ニコンF2が復活
- 2021/08/30 16:10
- カテゴリー:カメラに関する濃いはなし
~前回のあらすじ~
幕速測定を偶然行ったところ,F3に比べて速すぎるという結果が出たF2。このままでは壊れるかもしれないと慌てた私は,幕速をF3程度に落とす。
すると低速側のシャッタースピードが全然合わないのでスローガバナー分解清掃を試みるも改善せず。原因は後幕のテンションを落としたことにあるとわかり,元の幕速に戻す。
しかし,シャッタースピード高速側も低速側も壊滅的状態。調整を試みるも悪くなるばかりとなったF2の,それまで手を入れてなかった部分にも分解の魔の手が迫る。
シャッタースピードダイヤルの中板を外され,何度も死線を彷徨うF2。なんとかシャッター幕が走るようになったとはいえ,もう二度とシャッタースピードが合うこともない。
どうなるF2!
ということで,幕のテンションを元に戻したのに低速側も高速側も調整出来ません。高速側は1/2000秒のカムのすり割りを迂闊に広げてしまったせいもあり,これを元に戻そうとカムを傷つけてしまったように思います。
低速側は,ガバナーの音がおかしいので,壊れてしまったのかも知れません。機械式と系と同じ微妙な仕組みですので,壊れるのも無理はないです。
そこで,私はとうとう最後の手段を考えました。別のF2から部品を移植します。
私が手に入れたF2は最初期のF2で最初のフォトミックです。Ai対応のフォトミックAが欲しくてボディが壊れているジャンクを探したところ,ボディもファインダーも壊れているというハズレを引き当て,とりあえずフォトミックAファインダーだけ修理を行いました。
ボディは右肩を強打し変形させていますが,動作そのものに問題はなく,製造時期も少しだけ後のようです。内部の機構も比べて見ると結構違います。
このままボディごと交換してしまうことも考えたのですが,ぶつけているのはもうフレームに歪みが出ている可能性があると考えて,部品取りにおいてあったのです。
ここから,まずは復活出来そうにないシャッタースピードダイヤルとカムを中板ごと移植します。最初バルブや高速側が全然動作しなくなったので焦りましたが,なんとか組み直して動くようになりました。
これで1/2000秒が無理なく出ます。次は低速側です。
低速側も全然合いません。これもあきらめて,ガバナーを移植します。するとまあうそのように,綺麗にシャッタースピードが合うようになりました。
理由はともかく,これらの部品が私の分解によって壊れてしまったということです。最初に幕速など確認しなければよかった。シャッタースピードがきちんと出ているんだからわざわざ幕速をいじることなどなかったのです。
ということで,数日かけて幕速を元の速度(さらにいうとこれは部品取りF2の幕速でもある)にあわせ込み,シャッタースピードを根気よく合わせていきます。
上手くいったらペイントで固めます。
そして以下の結果となりました。
1 1030ms
1/2 540ms
1/4 236ms
1/8 122ms
1/15 63.58ms
1/30 33.58ms
1/60 13.38ms
1/80 12.38ms
1/125 9.38ms
1/250 4.18ms
1/500 1.94ms
1/1000 1.17ms
1/2000 0.54ms
なんか良い数字が並んでいますが,実は1/1000秒と1/2000秒は大きくばらつきます。1/2000秒は0.3msから0.8msくらいまで,1/1000秒は0.8msから1.3msくらいまで,特に違う速度から切り替えた一発目は大きく狂います。
この数字は一応すべてJIS規格に入っていますので,これが安定して出ているなら満足なんですけどねえ。
この前日に測定した結果を参考までに。なんと1/1000秒がJIS規格外です。
1 969.9ms
1/2 495.9ms
1/4 227.9ms
1/8 122.9ms
1/15 62.32ms
1/30 32.72ms
1/60 13.12ms
1/80 12.12ms
1/125 9.02ms
1/250 4.04ms
1/500 1.88ms
1/1000 1.34ms
1/2000 0.67ms
さらに,いじる前の状況は以下だったのです。なかなか良いですよね。
結構安定して出ていましたし,中古で無保証のF2をなにもいじらずこれだけ出ていたんですから,大したもんですよ。つくづくいじらなければよかったなあと思います。
1 1050ms
1/2 496ms
1/4 254ms
1/8 124ms
1/15 60.0ms
1/30 33.0ms
1/60 14.2ms
1/125 8.60ms
1/250 3.90ms
1/500 1.80ms
1/1000 1.00ms
1/2000 0.39ms
ところで,今回の修理は改善がまったくなかった訳ではありません。
1つは巻き上げレバーの予備角について。これまではロック状態から引き上げるときのトルクが小さくて,巻き上げ角一杯にレバーを巻いて,そこから指を離すと勢いでロック位置までレバーが動いてしまうほどでした。
明らかにおかしいなあと思っていましたが,今回きちんと確認すると,ロック位置のバネを固定するネジの中板側に作られたネジ山が,なめていました。
そのせいでバネが浮いて弱くなってしまったようです。なにせ中板のネジ山ですので巻き上げ部を全部交換しないといけなくなりました。しかし意を決して交換してみると,良い感触になりました。
もう1つもやっぱり巻き上げレバーなんですが,ロック位置でレバーが止まらず,シャッタースピードダイヤルにレバーがぶつかっていたんです。そのせいでダイヤルを回すとダイヤルのローレットがゴリゴリとレバーの指あてを削っていました。
ニコマートやFEでもカリッとロックがかかるのに,フラグシップのF2がこんなにルーズでいいんかいな,と思ったんですが,どうにもならないのでそのままでした。
今回,結局原因はわからなかったのですが,ロック位置はシャッタースピードダイヤルの裾の部分にある飾り環と指あてがぶつかるところで決まるみたいで,今回は組み上げるとちゃんとロック位置が出ているようです。
というわけで,幕速をいじらなければ,あるいはマーキングをしておいて引き返すことができれば,こんな大ごとにならずに済んだんじゃないかと思います。面倒くさがらずにマーキング,面倒くさがらずに写真を残す,これはとても大事なことだと思いました。
部品取りのF2が役立ったのは事実ですが,やっぱり交換の必要が発生したのは私が部品を壊したせいでしょうし,いくらF2とはいえ製造後50年近くも経過したカメラですから,ちょっとしたことで壊れてしまうものなのでしょう。
今回は怖かったのでいじりませんでしたが,シャッター幕やドラムや軸,テンションを出すスプリングもちょっと触れば交換しないといけないくらいになっていた可能性があります。今シャッタースピードがばらつくのは,それらがすでにおかしいからかも知れないと思っています。
どちらにしても,完全メカ式のカメラとしての魅力あふれるF2を元にも戻せてなにより。結局幕速は謎のままになりましたが,もうこれ以上あれこれといじることは控えたいと思います。
それでも,F2をかなり分解しました。シャッターが走る仕組みも概ね理解出来たと思いますし,それはよく出回っている某修理本やサービスマニュアルには書かれていないもので,しかもネットでも出てこないようなものです。おそらく修理屋さんの秘伝なんでしょうね。
せっかく修理が出来たんですから,今度持ち出してみようと思います。