PrinCubeが届いた
- 2020/08/27 13:02
- カテゴリー:散財
昨年10月末に,PrinCubeなる商品を知りました。どこでも印刷が出来るハンディプリンタで,この手の商品は30年ほど前からあるにはあったため,特に目新しさはないように思うのですが,定期的に出ては消え出ては消えするを見ていると,世代の入れ替わりを感じたりします。
何が言いたいかと言えば,その実用性がどれくらい洗練されてきたか,という話です。ヘッドを手で動かして印刷しようという発想そのものは昔からありますが,問題は不安定な手の動作でどれくらい綺麗に印刷出来るのか,と言う点が大きいのです。
また,印刷方式も大きいです。その昔,熱転写プリンタをハンディプリンタにしていたケースがありましたが,これなどは本当に実用性に乏しく,ほぼゴミでした。
手の動きを原動力にした本体の動きを機械的にとらえ,これに応じてインクリングモジュレータリボンを進める方式に精度など出るはずもなく,理想的な条件でのみ機能するという商品だったと思います。
PrinCubeが良く出来ているのは,画期的な方式による発明というわけではなく,過去の問題を潰せるような方式を選んだという事に尽きるでしょう。
1つは,インクジェット方式である事です。今や主流のインクジェットプリンタと同様の方式ですので信頼性も高く,インクの種類もいろいろ選べるはずです。紙以外まで印刷出来るようにするというのは,インクの性能によるところが大きいです。
また,密着している必要がないことも重要です。
もう1つは,移動量を光センサで読み取り,正確にインクジェットを制御する事が出来るようになったことです。移動量を機械的に読み取るには,ローラーが滑るという事を防がないといけませんが,あいにく摩擦係数もバラバラですし,曲面ならもうお手上げです。
これをうまくバランスして組み上げると,とても安定したものになりそうです。低コストで使いやすくまとめ上げるのは設計者の器量としても,そのための素材が揃ってるのは,確かに今かも知れません。
かくして,PrinCubeと名付けられたその商品は,ニューヨークのスタートアップが始めたアイデア商品なわけですが,ご多分に漏れずクラウドファンディングで資金調達を行っていました。
私は10月末に出資,年内に入手出来ることを期待していたわけですが,インク調達の問題に始まりコロナに振り回された彼らから私の分が届いたのは,なんと昨日の事でした。
1万円ちょっとの物ですので,最悪ダメになってもいいかと,温かい目で見ていたのですが,約束をちゃんと果たした彼らをまずは讃えたいと思います。
最初,あれこれとトラブルもあり,すんなり動かなかったのですが,わかってしまえばなんということもなく,そのあたりも含めてレビューを書きたいと思います。
(1)大きさ,重さ,質感など
大きさや重さはApple製のACアダプタがそれに近いです。特筆すべき所はありません。質感は悪くないですし,剛性感も精度も十分だと思いますが,開封時点で諮問がベタベタになっていることには少々閉口しました。
(2)仕組み,使い方,使い勝手
印刷の仕組み自体は先に書いたとおりですが,印刷データの作成や転送は今どきの仕組みを持っています。
まず,本体がWiFiのアクセスポイントになること。接続はWiFi(もしくはUSB)で行うわけですが,APに接続するクライアントではなく,自分がAPになってスマートフォンから接続されるようになっています。
これ,いいアイデアのように思うのですが,こういう機器があまりないので,慣れない人には難しいんじゃないかと思います。私の場合,せっかくスマートフォンと繋がっても,肝心のスマートフォンがWiFiをインターネットに繋がっていないものと判断し,httpで始まるアドレスをWANに探しに行くようになってしまいました。
物理的な接続の次はデータの転送なのですが,データの転送だけなら専用アプリを使って独自プロトコルで流し込んでも構わないはずです。
しかし,prinCubeでは,本体がWebサーバーになって,WebアプリをクライアントであるスマートフォンやPCのブラウザで実行させるようになっています。
Webアプリにはデータの転送だけではなく,プロジェクトの作成や管理,画像や文字の編集,データの変換や本体の設定などの機能も持たせてあり,いちいち専用のアプリをダウンロードしインストールさせるようなことはしていません。
これはとても賢いやり方で,繋がってしさえすればどのプラットフォームでも同じように扱え,しかもプロジェクトやデータは本体のストレージに保存されるので,一々過去のデータをマシンの間でやりとりする必要もありません。
まさに本体だけ持ち歩けば,どこでも同じように扱えるのです。
ただ,WebアプリですのでUIが洗練されているとは言えず,動作も重いです。また,編集能力にも限界があるので,すべてが本体だけで完結しない場合もあることも,残念な所ではあります。
ところで,PCやMacといったデスクトップ環境では,USB接続になります。わざわざUSBに仮想Ethernetを用意し本体のWebアプリにアクセスさせる仕組みなのですが,それだったら他のAPに接続するモードもWiFiに用意してもらった方が,ずっと綺麗にまとまるように思います。
(3)印刷の結果
印刷の結果は,思わず笑ってしまうほど,精緻で本気のものです。
黒がCMYの混色なので薄く,グレーになってしまうのはかつてのHPのインクジェットプリンタそのものな感じですが,他の色の発色は悪くなく,赤色などはかなり綺麗だと思います。
そもそも,白が綺麗な紙を前提にしていないのだから,発色などというのは期待しない方がよいと思うのですが,赤は綺麗に出るという事だけ覚えておくといいかも知れません。
滲みは案外少なく,くっきりと出力されます。また,標準で600dpiですのでギザギザも出にくく,このあたりは本体の画像処理がしっかりしているのだろうと思います。とにかく印刷の結果は良好です。
(4)まとめ
ということで,オモチャとしては最高に面白く,9歳の娘も大喜びです。前述のように画質も思った以上に良くて,面倒な画像サイズの調整をしなくても綺麗に印刷することができます。
ちょっとしたハンコ代わりなら完全に実用的,ノートやメモパッドにワンポイントを入れるのも完璧です。
Tシャツなんかにワンポイントを入れるのも可能ですが,洗えば落ちるのでこれはダメかもしれず,インクを弾くような素材への印刷はそもそも難しいので,洗わないようなものへの印刷も非現実だと思います。
よって紙が最良の結果を得られる印刷対象ということになりますが,それだと結構用途が限られるわけで,回り回ってこのプリンタの存在意義ってなんだろうなって,思ってしまいます。
考えつくのはQRコードを印刷することですが,本体にそうした機能が装備されないと手間になります。将来のアップデートに期待したい所です。
あと,インクの別売りが今のところないので心許なく,同時にインクの改良でプラスチックやコーティングされた紙に印刷出来るようになるとうれしいです。
もっといえば,白を印刷出来るインクカートリッジがあると最高で,それができたら30年前のマイクロドライプリンタ以来の革命になるのではないかと思います。
紙ではないものに印刷をすることが出来るプリンタだからこそ,白が印刷出来ることの意味は大きいのです。
印刷中は静かですし,案外失敗もしません。もっといろいろな使い方を考えてみたいと思います。
今のところですか?マル秘のスタンプを作って,なんでもかんでもマル秘にして遊んでいますよ。