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2012年02月の記事は以下のとおりです。

秋月で半導体チェッカDCA55を買う

  • 2012/02/28 15:41
  • カテゴリー:散財

 先日,秋月電子の新製品に,半導体チェッカーなるものが追加されました。DCA55という型名で,なんとイギリス製だそうです。キットではなく完成品で,お値段は4200円です。

 その筋の人には数年前からすでに知られた存在のようで,国内の業者が1万円程度で販売していたり,あるいは円高を活用して個人輸入を試みる人も結構いたようです。

 しかし,秋月が扱うようになって,もう迷うことはありません。4200円ですから,なかなか良心的なお値段と言えるでしょう。

 私はその筋ではないので,この商品の存在を今回初めて知ったわけですが,4200円という微妙なお値段と,面白そうと言うことで,半年ぶりに秋月の通販を利用して購入することにしました。半年経つと他に欲しいものも溜まっているので,USBオーディオキットやらトランジスタやら,気になっていたものを一緒に注文しました。

 さて,そのDCA55半導体チェッカーですが,なにが出来るかといいますと,端子の不明なディスクリート半導体の足に,適当にパッパとクリップを繋いでスイッチをいれると,あら不思議,半導体の種類とピン配置,そして大まかな素性を教えてくれるのです。

 判別できる種類はシリコンとゲルマニウムのトランジスタ,ダイオード,LED,サイリスタ,FETと言う具合です。このうちトランジスタについては同時にhFEを測定してくれますし,ダイオードはVFもわかります。

 さすがにFETのIDSSを表示したり,ツェナーダイオードのツェナー電圧を判定したり,サイリスタのゲート電流を調べてくれるような機能はないようですが,「とりあえず半導体ということは分かる」という怪しげな部品を活用するために,とてもお手軽にそれが可能となる便利グッズであることは間違いないでしょう。

 先週の金曜日に届きましたので,早速試してみました。

(1)ゲルマニウムトランジスタ

 「ゲルマでないと出ない音がある」などと,なお根強い人気のあるゲルマニウムトランジスタですが,国内の製品は在庫のみ,海外でも一部で細々と作られているという意味では,真空管と同じような存在です。

 私に言わせればそんなにありがたいものでもないのですが,確かに他に代用できるものがないだけに,必要な人にとっては重要な部品なのだと思います。

 私も手持ちにいくつかありますが,今回は往年の神戸工業製2SA31を取り出して見ました。適当にクリップを繋ぎ,スイッチを押しますと,おお,ちゃんと端子を判別し,hFEと測定時のコレクタ電流を表示しています。低いVBEはゲルマの証です。

 またリーク電流も表示しているので,トランジスタの劣化具合を判定することも出来て,これはなかなか便利です。


(2)シリコントランジスタ

 シリコントランジスタは,こちらも往年の沖電気製2SC169です。VFは約0.7Vと高めになり,hFEも100を越えるようなまともな値を示しています。

 実はこのチェッカー,hFEはあまりあてになりません。正確には小信号用のトランジスタについてはそこそこ信用できるものの,電力用のものは要注意です。

 hFE,つまり直流電流増幅率というのは,コレクタ電流とベース電流の比率のことではありますが,トランジスタは一般的に,コレクタ電流によってhFEが大幅に変わります。特に電力用のトランジスタは,公称のhFEが数十程度のものが珍しくないのですが,これはあくまでコレクタ電流を何Aも流した場合の話であり,今回のような2~3mA程度のコレクタ電流だと,hFEはかなり大きな値をとります。

 このチェッカーは,電池がA23という,小指くらいのサイズで12Vもある小型の電池を使っています。電流がたくさん引けないという問題もありますし,判定に大電流を流して壊したら終わりですので,数mA程度で判定をすると言うのは,無理もありません。


(3)ダーリントントランジスタ

 国産のピュアなダーリントントランジスタもめっきり見なくなりました。何を持ってピュアとするかは人それぞれですが,大電力用ではなく,小信号スイッチングで抵抗なしというものを私は勝手に想定しています。

 そしてその代表は,東芝の2SC982。定番ですね。これを測定してみると,1.2Vを越えるVBEに20000を越えるhFEと,まさにダーリントンです。


(4)サイリスタ

 日本電気製の2SF656にクリップを繋げました。サイリスタと判別され,ちゃんと端子も判定されています。でも細かい仕様は測定されません。


(5)UJT

 UJTなんてもう誰も使わないと思うのですが,某店で入手した中国製のBT33というUJTを試しに繋いでみました。結果は,Bi-ColorLEDと判定。

 理由を考えてみたのですが,UJTは別名ダブルベースダイオードと言うくらいで,PN接合のPからエミッタを1つ,Nからベース1とベース2を取り出すような構造をしています。

