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2020年02月の記事は以下のとおりです。

ミノルタオートコードに関係する諸々のこと

 修理中のミノルタオートコードですが,故障していない時期に計画し手配した物が壊れてから届いたりしています。

 このあたりの話を先に書いておきます。

(1)フィルター

 レンズ保護のために私は明らかな画質低下がない限りフィルターをする人です。オートコードも例に漏れず,基本的にフィルターで運用するつもりなのですが,なにせ見た事もないような形をしているレンズにどうやってフィルターをするのか,そこから勉強です。

 どうもローライ互換の30mmのバヨネット型というものが適合するらしく,調べてみると今でも新品がケンコーから買えるそうです。ただし受注生産で,直販のみです。

 受注生産のありがたさで,いろいろな種類も選べるわけですが,価格は約3000円。フィルターは消耗品なので中古という選択肢もあったのですが,今回はUVフィルターの新品を手配します。

 もともとモノクロフィルムは紫外線に感光します。しかも紫外線は波長が短いので,可視光線では十分に補正した収差も,紫外線になると大きく出る傾向があります。そうすると線が太くぼやけてしまい,解像度もコントラストも落ちます。

 我々の目は紫外線を見る事が出来ないので,紫外線を記録する必要などないわけで,だからこそ紫外線をカットする必要性があるというのですが,冷静に考えると通常のガラスは紫外線を透過しません。(厳密に言うと波長の長いUV-Aだけは透過する)

 だからフィルムに紫外線が届くことはそもそもなく,UVフィルターなど必要ないというのが定説です。

 まあ,UVフィルターはUV-Aもカットするので,全く意味がないかといえばそうでもないのですが,ただの保護フィルターももったいないので,ここはクラシカルにUVフィルターです。

 10日ほどで届いた特注品のフィルターですが,思いのほか枠が太く,キャップが出来ません。幸いフード(中古で純正品を購入)はそのままでも使用可能なのですが,ちょっと考えないといけません。


(2)フォーカシングスクリーン

 6cm四方のガラス板に投影される美しい景色に見慣れてくると,初期型のオートコードの欠点であるフォーカシングスクリーンの暗さが気になってきます。ただのすりガラスですから,ピントはあわせにくいし暗いという事で,後期型はフレネルレンズを併用しています。

 しかし,フォーカシングスクリーンの歴史は明るさを見やすさとピントのあわせやすさとを両立する歴史でした。有機ガラスとも言われるアクリルを自由に整形できるようになってからの進化は大きく,本来2眼レフほどこうした新しいフォーカシングスクリーンが似合う物もないんじゃないかと思います。

 そこで交換。しかし,新品がほぼ生産されていない6x6の2眼レフ用のオプションがあるわけはなく,流用や加工が前提です。それだって,そもそも中判のカメラが少なく,使えそうな見やすいフォーカシングスクリーンは入手が困難です。

 探し回ったところ,マミヤRZ用のフォーカシングスクリーンを中古で買えました。4400円。ちょっと高いですが,送料込みで程度も悪くありません。

 これを元のガラス製のフォーカシングスクリーンと同じ大きさに切り出します。Pカッターで余分なところをカットし,紙やすりで整えます。

 幸い失敗なく,綺麗におさまりました。

 しかし,厚みが元のガラスから変わってしまうので,フォーカスの調整はやり直しです。オートコリメータで確認するとやはり狂ってしまっていたので,再調整して完了です。

 いや,見やすいです。人によってはこれでも「ダメ」と言う人がいるんですが,明るいし見やすいしピントもあわせやすいしで,もうファインダーを覗き込むのが楽しくて仕方がありません。素晴らしい。


(3)レンズキャップ

 レンズキャップは付属しなかったのでなにか手段を考えないといけなかったのですが,まずはフジの安いキャップを2つ買って,ビューレンズと撮影レンズに別々に被せることにしています。

 かわうそ商店さんでローライにもオートコードにも使えるという触れ込みで,樹脂製のキャップが買えたのですが,届いてみれば微妙にサイズがあいません。2つのレンズの間が少し広くて,キャップがうまく被さりませんでした。

 ある時,ヤシカのキャップがを中古で見つけたので買ってみると,これがピッタリ。やっぱりかわうそ商店さんに騙されたんだなあと,笑って済ませることにしました。

 ですが,前述のフィルターを常用することにしたので,このキャップもほとんど使うこと無しにお蔵入りです。ということで,フィルターを常用するときのキャップをどうするか,現在思案中です。


(4)カラーネガ

 モノクロは楽しいですし,自家現像も出来るので良いことずくめなのですが,この解像感,この情報量でカラーだとすごいだろうなと言う妄想からは逃げ切れず,定番たるフジの160NSを5本買ってあります。

 問題は現像で,10日以上もかかるだとう120フィルムの現像を外に出すよりは,こういう時こそ備蓄してあるナニワカラーキットを使って自家現像するべきだろうと,その準備もしています。


(5)デジタルデータ化

 D850でデジタル化をする話は以前にも書きましたが,まだ改良の余地がありました。1つはガラス板をのせることによるもので,ガラス板の汚れが映り込んでしまうという問題です。

 また,ライトボックスに密着しているので,ライトボックスの表面の傷が映り込んでしまうという問題もありました。10ミリでもいいので,浮かせたいところです。

 また,ガラスを被せるので,ネガを送る時に面倒とか,傷を付けるとかいろいろありました。そこで,引き延ばし機用のネガキャリアを買いました。

 これ,抜群に良いです。安定性もよいし,光源から少し浮くので問題なし,ガラスを被せないので実に綺麗です。心配していた平面性も問題なく,念のためにと一緒に買ったガラス製のネガキャリアが無駄になりました。

 もう1つ,遮光が出来ておらず,黒が浮くのです。こればかりはネガとマクロレンズの間を遮光しなくてはならず,部屋を真っ暗にするか,筒でも付けるかしか方法はありません。

 三脚との高さの調整も必要だったりするので,まだこれといって決定打が出ているわけではないのですが,当面は部屋を暗くして作業することになりそうです。


 とまあ,まさかこういう準備を進めているときに本体が壊れるなんて思ってもなかったわけでして,飽きてしまわないうちに本体をさっさと修理し,これらの課題を片付けたいところです。鉄は熱いうちに打て,です。

 他にも仕掛かりがあって,例えば程度のいいRollei35LEDを手に入れたのでこれをメンテしたいとか,せっかく赤外線領域にも感度があるRetro400Sを使っているんだしと手に入れたIRフィルタを試してみたいとか,いろいろあります。

