ORWOのUN54とGR1の修理
- 2021/03/24 12:56
- カテゴリー:カメラに関する濃いはなし
たまりに溜まった未現像のTRI-X(15年ほど前にヨドバシで購入した長巻)を,意を決してようやく現像を始めた結果,あいたパトローネがゴロゴロ発生,ようやく20本ほど確保出来たところで,次に控えるORWOのUN54を巻き終わりました。
どうしてだかわからないのは私の知識不足と経験不足なので恥ずかしい限りですが,とにかくこのUN54のグラデーションが好印象で,白と黒のレンジの広さと滑らかなグラデーションを見て,ようやくこれを手にしたとしみじみ思うのです。
いやね,きっと他のフィルムでも上手く扱えばこういうネガって作れるはずなんだと思うのです。それは私が知らないだけの話であって,決してフィルムの個性に逃げてしまったらダメなんだと,それは強く思います。
でも,TRI-Xを温度や時間を変えてもこんなネガにはならないですし,Plus-Xにしても眠いだけのネガになります。似たようなフィルムであるイルフォードのHP5やFP4でも同様で,白と黒のレンジを広げれば粒子は荒れて,グラデーションも美しくありません。
ほら,1960年頃までの自動車や鉄道車両,大型の工業製品などの写真で,カタログに載せたりするような形式写真って,まるでイラストやCGのような精緻な感じがあるじゃないですか。あれってきっと大判で撮っているんだと思うのですが,高度成長以降はああいう精緻な写真がなくなってしまい,我々が目にする普通のものに切り替わったような気がするわけです。
以前少し昔の写真について調べたのですが,よく分からないまま終わってしまったので大ハズレかも知れないのですが,何が言いたいかと言えばORWOのUN54というのは,こういう精緻な写真を簡単に撮影出来る,私にとっては魔法のフィルムであるということです。
最大の難点は長巻しかないこと,それと購入出来る場所が極めて限られていることですが,普通の撮影と普通の現像でこれだけ沈んだ黒と抜けた白,そしてその間を滑らかに繋ぐ濃淡の変化を手に入れられるというのは,私にはちょっと他を思いつかないのです。
出来る事なら中判があったり,そこら辺でも手に入る有名なフィルムだといいなと思うのですが,みなさんどうしてらっしゃるんでしょうね。
閑話休題。
TRI-Xは使い慣れたフィルムで結果が予測出来ることがメリットですし,私にとってはISO400を常用するきっかけとなった偉大なフィルムですが,今のして思うと私好みの画質ではなく,なんか無理して使ってたような気もします。
そんなフィルムで既存のカメラやレンズを評価してきたわけですが,このORWNのUN54を使ってみたら,なんとまあ目の覚めるようなモノクロ写真が上がってきます。そしてこう思う訳です。これこそが本当のレンズの実力ではないのかと。
なら,これまでどうも苦手意識があり,でも世の中の評判は抜群というレンズを,このUN54で試すべきなんじゃないかと考えるわけで,その時真っ先に閃いたのが,GR1です。
GR1って,とにかくレンズがよいと言われています。でも私はそんな風には思っておらず,同じ28mmならSMC Takumar28mmF3.5が最高だと思う偏屈です。
GR1はそのコンパクトさと軽快さに神髄があり,一眼レフを振り回すことに慣れた私にはそれほどのメリットとは思わずここまで来てしまいました。もちろん,レンズの性能が一定の水準を満たしていないとこういう話にすらならないので,28mmならなんでもいいかといえば,そんなことはありません。
でも,出てきた画像はなんとなく凡庸ですし,そんなに切れ味も良くなく,透き通るような透明感もないですし,発色も今ひとつと,当時らしい写真になりがちだなと思っていました。TC-1なんかだと,どんな感じなんでしょうね・・・
この印象は現在のデジタル化したGRでも同く変わらず,GRで撮った写真はどこか陰鬱で,華やかさに欠け,その代わり何かしらのメッセージを仕込むポケットが備わっているような気難しさがあり,私にはちょっとしんどいわけです。
こういう傾向がずっとぶれないことはすごいと思いますし,さらにいうとこれを支持するファンが市場を維持できるくらい存在することも驚きで,一体写真のファンというのはどんだけどんだけレベルが高いのかと,見上げる高みに私などはため息が漏れます。(これは皮肉ではありません)
何事も経験かと若いときは思っていましたから,理由も理屈もなくがむしゃらに立ち向かったときもありましたが,もうそんな年齢でもありません。終わりが見えてくれば,今あるもので何とかしようとまとめに入るもので,手元にあるものが僅かでも毎日新しい物に出会える若さが,とても羨ましいです。
しかし,チャンスです。GR1にUN54です。もしかしたら,GR1の真実を見る事になるかも知れません。ずっと憧れた写真がいよいよ手に入る可能性があります。
そんなワクワクで撮りだしたGR1。電池が切れていました。
電池を購入して動かして見ると,案の定LCDが死んでいました。
のみならず,ファインダーのブライトフレームも死んでいました。