 ですので,これをそのまま判定すると,アノードコモンの2つ入りダイオードと判定されそうなものなのですが,実はUJTは,2つのダイオードのVFが異なります。Bi-ColorLED,つまり2色LEDというのは色の違うLEDですので,VFが違いますから,UJTはBi-ColoeLEDと判定されるというわけです。


(6)LED

 ということで,本物のLEDを繋いでみました。電流が流れる度にチカチカと点滅するので,アノードとカソードの判定と同時に,発光色の判定も出来て便利です。

 説明書によると,VFの大きな青色や白色のLEDは判定出来ないかも,と書かれていましたが,偶然でしょうけどもどちらも正しく判定出来ました。


(7)ダイオード

 ダイオードは3つのクリップのうち2つだけを繋いで判定を行います。VFの値が表示されるのですが,種別までを表示することはしてくれません。VFの値を見て自分で判断することになります。

 ということで,1N4148Aを調べると,VFは0.68Vの値を示します。整流用のちょっと大きなダイオードも同じような値を示しています。シリコンですから当たり前です。

 で,1N60Nを試してみたのですが,これは予想に反してVFが0.6V程度と出て,ゲルマニウムダイオードの特徴を示してはくれませんでした。

 ついでにショットキーダイオードも試しましたが,これも0.58Vをやや低めが出たとはいえ,この数字だけを見ればシリコン接合ダイオードと判定してしまいます。ゲルマニウムもショットキーも,本当は0.3V程度を期待したいところです。

 このVFというのは,流れる電流や周囲の温度によっても変わりますし,そもそもシリコンに比べてゲルマニウムの方が,電流の増え方が緩やかです。VFが0.7Vの時の電流は,実はシリコンもゲルマニウムもあまり変わりません。

 1N60のデータシートを見てみると,5mAの順方向電流が流れているときのVFは約0.6Vということで,これならシリコンダイオードと区別が出来ません。

 ところで今回は試していないのですが,前述のようにツェナーダイオードを判定しようとしても,ツェナー電圧を測定する事ができないので,普通のシリコン接合ダイオードと判定されてしまいます。ツェナーダイオードの判定こそ出来るとありがたいものなので,どうにかならんもんかなと思います。


(8)FET

 FETには接合型とMOS型の2つがあり,それぞれ全くの別物です。J-FETと言われる接合型はドレインとソースを入れ替えてもそのまま動いてしまうことが多いくらい,区別が付きにくいものです。DCA55においても,ドレインとソースの区別は出来ません。

 MOSの場合には多くの場合,ドレインとソースに寄生ダイオードが出来ていますので,これを見れば判定出来ます。

 ということで,接合型とMOS型をそれぞれ判定してみましたが,予想通りの結果に終わりました。P-chとN-chの判定も出来るし,MOS-FETについてはエンハンスメント型とデプレッション型の2つも判定されます。特にチップ部品が多いMOS-FETの判定には便利でしょうね。


(9)良否判定

 トランジスタでもダイオードでも良いのですが,判定時にショートしていた場合,どのクリップがショートしているかを表示してくれます。

 ちょっと感心したのは,ショートのようなわかりやすい例ではなく,指でトランジスタの足を持った時に,人間の指が電気抵抗に見えて,判定時にエラーを返すようになっているのです。

 判定出来ないからエラーを返すのは当たり前の話ですが,実際にトランジスタに予期せぬ電流が流れていた場合,それをトランジスタと判定するのではなく,壊れていますよ,と判定してくれた方がありがたいわけで,このあたりの仕組みをちゃんと考えて入れてくれてあるんだなあと思うと,ちょっと自作は面倒かもと,思い直しました。

 

 てな具合に,4200円というオモチャとしてはギリギリ納得出来るお値段のDCA55ですが,個人的にはなかなか面白そうです。使用頻度はそれほど高いわけでないでしょうが,使い道はいろいろありそうです。


・不明の三端子デバイスを判定

 トランジスタなのかダイオードなのか,はたまたサイリスタなのかFETなのか,ぱっと見ただけでは区別の付かない部品がジャンク基板に乗っかっているとき,回路や基板上のシルクから想像するしかありませんでしたが,DCA55を使えばピン配置まで分かって,ジャンク部品の活用に大変便利。


・ペア取り

 初段の差動なんかで,特性の揃ったペアが欲しい時があるわけですが,案外面倒な作業です。まず1つだけ真面目に測定をし,そのトランジスタをDCA55で判定,ここで得られた数字に近いものとペアを組めば,簡単にペアがとれそうです。しかし,J-FETには無力なんですよね。