 そうこうしているうちに,日差しが春のそれに日に日に代わり,花粉が飛び始めました。インフルエンザは成りを潜め,しかしながら新型のコロナウイルスが猛威をふるっています。

 なかなか落ち着かない中ではありますが,それでもこうして趣味があることは,とてもありがたい事だなと思います。

 さて,今日も頑張るかね。

 

ミノルタオートコードの修理~その3:また壊れた編

 ここのところ,すっかりモノクロフィルムが日常になっているのですが,その最右翼たる中判2眼レフ「ミノルタオートコード」が,早速壊れてしまいました。

 気が付いたのは先週の頭。なにげなく空シャッターを切って至福の時間を過ごしていると,ふとシャッターが閉じきっていない時があることに気が付きました。

 これはシャッターを閉じるバネが折れるという定番の故障かもと思ったのですが,巻き上げの時にはきちんと閉じますし,きちんと閉じる時もありますので,バネの破断ではなさそうです。

 しかも,閉じきらないのは,5枚ある羽根のうち決まった1枚だけです。これはシャッターそのものがおかしいに違いありません。

 このままでは使えないので,早速分解します。

 シャッターをボディから外してしまわなくても修理出来るといいなあと,ボディから外さずに分解しますが,やはりシャッターの羽根を組み直さないといけないようなので,意を決してボディから外して分解します。

 この段階で,シャッターが閉じないときはシャッターの動きが重いこと,そして閉じようとするとなにかに引っかかった感じがすること,勢いよくシャッターを閉じれば閉じるようになること,そして巻き上げを行えば閉じることがわかってきました。

 シャッターを分解してわかったのは,閉じなくなる羽根だけ,外れて落ちてこないことでした。よく見ると,シャッター羽根を固定する支点のネジ(シャッター羽根を動かすセクターリングではない方ですね)の細い隙間に,シャッター羽根が潜り込んでいます。

 ネジの緩みを疑いましたがしっかりしまっています。でも,紙一枚が入らないくらいの狭い隙間は見えていますし,ここに薄いシャッター羽根が挟まって無理に動かされたために,羽根も変形してしまっています。

 あちゃー,これは致命傷です。

 とはいえ,捨てるのもあきらめるのも惜しいですし,とにかく目の前にあるもので対応しないといけないですから,修理を試みます。

 まず,セクターを固定しているネジを入れ換えて,隙間がないようにします。そして羽根も場所を入れ換えます。

 これで組み立ててみると,もう問題は再現しません。これでいけそうです。

 案外簡単に修理出来たなと思っていたのですが,やはりそうは問屋が卸しません。

 組み立てて意気揚々とシャッター速度を測ってみたのですが,特に高速が出ていません。1/400秒も4msを越えていて,1/200秒と違いがないくらい遅いです。

 レンズシャッターは,最高速からガバナーを使って速度を落としてシャッター速度を作っています。だから,ガバナーの調整や取付位置の調整で多くの速度は調整が可能ですが,最高速だけはなにもしない状態,つまり裸の特性がそのまま出てきますので,ここが狂っているともう打つ手がないのです。

 前回の完成時のテストでは,1/400秒で3.4msという速度が出ていて,それでも妥協したつもりでいたのですが,シャッター羽根が引っかかった時点で,すでにこの速度は出ていなかったんじゃないかと思います。

 そこで,徹底的にオーバーホールです。シャッタをもう一度分解し,前回やらなかったセクターリングを外してベンジンで清掃です。

 ここまでやって組み立てても,やはり4msより短くなってくれません。時に10ms程度になることさえあります。

 まずいことになってきました。

 注油もやりましたが改善せず。何度も分解し組み立てますが,やはりだめです。8msや9msになることはありますが,5msを出す事もなくなりました。

 どうせこのままでは使い物にはならない,バネを強化しようと,素人が陥るもっとも危ない誘惑にまけ,チャージレバーにかかるバネを強化することにしました。

 まあ,これも予想通りの話で,バネが変形してしまい,うまく動かなくなりました。そこでバネを1mm程度ずつ短く切って反発力を上げていくのですが,それで結局出て速度が4.6ms。

 後になってこのくらいの数字は妥協しないといけないことがわかるのですが,この時点で他のバネを2つほどなくしていますし,シャッターの変形も怖いので,もうこのシャッターユニットはあきらめて,新しい物を調達することに方針を変えました。

 またオークションで,ジャンクのオートコードを探します。前回よりも外観は綺麗ですが,やや高いジャンクを手に入れました。

 ここでつくづく思うのは,前回のオートコードは見た目の程度こそ悪かったとはいえ,中身は割にしっかりしていて,良い買い物だったということです。しかも見た目の悪さから価格も破格で,慣れていない人間が分解したシャッターがしばらくの間とは言え高速がしっかり出る程になっていたことは,奇跡的なことであり,つくづく惜しいことをしたものだと,後悔しました。

 新しいシャッターはシリアルナンバーが3000ほど進んでいるのですが,案の定細かい部分で違いがあって,部品に互換性のないものがいくつかありました。基本的にはニコイチや移植をしないで,できるだけもとのシャッターの部品を使って修理をする方針です。

 そこでシャッター速度を測定すると,やっぱりボロボロです。高速側は10msよりも少し短い程度ですし,低速側もばらつきます。なにより動きが渋く,汚れと油ぎれが深刻でした。

 まずはガバナーをベンジンで清掃します。次にシャッターを分解して高速が出るようにします。テストを行うと,大体4ms程度は出るようになったみたいです。それでも3.4msなんていう速度は,全く出てきません。

 ガバナーを組み付けて低速を測定しますが,どうもうまくありません。1/200秒が1/100秒になってしまいます。また1/10秒が1/25秒になったりします。

 これでは使い物になりません。

 そこでもう一度がバナーを清掃,薄い油をひいて潤滑を改善します。また,ガバナーの位置が悪くて1/10秒が出なかったので,位置を慎重にあわせます。

 そして位置決めを時間をかけて行いました。最終的に1/400秒は全く出ませんでしたし,1/10秒も7msから10msでバラツキます。以前のシャッターよりも結果は悪いです。

 でも,これ以上いじっても改善は難しいでしょう,ここら辺が引き際です。

 セルフタイマーは汚れがひどくて動かなくなっていたので,これまでのシャッターから外して交換します。これもなかなかうまくいかずに作業は難航しました。

 最終期にすべてのテストを終えて,シチズンMXVシャッターが完成です。

 本体に取り付けてみます。しかし,クランクを回してもチャージが終わらないことがあります。どうもチャージレバーを目一杯押し下げる事で出来ないようで,これもシャッターを交換したからでしょう。

