現しました。高価なAirMacExtremeを買わずに済みました。
なんといっても,USB接続より高速なNASです。TimeMachineも案外速く動作してくれて,大助かりです。
最後にDLNAです。高級オーディオメーカーでネットワークオーディオの先駆者であるLINNの推奨NASがQNAPのものであることから,ネットワークオーディオには相性が良いはずで,pogoplugではだめだったFLACの再生,そしてメタデータの扱いも万全です。
しかし,手元にある膨大な音楽ファイルは,pogoplugのためにすべてWAVで用意しました。これをFLACに変換すれば楽勝と思っていたら,メタデータが全く入らないのですね。困りました。
あきらめてしまうか,ちゃんと手作業で入れるか,大いに迷うところです。ということで,DLNAまわりについては,まだ稼働していません。
あとはプリンタサーバーですが,これはまあUSBで繋ぐ方がプリンタのステータスも見れるのでありがたく,他のマシンで共有することもしませんから,無理に使うことは考えていません。
ふう,ここ3週間ほどでようやくここまで来ました。写真や動画の共有はDLNAの関係もありまだ行っていませんが,焦らずぼつぼつやっていくことにします。少なくとも現段階で相当状況が改善されているので,ひとまず安心というところです。
まだまだ細かい調整が必要ですし,HDDの障害に対する備えも考えないといけませんが,念願だった高性能なNASの導入ができて,とりあえずよかったと思います。
でもね,1ベイならもっと安いNASでも良かったかなあ,なんて思ったりしています。