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2013年06月の記事は以下のとおりです。

ルンバを掃除大臣に任命します

 ルンバが我が家にやってきて,1ヶ月ほど経過しました。

 迂闊に電源ボタンをぽちり,逃げた方向に怪しげな音をさせながら向かってくるルンバに娘が怯えるようになったこと,風呂場の扉を閉めるのを忘れて風呂場に突入,水浸しで止まってしまったりと,思わぬトラブルを経験しましたが,ようやく最近掃除を任せることが出来るようになってきました。

・トラブル

 複雑な形状をしたリビング&ダイニングを,一部屋としてルンバに任せています。タイマーで月水金の朝11時からと,土曜日の夜に動作させていますが,留守中でも一通り掃除を終えて,自分でホームステーションに戻ってくれることが当たり前になってきました。

 しかし,トラブルは付きものです。うちは,フローリングタイプの床暖房を使っていますが,夏場もフローリング保護を目的に,敷きっぱなしにしています。

 この床暖はそんなに分厚くないのでルンバの掃除の障害にはならないのですが,悪いことに,床暖の端っこにある,コントローラの部分が,ルンバの罠になっているようなのです。

 このコントローラは床暖の面からの高さは低く,床暖の外側からは数センチの高さがあります。また大きさも横幅が5cm程度という,絶妙な大きさです。

 じっと見ていると,ルンバが床暖からコントローラに乗り上げますが,コントローラが小さいのでルンバの腹が乗っかります。片側の車輪は床暖の外側にあるので,高さがあってフローリングの床には接しません。旋回も直進も後退も出来ずに,もがいてもがいて力尽きて,コントローラの上で止まっていることがしばしばです。

 こういうときは,バーチャルウォールの出番なのですが,これを使うと思った異常に大きなエリアが「壁」になってしまうので,ほんのちょっと,コントローラを避けて欲しいだけなのに,まったく近づいてくれなくなります。

 それだけならよいのですが,床暖のコントローラとテーブルの脚が近いため,ルンバはこの2つの間を抜けることが出来ず,キッチンへの数少ない通り道に出ることが出来ずに,引き返してしまうようになりました。

 バーチャルウォールの赤外線LEDの部分にシールを貼って出力を弱めたり,数ミリ単位で位置を調整するなどしましたが,完璧な状態は作る事が出来ません。

 そこで,掃除の日だけ扇風機をコントローラの上に置いてみました。なんてことはない,こんなローテクな方法で,ちゃんとルンバはコントローラ(と言うより扇風機ですが)を障害物として,よけるようになってくれました。

 
・メリット

 LDKは週3回の留守中の掃除と,土曜日の夜の掃除,寝室と子供部屋は土曜日の午前の掃除を,ルンバに任せています。この結果,掃除機を使った掃除を担当していた私の週末の仕事は激減し,1階の和室と廊下,脱衣所と検討部屋だけをささっと掃除するだけになりました。

 私は掃除機をかけることはそれほど苦にならない人ですが,時間がかかること,掃除機を取り回すことはそれなりに大変なわけで,体調の悪いときや忙しいときには気分的にも負担になります。

 ルンバがちゃんと掃除をしてくれれば,私の仕事は相当軽減されます。まさかこれほど楽になるとは思っていなかったというのが,本音の所です。

 また,ルンバは寝室,私は和室という具合に,分担して掃除が出来るのです。いわばルンバと私は共に闘う友,互いに背中を預けた相棒です。妙な連帯感が沸いてきます。ジャンプ的にいえば,友情パワーとでもいうのでしょうか。

 ということで,ルンバの導入は成功だったと思います。多くの人が語っていますが,まず床にものを置いたままにすることがなくなりました。それに,週3回ですがホコリも激減し,いつもきれいなLDKを維持できています。


・デメリット

 ルンバはあの大きさですので,どうしても端っこは掃除できませんし,複雑なレイアウトの部屋では,どれだけ時間をかけても,一度も通らない部分が出てきます。

 また,先端の回転ブラシの勢いが強すぎて,パンくずなどの軽いゴミは通る度に全然関係ない部分にはじき飛ばし,結局吸い込めずに終わったりしています。

 そんなわけで,人手による掃除がゼロに出来るかと言えば,それは無理です。

 さらにいうと,これまで掃除機を伴って部屋の隅々を回っていたので,ちょっとした汚れや傷,破損にも気が付いて,手当ができました。エアコンのフィルタもこまめに掃除機をかけていましたが,ルンバが来てからそういうことがなくなってしまい,せっかくの良い習慣が途絶えてしまいました。ついでだからでできたことでも,わざわざはなかなか出来ないものです。

 もう1つ,ルンバは掃除機です。掃除機の掃除をする必要があるという,なんともシビアな現実がありますが,これが結構面倒です。ルンバからダストボックスを外すのがなかなか大変で,しかもゴミがいっぱい散らばります。

 ようやく中身を捨てたと思ったら,フィルタにびっしりホコリが付いています。これを掃除すると,もう手が真っ黒になるのです。しかも,完全に取るには掃除機で吸うのが一番で,掃除機を掃除機で掃除するという,なんだかむなしい作業が週に一度は必要です。

・結論

 使いこなしに最初は手間も時間の忍耐力も必要ですが,コツが分かれば強力な助っ人になってくれます。5万円弱の初期投資に,年間で1万円ほどかかるランニングコストをどう考えるかは難しいですが,これだけ時間が節約でき,しかも娘がごろんごろん転がるカーペットが綺麗な状態に維持されるのであれば,決して高い買い物だったとは思いません。

 やはり最初の1ヶ月は,出来るだけその動作を観察し続けることが大事なように思います。どこに到達しにくいのか,どこを工夫すると到達しやすくなるのか,ゴミの残り具合とルンバの到達具合の相関関係,ホームステーションの設置位置,思わぬ障害物の存在(ソファーをあと2センチ動かすとルンバが入っていけるとか,カーテンの裾が引っかかって壁扱いになるなど)も見えてくるようになります。

 ただ,これってルンバに我々の生活を合わせる事です。限度があると思いますが,果たしてそれで楽しい生活になるのかどうか,ルンバのためになにかを我慢したり,なにかを犠牲にするようなことがあったら,それは本末転倒です。