まあGR1の持病ですし,予想していた事ではあったのでそんなにショックでもなかったのですが,ファインダーは自分のGR1だけは台上だろうという根拠のない盲信があっただけに,落胆もそれなりにありました。
一方で,なにか吹っ切れました。
LCDで見たい情報ってなによ,そもそも煩雑な割には役に立つ情報が少ないGR1のブライトフレームって必要か?という根本的な話に立ち返ったところで,なら壊してもいいから,一発修理をやってみるかと思い立ったのです。
以前,LCDについてはフレキを基板の接着を復活させるために,100℃くらいのコテで圧着して修理したことがありました。しかしこれは暫定的な物に過ぎなかったことがはっきりしています。
ならば,この接着をやり直す,具体的にはこの接着剤を新品のものに帰ると言うことやればいいのではと思ったのです。
そのために必要なのは,新品のLCDユニット。でもそれはもはや入手不可能です。でも同じような事を考えるのは海外にもいらっしゃるようで,有名なiFixitにも同じ例が出ていますし,台湾あたりでは修理業者もいるようです。
iFixitの記事では,この手のフレキの接着に使われる定番の両面テープ,3Mの9703が使われていました。Z軸電気導電性テープとか,異方性導電テープとか言われている特殊なテープで,電気を通すテープなのですが,電気を通すのは厚み方向(Z軸)だけで,縦と横という平面の方向には電気を通しません。
ということは,基板とフレキをただ位置を合わせて接着しさえすれば,端子の接続が一発で出来る上に,固定まで出来ちゃうと言う恐ろしい発明です。
かつて,ゼブラゴムと言われた導電ゴムがありました。あれは液晶と基板を繋ぐ物だったのですが,電気を通すゴムなのになんで端子同士がショートしないのかと思った方も多いでしょう。
あれも実は異方性導電ゴムと言われていて,横方向は絶縁されていて端子のショートはなく,縦方向には導通するという性質があるのですが,それの両面テープバージョンが,この9703というテープなのです。
GR1のLCDのフレキはカーボンタイプで,電流は流せませんが薄く作れますし,曲げにも強いです。ただしハンダ付け出来ないですし,コネクタを使うことも難しいですから,実質この異方性導電テープで接着するしかありません。
ただ,粘着テープですから,いずれ剥がれてきます。ならば交換すればいいでしょう。
しかし問題が2つ。そもそも9703って手に入るのか,もう1つは交換する(リワークする)ことが出来るのかということです。
入手については,最初は少量は難しいかなと思っていましたが,ありがたい事にスイッチサイエンスに少量の取り扱いがあり,簡単に入手出来ました。
次にリワークですが,これはかなり難しそうです。基板から剥がすときに,フレキ側のカーボンを剥がしてしまいます。そうなるともうこのフレキはアウト。二度と使えません。
やってみるしかないよなと,さっさと上カバーを外して,フレキを剥がしていきます。案の定,カーボンを剥がしてしまいました。幸い,フレキその物は無事でしたが,これではもう改悪になるかも知れません。
でももう進むしかありません。綺麗に剥がしてアルコールで糊を落とします。9703を切って基板に貼り付け,位置を確認しながらフレキを押さえつけます。
しわになったりしてなかなか美味くいかず,10回ほどもやり直したと思うのですが,見た目には完璧でも全く表示が出てきません。指で押しても出てきません。
これは根本的に何かを間違っているのかも知れないと焦りましたが,両面テープを使わず押しつければ綺麗に表示が出てくるので,フレキの問題ではなさそうです。
それならと綺麗に接着したあと,加熱したらどうだろうと100℃ほどで熱してみました。最初の10秒ほどは反応なし。しかしその後はぱーっと表示が出てきました。
9703のデータシートには,圧着だけでいいと書いてあったように思うのですが,場合によっては熱を加えることも必要かもとも書かれていました。
熱はフレキも基板も傷めるのでやりたくなかったのですが,もう仕方がありません。30秒ほど加熱して,LCDは完全復活です。
ブライトフレームは深刻で,なかなか上手くすべてのセグメントが点灯しません。キリがないので250と500の表示は薄いままですが,ここで手を打ちました。
一晩放置して確認したところ,悪化するようなこともなかったのでそのまま組み上げて,念願のUN54を装填しました。
今のところ問題なく動作していますが,まあもって半年,ってとこでしょう。今度はフレキが持たないでしょうから,もう一度修理するという事が出来そうにないですし,次ダメになったらLCDはあきらめるということになりそうな気がします。
1990年代以降の工業製品というのは,長く使えるような素材だけで作られていなかったり,あるいは交換可能なものになってなかったりするので,ほかがどんなに優れていても,たった1つの安い部品で全部がダメになったりします。
その安い部品のおかげで,その当時は高性能と低価格を満喫できた訳ですから文句も言えないのですが,いい物ほど残したいわけで,残す事も性能1つのだと認めてもらえるような時代になったらいいなあと,そんな風に思います。