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常用レンズにZ 26mmF2.8

 Zfがやってきて1ヶ月ほど経過しました。発売日にはランキング一位でも翌週には圏外という,初回を売り切ったら在庫がないというニコンによくあるいつもの展開になっているようで,Zfを持ち歩くとどうしても自意識過剰になってしまいます。

 それはどうでもいいことなのですが,この1ヶ月で困ったのはレンズの選択です。一言で言うと付けっぱなしにできる良いレンズがありません。

 Zfcでも似たような状況が続き,キットレンズの28mmF2.8も,次に出た40mmF2も,どうも私の好みとは遠く,ようやく「これだ」と思ったのは24mmF1.7を手に入れてからになったのでした。

 今考えても24mmF1.7は良いレンズで,聞けば50mmF1.2と同じ設計者が同じ思想で設計した物なんだそうです。そりゃカタログスペック以上のなにかが込められているはずで,妙に納得してしまいました。

 Zfcを手放したときにこのレンズも一緒に売却したのは,それがAPS-C専用のレンズだったからで,もしフルサイズだったら絶対に残していたと思います。このレンズは安いのに,良く写ると言うこと以上のものがあるレンズでした。

 Zfで使えるフルサイズ用のZマウントレンズでは,こういう思想のレンズはとても高価です。50mmF1.2はなんと30万円で,値段もそうですがまるでF2.8通しのズームレンズみたいな大きさで,これを常用しようとは思いません。

 同じ理由でF2.8通しのズームは(まだFマウントを持っているので)買おうとは思いませんし,先日買った24-70F4ではF4という開放F値からくる制限が結構窮屈で常用には至っていません。

 シグマが35mmF1.4あたりを用意してくれればそれがベストなんですが,残念ながら現時点でシグマはZマウントをAPC-Sしか用意してくれていません。

 画角は35mm,明るさはF2よりも明るいものが理想で,これって先の24mmF1.7(フルサイズに換算すると36mm)がドンピシャだったとわかるのですが,Zマウントにはこういうレンズで手軽(大きさ的にも経済的にも)なものはないのです。

 マウントアダプタを経由してFA43mmF1.9を使ってみたり,MマウントのHELIAR 40mm F2.8を使ってみたりしましたが,マウントアダプタの分だけ出っ張ってかさばるし,せっかくの強力なAFが使えない事のもどかしさもあり,数回でやめました。レンズ遊びはあくまで遊びであって,常用にはならないものです。

 なら,新たに買うしかありません。私の常用レンズを探す旅は,まだ始まったばかりです。

 候補を探してみると,純正ならSラインの巨大な(かつ高価な)ものしかありません。これはいきなり厳しい。

 コシナからはAPO-LANTHAR 35mm F2が候補になりました。画質には心配はなく,価格も10万円程度ですからなんとかなります。しかしAFが使えないのでは常用にはなりません。これもだめか。

 中華レンズにいくつか候補が見つかりましたが,リセールバリューを考えると安易に手を出せません。それにいつニコンがこれらのレンズでAF動作しないように仕込んでくるかわからないですから,やはり常用にはなりません。

 うーん,ここで行き詰まってしまいました。

 もう少し条件を緩くしましょう。そうすると1つ引っかかってきたのが,Zのパンケーキ,Z 26mmF2.8です。

 私はパンケーキレンズには特に思い入れはなく,薄いことを売りにすることで肝心の性能や使い勝手に妥協を強いられるのが嫌で,むしろ避けていた感があります。(まあこれは思い込みに過ぎないのですが)

 なので,Zでわざわざパンケーキというのもいまひとつピンと来ていませんでしたし,しかもその焦点距離が26mmという広角(しかも28mmよりも短いなんて)というのは,果たして使いこなせるのかとも思っていました。

 加えて,どうも格好が良くないです。Zのレンズは総じて顔が大きいくせに前玉が小さい(その代わり後玉が大きい)ので今ひとつ可愛くないのですが,このZ 26mmF2.8も他例に漏れず,可愛くありません。

 これが3万円ならちょっと試してみるか,と思えるんですが,さすがに6万円後半ということになると勇気がいります。

 とはいえ,もうこのレンズ以外に,常用レンズの候補がないのも認めざるを得ません。ちょうどamazonもセールをやっていますので,思い切って買うことにしました。

 63000円からポイントが3000ポイントで実質6万円というのも安いと思いますが,ニコンのキャッシュバックで7000円戻ってきますので,結局53000円です。昨今のレンズの値上がりは厳しさを増していますが,このレンズの私の値頃感はちょうどこのくらいの価格でした。

 ということで,先の連休で手に入れたものを使ってみます。

(1)手に取った感じ

 良くも歩くもZレンズです。Zのレンズはどのレンズもくびれがなく,寸胴です。私はそれが好きにはなれないのですが,パンケーキならそんな印象もありません。うーん,パンケーキと言うよりも回転焼きって感じですけど・・・

 極端に薄いわけではないこのレンズも,マウント径が大きいことで非常に薄く感じます。専用のフードを付けてしまえば,一眼レフ時代の普通の単焦点レンズの気分です。

 とはいえ,さすがにそこは純正。作りはしっかりしていますし,しっとりと手に馴染むのは気分がいいです。

 そのフードですが,やっぱりくびれや出っ張りがなく,装着時もつまらない円柱に見えます。このへんがZfとアンバランスなんだろうと思います。

 このレンズは,フィルターをレンズ本体に取り付けることが出来ません。先にバヨネット式の専用フードを取り付け,フードに切られた52mmのネジでフィルターを取り付けます。

 しかしこれだと,フィルターに入りこむ有害な角度の光線を防げません。フィルターとレンズの麺との間で反射も起きてしまいますので,フードの役割から考えると,やっぱりフィルターはフードの前に置きたいところです。


(2)写り

 写りは,実は大満足です。これは予想以上のものがありました。

 シャープネスもボケも色のりも期待通りで,常用レンズとして十分使えます。Z 28mmF2.8とは全然違っていて,そこはやっぱり価格相応なんだなと思った次第です。

 F2.8の開放から使えることはあまり期待していなかったのですが,少し(周辺は少しではないですけど)画質は落ちますが十分使えるレベルです。

 色は濃厚ではありませんが淡泊でもなく,見たままの感じですし,歪曲も補正されていて問題ないレベルです。線の細さはあまり感じませんが,下品な太さはありません。

 F2.8ですからそんなにボケないと思っていましたが,26mmですからもう一歩夜必要があり,それくらいの距離だと上品に背景がボケてくれます。私は背景になにが映っているのかわからないくらいのボケボケはどうも好きにはなれず,被写体に視線が自然に行く程度のボケが得られるのを理想としています。Z 26mmはちょうどよいと思います。