 うちでは,ようやく軌道に乗ってきました。これからどんどん働いてもらうことにしたいと思います。

802.11acのAirMac Extreme

  • 2013/06/14 17:37
  • カテゴリー:散財

 先日開催されたWWDCで,数々の発表がありました。その後数日はこの話題がトップニュースとして扱われていたので,特別興味のない方でも,耳にされた話もあったと思います。

 私はiOSのユーザーではないので,自分に直接利害関係のある話題とはいえず,どうしても距離感が出ますが,OSXについては自分の生活を支えるOSですので,やはり心配です。

 Finderのタブとタグによるファイル管理方法の変更は,便利になるよと言う話の奥に,Macintoshが長年不変の思想として遵守してきたオーバーラップウィンドウとフォルダというシステムが,抜本的に見直されたことを意味します。

 それは,この2つを軸に持たないiOSが,進化の過程で生み出した新しい概念に,旧来のシステムが上書きされるという現実です。

 ここで,OSXとiOSは別々に進化(あるいは保守)してもよかったはずですが,良し悪しは別にして生みの親であるAppleはこの1つを統合することにしました。生み出す利益の大きさ,社会的影響の大きさ,(事実かどうかは別にして)エース級の人材が投入されているiOSに,OSXが近づくことは自然であり不可避であると思いますが,これは同時にパーソナルコンピュータという装置の進化は,一端ここで終わるということと読み替えできます。

 僅か数百バイトのメモリにスイッチとLEDで始まった個人用コンピュータは,BASIC言語,CUIを持つOS,そしてマウスとGUIに進化したところで,極論すればそれ専用の技術開発は終了したのだと,いえるでしょう。

 それが,コンピュータと人間との付き合い方なのですから,私は否定も肯定もしません。ですが,無常観は強く感じてしまいます。

 見失ってはいけない事はただ1つで,それが人間の創造性をアシストし,人間の活動を疎外しないものなのかどうか,です。そのためにMacがオーバーラップウィンドウを失っても,むしろ歓迎されるべきであるということを,我々は忘れてはなりません。

 閑話休題。

 そのWWDCで発表になったプロダクツの中で,私がひときわ待ちわびたものがありました。新しいAirMac Extremeです。

 我が家は今年の春に新築した一戸建てですが,ネットワーク環境の見直しも念頭に置いて進めてきました。各部屋にCAT6のEthernetが出ているのはその最低限の施策ですが,実際に生活を始めると無線LAN環境の見直しも急務になってきました。

 かつて,無線LANはそれほど重要な位置付けではなく,狭く平面的な家で,10Mbpsも出ていればストレスのないものばかりがつながっていたに過ぎません。電子レンジで切断されることが問題になり,5GHzへの移行こそしましたが,速度的には問題を感じませんでした。

 むしろ,AirPlayが使える事を重視し,伝統的にAirMac Expressを使って来たのですが,この廉価版アクセスポイントの問題点は,Ethernetが100BASE-TXであること,アンテナの本数が少なくMIMOでの接続が実質的に難しく速度が出ないこと,2.4GHzと5GHzは排他であることでした。

 最新のAirMac Expressはデュアルバンドですが,相変わらずEthernetが100Mbpsです。仮に,802.11nが300Mbpsでリンクして,実行速度が150Mbpsとしても,なんと有線LANがボトルネックになって,実質さらにその半分程度の速度しか出ないことになってしまうのです。なんのための802.11nですか!

 まあ,実際に300Mbpsでリンクすることはまれで,200Mbpsくらいでリンクすることもそんなにありません。これだと有線LANがボトルネックになることもありませんから,気分の問題と言われればその通りの,些細な問題であることは否定しません。

 なら,なぜ上位機種であるExtremeがあるのか。

 バンド当たり3本のアンテナを持つMIMOで最大450Mbpsとなれば,さすがにGbitEthernetは有利でしょう。高速の有線/無線LANを支えるシステムは,それ自身が高速で動作せねばなりませんから,足腰の強さがレスポンスにと言う形で顕在化するとも思います。

 ということで,春の段階でAirMac Extremeを買うことを考えたのですが,やめました。次世代規格である802.11acの足音が聞こえてきたからです。

 802.11acは最大6.9Gbpsを実現する802.11nの正統後継者です。

余談ですが801.11は世代が進むとサフィックスのアルファベットがa, b, c, dと順次送られていきますが,1文字を使い切ったら次は2文字になって送られていきます。

 ですから,802.11bの次が802.11g,その次が802.11nで,最新が802.11acとなっても,サフィックスに意味はありません。

 8x8のMIMO,最大160MHzの広帯域化,256QAMによる変調方式の多値化と,802.11nとの親和性を考慮しつつ現在考え得る技術を盛り込んだ骨太な規格です。

 しかも,802.11nでは見送られたビームフォーミングの必須化など,電波の飛び方そのものにも手が入り,先の高速化により有利に動こうとします。

 残念ながら802.11acはまだ正式なものとはなっていませんが,ほとんど最終版としてドラフトが出ています。各社これに従って製品化し,販売されるようになったのがここ数ヶ月の話です。

 製品化と言っても,結局802.11acに対応したLSIが出てこないと話にならないわけですから,昨年の秋頃にLSIの発表があったことから考えて,そろそろ製品が出てくることは予想されたことでした。

 802.11acは高速化のために様々な技術を駆使していますし,お金のかかる方法も使っています。ですので,速度と引き替えにどこまで対応するかは,ある程度自由です。安いモデルと高いモデルは,速度で差別化が行われるということですね。

 年明けくらいから,AirMac Extremeが802.11acになるという噂はあったため,当時現行だったAirMac Extremeは買わずに,AirMac Expressと安い2.4GHzのアクセスポイントでここまでしのいできた私としては,802.11acのAirMac Extremeが出るのを待ちわびていたのです。

 そしてとうとう発表,即日発売になりました。

 デザインは平べったいものから,AppleTVが成長したような縦長のデザインになりました。こんな製品,他に見たことがありません。初めて見た人は,なんだこれはと首をかしげることでしょう。個人的には,前の方が良かったかなあと思います。