 このように,当時の部品の精度は今では考えられないほどばらついていて,現物あわせも日常的に行われていました。同じ商品の同じ部品だからと交換をしても,うまく動かないのです。

 仕方がないので,シャッターユニットを右に目一杯回して本邸に固定します。これでようやくチャージが確実に出来るようになりました。

 一応,ここまでで修理完了です。最終的なシャッター速度は今後測定しますが,おそらく故障前の速度の方が高速だったと思います。

 というわけで,このまま完成としてもよいのですが,ちょうど手配していたマミヤRZ用のフォーカシングスクリーンが届きましたので,これを加工して取り付けましょう。(この話は後日)

 ということで,シャッターの羽根が新しくなったことは大きな前進,しかし高速が出ず,低速も大きくばらつくという問題があるのは後退です。しかも元の値段よりも高いジャンクを買う羽目になったことも失敗です。

 そりゃ今かr60年以上も前のカメラですし,追加工で現物合わせをして作っていた当時の工業製品ですので,現代的な感覚として精度を信じることなどしてはいけないものだと思います。

 ただ,モノクロネガなら少々のずれはなんとかなるものですし,大らかな気持ちで撮影するのも,また2眼レフの面白さです。使ってみてわかったのは,実用的な速度が1/25から1/200秒程度であること。このあたりのシャッタースピードがきちんと出ている事が分かっていれば,安心して撮影出来ます。

 さて,完成までもう一息。シャッター速度が狂ってなければいいなあ。

 

D850をもっと活用

 ミノルタオートコードで中判を初めてワークフローにのせることになったわけですが,できるだけ新規の投資はしたくありません。そこで,今ある機材とノウハウでなんとかしのげない物かと工夫を試みるわけですが,ここでD850というカメラがとても力になってくれました。

 今もってトップクラスの性能を誇り,プロからもアマチュアからも大きな支持を集めるD850ですが,冷静に考えて見るとその性能はもはや検査機器や測定器レベルです。

 普通に撮影しても高精細な画像を吐き出しますが,そのために要求される精度レベルは高く,しかも今どきの使いやすさが随所に見られます。

 今回の中判デビューにあたり,D850のおかげでうまくいったことを2つ紹介して起きます。


(1)オートコリメータ

 いきなり耳慣れない言葉が出てきましたが,平行光を作る機械のことです。平行光というのはつまり無限遠からやってくる光のことで,この光にピントが合うようにすれば,無限遠が出ていると言えるのです。

 レンズ分解のあるあるの1つに,無限遠のマーキングを忘れてヘリコイドを分解,と言うのがあるんですが(え,私だけですか),仮にマーキングをしても元々が正確に出ていたかどうか怪しいですし,やっぱり確かめておきたいじゃないですか。

 だからオートコリメータは是非とも欲しいわけです。

 ただ,本物はとても大きく重たく,扱いが難しい上に高価で,全然現実味がありません。

 なので,アマチュアは昔から工夫をしてきました。きちんとピントが出ている一眼レフに,きちんと無限遠が出ているレンズを取り付け,無限遠に回しきってから,調整したいレンズを覗き込むのです。

 調整したいレンズもあらかじめピントの出ているボディに取り付けておき,すりガラスをフィルム面において裏側から照明を当てておきます。

 そしてレンズを無限遠の出ている一眼レフで調整したいレンズを覗き込んで,すりガラスがくっきり見えるところが,無限遠です。

 この方法は理にかなっていて,周りにある機材で手軽に無限遠を作る方法として知られていますが,すりガラスのザラザラをきちんと見るためには無限遠を出しているレンズの焦点距離が長くないといけなくて,ざっくり目安として相手の3倍の焦点距離が必要と言われています。

 50mmのレンズを調整したいなら150mm以上の無限遠の出ているレンズが必要なのですが,言うは易し,でも実際には大変です。

 まず,近頃のAFレンズやズームレンズは,無限遠が出ていません。オーバーインフと言って,フォーカスリングが無限遠で止まらず,無限遠よりもさらに回った位置まで回ってしまいます。

 AFなんだからその都度ピントをあわせるのでこれで問題はありませんし,むしろ無限遠でストップされる方がAFの仕組みによっては問題を起こすので正しい対応ですが,我々はレンズ回しきったところが無限遠になっていると信じているわけなので,こうしたレンズは使えません。

 それに,調整した焦点距離ごとに,いくつも無限遠の出ているMFレンズを揃えておけません。もし200mmのレンズを調整したいなら,無限遠の出ている600mmのレンズが必要になるのですが,そんなの非現実です。

 しかも,無限遠が出ているレンズは出来るだけ明るく,かつボディのファインダーは見やすくないと,無限遠が出ているかどうか判別しにくくて仕方がありません。

 調整したいレンズと無限遠が出ているレンズとの距離が近くないと調整作業も出来ませんし,何だかんだで条件がきびしいのです。

 そこでD850です。

 もともとコンパクトデジカメを使ってオートコリメータを作る人はいたようですが,ではそのコンパクトデジカメの無限遠はどうやって出すのよ,と言う難問が残ります。

 ですがD850を使えばすべて解決です。

 私の場合,無限遠の出ているレンズとしてAi-Nikkor105mmF2.5を使っているのですが,これをD850に取り付けて,無限遠にしておきます。

 そして向かいあわせに調整したいレンズを置いて,ライブビューを動画モードで起動します。

 さらに拡大ボタンを連打して,すりガラスのザラザラがくっきり見えるように調整をすれば,もう無限大無限遠が出ています。

 明るさもシャッター速度で変更出来ますし,ファインダーを覗き込むこともなく,作業もとても楽ちんです。拡大するので見やすいですし,105mmのレンズ1本で様々なレンズの調整が出来ます。

 しかもライブビューですからね,ピント精度は抜群ですし,画素数といい明るさといい,もう十分な性能です。

 こうしてミノルタオートコードの撮影レンズとビューレンズを調整しましたし,ついでにRollei35のピントも確認することが簡単にできました。


(2)フィルムスキャン

 私はCoolScanVEDというニコンのフィルムスキャナを長年使っていて,35mmについてはこれでコンピュータへの取り込みをやっていますが,中判デビューの最大の難関は,どうやってコンピュータに取りこむかでした。

 CoolScanVEDは35mm専用で,残念ながらブローニーには使えません。

 お店で現像の時にデータ化してもらうのも手ですが,自家現像の時に困りますよね。かといって,今さら透過原稿ユニット付きのデスクトップスキャナを中古で探して買うというのもハードルが高いです。

