米からパンを作る事が出来るGOPAN。三洋電機が発売した画期的なホームベーカリーで,米からパンが出来るという唯一無二の特徴もそうですが,普通のパンはもちろん,お餅をついたりケーキが出来たりと,私が望むホームベーカリーの性能をほぼすべて満たしていたため,初代モデル発売と同時に速攻で購入しました。当時かなり話題になり,品薄になったことも記憶に新しいところです。
当時5万円くらいしたと思うのですが,大きさ,重さに驚き,そして米を砕くミルの音に腰を抜かしたトンデモない商品で,この爆音で発売できるのは三洋だからだろうなあなどと,その牧歌的企業文化に羨望の眼差しを送ったものです。
購入後半年ほどで一度壊れてしまい,電話をすると新品交換になりました。それ以後は故障知らずで,爆音に注意しながらも週末の米パン作りは,私の習慣となっていました。
さすがに2年以上も使っていると,ミルの付いた羽根が怪しくなり,固着して動かなくなったり,ミルの回転が不安定になったり,パンケースのシャフトが固着してしまったりと,ここ半年ほどはまさに騙し騙し使っていました。
それでもさすがにノウハウもたまるもので,米パンはグラハム粉を入れたオリジナル。小麦のパンもケーキも独自のレシピで美味しく食べることが出来ていました。
引っ越しの際にはたくさんの廃棄物が出るので,もう壊れるまで時間の問題であるGOPANも一緒に処分したのですが,これは3月末に新機種が出ることを見越しての事です。そして先日,早速新型GOPANを買いました。
GOPANのブランドを継承する正常進化形だと思いますが,そこは三洋のGOPANではなく,パナソニックのGOPANです。三洋のアイデアをパナソニックがどう形にしたのか,全然別物になったはずと期待と不安を交錯させながら,週末に米パンと小麦パンを1つずつ焼いてみたので,旧機種との比較を軸に,ちょっとレビューです。
旧機種は三洋時代のSPM-RB1000,新機種はパナソニックのSD-RBM1001です。購入価格はネット通販で34800円でした。
・外観
まず小型になったというのが新型GOPANの大きな特徴なのですが,奥行きについては実は大きくなっています。旧型が282mmなのに対し,新型は315mmと30mmほど大きくなっています。
嫁さんはこのあたりに敏感で,予定していた収納場所の扉がギリギリであるのを見て,大きくなったのね,とつぶやいていました。さすが,女の人はこういうところはごまかされません。
他のサイズは大幅に小さくなっていて,私はそのあたりですっかり騙されてしまいました。
横幅は旧型が358mmに対し新型は240mm,高さは旧型の387mmとあまり変わらず新型は386mmになっています。横幅がかなり小さくなっているのは,モーターを2つ搭載しなくて済んでいるからなので,まあ勝手に小さくなったといえなくもありません。
重さについては旧型が11kgに対し新型が8kgです。10kgを越えると急激に重たく感じるものですので,この軽量化は歓迎すべきですが,だからといってテーブルや家電ストッカーに置こうと思うほど軽い物でもありませんから,相変わらず床に置くことになりそうです。
形はパナソニックのホームベーカリーと似たようなものに変更されていて,かつてのGOPANを思わせる物はなくなったようにおもいます。
そうそう,フタに付いていたのぞき窓がなくなりました。中身が見えると安心だから,という三洋の考えは正しく,一方で熱が逃げるから廃止したというパナソニックの意見も正しいです。私は,かつてのGOPANで窓から中身を見ていて失敗に気が付いてやり直せたことがありましたから,窓がなくなってしまうことで失敗に気が付かないことが不安です。
・付属品
旧型が細々とした付属品が多すぎたように思うのですが,新型も基本的にはこれを踏襲しています。ただし,スプーンは旧型がサイズごとに分かれていましたが,新型では集約が進んで数が減っています。ちゃんと使えればそれでいいのですが,慣れてくればいちいち計量しないで材料を投入しますから,スプーンくらいは前のままにして欲しかったなあと思います。
スプーンで言えば,グルテン用のスプーンがいけません。旧型は1杯で50gになるような,大きなスプーンが付属していました。新型もグルテン用として専用の物が付属していますが,随分小振りです。