 会社の帰りにビックカメラに寄り道しますが,あいにく在庫切れ。だったら店頭に空箱を置いておくなよ,と思ったのですが,他のお店に聞いてもらったら1つだけ在庫ありとのことで,押さえてもらいました。

 旧機種が15000円,最新機種が2万円なので随分値上がりしたように思いますが,まあそこは初物ですし,802.11acですからね,こういうインフラ関係は,そうそう買い直すわけにも行かず,長く使えるものを選ばないと大変です。

 実物は結構大きく,重いものでした。

 帰宅して箱を置いておくと,娘が両手で掴んでトコトコ歩いて遊んでいます。

 箱が面白いんだなあと思って,開封してあげたのですが,彼女は箱ではなく,電源ケーブルに興味を持ったらしく,クルクルと綺麗に巻かれた電源ケーブルを振り回して遊び,箱には目もくれません。

 本体を取り出し,保護フィルムを剥がします。本体を覆う白いフィルム以外に,底面に貼ってある黒い丸いフィルムは,リングのマークまで転写されていて,なかなか良い感じです。

 早速娘はその黒いフィルムをいろいろなものに貼っては剥がし,貼っては剥がしを繰り返して遊んでいます。相変わらず箱には興味はないようです・・・

 今回は,現在使っている802.11nのAirMac Expressをリプレースすることが目的です。IPアドレスの設定やアクセス制限の設定など,なかなか面倒で手間のかかる作業があるのでうんざりという感じだったのですが,意を決して移行作業を開始です。

 しかし,すぐに私は拍子抜けすることになります。

 なんと,AirMacユーティリティを立ち上げると,自動で新しいAirMac Extremeを見つけ,しかも設定のアシスタントには他のAirMacベースステーションからの移行という選択肢が用意されていたのです。

 1回目はなぜか途中で止まったのですが,2回目はまさにあっという間に作業が自動で終わり,その後AirMac Expressは電源を落とされました。代わりに動き始めたAirMac Extremeは,ほぼ完全に設定を移行して稼働しており,iPadを使っている嫁さんは移行作業があったことすら気が付かないでしょう。

 そういえば,Macは新しい機種に買い換える際,現在のマシンから環境を新しいマシンに移行させるアシスタントがありました。実際に使ったのはiBookG4からMacBookProへの移行の時だったのですが,拍子抜けするほど簡単で,またその後も問題らしい問題も出ずに,安心したことを思い出します。

 AirMacはそんなにたくさんの設定項目があるわけではありませんが,試行錯誤を繰り返してなんとなく動いている場合もあるでしょう。そういう場合,こうやって機械的に移行作業が出来るなら,確かにそれはありがたいと思います。

 このあたりの配慮は,Appleらしいです。

 ということで,まさかシリーズも世代も違っているAirMacベースステーションからの移行がこんなに簡単にできるとは思っておらず,この点だけでもApple製の無線LAN機器を使い続ける理由になるなあと思いました。

 さて,動き始めましたが,使い心地です。

 まず,見た目に結構目立つので,置き場所は気を遣うと思います。高さがあることと,真っ白なので,これに違和感のない部屋というのはちょっと特殊でしょう。また,Appleらしいシンプルなデザインではあるのですが,どうも私には今ひとつ格好良く見えず,1周してなんかおかしなことになったなあと,思っています。

 そうそう,ファンが常時回るようになりました。ファンは静かなので,音は耳を近づけないと分からないくらいです。底と接地面のわずかな隙間から排気されますので,特に設置に気を遣うことはないと思います。

 それと,大きさは結構大きいと思います。すでにばらした記事がWEBに上がっていますが,3.5インチのHDDが内蔵できる大きさですので,それなりに大きいことが想像出来ると思います。

 性能については申し分無しです。5GHzは以前よりも随分高速でリンクするようになっています。2階に設置したAirMac Expressと,3階で使っているMacBookAirは,300Mbpsで安定してリンクしています。アンテナの位置とビームフォーミングが効いているようです。

 実効速度も上がっています。NASにTimeMachineのバックアップを取る時間も短くなりました。ファイルのコピーも高速になったと思いますし,やはりGbitEthernetの力もあると思います。

 アクセスポイントとして使う場合には,4つあるEthernetのコネクタはハブとして機能します。うちはハブとしても使うように複数の機器をここに繋いでいますが,パフォーマンスの問題は全くありません。

 ところで,今回の導入は,5GHzと2.4GHzの2つを1台でまとめてしまうことにありました。これがまたとても簡単なのです。

 ワイアレスの詳細設定を見ると,5GHz専用のSSIDを設定出来るようになっています。ここに5GHz専用のSSIDを入れれば,移行されたSSIDは2.4GHz専用になってくれます。以前のAirMacユーティリティでは,Optionキーを押しながらとか,いろいろ作法があったようですが,少なくとも現在の最新バージョンではOptionキーは使わずとも,2.4GHzと5GHzを別のSSIDで管理できます。

 ですから,MacBookAirとiPad2は5GHzで,ScanSnapやNintendo3DSは2.4GHzできちんとつながりました。

 ということで,ここまでで目的は達成出来ました。高速で安定した通信が出来るようになったこと,当分の間使い続けることが出来るだろうということで,まずは満足な結果です。

 今後は,例えばUSBでHDDを繋いで共有するとか,プリンタを繋ぐとかあると思いますが,前者は既にNASが稼働していますし,後者はプリンタを置く場所がなく,邪魔になるだけですので,あまり考える事はないでしょう。

 これで当分,無線LANは心配ありません。


 
 
 

新しいScanSnapはこんなにすごかったのか

  • 2013/06/10 17:37
  • カテゴリー:散財

 雑誌を含めてたくさんの本に囲まれて生きてきた私が,いよいよ場所がなくなって捨てる以外に選択肢がなくなっていたころ,思い切って購入したScanSnap。

 手間をかけても本は捨てられないと始めた本の電子化ですが,ScanSnapが良く出来ていたので,想像していたほどの手間もかからず,すっかり週末のルーチンワークとなりました。