 ピント面とボケとの繋がりも自然ですし,コントラストも良好なので陰影も綺麗に出ます。常用レンズとしてはとても頼もしい画質だと思います。

(3)使い勝手

 パンケーキといいつつそんなに薄くないことに加え,この手のレンズとしては初体験のAFレンズですので,パンケーキであることは全然デメリットではありません。ピントリングも触りやすいですし,全体繰り出しですが鏡筒は伸びないので振り回すのも問題ありません。

 特筆すべきは「寄れる」ことです。26mmだから当たり前ともいえるのですが,20cmまで寄れるというのはかなり撮影自由度が上がります。とはいえ撮影倍率はたかだか.19倍ですので,そんなにパースを強調できるわけではありません。寄れば寄っただけ背景はボケるので,上手く使いたいところです。

 それから26mmという焦点距離です。かなりの広角だよなと覚悟していましたが,使ってみると案外自然です。よく考えてみると,昨今のスマートフォンのカメラが,このくらいの焦点距離なんだそうで,そういう写真を見慣れていることがあるのかも知れません。

 そうそう,このレンズはもちろん手ぶれ補正はありません。しかしZfの強力なボディ内手ぶれ補正と,レンズの小ささと画角のおかげもあって,手持ちで1/8秒も余裕です。

(4)ものたりないところ

 もう少し暖色で,色がしっかり乗ってくると常用レンズとしては申し分なしです。絞れば十分なシャープネスを得られますが,開放でもうちょっとだけ頑張って欲しいとも思います。

 それからデザイン。Zの寸胴体型はどうにかならんのかと思うのと,バヨネットフードってのはどうかと思いました。確かにフード病を押さえこむには有効なんですけどね・・・


(5)まとめ

 パンケーキレンズって,欲しいと言う人は多いように思うのですが,実際に売れたという話はあまり聞きません。ニコンでも,Ai45mmF2.8Pなんかはさっぱり売れず,中古価格も高いままという話を聞きます。

 理由はいろいろあるんでしょうけど,安くて手軽なパンケーキを求めることはあっても,高価なパンケーキを望む人は少ないんだと思います。その点でZ 26mmF2.8もそんなに売れるレンズではないと思うのですが,では6万円の価値のないれんずかと言えばそんなことはありません。

 ニコンらしく光学的に妥協はないし,質感も十分6万円のそれだと思います。ここで40mmや45mmを出してこなかったのはむしろニコンの戦略で,26mmというちょっと珍しいものをこの価格で出してきたところが,面白いなと思いました。

 使ってみると,出っ張らないことがとても快適で,もともと三次元的な凹凸の少ないZfには(デザインを除き)ぴったりです。写りも好みに近く,手軽に持ち出せ,絞りで画像をコントロールする面白さも持っている上,寄れるというのは,まさに常用レンズに持ってこいでした。

 とりあえず常用レンズを探す旅は,このZ 26mmF2.8で決着することができました。屋外でもっと試さないといけませんが,これがまだ手に馴染まないZfを身近に近寄せる原動力になってくれればいいなと思います。

Z 24-70mmF4を買う

 Zfは大変良く出来たカメラで。シャッターを切りたいという気持ちにさせてくれる良いカメラです。D850程の大げさな物ではなく,しかし妥協なく撮影出来るという点での心理的なゆとりも大きいと思います。

 ただ,私の場合はレンズのラインナップが貧弱で,D850におけるシグマの35mmF1.4ARTみたいな全幅の信頼を置ける「つけっぱなしレンズ」がないので,これからそれを探す旅に出なければなりません。

 Zfで期待出来たのは40mmF2という純正のレンズだったのですが,これはちょっと私の趣味には合いませんでした。なんというか,描写が甘いというのと,色の出方がちょっと汚いかなあ,という印象なのです。

 安いレンズですし贅沢を言うのは筋違いなのですが,Zfcのころからそういう傾向はあり,ちょっとためらいがちにつかっちました。それがZfではますます強く出てくる感じがしていて,試してみたけどやっぱり常用は難しいという結論になりました。DX用の24mmF1.7と同じような性格の40mmだったらよかったんですけどねえ。

 35mmから40mm程度のレンズはZ用でなくてもいろいろありますから,たとえばFA43mmF1.9とか試してみましたが,結果はともかくAFが動作しないことが問題で,カジュアルに撮ることも可能なレンズとしての条件を満たしません。

 新しく買うにしても,Zのレンズは選択肢が狭い(あくまでFマウントに比べてという意味ですが)ので,こういう時に悩ましいのですが,困った時に選ぶ1本すらないというこの状況を放置するのはあまりに不安なので,とにかく実用性重視で1本買うことにしました。

 とはいえ,高価なレンズは買えません。24-70mmのF2.8などはFマウントとZマウントの両方を持つことはさすがに庶民のアマチュアに許されたことはないと自覚しているので,ならばとF4の標準ズームを検討する事にします。

 候補に挙がったのは24-120と24-70のF4。どちらもSラインなので画質には不安はありません。となると利便性と価格で選ぶ事になるわけで,新品価格の差が小さい現状ではもう24-120mmの一択でしょう。

 でも,中古まで入れると話が違ってきます。24-70mmなら,中古で5万円前後なのです。新品の半額以下です。Z6とZ7のキットレンズだったこともあり,数は豊富ですし,投げ売りされやすい不幸なレンズといえます。

 Zレンズとしては最古のレンズでもあるのですが,とはいえSラインですから性能は問題なし,それ以上にZマウントを世に問う当時のニコンの混信の作品であり,実際にこのレンズの性能には否定的な意見を見た事がありません。

 最近の中古市場は全体的に値上がり気味なので,この24-70mmF4も以前よりは値段が上がっているそうですが,それでも私が見つけたのは53000円でした。これ,フードもケースも付属しておらず,その点では価格相応なわけですが,届いて見ると大きなひっかき傷がありましたし,レンズキャップも付属のものではなく,Fマウント時代の古いデザインのレンズキャップでしたから,正直よい買い物ではありませんでした。