 一度ベタを焼いてからスキャンするのも手ですが,印画紙の現像という新しいプロセスが入り込むのも大変です。

 そこで考えたのが,D850のネガ取り込み機能を使うことです。

 D850には,マイクロニッコールを使ってネガやポジを取りこむ機能があります。特にカラーネガはベースのオレンジ色をうまく補正することが出来るので,とても優秀で便利です。

 ただ,フィルムを平行にレンズと対峙させるオプションであるES-2はブローニーには対応しません。

 そこで,ES-2を使わないように,ネガを取りこんでみる事にしました。

 D850にはAF-S Micron-Nikkor60mmF2.8を付けて,三脚に乗っけておきます。

 レンズと平行な位置にライトボックスを置き,その上にネガとガラスの板をおきます。

 そして動画モードでライブビューです。フィルム取り込みモードに設定すると,綺麗に中判のネガが反転されています。

 あとはこれを撮影するだけです。わずか12枚ですのであっという間におわります。

 まあ,嫁さんなんかは,わざわざフィルムで撮影してデジカメで取りこむくらいなら,最初からデジカメで撮影すればいいのに,といったりするわけですが,それこそ愚問で,銀塩フィルムというフィルタが入った画像を鑑賞しているわけで,D850で撮影しても普通の写真になってしまいます。

 ちょっと計算してみましょう。D850の画像サイズは8256x5504ピクセルです。上下をフィルムにおさまるようにして撮影すると,ざっと5000x5000ピクセルの画像になります。

 6x6版のコマサイズが56mmx56mmですので,5000/2.2 = 2272dpiです。

 CoolScanVEDが最大4000dpiですので解像度という点では及びませんが,画面サイズが35mmよりも遙かに大きいので2000dpiもあれば十分で,拡大率が大きくない分,光学的にも有利な条件で,5000x5000ピクセルという大きな画像を作ってくれます。

 優秀な画像処理とネガポジ反転のおかげで,出てきた画像は35mmの見慣れた画像ではなく,いかにも中判という滑らかな画像です。

 ただし,ブレには注意が必要で,安定した三脚が必要ですし,リモートケーブルも必須です。揺れが止まってからそっとシャッターを切らないと,ぶれて眠たい画像になります。

 わずか12枚ですから,あっという間に取り込みが終わります。取り込んだ後は思う存分PCの画面で鑑賞出来ます。

 確かに,粒子が見えるほどの解像度はありませんし,中判のデジカメが1億画素に達していることを考えると,2500万画素で取りこんだ今回のケースでは1/4程の情報量しかありません。まあ,ギリギリというところでしょうか。

 参考までに,35mmフィルムからA4サイズ,350dpiの画像を得ようと思ったら,ざっくり2800dpi程度の解像度で取り込む必要があります。これを考えると,ずっと大きな中判で2200dpiというのは,A3ノビくらいまでは十分に引き延ばせると考えて良いと思います。(えと,エプソンのWEBサイトを見ていると,2400dpiの場合,35mmでA4,6x7でA3ノビが目安とあります。)

 4800dpiのスキャナで56mmx56mmをスキャンすると,およそ10000x10000ピクセルの画像となり,ようやく1億画素になります。D850で35mmを取りこむとざっと5800dpiとなり,もう十分過ぎる解像度となりますが,そこまでの解像度で拡大しないで済むくらい元の画像が大きいことも,中判のメリットなわけです。

 まあ,本気で中判に挑むならこのくらいの情報を吸い出さないといけないかも知れませんし,冷静に考えると中判で撮った画像を35mmサイズに縮小して複写しているわけで,結果として35mmサイズに落とし込んでいるのと変わらないという,なんともまあ興ざめなことに気が付きます。

 それでも,中判というフォーマットに75mmのレンズで撮影されたことだけは35mmに縮小されても揺るがないわけで,D850の性能の高さと粒子サイズが大きくならないこと相まって,中判の美味しいところはきちんと取り込めていると思います。

 とはいえ,D850での取り込みが万能かというとそうではなく,まず赤外線を使ったゴミやキズを消すことが出来ません。CoolScanVEDを使う最大のメリットは,この赤外線によるゴミとキズを消す機能なわけで,これは本当に便利だと思うのですが,残念な事にモノクロでは有効になりません。

 また,自動的にコマ送りをやってくれません。35mmだと6コマを自動で送ってくれますが,ブローニーでは3コマですから,自動であってもあまりうれしくないし,全部で12コマですから大した手間ではありません。

 ということで,D850を買った時には考えてなかったような用途で有効に利用することが出来ました。オートコリメータはオールドレンズ,オールドカメラの修理にとても役立ちますし,中判のスキャナ代わりにD850を使うというのは性能も便利さも楽しさも十分な物を持っています。

 D850は高価なカメラですが,その性能ゆえに様々な被写体,様々な条件に対応出来る柔軟さを持っています。その上今回のような使い方も出来たりすると,本当に便利な道具だなあと思います。買って良かった。

 

ミノルタオートコードの修理~その2:完成編

 中判デビューです。
 
 そうです,ミノルタオートコードが動き始めました。

 前回,絞り羽根の組み立てに完徹をし,あげくシャッタースピードもさっぱり出なくなってしまって,もう修復は無理かも,貴重なオートコードを壊してしまったと絶望していたのですが,コツコツ検討を続けた結果,最大の難問だったシチズンMXVシャッターのオーバーホールに成功したのでした。

 その後の修理の経過です。


(1)シャッタースピードの確認

 これまでにシャッタースピードがJISの範囲に入っていることはなんとなく確かめていましたが,それでもやっぱりまだバラツキがあります。

 このシチズンMXVというシャッターは,すべてのシャッタースピードをガバナーで作ります。ガバナー自身の調整と,ガバナーの取付位置の調整によって,全速をあわせ込む必要があるのですが,まあそんなに簡単にはいきません。

 試行錯誤の結果,以下の様なところで手を打ちました。

1 780ms
1/2 464ms
1/5 156ms
1/10 98ms
1/25 34.8ms
1/50 20ms
1/100 11.5ms
1/200 4.56ms
1/400 3.42ms

 ちなみに,JISの規定は計算式によって最大と最小を規定しているのですが,倍数系列なら計算結果を書いてくれてあるものの,そうではない場合は自分で計算をしないといけません。

 ということで,自分でミノルタオートコード用のシャッタースピードの最大と最小を計算してみますと,

1(1000ms) 1230-812ms
1/2(500ms) 616-406ms
1/5(200ms) 246-162ms
1/10(100ms) 123-81ms
1/25(40ms) 49.2-32.5ms
1/50(20ms) 24.6-16.2ms
1/100(10ms) 12.3-8.1ms
1/200(5ms) 6.2-4.1ms
1/400(2.5ms) 3.4-1.8ms