 ScanSnap S500を手に入れたのが2007年3月ですから,もう6年も前のことになるんですね。ほぼ毎週使って,実に30万枚を超える枚数をスキャンしたS500も,さすがに満身創痍です。ピックアップローラーは見た目に小さくなったとわかるほど,すり減ってしまいました。

 なにせ,重送やゴミの付着は大きな時間のロスにつながるだけに,この6年間の間に独自のチューニングを施しています。光学系にゴミが入り込まないようにスポンジで隙間をふさぐ,ゴムのへらのようなものも,厚みや角度を調整して,出来るだけ重送が発生しないようにしました。

 分解掃除ももう慣れたもので,光学系まで分解して元に戻すことも20分もあれば出来るようになりました。ある時光学系の調整に失敗して,画像が無茶苦茶になったことがありましたが,そうした危機を乗り越えて,S500は30万枚をこなしてくれたのです。

 買い換えをしたいところですが,安いものではありません。ただ,効率に直結する「投資」ですので,あんまり古い機会で頑張るのもどうかなあと思って,もう6年も過ぎてしまったというわけです。

 昨年秋に出た新機種,ScanSnap iX500は,その名が示すとおりScanSnapの最新世代フラッグシップモデルです。すでに6年前から圧倒的なシェアと信頼性でドキュメントスキャナの定番となっていたScanSnapですが,現れては消えるライバル達を蹴散らしつつ,王者としてフルモデルチェンジを果たしたiX500は,登場から半年以上を経過し,その評価は揺るぎません。

 ScanSnapも,すでに基本機能はもう伸びしろはないだろうと思っていたら,愚直にスキャン速度の向上を果たしています。WiFiを搭載したとか,スマートフォン連携があるとか,そういうのはそれほど重要ではないと考えた私にも,A4サイズで25枚/秒という速度は,あまりに魅力的でした。

 S500はいつ壊れてもおかしくない状態です。安くなったときに買っておかなければと思っていたのですが,先日偶然特価を見つけて,iX500を買うことにしました。約37000円でしたので,それほど安いというわけではないでしょうが,4万円を切ればいつでも買って良い商品だと思います。

 ということで,iX500が私の手もとにやってきました。ただ「はやい」というだけの感想は聞き飽きたと思いますので,S500のリプレースをするMacユーザーという限定されたケースで,レビューを書いてみます。

(1)大きさ,形

 大きさはS500とそんなにかわりません。直線基調なので小さく見えるのですが,設置面積はほぼ同じで,外形はむしろ少しだけ大きくなっているそうです。

 重さについてもそんなに変わりません。これは,あまり軽いと紙を差し込んだときに,ひっくり返ってしまうからでしょうね。

 ACアダプタは小さくなりました。ACアダプタの進化もありますが,電圧が下がって消費電力も下がったことが理由の1つでしょう。

 デザインですが,トレイを開くと,ピアノブラックに青色LEDのパネルが出てきます。個人的には,本はとにかく手が汚れるものですので,ピアノブラックは気に入りません。ScanSnapはもっとストイックなデザインであって欲しいと思います。

 また,これも個人的な話ですが,青色LEDが嫌いなので,ここは上品な緑色にするか,アンバーだといいなあと思いました。パイロットランプの代わりに機種名が青く浮かび上がる工夫は面白いですが,そこまでしなくてもいいのになと思います。


(2)ソフトウェア

 最新のSnanSnap Managerをインストールします。昔は,TWAINなどで動作せず専用アプリでしか使えないScanSnapに批判もあったのですが,ScanSnap Managerが優秀で,そのうえサードパーティが提供するスキャン用のアプリが不甲斐ないせいで,次第にそんな批判も影を潜めるようになりました。

 付属のDVD-ROMはV6.0でしたが,インストール後V6.1にアップデートします。V6.1では,iX500内蔵のWiFiを使って,PCにデータを転送出来るようになりました。電源だけはアダプタが必要ですが,PCとの接続が無線になるので,取り回しは楽になるでしょう。

 私の場合,プリセットを5つほど作っていました。V6.1でもそれらは自動的に引き継がれています。内容を一応確認しましたが,きちんと引き継がれているようですので,インストール後に特に調整をする必要はなく,いきなり本番でスキャンすることができました。

 そして,V6.0からの機能だと思うのですが,自動的にページを回転する機能が付きました。別に自動でなくても,偶数と奇数で指定できればそれでいいのですが,これを使えば,例えは文庫や新書などを,横にしてスキャンして,速度を大きく向上させることができます。

 図版があると回転に失敗しますが,日本語の縦書きならほぼ大丈夫です。しかし,回転方向を解析して求めているので,処理に時間がかかります。スキャンはすべて終わっているのに,マシンが解析途中だったりするので,iX500の高速性をこんなことくらいで食いつぶすのは,ちょっともったいないです。

 ところで,V6.1でS500が動くかどうかを試しましたが,無事に動きました。ScanSnap Managerは伝統的に,古い機種でを動かすことが出来るのですが,正式に対応しているわけではありませんし,ライセンスの関係もあるので,ちょっと微妙な所です。

 ですが,S500でもグレースケールに対応出来たり,OCRが出来たりと,最新のソフトにすることで得られるメリットは大きいです。旧機種のユーザーにも有償でいいから,提供して欲しいなあと思います。


(3)使い心地

 まず速度です。私の場合,スーパーファインしか使いませんが,S500に比べると,もう徒歩か自動車かくらいの違いです。S500はA4で6枚/分,iX500になるとこれが25枚/分になるのですから,もう比べるまでもありません。

 S500で,スキャンに失敗すると,高速で紙が排出されますが,あの速度でずっとスキャンされるような感じです。しかも,次の紙を読み込むときのタイムラグもほとんどなく,どんどんスキャナに吸い込まれていきます。

 速度も大事ですが,なんと言っても重送の発生がほとんどないことが素晴らしいです。重送の検出に超音波センサを持ってもっているのは,前の機種であるS1500からですが,検出するよりも重送を起こさないようにする方がアプローチとしては正しいわけで,そうしたドキュメントスキャナの本分を忘れない改良は,素晴らしいと思います。