・海外製のトランジスタ活用

 欧米でよく使われるトランジスタが日本国内でも目にするようになりました。部品屋さんで新品を買うことも出来ますし,ジャンク基板についている場合もあります。

 国内のトランジスタは,偉大なる2SC1815のおかげか,TO-92は左からECBという配列にほぼ統一されていますが,海外のトランジスタでこの配列は珍しく,よく間違います。DCA55で調べてから使う癖を付けると,間違いがなくてよいのではないでしょうか。


・LEDのテスト

 これって何色のLEDだっけ,どっちがアノードだっけ,という場合,横着して電池に直結したり,電源器の電圧を2.5Vくらいに下げて繋いだりするわけですが,これはLEDにとってかなり過酷です。電圧を下げ忘れて燃やしたこともしばしばです。

 しかし,これを使えば一発でチェックできます。一番役に立ってくれるかも知れません。


 電池がちょっと特殊なので,予備を2つほど買っておきました。でもA23という電池はちょっと大きなお店に行けばパナソニック製のものが買えるそうですので,そんなに特殊という事ではなさそうです。

 今思えば,これを中学生の時に手に入れていたら,手持ちの部品がどんどん価値のあるものに変わっていき,どんなに有意義でどんなに楽しいことだったかと,思います。

 当時の私の測定器は,アナログテスタが全てで,それでも電気が見えるようになったことにいちいち感激していました。数年してデジタルテスタを手に入れて,アナログテスタの出番はなくなりましたが,今でも大切に取ってあります。

 測定器が1つ増えると,見える世界がごろっと変わり,大きく開けてくるのが実感できます。今はそういう純粋な感動も減りましたが,当時の記憶があまりに心地よかったからでしょうか,今でも測定器が大好きなのは変わりません。

川の字

 昨年11月に娘が生まれました。

 あまりプライベートなことを書くのもどうかと思っていたので,ここではほとんど触れることはしませんでしたが,3ヶ月を過ぎ,毎日毎日変化がある娘を見ていると,今の興味の対象と生活の中心が彼女の存在にあることに気付かされます。

 私は男ですので無理からぬ事だと思うのですが,娘は私たち夫婦の目の前に,突然やってきた感じがします。むろん,その10ヶ月前から分かっていたことですし,生物学的に彼女が誕生した瞬間を否定するものではありませんが,我々二人だった空間に,もう一人の人間が突然現れ,しかもこれから長きにわたって一緒に暮らすことになるというのですから,これはもう大変なことです。

 しかも彼女は小さく弱く,自分だけでは生きることが出来ませんし,そのため突然の泣き声を発したり,無垢な笑いを我々に投げかけては,自分の存在をこまめにリマインドしています。

 人間一人が増えると書きましたが,これは猫や犬が増えることとは本質的に異なるものです。言うまでもありませんが,彼女は生物学的にヒトとして分類されるものとして誕生した生命体ですが,同時に日本の国籍を持ち,日本国民として,基本的な人権をすでに持っています。ヒトであることと同時に,人間だということです。

 従って,彼女は人間らしく生きることを保証されているのです。この点において,私と彼女の間に全く差はありません。

 我々夫婦は,結婚という契約によって生活を共にし,最も小さい社会単位を新たに作りました。この単位の構成員が二人から三人に突然増えたことは,子供が生まれれば当たり前のことですが,このケース以外では普通は起きない,やはり特別な事なんだと思います。

 とても尊く,大きな存在である人間が突然増えるという事実はとても重く,感動的です。もちろん,その大きさにふさわしい存在感を我々に放っています。

 そして,なにより重要なことは,突然やってきたその存在が,我々夫婦を幸せにし,結束させ,そして決して否定されることのない新たな価値観を作り上げた事実です。

 三人が川の字になって眠ることは,私の夢でもありました。毎晩毎晩,その夢が現実になったことに幸せを感じて,眠りにつきます。

続々登場する魅力的なカメラ

 現在主力であるD2Hを購入したのが2005年で今から7年近く前,サブのK10Dを購入したのが2008年で今から4年前です。

 特にD2Hの陳腐化が目立って来ました。切れ味,レスポンス,そして動作音などメカに不満は一切ありませんが,いかんせん400万画素という少ない画素数,高感度のノイズのみならず,低感度でも暗部に浮き上がる派手なノイズ,そしてバッテリーの劣化と将来の供給の不安と,当時発展途上であった技術課題の解決が急速に進んだ昨今,もはや「これで十分」と意地を張るのも難しくなってきました。