これがいけないなと思うのは,このスプーンで50gを計るのが出来ないことです。スプーンを小型にするなら2杯で50gとか3杯で50gとかにしてくれても良さそうなのですが,2杯入れても3杯入れても全然関係ない重さになるのです。結局キッチンスケールの世話になる羽目になりました。
これだったら,別に専用のスプーンなどいらないわけで,詰めが甘いよなあとがっかりしたところです。
グルテンはGOPANに特有の裁量ですから,きっと専用のスプーンが付いてくると思っていたので,旧型のものは捨ててしまいました。こんなことなら捨てなければ良かったと反省することしきりです。
生種を起こす器は,旧型が立派な瀬戸物,今回はプラスチックになっています。このあたりは結構なコストダウンに貢献していると思いますが,私はもともと生種を使うことはしませんでしたから,オプション扱いにしてくれても良かったくらいです。
そうそう,付属品といえば,羽根です。
米パン用の羽根は大幅に改良されています。まず,羽根そのものに可動部分がなくなりました。これがトラブルの原因だっただけに,歓迎される改良です。
ミルについては,以前のような鋭利なカッターが高速回転するのではなく,押しつぶすような感じで砕いていく仕組みに変わりました。そしてカッター部分は取り外しが出来るようになり,掃除も楽,おそらく耐久性も信頼性も大幅に向上したと思います。
そして,底面の部品です。旧型はここがバカになり,使っている内に簡単に外れてしまうようになるのですが,新型ではちゃんと金属製の板バネがついており,確実に装着が出来ます。これも信頼性は高そうです。
グルテンケースは以前のようなアルミではなく,耐熱プラスチックです。フタだけはアルミですが,内側はフッ素コートされています。それより,ケースの大きさが以前よりも随分小さくなっていますね。グラハム粉は当分入れない予定でしたが,このサイズだとちょっと入らないかも知れないです。
・操作方法
旧型は,米,小麦,調理と,モードによってキーが分かれており,それぞれのキーを押すと画面にどのメニューかが表示されていたので,慣れてくればマニュアルは見なくても大丈夫でした。
新型は小型化のせいかも知れませんが,すべてのメニューを番号で管理し,しかもその番号を上下キーで選ぶ仕組みになりました。ですから,本体に番号とメニューの一覧表を示したステッカーを貼り付けるようになっているのですが,これがまたなかなか面倒なのです。
番号ですから,間違いには気が付きにくく,いろいろ失敗しそうです。
あと,パンケースの着脱ですが,旧型と違い,左に少しひねって取り出す構造に変わりました。これはこれでいいのですが,パンケースの足の部分が旧型よりも長くなっていて,取り出すときにいつも本体の縁にぶつけています。
・音
音は,もう圧倒的に新型です。旧型のそれは,電動工具か道路工事か,ドライヤーや掃除機も真っ青になる爆音で,動作中は話も出来ず,とにかく設置場所から待避するしかないひどい物でした。
音の大きさもひどかったですが,なにせ高速回転する物ですので,明らかに周波数が高いんですね。大きい上に耳障りで,よくもこれが製品化できた物だと思います。
ところがこれが新型になると,普通のホームベーカリーと変わらないです。ミルの仕組みが変わったこと,これに伴いゆっくり回るようになったことが大きいのだと思いますが,グイーンという音から,ゴロゴロゴロというゆっくりとした低い音に質も変わり,これなら全然大丈夫です。
実は,米パンを食べさせるとほとんどの人が「欲しい」というのですね。でも私は絶対におすすめしませんでした。いろいろ欠点はありますが,この爆音という点については,一般の人が常用する家電の域を超えるものです。
しかし,新型は静かで,これならおすすめ出来ます。
練りの行程も静かで,動作していることを忘れるほどです。
そして,なにが感心したって,そのモーターの制御の巧みさです。旧型は2つのモーターを切り替えることと,それぞれのモーターをON/OFFするだけだったのですが。新型はモーターの制御がインバータによる実に精密な回転数制御を行っています。ミルのような力任せの行程でさえ,細かに回転数を制御しています。
三洋は,アイデアは素晴らしいのですが,残念ながらモーターの制御技術でパナソニックに列ばなかったようです。パナソニックはさすがで,このモーター制御の素晴らしさには,感心しました。
・米パンの出来具合