 これまでゴムのへらだった重送を防ぐ機構は,iX500ではローラーに変わりました。この効果は絶大です。

 ホコリの付着による縦スジも出にくいようですし,重送が起こらない,ミスフィードも発生しないことで,25枚/分という高速性が死なずに済んでいます。

 また,S500では紙の幅を誤認識することがあります。それを見つけて再スキャンするために,すべてのページを見直す必要があったのですが,iX500ではそれもありません。とにかく,1枚あたりの時間も短くなっているし,スキャンの前後にかかる時間も大幅に短縮できています。

 土曜日だけで8冊ほどの本を処理しましたが,あっという間にスキャンが終わり,S500で処理するつもりで確保していた時間は,大幅に余ってしまいました。お金で時間を買った気分です。


(4)画像の品質

 S500はCCDに冷陰極管でした。今にしてみれば非常にレガシーなデバイスの組み合わせですが,iX500ではCISに3色のLEDという,今どきのデバイスになりました。

 画質,色の違いがどのくらいあるのかが不安だったのですが,結論から言うと,S500とそんなに変わりません。変わらないようにチューニングをしてあるのでしょうね。

 もともと,ScanSnapは色再現性が高いわけではありません。その代わり読みやすさを重視するのですが,そうした方向性はiX500でも一貫しています。

 また,S500の縮小光学系にはすでに調整ズレも出ているのですが,iX500は新品ですし,光学系も密着です。モノクロモードで取り込んだ文字のキレは抜群です。

 もう1つ,光源ですが,冷陰極管は蛍光灯ですので寿命があります。赤,青,緑のそれぞれの蛍光塗料の寿命が違うせいで,経年変化で色が変わります。もちろん暗くなりますが,面倒な事に音頭でも変わります。

 ですので,冷陰極管をつかったS500には,機構的な寿命よりも,光源の寿命の方が私は心配だったのです。スキャンしていなくて,冷やしてしまうと色も明るさも変わるので,しばらくつけっぱなしになっていますし,消費電力にも寿命にも良くないことだと気になっていました。

 これがLEDになると,消費電力も下がるでしょうし,無駄な点灯もなく,暖まるまでスキャンが出来ないという時間の無駄も防げて,いいことずくめです。

 今回は紙を密着させる必要があるので,読み取りのユニットが上下左右に動くようになっています。これもスキャン品質を向上させるのに有効に働いていることと思います。


(5)WiFi

 V6.1では,スマートフォンだけではなく,PCともWiFiで接続が出来るようになりました。これでUSBケーブルで接続する必要がなくなったわけです。

 設定も簡単,WiFiのON/OFFは物理的なスライドスイッチで行いますから,WiFiが邪魔になるようなことはありません。

 ただ,私は使っていません。1つは2.4GHzしか対応しないこと。2.4GHzは電子レンジで切断がおきますし,近隣から電波が漏れ出てきているので,空きチャネルが少ないです。

 もう1つは,万が一切断やエラーが起きたときに,何が起こるかがはっきりしないことです。動作が止まってくれればよいのですが,画像にちょっとゴミが混じるとか,ページが読み飛ばされるなどがあれば,これは困ります。

 どんな場合でもそうですが,やはり信頼性が高いのは,有線接続です。

 PCのそばに設置していますので,無理にWiFiで繋ぐ必要はありません。確かにケーブルが1つ減るのは魅力的ですが,もう少し信頼性について考えからにしたいと思います。


(6)まとめ

 iX500ではMac版とWindows版が分かれていません。AcrobatXはWindows専用ですし,ABBYのOCRソフトはMac専用ですから,それぞれ無駄なお金を支払っていることになります。もちろん,ボリュームディスカウントがあると思うので,別々にしたからと言って値段が下がるわけではないでしょうから,難しいところです。

 ですが,S500のころはWindows専用のスキャナに,とりあえずMacで動くようにしておきましたという感じだったMac対応は,iX500ではWindowsとMacで,ほとんど差はありません。

 iX500は実売で4万円ほどですが,S500やS510といった旧機種のユーザーは今すぐにも買い換えて損はしませんし,下位機種にしようかと迷っている人には,ちょっと無理してでもiX500を買うべきだと断言しておきたいと思います。

 使用頻度は,とりわけドキュメントスキャナの場合には,その高速性や作業性の高さで,後から上がってくるものです。面倒,時間がかかる,画像の品質が低いなどで下がったモチベーションは,使用頻度の低下という形で顕在化します。

 逆に,手間も時間もかからず,簡単に本棚に隙間が出来ることを体験すれば,あれもこれもと,どんどんスキャンをしたくなるものです。

 スキャンの結果が良いものであれば,紙を処分しても失うものはありません。滅多に見ないけど捨てるには惜しい,あるいは今まさに読んでいるが,次読むかどうかはわからない,と言った本は,どんどん電子化してしまいましょう。本の電子化は,すればするほど,そのメリットが見えてくるものです。

 こんなだったら,もっと早くに買い換えておくべきでした。

GR雑感~そろそろ見えてくる残念な点

 一眼レフなみの大型・高感度なセンサを搭載し,一眼レフに迫る高性能なレンズを搭載したGR。小さく持ちやすいサイズに軽快なレスポンスも相まって,ぱっと手に取ることが増えました。

 撮影後すぐの,LCDでの確認では,その高画質っぷりに満足していたのですが,これをPCで見ればモアレが目立ち,それまで満点だったGRの評価が少し落ちています。

 そして昨日,D800と同じようなワークフローで印刷まで行ってみて,なかなか思い通りにはならないことを,強く感じました。

 そんなわけで,そろそろ新婚の夢のような時間も終わり,冷静に現実が見えてきたGRについて,思った事です。

(1)高感度特性

 D800よりも画素ピッチが大きい割には,D800よりも高感度特性は低いです。私は高感度特性を,ノイズが出始める感度,ノイズをLightroom4で除去して実用レベルに出来る感度,コントラストの低下が実用レベルに出来る感度,の3つで捉えています。

 GRの場合,まずISO3200は実用になりません。ISO400までがノイズについて問題のない感度,ISO1600までがノイズ除去可能な感度という感じです。コントラストの低下については,ISO3200が思った以上に悪く,ISO2000くらいまでかなと思っています。

