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2021年03月の記事は以下のとおりです。

ORWOのUN54とGR1の修理

 たまりに溜まった未現像のTRI-X(15年ほど前にヨドバシで購入した長巻)を,意を決してようやく現像を始めた結果,あいたパトローネがゴロゴロ発生,ようやく20本ほど確保出来たところで,次に控えるORWOのUN54を巻き終わりました。

 どうしてだかわからないのは私の知識不足と経験不足なので恥ずかしい限りですが,とにかくこのUN54のグラデーションが好印象で,白と黒のレンジの広さと滑らかなグラデーションを見て,ようやくこれを手にしたとしみじみ思うのです。

 いやね,きっと他のフィルムでも上手く扱えばこういうネガって作れるはずなんだと思うのです。それは私が知らないだけの話であって,決してフィルムの個性に逃げてしまったらダメなんだと,それは強く思います。

 でも,TRI-Xを温度や時間を変えてもこんなネガにはならないですし,Plus-Xにしても眠いだけのネガになります。似たようなフィルムであるイルフォードのHP5やFP4でも同様で,白と黒のレンジを広げれば粒子は荒れて,グラデーションも美しくありません。

 ほら,1960年頃までの自動車や鉄道車両,大型の工業製品などの写真で,カタログに載せたりするような形式写真って,まるでイラストやCGのような精緻な感じがあるじゃないですか。あれってきっと大判で撮っているんだと思うのですが,高度成長以降はああいう精緻な写真がなくなってしまい,我々が目にする普通のものに切り替わったような気がするわけです。

 以前少し昔の写真について調べたのですが,よく分からないまま終わってしまったので大ハズレかも知れないのですが,何が言いたいかと言えばORWOのUN54というのは,こういう精緻な写真を簡単に撮影出来る,私にとっては魔法のフィルムであるということです。

 最大の難点は長巻しかないこと,それと購入出来る場所が極めて限られていることですが,普通の撮影と普通の現像でこれだけ沈んだ黒と抜けた白,そしてその間を滑らかに繋ぐ濃淡の変化を手に入れられるというのは,私にはちょっと他を思いつかないのです。

 出来る事なら中判があったり,そこら辺でも手に入る有名なフィルムだといいなと思うのですが,みなさんどうしてらっしゃるんでしょうね。

 閑話休題。

 TRI-Xは使い慣れたフィルムで結果が予測出来ることがメリットですし,私にとってはISO400を常用するきっかけとなった偉大なフィルムですが,今のして思うと私好みの画質ではなく,なんか無理して使ってたような気もします。

 そんなフィルムで既存のカメラやレンズを評価してきたわけですが,このORWNのUN54を使ってみたら,なんとまあ目の覚めるようなモノクロ写真が上がってきます。そしてこう思う訳です。これこそが本当のレンズの実力ではないのかと。

 なら,これまでどうも苦手意識があり,でも世の中の評判は抜群というレンズを,このUN54で試すべきなんじゃないかと考えるわけで,その時真っ先に閃いたのが,GR1です。

 GR1って,とにかくレンズがよいと言われています。でも私はそんな風には思っておらず,同じ28mmならSMC Takumar28mmF3.5が最高だと思う偏屈です。

 GR1はそのコンパクトさと軽快さに神髄があり,一眼レフを振り回すことに慣れた私にはそれほどのメリットとは思わずここまで来てしまいました。もちろん,レンズの性能が一定の水準を満たしていないとこういう話にすらならないので,28mmならなんでもいいかといえば,そんなことはありません。

 でも,出てきた画像はなんとなく凡庸ですし,そんなに切れ味も良くなく,透き通るような透明感もないですし,発色も今ひとつと,当時らしい写真になりがちだなと思っていました。TC-1なんかだと,どんな感じなんでしょうね・・・

 この印象は現在のデジタル化したGRでも同く変わらず,GRで撮った写真はどこか陰鬱で,華やかさに欠け,その代わり何かしらのメッセージを仕込むポケットが備わっているような気難しさがあり,私にはちょっとしんどいわけです。

 こういう傾向がずっとぶれないことはすごいと思いますし,さらにいうとこれを支持するファンが市場を維持できるくらい存在することも驚きで,一体写真のファンというのはどんだけどんだけレベルが高いのかと,見上げる高みに私などはため息が漏れます。(これは皮肉ではありません)