 光学的な問題点がなかったことは幸いで,早速使ってみました。

 噂通り,Zマウントに対するニコンの考えがよく分かる,良く写るレンズです。F4開放から使い物になりますし,画角による性能差も小さいと思います。色のりも解像度もさすがと思わせるものがありますし,使い勝手も上々です。

 しかし,あまりに優等生過ぎて,つまりません。

 贅沢だなと思いますが,どれも平均以上の性能ゆえに,特に個性を感じないのです。これがF2.8のレンズだと背景のピントがあっているところと外れているところの繋がりのスムーズさに感動したりするんでしょうが,F4だとそういうこともありません。

 まあ,もともと24-70mmというレンジが感動の薄いレンジでもあるので,やむを得ない所はあるのですが,きちんと移るけど,それ以上ではなくて,ぱっと見てごく普通の写真に収まってしまうところが,つまらないのだろうと思います。

 それに,F4というのもやっぱりちょっと窮屈です。もう一段明るいとISO感度を上げられるので,ノイズ処理に歴然とした違いが出てきます。あるいはシャッター速度を上げられるので被写体ブレとおさらばできます。この差も大きいなあと思いました。

 いやね,Fマウントの24-70mmF2.8EもFTZ経由で使ってみたのです。これは確かに文句はないのですが,写りで言えば24-70mmF4と同等かちょっと悪いくらい,そのくせ大きくて重たい(さらにいうと高価なので気を遣う)ので,常用は無理かなあと思ったのです。

 で,結局24-70mmF4と40mmF2を交互に使っている(28mF2.8は好みに合わないので出番なし)感じなのですが,35mmF1.4あたりに結局落ち着くような気がします。シグマあたりから出てくれればうれしいんですが,それがダメなら純正かなあ。

さようならZfc,ようこそZf

 ニコンZ f(Zとfの間にはスペースが入るのが正しいようなのですが,これだとZとfみたいになるので,以後私はZfと書きます)を買いました。予約開始と同時に予約したので,発売日の午前中に手に入りました。

 Zfcが登場した時に,いずれはフルサイズでクラシックデザインのカメラが出ることを多くの人が予想したし,私も期待もしたわけですが,そのZfcがよく売れたこともあり,満を持して登場したのが,フルサイズのZfです。

 Zfのなにが素晴らしいといって,Zfcの時とは違い,ZfがZ5のような下位モデルをベースに外側だけ交換したモデルではないということです。外側はFM2をモチーフにしながら,中身は実はZ6クラスの最新モデルであり,性能にも軽快さにも妥協がなく,間違いなくこのクラスにおけるニコンの最も新しい技術が盛り込まれた,戦闘力の高いモデルなのです。

 Zfの売りはデザインなの?性能なの?と聞かれたとき,その両方!と答えたニコンはすごいと思いましたし,同時に無茶をするなあとも思いました。Zfcは間違いなくデザインに振ったモデルであって,質感であるとか性能的なものには妥協が強いられました。

 しかしZf,どうですか,この質感の高さ,この性能の高さ。

 同時に値段も本格的なものになってしまいましたが,それも含めて「最新のカメラとして真面目に買う」モデルになっていると思います。誤解を恐れずに言えば,ライトユーザーや初心者,ちょっと別の入り口からカメラに興味を持った人たちの受け皿としての役割は,もうないといってよいでしょう。それはZfcの仕事ですし。

 ということで,Zfです。

 Zfはクラシックなカメラのデザインを纏った,本格的なミラーレスです。2400万画素クラスのフルサイズはミラーレス一眼カメラの激戦区ですし,Z6IIはもちろん各社本当に良いカメラが揃っています。性能と扱いやすさのバランスがちょうど良く,私も最もカメラらしい万能選手が揃っていると思います。Zfはその最新機種なのです。

 お値段も本格的になっていて,実売価格は約27万円。円安が進んだこともあって数年前なら23万円くらいだった(だって10年前のα7って15万円だったんですよ)と思うのですが,それはまあ仕方がありません。

 決して私はバーゲンプライスとは思いませんが,27万円に相応しい質感と性能を備えていることは間違いありません。つまり,27万円に期待するものは十分備えているという事です。

 ということで,最新の高性能カメラを昔のUIで使う楽しみを味わいつつ,レビューです。

(1)質感とデザイン

 Zfcは全体にプラスチッキーで,ちゃちな印象を受けました。しかもダイアルもグラグラしていましたし,レリーズボタンも遊びが多く,それ以外のボタン類のクリック感も良くないものでした。

 しかしZfはそれらがすべて解決しています。中身が詰まっていそうな密度感,触れた時に感じるヒンヤリとした質感,指にしっかりかかり,精度良く確実に回転するダイヤル,そして適度な反発力と底打ち感のあるレリーズボタン,上品なクリック感とストロークを持つボタン類,すべてが上質で,触っていたいという感覚が沸いてきます。

 サイズも私にはちょうど良くて,少し大きめのフィルムカメラを触っている感じです。それからあまり誰も触れないのですが,右側のグリップは,F3のそれとそっくりです。特に側面に繋がる部分の処理がうり二つで,ここの処理はF3を見た時に私が感心した部分の1つなのですが,私は,Zfは本当はF3になりたかったんだろうなと思いました。(ZfはFM2でもF3でもなく,Zfシリーズなのです)

 デザインそのものはZfcの踏襲ですが,大きさが変わっているのでそのままというわけではなく,辻褄合わせの細かい処理が散見されます。そもそも大柄なFMやFEシリーズなんてのは世の中には存在しないわけなので,FMらしさをこの大きさから引き出すのは,結構大変だったんじゃないかと思います。

 それこそ,潔くF3やF2のようなデザインテイストにすればすべて解決だったと思うのですが,ニコンがやりたかったのはF3やF2を復活させる事ではなく,あくまでクラシックデザインの「Zシリーズ」を作りたかったわけで,そういうブレないところもニコンらしくて私はとても良いと思いました。

 Zfcでは,デザインに軸足を置いたせいで操作性が犠牲になっていました。Zfもそうしたきらいはあるのですが,大きさが変わったことで操作系のゆとりも出来た事で,随分と楽に操作ができるようになりました。

 どちらかというとZfcは派生モデル,飛び道具的な位置付けで,悪く言えばそれは卑屈に見えたりしたのですが,ZfはもうZの中核をなす新しいカテゴリであり,実に堂々としていると感じます。全体にそういう雰囲気を纏っていることが,私はなにより素晴らしいと感じています。