 最高感度であるISO25600は,もうまったく使い物になりません。こんな感度の設定を設けた事がおかしいと思うくらい,全く駄目です。

 D800の場合,ISO800まではまず問題なく,ISO3200までなら除去が可能です。ISO25600は確かに実用レベルにはなりませんが,「ISO25600ですよ」と注釈をつければ「ほほー」というリアクションがかえってくる程度の画像が得られます。

 コントラストについても,ISO3200までは問題がありません。ですので,D800ではISO感度は3200まで自動で上がるように設定しています。

 同じような感覚でGRもISO3200まで自動にしたのですが,結果としてISO2000以降の写真は,まるでコンパクトデジカメで撮ったかのような画像になってしまいました。

 ノイズの量はもちろんですが,コントラストの低下,くすんだ色,眠い画像と,高感度特性は,この頃のデジカメにしては「悪い」という印象を持ちました。


(2)プログラム線図の問題

 プログラムモードを使っていると分かるのですが,出来るだけ絞りをF4.0にしようと頑張るのです。高感度特性が悪いくせに,簡単にISO感度を引っ張り上げてF4.0にしようとするので,最終的な画質にがっかりすることが多いです。

 室内撮影においてはこういう問題は結構深刻です。レンズはとても優秀で,F4.0が最高性能であることは分かりますが,これがF2.8になってもそんなに悪くはなりません。

 しかし,ISO400がISO800になると,これはもうかなり画質が悪化します。ここはISO400のままで,絞りをF2.8にするのが正しい選択だと思うのですが,GRのプログラム線図はそうなっていません。

 また,いかに28mm相当のレンズであっても,シャッター速度を落とすと被写体ブレが無視できません。1/15秒くらいが限度かなと思いますから,本来なら出来るだけISO感度は低く保ち,まず絞りをF2.8に開け,次にシャッター速度を1/15秒くらいまで落として,それからISO感度を変えるという仕組みにして欲しかったです。


(3)AFの問題

 プログラム線図が気に入らないなら,Aモードで撮影すれば済むだけのことではあるのですが,オートモード(緑色のカメラのマークです)でしか,顔認識AFが動作しないんですね。顔認識AFは,人の写真を撮るときには,いちいちAFポイントを動かさなくてもよいので便利なのですが,これが使えるのは結果的にプログラムモードだけになってしまうんです。

 AFポイントをもっと素早く,確実に動かせれば良いのですが,これがD800なんかとは明らかに違う弱点なんだと思います。顔認識に頼らなくても済むAフレキシブルなFか,どんなモードでも利用出来る顔認識AFか,どちらかが欲しいです。


(4)ホワイトバランス

 ホワイトバランスは,悪くはないのですが,期待していたほどではありませんでした。

 D800の場合,余程の事がない限り外しませんし,出てきた結果は大変好ましいことが多いです。オートホワイトバランスを全く信用していなかった頃は,太陽光に固定して現像時に合わせ直しをするのが普通だったのですが,D800になってからはオートを信用し,手作業によるホワイトバランスはほとんど行っていません。

 やってみるとこれが大変楽なんです。それなりの数を処理すると,いちいちグレーの部分を探してホワイトバランスを取るのはなかなか大変ですし,RAWと同時記録にしたJPEGをそのままプレビューとして使えますから,とても便利です。

 ですが,GRは案外ホワイトバランスを外しがちです。大きく外すと言うより,あまり綺麗な色に合わせてくれないという「ちょっと残念」という感じです。昼頃なら綺麗な肌色が出ていても,朝の光では青っぽい色になるんですが,顔色悪いな,と思うくらいにずれているので,オートホワイトバランスを信用出来ないなと思いました。

 D800だとこういう場合でも綺麗に合わせてくれます。朝の光であることが分かる程度にあわせてくれるので,雰囲気を維持しつつ,自然な顔色にしてくれるので助かります。

(5)ダイナミックレンジ

 D800は元々ダイナミックレンジも広く,それなりに粘ってくれるのですが,GRはそこは極普通です。RAWの場合,D800は14bit,GRは(非公式ですが)12bitです。

 この2bitの差は,結構大きいと私は見ていて,画像処理をしたときに潰れた影から画像が浮き出てくる感動,白く飛んだところからうっすら画像が見えてくる感激が,これほどのものとは思っていませんでした。

 RAWが12bitだから,という理由だけではなく,センサのダイナミックレンズそのものが一番大きな理由だと思いますが,GRのダイナミックレンジは,やはりそれほどのものではありませんでした。

 いや,正しい露出で撮影すればいいんですよ。露出補正をちゃんと面倒くさがらずにやれば,それで済む場合がほとんどですが,速写性に優れたGRですから,ついつい補正をしないで,AEを信じることも多いのです。

 しかし,それではやっぱり外してしまうことも多いです。

 GRで,逆光の人物を撮影しました。この段階ですでに背景は白く飛んでしまっていたのですが,顔がやや暗かったので,1/3ほど持ち上げて現像しました。

 印刷をしてがっかりしたのは,まるで,人物が下手なコラージュのように,白い背景に立体感を失って張り付いていたことでした。

 思うに,補正を賭けたときに,立体感を作る,奥行き方向に出るグラデーションが白く飛んでしまって,立体感がなくなってしまったんではないかと。D800ではさすがにこういう不自然な結果になることはありませんでしたので,横着をしないで,露出はきちんと管理しようと思いました。


(6)コントラスト

 はまったときの画像は確かに一眼レフを凌駕します。しかし,その範囲が結構狭い印象で,適正露出から外れたときにリカバー出来る範囲が案外狭いです。

 コントラストの低下は結構あるような印象で,露出で横着をすると,どうもメリハリのある画像が得られません。レンズのポテンシャルの高さは折り紙付きですし,これはセンサ(と画像処理)の性能によるものと考えるしかないでしょう。

 最近思うのですが,携帯電話搭載のカメラがいかに高性能化しても,やっぱりなんだか携帯くさいな,と思う原因は,コントラストにあるように感じるのです。無理にコントラストをあげて鮮やかにすると,今度は少ない情報を無理に加工するので,画像の破綻が起こります。