 何事も経験かと若いときは思っていましたから,理由も理屈もなくがむしゃらに立ち向かったときもありましたが,もうそんな年齢でもありません。終わりが見えてくれば,今あるもので何とかしようとまとめに入るもので,手元にあるものが僅かでも毎日新しい物に出会える若さが,とても羨ましいです。

 しかし,チャンスです。GR1にUN54です。もしかしたら,GR1の真実を見る事になるかも知れません。ずっと憧れた写真がいよいよ手に入る可能性があります。

 そんなワクワクで撮りだしたGR1。電池が切れていました。

 電池を購入して動かして見ると,案の定LCDが死んでいました。

 のみならず,ファインダーのブライトフレームも死んでいました。

 まあGR1の持病ですし,予想していた事ではあったのでそんなにショックでもなかったのですが,ファインダーは自分のGR1だけは台上だろうという根拠のない盲信があっただけに,落胆もそれなりにありました。

 一方で,なにか吹っ切れました。

 LCDで見たい情報ってなによ,そもそも煩雑な割には役に立つ情報が少ないGR1のブライトフレームって必要か?という根本的な話に立ち返ったところで,なら壊してもいいから,一発修理をやってみるかと思い立ったのです。

 以前,LCDについてはフレキを基板の接着を復活させるために,100℃くらいのコテで圧着して修理したことがありました。しかしこれは暫定的な物に過ぎなかったことがはっきりしています。

 ならば,この接着をやり直す,具体的にはこの接着剤を新品のものに帰ると言うことやればいいのではと思ったのです。

 そのために必要なのは,新品のLCDユニット。でもそれはもはや入手不可能です。でも同じような事を考えるのは海外にもいらっしゃるようで,有名なiFixitにも同じ例が出ていますし,台湾あたりでは修理業者もいるようです。

 iFixitの記事では,この手のフレキの接着に使われる定番の両面テープ,3Mの9703が使われていました。Z軸電気導電性テープとか,異方性導電テープとか言われている特殊なテープで,電気を通すテープなのですが,電気を通すのは厚み方向(Z軸)だけで,縦と横という平面の方向には電気を通しません。

 ということは,基板とフレキをただ位置を合わせて接着しさえすれば,端子の接続が一発で出来る上に,固定まで出来ちゃうと言う恐ろしい発明です。

 かつて,ゼブラゴムと言われた導電ゴムがありました。あれは液晶と基板を繋ぐ物だったのですが,電気を通すゴムなのになんで端子同士がショートしないのかと思った方も多いでしょう。

 あれも実は異方性導電ゴムと言われていて,横方向は絶縁されていて端子のショートはなく,縦方向には導通するという性質があるのですが,それの両面テープバージョンが,この9703というテープなのです。

 GR1のLCDのフレキはカーボンタイプで,電流は流せませんが薄く作れますし,曲げにも強いです。ただしハンダ付け出来ないですし,コネクタを使うことも難しいですから,実質この異方性導電テープで接着するしかありません。

 ただ,粘着テープですから,いずれ剥がれてきます。ならば交換すればいいでしょう。

 しかし問題が2つ。そもそも9703って手に入るのか,もう1つは交換する(リワークする)ことが出来るのかということです。

 入手については,最初は少量は難しいかなと思っていましたが,ありがたい事にスイッチサイエンスに少量の取り扱いがあり,簡単に入手出来ました。

 次にリワークですが,これはかなり難しそうです。基板から剥がすときに,フレキ側のカーボンを剥がしてしまいます。そうなるともうこのフレキはアウト。二度と使えません。

 やってみるしかないよなと,さっさと上カバーを外して,フレキを剥がしていきます。案の定,カーボンを剥がしてしまいました。幸い,フレキその物は無事でしたが,これではもう改悪になるかも知れません。