 となります。なお1/250秒以上は誤差の範囲を広げたものになっています。

 とまあ,比べて見ると,ガンギ車が動作する領域(1,1/2,1/5,1/10)と,はずみ車が動作する領域(1/25,1/50,1/100,1/200)のそれぞれに,あまり誤差の傾向が見えてきません。

 期待したのはこの領域の切り替わりによって,誤差の傾向が変化することだったのですが,1/10秒なんてほぼジャストで出ていますが1秒はJISからも外れています・

 そうかと思うと1/50秒はジャスト,1/100秒や1/200秒もほぼジャストなのに1/25秒はギリギリセーフという感じです。

 それでもJISに入っていればまだましで,1/400秒はJISからギリギリ外れていますし,1秒は完全にアウトです。

 まあ,1/400秒は以前2.5ms程度が出ていた事もあり,そんなに素性は悪くないと思います。それに,このくらいの高速シャッターになると,結果にそんなに大きな違いは出てきません。おおらかに考えましょう。

 1秒はさすがに20%以上短いですから,露出が変わってくると思います。思いますが,そもそも2眼レフで1秒なんていうスローシャッターを使うことがあるのか,という話もあって,もしどうしても1秒を使いたいなら,少し絞りを開け気味にすればいいか,そんな風に割り切りました。

 うれしいのはガバナーで押さえ込む中間シャッターの誤差の少なさです。青天の日中で多用する1/100秒や1/200秒,室内や日陰で使う1/50秒や1/25秒がちゃんと使える物になっているので,安心して撮影出来ます。

 で,実際に撮影してからの話になるのですが,倍数系列ではないので,シャッタースピードも「大体こんなもん」であわせることになり,なんだかあまり厳密な話をするのがバカバカしくなってしまいました。それでも十分撮れてしまうのが,この頃のカメラなんだと思います。(ポジはダメだと思いますが)

 もう1つ,この数字はほとんどばらつきません。これもとても大事な事で,毎回値が変わる,向きで変わるなんてことがあると,もう信用出来ません。何度測定してもこのくらいになるというのが分かっているので,とても安心して撮影出来るのです。


(2)巻き上げ機構

 巻き上げ機構はシャッターに比べたらとても簡単で,部品も大きいですし仕組みもわかりやすいのですが,いかんせんブローニーフィルムも未体験,2眼レフもほとんど触ったことがなく,どういう動きをすれば「正常」なのかを知らないので,組み立て後のチェックに不安がありました。

 まず可能な限り分解し,固着したグリスをベンジンで落として,新しい油を塗ります。これだけで随分動きが滑らかに,静かになるのですが,もともと壊れていたわけではなさそうなので,何かが劇的に変わったという感じはありません。

 巻き上げハンドルのラチェットも分解し清掃と注油,フィルムカウンターは巻き上げ後にハンドルを動かなくする安全装置を兼ねている巧みな物ですが,これも分解清掃注油です。カウンターのスプリングをあまりねじってしまうと壊れるそうで,サービスマニュアルによると1/4回転だけ反時計回りにひねってネジ留めするのが正しいそうです。

 さて,組み立てこそ終わりましたが,これでちゃんと動くのかどうか自信がありません。フィルムを入れてから巻き上がりません,コマが重なります,なんてことがあるのももったいないですし,ここはダミーフィルムで動きをみたいところです。

 しかし,私のオートコードはスプールも付属してこなかった代物です。

 そこで,未撮影の新品のフィルム2本からスプールを取り,これに60mmの幅の紙を巻き付けて,動きを見る事にしました。幸い,説明書に書かれたとおりの動きをしていて,このままフィルムを突っ込んでも問題なさそうです。


(3)撮影レンズの無限遠チェック

 本体にヘリコイドを組み込みますが,以前ばらした人が付けてくれていたマークを頼りに組み立てただけなので,当然不安はあります。シャッターを組み込み,D850を使ったオートコリメータ(これ,あまりにうまくいったので別の日に詳しく書きます)で無限遠を確認しますが,なんとまあバッチリでした。

 これだけちゃんと無限遠が出ているとうれしくなるもので,この日は一日上機嫌でした。


(4)ミラーの交換

 この個体で唯一交換が必要と思われた部品が,レフレックスミラーです。くすんですりガラスのようになり,カビも発生しています。アルコールで拭いてみましたが腐食が進んでおり,交換以外に手はありません。

 当初樹脂製の表面鏡を手配したのですが,中央裏側からバネで留め具に押しつける仕組みなので,樹脂製ではたわんでしまい,平面が出ません。

 そこで急遽ガラス製の表面鏡を手配して,カットして使うことにしました。

 30年ぶりのガラス切りですから,どうも緊張してしまいます。私が使っていたのはダイヤモンドのやつで,今主流のローラー式ではありません。ローラー式は角度が適当でもよいですし,切れ味もよいということなので使ってみようかと思いましたが,オイルを併用する物ばかりで,オイルを使わずに切ることができるのか不明だったので,やめておきました。

 表面鏡は表面に傷が付きやすく,心がけるべき事は最初に汚さないことです。オイルなんてとんでもない。

 ドキドキしながら昔ながらのガラス切りを使ってみますが,最初は力のいれ具合が弱かったせいでチーという音がせず,焦りました。

 しかし,やってみると楽勝で,厚さ1mmの表面鏡は面白いほど簡単に切ることが出来たのでした。

 切った表面鏡を本体にセット,清掃していたファインダースクリーンを組み込んで見ると,はっと視界が開けてきます。すばらしい。


(5)ビューレンズの無限遠チェック

 せっかく撮影レンズの無限遠が出てくれても,ビューレンズとピント位置がずれていては話になりません。ビューレンズも無限遠をチェックしますが,一番大事なことはビューレンズと撮影レンズのフォーカス位置が一致していることです。

 ビューレンズの無限遠をオートコリメータで確かめると,大幅にずれています。これほどズレるのも不思議だったのですが,ミラーを交換しているわけですし,ズレる可能性がないとは言えません。

 どっちにしても撮影レンズに無限遠が無調整で出ているわけですので,ビューレンズもこれにあわせるのが筋です。

 撮影レンズの場合,無限遠はシムを入れたり抜いたりして調整する必要があるのですが,ビューレンズの場合はいもネジを緩めて,鏡筒をクルクル回してレンズを前後させます。

 さっさと調整しイモネジで固定します。無限遠,近距離,遠距離と撮影レンズと一致していることをさっと確認してOKとします。


(6)張り皮の交換

 さあ,ここまででカメラの性能が出ているはずです。ここまできたら,あとは張り皮の交換です。

 前のオーナーが色落ちする手芸用の革を適当に切って貼ったらしく,汚いしかび臭いし色も落ちるしで最悪の状態だったのですが,革と接着剤を剥がし,アルコールで拭いて,かなり汚れも臭いも落とすことができました。

