HP53131Aにプリスケーラを作って内蔵
- 2016/06/30 14:52
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先日手に入れたHP53131Aに,3GHzのプリスケーラを作って内蔵してみました。
HP53131Aは2ch入力で,約200MHzまでカウント可能な高性能なユニバーサルカウンタですが,プリスケーラをch3として増設することで,入力端子が1つ増えると共に想定範囲が大きく拡大します。
純正品は高価ですので,互換品を安く売る業者もあるし,個人で自作する人も多いです。調べて見ると簡単そうですし,特殊な部品も使わないようなので,私も作ってみたというわけです。
HP53131Aのプリスケーラは1/128の分周比を持つもののようです。純正品は広帯域アンプを4段重ねて合計30dBのゲインを持たせてあり,その出力を1/128の分周器に突っ込んであるだけです。
CH3が使えるかどうかは,本体のCPUのGPIOがHighなのかLowなのかで判定します。
回路は確かに簡単かもしれませんが,なにせ3GHzという高周波を扱う上に,小さな信号を結構なゲインで増幅しますので,きちんと動作する物が出来るかどうかは,実装次第なところがあります。
今手に入る部品で作ろうと思いましたので,とりあえずこういう時の秋月にGo。するとちょうどいい部品がありました。
まず,広帯域アンプのICは,なんとちょっと前まで最先端だった夢のSiGe,SGA-6386が2個200円で売っていました。帯域はDCから3GHz,ゲインは2GHzで13.3dBということです。
単電源で動き,50Ωで終端されているのでとても使いやすそうです。まあ,この手のICはみなそうなのですが,私は以前ミニサーキットのMAR-6を使った広帯域アンプを使って,アンプではなく発振器を作ってしまった苦い思い出があり,苦手意識が根付いてしまいました。
この時は1.5GHzくらいのアンプだったと思うのですが,それが今後は3GHzですから,さらに難しいでしょう。むむ,大丈夫か?
ところで,SGA-6386のゲインは先程書いたように2GHzで13dBあります。1GHzで15dBもありますので,30dBを実現するには2つで十分ということになるのですが,あんまりゲインを上げるとこわいし,消費電流も多くなるので,私は1段だけにしました。純正品の30dBに対し,15dBで妥協します。
プリスケーラICは手持ちのMB508を使ってみるかと思いましたが,入手が難しいこともあり,保守を考えて秋月で変えるuPB1507GVを使うことにします。uPB1507はいいICですが,低い周波数での感度が悪いらしく,ここはMB50xシリーズの方が良い感触のようです。
ですが,もともとHP53131Aは200MHz以上の帯域をプリスケーラなしで実現しているカウンタですので,200MHz以上で動いてくれれば,それでいいんじゃないかと割り切ります。
あとは手持ちの部品箱から,チップのコンデンサと5Vのレギュレータを探してきます。アンプは12Vで動かしますが,プリスケーラICは5Vでないといけませんので,このレギュレータは必須です。チップ部品を使う予定でしたが,あいにく手持ちがなかったことと,最大入力電圧が案外低いものしかないので,昔ながらの78L05を使いました。
そうそう,保護用のダイオードも欲しい所ですが,これも秋月で1SS154が安価に売られていますから,つかってみます。実は,HSMS-2822の方が1パッケージに2つ入っているので便利だったのですが,なんとなく1SS154にしました。
基板はわざわざ作る事はしませんでしたが,かといって蛇の目基板ではさすがにダメだろうという事で,ガラエポの両面生基板をカットしました。どういう経緯だか忘れましましたが,うちにはたくさんあるんですよ,ガラエポの生基板が。
両面ベタGNDで,必要に応じてリューターでパターンを作ります。結構楽ちんで作る事ができました。
さて,手持ちの部品がなくて,結局新しく買うことになったのが,コネクタ類です。まずはBNCコネクタですが,パネル取り付けタイプのBNCコネクタがたくさんあるのでこれを使おうと思ったところ,本体の穴が大きすぎてうまく取り付けられません。仕方がないので基板取り付けタイプを買うことになりました。