(2)画質と基本性能

 画質は文句なし。2400万画素クラスですのでトリミング耐性は低いですが,ダイナミックレンジも広く,発色も素晴らしいですし,ノイズも低く高感度特性も高いです。

 ぜひ触れておきたいのがモノクロモードの搭載です。以前からモノクロ撮影を行うモードを持っていますが,一々メニューから切り替えないといけないこともあり,私も使ってきませんでした。

 しかし,Zfではシャッター速度ダイアルの下に動画と静止画と同じスイッチで,モノクロの切り替えが行えるようにしてきました。動画撮影を同列ですよ。

 そしてこのモノクロは,3つのモードが選べるようになっています。モノクロはどの色をどの濃さで表現するかという問題に加えて,白から黒にどういうカーブで変化するかという2つの要素が絡み合ってなかなか難しい世界です。

 カラーの場合,実物との比較(あるいは記憶との比較)が可能で,比較対象に近いことが一応の正解となるわけですが,モノクロの場合色という情報の欠如が大きすぎて,どんだけ頑張っても実物には近づけません。

 なので,もはや最初から撮影者が伝えたい情報を取捨選択することが求められるという芸術性の高さがモノクロ写真にはあると思うのですが,これを積極的に楽しんで欲しいというのが,Zfを作った人の想いのようです。

 使ってみましたが,モノクロは楽しいです。フィルムによって随分結果が変わるのがモノクロですが,自分の考える結果がそのまま出てきた時の感動は大きな物があります。

 Zfでは,ディープモノクロームが私のイメージに近く,これがデジタルカメラの手軽さで手に入るのは素直にうれしいと感じました。しかもミラーレスらしく,ファインダーがモノクロになってくれると言うのですから,モノクロ撮影の難易度がぐっと下がってきます。

 これまでもこうしたモノクロモードを備えたカメラはありましたが,私はどれも遊びでちょっと使った程度で終わっていました。しかしZfでは案外積極的に使っていくことになるかも知れません。欲を言えば,もう少し階調が滑らかなモードがあったらいいなと思います。

 AF性能も良くなっています。D850を使う私にとっても,もう十分なものがあると思います。顔とか飛行機とか認識出来るようですが,そんなことより基本性能としてのAF精度や速度がここまで来たことが感慨深いです。

 手ぶれ補正はZシリーズ最高の,まさかの8段。あの大きなセンサーを動かして8段もの補正をするというのですからすごいなと思いますが,実際オールドレンズを装着してもぴたーっと像がファインダー内で吸い付くのを見ると,恐ろしささえ感じてしまいます。D850にVRレンズの組み合わせよりもスペック上も体感上も上です。

 私自身は手ぶれ補正が強力になっても,被写体ブレがある以上はシャッタースピードを下げられないと思っていますので,その恩恵は限定的と考えていますが,レリーズの本体ブレを強力に押さえられるというのは魅力的な一方で,ますます1枚1枚をラフに撮影してしまうんじゃないかと心配になります。

 そして連写速度。連写速度は重要ではないと言う人が多いですが,数字の問題と言うより,その連写に対応出来る骨格と筋肉を持っていることが重要であり,それは連写をしない場合でも,剛性感とか信頼性とか精度とか,そういう全体的な性能に大きく影響します。連写は使わなくても出来るモデルを私なら選びます。

 ZfはなんとJPEGで最大7.8コマ/秒,露出が安定しないらしい拡張モードではJPEGで14コマ/秒という速さです。これらはいずれもメカシャッター時ですので,私の言う骨格と筋肉という観点ではこの数字が重要になるのですが,確かにこの速度を実現するだけの機構が入っていることを感じさせるのが,シャッター音です。

 Zfcのパシャコンという感じの間延びした音に対し,Zfはカコンという感じの切れ味のいい音がします。この音はかなりいい音で,どんどんシャッターを切りたいと思わせるものがあります。

 連写速度の高さ,そして最高シャッタースピードが1/8000秒というのももはや上級機レベルであり,明らかに一山越えたところの表現力を身につけているといえるでしょう。

(3)操作性

 操作性はZfcを踏襲しているので,Zfcユーザーだった私にとっては,良い面も悪い面もそのまま継承という感じです。

 私は,せっかくZfcなんだからと積極的に軍艦部のダイアルを使っていましたから,Zfでもダイアルを中心にした使い方をしています。Zfcでは本体が小さくて,ファインダーを覗きながらシャッター速度を変更するのがちょっと大変だったのですが,Zfはちょうど良い大きさで,ファインダーを覗きながらの作業がやりやすくてよいです。

 ただ,ISO感度については散々言われたZfcの使い勝手の悪さがそのまま残っていて,ISO感度の自動設定との折り合いがよくありません。

 前後のコマンドダイアルは固くなったことと,指の引っかかりが強すぎてちょっと痛いので,あまり使いたくはありません。特にフロントのコマンドダイアルは指が自然に届かず,出来るだけ使わないような設定に変えてしまいました。

 前板の下側にあるボタンは特等席のボタンで,かつてF3ではAEロックでした。有効に使いたいのですが,私の場合,さっと握ると小指があたるので,大事な機能にはアサイン出来ません。

 あと,これはZfcもそうなのですが,ドライブモードやAFモードの切り替えがメニュー呼び出しなので非常に面倒です。Zfcは機能的に貧弱なので切り替えも必要なかったのですが,Zfは本気のカメラですので,これらの機能の切り替えにさっとアクセス出来るインターフェースが欲しい所です。

 グリップは握りやすくて,F3を彷彿とさせる物があります。握りやすいことと関連があると思いますが,フィルムカメラに比べて厚みがあって,これが握りやすさや安定感を増すことに繋がっていると思います。

 ただ,この厚みは結構不細工で,もっと薄く作る事にこだわって欲しいと思いました。特にLCDのバリアングルですが,これがなくなる代わりに薄くなるなら,私は喜んで薄い方を選ぶでしょう。

 EVFはZの伝統で相変わらず見やすく,我慢を強いられません。OVFの方が見やすいのは事実なのでOVF並になったとまでは言いませんが,このEVFで不満の出ることはありません。