 でももう進むしかありません。綺麗に剥がしてアルコールで糊を落とします。9703を切って基板に貼り付け,位置を確認しながらフレキを押さえつけます。

 しわになったりしてなかなか美味くいかず,10回ほどもやり直したと思うのですが,見た目には完璧でも全く表示が出てきません。指で押しても出てきません。

 これは根本的に何かを間違っているのかも知れないと焦りましたが,両面テープを使わず押しつければ綺麗に表示が出てくるので,フレキの問題ではなさそうです。

 それならと綺麗に接着したあと,加熱したらどうだろうと100℃ほどで熱してみました。最初の10秒ほどは反応なし。しかしその後はぱーっと表示が出てきました。

 9703のデータシートには,圧着だけでいいと書いてあったように思うのですが,場合によっては熱を加えることも必要かもとも書かれていました。

 熱はフレキも基板も傷めるのでやりたくなかったのですが,もう仕方がありません。30秒ほど加熱して,LCDは完全復活です。

 ブライトフレームは深刻で,なかなか上手くすべてのセグメントが点灯しません。キリがないので250と500の表示は薄いままですが,ここで手を打ちました。

 一晩放置して確認したところ,悪化するようなこともなかったのでそのまま組み上げて,念願のUN54を装填しました。

 今のところ問題なく動作していますが,まあもって半年,ってとこでしょう。今度はフレキが持たないでしょうから,もう一度修理するという事が出来そうにないですし,次ダメになったらLCDはあきらめるということになりそうな気がします。

 1990年代以降の工業製品というのは,長く使えるような素材だけで作られていなかったり,あるいは交換可能なものになってなかったりするので,ほかがどんなに優れていても,たった1つの安い部品で全部がダメになったりします。

 その安い部品のおかげで,その当時は高性能と低価格を満喫できた訳ですから文句も言えないのですが,いい物ほど残したいわけで,残す事も性能1つのだと認めてもらえるような時代になったらいいなあと,そんな風に思います。


 

新しいレンズをお迎えする

 ちょっと忙しいこともあって更新をサボっていたのですが,レンズを2本お迎えしておりました。どちらも試写は済んでいるのですが,現像がまだなので結果をレビューできません。

 ん?現像?

 そう,今回の2本のレンズは完全に銀塩向けで,(少なくとも私は)デジタルで使えないのです。こういう贅沢な(無駄な)投資は久方ぶりです。

・Super-Multi-Coated Takumar 105mm F2.8

 M42の中望遠です。85mmでもなく,135mmでもない,中途半端な105mmですが,私はなんとなくこの焦点距離に縁があり,苦手意識もなかったりします。むしろ85mmのあの距離感が苦手なくらいです。

 Takumarはどの焦点距離もハズレなし,どれもそつなくまとまっているということと,工業製品として良く出来ているので耐久性もあり経年劣化も少ないという印象があります。

 というより,1980年代の日本の工業水準で作られたM42のレンズですから,そりゃ良いはずですよね。ニコンでいえばF2やF3,キヤノンでいえばF-1の時代ですもん。

 ということなのですが,中古については難しいものがあります。例えばですね,Ai-Sニッコールをフジヤカメラで買うとします。最近まで新品が買えた現行品だったりすると,新品との比較で程度が示されています。しかし,M42のTakumarの場合,1960年代のクラシックレンズとみるか,まともなボディが存在しないジャンクレンズとみるか,あるいはまともな中古とみるかで,その程度の表示の意味が変わってくると思っています。考えすぎですかね。

 クラシックレンズとみれば,程度の悪いのは当たり前,写りも最新のレンズに比べて?なものもあるわけですが,それをわかった上で手を出す高級品の扱いです。値段が写りと直結しません。一般的な写真レンズの実用度と無関係に価格なわけです。

 ジャンクの場合やもうちょっとややこしく,名前の通りジャンクである場合もそうですが,結局の所まともな値段で売ることが出来ないならどんな理由でもジャンクです。

 壊れている,良くわからんので動作を確かめられない,というのは当然として,不人気,数が多すぎる,というのもジャンクになります。

 Takumarも,ちょっと前までこの扱いでした。

 でも,ここ数年でえらい人気が出ているようです。ミラーレスが一般化し,様々なレンズが楽しめるようになったこと,あるいは銀塩ブームでM42のシステムの人気が再燃したことがあると思いますが,その中でもTakumarは現代的なレンズで,クラシックレンズの味わいは薄く,また数もあるせいで安く,オールドレンズ入門用として人気があるのでしょう。

 ですから,私がtakumarのレンズに1万円もの大金を躊躇なく払ったことに,自分が驚いていたりします。

 いや,F2.8という明るさは,ファインダーが暗いSPやES2では限界ギリギリの明るさでしょう。135mmはフィルター径が変わりますし,105mmは大きさも手頃で,うちには被るレンズもありません。(強いて言えばタムロンのSP90mmF2.8マクロがそれですが,なんとM42のアダプトールを持っているのでES2に開放測光にも対応しちゃうのですよ)