 情報量の多さは一眼レフにはかないません。同じような傾向はコンパクトデジカメにもあると感じていて,特にサイズの小さいセンサのカメラほど,こうした傾向が強いと思っています。PENTAX Qがいかに面白いカメラであっても,やはりコンデジの域を抜けられないのは,その辺にあるような気がします。

 GRの場合,なんといってもセンサがAPS-Cですから,かなり余裕があると思っていました。しかし,APS-Cの一眼レフに比べても,条件の悪化に対するコントラストの低下が,ちょっと大きいなあという印象を持っています。

 ですから,やっぱり露出は丁寧にやらないといけないです。


 てな具合です。

 いかに,D800がラフに扱えて,後でリカバーの出来るカメラであるかを強く感じました。GRはそういう意味では普通のカメラで,特に悪いわけではありません。D800が良すぎるんでしょう。

 あるいは,GRは28mm相当という画角を生かしたスナップを志向したカメラであり,人物撮影にはあまり向いていないのかもしれません。これは良し悪しと言うより,個性ですね。GRでサッカーの写真を撮るのはかなり不利なわけで,それと同じ話です。

 でも,願わくは14bitのRAWであって欲しかったなあと思います。14bitのRAWが持つ情報量の多さには,感覚的な面白さに加えて技術的な興味も尽きません。実用面でもレタッチ耐性が格段に向上することは間違いないわけですから,やっぱりGRくらいマニアックなカメラなら,14bitであって欲しかったと思います。

 

GRのローパスレスは本当に正しい選択だったのか

 GRが手もとに来てしばらくたちました。レスポンスの良さ,画像の素晴らしさ,なによりレンズの素性の良さが,すっと手に馴染むサイズに詰め込まれているGRは,使っていて楽しいカメラです。一眼レフのストイックな感じとは違う,肩の力を抜いて向き合える面白さがあります。

 出てくる画像は,さすがにD800レベルとは言いませんが,K10Dのそれを簡単に越えるものであり,もはや一眼レフを選ぶ必要性さえ霞んでしまったと思うほどです。

 ですので,本気で紙に焼いて楽しむ事を前提とした,RAWからLightroom4で現像して印刷というワークフローに乗せたいと思っていますが,GRはまだLightroomで正式対応になっていません。

 先日公開されたAdobeCameraRaw8.1RC(ACR8.1RC)からGRのプロファイルを抜き出してLightroom4で使ってみましたが,撮って出しのJPEGとはちょっと色味に違いがあるとはいえ,埋め込みのプロファイルよりはずっと自然で好ましい結果になっています。正式対応までは,これでいこうと思います。

 あとはノイズです。ビックリした事が2つあり,1つはISO3200での使い物にならないほどのノイズの多さ,もう1つはノイズリダクションがかかっているはずの撮って出しのJPEGに無視できない程のノイズが乗っていることと,処理の不自然さです。

 特にJPEGのノイズはかなり残念で,暗部のノイズは縮小してもわかるレベルですし,等倍で確認すればノイズリダクションの不自然さもよく分かります。もはやこれだけでも撮って出しのJPEGは使い物にならないと思うくらいです。

 一方のRAWは,当然ノイズまみれです。しかしLightroom4のノイズリダクションを使えば,かなり自然にノイズを目立たなく出来ます。Lightroomはノイズ除去に定評がありますが,残ったノイズがかつての高感度フィルムのような自然な残りかたをするので,ノイズリダクションを必要最小限にすることができます。

 さて,GRをLightroomで処理する流れを確認している最中,撮影した遠景の柵に,ピンクと紫の偽色がバンバン出ていることに気が付きました。

 それまで,GRがローパスレスであることをほとんど意識しないでいたのですが,さすがにこれを見せられると,無視するわけにはいきません。

 これがRAWからLightroom4で現像して,JPEGにしたあと切り出したものです。切り出しのあと300%の拡大を行っています。偽色が派手に出ています。ローパスフィルタがないことで発生したモアレです。

ファイル 640-1.jpg

 次に撮って出しのJEPGから同じ部分を等倍で切り出したものです。RAWに比べるともやっとしていて,モアレは低減している分,解像度は低下しています。

ファイル 640-2.jpg

 そしてRAWをLightroom4で現像,モアレ低減を行ったあとJPEGにしたものです。解像度を保ったままモアレをほぼ消し去っています。

ファイル 640-3.jpg

 ローパスレスの影響は,周期的に繰り返される模様によって顕著になると思い込んでいた私は,こんな間隔の広い柵でも,偽色に気を遣って撮影しないといけなくなることに,ちょっと気が重くなりました。

 1600万画素くらいでローパスレスにする必要などない,が私の持論です。サンプリング周波数の半分のところから折り返して発生する折り返しノイズが混じってしまうと,もうどんなフィルタをつかっても完全には除去できません。だから,サンプリング周波数の半分より上の情報は,ローパスフィルタでカットしないといけません。

 ローパスレスのデジカメで発生するモアレや偽色は,要するにこの折り返しノイズですから,これを除去する方法はありません。目立たなくする方法はありますが,それはオリジナルの情報にも大きな影響を与えてしまいます。

 センサの画素ピッチが大きく,レンズの解像度が高い場合,折り返しノイズが発生するような高周波成分がセンサに届いてしまいます。だから,折り返しノイズが発生しないようにするには,ローパスフィルタで高域をカットするか,あるいはセンサの画素ピッチをもっと小さくしてサンプリング周波数をもっと高いところに持って行くしか,ありません。

 そもそも,センサの解像度が高くないのに,ローパスレスにしたところで,センサが吐き出す情報量そのものが向上するはずがありません。確かに,ローパスフィルタの特性は急峻ではないため,通過されるべき帯域の情報までカットされることがあり,それが解像感として知覚されることは否定しません。

 しかし,そうした解像感に何の意味があるかなと,私は思います。その解像感よりは,一度混じってしまうと,理論的に除去できない折り返しノイズを混入前に取り除く方が,はるかにメリットがあると思います。

 案外見落としがちなのは,ローパスフィルタにもいろいろあるということです。安物よりは高価なものの方が切れ味も良く,他の帯域の情報に影響を与えません。特性の良くないローパスフィルタは切れ味も悪いし,通過させた情報にも影響を与えるわけですから,それくらいならローパスレスにした方が良い場合もあるでしょう。

 オーディオで例えるなら,画像の拡大というは,高い周波数の音を低い周波数に変換して再生するようなもの,わかりやすく言えばテープをゆっくり回してスロー再生することです。スロー再生をして「高域が出ていない」と文句を言う人がいますか?あるいは,スロー再生のために高域成分を入れておこうと思う人がいますか?