 ここに新しい張り皮を貼るわけですが,散々迷って今回はジャパンホビーツールの梨地を貼りました。葉ってわかったのは,梨地はかなり薄手なので,下のデコボコが浮き出てくる場合があるということです。

 それ以外はしっとりとし,手によく引っかかるので,二眼レフのような持ちにくいカメラにはうってつけだと思います。

 背面と右側面には型紙がなく,現物合わせで張り付けます。前面,上面,左側面には型紙はありますが,最後には現物合わせで張り付けていきます。

 実はこの作業が絞り羽根の組み立てに続いて時間のかかった作業になるほど時間がかかったのですが,控えめに見て,あまりうまく貼れたとは言えません。でもまあ,やり直すのももったいないし,このままでしばらくいこうと考えています。

 梨地のカメラってあまり見かけませんし,ニコンタイプが一番オリジナルに近いように思ったのですが,梨地でも十分格好いいです。


(7)試写

 新品のHP5 plusを装填,スタートマークまで巻き上げた後フタを閉じ,ハンドルをクルクル回して行くと,カウンターが1で止まります。よし大丈夫。

 記念すべき1枚目はアイロンをかけている嫁さんです。

 ぱしゃっと撮影します。レンズシャッターの音が心地よいです。

 後は家の外と中を撮影し,12枚取り終えました。

 すぐに現像し,コマを眺めてみます。

 いうことなし。何も問題ありません。

 ピントもバッチリ出ています。コマ間のバラツキもなく,よく整っています。光漏れもなく,かぶりも見当たりません。絞りもシャッターもちゃんと動作しているようで,露出のバラツキも少ないです。


(8)ということで

 ミノルタオートコードは,無事に復活しました。分解しなくてもこのくらいの性能を維持していたかも知れませんが,勉強がてらこうしてオーバーホールを行ったことで,すぐに壊れることはないでしょうし,誤差の程度も把握出来たのでよかったと思います。

 それにしても,この画質はすごい。生唾をのんでしまいます。

 イルフォードのHP5plusはTri-X相当なので,そんなに微粒子ではありません。しかしさすが中判です,粒子が十分に細かく,解像度もすごいです。

 定評あるロッコールレンズが優秀なのか,それとも中判というフォーマットのなせる技なのかわかりませんが,とにかく細かいところまで良く写っています。

 そして画像の質感が素晴らしいです。少し目を出したチューリップを撮影しましたが,ピント前後の土のゴロゴロした感じが,実によく写っています。絞り込んで遠景を撮影すれば,こんな所まで写っているのかを感激し,近距離のポートレートでもF5.6程度で背景がボケボケになるのを見てさすがラージフォーマットと感心することしかりです。

 とにかく,35mmに比べて,すべてが「大げさ」に写るのです。劇的に写るというのでしょうか,ちょっとしたことで,大きく結果が変わってくるのです。

 これは確かに,センササイズの小さなPENTAX Qとフルサイズ一眼レフとを比べたと機の印象に近いです。

 その35mmですが,同じようにモノクロで撮ったものと比べて見ると,もう一目瞭然。粒子の細かさといいえ,豊かな階調といい,中判はすごい情報量を持っているものです。

 35mmフィルムはいずれなくなるかも知れませんが,中判と大判はデジタルカメラで代替できません。だから,きっと長く生き残ると確信しました。

 そう,昔の写真で,やたらと高画質なものとかあって,これってどうやって撮影しているんだろうと思ったことがあるのですが,答えはラージフォーマットなんでしょうね。35mmよりブローニー,ブローニーより4x5,という風に,情報量が増えてきます。

 そう考えると,当時映画用フィルムを流用した35mmは,小さいけど低画質と評価されたはずで,だからこそ長きにわたって中判との共存が実現していたのでしょう。

 確かにコストはかかります。しかし,2眼レフには使ってわかる強烈な魅力があります。

 被写体が,撮影されていることを意識しないように進化したのが一眼レフの系譜です。被写体が撮影されるために何かをするのではなく,撮影者ができるだけ邪魔をせず,そこで起きている事をそのまま取りこむというのが,当時の写真が目指した方向だったと思います。

 一方で,証明写真とか集合写真なんかは,被写体がカメラを意識せざるを得ません。にっこり笑う,レンズを見る,瞬きをしない,などという些細なことも,被写体が撮影されるためにわざわざ起こす行動です。

 こうした行動も,撮影者が被写体と対話した結果で,被写体が撮影者のために時間と手間を提供してくれるからこそ,成り立つ撮影です。

 スナップ撮影を最右翼に,スマートフォンや高性能一眼レフの登場で,気が付かないうちに撮影されてしまった被写体が多くを占め,またそうした写真が評価される時代だと思いますが,一方で一連の対話の結果として撮影された写真というのは,被写体がカメラを意識するだけではなく,カメラのために何かをする,と言う行為を記録しているという意味で,とても貴重な物になってきていると思います。

 速写性に劣る2眼レフは,そのたたずまいや撮影枚数が少ないこともあって,じっくり被写体に向き合ってからでないと撮影出来ません。

 そうしたある種の緊張感を双方に求める2眼レフというカメラによって記録される写真は,ライカでもなくニコンでもなく,スマホでもデジタル一眼でもなく,独特の空気を纏っています。

 どうも「やらせ」を快く思わないのが普通の感覚のようですが,それは報道とかドキュメンタリーとか,見る人が真実であることを前提にしているから非難されるのであって,撮影時にしっかり作り込んだ写真であることを見る人も理解しているのであれば,それは「やらせ」とは言いません。

 

 ハードウェアとしては旧式で,手作業による追加工だらけの工業製品に過ぎませんし,大きなフィルムにゆとりを持たせて撮影するだけの大らかなカメラです。

 しかし,その見た目,雰囲気,撮影までにかかる手間,被写体との会話という,他のフォーマットのカメラとは大きく異なるもののおかげで,2眼レフが写す写真は他のどれとも違うものになるのだと,実際に撮影して気が付きました。

 そうか,これが2眼レフの魅力か。

 最初に使った2眼レフが,水準以上の性能を持つミノルタオートコードで本当に良かったと思います。

 デジタルカメラでは代わりにならない,まさに特別なカメラ,それがこのミノルタオートコードです。面白半分ではなく,積極的にこれを選び,じっくり撮影を味わうことが,このカメラで出来るようになったかと思うと本当にワクワクします。