 月並みな理由ですが,子供の貴重な一瞬一瞬を出来るだけ多くの情報量で記録しようと考えた時,高次元でバランスしている良いカメラが欲しいと思うようになりました。

 昨年はタイの洪水もあり,その要求を満たすカメラにお目にかかることがなかったのですが,今年に入っての新製品ラッシュには期待をはるかに超えるものがあって,腰の力が抜けていきそうです。

 性能が突出しているもの,デザインに優れているもの,設計思想にしびれるものなど,どれも個性を放っていて,今年はすでに豊作の予感です。

 実に悩ましい。

 「宝くじでもあたらんかなあ・・・」「宝くじを買ってからいえよ」とお約束の突っ込みを自分で寂しく入れつつ,ちょっとここ数日で発表になった新しいカメラを私の視点でまとめてみようと思います。


・ニコンD800 / D800E

 まずは3600万画素のフルサイズセンサを搭載していることが強烈です。単純な画素数競争ではなく,あくまで「意味のある情報」としての高画素をねらったものであることは,公開されたサンプル画像からみて理解出来ます。まさにニコンの良心です。

 もちろん,カメラボディのポテンシャルとしての3600万画素であり,ここまで来るとレンズも最高性能のものを用意しないといけないという意見は理解出来ますが,実は解像度の低いレンズや収差の大きいクセ玉も,低い画素数では個性が隠れてしまいがちです。

 3600万画素と言えば,間違いなくISO100のネガフィルムと同じくらいの線解像度を持ちます。フィルムを前提としたレンズは,この画素数にしてようやくその個性をフルに表現出来るのではないでしょうか。

 ニコンは,中判に迫る性能で風景写真に,と言っていますが,実は多彩なレンズを駆使しする芸術志向のフォトグラファーから強く支持されるように思えてなりません。

 20万回のシャッター耐久も素晴らしいです。明らかにプロの使用を前提としています。このカメラの最大の欠点が連写速度の低さにありますが,毎秒4コマにして20万回の耐久ですので,長期信頼性の向上が主目的でしょう。

 D4が画素数を絞って幅広い用途に向けた完全プロ機なのに対し,D800は画素数を高めたカメラ本来の性能追求を果たしたカメラです。いずれDヒトケタの後継機種は,この画素数で毎秒10コマやら超高感度やら実現するでしょうが,連写や感度は使い方の工夫が出来ても,画素数だけはどうにも工夫が出来ません。

 賛否両論がある3600万画素ですが,数に負けていない実際の解像度の高さを見せつけられると,もう反論できないです。

 そしてなにより,この価格です。いきなり27万円スタートですから,フルサイズ機でもこの価格が普通になったという感慨と,価格以上の価値のあるカメラだという感心が,素直にわき上がってきます。

 このカメラなら,私の使い方なら10年は大丈夫です。下手をするとF3のような長生きになるかも知れません。


・ペンタックスK-01

 Kマウントのミラーレスの噂は,私はてっきりガセネタだと思っていたのですが,全然違っていました。

 そもそもKマウントはM42プラクチカマウントと同じフランジバックを持つ,一眼レフ専用のマウントです。ミラーとぶつかることを避けるために,45.46mmmものフランジバックがあるわけです。

 故に,Kマウントを採用すればミラーレスだろうがなんだろうが,必ず45.46mmは出っ張るわけで,そんなミラーレスに魅力があるはずがない,と思っていました。

 ですが,マーク・ニューソンのデザインするK-01を見て,これは!と思いました。

 確かに本体を薄くすることは出来ませんが,レンズを薄くすることは出来ます。これで全体の厚みを押さえることは出来そうです。レンズ内モーターが主流になる昨今に置いて,薄くできないボディーのスペースにモーターを入れて,レンズは極力薄くすると言う発想は実に正しいでしょう。

 ですから,ボディのみの販売は行われず,レンズキットのみになっていることは,なるほど理にかなっています。特にDA40mmと同じ光学性能を持つ超薄型のレンズはいいですね。35mm換算で60mm相当の単焦点レンズですので,とても楽しいことでしょう。

 ミラーレスになったことで連写速度も向上し,K-5のウィークポイントが改善されたことも素晴らしいです。音も静かになっているでしょうから,Kマウントのレンズ資産を引き継ぎ,新しい使い方を開拓するカメラとして,大変面白いと思います。

 個人的に気に入ったカラーは,イエローです。黄色と黒なんて,まさにコダックの色です。先日経営破綻したコダックに対するオマージュでしょうか。

 ただし,ペンタックスには1つ心配な事があります。近々行われるCP+の発表内容を見ていると,645Dのレンズ,Kのレンズ,Qのレンズと,ペンタックスの規模から考えるとマウントが多すぎです。