 これら操作系のダイアルやボタンやEVFの良さを下支えしているのがプロセッサのEXPEED7だと思います。このプロセッサはZ8やZ9で使われている最新のものですが,おかげで動きがキビキビしていて,まるでメカニカルカメラを使っているような瞬発力を感じます。

(4)そのほか

 気になったこと,気に入らなかったことをちょっと書いておきます。

 まず電池。EN-EL15a/b/cが使えると言われているのですが,同梱の電池は空っぽなので,届いてすぐに撮影は出来ません。ならば早速充電をと思うのですが,充電器が同梱されていません。じゃどうするかといえば,本体にUSBから給電して充電です。

 ただ,これだと予備バッテリーを常備して撮影不可能な時間をゼロにするという運用が出来なくなってしまうので,どのみち充電器は必要になるんじゃないでしょうか。

 それから電池の種類についてです。EN-EL15系というのは名機D800で登場したバッテリーで,多くの機種に使われている電池です。ですが,内蔵されたセルの仕様が変わったことと,サードパーティー品を排除する対策が入った事で,無印/a/b/cの4つで相互互換性があるとはいえません。

 Zfでは無印が使用可能な電池から外れたのですが,私の手元にはD800を買ったときの予備バッテリーとして用意した無印があります。そこでこれをZfに入れて見ました。

 結果はNG。使用可能な電池を入れて下さいと怒られてしまいました,ほんの一瞬EVFが映るんですが・・・残念です。

 無印はD850に取っておき,EN-EL15aはZfとD850で使い回すことにします。

 そうそう,アイピースは丸形です。いやー,ニコンはよく分かってますね,この丸いアイピースが高級機の証であることを。Zになって丸いアイピースをどうするのかと思っていたのですが,Z6とZ7では角形に統一,しかしZ9で復活し,Z8はZ9と同じものを流用ということで,F時代と同じように2系統に分かれてしまいました。

 Zfcでは無理矢理丸いアイピースにしたのですが,Zではちゃんと丸い物が付けられています。ただ,昔は視度補正レンズが別に必要だったこともあって丸くなければならない理由もあったのですが,今は視度補正は内蔵されていますので,本当は丸い必要はありません。

 ここで,アイカップなんかが昔のように出てくれればうれしいのですが,かつては高級機から廉価なモデルまでくまなく用意されたアイカップが,Zでは全く用意されていないのです。誰も欲しくないのかなあ。

 私は昔からアイカップがないとダメな人なので,可能な限り装着しているのですが,ZfcでもF3時代のアイカップ(DK-2)を無理矢理貼り付けていました。

 Zfでも同様にアイピースに無理矢理DK-2を接着して使っています。サードパーティー品ではZ9ように大げさな形のアイカップが売られていたと思いますが,こういうプレーンなアイカップは,もうみんな必要ないと思っているのかもしれません。

 LCDのバリアングルについても1つ。実はZfcでは,LCDのヒンジの部分が割れるという持病がありました。中古品では結構な割合でひびが入っているそうですが,幸い私は割れることはありませんでした。

 力がかかりやすいこともそうですし,もしかすると材料や設計の問題かも知れないのですが,それにしてもあのヒンジの部分だけ出っ張っているのが気になります。ぶつければ割れてしまうものなので,Zfでは改良されているだろうと思っていました。

 しかし全く同じ構造です。材料など見えないところでの対策が入っていることを願ってやみません。


(5)最後に

 レトロな外観を纏った,最新の万能選手がZfです。気軽に買える金額ではなくなりましたし,その点で万人にお勧め出来るモデルとは言えないのですが,あらゆる表現に我慢を強いられない,本気のカメラだと思います。

 先にも書きましたが,デザインで売るのか性能で売るのかという二者択一の考え方は視野は狭く,そのどちらもという考えには私もはっとさせられました。

 そして,そのデザインというのも,可愛いとか懐かしいとか,そういう話ではなく,実際に使ってわかるのはその使いやすさです。カメラの長い歴史の中で,様々なデザインや操作性が世に問われたものの,今なお我々のイメージに残り続け,愛されているデザインは,FM2などのクラシックなデザインです。

 これは,持ちやすさや操作の仕方が理にかなっていること,合理的かつ直感的であることに尽きると思います。100年前のように,操作系がメカ設計の都合で決まった時代を乗り越え,今のように電気で操作系を自由に配置できる時代が来ても,今なお右肩にはレリーズボタンとシャッター速度ダイアルがあるのです。

 Z6の後継機が,Zのデザインでいずれ登場するでしょう。その時このZfとの棲み分けは,デザインの違いというよりも,どっちの操作系がお好みですか?という,ユーザーの使い勝手で選ばれるのではないかと思っています。

 ちなみにお値段のお話ですが,私はZfcとDXフォーマットのレンズ(18-140mmと24mm),それからあまりに大きすぎて使い道がないFマウントの200-500mmを処分して,約23万円を作りました。これならあと4万円ほど上乗せすればZfを買えるということで,今回は早々に予約を入れました。(D850は壊れるまで使うつもりです)

 Zfcと18-140mmが意外に高価だったことに驚いていますが,こうやって自分のライフスタイルの変化や環境の変化に合わせて機材の入れ替えをするのもまたカメラ道楽の楽しみです。

 他にもまだまだ試せていない機能も多く,なにより撮影枚数も少ない中で,これからどんどん出来る事が増えていくでしょう。Zfcの時は最初から諦めていたことが,Zfでは余裕で出来ることも多いわけで,時代の進化によるものと,クラスが上級に上がった事によるものに加えて,シャッターの小気味良さやダイヤルの感触の良さという官能的な部分で,Zfを楽しみたいと思います。

 

NIKKOR Z DX 24mm f/1.7とフード病

 久々の艦長日誌なのですが,NIKKOR Z DX 24mm f/1.7を発売と同時に買ったので,そのレビューです。

 Zfcを購入して手元に置いて,ぱっと撮影に使えるようにしてあるのですが,撮影時のレスポンスとか,撮影後の画質を考えるとやっぱりD850の方が何段も上であることを思い知り,結局元の場所に戻してしまうという事が続いています。

 撮影というユーザー体験を考えた場合,Zfcはなんだか楽しくないということです。

 その原因の1つに,明るい単焦点レンズが「ボディキャップ」の代わりに常時装着されていないというのもあると考えていました。いや,キットレンズの28mm f/2,8もいいんですが,これはちょっと好みが違います。40mm f/2は画質は好みなのですが,焦点距離が35mm換算で60mmとちょっと長いです。