また,本体のメイン基板との接続には,10ピンx2列のコネクタが必要なのですが,これも手持ちがなく,フラットケーブルもありませんので,秋月に売っている100円のケーブル付きのコネクタを買いました。
さて,部品が揃ったところで,組み立てです。
部品点数に対して基板がかなり大きいので,そんなに気を遣うことはありませんが,あまり大きい実装をすると動作が心配です。出来るだけ小さく作ります。
まずuPB1507GVをハンダ付けです。入力端子にコンデンサとダイオードをハンダ付けしてから,SGA-6386をとりつけます。基板を削ったりしてすべての部品をハンダ付けするのに,1時間ほどで出来ました。
ケーブルとコネクタが届く前に,基板での動作確認をします。まず消費電流は規定値内です。とりあえずへんな発振はしてないようです。
入力にSGの128MHzを入れ,出力は53131AのCH1に繋ぎます。これで1MHzと出てくれば動作しています。ですが,23MHzあたりのでたらめな数字を示しています。オシロで波形を確認しても,それらしい波形は出てきていません。
アンプICの前後を調べると,入力にはちゃんと波形が見られるのに,出力にはほとんど波形が出ていません。苦手意識のある高周波増幅回路が動いていないという現実は,なかなか重たい物があります。
ふとSGA-6386を触ってみると,かなりの発熱です。こりゃやばい,配線ミスか発振だと,あわてて電源を落とします。改めて仕様書を確認すると,電源電圧の最大定格が5Vとあるじゃありませんか。
12Vで使ったらだめなのかよー,とがっかりしたのですが,過電圧で発熱したICは壊れているか,性能が著しく劣化しているものなので,もったいないですが交換です。
交換して,今度は電源を78L05の出力から入れてみます。電源を投入しますが,やっぱり状況は変わらず。発熱はなくなりましたが,波形は全然です。
ここでちょっと頭を冷やしましょう。
・・・
改めて仕様書を見てみると,確かに電源電圧の最大定格は5Vですが,このICは電源端子があるわけではなく,出力端子にバイアス抵抗を介して電源を供給します。仕様書には12V時のバイアス抵抗の値が書かれており,私はこれを見てバイアス抵抗である91Ωを取り付けていました。
ということは,電源は12Vでいいんですよ。あー,交換しなくて良かったのに!
まあ,済んだ事は仕方がありません。電源のミスではないなら,なにが原因なのか,考え直さないといけません。
もう一度基板を眺めてみます。回路図と確認すると,あったあった,間違いがありました。SGA-6386の電源に入れるバイパスコンデンサですが,私はなんと勘違いをして,SGA-6386の出力端子とGND間に入れていました。
これじゃ,出力端子が交流的にGNDに落ちてしまい,せっかくの出力がでてこなくなります。
このコンデンサを正しい場所に取り付け直して確認すると,ちゃんと動きました。128MHzを入れると,カウンタは1MHzを表示します。
波形を確認したのですが,電圧ゲインは50Ωで5倍でした。電力のゲインが25倍になるとすれば13.9dBです。大体設計値通りですね。波形はあまり綺麗ではないのですが,一応動いているという事で,53131Aに取り付け作業を行うことにしましょう。
こんな感じです。
本当は,基板が完成した所で写真を撮るつもりだったのですが,すっかり忘れていました。見肉ですが,取り付け後の写真です。基板上に黒い大きな部品がいますが,これは78L05です。主役たるプリスケーラも,広帯域アンプも小さすぎて良く見えません。
数日後,コネクタ類が届きました。回路図通りにコネクタを取り付けて内蔵してから,電源を入れます。お,ちゃんとCH3が選べるようになっていますよ。
SGから128MHzを入れてやると,ちゃんと128MHzと出ています。よしよし。
しかし,さすがに100MHz程度の周波数では,感度が低くてダメですね。CH1やCH2に比べると,感度が低くてどうしようもないです。
ということで,一応トラブルもなく,プリスケーラを自作して内蔵することができました。よかったよかった。
え,これで終わり?動作確認は?
そうなのです。実は私,130MHzを越える周波数の信号源を持っていないのです。ははは。プリスケーラなんて,全く必要のない世界の住人だったのです。
動くかどうかも,感度がどれくらいかもわからないのは気持ち悪いですが,いつかGHzオーダーの信号が手に入ったら,動作の確認をしてみたいと思います。