 まあ,これがペンタックスの伝統なので今さらなのですが,今もユーザーはマウントに忠誠を誓うわけで,同じ会社が3つもマウントを持っていることに,いいようもない不安を感じていることもまた事実です。


・オリンパス OM-D

 案外好意的な評価が多いように思われるOM-Dですが,カメラとしての基本性能を高めたところはさすがです。防塵防滴にマグネシウムフレームで,マイクロフォーサーズも,これでようやくプロの道具になることでしょう。

 しかし,そういう方向性と,かつての名機OMシリーズを模したデザインとは,ちょっと相容れないと私は思います。ちょうどペンタックスのK-01とは逆の発想になっているように感じるのですが,ミラーも光学ファインダもないのに,なぜあの三角屋根なのか,なぜレンズを中心とした左右の比率がOM1と同じでなければならないのか。

 特に三角屋根の部分は,一眼レフの弱点の1つだったわけで,EVFを搭載したこの機種が三角屋根を持つのは,それがデザインモチーフであり,懐古主義だからであるということでしか,説明が付きません。

 例えば,同じ懐古主義でもペンタックスのOptio I-10などは,全く必然性のない中で,デザインだけauto110です,という明確な主張と遊び心にあふれていました。また,今ヒットしているオリンパスのPEN-Dも,ミラーレスだからこそ可能になったデザインです。

 なら,OM-Dは,ミラーありのフォーサーズでやるべきではなかったのか。見やすい光学ファインダをちゃんと装備して,名機OMをきちんとなぞることこそ,OM-Dの役割だったのではないかと思います。


・シグマSD1 Merrill

 SD1が出たときには本当に驚きました。儲かるかどうかは横に置き,明らかにカメラとしての完成度が低い中で,これでしか手に入らない画質を70万円で買いませんかというのですから,余程の人しか手を出せないでしょう。

 しかし,私も大変気に入っている三層構造のセンサFoveonX3が,APS-Cサイズになって高画素化し,これが吐き出す強烈な情報量に舌を巻いた人は多いでしょう。

 しかし,なぜこの値段なのか,と当時も私は釈然としなかったのです。この値段のカメラなら,カメラとしての基本性能も高くなければなりません。それはEOS-1Dであり,D3が期待されるわけです。

 もともとSD1って,20万円くらいで出るべきカメラじゃないのか,と思っていたら,SD1 Merrillの発表です。実質50万円近い値下げが行われたわけで,メーカーも価格改定だと自ら言っています。

 メーカー,というより山木社長のメッセージによると,SD1に搭載したセンサは製造上の困難があり,どうしても値段が高くなったと。それが1年余りの改良により,全く同じ性能で価格を大幅に下げることに成功したと。

 ゆえに,SD1は20万円で新たに販売するというわけです。70万円のSD1を買ったユーザーはシグマにとっても特別なお客様,だから40万円相当のポイントを提供するプログラムも計画中とのことです。

 なかなか出来る事ではありません。多くの人が「感動した」と言っています。

 普通,発売からそれなりに時間が経過していれば,名称を変えて値段を下げるのは「マイナーチェンジ」で済まされます。値段を下げるにはそれなりの改良があり,投資も行われるから,別機種として展開することは言い訳でもなんでもありません。

 ですが,冷静に考えてみると,センサの値差だけで50万円もあるのか?です。

 ボディは明らかに20万円クラスのカメラです。センサがもう10万円高いものになったとして,売価への影響は20万円アップくらいまででしょう。もしセンサが20万円高いなら売価は40万円くらいアップでしょうが,20万円以上のセンサなんてもう手作り品で,量産品としてはありえません。

 製造上の問題という事ですので,歩留まりも悪く,品質のバラツキもひどかったのでしょう。数が揃わないので,その数で利益の出る採算構造を考えると,70万円で売るしかなかったというのが本当のところではないかと思います。

 だから,このままでも長く生産し,ロングセラーになってくれれば,最後には値段が下がったかも知れません。(そう簡単な話ではありませんが)

 一部で言われている,売れないようにするために最初から40万円ほど乗っかっていたんじゃないのか,はちょっと疑いすぎで,今のシグマにそんなことをしてまで新しいカメラを投入しないといけない理由は見当たりません。 

 なので,70万円で利益がようやく出るカメラを売って,あとで値下げしたから差額を返しますなんてのは,シグマにとってはやはり大英断なのです。差額を返すといった瞬間に,ではいくらならいいのかが議論になるわけで,それが20万円でもなく50万円でもなく,40万円になったことの行間を,もう少し読んでみても良さそうです。