 D850の「ボディキャップ」が相変わらずシグマの35mm f/1.4ですから,これに近い撮影感覚を得るものが欲しいと思っていたら,DX専用の24mm f/1.7が出るというじゃありませんか。これは期待しないわけにはいきません。

 価格も手ごろ,フードも付属となかなか良い条件なので予約して買いましたが,実際には予約しなくても買えるくらい,今ひとつ人気のないレンズだったんだなあと実感します。それもそのはず,ZでDXで単焦点で24mmが欲しい人など,そんなにいるはずないです。

 前置きはこのくらいにして,さっとレビューです。

(1)質感

 持った感じはとてもしっかりしていて,質感はとてもよいです。これを実売36000円ほど(しかも純正)で買えるというのは,今どきなかなかない話だと思います。こういっては反論を受けるかも知れませんが,プラスチックがカメラに普通に使われるようになった1980年代後半のレンズに比べて,同じプラスチックを主体とする最近のレンズというのは,本当に質感も良くなったし安っぽくなくなったと思います。

 なんなら,AiAF24mm f/2.8とか,SMC PENTAX35mm f/2なんかと,NIKKOR Z DX 24mm f/1.7を並べて比べてみてください。これは単純はデザインの流行の問題とは違う話だと思います。

 マウント径が大きいZですので,レンズ自身を小さく作る事には限度があると思います。それでもぱっと手に取ったときの馴染み方は,やはりかつての手軽な単焦点レンズです。

 フォーカスリングは実に滑らか。回してもフォーカスが動かない最近のフォーカスリングを,手慰みで無意識に回してしまうのは,このレンズが初めてです。

 しかし,どうにも許せないのがフードです。フジツボフードがついてくるというので期待していましたが,こんなにごっついフジツボフードというのは,かなり不細工です。取り付けるともう一回り大きなレンズに化けてしまいます。

 さらに残念なのは,フィルターを取り付けたあとにフードを取り付けると,キノコみたいになってしまうことでしょう。この不細工さは筆舌に尽くしがたい。

 きっと,フィルターなしの状態での一体感を求めるあまり,フィルターのあとにフードを取り付けたときの美しさをあきらめたんだと思いますが,それにしてもこれは恥ずかしくて使う気になりません。

 当然このフードは金属製ではなく,プラスチックです。それも本体の質感とは裏腹に実に安っぽい,本当にオマケ感覚満載です。デザインした人も,設計した人も,きっと心のどこかで「これでいいのか」と思っていたんじゃないかと思います。

 そのフィルターの直径は46mm。まあ,デザイン上は46mmにするのも手だったとは思いますが,28mmにしても40mmにしても52mmというニコン伝統のサイズですから,これを踏襲するのが自然な発想だったと思いますし,その上で共通項のあるデザインにまとめてくれた方が,私はうれしかったです。


(2)画質

 安いレンズとは言え,そこは外れなしの誉れも高いZの純正レンズですし,非球面を2つも奢る今どきのレンズですので期待をしていたのですが,結論から言えば,Zとしてはそれなりのレンズだと思います。声を上げるほど高画質でもないし,写真がうまくなったと錯覚するほどのレンズでもないということです。

 誤解を受けたくないのですが,低画質かといえば全くそんなことはありません。20年前のこのクラスのレンズだったらもっと性能が低い(というか当時のフィルムの世界ならそれで十分高画質だった)でしょうから,このレンズの性能は間違いなく高く,これがこの大きさとこの価格で手に入ることには,驚きさえあります。

 しかし,絞り開放ではコントラストも低く,中央はともかく周辺の画質低下が大きいので全体として眠い画像になります。周辺光量の低下は私は気にしない人なのですが,35mm換算で周辺の光量が落ちるというのは,ちょっと考えたことがないと感じた人も多いんじゃないでしょうか。

 なので,少し絞って使うことになるのですが,f/2ではまだまだ,f/2.8でももう一歩,f/4くらいで鮮鋭度も上がって満足な画質になるのですが,それだと背景をぼかすのに一工夫が必要になるので,無理にこのレンズを使う必要があるのかと思うようになります。

 全体のバランスは良いレンズなのですが,拡大して眠い画質のレンズは,全体でもシャキッとしないレンズだったりしますから,私個人の印象としてはキットレンズの28mm f/2.8と同じ傾向かなあと思っています。


(3)操作感

 ここは別に不安を感じてはいなかったのですが,期待通りAFも素早く,小気味良く撮影が出来ます。ホールド感も良くて,これは鏡筒をマウント径に対して細く作っているからだろうと思います。Zマウントは大口径ですので,小柄なレンズのデザインは難しくなりますよね。

 操作とは違うのですが,絞りの最小値がなんとf/11までしかありません。f/16やf/22まであるのが普通だと思っていましたから,f/11なんていう常用域で打ち止めとは,Zの思想が透けて見えてきます。

(4)特筆すべき事

 これは書いておかないといけないことなのですが,寄れます。ニコンの広角レンズは「寄る」ことにこだわりが強いレンズも多く,また寄れることを性能の1つとして考えている節がありますが,このレンズもまさにそうで,レンズの先端から被写体まで,なんと12cmまで近づけます。

 これくらい近づけると,35mm換算で36mmとはいえパースを強調したり背景のボケをコントロール出来たりするので,本当に表現の幅が広がります。ニコンを使っていて良かったなあと思うことの1つです。


(5)まとめ

 まず,とにかく値上がりが激しいカメラ/レンズの世界において,実売36000円で買える明るいレンズというのはありがたいと思います。DXと割り切ったせいでもあると思うので,今年秋に予定されているフルサイズのクラシックデザインモデル(仮にZfとしましょうか)には使えませんが,私はZはAPS-Cでいいんじゃないかと思ってもいるので,これはこれでありだと思っています。

 D850くらいの画素数と画質であれば,ラフに撮影してトリミングで切り出しなんてことをついついやってしまうのですが,Zfcではそういうずるいことは出来ません。写真の基本の立ち返る良い機会のように思います。