まずは取説通りに材料を入れて,米パンを作ってみました。ただし油脂についてはバターではなく,旧型で常用していたオリーブオイルを使っています。
出来上がりは実に立派で,大きく膨らんでいます。美味しそうに焼けているので,最初からこれはさい先が良いなあと思っていたのですが,食べてみると何だか味は今ひとつです。
美味しいには違いはないのですが,旧型の米パンに比べると,パンの耳の香ばしさもなければ,生地の香りも薄いです。
米パンはチーズとハムのような塩味のものを挟むと実に美味しく食べられたのですが,今回の米パンはそんなことはなく,大変上品ですが個性のないパンになっているように思います。
嫁さん曰く,米パンなのに普通のパンみたいといっていました。これは実は大したもので,米パンが普通のパンのような形,味になったと言うのは,米パンとしては最終目標かも知れませんが,一方で米パン独特の味をが支持されたことも初代機のヒットにつながっているわけですし,私も米パンらしい味わいを期待していただけに,まずくはないんだけど,期待した程でもない,というこの結果に,ちょっと残念でした。
何だかんだで,旧型の米パンは2年半ほど,ずっと食べていても飽きることはありませんでした。それは,出来たての味の良さが素晴らしかったからですが,新型の個性のなさは,もしかすると食べ飽きるようになってしまうかも知れません。
・小麦パンの出来具合
小麦のパンは,旧型で私が使っていたオリジナルレシピをつかってみました。強力粉の量が250gと,1kgの袋で4回作る事が出来るように工夫したレシピです。
出来上がりはこちらも実に立派です。まだ食べていませんが,これも味が違っていたらどうしようかなと思います。
・まとめ
なんといってもミルの音が小さくなり,そしてその質も変化しました。これならもう合格点だと思います。
悪く言えば,三洋はこのあたりは凄く緩かったんだと思います。三洋の家電部門のうち,パナソニックに吸収されたのはGOPANの部隊くらいなものです。この引き取ったGOPANは,アイデアも特許も素晴らしいものでしたが,なにより音でパナソニックの基準を満たさなかったんじゃないかと思うのです。
三洋なら発売できても,パナソニックなら無理。それで,とにかくこれを何とかしようと,得意のモーター技術を投入して誕生したのが,新型のGOPANなんじゃないでしょうか。
取説もそうですね。三洋の取説は読みやすさに過剰な配慮がない分,慣れれば必要な情報にさっとアクセス出来る取説だったのですが,新型の取説は,GOPANの取説をパナソニックが作ったらこうなった,というそのままな感じです。
いかにも主婦向けに作った物で,フルカラーでイラストも多いのですが,どうもわかりにくいのですね。うまく焼けないときの対策がとにかく丁寧に書かれていて,いかに旧型の再現性が低いものであったかがわかりますし,そのことで随分クレームが入っていたんだろうなと思います。
しかし,プロセスまで変わってしまったことがちょっと気に入りません。失敗を防ぐためかも知れませんし,ミルの仕組みが変わった為かも知れませんが,焼き上がりまでちょっと時間がかかるようになったことと,何より味が変わってしまった事が問題だと思います。
最後に,やっぱりスプーンですね。グルテンのスプーンは2杯で50g,あるいは1杯で50gになるようなスプーンにしてください。
それとイーストも,専用のスプーンを入れて下さい。取説では1g単位のスケールを使えとありましたが,数gを計る必要があるイーストは,0.1g単位のスケールでないと誤差が大きすぎて駄目です。
最近,5000円未満で売られるホームベーカリーもありますが,それらは付属品が少なかったりするそうです。一応GOPANは高級機ですし,失敗のない確実なパンを焼くようにすることを目指しているなら,スプーンをけちったら駄目だと思います。
てなわけで,まだ2つしか焼いていません。ざっとレシピブックを見れば,旧型のGOPANから極端に変わったレシピはないようです。であれば,私のレシピやノウハウも通用する可能性が高いです。とにかく米パンをもっと美味しく焼くこと,そしてケーキを作ること,小麦のパンはフランスパンを美味しく作る事が出来るように,目指していこうと思います。
どちらにしても,GOPANのような特殊な商品が,パナソニックで継続していることが驚きです。もう次の世代はないかも知れないと思うと,この機械を使いこなさねばならないなあと思います。