 そもそもSD1の販売数がそんなに多くないことも,可能になった理由でしょう。しかし,40万円もの巨額の返金(とはいえ,自社製品への交換の権利ですので,実質20万円以下でしょうが)には,大きな決断があったはずです。

 SD1を買ったユーザーの内訳が,本来大事にすべき個人ユーザーよりも,実は評価用に買ったライバル会社が結構いたり,70万円の価格に見合った価格で買い取った中古カメラ屋さんが即死するんじゃないかとか,いろいろ心配な事もあります。ですが,そんな話は置いておいて,まず自分達を支持してくれた人々を裏切らないことを真っ先に考えたことは,理由のいかんに関わらず,賞賛されるべきことでしょう。

 SD1 Merrill,売れてくれればいいと思います。Foveonを買い取ったシグマには,FovenX3の凄さを広く知らしめる義務がありますから。


・シグマDP1 Merrill,DP2 Merrill

 前述の新世代FoveonX3センサが安くなったことと,おそらく量産が可能になったことで,コンパクトカメラであるDP1とDP2にも搭載されるようになったという話なのですが,これも私は驚きました。

 このシリーズについては,私もDP1sを持っていますが,これも旧モデルになった時に投げ売りされたものを買ったまでで,販売当初に急いで買った熱心なユーザーではありません。

 でも,普通に良く写るコンパクトデジカメが1万円台のご時世に,FoveonX3を使いたいと言うだけの理由でその何倍ものお金を出すことにはやはり抵抗があります。それで3万円くらいになったときに買ったのですが,これはこれまでのデジカメとは全く違う体験だったので,さらに改良されて販売されることを期待しました。

 ただでさえ競争の激しいコンパクトデジカメですから,DP1もDP2も,すぐにやめになるだろうと思っていたのですが,どっこい今でもちゃんと現行機種です。その上,SD1でも使われる新世代のセンサまで搭載した,フルモデルチェンジまだ行われるというのですから,もうビックリです。

 お値段も,おそらく従来機種と同じくらいになることでしょう。そうなると,あの強烈な画像を10万円以内で楽しめることになるわけで,とても魅力的な話となります。

 APS-CサイズのFoveonX3になると,もうレンズの性能を抜きには語れません。私の目から見て,今回のフルモデルチェンジの2つ目の目玉は,レンズの大幅な改良です。

 従来のDP1/DP2でもレンズの性能には定評がありましたが,今回は贅沢にもFLDガラスや非球面レンズを駆使して,なんとF2.8という明るさのレンズを搭載してくれました。これまで開放がF4でしたので,実はなにかと不便をしていましたし,せっかくの大きなセンササイズを生かしたボケも出にくくて,表現上の制約が結構あったのです。

 それが開放F2.8からですので,これはかなり使い甲斐があります。F4からですと1段明るいのですから,実質的に感度は2倍に相当します。ちょっと暗い部屋でもなんとかシャッターを切ることが出来るでしょう。

 また,20cmまで寄ることが出来ることも素晴らしいですね。従来のDP1が30cmまででしたので,DP1のレンズの弱点をちゃんと潰してきたと言えるでしょう。28mm相当のレンズでも,一眼レフ並みのボケを駆使できるに違いありません。シグマというのはなんと真摯な会社でしょうか。

 他にも,旧モデルではLCDの質が悪く,マニュアルフォーカスなど実質出来ない状態でしたが,これも改善されたようです。

 しかし,値段も気になりますし,実質RAW専用機になることも覚悟せねばなりません。現時点ではISO感度は未発表ですし,AF精度の問題,レスポンスの悪さ,ユーザーインターフェースの悪さ,電池寿命,そしてストロボがなくなったことなど,心配な部分も多そうです。

 値段によっては,私も欲しいと思いますが,PENTAX Qに高画質な28mm相当の単焦点レンズが出たら必要がなくなります。カメラは最終的には,全体のバランスです。あるポイントに突出していても,他がダメなら被写体に迫れません。

 ところで,このmerrillという名前ですが,言うまでもなくFoveonX3の発明者の一人,Dick B.Merrill氏から取られています。FoveonX3の開発に大きな足跡を残した彼は,同時に写真家でもありました。

 あまり日本では報道されなかったようですが,彼は2008年10月17日の朝,長いガンとの闘いの果てに,亡くなりました。シグマはFoveonX3の記念すべき最初のジェネレーションネームに,このmerrillを起用して,その功績を永遠にたたえることにしたのです。