 質感も高く,手触りも幸せなレンズですが,画質はZとしては凡庸で,最低でもf/2.8まで絞らないと後悔しそうな画質だと思います。

 そして最大の難点は,フードです。ついでにいうとフィルター径です。これだけはもう少しよく考えて欲しかったと思います。


(6)そんなわけでフード病

 そんなわけで,久々にフード病を発症しました。35mm換算で36mmですから結構深いフードが必要になるので,付属のフジツボフードが随分先に伸びているのも頷けます。

 なら無理にフジツボフードにする必要はありません。もっと美しいフードにしないといけないでしょう。

 そこで,お気に入りの,takumar28mmの角形フードを取り付けようと考えました。フィルター径を49mmにするステップアップリングを使って角形フードを取り付けて見ますが,これだと見た目はよくても,肝心の遮光特性が今ひとつで,もっと深いフードでないといけません。

 手持ちのPENTAXの50mm用の角形フードがはデザイン面でも遮光特性でも100点なのですが,これはフードをしたままレンズキャップを取り付けられないので,常用は厳しいです。

 あれこれを試行錯誤を行ったところ,PENTAXの50mm用の丸形フード(35年前に買いました)を取り付けています。そんなに深いフードではないのですが,細いので十分な遮光特性が得られています。

 見た目も悪くないですし,キャップもフードを取り付けたままで出来ます。当分これでいこうと思います。

 そうそう,保護フィルターをどこに付けるかでフードの選択肢も変わってくるのですが,出来るだけ有害な反射を減らしたいので,前玉に近い場所に取り付けることにしました。

 そうするとフィルターは46mmで取り付ける事になるわけですが,これもまたフード選びを厳しいものにしています。もしステップアップリングの後の49mmで取り付けるように出来ると,手持ちの関係でもう少しいろいろなフードが選択肢に入ってくるだけに,随分迷いました。(そんなに迷うところか?)

 もう少し試行錯誤をやってみても面白いでしょう。もう一段49mm-52mmのステップアップリングを入れて,純正の35mm用フードを取り付けても面白いでしょうし,もしかしたら45mm f/2.8Pのフジツボフードを付けてみてもいいかも知れないです。

 フード病が治るには,もう少し療養が必要みたいです。


 

唯一無二のレンズ

 気になっていたレンズを,とうとう買うことにしました。

 厳密に言うと,変わったレンズだなと気になっていただけであり,買うか買わないかで気になっていたわけではなく,それこそ買おうと持ってから実際に購入鉄津起きに至るまでの行動は15分にも満たないものでした。

 AF Zoom-Micro Nikkor ED 70-180mm F4.5-5.6D,という長い名前のレンズです。

 Nikkorというほどですので,もちろんニコン。1997年生まれといいますから,ちょうど名機F5と同じ時期に投入されたレンズです。

 F5と同じく,高い理想を技術と材料で実現した贅沢なレンズと言えると思いますが,先に結論を書いてしまうとあまり売れなかったそうで,中古市場では幻のレンズになる一歩手前の印象があります。少なくとも,欲しい時にいつでも買えるレンズではないですし,同時に複数のレンズを比較して一番良いものを選ぶ事の出来るようなレンズでもないということです。

 ではなにが高い理想だったのか。それはZoomでMicroだったことです。

 1990年代の終わり頃というのは,まだまだズームレンズの画質が単焦点のそれには届かないものであるのが常識で,どちらかというとズームであることの利便性を訴求した商品が多数派だったと記憶しています。

 それは1本で広角から望遠までとりあえずカバーする便利ズームであったり,ボディとのセット価格を引き下げるためにとにかく安く作った標準ズームであったりしました。

 性能ではなく,それ以外で選んでもらえるレンズである事が,当時のズームレンズだったのです。

 この時期のズームレンズは,ビデオカメラの製品開発の過程で鍛え上げられたそうです。コンスーマー向けのビデオカメラの市場が大きくなり,開発競争が激しくなるにつれ,画素数が限定されるビデオの世界で倍率とコストで競争が起きるのは自明です。

 一方で,21世紀には当たり前になる,単焦点に迫る高画質ズームの萌芽もこのころで,それらは新しいチャレンジとして自ずと高額になる運命を背負い,しかし高額商品を手にできる「保守的なユーザー」の厳しい評価に挑み続けねばなりませんでした。

 そんな中で生まれたのが,このAF Zoom-Micro Nikkor ED 70-180mm F4.5-5.6Dです。

 今さら説明の必要もないでしょうが,随分昔に書かれた「ニッコール千夜一夜」の第18話に登場するこのレンズは,当時の記述らしく,この商品が持つ可能性や開発者の熱量を考えた時に,これが今の「ニッコール千夜一夜」に採り上げられていたら,と残念でならないほど,実にあっさりと,別の言い方をすれば禁欲的にまとめられています。

 曰く,花のマクロ撮影が流行していた,花の撮影こそズームが便利なはず,しかしズームとマクロ(マイクロ)レンズとは両立しない難しい技術,しかもフィールド撮影が目的なんだから持ち運び出来ないとダメだ,と言う制限のなかで,2年歳月を経て完成したのが,このレンズだとあります。

 14群18枚,重さは1kgを越える,まるでガラスのかたまりで,最終的な価格は168000円とあります。前述の通り1997年に発売され,2005年に販売が終了したという短命なレンズです。

 正確なことは分かりませんが,当時はまだニッコールという名前に厳しい基準があり,焦点移動があったらZoomを名乗れないとか,様々な性能の基準があるなかで,Zoomと歪曲収差があってはならないMicroとの両立は,さすがに困難だったのではないかと思います。

 そしてその性能は,70mmから180mmまでのズームをF4.5から5.6まででカバーし,全域で37cmまで寄れ,倍率は180mmでは1/1.32倍と立派なマクロレンズです。しかも通常のマクロレンズと違って被写体との距離によって露出倍数が変化しません。どこでも露出倍数は1なのです。

 ZoomでありMicroであるこの見事のレンズは,新しいマクロ領域の撮影方法を開拓しました。マクロ撮影を行った人なら経験があると思いますが,構図を先に決めるとフォーカスが合わず,フォーカスを先に合わせると構図が狂うということが多いです。

 構図の調整だけではなく,フォーカスも被写体との距離で調整することがあるマクロ撮影では,自分が動けなければ手も足も出ません。さらに相手が動く被写体ならまずます難易度が上がります。

 そこでズームです。ズームが出来れば構図も拡大率も思いのままです。ズームレンズは撮影者が動かずに済むため,多くの名のある写真家が単焦点レンズを使って「自ら動け」と若者を鼓舞した時代にあって,実は自ら動けないマクロ撮影こそ,ズームが欲しい撮影の代名詞だったというわけです。