 もう隅々まで理解しました。長く付き合っていけそうです。

 

ミノルタオートコードの修理~その1:シャッター編

 今,目の前に,ミノルタオートコード初期型,があります。
 張り皮が剥がされ,前後左右の板も外されて,歯車を露出させています。

 そう,とうとう,中判に手を出してしまおうというのです・・・

 事の起こりは,昨今のフィルムカメラブームです。

 ここでも何度も書いているように,昨年のまだ暑い頃にRollei35を今にして思えば随分高価な値段で手に入れ,オーバーホールに手こずって再起不能を何度も覚悟しながらも,なんとか実用レベルに復活させたことがありました。

 小さいくせに良く写る,小さいくせにメカメカしていて所有欲をくすぐる,小さいくせに重い,小さいくせにフルマニュアルというフィルムカメラなのですが,使っていて楽しいカメラであり,以後すっかりデジタルカメラを使わなくなっています。

 10年ぶりに自家現像を復活させましたし,長巻をパトローネにつめることもやりました。ストップウォッチを睨みながら現像タンクの前にたたずむことで期せずして始まる事故の対話には,なにか宗教的なものさえ感じます。

 にわかに盛り上がってきたフィルム&自家現像熱は,私の手持ちのフィルムカメラの点検を行う絶好の機会となり,何の不安もないF3やF100,やっぱり壊れていたMZ-10,FA43mmLtdの素晴らしさを再認識したSFXnやSuperA,それでもやっぱり馴染まないXE,ファインダーの暗さに絶望したES2,他人事だった2019年問題が実は自分にも関係があったと思い知ったF70Dと,想像以上にいろいろな刺激を与えてくれました。

 しかし,その刺激は,過去にすでに体験したものです。

 MZ-10のように壊れていたものを再度修理したケースもありますが,それだけの手間と時間をかけたところで,元通りになるだけの話です。

 足りない・・・刺激が足りません。新しいことに挑戦したい。

 新しいマウントに手を出すのも1つでしょう。CONTAX AXなんて死ぬまでに一度は使ってみたいカメラですよね。RolleiFiexというのも面白そうです。でも,結局35mmです。撮影体験として考えて見たら,そんなに違いはないように思います。

 ロシアレンズや中華カメラに手を出すのもありでしょう。でも,最近結構高くなっているようですし,それに当たり外れが大きいこれらのレンズやボディーに私はあまり魅力を感じません。

 え,ライカですか?うーん,そりゃM5とかM6あたりなら,程度の悪い物ならなんとかなるかも知れませんが,レンズがねえ・・・破産しますよねぇ。

 大判・・・ぜひ一度でもいいから,やってから死にたいものです。感動するだろうなあ,シートフィルム。

 中判に手を出すと破産するという言い伝えを私は疑うことなく生きており,これはなんとしても踏みとどまらなければ家族全員を不幸にすると信じてここまできました。


 ・・・とまあ,いろいろ考えているうちが楽しいわけですが,某オークションに出ている6x6の2眼レフに,縁があればと安めの値段であれこれ入札しておいたものの1つが,忘れた頃に落札されていました。

 それが冒頭に出てきたミノルタオートコードの初期型です。

 ジャンクで価格は4000円弱。安いとは言っても,まあジャンクならこんなもんでしょう。どんな程度かはっきりしなかったので敬遠されたんじゃないかとも思うのですが,実際私もドキドキでした。

 届いて見ると,そんなに悪くはありません。

 キズも多く,汚れていて汚く,かび臭いです。張り皮は変な本革に貼り替えられているのですが,素人仕事でヨレヨレです。これも変な臭いがします。

 レンズも汚かったのですが,とりあえずカビはなさそうです。しかしキズは結構あり,クリーニングを行ってもあまり綺麗にはなりませんでした。

 ファインダーは暗く,確認するとミラーが曇っています。

 巻き上げ機構は正常で,これは問題なし。ピントレバーも折れていません。

 シャッターもとりあえず速度は変化しているようで,シャッター羽根も絞り羽根も綺麗なものです。油の滲みはありません。

 付属しているとうれしかったのにと思ったものは,レンズキャップとスプールでした。レンズキャップはフジの37mm用キャップを代用(1つ100円ちょっと)しましたが,スプールは手持ちはありません。

 レンズが曇っている,バルサムが切れている,という致命的な問題があれば,もう修理しないで勉強用に分解して終わりにしようと思っていましたし,シャッターが壊れていたらもう経験の浅い私には重いだろうと,これも修理しないつもりでした。バネの破断や部品の欠品があっても,私はさくっとあきらめる予定でした。

 しかし,届いたものはなんとかなりそうな代物です。

 急遽,ブローニーのフィルムを何本か手配しました。スプールは現像したら必ず1本出てくるわけで,すぐに不要品として溜まるものを,今わざわざ買うのもバカバカしいですから,とりあえず1本ほどいてスプールを取りだし,フィルムだけで保管しておき,後日スプールが余ってきたら巻き直して復活させることにします。

 
 とまあ,まずは汚いことをどうにかしないといけないわけで,汚い皮をはがしました。そしてわかりそうな所から分解し,アルコールで汚れを落としていきます。

 ある程度進んだら,勉強も兼ねてメカの分解をします。

 この時代の二眼レフですので,シャッターは別のユニットして完全に独立しています。ならまずはシャッターです。Rollei35を3台ほど分解したので,レンズシャッターの調速の仕組みも少しはわかってきましたし,アレルギーもなくなっています。

 ミノルタオートコードの初期型は,シチズンのMXLという,プロンター型のシャッターが搭載されています。最高速度1/400秒で倍数系列ではない旧世代のシャッターですが,最高速も無理なく出る設計で優秀なのですが,分解と調整はなかなか面倒で,どうやら敬遠される傾向があるようです。

 これ,ちゃんと動いていそうなものだったのですが,油染みは見えないところにあるものなので,きちんと分解清掃しようと思ったのです。Rollei35もそうしてうまくいっていますからね。

 しかし,これが失敗でした。

 分解し,ベンジンで羽根を洗います。結論から言うと油染みは見られませんでした。奇跡です。

 綺麗になった羽根を並べ,まず絞りから組み立てます。

 しかし,9枚の絞り羽根を並べていくのですが,どうにもうまくいきません。残り3枚ほどで,必ずどこかの羽根が穴から外れて浮いてきます。よくよく見ると,絞り羽根が少し変形していて,重ねていくと厚みで浮いてしまうようです。これは困りました。