 まあその,うちわの話と言ってしまえばそこまでですが,今のシグマを見ていると,志半ばで亡くなった開発者への尊敬を素直に感じて,背筋の伸びる想いがします。

 


・ペンタックスKマウントレンズ用アダプターQ

 これはカメラではないのですが,個人的に絶対買うことになるものです。今年の夏頃という事なので,とても楽しみです。

 なんのことはない,PENTAX Qの発売当時から言われていた,Kマウントのレンズを使うためのアダプタです。

PENTAX Qは35mm換算に焦点距離を5倍することになります。そうするとFA43mm/F1.9は215mmとなりますし,FA77mm/F2は385mmです。テレ端200mmのズームだと実に1000mmですから,これはもう未体験ゾーンです。

 単純にマウントの変換を行うだけなら,これまでも方法がなかったわけではありません。しかし,PENTAX Qにはメカシャッターがないため,被写体が動くときにローリング歪みが発生するので,被写体が歪むのです。

 私が注目しているのは,今回発表になったマウントアダプターには,ちゃんとメカシャッターが搭載されていることです。さすが純正,さすがPENTAXだと思いました。

 FA43mmやFA77mmという,あえて残した収差を味わうレンズもそうですし,FA35mmのような基本性能に長けたレンズや,1000mm相当の超望遠レンズの世界も今からとても楽しみです。なんといっても最も画質の良い中央部だけを使うのですから,画質についての心配はないでしょう。

 しかし,PENTAX Qというカメラは,実はレンズの収差を画像エンジンで補正することを積極的に利用したカメラです。特に歪曲収差については,無理に光学的に追い込むよりは,画像処理で補正することとして,他の収差の改善や性能の向上を優先しています。

 PENTAX Qの画像をRAWで扱うと,収差の補正を画像処理で行う事への抵抗など吹き飛んでしまうくらいの衝撃があるのですが,Kマウントレンズの収差補正は,どういうスタンスで行われるのでしょうか。

 仮に収差補正無しとなった場合,収差が理想的に補正されたいつものPENTAX Qの画像に見慣れた我々が,Kマウントのレンズの補正無しの画像を見て,どんな印象を持つことになるでしょうか。FA43mmなんて眠いレンズだとか,そんな風に言われてしまうかも知れませんね。


・タムロンSP 24-70mm F/2.8 Di VC USD

 ワンランク上の標準ズームにF2.8通しのレンズがあります。すでに単焦点レンズに迫る画質を実現したこのランクのレンズは,プロも使うレンズということで性能は素晴らしいですが,価格も高いです。

 そんな中,アマチュアでも手が届き,しかも性能も抜群という銘玉として,タムロンの28-75mm/F2.8(A09)があります。実売3万円台でF2.8通しのズームが買えるだけでも驚きですが,その画質は価格を大きく超えて,多くの人に「もうこれでいいじゃないか」と言わせてしまう,そんなレンズです。

 しかもこのレンズはフルサイズ用のレンズです。高価なフルサイズ機を買った人が」レンズでけちるのもどうかと思いますが,初期投資が安く済むというのはとてもありがたい話です。

 この定評あるレンズの後継として登場するのが24-70mm F/2.8 Di VC USDです。長い名前ですが,広角域は24mmまで広がりましたし,手ぶれ補正も内蔵しました,AFモータも超音波モーターらしいですから,とりあえず全部入りです。

 あとは価格次第ですが,仮に実売価格が1万円上がっても,従来のレンズの画質を維持するならお買い得でしょう。確かにA09は古いレンズで,そのせいで値段も大きく下がっていますから,このレンズも登場時はそんなに安くないかも知れません。

 ですが,もし私がD800を買ったなら,このレンズも一緒に買うことになると思います。純正はとてもとても・・・

 

HP15c Limited Edition

  • 2012/02/07 12:22
  • カテゴリー:散財

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 測定器と電子部品が切り離され,PCも分離されるかという話が出たり消えたりの昨今,名門Hewlett-Packardはプリンタとサービスの会社になってしまいそうです。

 ですが,非常に不思議なことに,電卓だけはまだHewlett-Packardに残っています。いや,実際に設計をやってるわけではないのですが,hpのロゴが付いた電卓が今でも普通に買えることは,ちょっとした驚きです。

 私が経営者なら,電卓部門なんかとっとと潰すか売却するんですが,歴代の経営者が電卓に特別な感情を持つはずもなく,やっぱり規模が小さくて,目立たないからということではないかと思う訳です。