 我々は普段,スロー再生で音楽を愉しみませんから,CDなどのデジタルオーディオでは必ず存在するローパスフィルタによる,高域の落ち方にあまり神経質にはなりません。

 デジカメの画像の場合,安易に画像の拡大ができたりするので,本来気にならない高域の落ち方が,気になる周波数帯域に出てくるので問題にされますが,やっぱり普段の写真の楽しみ方で考えると,そんなに細かい部分は見えないものです。

 ただし,オーディオにも写真にも共通することは,拡大しないと違いが分からないわけでは決してなく,「なんとなく透明感があるなあ」という感覚的なところで,その微妙な違いに気が付くことがあるとは思います。これは個人差もあるでしょうね。

 でも,それは高級なローパスフィルタに優れた記録装置,再生装置を使って実現されるべきものであり,安易にローパスフィルタを外してしまうことは,誤ったアプローチだと思います。5万円のCDプレイヤーのローパスフィルタを外してカットしても,決して100万円のCDプレイヤーにはならないのです。

 話が随分逸れてしまいました。GRの話に戻しましょう。

 GRで唯一気に入らないのが,このローパスレスです。1600万画素くらいでローパスレスにされてしまうと,特殊な条件でなくてもバンバン折り返しノイズが発生します。

 最近ローパスレスが主流になりつつあり,またその独特の解像感には人気が集まっていますが,こういう弊害があることをきちんと理解していない人も多いように思います。

 上の例のように,普通に撮影してこれだけ簡単に偽色が出るのですから,レンズの性能に対してセンサの性能が低い,つまりサンプリング周波数が低すぎるという事です。ズルをしたら駄目なのです。解像度が欲しければ,センサの解像度を上げるしか方法はないのです。

 GRくらいの性能のレンズなら,1600万画素ではローパスフィルタは必要です。2400万画素くらいならいらないかも知れませんが,撮影者の工夫では発生を抑えられない,つまり撮影者が折り返しノイズを発生させるような高周波成分が入ってこないように工夫するには,APS-Cで1600万画素のセンサでは難しすぎるのです。

 RAWで撮影すれば,現像ソフトでモアレを消すことが出来るという人もいますが,消しているのではありません。目立たないように加工しているだけです。何度も言うように,一度混入した折り返しノイズは絶対に除去できません。

 折り返しノイズが混入した帯域をばっさりオリジナルごとカットし,その部分にあった情報を演算ででっちあげることで再現しているのかもしれませんし,そこは各社のノウハウなんだと思いますが,いずれにせよオリジナルを保って欲しい情報への影響は絶対に避けられません。つまり,モアレを消す代わりに,本来存在するべき大事な情報まで失われているのです。

 先程,Lightroom4でお見せしたモアレ低減は,確かに効果絶大だったのですが,実は他の領域への影響が結構あります。この部分は全体に彩度が低いので影響が目立ちませんが,他の場所でかけると,本来ならグレーの部分に別の部分の色が出てきたり,彩度が変わったりして,実用にならないレベルになります。だからこそ,Lightroom4では効果の出る範囲を指定しなくてはいけないんでしょうね。

 D800が使いやすいのは,ローパスフィルタがあるからだと思います。D800Eにしないで良かったなあとつくづく思うのは,重要ではない高域情報のために,重要な帯域に取り返しの付かない傷をつけることが正しい方法で回避されているからです。GRも同じようなポリシーで作って欲しかったと心底思います。

 どうやら,名機K-5の後継であるK-5IIとK-5IIsにおいてでも,K-5IIsのモアレの出方は結構派手なようで,その解像感と引き替えに,簡単に出てしまうモアレに,手を焼いている人が多いような感じです。

 かといってK-5IIが売れているかといえばそうではなく,売れているのはK-5IIsのようです。しかし,K-5程度の画素数でローパスレスにした理由が私にはわかりません。

 メーカーは,売れるものを作るのが仕事です。ローパスレスが売れるなら,多少の弊害には目を瞑って,ローパスレスを作って売ります。結果はユーザーの自己責任です。

 極端な例ですが,ある自動車の最高時速が150km/h,別のメーカーが180km/hで,後者の車の方がよく売れ,その理由が最高速度にあったとしましょう。するとライバルメーカーは次に190km/hに,別のメーカーは200km/hにと,最高速度競争が始まるでしょう。

 そしてその結果,自動車の危険性が高まり,事故の件数も事故の程度も大きくなっていったとしても,それは運転者の責任になります。

 でも一寸待って下さい。日本では,最高速度が150km/hでも200km/hでも,その違いを直接体験することは,出来ないはずです。不必要なスペックに踊らされた無知な消費者が,最終的に損害を被るということに気付いて欲しいです。我々は賢くあらねばなりません。

 自動車の例では,最高速度の規制と,エンジンの馬力の規制を,自動車メーカーが自主規制として制定しました。速度や馬力以外の性能も向上し,安全性も格段に上がった今では自主規制はないようですが,速度や馬力の向上に安全性がついて行けなかった時代には,そういう自主規制でユーザーが守られたこともあったのです。これもまたメーカーの責任です。

 同じ100km/hで走行するのに,最高速度が200km/hの自動車と,120km/hの自動車を比べれば,明らかに200km/hの方が余裕があって,快適で安全でしょう。でもそれは200km/hの最高速度のおかげではなく,それにふさわしい車体やブレーキを持っているからです。

 同様に,高解像度は,安易に外したローパスフィルタで得られるのではなく,レンズ,センサ,ボディの精度,画像処理エンジンなど,総合的な性能で得られるものです。

 GRの失敗は,安易なローパスレスに走ったことだと,思えてなりません。

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