 とはいえ,最初は135mmF2.8と勘違いしていたのは内緒です。

 届いた105mmF2.8は,昔なら5000円だよなと思うようなレンズです。程度は良く,F2.8の中望遠らしい大きな前玉がチャーミングで,SPやES2によく似合います。

 私にはとても適当な焦点距離なので,撮影が楽しいのは本当で,背景の省略が自動的に行われる幅で,楽ちんだなあと思います。

 現像したネガを見てみると,やや線が太い感じです。背景のボケは柔らかく,綺麗だなと思いますが,絞ると急に説得力が出てくる印象です。F5.6くらいが美味しいんじゃないでしょうか。

 Takumarの不人気レンズと言えば,135mmF3.5,200mmF4ですが,これらも写りは悪くありませんし,とても素直で良いレンズだと思います。105mmF2.8もこの不人気レンズの系列なんでしょうかね。そのわりにはちょっと高かったかなあ。


・7Artisans 28mm F1.4 ASPH ライカMマウント

 なにを血迷ったか,28mmF1.4ですよ,しかもMマウント!

 実のところ,中華レンズメーカーの格安レンズが面白そうで,Fマウントの私は指をくわえてみている他ありませんでした。Eマウントはいいですよね,無駄遣い出来て。

 で,私は電気回路を入れ換えて復活させたミノルタCLEに特別な想いを持っているわけですが,D850を買うときの資金作りに15mmF4.5を処分したことを,ちょっと悔やんでいたりします。

 まあ,使用頻度も低く,持ち続けていても同じだったろうと思いますから買い直そうとは思わないのですが,それでも40mmと28mmの2本だけではちょっと面白くありません。新しいレンズがとにかく欲しい,そんな欲求が頭をもたげました。

 CLEは28mmと40mm,そして90mmのレンズでファインダーに枠が出ます。出来ればこの焦点距離で使いたいのですが,そこは我慢して35mmか50mmを買ってみるかなと思って探していたのです。

 ちょうどいいと思ったのがコシナのフォクトレンダーですが,ちょっとお値段は高め。デジタルで使えないレンズに出す金額ではないと思った事と,35mmも50mmもCLEらしくないと思ったので,やめました。

 そうすると28mmあたりですが,ここにはお気に入りのColorSkopar28mmF3.5が定位置にいます。F3.5でも28mmは絞って使いますし,レンジファインダーなので暗くても関係ありません。

 そう考えたのですが,これがF1.4だったらどうなんだろう,と思ってしまったから大変です。F1.4なら全く別の写真が撮れそうです。

 本家のライカなら100万コースのレンズですが,中国製なら6,7万円という破格値です。でも,中華レンズの7万円出すというのはなかなか冒険で,そういう事が出来る人こそ本当の金持ちなんじゃないかと思ったほどです。

 この7Artisans 28mm F1.4 ASPHというレンズ,Mマウントのくせに大きく重く,相手を威圧するようなレンズです。

 でも,面白そうです。探してみると,なぜだかamazonで52000円というのが偶然見つかりました。日本の代理店を経由しない並行輸入物です。あまり迷わず買ってしまいました。翌日には売り切れていました。みんな目ざといですよね。

 届いたレンズは心配をよそに新品で,不良もなく問題のない製品でした。同時に買ったフードも出来は悪くないのですが,いまいち格好よくありません。

 作りは良く,フォーカスも滑らかで大したものだなと思うのですが,それでもローレットの指の引っかかりに雑さがあったり,塗装のハゲがちらっと見つかったりと,ツメの甘さは感じます。

 CLEとは問題なく装着でき,撮影も気分良く出来ました。でも,CLEのコンパクトさに大きなレンズというのは,どうもミスマッチだなと思っています。

 こちらはまだ現像も終わっていないのでここから先は後日となりますが,実はこのレンズをCLEに取り付けていたとき,派手に転んで(転がって)しまいました。大したけがもなく,カメラもレンズもどこにもぶつけず,守り抜いたことへの達成感は大きいのですが,現像してみたらどんな風になっているんでしょうね。

