さて,オークションに出品されているポータブルカセットプレイヤーを見ていると,大別して高価な修理やメンテが済んだ完動品と,故障品に分けられるようです。
私は修理が目的ですので自ずと故障品を買うことになりますが,故障と言ってもピンキリで,写りの悪い,数の少ない写真から,故障を見極めるのは難しいものがあります。
消耗品であるベルトの破損は当然としても,それ以外の故障によっては,結局修理出来ないという事も考えられるからです。
ヘッドの摩耗,キャプスタンのサビや変形,樹脂パーツの破損は,あきらめるしかありません。モーターが動かない場合も深刻です。電気回路の修理についても,ICの破損になるとお手上げですし,基板の断線もかなり難しい修理になります。
さらに悪いことに,電池の液漏れが致命傷を与えることが多いです。電池の電解液はアルカリで,基板を含む金属を腐食してダメにしてしまいます。キャプスタンが電解液で錆びたり回らなくなってしまっていると本当にあきらめるしかありません。
電池を入れっぱなしにしてある場合,ほぼ100%液漏れしています。基板やモーター,キャプスタンなどのメカに電解液が回り込んでいないことを祈るしかありません。
こういう観点でみていくと,最終的な落札価格はどんどん上がっていきます。即決出来るもので,パナソニックのRQ-SX35というモデルをまずは手に入れる事にしました。ほらそこWalkmanじゃないとかいわない。
もともと単三電池のアダプターが付属しているものを探していたのですが,皆さん考える事は同じようで,価格は高めになります。私はガム電池が好きですし,調べてみれば今でもamazonで新品が買えるようですから,ここは躊躇せず,素モデルを狙います。
しかし,思いつきでやるもんじゃないですね,RQ-SX35は,リモコンがないとすべての機能が使えないと言う恐ろしいモデルでした。
新品のカセットプレイヤーが買えないのは,現行のモデルにはDOLBY-Bがないことが理由です,RQ-SX35はもちろんDOLBY-Bがついていますが,なんとこれを有効にするにはリモコンが必要なんだそうです。
そして,即決したRQ-SX35には,リモコンがありませんでした・・・
とりあえず,分解です。液漏れしたガム電池を取りだし,内部を眺めてみますが,基板に少々電解液が回っていて,モーターにも基板から少しだけ染み込んでいるようです。幸い軸は無傷でしたし,他のメカも無事でした。ソレノイドの断線もなく,これなら修理出来そうです。
ゴムベルトは溶けていましたが,手持ちの0.7mmから選んでみます。最初はベルトの掛け方がわからなかったのですが,小さいベルトを2本使うと言うことに気が付いて,使えそうなものを探して取り付けます。
通電してみますが,モーターが回りません。
モーターのコイルに電解液が染み込んでいたようなので,これで断線があるともう修理出来ません。ベルトを外して通電すると回転したので,とりあえずモーターは無事でした。
するとベルトが問題なわけですが,0.7mmで回らないほど重いメカというのも考えにくく,よく調べてみるとモーターの一部にベルトが擦っていました。0.5mmなら擦らないような位置に,コイルのボビンがあるのです。
これをギリギリまで削って,ベルトがスムーズに動くようにしてから組み立てます。書けば簡単そうですが,作業そのものは4時間ほどかかっています。
ソレノイドとカムの初期位置が分からず組み立てに手こずりましたが,とりあえず音が出るとこまで来ました。しかし,ワウフラッターが大きくて,ちょっと使えそうにありません。
調べてみると,このシリーズのメカはモーターのトルクがギリギリなので,ゴムが0.5mmよりも太いと,回転ムラが大きくなってしまうんだそうです。心配なことは,キャプスタンの掃除を行う時に,滑り止めをアルコールで一部剥がしてしまったことです。これは確実に回転ムラの原因になるでしょう。
並行してDOLBY-Bを有効にする方法を考えます。リモコンの回路を解析して同じ物を作る,内部を改造して強制的に有効にするなどを考えましたが,下位機種のRQ-SX25にはリモコンが付属しておらず,本体にもう1つボタンがある事が判明しました。
このスイッチ用にパターンも残っているので,ここにスイッチを取り付けると,最初は全く動いてくれなかったのですが,回路図を見てもう一度取り付けると動いてくれました。まずは1つ目の問題をクリアです。
ベルトの方は,結局0.7mmでは無理なので,高価でしたが0.5mmのものを,直径25mmと31mmの2つ手配しました。
電池はamazonで手配しましたが,実は液漏れしていた電池に充電が出来てしまい,十分に使えてしまうことがわかり,合計4本の体制ですべてフル充電が終わっています。
後日ベルトを交換しましたが,ワウフラッターは小さくなり,A面とB面の再生速度の違いも小さくなりましたが,それでも満足出来るレベルにはありません。やはりキャプスタンの滑り止めを剥がしたのがいけなかったのかも知れません。
DOLBY-Bのスイッチは,本体に穴を開け,タクトスイッチを分解して凸型の部品を取りだし,スイッチに被せて押しやすくしました。押し心地も問題なく,見た目も綺麗に仕上がりました。
あとはテープスピードの調整を行って組み立てて完成です。
RQ-SX35は1998年という随分後になって発売されたもので,ミニディスクが主役になっていた時期のモデルと言うこともあり,そんなにお金がかかってるようには見えないのですが,それでも当時のトレンドとして連続再生時間がアルカリ電池1本で51時間と,低消費電力化が進んでいます。だからこそモーターにトルクを与えられなかったのですが,この時間使えるならやむを得ないかも知れません。
傷だらけ,しかもワウフラッターも大きくて,その上テープによってはリーダーテープの終わりで引っかかってテープが進まなくなってしまうというこのRQ-SX35は,ちょっと常用には難ありかも知れません。
そして私は,いよいよ本物のWalkmanに手を出すのでした。ああ,もともと持っていたWM-EX60を捨ててしまったことが悔やまれます。