 とはいえ,設計はとても難しいものだったそうです。噂に聞くに,メーカーを越えたレンズ設計者のとある座談会では「真似の出来ないレンズ」というお題でこのレンズが筆頭に上がったとか,似たようなレンズが他社から全く出なかったのは売れそうにないからというより,そもそも作れなかったからじゃないかとか。

 実際,このレンズは発売時にいくつかの賞を受賞していますし,学会発表では第一回光設計大賞という名誉ある賞も手にしています。このエピソードを聞くと,このレンズの設計は同業者を震撼させたレンズだったと言えそうで,写真家よりも設計者の心に響いたレンズだったということでしょう。

 しかし,一部の写真家はこのレンズの優位性に気付いており,もともと数が少ない上に分かっている人は手放さず使い倒しますので,中古市場にも出にくく,まして新品同様の程度のいいものなど期待薄なわけです。

 登場が1997年というのもまた問題で,18枚ものレンズに世代の古いコーティング,プラスチック製の鏡筒に塗装の劣化,華奢なスイッチやレバーの経年的な劣化と破損,VR非搭載は当然としてAFモータすら内蔵ではないと,明らかに旧世代のレンズなのです。加えてとっくの昔に修理可能な時期を過ぎており,つまり壊れたらもうおしまいです。

 かように厳しいレンズではありますが,世界初のズームのマクロレンズは,今のところ唯一のレンズでもあり続けており,これを使いたいならFマウントを選ぶしか選択肢がありません。

 とまあ,私の事情に話を移すと,やっぱりマクロ撮影は難しいのです。MicroNikkor60mmF2.8Gは性能は申し分ないのですが,いざマクロ撮影をやろうとすると思い通りにいきません。三脚を使えば大丈夫なのですが,小さい相手に大げさな準備というのも敷居が高く,だったらスマホで十分か,といういつもの結論に流れてしまいます。

 そんなとき知ったのがこのズームです。マクロ領域こそ望遠だ,と言うニコンの設計者の主張を頭の片隅に残っており,でも本当ならズームこそ最強なんじゃないかと,もしかしたらマクロ領域の撮影を根本から変えてくれるんじゃないかと,そんな風にストーリーが組み上がって,中古市場を探して回ることになったのです。

 とはいえ中古は縁のものです。いいものがなければ諦める予定だったのですが,幸い自称Aランクの中古がキタムラの地方のお店に安価に出ており,クモリもなく大きな傷もなく,フードも付いているというので買いました。マップカメラではフードなしの使用感あり,でこれよりも高い値段がついていました。

 しばらくして届いた個体は,Aランクと言うよりBランクという感じの使い込まれた1本で,細かい擦り傷も多いですし,プラスチックのテカリもあるし,スイッチも動きが渋く,値段相応だなという感じです。でもいいんです,私も使い倒すつもりで買いましたから。

 幸い小さいホコリはあるものの,クモリもなく,性能も出ているようです。光学的には問題なく,実用品として使うにはなんら問題はありません。

 ただ,そもそもD850のお奨めレンズリストからには記載がない(これはこのリストが作られた当時にすでに販売が終了していたからかも知れませんが),そんなに高解像度なレンズでは覚悟しておくべきだとも思います。

 試写してみましたが,まずマクロ領域では申し分ないです。解像度も十分,歪曲などの収差も問題なく,なにより撮影が想像以上に楽ちんです。撮影倍率が変化しないことも想像以上に便利です。

 一方でAF-S MicroNikkor60mm2.8Gのような切れ味はありませんし,あと一歩寄りたいというところで限界を迎える点で,やっぱ等倍撮影というのはいいなあと思い直した次第です。

 AFが遅いことはなにも問題はありません。確かに静物ならAFは便利ですが,相手が動くならもうMFであわせた方がずっと楽です。

 絞り開放のF5.6でもF8でもF11でもそんなに画質に変化はありませんから,確かに絞り開放から使えるというのは嘘ではありませんが,F11まで絞ってこれか,というがっかり感があるのは事実です。

 ということで,VRがない事を加味すると,F8くらいで撮影するのがこのレンズの良い使い方ではないかと思いますが,総じて本来のマクロ領域の撮影については期待通りです。

 ではもう1つ,一般撮影ではどうでしょうか。実はマクロレンズというのは一般撮影でも好ましい結果を得られることが多いです。やや暗いので敬遠されがちですし,一般撮影用にはもっと良いレンズがたくさんありますのでわざわざマクロレンズで撮影することもないのですが,ボケ味といい解像度といい色のりといい,なかなか高い次元でバランスしているのがマクロレンズです。

 MicroNikkorを名乗る事の出来るほど収差が補正されているズームですので,私はかなり期待していました。しかしこの期待には少々届かなかった様です。

 まず,全体に眠いです。解像度が不足し,線が太いです。それから若干ハレ気味で,白く飛びがちです。またコントラストも今ひとつで,このあたりは当時のズームレンズらしい個性を引き摺っているように思います。

 これらは絞れば改善しますが,F11あたりまで絞ってしまえばVRがないこのレンズではかなり撮影可能な状況が限定されてくるでしょう。歪曲収差がソフトウェアによって完璧に補正される現代において,光学的に補正することに主眼を置いたこのレンズの出番は,もうないのかも知れません。

 とはいえ,ボケはなかなか良好です。自然ですし,滑らかです。そしてちゃんと光を読めば立体的な表現も十分可能なレンズだと思います。

 ちなみにAIですので,F2にも使えます。実際撮影してみましたが,まったく問題なく使用することができました。

 でもさすがに25年前のレンズですね,これを現代にも通用する等とはちょっと言えないですし,はたまたこれに10万円の価値があるかと言えばないと思います。マクロ撮影はセンサのサイズが小さくても構わない撮影領域ですし,持ちやすいことやブレの防止,拡大率やフォーカスの合わせやすさという点が重要ですから,実質的にもうスマホに任せるべき世界なのかも知れません。

 Fマウントが徐々に終わりの時を迎える中で,これは私が買うおそらく最後のFマウントレンズとなることでしょう。実際の稼働率は上がらないとは思いますが,なにより技術的に大変興味深い唯一無二のレンズですし,また評価が大きく分かれるレンズとして,おそらく最後まで持っているレンズになるんじゃないかと思います。

 春になったら外に持ち出してみます。

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