PENTAX SPのシャッターが鳴く


 先日,実家から食べ物が送られて来るときに,ついでにとアサヒペンタックスSP(以下PENTAX SP)とSMC Takumar2本を送ってもらいました。

 残念な事に私が10代の頃に使っていたものは壊れてしまい,今はありません。後になってわかったのは,これは初期型であったことです。

 ファインダーに蒸着の剥がれもあり,半分ほど見えなくなってしまっていただけではなく,シャッターも露光ムラがひどく,フィルム送りも安定せず重なることすらあったもので,壊れてしまってもそれは当然だったように思います。

 今回送ってもらったのは20年ほど前に購入した程度のよい中古品で,55mmF1.8込みで15000円と当時としてもそれなりにいい値段のものでした。

 後期型で使用頻度も少なく, なにより動作が滑らかで,当時新品を買えばこんな感じだったんだろうなと感動した記憶があるのですが,さすがに20年以上も誰も使わず放置されているということなら,もうダメかも知れないと思ったのです。

 果たして手元に届いたSPは,ミラーも下がらず,スローシャッターが動作しない完全な不良品に成り下がっていました。200mmF4と135mmF3.8の2本のtakumarは全く問題なったのですが・・・

 問題があるとわかってほっとくわけにはいきません。分解と整備です。もともとも程度が良かったことを知っているので,この時は簡単に済むと信じていました。

 ところが,これがとても大変でした。

 スローシャッターが不良の県は,ガバナーをとりだして洗浄,注油で解決しました。ミラーの件も注油で解決です。簡単にシャッター速度を見てみると,1/8秒だけ出ていないのでもう一度分解。

 ガバナーの取付位置を調整して解決(実は解決していないことが後で判明します),もう一度シャッター速度を全速で確認します。

 全体的に遅めですが,それなりに揃っていて実用上問題ないレベルです。

 あとは適当に注油を行い,ファインダーのゴミを取り除いて,露出計を調整します。簡単簡単。

 これで終わりかなと組み立てたのですが,1/60秒でシャッターが鳴くのです。よく聞いてみると1/125秒でも出ていますし,1/30秒でも出ています。しかし1秒やBでは出ないので,原因が先幕なのか後幕のなのか,特定出来ません。

 ああ,シャッター鳴きというのはこういうのをいうんだなと思ったわけですが,得にシャッター速度にも影響が出ないので,気にしないことにしていたのです。ところが徐々に音が大きくなり,黒板を爪でひっかいたような音になってきたので,これはさすがにまずいと,再度分解することにしました。

 まず音の原因を調べないと話が前に進みません。ですが,結論から先に書くと,結局この原因はわかりませんでした。

 あちこち注油したり指で動かしたりしてみますが,さっぱりわかりません。そのうちシャッターが正しく動かなくなったり,組み立てられなくなったりと泥沼にはまり始めました。

 もうあかん,そんな風に何度も思ったのですが,結局泣きは解決せず。

 そしていよいよ,シャッタードラムに手をかけます。そう,ドラムを外してしまうと,テンションを再調整しなければなりません。しかし私はそのための測定方法を持ち合わせていません。私にとっては禁断の分解箇所なのです。

 しかし,もうここしか残っていません。幕速を調整するネジを回してみますが,それでも鳴きは収まりません。いよいよ万策尽きて,ドラムを緩めます。そしてドラムの軸の周辺を徹底的に注油します。

 すると,あれほどしつこかった鳴きがやみました。しゅぱっとシャッター幕が動きます。結果オーライです。このまま組み立てましょう。

 しかし,一難去ってまた一難。すんなり前に進みません。また1/8秒が出なくなったり,1秒や1/2秒でガバナーがさっと戻りません。どうもガバナーのテンプをガンギ車から切り離す部分がおかしいようです。

 カムの動きを慎重に見極めますが,何度やっても上手くいきません。いよいよダメだとあきらめかけたのですが,カムの動きをガバナーに伝達するシャフトの調整がズレていることが判明し,ここを再調整し,なんとか解決です。

 シャッターブレーキのかかり具合でもガバナーの動きが変化するほどだったので,これでなんとかなりそうです。

 とりあえずシャッターの組み立てが終わったのですが,幕速を調整する仕組みをなんとか考えないといけません。適当に合わせてしまうと幕やドラムのバネが壊れますし,時間と共に幕速が変化してしまいます。