 とはいえ,前述のように設計も製造も丸投げですし,サポートも他の会社がやってますので,hp自身がやっていることはほとんどありません。ブランドだけ残っているという言い方も正しいですが,むしろブランドが残っているからこそ,今回私が買ったHP15cの復刻も障害なく可能だったりするのです。

 そんなわけで,HP15cの復刻版を買いました。hpも分かっているようで,懐古主義に囚われてもがき続けるミドルエイジを確実に捕獲するためのオッサンホイホイとしての役割が強く,限定版,シリアルナンバー入り,綺麗な化粧箱に入って,お値段は1万円です。

 オッサンホイホイに,まさに国境なし。

 昨年末の初回分は存在を知らず,買いませんでした。しかし,なにかとトラブルもあったようで,1月下旬入荷分の予約開始に偶然発売に気が付いた私はラッキーだったと思うようにしています。

 届いたのは結局2月になりましたが,無事に手に入りました。製本された綺麗な日本語マニュアルまで同梱され,なかなか満足です。

 hpの電卓はこれで3台目です。買う度に書いてることですが,私は逆ポーランド記法に馴染んだ人ではないし,従ってhpの電卓を使ってきたわけではありません。中学生の時から使っているのはシャープのPC-1245であり,これが復刻するなら即予約です。

 ですが,HP15cは,あの独特のデザインが素晴らしく,1980年代を体現していると思います。また,ぱっと見てさっぱり分からないキーの配置や印刷は,電卓=日本のお家芸と思っている多くの日本人を混乱に陥れますが,その壁を乗り越えても到達する高みがそこにあります。

 かつて,hpの電卓は,エンジニアと科学者,そして金融の専門家にとって,憧れの存在でした。でした,などというのはおこがましいですかね,私はそのことをリアルタイムでは知りませんから。

 ただ,同じデザインでコンピュータの専門家向けに作られた,HP16cは,とても気になる存在でした。2進数-8進数-10進数-16進数の演算や変換,補数の計算などが行える便利さが,かなり大きな桁まで享受できます。ポケコンをもってしても,これほどの便利さはありません。

 でも,これが復刻する可能性はゼロに近いでしょう。HP15cという,エンジニア向けの強力な計算機が復刻しただけでも,感謝せねばなりません。

 そのHP15cですが,コンパクトなデザイン,シンプルなディスプレイを持ち,複素数の計算,積分の求積,方程式の求根,行列計算もプログラムも可能という,数学が嫌いな人なら別人格が表面に出てくる程,実生活に関係のない豪華な機能です。当時,これが手のひらサイズで登場した時の驚きは,想像に易いです。

 一歩下がって考えてみると,実はこの電卓の最大のユーザーは,自社の測定器部門で働くエンジニアだったはずです。優れた電卓が測定器を作り,電卓がさらに進化するというサイクルが,ある時期まではあったのだと思います。

 復刻されたHP15cは,中身まで当時のままというわけではなく,CPUはARMになって,処理速度も随分向上しているようです。また,スイッチの感触やガタなどは当時の精密さが再現出来ているわけではないらしく,これは残念な話です。(私はそれほど気になりませんが)

 ただ,正しい答えを出してくれるはずの電卓に,バグがあって答えが信用出来ない場合があるそうです。これは復刻もなにも,電卓としての基本機能を満たしていないわけですから,早急に対応をして欲しいものだと思います。(ただ,私自身がそういうバグを確認したわけではないのであまり偉そうなことは言えません)

 私個人の感想で言えば,独特のデザインはとても気に入っていますし,LCDの表示のテイストもHPのそれですからとてもワクワクします。キーも押し心地も悪いとは思いませんし,この大きさと,限られた入出力インターフェースで非常に複雑な計算をやってのける事への感心というものが沸いてきます。

 初めてのhpの電卓として手に入れたHP35sを買ったのが2007年,あれから5年ほど経過して,また新しいhpの電卓を買うことになるとは思っていませんでした。

 ただ,ちょっとうれしいのは,コストダウンで失われた,プラスチック製の独立したキー,プラスチックのフレームにアルミの化粧パネルを貼り付けた筐体という2つの要素が,未だにこの価格で実現出来ることです。

 1980年代後半になると,こういう手のかかるものは採用されなくなりますが,使って見るとこの2つがあると,非常に使いやすいんですね。ただ,コストダウンを理由の1つにして使われなくなったものですので,今これを電卓に使ったら2万円を越えるなんてことになると,あきらめるほかありません。

 しかし,HP15cが1万円くらいで出来るのであれば,今後こういう仕組みが採用される可能性を捨てずにいることができます。もう少し一般的になって,選択肢が増えるとうれしいですね。

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