 土曜日の夜22時頃から始めますが,ピンセットで並べては崩れ,並べては崩れ・・・まるで賽の河原です。「もう無理だっ,こんなの組めるわけがない!」と正気を失った私は絶叫し,風呂に行ったのが朝の5時です。

 嫁さんが「死んでいるんじゃないか」と期待半分に心配し,わざわざ起きて風呂まで様子を見に来たくらいです。

 しかし,徹夜の時の脳というのは,突然アイデアが振ってくることもあります。体はくたくたなのに,どういうわけだか頭はスッキリしていて,またその頭もまるで自分の頭ではないような違和感を感じながら,ぱっと閃くことがあります。

 今回は久々にそれでした。閃いたのは,接着剤で絞り羽根を外れないように接着するというものでした。絞り羽根から出ているピンをベースに差し込み,ベースの裏側から少量のゴム系の接着剤を塗ります。完全乾くと面倒ですが,生乾きなら簡単に完璧にとれるのがゴム系の接着剤です。羽根が外れないので並べるのも簡単でしょう。

 湯船に浸かっていると,なんだか妙な自信が湧き上がってきます。失敗する気がしません。

 風呂から出て,そのアイデアを試してみると,驚くほど簡単に絞り羽根が並びました。開閉リングとベースで挟み込むの簡単で,接着剤を取り除いて絞りを開閉すると,何事もなかったように綺麗に開閉します。

 これはすごい。わずか10分で作業完了!

 しかし,徹夜というのは恐ろしいものです。ベースを裏返して組んでいました。やり直しです。

 今回は間違わないように,裏表に印をつけて組み立てます。

 しかし,また裏返していました。同じミスを2度続けて,しかも2回目はあれほど注意して,何度も確認したのに,それでも裏返していました。どこで裏返ってのか,さっぱりわかりません。

 すでに6時を回っています。ああ,朝日がまぶしいです。ここで寝たらもう起きられません。このまま続けます。

 今度こそベースの裏表を確認し,組み立てていきます。もう慣れたものです。今度こそうまく組むことが出来ました。朝7時です。もう二度とやりたくありません。

 このまま作業を続けますが,家族が起きてきて朝ご飯になりました。シャッターまでは組むことが出来ませんでした。

 そして夕方,続きに取りかかります。シャッターの羽根が5枚です。しかしこれは変形もしておらず,綺麗に簡単に並べることができました。組み立ても問題なく,簡単にできます。

 しかし,シャッターは最終組み立てで固定されるんですね。だから,他がおかしくて再組み立てを行うと,シャッターもバラバラになってしまうのです。

 これで何度か組み直しをしました。2時間ほど作業し,ようやく形になりました。

 長い戦いだった・・・

 しかし,シャッターを動かして見ると,どうも速度が出ていません。1/10秒と1/25が同じ程度です。こりゃなにかがおかしいです。ここで力尽きて翌日に持ち越しです。

 翌日も作業を続けます。

 シャッタースピードを測定すると,やはり出ていません。1秒が0.6秒くらいでしたし,1/10秒は1/25秒と同じです。1/200秒もおかしいですが,幸いにして1/400は極めて正確でした。

 これはガバナーに問題ありです。ガバナーはベンジンで洗浄したので外したのですが,組み付けに問題があったのでしょう。何度か試行錯誤をしますが,原因はわからずです。

 力業でカムを少し削ってみたり,ガバナーの通り付け位置を調整しますが追い込めません。しかも1/10秒は値がばらつきます。何かが間違っているから調整範囲に入ってこないのでしょう。

 もう一度ガバナーを外して確認します。するとガバナーの下に,ストロボ用の接点が見えてきますが,これがどうも曲がってガバナーに接触していたようです。まっすぐにもどしてガバナーを組み付けて確認すると,どの速度も決まった速度にまとまるようになりました。

 位置調整で速度を追い込み,どうにかこうにかJISの範囲に調整が終わりました。

 さっさとレンズを磨き,シャッターと組み合わせてボディにはめ込みます。

 ようやく山場を越えました。いやー,とてつもなく苦労しました。みんなこんなのよくやるなあ。

 そして現在,巻き上げ機構をオーバーホール中です。幸いサービスマニュアルが手に入り,きわどい調整も出来るようになったのですが,なにせスプールもなければダミーフィルムもありませんから,巻き上げ機構が正しく動いているかどうかを確認出来ませんし,どういう動きをしているのか観察することも出来ません。

 一度フィルムを通したいのですが,高価なフィルムを無駄にするのも悔しいですし,どうした物か思案中です。

 とまあ,カメラの修理の鉄則に「寝たら死ぬ」があるわけですが,寝ないとそれはそれで死ぬわけで,歳を取ってくると寝ないで死ぬことの方が怖いです。

 連動箇所が少なく,内部機構が簡単で格納が独立しており,サイズも大きく修理しやすい2眼レフですが,冷静に考えると70年ほど前のカメラです。

 部品の精度も低く,全体のガタも大きいですし,多くの部品が手加工で仕上げられています。指にかかるバリも気になりますし,全体的な加工精度は現在のそれとは雲泥の差であり,この時代はまだ戦前の技術の延長にあることがしみじみわかります。

 そりゃそうです,戦争が終わってまだ10年も経ってないころの部品ですから。

 そんなわけで,組み立てやすさであるとか,耐久性であるとか,精度であるとか,そういった物がまだ十分に考慮されておらず,また各社に共通した規格や水準もなさそうで,銘々勝手に作っていた感じがします。そしてこれが当時の重要な輸出品であり,外貨の稼ぎ頭だったということにゾッとして,確かにこれでは安かろう悪かろうと言われるよなあと,思った次第です。

 そう,日本製が高品質の証である時代しか知らない私は,日本製が粗悪品の代名詞であった時代の生き証人に出会い,その話がどのくらい真実だったのかを直接聞くことが出来た気がします。

 絞り羽根を組み立てられず,あきらめて風呂に行った時点でもうあきらめ,シャッタースピードが出ないところでまたあきらめと,何度も「今度こそ本当にあかん」とあきらめたミノルタオートコードも,ようやく目処が立ち,ゴールが見えてきました。

 もちろん試写して問題が出ない事が確かめられないとだめですが,今のところ問題なく,部品の紛失も破損もないので,順調にいけば中判デビュー出来そうです。

 次の巻き上げ機構は目処が立ちました。次のヤマは無限遠が出ているかどうかです。ヘリコイドを適当に組んだので,多分ダメでしょう。またばらして組建て直しでしょうね。

 ああ,しんどい。

 

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