 ES2の時は,幕速を出すだけでも2週間ほどかかってしまいましたが,今回はもっと上手い方法を考えたいところです。

 そこで,自作のシャッター速度測定器を改良することにしました。フォトトランジスタをもう1つ追加し,オシロスコープで時間差を測定し,幕速を出すのです。

 早速改造してバージョンアップします。2.54ピッチのユニバーサル基板を使って作りましたので,5穴分あけて新しいフォトトランジスタを取り付けます。こうすると12.7mmの間隔ができますね。

 PENTAX SPの幕速は,36mmを14msで走ります。先幕は後幕より0.1ms程速めに設定するのだそうですが,12.7msなら約4.9msですので,1/1000秒に設定してまず後幕から4.9msを出し,そこから先幕を少しだけ速めにしてから,1/1000秒のシャッター速度が出るように追い込むとよさそうです。

 この方法は面白いほど上手くいき,あっという間に幕速と1/1000秒が出ました。全速出るように調整ネジを使って調整を完了しましたが,一晩経っても狂っていません。

 上手くいきました。

 そこからは早いです。さっさと組み立てますが,ミラー上昇時にロックしないとか,ファインダーのゴミが何度も出るとか,しょーもない問題が出てはバラし,出てはバラしを繰り返して,ようやく完成。

 組み立て後,最終的なシャッター速度は,以下の様になりました。

1 910ms
1/2 484ms
1/4 244ms
1/8 117ms
1/15 58.0ms
1/30 32.8ms
1/60 16.9ms
1/125 7.2ms
1/250 3.76ms
1/500 2.42ms
1/1000 1.30ms

 もう一踏ん張りな感じもありますが,よく頑張っているんじゃないでしょうか。一応全速JISに入っていますし。

 PENTAX SPは,速度の調整を行う仕組みが事実上1つしかありません。その1つで1/1000秒から1/30秒まで全部合わせないといけないので,調整は楽な代わりに妥協も必要です。

 改めて空シャッターを切りますが,なんとすばらしいフィーリングなことか。

 PENTAX SPの巻き上げはゴリゴリとしか感じがあって今ひとつなのですが,かなり改善されています。ミラーの音もシャッターが吸い込まれる音もなかなかよくて,もう癖になる音です。

 途中一度だけシャッターがジャムってしまって,また分解することになったのですが,それはもう再現しません。

 実は,M42のレンズとして,SMCtakumar105mmF2.8を買ったのですが,M42なんて何年ぶりかなあという感じです。ファインダーを覗いた限り,良い写りしそうな予感がします。

 心配しているのは,なかなか鳴きが収まらず,丁寧さを欠いた注油のせいでシャッター動作で油が飛び散ってしまう可能性です。レンズの後玉が油で汚れているようだと要注意です。

 先日久々にフィルムを通したES2は,少し調子が悪かったのですが,何度か空シャッターを切っているうちに調子が戻ってきました。この時代のPENTAXはファインダーが絶望的に暗いのでちょっと遠ざかっていたのですが,それでもどうしてあんなに不満なく毎日のように使えていたのを考えるに,中央のマイクロプリズムが良く出来ていたからなんだろうなと思いました。

 同じように,F3でもマイクロプリズムに交換したのですが,あまりピントの山が綺麗に見えず,こんなもんだったかなあと思っていたのですが,改めてSPのファインダーを覗き込んでみて,これなら全然いけるな,と思い直しました。

 昨今のカメラ市場に拭く逆風にどう対処していくか,根本的な問題の解決がどのカメラメーカーにも課題となっています。紆余曲折を経てリコーの一部門になって久しいPENTAXもこのままというわけには行かず,なんらかの選択肢を選ばねばなりません。

 その選択肢がどういうものになるかは,ファンとしては見守るしかありません。カメラはヨーロッパの発明品ですが,フランスやイギリスのメーカーはほとんど消滅し,ドイツでもライカくらいしか残っていません。

 写真好きの日本人が育てたカメラが,今後どうなるのか,私も興味を持って見ていこうと思います。

 - 3月23日追記 -

  このSPで撮影したフィルムを現像しました。

 シャッタースピードもコマ間隔もバッチリ揃っています。1/1000秒も出ているようです。露出計も問題なく動作しており,光漏れなどのかぶりもありません。とにかく問題がなさ過ぎて,何も書くことがありません。いはやは,苦労した甲斐がありました。

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